罪を犯したエルフをファミリアに誘うのは間違ってるだろうか(凍結)(メインタイトル関係なし)   作:伊つき

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第31話

「いつからヒュプノス達を裏切ってた?」

 

神友が絡むからか少しレンにも怒気がある。

 

「んー、確か一ヶ月前くらいでごじゃるなぁ」

「一ヶ月前……ミステリー事件の時?」

「ミステリー事件?」

 

首を傾げるレン達にレイラは説明する。

ヒュプノスが定期的に勝手に持ち込んでくる厄介事。

一ヶ月前に持ち込まれてきたものの内容だ。

何でもオラリオで冒険者殺しが多発していたという話である。

そして、その犯人がパラケルススだった。

ホムンクルスを作り、その実験として冒険者を殺させていたのだ。

それを聞いた時、リューは激しい怒りがこみ上げ、レンは疑問を見つけパラケルススの真意を思考した。

 

「そうそう、拙者が闇堕ちした時期とパラケルスス殿が主神様にオラリオから追い出されて恨む時期とたまたま合わさったのでござるよー」

「闇堕ちって…自分で言うか?まあいい。要するにそれで結託したっか」

「そうでごじゃる」

 

御門は肯定した。

正気とは思えない彼女にレンはもはや笑いさえこみ上げ、ヒュプノスはただ困惑した。

 

「みかど。なんで…」

「あー、説明しないと行けない流れでごじゃるかぁ?察してほしいですがどうでござるかねぇ」

「言いからもう話せよ」

「はいはい。分かったでござるよ」

 

観念した御門はヒュプノスと出会う前から順に話した。

生まれた時から忍びの里にて育った御門。

彼女は当然忍として成長し、もはやそれ以外の在り方などなかった。

主君の命に従い、暗殺、陰謀、暗躍、隠蔽…なんでもする。

それが忍。そういうものなのだ。

一族が突如滅んで行く宛がなくなった御門は一時期することがなく、極東などで真っ当に暮らしてみようとしたが。

結果は無理だった。

彼女の身に流れる忍びの血が、染み付いた口調が日常を許さない。

だから、御門はオラリオに行った。

誰でも受け入れる迷宮都市は確かに御門を拒まなかった。

だが、受け入れもしなかった。

やはり口調がどうしても浮いてしまう。

石を投げられたこともあった。勿論、忍びである御門はそんなもの容易く返してやったが。

問題は御門に職の巡り合わせがこないことだ。

次第に金銭は尽き、空腹は限界を超える。

しかし、いくら忍びといえどももう動けない程に限界を迎えた御門に手を差し伸べる者がいた。

 

『だいじょうぶ…?』

 

眠りを司る女神ヒュプノスだ。

そう、女神。

女神がそこに居た。

御門は忍びの本能からか、ヒュプノスを主君として執着し、ヒュプノスの命ならばいくらでも従った。

 

『ねむい』

『承知』

『つかれた』

『承知』

『いやして』

『承、知…?』

『いっしょにねよ』

『承知』

『そいねして』

『承知…あの、主殿?』

 

勿論飲食には困らない。

餓死なんて有り得ない。

元々身体は寸前まで動けるよう鍛えられているのだ。

 

――拙者はいつでも動ける。貴方の望みを影に塗れて叶えられる。使ってください。使ってください。使って、使って、使って――

 

いつしかその願いは届かないと察した。

ヒュプノスは忍びなど求めてないのだと、御門は知ってしまったのだ。

それが発覚すると御門(忍び)は崩壊した。

役割を果たせない。ならば自分はどうすれば?自分の価値は?

そんなもの、ない。

ヒュプノスは言ってない。言ってないが、お前は必要ない。要らない。処分だ。

と聞こえた気がした。

御門は何処で間違えたのか必死に考察しながら発狂した。

すると自然と主君(ヒュプノス)を恨んだ。

何故必要もしないのに手を差し伸べた。慈悲か?同情か?

