罪を犯したエルフをファミリアに誘うのは間違ってるだろうか(凍結)(メインタイトル関係なし)   作:伊つき

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第33話

「伴侶…?」

 

疑問を抱いたのはガンマだけではない。

レンに時雨、当の本人であるオメガも疑問を感じている。

 

「私が何故必要もない伴侶を求めるのかは私自身分かりません。でも欲しいのです」

「……欲しい」

 

オメガの言葉をガンマはまたも反復する。

胸に手を当てながら自分でも分からない感情を告白したオメガにレンは血を拭いながら話し掛けた。

 

「それはきっと、寂しいんじゃないのか?」

「寂しい…?」

 

レンの言葉を理解できないから首を傾げたのではなく、それがすっぽりと不思議に思っていたものに当てはまったことにオメガは驚いた。

教えてくれたレンを見遣る程に。

 

「世界に一人だけ取り残される存在。それがお前だ。だから隣に誰か居てほしいんだろう」

「隣に誰か…」

 

ふとガンマに視線を動かす。

つい先程プロポーズした相手がそこにいる。

同種というだけで相手を選んだが、彼女は少し考え込んだ。

 

「最後に唯一私の他に生きる、共に在る生命体……」

「……」

 

果たしてそれはガンマであるべきかどうか。

オメガは思考に移ったが、導き出したのは後回しだった。

 

「現在候補としてコードネーム・ガンマを生存させます。ですが、排水機場に在る他六つの生命体は完全に絶命させます」

「なるほど…消去法に出たか。ガンマ以外は婿候補には選ばれなかったみたいだな」

「私の気持ちを理解出来た貴方が一番論外です」

「妥当だ」

 

それを最後にオメガの会話は無くなった。

脚部に肉離れを起こしながら高速でレンに肉迫する。

レンも防ごうとはするが遅い。

だが、心臓を抉ろうとしたところで銃弾が横切った。

オメガはそれを転身して避ける。

 

「ガンマ。貴方も私の敵に回るというのですか」

「……らない」

「は?」

「分からない」

 

狙撃銃(ライフル)を手にガンマは表情を曇らせていた。

 

「お前は生まれてすぐに望みを持っている。俺は素直に尊敬しようと思うけど、分からない。どうしたら俺も俺の望んでいるものを、俺自信を見つけられる?」

「ガンマ……貴方は、まさか。……ッ!」

 

ガンマに歩み寄ろうとしたオメガの頬を投刀された小太刀が掠める。

頬の傷は再生回復し、邪魔をしてきたエルフをオメガは睨んだ。

 

「はああ!!」

「邪魔です」

 

背後から迫ってきたリューの刃を手刀で受け止める。

素材は言わずもがな希少金属(アダマンタイト)だ。

 

「ガンマには1(メドル)も近付かせない」

「理解。これが嫉妬。恋敵ですか」

「なっ……!?」

 

リューの顔が一気に紅潮する。

慌ててガンマを見遣ったが、本人は首を傾げているだけで安堵の溜息を漏らした。

同時に彼を射止めるのは困難なのではと焦りも生まれる。

 

「戦闘中に余所見(よそみ)とは余裕ですね」

「ぐあっ…!?」

 

柔らかい――というよりは無理矢理肉体を裂いて放たれた上段蹴りにリューに蹌踉(よろ)めく。

足の素材も希少金属(アダマンタイト)で、上限が壊れた『力』に第一級冒険者の『耐久』を持つリューも膝をつき、頭から出血した。

 

「貴女は貧弱で」

「うぐっ!」

「か弱くて」

「がっっ!?」

「とても脆い」

「ぐあああああああ!!」

 

響くリューの悲痛。

肉や骨を抉られたリューは堪らず転がった。

しかし、すぐに蹌踉めきながら立ち上がる。

 

「驚きました。これが愛情の力ですか」

「くっ……彼を貴女に渡す訳にはいかない」

「何故そこまで彼を好くのです?」

 

既にレンやガンマから距離は離れていた。

聞こえないであろう大きさの声でオメガは問う。

リューは折れてない腕で小太刀を構えて答えた。

 

「彼は私を救ってくれた。私の恩人だ。故に私はガンマを愛している。出会いから時が短くとも私のこの気持ちは誰にも負けません…!」

「なるほど。下らない」

「ぐうっ!?」

 

腹部を襲う衝撃の激痛にリューは表情を歪める。

遂に両膝をついてしまった。

 

「トドメです。散りなさい」

「私は…まだ…。ガンマ…シル…」

 

