罪を犯したエルフをファミリアに誘うのは間違ってるだろうか(凍結)(メインタイトル関係なし)   作:伊つき

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注意 精神的な拷問


第27話

寒い。寒い。

寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い。

ひたらすらに襲い掛かる冷気にリューは意識を覚醒させた。

 

「……ッ」

 

上半身を起こして頭を抑える。

脳内で狂気となった化け物共の叫び声が木霊し、激しい頭痛がした。

 

「ここは…」

 

辺りを見渡すリュー。

まだハッキリとしていない視界で捉える色は黒ばかり、即ち暗闇だった。

ただ一筋だけ上から光が射し込んでいる。

とにかく状況を確認するためにリューは早々でありながらも身を起こした。

が、その瞬間ポチャッと掴んでも掴みきれないものを感じる。

それは酷く冷たく肌を刺激するもの。

 

「水…?」

 

とても浅いが、確かに水面がある。

一筋の光も煌めくそれを照らしたのを確認した。

 

「何故私はここにいるのでしょう…。ここは何処だ」

 

分からない。

まだ視界がクリアでない上に酷く暗い。

これでは何も知ることが出来ない。

 

「取り敢えずどういう経緯でこの場所にいるのか、記憶にあるのなら思い起こすべきか。……それにしても先程から何か違和感を――」

 

ふと下を見下ろして自身を見た。

暗くて全貌は把握できないが、その身はとても細く綺麗な線を描いている。

胸と肌の凹凸があり、衣類の類は感覚的に無かった。

 

「なっ……!?いつの間に服を…。くっ、してやられました」

 

戦闘服(バトル・クロス)だけでなく、二対の小太刀も見当たらない。

どうやら完全に身包みを剥がされたらしい。

 

「そもそも何故裸に…?」

 

もし今囚われてるのだとして武装は分かるとして服を剥ぐ必要性をあまり感じない。

確かに隠し武器などを探ることはあるだろう。

が、裸で放るのはどうなものか。――などと甘い考えは数秒後に捨てた。

寧ろ敵が身包みを剥がした後、戻してくれる優しさなどある訳が無い。考えが甘過ぎるのだ。

リューは自分を恥じた。

それと同時に今度は酷い方向に思考が向く。

 

「裸で…何もされていないといいのですが」

 

自負する訳ではないが、エルフの美しい容姿にラインの整った身体。

気を失っている間に何をされていてもおかしくない。

そう思うとリューは身がこそばゆくなる気持ちになった。

今すぐ全身を洗いたい気分だ。

 

「……とても、不快だ」

 

顔を顰めるリュー。

暗闇の中でも視界がハッキリしてきた彼女は改めて状況を確認する。

まずは水。

水面はリューの足元が埋まる程しかない。この量なら特に気にする事はないだろう、と放置する。

次に壁、今囚われている場所だ。

 

「冷たい、壁。高い天井…。窓はあの遥か上にある一つだけですか。扉もあるようですが、硬い」

 

一度軽く拳を振るってみるが、ビクともしない扉。

気になる点としては壁も冷たく水のせいか、酷く室内が冷えることか。

 

「扉や壁、殆どが希少金属(アダマンタイト)ですか。通常なら破壊は困難ですが…この質ならもしや」

 

触れて分かる。

扉や壁に使われている希少金属(アダマンタイト)

通常迷宮(ダンジョン)で採取するそれは深層領域では第1級冒険者でも破壊を困難するが、中層などで取れるものならリューでも破壊できる。

そんなことを把握した時、リューはここに来る前までの、最後に気を失うまでの記憶を取り戻した。

 

「……なるほど。私は食屍鬼(グール)に囲まれて…慈悲で殺されはしなかったか。あぁ、思い出して分かったことがある。オラリオから離れた帝国なら希少金属(アダマンタイト)を購入しようとしても粗悪品を掴まされる確率は充分にある」

 

一人、納得するリュー。

ここまで状況を理解すれば第1級冒険者である彼女のやる事は一つ。

リューは脱出を試みようと窓を見上げる。

 

「あそこから逃げるのは容易い」

 