だとするならば要らぬ。

今も死とさして変わらない。

 

――貴女様が拙者をこのような扱いをするのならば拙者は…。

 

 

そして、彼女はパラケルススと結託した。

 

「拙者は主神様を殺すつもりでござる。拙者の恨み、とくと味わえでごじゃる!」

 

瞬間、御門は消えた。

 

『――ッ』

 

気配すらも完全に隠した御門に一同が驚愕する。

 

「ここまで完璧な気配遮断は初めてだな…。時雨、対応できるか」

「し、時雨にはちょっと…。さっきと全然違いますし、あれマグレでしたから」

「レン様、私にお任せを」

「わかった。頼んだぞ、ルシア」

「はい」

 

レンに一任され、応じるルシア。

()に全意識を集中して、駆使する。

倉庫内の隅々まで見渡す。

すると汚れに汚れた壁の一角が僅かに揺れた。

ほんの少しだが、相手が悪かった。

ルシアがその気になれば千里先、未来まで見渡せる程なのだ。

 

「あそこです!」

 

ルシアが何もない空間もとい壁を指差す。

合図に寸分のズレなくリューが小太刀を投擲した。

 

「なっ……!?」

 

余程忍びの技に自信があったのか。

出るより早く投擲された小太刀に御門は一瞬対応が遅れる。

それでもLv.3のステイタスでなんとか小太刀をクナイで反応し、落とした。

だが、秒もなかった筈なのに。

レイラが既に肉迫していた。

 

「副団長殿…!」

「御門…!」

 

競り合う獲物(短剣)獲物(クナイ)

互いに火花を散らし、しかしレイラの方が力も速度も、否、全てにおいて上回っていた。

簡単にその身を斬られる。

 

「……ッ!?」

 

確かに感触のあったレイラだが、真っ二つになったのはただの丸太だった。

一瞬あまりの驚きに瞠目し、それを知るレイラはハッと振り返った。

 

「変わり身の術でごじゃる」

「ヒュプノス様!!」

 

声のする方に目を向けるとヒュプノスを抱えた御門が壁に張り付いている。

いつの間にかヒュプノスを奪われたレン達もこれには驚愕し、出し抜かれたルシアは悔しさを噛み殺した。

 

「主神様を殺るのは拙者とパラケルスス殿の目的でごじゃる。主神様、御身の身柄確保したでござる」

「つかまったー」

「ヒュプノス様!」

 

気の抜けた声を漏らすヒュプノスだが、事態は酷い。

レイラがヒュプノスを奪い返そうと脚部に力を込める。

しかし、御門が手で制した。

 

「近付けば主神様の首をこの場で刎ねるでごじゃる」

「……ッ!」

 

ヒュプノスを人質に取られ、動けなくなるレイラ。

姑息な手を使う御門にリューやルシアが声を上げた。

 

「神を人質に取るなど罰当たりな事は止めなさい。すぐにその方の身柄を渡すのです」

「……どうか応じてください。一度、話し合いましょう」

 

交渉を試すリューとルシア。

だが、御門は笑った。

 

「バカでござるか?拙者が離すとでも?そんな交渉(下らない事)に拙者が乗るわけがないでごじゃる」

「くっ……!」

 

リューが苦い表情をする。

御門とて馬鹿ではない。

自身(Lv.3)とリュー達格上との実力差くらい当たり前のように把握している。

そう易々と状況が反転するようなことをする筈がなかった。

ルシアは悩み、レイラは苦渋したが、一人レンだけはいつも通りの声音で話す。

 

「ま、ご最もだな。いいぜ。ヒュプノスを連れて行きたいなら連れて行けよ。どうせ後で会えるんだろ?」

「レン様…!?」

 

奇想天外なことを言い出すレンにルシアだけでなく、リューや時雨、特にレイラが正気を疑う。

ガンマは何度か御門を狙ったが、彼女の動きに銃は不向きで、しかも人質を取られては行動に出れなく沈黙していた。

 

「俺達にも時間がない。茶番ならもう終わりにしよう」

「ほう。頭が切れるか…ただの馬鹿か…物分りの良いのが一人居るみたいでごじゃるなぁ。では拙者はそのお言葉に甘えさせて貰うでござる」

「あっ……」

 

ヒュプノスと共に消えてしまった御門にレイラは虚空を掴む。

何も出来なかった虚無感が彼女を襲った。

 

「安心しろ、後で助ける」

 

肩を落とすレイラにレンは赤刀身の刀――『紅桜(くれないざくら)』でワイヤーを焼き斬り、進路を作っていく。

紅桜は魔剣の失敗作から出来た産物。

その赤刀身は常に熱を帯びていて、大体のものなら焼ききれた。

御門を逃がした本人が何を、とレイラはレンを睨んだが彼の瞳にまだヒュプノスを見捨てるような諦めを感じるものが含まれていないのを目にして口を噤んだ。

あの目は逆に微塵も諦めていないものだった。

 