振り下ろされる手刀に目を瞑るリュー。

しかし、いつまで経ってもリューの身が割ることはなかった。

 

「……?」

 

不思議になって瞳を開くとガンマが立っていた。

 

「ガンマ!?」

「……」

 

無言でリューを守るガンマだが、『銃』を持つ手は下ろされている。

無防備にオメガと対峙していた。

 

「貴方がそこまで私の邪魔をするのは何故ですか?」

「分からない…。でも、リューは守らきゃ」

「……!」

 

迷いながらも縋るようにその答えを導き出したガンマ。

が、オメガは跳ね除けるかのように目を細める。

 

「貴方はこのエルフ種を好いているのですか?」

「好く…?」

「いえ、なにも。なぜ彼女を守るのか聞かせなさい」

「……リューはもしかしたら俺に教えてくれるかもしれない存在なんだ」

「なるほど、理解。ならばそのエルフ種は不要です」

「……!?」

「不要?」

 

ガンマが眉を顰める。

純粋に疑問を抱えるガンマにオメガは笑顔を浮かべて手を広げた。

 

「ええ、貴方の知りたいことは私が教えましょう。貴方が私を尊敬するというのならば私でも構わない筈でしょう?故に、エルフ種は不要です」

「……!」

 

底冷える殺気。

冷たい視線にリューは身を震わせる。

それでもガンマは渡すまいと声を張った。

 

「ガンマ!それ以上耳を傾けてはいけない!」

「害虫が」

 

足掻き続けるリューにオメガは距離を詰める。

だが、彼女は目を見開いた。

またしてもガンマが立ち塞がっていたからだ。

 

「どうして!?」

「リューを殺させはしない。リューが教えてくれたんだ。俺には正義感があると」

「ま、まさかこれが…」

「俺の正義の心。生命を根絶やしになどさせない」

「おい」

「……?」

 

視界の端で蹌踉めくレンを捉える。

声を掛けられガンマが首を傾げると、レンはニヤリと笑って見せた。

 

「そういうのなんて言うか知ってるか?」

「知らない」

「胸糞が悪いって言うんだよ」

「胸糞が、悪い…」

 

暫く考え込んでガンマは目線を落とした。

そして、再びオメガと向き合う。

 

「お前のやってることは胸糞悪い。だから、止める」

「そうですか…」

「それに俺はお前の隣には入れない。俺はあと三年しか生きられない」

『なっ……!?』

 

ガンマの突然の告白にオメガだけでなくリューも驚愕する。

ガンマは『銃』を捨てた。

 

「俺の寿命は短い。だが、残り少ない命をここで燃やす。オメガ、貴様を倒す」

「コードネーム・ガンマ。意図は理解しました。我が敵として認知します。非常に残念です」

「いくぞ」

「来なさい」

 

もう言葉など要らない。

そう言うかのように無言で睨み合うオメガとガンマ。

肉体を負傷したリューは立ち上がることができず、レンは隙あらばオメガを倒すつもりでいる。

時雨はレンに合わせて呼吸を整えた。

緊迫する空気の中、最初に動いたのはガンマ。

 

「アガッ、アア…!うあああああああああああああああああああああああああああああ!!」

『……!?』

 

身体に異変を起こし、変質、発狂するガンマに誰もが驚く。

ガンマは突如、食屍鬼(グール)化した。

 

『あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!』

 

正気を伺えない目付き。

禍々しい奇声。

鋭利な爪に、方向のおかしい関節。

身体の動きは異質そのもの。

完全に理性を失った怪物となったガンマはオメガに殴り掛かった。

 

「ぐっ…!」

『あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!』

 

ホムンクルスでも人間でも亜人でも考えられない(パワー)

冒険者のように神の加護があるわけでもないのに、それに匹敵する凄まじい程の怪力はオメガの腹部を襲った。

しかし、オメガは即座にダメージを修復し、それ以降の攻撃を全て避ける。

 

「理知的とは言えませんね」

『あ゙あ゙あ゙あ゙!あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!』

「……まったく」

 

狂った斬撃も打撃もオメガには掠りもしない。

当たったとしてもダメージとしては残らない。

分かりきったことなのに自我を捨てたガンマにオメガは呆れながら蹴り飛ばした。

 

『あ゙あ゙あ゙あ゙ぐっっ!!』

「ガンマ!」

 

リューの前に転がる食屍鬼(ガンマ)

リューの叫びにガンマは振り返った。

 