柵さえ壊してしまえば窓から逃げれるだろうと考察するリュー。

だが、せめて服を取り戻したいのと、可能であれば不意打ちでもどんな姑息な手段でもあの非情で最低な錬金術師()を捕らえるべきだと考え、窓は選択から除外した。

続いて見るのは扉。

希少金属(アダマンタイト)が壁より薄いここを、破壊する。

 

「……まったく、手間がかかる」

 

脱出に何の困難も感じないリューはこの時、盛大な見落としをしていた。

本人は気付かず詠唱を紡ぐ。

 

「【今は遠き森の空】」

 

ルミノス・ウィンド。

リューの魔法であるそれはリューの切り札。

彼女にとって最大の火力を持ち、魔法ならば希少金属(アダマンタイト)の扉を壊すことが出来る。

確信したリューは強気で詠唱を続ける。

 

「【無窮(むきゅう)の夜天に(ちりば)む無限の星々 。愚かな我が声に応じ、い――――うぐっ!?」

 

突如、リューは横面から衝撃を受ける。

強烈な()()にリューは室内の壁まで打ち付けられた。

背にジンジンと痛みを感じながらリューは苦痛を漏らす。

 

「うっ…ッ。一体、なにが――」

 

顔を上げて、表情に浮かんだのは絶句。

一瞬見間違いかと錯覚してしまうほどに。

リューの目線の先には此処に居るには場違い過ぎるアレがいた。

丁度、リューの今の位置ならば光がソレを照らしてハッキリと目に映ることができる。

 

『ムウウウウウウウウウウウウウ――』

 

キメラ・ホムンクルス。

記憶に新しい、苦戦を強いられた合成獣がリューと同じ牢に存在した。

 

「何故ここに合成獣(キメラ)が……うあああっ!!」

 

『ムウウウウウウウウウ』

 

眼光を強くしたリューに追い討ちのように打撃を受ける。

戦闘服(バトル・クロス)も身につけていない生身で受けた打撃は前回受けたものの倍以上の激痛が走る。

 

「うっ……ぐっ……」

 

『ムウウウウ』

 

「……ッ。ま、待ちな――うぐっ!?」

 

さらに打撃。

壁に打ち付けられ、冷たい水に浸かる。

抵抗する術を魔法以外持っていないリューは一瞬格闘を考えたが先の戦いで無駄だという結論に至り、考えを変える。

 

「窓からでもいい。今は逃げることを先決する…!」

 

『ムウウウウ』

 

自慢の敏捷のステイタスでキメラ・ホムンクルスの腕を躱す。

そのまま垂直の壁を昇り、窓まで辿り着き、縁に足を掛けて柵を壊そうと試しみた。

 

「はっ!」

 

拳が痛むが考慮している暇はない。

全力で殴ったリューだが、悲惨にも柵は曲がることすらなかった。

 

「まさか、これも希少金属(アダマンタイト)だと――――っ!?」

 

『ムウウウウウウウウウウウウウン』

 

窓を即座に破壊できなかったリューの元に跳躍で届いたキメラ・ホムンクルス。

リューの足を掴み、再び水面へと引き摺り下ろした。

 

「ぐあっ…!」

 

地面に身を強打するリュー。

痛みで顔を歪めた。

だが、情のない人造怪物(モンスター)はその程度で止めるはずもない。

 

『ムウウウウウウウウウウウウウ!』

 

「うぐっ、あがっ、やめ…ぐうっ!!」

 

幾度も幾度もバシャバシャと水を鳴らし、水面を揺らしながら地面に殴打させられるリュー。

容赦のないキメラ・ホムンクルスは暫くそれを繰り返した。

 

「……ッ。ううっ…」

 

かつては【疾風】で名を轟かし、今では第1級冒険者として名をあげるリューが打ち付けられ続け、身体中に痣を浮かべている。

妖精のような綺麗な容姿にも傷がつき、透き通るような裸は痣と擦り傷だらけ。

エルフにとって自慢のものの全てが汚された。

傷付いた身体に、お高くとまるエルフ族の性質を嫌ったリューでさえも本能を蘇らせ、心を不快に染める。

明確な怒気を込めてキメラ・ホムンクルスを睨んだ。

 

「よくも…!」

 

『ムウウウウウウウウウ?』

 

「あ…」

 

しかし、そんな怒気は一瞬にして消える。

壁際に追いやられ、見下ろされるリュー。

キメラ・ホムンクルスは暗闇のせいでその体躯の殆どを巨大な暗黒へと化け、光る蒼い目はあのリューに恐怖を植え付けた。

 