「自分のファミリアの落とし前は自分で付けろ。俺達がお前らの尻を拭うのはお門違いだ」

「……はい。分かっています」

「リュー、ルシア、時雨、あと威吹鬼とガンマもいつでも戦闘できるようにしろ。時間がさらに無くなった」

 

この場にいる唯一の主神としてレンは子供達より冷静に指示を出す。

戦場に慣れた異様な()に一行は頷き、気を更に引き締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう何度目か分からない扉を蹴破る。

隠し扉から長い下向きの通路を辿った先に着いた。

そこは排水機場。

巨大な柱――地下調圧水槽の立ち並ぶ空間だった。

水気があるためかよく冷え、冷気が肌を刺激する。

 

「さっそくお出ましだ」

『……ッ!』

 

レンの言葉を聞くより早く冒険者達は構える。

立ち塞がるように現れた合成獣(キメラ)食屍鬼(グール)()、筆頭するように中央で口元を隠す覆面の忍者が居た。

 

「御門。ヒュプノス様を返しなさい!」

「嫌でごじゃる」

 

レイラの呼びかけに即答する御門。

姿の見えないヒュプノスにレイラは内心焦る。

対する御門は笑みを作るように目を細め、両手を広げて見せた。

 

「主神様を返して欲しければ拙者らを倒すでござる」

 

『ムウウウウウウウウウウウウウウ――』

『あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!』

 

御門に応じるように雄叫びを上げる合成獣(キメラ)食屍鬼(グール)

あまりの異色さにLv.6のレイラが後退る。

もはや同僚の忍者が正気かも窺えない。

だから、ここから拳で語ることをレイラは静かに決意する。

ヒュプノスが囚われている今、元よりそれしかない。

 

「話し合いは済んだか?」

「はい」

 

レンの問いにレイラが頷く。

もう語ることなどない。

ここから真剣勝負だ。

 

「ルシア、後衛職と指示は頼んだ」

「お任せ下さい」

 

主神の指示に承知するルシア、杖を構えて後衛へ下がる。

リュー、ゼルフィ、レイラ、威吹鬼が前衛に出て。

冒険者ではないレンはレベルの低い時雨、無所属(フリー)のガンマを連れて中衛へと移動する。

初めて肩を並べるゼルフィをリューは見遣る。

 

「なんだよ」

「…いえ」

 

目線を気付かれてしまった。

狼人(ウェアウルフ)特有の荒っぽい性格を刺激しそうになり、実際リューにはゼルフィの機嫌は良くないように見えた。

だが、ゼルフィは呟きを漏らすくらい小さく口を開く。

 

「……妹がいる限り、俺はあんた達の言う通りにする。自由に使いな」

「分かりました。貴方のステイタスは確認済みだ。期待しています」

「ふん…」

 

それ以降ゼルフィはダガーを手に黙る。

 

「ゼルフィ君と威吹鬼さんとガンマ君はキメラ・ホムクルスを担当、リューさんとレン様と時雨さんは食屍鬼(グール)の担当をお願いします。戦闘力の高いキメラを優先して私は援護に回りますが、いいですね?」

「勿論。異存はありません」

「行くぞ」

「……」

 

レイラは何も言わずに頷く。

誰に指示されなくても分かっている。

自身のファミリアのイザコザは身内が片付けるべきだ。

だから、レイラの担当は御門。

御門を倒して早急に戦場に戻らなくてはいけない。

レイラが最大戦力である故だ。

 

「手間掛けんなよ」

「……尽力します」

 

レンの耳打ちに応じ、それと同時に駆ける。

レイラは姿を消した御門を追い、リューとレンと時雨は合成獣(キメラ)をくぐり抜けて食屍鬼(グール)の前へと躍り出た。

ゼルフィと威吹鬼は真っ直ぐに合成獣(キメラ)へと突っ込む。

ガンマはルシアの隣で狙撃銃(ライフル)を構えた。

 

「各配置に散開完了。ゼルフィ君と威吹鬼さんはレイラさんが戻ってくるかリューさん達が食屍鬼(グール)を倒しきるまで堪えてください」

「言われなくても…!」

「分かっておるぞ」

 

『ムウウウウウウウウ!』

『ムウウウウウウウウ!』

 

