罪を犯したエルフをファミリアに誘うのは間違ってるだろうか(凍結)(メインタイトル関係なし)   作:伊つき

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第32話

『あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!』

 

「斬り捨て、御免っ……」

 

元はホムンクルスの少年だった今は醜い顔を両断する。

真っ二つになった食屍鬼(グール)は絶命した。

 

「……」

 

最後の食屍鬼(グール)を葬った時雨。

その表情には達成感や疲労感より罪悪感が表に出ていた。

気負う少女に同じく戦闘を切り上げたレンが後ろから声を掛ける。

 

「気分が悪いか?」

「はい…」

「辛いか」

「はい」

「悔しいか」

「はい」

「ならどうする」

「仇は、討ちます。命の仇を」

「そうか」

 

瞳に怒りを宿す時雨にレンは短く返すだけで次の戦場へと向かってしまう。

ふと時雨は合成獣(キメラ)の元へと向かえないリューを視界に捉えた。

 

「妖精さん?」

「……っ」

 

呼びかけると彼女はビクリと肩を震わす。

時雨は感じた。

彼女から合成獣(キメラ)への恐怖を。

 

「あ、あの…」

 

時雨はなんと声をかけたらいいか分からない。

レン(お師匠)のように的確な言葉を与える才はなかった。

だから、喉を詰まらせる時雨は特になにも気の利いたことを言えずにリューを後にする。

 

「先に…行きます」

「……ええ」

 

リューからの応答と耳に入れ、気にしない振りをして時雨は駆ける。

心情に何かを抱えることはリューも一緒なのだと時雨は感じた。

しかし、時雨にはなにもできない。

ただただ彼女はこの戦いを早く終わらせる為に地を蹴るのだった。

 

 

 

 

時雨に気を遣わせてしまった。

リューはそのことを反省しながら合成獣(キメラ)を見遣る。

今まさにレンと時雨が交戦しようとしている戦場。

驚いたことにゼルフィと威吹鬼、そこにルシアとガンマが手を加えて合成獣(キメラ)を一体を葬ろうとしていた。

 

「私は……」

 

何をしているのだろう。

自問自答する。

第一級冒険者が第二級以下の冒険者に任せて呆然としている。

ダメだとは分かっている。

分かっていても彼女の足は動かなかった。

 

「申し訳ありません…」

 

ただ『あの人』への恐怖がリューを動かさないでいた。

 

合成獣(キメラ)の戦場へと向かってくるレンと時雨を視界に捉え、威吹鬼は共に戦う狼人(ウェアウルフ)へと視線を向ける。

 

「【疾風】の主神と人間の女…確か時雨とやらが戻ってくるようじゃ。ここらで一体畳み掛けるぞ」

「言われなくても分かってる。……あいつのお陰で戦況は良いしな」

「……同感じゃの」

 

威吹鬼とゼルフィがと相手取ってるのは合成獣(キメラ)は一体。

もう一方は怒号の爆音が襲ったいた。

そう表現するしかないだろう。

あの()()は。

 

『ムウウウウウウウ、ウウウウウ、ウウウウウ、ウウウウウウウ、ウウウウウ――!?』

 

「……」

 

途切れ途切れに響く合成獣(キメラ)の悲鳴は轟音で消されている。

凄まじい連射を繰り出す超威力の兵器『ガトリング砲』を無言で扱うガンマは合成獣(キメラ)を圧倒していた。

それに驚愕しながらもルシアは詠唱を紡ぐ。

 

「【記憶を焦がす龍の獄炎を。犯した罪の毒実を】」

 

詠唱を確認した威吹鬼とゼルフィは跳躍した。

 

「一気にトドメを刺すのじゃ!」

「いちいち指示するじゃねえ!」

 

強靭な爪を武器に合成獣(キメラ)の腕を目指して降下する威吹鬼。

ゼルフィもダガーを構えて降下した。

そんな二人に合成獣(キメラ)は口を開く。

 

「火球か…!」

「ヘルハウンドの……来る!」

「問題ない」

 

『ボ――ムウウウウウウウウウウ!?』

 