「あっ……」

『……』

 

自我を失った食屍鬼(グール)に個人は認識出来ない。

今までの食屍鬼(グール)の様子からそれを知っているリューは危機を感じた。

だが、食屍鬼(ガンマ)はリューを襲わず、前の敵――オメガを再度捉える。

 

「……?なぜ…」

 

オメガも不思議に思ったが、ガンマの殺意に身構える。

 

『あ゙あ゙あ゙あ゙……あ゙あ゙あ゙……』

「どれだけ貴方が強制的に強化されようと高度な再生能力を持った私を凌駕できませんよ」

『あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!』

「……といっても通じませんか」

 

唸るだけのガンマにオメガは溜息をつき、瞳に攻撃的なものを加えた。

 

「今の貴方を見ているのは心苦しいですね。できるだけ楽に逝かせてあげましょう」

「……ッ!ダメだ!ガンマ逃げなさい!」

『あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!』

 

制止の声は聞かず、ガンマは駆ける。

冒険者達の目にもそれは速く感じた。

だが、オメガには捉えるのもバカバカしいほどに遅い。

 

「散りなさい」

『アッ…ガッ…』

 

アダマンチウム製の爪。

心臓を抉り取られたガンマは膝をつき、倒れる。

 

「そんな……」

 

意図も簡単に殺されたガンマに唖然とするリュー。

抵抗もできない彼女は悔やんでも悔やみきれない。

レンもこればかりは助けられなかった。

 

「……」

「次は貴方です」

 

標的宣言されるレン。

顔を顰めながらレンは身構える。

その時、ザッと砂のなる音が誰の耳にも入った。

有り得ない、とオメガやリュー、レンも心臓を抉られたホムンクルスの少年の方を見る。

彼は心臓を無くし、尚も立ち上がっていた。

 

「ばか、な…」

 

有り得ない。

心臓器官を無くして動ける生命体などいるはずが無い。

オメガは理解できない時点に動揺を隠せなかった。

 

「なぜ、立ち上がるのですか…」

『あ゙あ゙…。オレハ、マダ…シネナイ』

「対話を!?」

 

正気を失った筈の食屍鬼(グール)状態で言語を操るガンマ。

有り得ない。

またもオメガは脳内でパニックを起こした。

しかし、すぐに順応し、ガンマの抹殺を優先した。

 

「危険な生命体を絶命させます!」

『オレハ、シネナイ…。オレハマダ…シラナイ!』

「なっ…!?」

 

オメガの腕に切り傷が付いた。

傷を付けたガンマにオメガは驚愕する。

自分が回避できなかった、その事態を理解できない。

当のガンマはさらに深い傷を負っているが、リューの前にガンマは立つ。

 

『リュー。オシエテクレ』

「え…?」

『オレハ、ナニヲノゾンデルンダ。ナンノタメニ…イキルンダ』

 

たどたどしく、しかし、しっかりと言葉を紡ぐガンマ。

リューの答えを待たず、オメガと対峙する。

 

『ソノコタエヲ、エルタメニ。オメガヲタオス』

「……」

「……私の負けです」

 

突然敗北を認め、降参するオメガ。

ガンマはなぜだ、と問うた。

 

「貴方には強い信念があります。私はそれに負けた……とでも言っておきましょう」

「よく、分からない」

「すみません」

 

気づけば食屍鬼(グール)状態も狂化も解けていた。

暴走を前提とした食屍鬼(グール)を制御してみせたガンマにオメガは驚きつつ笑みを零す。

 

「貴方の想いの勝利です、コードネーム……いえ、ガンマ」

「お前はこれからどうする」

「死にます」

 

ごく当然の如く即答されたその回答にガンマは目を見開いた。

それと同時にオメガは自身の心臓を抉り出す。

 

「うっ…ぐっ…!」

「何をしてるんだ…」

「貴方にこの心臓を与えます。私の器官も利用するといいです。再生能力は継承できませんが、きっと寿命は伸びるでしょう」

「なぜそんなに俺に恵んでくれるんだ…。お前の身体なのに」

「生きて欲しいからです。寂しいからではなく、伴侶が欲しいからではなく、貴方に惹かれました。そんな貴方に生きて欲しい」

「……俺に母がいたらこんな感じなのだろうか」

「出来れば恋人が良かったんですけどね」

 

オメガは最後にちょっぴり笑い、自ら絶命した。

心臓を取り、様々な器官を抜く。

それでも再生するだろう、とガンマに射撃してもらい彼女はやっと死んだ。

ガンマはそんな彼女の死体を寂しく眺める。

 