合成獣(キメラ)は二体…ですか」

 

一体でも手こずった合成獣(キメラ)が二体。

今回初めて導入されたゼルフィだが、事前の打ち合わせもあって威吹鬼との動きは合っている。

だが、やはり合成獣(キメラ)の攻撃範囲、様々な能力には苦戦していた。

 

『ボウッ!ボウッ!』

『ボウッ!ボウッ!』

 

「うおっ!?」

「危ないのぉ」

 

ヘルハウンドのような火球を咄嗟に避けるゼルフィと余裕で躱す威吹鬼。

話に聞いてはいてもまさか本当にヘルハウンドと同じ能力を使われ、ゼルフィは驚愕した。

そのせいか反応もギリギリ。一瞬気を取られた。

 

「ゼルフィ君!前方注意!」

『ムウウウウウウウウウウウウウウ!』

 

「うぐっ……!?」

 

ただでさえ二体もいる合成獣(キメラ)に対するよそ見は命取り。

長い腕によるしなりを上げた打撃でゼルフィは吹き飛び柱を抉る。

 

「なんてパワーだ…!」

「油断しとるからじゃ。狼人(ウェアウルフ)の癖にとろいヤツじゃのぉ」

「なんだと!馬鹿にするな、このよく分からないゴブリンみたいなヤツ!」

「なんじゃと?もう一度言ってみぃ。捻り潰してやるわ」

「えぇ…。さっそく連携崩れですか。あそこは幸先不安ですね。ガンマ君、くれぐれもお願いします」

「了解」

 

戦闘中、それも強敵二者を相手に揉め合う狼人(ウェアウルフ)と鬼人にルシアは溜息をつきつつガンマに指示を出す。

二人が言い合いに時間を喰っているうちに距離を詰めてきた合成獣(キメラ)の足を二体ともガンマは撃ち抜いた。

 

『ムウウウウウウウ――』

『ウウウウウウウ――』

 

蹌踉めく合成獣(キメラ)達。

悲痛の声にゼルフィと威吹鬼はハッと敵前であることを思い出した。

 

「……悪い癖じゃの」

 

助けてくれたガンマを横目で見遣り、すぐに敵へと視線を移動させた威吹鬼は仕方なくいけ好かない狼人(ウェアウルフ)へと振り向く。

 

「犬科よ、ちと力を貸すが良い」

「あぁ?」

「まあそう睨むな。其方は他の助けが来るまで待つほど情けないのかの?」

「……それは」

 

威吹鬼の問いにゼルフィは詰まる。

正直なところ、彼等にもプライドがない訳では無い。

威吹鬼は鬼人というアドバンテージがあり、ゼルフィはLv.4まで登りつめた自信がある。

確かにLv.6のレイラ達がいて苦戦した相手が二体もいる環境だが、援護を待つなど二人のプライドは許さなかった。

 

「冒険者であるならば立て。悔しいのであればせめて一体は倒さぬか」

「……うるさい。お前に言われ、なくても…!」

 

ゼルフィは立ち上がる。

瞳に決意を抱いて。

気に食わない鬼人ではあるが今は共同戦線に立つ唯一の仲間。

彼女以外頼る相手など前線には居ないのだから。

 

「あんた、魔法は?」

「火力ならあるのぉ」

「よし。俺の魔法と合わせて一体倒す。タイミングを計るぞ」

「承った。任せるが良い」

 

獲物を手に再び肩を並べる二人。

その様子にルシアは微笑んだ。

 

「……どうやら切り替えは出来たみたいですね。さすが第二級冒険者です。ガンマ君、二人は合成獣(キメラ)のうち一体を倒すつもりです。その為には火力が足りません」

「どうすればいい」

「火力の面は私にお任せを。ガンマ君は二人の攻撃に手を加えて追い詰めてください」

「分かった」

「追い詰められればきっと最終形態に変化する筈です。あの形態ならば火属性の魔法が効果的になります。これに掛けましょう」

 

ルシアの言葉にガンマは黙って肯定する。

ルシアは杖を握る手を強めて詠唱に入った。

 

「【龍の呪い、果実の呪い】」

「バレットM82からGAU-17 M134 ミニガンに装備を変更」

「……!?か、【呪詛(カース)となりて顕現せよ】」

 