ガンマの呟きの後に放たれた連射撃。

合成獣(キメラ)は炎の溜まった口元と喉元を狙われ爆発した。

顔の大半を失った合成獣(キメラ)は腰辺りまで裂け、最終形態ヴィオラス・ホムンクルスへと変化する。

空中に残された威吹鬼とゼルフィを狙って喰い殺そうとするが、彼等にとって最終形態が狙いだった。

 

「ふっ…。哀れよの。気持ちよく燃えるが良い」

「行くぜ!」

 

威吹鬼が上へ、ゼルフィが下へ、二人は並ぶ。

そして威吹鬼の足を足場にゼルフィは蹴った。

空中で加速したゼルフィは一直線にヴィオラス・ホムンクルスの口内へと向かう。

 

「【駆け抜けろ狩人】」

 

詠唱を紡ぐ。

 

「【アトゥランテ】」

 

魔法を発動したゼルフィは更に加速した。

誰の目にも止まらぬ速さでヴィオラス・ホムンクルスも気付かぬ速度で口から体内に侵入し、その胴体を貫く。

 

『キュワアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

喉から背までポッカリと穴が空いてしまったヴィオラス・ホムンクルスは発狂する。

だが、ゼルフィの追撃は容赦なく続いた。

 

「うえええええ、速過ぎて吐きそう!ちくしょおおおおおお!!」

 

『キュワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

ヴィオラス・ホムンクルスは反応できない。

ゼルフィがあまりにも速過ぎる為に細くできないのだ。

知らぬ間に胴に傷が増えていった。

 

「ほう。あの犬科、ライオネルよりやりおるわ」

 

ゼルフィによって刻み込まれるヴィオラス・ホムンクルスを見て着地した威吹鬼は愉しそうに笑う。

同時に合成獣(キメラ)の討伐を確信した。

 

「あやつとなら楽よな。ではワシもやるとするか」

 

もう一匹の合成獣(キメラ)はガンマが退けている。

元同僚(ルシア)を見ると詠唱を続けながらこちらへ向かっていた。

『並行詠唱』だ。

 

「あの半竜(ハーフエルフ)の小娘もいい様になったの。少し見れるくらいにはなりおった」

 

再度笑みを浮かべながら威吹鬼は跳ぶ。

柱を足場に高くさらに高くへと移動した。

 

「さ…あのバカでかい口にぶち込んでやるかのぉ」

 

天井に到達する威吹鬼。

そのまま彼女も詠唱を紡いだ。

 

「【燃えよ燃えよ】」

 

天井を蹴る。

同時にルシアもヴィオラス・ホムンクルスに迫っていた。

あちらの方が詠唱を読み上げる速度も読み始める速度も速かった。

 

「【最悪を重ね、吐き出せ。――浄土と化せ】」

 

ヴィオラス・ホムンクルスに肉迫するルシア。

弱点である炎の魔法を行使した。

竜の獄炎魔法を。

 

「【ヘル・サラマンドレア・ブレス】」

 

「『キュワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』」

 

一番の奇声を上げるヴィオラス。

その身は燃え盛り、苦しんでいた。

赤く激しく燃える炎に威吹鬼はさらに注ぎ込もうと詠唱を続ける。

 

「【悪の者が鬼火に焼かれ、荒れ狂え。我が鬼法術を喰らえ】」

「【目にせよ、黄金の果実】」

 

加速していたゼルフィが解除の詠唱で加速を止める。

魔力の高まる威吹鬼を見上げ、彼は息を呑んだ。

 

「【オーガ・フレイム】」

 

『キュワアアアアアアアアアアアアアアアアアア――――』

 

断末魔。

赤と紫の炎が混じり合い、轟炎となってヴィオラス・ホムンクルスは燃え尽きた。

(カス)となって風で散る。

 

「ちとやり過ぎたかのぉ」

 

炎で消えゆくヴィオラスの前に降りた威吹鬼の姿はさながら鬼と見えた。

実際に鬼ではあるのだが、比喩で喩えても今の彼女はそう見える。

 

「ふっ、何を突っ立ておる?犬科よ」

「……っ!」

「まだもう一体残っておるぞ」

「わ、分かってる…!」

 