「くっ…」

 

仮にも第1級冒険者。

まだ残っているプライドでなんとか持ち堪える。

が、ヌッと伸ばされたキメラ・ホムンクルスの腕にリューは顔を青ざめるだけで動けなかった。

 

「なっ――」

 

『ムウウウウ』

 

気付けば、抵抗もできないまま片腕を持ち上げられている。

リューは急いで詠唱を紡いだ。

 

「【今は遠き森の――うああああああああああっ!!!」

 

『ムウフフフフフ』

 

バキッと。

嫌な音が響いた。

迸る激痛にリューは身に起きたことを理解するしかない。

リューの絶叫は牢の中に響き、木霊した。

 

「ああああああっ!うぐっ…あぐっ、ああっ…」

 

『ムウウウウフフフフフ』

 

「……っ」

 

腕の折れたリューをプラプラとぶら下げて遊ぶキメラ・ホムンクルス。

今のリューには奴の発する音が愉快な笑いに聞こえた。

 

「くっ…」

 

――無理だ。

リューの思考の中を遂に諦めが埋める。

ここで死ぬのだと。

リューを殺すにはこの牢は完璧過ぎた。

 

「……ッ。……ッ」

 

融通の効かない腕を抑えながらバシャバシャと音を立ててキメラ・ホムンクルスと距離を取る。

既に諦め半分だったリューだが、キメラ・ホムンクルスが何もしてこなくなったことに気付いた。

 

『ムウウウウ』

 

「……?」

 

こちらを見つめるが、特に行動は移さないキメラ・ホムンクルス。

ここでようやくこの生物が逃亡防止のためにここに配置されているのだということにリューは勘づく。

が、実際リューにとってキメラが及ぼした影響はそれ以上だった。

 

「あぁ…助か、った」

 

追撃に、これ以上の痛みがないことに安堵するリュー。

そこに以前のような面影は薄くなっていた。

ただ、目の前の生物が暴力を振るわないだけで感謝してしまう程に狂っている。

暴れなければ、抵抗さえしなければ――この()は何もしてこない。

そんな歪んだ思考を抱えてリューはキメラの刺激しないよう細心の注意を払うことだけを考えた。

既に()()が始まってることは知らずに。

 

 

研究室では用具、資料、荷物を整理している錬金術師がいた。

纏めながら彼は同じく手伝いをしてくれている友に声を掛ける。

 

「そういえば、彼はどうしてるんだい?」

「ケヴィンなら君が捕えたエルフで遊んでいるよ。いや、正確には君のホムンクルスだった食屍鬼(グール)達が捕えた、だったね」

「あぁ。思い出した。ありがとう」

「……ふん」

 

眼鏡を掛け、強面でありながらも知的な外見をした男。

彼は錬金術師の相変わらずの非情さに鼻を鳴らした。

 

「元はといえばお前がケヴィンに任せたのだろう。まったく、趣味の悪いことだ。あの頑固なエルフをあんな奴に渡すとは…」

「ははは。エルフ種族だから彼に渡したんじゃないか。私にとっては扱いの困るものでしかないからね。エルフの資料も細胞だって揃ってるのに私が持っていてもどうしようもないだろう?」

「まあ、確かに」

 

軽い口調で残忍なことを言う錬金術師にその友である男も異常にも同意する。

一見、冷静で常識的に見えるだけで彼も相当イカれていることが分かる場面だ。

 

「あのエルフ。お前の考察では迷宮都市オラリオから訪れた者らしいな。ならばあの迷宮(ダンジョン)に潜る手練の冒険者である可能性が高いのではないか?」

「大丈夫さ。ケヴィンには私の駄作(キメラ)の一番良いのを渡してある」

「なるほど。エルフが気の毒になってきたよ」

「相変わらず君は冷酷にはなりきれないなぁ」

「お前らが異常過ぎるだけだ」

 

一緒にされては寧ろ困る、と。

男は漏らす。

これに錬金術師は顰めるでもなく、愉快そうに眉を動かすだけだった。

 

「そういえば何故オラリオから来たものだとわかった?」

 