「お前も、生きれば良かったのに…」

「使命がある限りこいつは生命体を滅ぼさなければならない。だから、死んだんだろ。お前のためだ」

「あんたは物知りなんだな…」

「まあ、な」

 

肩を叩くレンにガンマは少し恨めしく呟く。

レン、時雨、ポーションで回復したリューやレイラ達。

ガンマはみんなにお願いしてオメガに合掌、祈りを捧げた。

 

「錬金術師と忍者がヒュプノスを連れて逃げた。追うぞ」

 

オメガによって受けたダメージは大きく、リューやレイラなど高等回復薬(ハイ・ポーション)で傷を癒した。

オメガの死に今も思うところがあるガンマは暫く動けなかった。

それをリューはどう声をかけたらいいのか分からず見ていたが、レンは遠慮なく置いていくぞと促す。

排水機場の更に奥にもう一つの出口がある。

戦闘から逃れるにはその道を通る以外の選択肢ない。

よってレンを筆頭に一行は錬金術師達の跡を追おうとした。

一体の合成獣(キメラ)が立ち塞がるまでは。

 

『ムウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン――!!』

 

「……ッ!?」

 

突如、一行を飛び越えて行く手を阻むように現れたキメラ。

その姿にリューが息を呑んだ。

 

「あ、あれは…」

「……」

 

リューとガンマが気付く。

リューは直感でこのキメラが『あの人』なのだと。

ガンマも気付き、レン達は消去法で青ざめたリューの顔を理解した。

 

「わざわざ追って来たわけか」

 

リューを追ってきたであろうキメラのしつこさ。

レンは目を細め、怯えるリューを見遣る。

 

「リュー、お前に任せた」

『……!?』

 

リューだけでない。

レンの指示に一部を除く誰もが驚く。

誰が考えてもこの場でキメラの対処に適していないのはリューだからだ。

だが、それは子供の考え。

レン(大人)は違う。

 

「いいか?お前は冒険者だ。冒険者はトラウマを抱えると強くはなれない。俺は冒険者のお前が欲しくて眷属にした。だから、こんなところで挫けられると困る。ここまで解るな」

「……はい」

「別に虐めじゃない。お前には乗り越えて欲しいんだ。このトラウマを」

「乗り越える…」

「リュー。戦え。その先でならお前はもっと強くなれる」

 

それは一途な願い。

主神だからこそ願う子供の成長だ。

リューは暫く考え、震える足で前に踏み込む。

 

「……私がやります。私にやらせてください」

「あぁ」

 

キメラに怯える心は変わらない。

だが、レンの言葉にリューは答えたかった。

諦めていた冒険者の職に、この世界に自分を導いてくれた彼に恩返しをしたい。

その為に彼の求める強さを掴み取らなければいけない。

なにより、いつか聞こえた旧親友(アリーゼ)の声に応えるためにも。

 

「俺も手伝う」

「ガンマ…」

「俺も答えを知りたい。リューが教えてくれ」

「はい。その為にも奴を――」

「――あぁ、倒す」

 

狙撃銃(ライフル)を手に構えるガンマ。

小太刀を握りリューにレンはこの場を二人に任せて先を急ぐ。

当然キメラが邪魔をしようとするが、疾風が走った。

 

「はああ!!」

 

『ムウウウウウウウウウウウウウ!』

 

「今だ!行くぞ!」

 

リューの打撃によりキメラの動きが止まる。

その隙にリュー、ガンマ以外はキメラをくぐり抜けた。

 

『ムウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ――!』

 

敵を逃がしたことに激昂するキメラ、しかしリューを見つけると闘気を露わにした。

対するリューも戦闘に集中する。

ガンマは後方に下がった。

 

「一緒に戦おう」

「はい」

 

すれ違いさま、頷き合う二人。

リューは攻め、ガンマは狙いを定めた。

 

『ムウウウウウウウウウウ!』

「くっ…!」

 

キメラの打撃、長い腕によるリーチがおのずと攻撃範囲が広くなる。

リューはそれをかろうじて躱すが、追い討ちをかけるようにキメラはもう一方の腕を振るう。

 

『ムウウウウウウ!』

「……ッ」

 

避けきれない、と判断したリューは防御に移ろうとしたが、腕は銃弾に弾かれた。

ガンマだ。

 

「感謝します!」

「敵の動きは封じる。オメガもやってた。任せろ」

 