威吹鬼の姿に気圧されていたゼルフィだが、気を取り直してダガーを構え直した。

威吹鬼はそんな彼を見てまた愉しそうに(わら)う。

 

「さあもう一匹狩るかの」

「威勢がいいのはいいが、次は楽にはいかないぞ。『ガトリング砲』の残弾はないみたいだからな」

「ほう。あれほどのものだ。やはり早々に尽きたか」

 

レンの言葉でガンマを見遣る威吹鬼。

使えなくなった『ガトリング砲』を捨てるガンマが映った。

彼はそのまま狙撃銃(ライフル)へと獲物を代える。

 

「古代の兵器とは不思議なものよな。今の兵器より余っ程使えるように見えるの」

「……怪物(モンスター)のせいで文明は衰退する一方だったからな。仕方ない」

「ほう。悔しいのじゃな。もしや其方も歴史学者じゃったか?」

「冗談を言ってる暇はないぞ。たたでさえオーバーワークなんだからな」

「分かっておる分かっておる。ほれ、次もいくぞ犬科」

「犬科って呼ぶな!」

 

先に進んだ威吹鬼を筆頭にゼルフィと合流したレン、時雨も共にもう一体の合成獣(キメラ)へと挑む。

ルシアもその後を着いた。

 

「私も前衛へと参加します。数分後にレイラさんも戻ってくるようなので一気にかたをつけましょう」

「……そうだな」

 

ルシアの提案に応じるレンにも疲れが見える。

愉しそうな表情はわざと表に出しているのか、あまり感情が読みにくいというより読ませまいとしてるであろう威吹鬼の他は(みな)疲労が伺えた。

戦いに参加しないリューを横目にレンとルシア、他のメンバーも総掛かりで合成獣(キメラ)を討伐した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

排水機場の最奥。

上から下へと筒のように空洞が広がる巨大な空間に奇妙な存在が確認された。

 

「なんだ、あれ…」

 

専門外のレンではただの『デカブツ』の中心には何かが眠ったように埋め込まれていた。

 

「これは蒸留器さ」

 

何食わぬ顔で登場する錬金術師のパラケルスス。

現れた此度の黒幕に冒険者達は戦意を逆立てた。

 

「まあまあ落ち着いて。コーヒーでも飲みながら私の最後の話を聞いてくれたまえ」

「最後…?」

 

追い詰められているというのに余裕の態度を見せるパラケルススが放った言葉に時雨が反応する。

不審な表情をした時雨にパラケルススは「そう、最後だ」と念を押して語り出した。

ただの時間稼ぎだと分かりつつもレン達はいつでも戦闘できる態勢で話を聞いてやる。

 

「私の夢は幼い頃から変わらない」

 

冒頭に『夢』を語り出すパラケルスス。

続けてその詳細を口にした。

 

「私の『夢』とは究極の生命体を作ること。それは今も昔も変わらない。ただそれだけを求めて私は幼い頃から錬金術師として生涯を費やしたんだ。究極の生命体、それがホムンクルスの研究の末にあると思ってね」

 

人工生命体の代表ともいえるホムンクルス。

それをパラケルススは生涯を使って研究し、作り上げた。

だが、その結果は芳しくなかった。

 

「私の作ったホムンクルスは全部で二十三体。最初は四体分もの素材を無駄にしたよ。生命にもならなかったからね」

 

自身の過去を悲しげにパラケルススは口にする。

徒労が報われず、彼の望みも叶わない。

その気持ちは冒険者であるリュー達にはほんの少しだが理解出来た。

根本は全く理解出来なし、したくもないが。

 

「少し寄り道して……というか別の方法も試して怪物(モンスター)を用いた合成獣(キメラ)を全部で四体、作ってみたがあれは全く私の望んだものではなかった。素材も時間も無駄に食うし、すぐに止めたよ」

 

リューやレイラ達今回の一行のゼルフィが除く全員が初めて対峙した一体に今しがた倒した二体。

話には聞いていた捕らわれていたリューの監視をしていた『あの人』で四体目。

これが全ての合成獣(キメラ)だと聞かされる。

 

「だが、私は今日この時をもって遂に『夢』を実現させたぁ!」

『……ッ!?』

 