手伝いを続けながら男は至極当然のことを尋ねる。

錬金術師は理由に目を向ける彼にやれやれ、と呆れながらに口を開く。

 

「簡単さ。そもそも合成獣(キメラ)を倒せる集団が迷宮都市外には少ない。純粋な戦闘力だけなら私の作品で一番だからね。あとは私の勘かな。一応、オラリオは私の第二の故郷のようなものだからさ」

「なに?お前、オラリオに居たというのか」

「あぁ。成人してから数年は。……だが、ある日突然追い出されてね。今でもあの日のことは覚えている。ちなみにそれは私がオラリオの冒険者だと勘づいた理由の一つでもある」

「ほう。興味深い」

 

ここで初めてえらく感情的で怒りを秘めた錬金術師。

面白くなって男も笑みを漏らす。

男が頼まずとも錬金術師は語ってくれた。

 

「女神ヒュプノス。私を都市外へ追い出した憎き名だ。奴があの一行の中に、居た」

「なるほど。そこまで確実な立証があったとは。オラリオから…というのはあながち間違いではなさそうだな」

「あぁ。だから少し危険視するべきだと思ってね。こうして引越しの準備を進めてるわけさ」

「まったく。手伝わされるこっちの身にもなれ」

「まあ言わないでくれ。君にも土産話があるからね」

「ほう、聞こうではないか」

 

錬金術師の言葉に興味を示す男。

彼が日頃持ってくる話からか、その目には期待が写っている。

しかし、錬金術師は待て、と彼を焦らした。

 

「話は向こうに着いてからにしよう。なに。歴史学者の君なら飛びつくビックニュースさ」

「なんと…。ダメだ、楽しみでならん。どうしてお前はそんなにも待たせるのがうまいのだ」

「ははは。こればっかりは私にもわからないよ!グエン」

 

歴史学者――グエンと呼ばれた男。

彼と錬金術師は高笑いを交えながら作業を進める。

その様子をチラリと見ながらいつ見捨てられるか、とビクつきながらゼータ達は息を殺して手伝いに没頭した。

 

 

 

 

冷たい。

もう何時間…いや、何日か経ったかもしれない。

時間の感覚も手先の感覚も磨り潰されたかのようにもう把握できない。

今となっては青ざめて腫れに腫れている折れた片腕は酷く醜い。

綺麗な純白だった肌にもところどころ痣があり、棘のように刺激する冷気のせいで色合いも次第に悪くなった。

水面に倒れるリューはただ呆然と空を仰いだ。

 

「ルシア……シル……アリーゼ……」

 

その意識はどこへ行っているのやら既に虚空に行ってしまったそれを追いかけるように彼女は愛する者の名を順番に呟いていく。

もうマトモに思考していない彼女はここまで来るのに起こったことがある。

 

――本拠(ホーム)へ帰りたい。

 

何度も願ったそれはいつも届かない。

もう本拠(ホーム)なら今のものでも昔のものでも、酒場にでもいい。

否、今やその全てが彼女にとって掛け替えのない眩しく、帰りたい場所だった。

だが。

 

『ムウウウウ』

 

キメラがいる時点で脱出は不可能。

一度は諦めたリュー。

しかし、ただ抵抗せず待ち惚けるだけなどそんな考えは甘いのだと後から思い知らされた。

 

それは、水。

リューの足元を埋めるか否かという程の水面をリューは問題ないだろうと無視していた。

それが大きな落とし穴だった。

例え浅くても何時間も経てば次第に足から体温を奪われ、冷気が肌を襲うようになる。

そのことに気付いた時にはもうすでに時遅しだったが、慌ててステイタスで壁に掴まったところ、キメラに叩き落とされた。

 

『……ッ!?!?』

『ムウウウウウウウウウウウウウ』

『うあっ!ああっ!やめ、うぐっ!お願い…ぐっ、します…やめて…』

 

水に浸からないことはキメラが許さない。

少しでも避けようとすればあの人(キメラ)から攻撃を受ける。

それは心の傷(トラウマ)になり、リューに恐怖を植え付けた。

だから、これ以上リューは身動きを取れない。

さらに裸体という点で効果を増す水の脅威とあの人(キメラ)に震える。

 

「助けて、ください…」

 

もう何度目だろうか。

決して壊すことを許されない扉に縋り付くのは。




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