暗に攻撃に集中しろというガンマにリューは頷く。

ガンマが敵の攻撃を削いでくれるのならばそれは大きなアドバンテージになる。

未だ恐怖があるリューにとってマトモな戦闘はできない。

故に攻撃と防御、どちらかが無くなることは集中しやすくなり動きやすい。

 

「はあ…!」

 

『ムウウウウウウウ』

 

小太刀による斬撃はキメラに防がれる。

だが、その防御も援護射撃によって崩された。

 

『ムウウウウウウウウウウ!?』

 

ガンマの狙撃に驚愕を隠せないキメラ。

リューはガンマが作ってくれた隙を無駄にはしない。

柱を足場に加速し、キメラの片腕に斬撃を与えた。

 

『ムウウウウウウウ』

 

「浅い…!」

 

手元の小太刀を見る。

マリウスとの戦争遊戯(ウォーゲーム)から帝国での戦いの間ずっと酷使してきた二対は明らかに劣化していた。

これは一度鍛冶師に見せなければいけない――そう思いながらリューは駆ける。

キメラの攻撃範囲に威力までもが脅威な状況下で動きを止めるのは自殺行為に等しい。

リューは動き続け、どうするか考える。

小太刀ではダメージが浅い。

いくらガンマが隙を作ってくれるからといって悠長に攻撃していられる程余裕もない。

キメラも次第に弾速に慣れてきているからだ。

キメラの対応力ならばガンマの狙撃にも対応できるようになるのは時間の問題。

それをさせまいと動くのがリューの役目だが、小太刀では間に合わない。

リューは悩み、それでも止まるわけにはいかないのでキメラに斬り掛かる。

 

「はあ!」

 

『ウウウ!――ムウウウウウウウ!』

 

「くっ……!やはり!」

 

ガンマの銃撃に気を取られていたキメラを斬ったが、やはり浅い。

キメラの巨大な体躯に分厚い肉は小太刀の刀身では届かなかった。

時間が経つ事にキメラが慣れ、形勢が変わっていくことにリューは焦りながらふとレン達が去っていった方を見遣る。

 

「……あれは」

 

通路の入口にリューはあるものを捉えた。

それは地に刺された一本の刀だ。

まるでこれを抜けとでも言ってるかのように刀はそこにあった。

 

「ガンマ、少しだけ時間をください!」

「分かった」

 

『ムウウウウウウウウウウ!』

 

悩んでいる暇はない、とリューは刀の元へ一直線に向かう。

キメラが後を追って来たが、ガンマの狙撃で怯んだ。

心中でガンマに感謝し、リューは刀の(つか)を掴む。

力を込め、引き抜いた刀はリューの腰くらいまである太刀だった。

 

「思いの外、軽い…?」

 

刀身は70cm程だろうか。

その割には軽いと感じたリュー。

刃には『蒼雲(そううん)』と刻み込まれていた。

 

「聞いたことのない刀……ですが、これは」

 

軽く振ってみて分かる。

刀身に比べて軽いせいか、扱い易い。

耐久性はこついてみたが悪くないだろう。

リューは蒼雲を手に地を蹴る。

 

「一緒に戦いましょう」

 

相手は『あの人(トラウマ)』。

それに立ち向かう為にガンマに背中を任せ、蒼雲と駆ける。

小太刀をしまい、武装を蒼雲に変えたリューは蒼雲と共にトラウマを乗り越えることを決心した。

 

「ああああああああああああああああ!!」

 

激昂し、キメラに向かうリュー。

キメラも気付き、腕を振るうがリューは加速し、腕を斬り落とした。

 

『ムウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ――!?』

 

「良い切れ味だ」

 

蒼雲の使い心地に満足し、リューは柱を蹴ってさらに加速する。

キメラのもう片方の腕も切り落とす。

 

『ムウウウウウウウウウウウウ!!』

 

「……ッ!」

 

両腕を失ったキメラは激昂し、球体となってリューに突っ込む。

リューはそれを蒼雲を盾に踏ん張った。

ステイタスに無理を言って全力で耐えるリュー。

やがて、ハード・アーマードのような回転突進はリューに弾かれた。

 

「はああああ!」

 

『ムウ!?』

 

球体を解除させられたキメラは驚愕する。

その隙をリューもガンマも逃さなかった。

 

「貴方を…超える!」

「標的捕捉」

 

『ボウッ!ボウッ!』

 