突如豹変し、狂った態度を見せるパラケルススにレン達は困惑する。

嫌な予感を拭えないレンは警戒を怠らずにいながら言葉の続きを待った。

 

「私は!遂に『究極の生命体』を作り出すことに成功した!これも御門くんのおかげでね」

「うわ、すごいとこで拙者に振ってくるでこざる」

 

バッと全員が御門に注目する。

視線の中身には何をやってくれてるんだお前はと言葉にされずとも含まれていて、御門は第一級冒険者などもいるその視線に冷や汗をかいた。

 

「貴女という人は…」

「帰ったら説教ね」

「ひえっ。ストレスを溜め込んだ副団長殿の数時間耐久説教とか最悪でごじゃる」

 

笑えない本気の視線を送るレイラに御門はあはは…と苦笑いを返しておく。

 

「せ、拙者は時間を稼いだだけなんでごじゃるが…」

 

そんな虚しげな言い訳も誰にも相手されず空を切った。

話が終わっであろうパラケルススにレンが抜刀して近付く。

 

「最後まで付き合ってやったが、とんだ無駄話だったな。『究極の生命体』?バカバカしい!もう少しマシな嘘をつくんだな」

「嘘ではない。私を殺すつもりか?なら好きにするといい!私はもう『夢』を叶えた!悔いはない!!」

「……ッ!」

 

パラケルススの首を刎ねようと肉迫したレンだが、巨大な蒸留器を破壊し、飛び出た影に飛び退く。

レンの表情は驚愕のものとなった。

影があまりにも気配を感じず、速く、鋭かったからだ。

 

「お前が……『究極の生命体』」

「如何にも」

 

感情を感じない無機質な表情は肯定した。

レンの前に降り立った『究極の生命体』もといホムンクルスは産まれたばかりのか細い唇をゆっくりと動かす。

 

「私のコードネームはΩ(オメガ)。『究極(不死)』の生命体である」

「なるほど…大体のヤツが辿り着きそうな考えでガッカリだ。不死だと?この悪趣味め。最悪だ」

 

悪態をつき、唾を吐き捨てるレン。

『不死』という言葉にリュー達は目を見開いた。

 

「不死…と言いましたか?」

「ええ。確かに口にしました」

「不死って神様じゃあるまいし……」

 

時雨がチラリと守っているヒュプノスを見る。

彼女の言う通り、この世に存在する不死は神のみ。

厳密には神は不老だが。

その摂理を覆す存在が今彼女達の目の前に居た。

 

「ははは。もうオメガは止まらない。私にとっての究極とは繁殖による種の繁栄もなく、ただ一つ完全な生物として世界の最後まであり続けること!その為にも世界に彼女以外は必要ない!オメガはこれから世界を滅ぼすのだ」

「大それなことを……!」

 

彼女と呼ばれるだけはある豊富な胸肉を持った究極のホムンクルス・オメガ。

世界の破滅を望むパラケルススを睨むリューの前で彼女は悠々と生まれて初めて足を踏み込んだ。

 

(Ω)を除く生命体を九つ確認。生命根絶の為、戦闘を開始します」

「来るぞ!!」

『……ッ』

 

レンの叫びに誰もが気を引き締める。

が、第一級冒険者であるリューとレイラの目の前にオメガは現れた。

 

「なっ……」

「え?」

「急激な加速、及び限界を超えた肉体活動に脚部を破損。打撃の後修復します」

 

一秒にも満たない一瞬。

第一級冒険者との距離を詰めたオメガは淡々と呟く台詞と共にリューとレイラの腹を拳で抉った。

 

「っぁ……!?」

「ゴフッ…!」

 

迷宮都市で第一級とまでギルドに評価され、実力のある二人の冒険者は顔を歪め吐血する。

腹部を襲う激しい威力にリューもレイラも吹き飛ばされた。

 

「ぐああああああ!」

「ごはっ…!?」

 

衝撃で柱を破壊し、予想以上のダメージに目を見開く第一級冒険者達。

崩れる柱の下敷きになりながら腹を抑えて埋もれた。

 

「リューさ――!?」

「エルフと竜の混血を確認。命を断ちます」

「ルシア!」

 