詠唱に入ると共に謎の筒を遂に開けたガンマ。

ルシアはその中から出てきた巨大な鉄器に目を見開いた。

外見で分かる殺傷力。

恐ろしい程の数の銃口。

人よりデカイのではないかという特大サイズ。

コンクリートに固定されたそれはルシアの詠唱の集中が切れそうなほど異常だった。

 

「耳……塞いどいた方がいいかも」

(無理です…)

 

ガンマが気を使ってくれたがこれ以上集中を切らすと魔法を失敗してしまうルシアは悲しく覚悟する。

タイミングを間違えたかもしれないと肩を落とすガンマにルシアは苦しい会釈で誤魔化し、ガンマは申し訳なく思いながらそれを支え、構えた。

銃口が狙うは合成獣(キメラ)

ガンマは恐らく来るであろう反動に覚悟を決めて呟いた。

 

「目標、駆逐する」

 

刹那に鳴り響く轟音。

大昔、銃と共に歴史から消されたその殺戮兵器の名は『ガトリング砲』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

張り巡らせるワイヤーを両断する。

肌を掠め、擦り傷を増やすことにレイラは顔を顰めながらも邪魔なワイヤーを裂き続ける。

やがて、短剣二本を手にレイラはワイヤーだらけの空間を悠々と慣れた動きをする御門を見遣った。

 

「おや。もうお疲れでござるか?」

「言ってくれるわね」

 

同僚とはいえステイタス上格下からの煽り。

アマゾネスなら簡単に乗ってしまうのが通常だが、レイラは乗らない。

やるべき事を全うする為に地を蹴った。

 

「舐めないで」

「……ッ」

 

露出した肌から血が舞う。

多少強引に御門の背後に移動したレイラは短剣を振るう。

 

「はぁ!」

「流石っ!速いでごじゃるな!」

 

なんとか刀で防いだ御門。

だが、瞬間腹に強烈な衝撃を受ける。

 

「ぐはっ……!?」

 

腹部にめり込む褐色の蹴りに血反吐を吐きながら目を見開く御門。

それと同時に吹き飛んだ。

 

「ゴホッ!う、ぐっ…!Lv.6の力技は効くでこじゃるな…」

 

蹴り飛ばした(御門)で柱を抉る程の威力。

御門は感嘆し、絶句した。

レイラと御門。二人の間に絶対的に存在する力の差に。

 

「そろそろ忍術も使うべきでごじゃるなぁ。このままでは拙者の命が先に尽きるでごじゃる」

 

痛たいでござるぅ、と嘆きながらも御門は態勢を立て直す。

しかし、泣きっ面にアマゾネスとでも言うかのように既にレイラは迫っていた。

 

「うわ、この女最悪でござる」

「はあああああ!!」

 

爆音。

第一級冒険者アマゾネスの本気のパワーに御門丸ごと柱が崩壊する。

御門を殺してしまったのではないかという程の破壊力だが、レイラは警戒を解かぬまま背後から聞こえた「容赦無さ過ぎではないでござるか?」という声に振り向いた。

 

「やっぱり躱したわね」

「いや、流石に死ぬかと思ったでござる。まさかあそこまで全力で来るとは思わなかったでござる」

「今は敵同士なんだから普通じゃない」

「加減というものを知らないでござるなぁ」

「ヒュプノス様を攫った貴女に手加減が必要だとでも?」

「あー、ご最もでござる」

 

軽い口調でケタケタと覆面の下で笑う御門をレイラは無視する。

砕いた柱を見ると一緒に蹴り潰した御門は丸太となって粉砕されていた。

 

「変わり身の術でござる」

「……ッ!相変わらず器用、ねっ!」

 

ほんの一瞬意識を逸らした間に距離を詰めてきた御門の刃に対応する。

レイラがこれまで磨き上げた剣さばきを使って形勢は変わるが両断した御門はまたも丸太に変わった。

 

「おやおやおや。どうしたでござるか?もはや【静寂の女王蛇(サイレント・メドゥーサ)】ともあろう副団長殿では忍者には及ばないと申すでござるかぁ?」

「うるさい!あとその二つ名で呼ばないで!?」

 

羞恥を唆られる二つ名で呼ばれたレイラは少し紅潮し、次にはキッと御門を睨む。

見つかった御門はケタケタとまた笑った。

 

「愉快でござるなぁ」

「そろそろ鬼ごっこもおしまいよ」

「ははは、それは残念でござる~」

「この…っ!」

 