リュー、ガンマに火球を放つキメラ。

リューは両断し、ガンマは狙撃で相殺。

だが、ガンマの狙撃をコンマ間封じたキメラはフロッグ・シューターのような長い舌をリューに撃ち出した。

 

「貴方の舌を斬るのは二度目だ」

 

『ムウウウウウウウウウウ!?』

 

一閃。

長い舌をリューは切り落とす。

勢いのまま背後に回って柱を蹴るリューはキメラを後ろから攻めた。

迫るリューを察知したキメラはバットパットのような羽を広げ、背中を守る。

だが、その羽でさえリューは根から斬り落とした。

 

『ムキャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?』

 

悲鳴を上げるキメラ。

咥内から、肩甲骨から吹き出る鮮血に踠き苦しむ。

 

「そろそろ最終形態に入る頃でしょうか」

「多分」

 

リューの言ったそばからキメラの形状が変わる。

しかし、それはリューらが知るものではなく、下半身からモゴモゴと姿を表したのはインファント・ドラゴンだった。

 

「なんだあれは!?」

「寄生してる…」

 

ガンマの呟きにリューもまさかとキメラ・インファント・ドラゴンを見遣った。

確かに上半身のキメラは意識を隔離させていて、インファント・ドラゴンは操られているようにも見える。

 

「大丈夫だ。リュー。きっと俺達なら乗り越えられる。乗り越えた先にあるものを一緒に見よう」

「……はい」

 

ガンマの言葉に後押しされる。

後半はガンマの私情も入っているだろう。

それでもいい。

リューは蒼雲を握る手に力を込めて駆け出した。

 

「【今は遠き森の空】」

 

そして、詠唱を唱え始める。

速度は落とさないそれは『並行詠唱』だ。

 

『ムギャオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

キメラ・インファント・ドラゴンはリューを潰そうとその巨体を進める。

図体に似合わず、速い。

ガンマはそんなキメラに銃口を向け、進行を妨害した。

 

『ムギャオオオオオ!?』

 

「リューの魔法を受けろ」

「【無窮(むきゅう)の夜天に(ちりば)む無限の星々 。愚かな我が声に応じ、今一度星火(せいか)の加護を】」

 

銃撃で怯んだインファント・ドラゴンを超えるリュー。

キメラを斬りつけ、振るわれた尾を避けて背後に着地した。

さらに紡ぐ。

 

「【汝を見捨てし者に光の慈悲を。(きた)れ、さすらう風、流浪の旅人(ともがら)】」

 

『ムギャオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

キメラ・インファント・ドラゴンが火炎放射を放とうと咥内に熱を溜める。

だが、振り返った時にはリューの姿はなかった。

 

『ムウウギャウッ!?』

 

見失ったリューに驚愕と焦燥を感じるキメラ・インファント・ドラゴン。

見渡す限りにその姿を捉えられず、上を見遣るとリューはいた。

叢雲(そううん)の刃先を向け、降ってくる。

 

『ムギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』

 

「【空を渡り荒野を駆け、何物よりも()く走れ】」

 

リューを撃ち殺そうとインファント・ドラゴンのブレスを放つキメラ。

リューは轟炎に突っ込んだ。

 

「【星屑の光を宿し敵を討て】!」

 

身が焼かれる中、喉が張り裂けるが如く()えるリュー。

次の瞬間、インファント・ドラゴンの体内に何かが入り、爆発した。

 

「【ルミノス・ウィンド】――――――!!!」

 

『ムウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!』

 

「……ッ!」

 

凄まじい爆風、それとは別の暴風。

肌を焼く炎の旋風にガンマは目を庇いながら凝らした。

飛び散る炭はあの人(キメラ)のものか、モンスター(インファント・ドラゴン)のものか、塵となった全てか。

最後でないことを祈り、ガンマは顔を上げた。

 

「リュー」

 

ガンマの元に歩んでくる妖精(エルフ)が一人。

燃え盛る炎を後ろにボロボロになったリューが帰ってきた。

 

「おめでとう」

「ありがとうございます」

 

一瞬なんといったらいいのか悩んだガンマだが、素直に賞賛し、リューも礼を返す。

そんなリューの表情は何かから解放されたような一皮剥けたものだった。

 

「付き合わせてすみません、ガンマ」

「気にするな」

「……私は乗り越えられたでしょうか」

「少なくとも俺には辿り着いたように見える」

「そうですか。良かった」

 

リューが笑う。

炭で黒くなった顔はそれでも美しさを保ち、ガンマは彼女の笑顔を綺麗なものだと思えた。

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