次に狙われたルシア。

接近された事にも気付けなかった彼女は一瞬で迫られたことに驚く。

オメガにはその驚く間にルシアの首を刎ねることが可能だった。

たまたま最もルシアに近くにいたレンが間に入り、ルシアを守る。

 

「うぐっ……」

「予測外の事態が発生。攻撃を受け止められました」

「レン様!?」

 

オメガの拳を刀身で防ぐレン。

彼女の『力』にレンは耐えた。

 

「ぐっ……これは、ヤバイ…!」

「手を奇少金属(アダマンタイト)化します」

「は?」

 

レンの呆けた声とオメガの手が変化するのは同時だった。

オメガの手は『アダマンタイト』という金属の素材になり、レンの刀を刹那の時間で破壊した。

 

『なっ――』

 

レンとルシアが共に目を見開く。

瞬間、オメガの鋼鉄(アダマンタイト)の拳がレンの胸へと迫った。

ルシアは咄嗟にレンを庇う。

 

「レン様…!」

「ルシ――」

「うっ……!!」

 

戦闘服(バトル・クロス)の中で竜の翼を盾の代わりに纏ったルシアだが、強烈な衝撃に苦痛が漏れ、声が出なくなる。

次に意識を認知した時には柱を幾つも貫いてフロアの壁まで吹き飛んでいた。

 

「ルシア!」

「……っぁ」

 

自分を守って意識を失うルシアにレンは唖然とする。

レンは『力』以外マトモに機能していない背中に刻まれた()()()()にイラつきながらルシアを倒したオメガに驚愕した。

 

「第二級冒険者でしかも竜の特性も持ってるルシアを一撃だと?ふざけんなよ…」

 

今も夢の中でうなされるルシアの頭を撫で、横に寝かせつけてから『紅桜(くれないざくら)』を抜刀する。

 

「とんでもない化け物じゃねえか」

 

蹂躙される冒険者達にレンは全滅を悟った。

そんな考えとは裏腹に善戦する鬼人(きじん)が一人。

 

「……ッ!!」

(パワー)において優れてる種と推測します」

「そりゃどうも……とでも言っておくかのぉ。あひゃひゃ…」

「『敏捷』で攻めます」

「最悪じゃ…っ!」

 

鬼としてのアドバンテージ。

それはステイタスとは別スペックの『力持ち(ハイパワー)』だ。

しかし、速さは別。

ステイタス上での威吹鬼の『敏捷』は当然リューやレイラに劣っていた。

そんな二人の第一級冒険者が反応できない速度に威吹鬼が付いてこれるわけもない。

 

「【アトゥランテ】!」

「左からの攻撃を察知、回避します」

「良くやった、犬科!」

「犬科言うな!」

 

オメガに速さで負ける威吹鬼は倒される未来(ビジョン)を見たが、『敏捷』を上げる魔法を使うゼルフィに助けられる。

 

「風を纏っている……というわけではないな。ステイタスの『敏捷』を上げとるのか。珍しい魔法じゃ!」

「あんたほど奇妙じゃ、ない。うえっ…やっぱ酔いそう」

「こんなとこで吐くではないぞ。妾に嘔吐物でも付けてみぃ、まずは其方の首から刎ねてやるわ」

「わ、分かってるよ!」

 

軽い言い合いを交わす二人だが、その口元は笑っている。

とんでもない相手と対峙しているが、いつもの調子に戻ってきたからだ。

それは共に戦うのが威吹鬼故、威吹鬼からしてみればゼルフィ故だ。

『敏捷』をゼルフィが補い、『力』を威吹鬼が補う。

意外と良いコンビネーションだった。

相手が『究極の生命体(オメガ)』でなければ。

 

「動きを補足。対処にあたります」

「……ッ!遂に来る…!」

「『敏捷』を倍加、じゃっか?それでもLv.6には劣るし、『疾風』とは同等かそれ以下であろう。対応されるのは当然じゃな!」

「クソ…!」

「ここまでじゃ」

 

苦渋の表情で噛み締めるゼルフィ、諦めに近い溜息を吐く威吹鬼。

数コンマ後二人は風を切る音もなく無音の衝撃で飛ばされた。

レンが見遣った頃にはルシア同様失神している。

 