天井に張り付く御門に針のような視線を与え、足に力を入れるレイラ。

が、御門までの道のりにワイヤーが張り巡らされていることに気付く。

 

「さてどうするでござるか?」

「【水の精よ。我に力を付与せん】」

「ほう、魔法でござるか」

 

短文詠唱を紡ぐレイラ。

力を込めるそれを溜め、クレーターができるほど蹴り跳べば、幾つかの柱が崩壊し、そこから水が彼女の元へと集約する。

 

「【切り裂け】」

 

水はレイラの両手から鞭のように伸びる。

レイラがワイヤーだらけの空間に突っ込むより早く鋭利な刃として形作った。

 

「【ウォーター・ベール】!」

 

ステイタスと魔法の相乗効果。

レイラの超スピードの跳躍に力任せに振り回せされる水の鋭利な鞭。

水の鞭はワイヤーを次々と斬り落とし、レイラは障害なく御門の元にまでたどり着いた。

 

「【切り裂け】」

 

御門の眼前まで迫ったレイラは再び詠唱を口にする。

対する御門は口端を上げた。

 

「いやぁ。副団長殿の魔法はいつ見ても豪快でござるなぁ」

「【ウォーター・ベール】!」

「【水遁(すいとん)の術】」

「なっ……」

 

水の鞭を振るったレイラは絶句した。

どういう芸当かは見破れないが、御門がレイラの魔法で操った水を利用して砲撃を打ち返してきたのである。

まるでポンプのような強烈な威力にレイラは堪らず地に落ちた。

 

「ぐあっ…!?」

 

Lv.6のレイラがLv.3の御門に地に打ち付けられる。

 

「いやはやさすが副団長殿の魔法。これ程の水遁を使ったのは生まれて初めてでごじゃるよ」

「ぐっ…!貴女…!」

「そんな睨まないで欲しいでござる」

 

未だ天井に足を付ける御門は愉快そうに嘲笑する。

予想外の苦戦にレイラはゆらりと立ち上がり、忍者の認識を改めた。

この忍者は強い、と。

 

「……」

「どうしたでござるか?もしや戦意喪失でござるか」

 

急に動きもなく沈黙してしまったレイラに御門が首を傾げる。

理由は分からないが御門はこれを好機として見、警戒を怠らず忍術を駆使しながら畳み掛けにいった。

 

「副団長殿にはお世話になったでござる。でも殺す。先に謝るでごじゃる、御免っ!」

「……」

 

御門の動きは捉えられない。

彼女の声も霧散して聞こえる。

だが、近付けば分かるレイラは特に気にしなかった。

きっと気付いた時には反撃などできないだろう。毎度の如く防御さえできたら上出来かもしれない。

しかし、()()()()()

 

「あまり時間は掛けられない。ならば副団長としての力で倒すわ」

「何を言ってるでござるか?笑えるでごじゃるっ!」

「……ッ」

 

来た。

明らかに御門の気配を背後に感じる。

既に金属の冷たい感触が首筋に当たっている。

それでも尚、レイラは動かず口を僅かに開いた。

 

「【旋風忍者】」

「そ、それは……っ!」

 

あと寸分でレイラの首を刎ねる御門の動きも止まる。

その顔は羞恥の赤色だった。

 

「確保!」

「あっ…」

 

何の『技』も『忍術』も使わず、隠れようともしない忍者などLv.6のレイラからすれば捕まえるのは簡単。

捕らえられた御門はギョッとした。

 

「は、離すでござる!?」

「いいえ。離さないわよ。粉砕されたくなければヒュプノス様の居場所を答えなさい」

「ふ、二つ名はズルイでござる!」

 

羞恥で叫ぶ御門の言う通り、【旋風忍者】とは御門の二つ名だった。

本人がそれを弱点(コンプレックス)としてることを知っていてレイラは利用した。

 

「観念しなさい」

「……分かったでごじゃる。降参降参」

 

掴まれてない手を上げ、降参を表す御門。

その手で何か出来るかもと考えたが片腕を握られたレイラの力が一生離さないとでもいうかのように怪力で冷や汗をかいて止めた。

 

「ヒュプノス様は?」

「……案内するでござるよ」

 

レイラに問われ、半ば脅しとなりつつ御門は案内する。

逃がさないために終始手を繋がれていた御門だが、この時ばかりは隣に怪物(モンスター)がいた方がマシかもしれないと本気で考えたのだった。

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