「鬼人の女にゼルフィの魔法も通用しないか…。不味(まず)い」

 

ほんの数秒の間に次々と戦力が減っていく。

と、レンが焦っているとオメガの標的は遂に残った時雨になった。

 

「時雨逃げろ!」

「え、え…?」

「目標補足。他の種より『耐久』の面で劣ると肉体面から推測、よってまずは彼女を殺します」

「させるかあああああああ!!」

 

超高速で時雨に迫るオメガ。

勿論時雨は反応など出来るわけもない。

当然オメガの速度に追いつけないレンは仕方なく『力』を使った。

背中にじんわりと熱と痛みを感じながら思い切り、地を蹴る。

すると、強烈なバネでレンは一瞬で時雨の前に到達――ではなくオメガへとぶつかった。

 

「……!?」

「……っ!」

 

予測できなかったのか、オメガも目を見開く。

衝撃に耐えられないレンは顔を顰めながらオメガに体当たりし、共に転がった。

 

「ぐっ!がっ!ごはっ!?」

「事態、把握、不能っ」

 

態勢を立て直そうとして思いの外体当たりの衝撃が大きかったオメガは驚愕しながら最後まで転がる。

レンと共によろよろと立ち上がった。

 

「タイミング、バッチリ…。相変わらず制御はできんが勘は鈍ってないな」

「胴体、(あばら)、腰周りの肉部損傷。瞬間修復を完了しました」

「全部口にするのか?それとも舐めてるのか…知らんが凄まじい再生力だな。なるほど、その再生力が『不死』ってわけか」

 

「定番だな」と苦笑いするレン。

すぐに膝を付いた。

 

「くそ、限界か…」

「生命体を六つ、処分します」

「六つ?さっきと三つ減ったな…。あぁ、忍者と錬金術師め。逃げやがったか」

 

周囲を確認して既に姿が見えなくなった二人にレンは嘆息をつく。

同時に目にすることが出来ない幼神に焦りを抱いた。

 

「詰みか」

「お師匠様…!」

「逃げろ、時雨」

 

最後に残った眷属にレンは逃亡を催促する。

時雨は涙を流しながら首を横に振った。

レンは諦め半分で溜息をつき、最後を迎えようとする。

 

「はぁ。最悪だ」

「死ね」

 

オメガの手刀が鋼の刃に変化する。

素材は希少金属(アダマンタイト)

レンは今度こそ絶句した。

が、振り下ろしたその手を銃弾が阻害する。

 

「予測外の邪魔が入りました」

「予測外?」

 

狙撃銃(ライフル)の構えを解くガンマが首を傾げる。

オメガは頷いた。

 

「私の使命は全生命体を根絶し、私が唯一完全無欠の生命体として存在することです」

「なら何故俺の攻撃が予測外になる?」

「貴方がこの世界で唯一残った私の同種だから、いいえ。それだけではありません」

「……?」

 

ハテナマークを増やしていくだけのガンマに、絶望的な状況に泣き崩れていた時雨はオメガとガンマを交互に目線を動かす。

レンも暫く様子を見守った。

 

「私を作ったマスター……錬金術師・パラケルススは私を唯一無二の存在にし、世界で私だけを残すことを望みましたが、生を受けて私個人にも望みができました」

「オメガ自身の望み…」

 

同じく唯一残った同種のオメガの言葉をガンマは反復する。

ガンマには分からない。

彼は自分の望みを知らないし、それがずっと知りたかった。

ホムンクルスで生を受けた中で三番目に生まれたガンマはつい先程生まれたばかりのオメガでさえある望みに少なからず驚き、少し羨ましく思った。

 

「望みとは、なんだ」

 

興味本位で緊迫した状況であるにも関わらず、リュー達のピンチであるにも関わらず、パラケルスス達が逃亡しているにも関わらずガンマは尋ねた。

オメガはゆっくりと確かに唇で紡ぐ。

 

「私の望みは伴侶を得ること。必要がないことを承知した上で種の繁栄を望んでいます」

 

彼女の望みにレンと時雨は衝撃を受け、ガンマはやはり羨ましいとこの時でさえ思えてしまった。

この時静かに崩れた柱の残骸が蠢いた。

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