罪を犯したエルフをファミリアに誘うのは間違ってるだろうか(凍結)(メインタイトル関係なし)   作:伊つき

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しばらく神の恩恵(ファルナ)のない時代の話になります。
世界観はダンまちだけどオリジナルに近いかもしれません。


第35話

1003年前。極東。

その日はずっと雨だった。

 

「雨…止まないな」

 

小屋の中から覗くように空模様を呟く少年。

地毛の黒髪に年相応の童顔、濁りのない黒い瞳が雨を映す。

少年の傍らで刀の研ぐ青年は少年の言葉を聞き、ふと窓の外を見た。

 

「お、ほんとだ。結構降ってるな」

「うん。多分今日は止まないと思う。ところで(じん)。その刀見たことないんだけど」

「あぁ。一昨日完成したんだ。名は『叢雲(そううん)』。ムラクモって書いて叢雲(そううん)だ」

「ふーん。ちょっと試し振りしてもいい?」

「いいぞ」

 

(じん)の作った刀、『叢雲(そううん)』を手にする少年。

鍛冶師の心得もある陣の作品は手に取ってみるとその巧みさを感じることができた。

 

「うわ、軽いし鋭い。それに丈夫そうだな…」

「ふっ。(れん)もそのうちこれくらいできるようになるさ」

「えぇ…陣のようにいくかなぁ」

 

(れん)。それが少年の名前。

一見純粋そうな彼は本当に真っ直ぐな性格をしている。

義兄である陣の刀をまじまじと見て練は溜息をついた。

 

「無理だよ。俺の作る刀っていつも失敗作ばかりだし、これまで作ってきたやつ全部父さんにダメだしされたから…」

「そうすぐ諦めるな。悪い癖だぞ?お前だってやればできる。いつも言ってるだろ。鍛冶において大事なのは気持ちと我慢だ。お前はいつも武器が完成するのを待てずに早く切り上げちゃうじゃないか」

「だって…熱いし…」

「お前それ言ってたら鍛冶向いてないぞ…?」

 

陣が呆れたように溜息をつく。

練は分が悪そうに視線を逸らした。

 

「あ、暑いのは苦手なんだよ。俺冬肌だから」

「お前寒いのも苦手じゃないか」

「うっ」

 

痛いところを突かれ、顔を顰める練。

そんな練に苦笑いしながら陣は叢雲を鞘に収め、立ち上がった。

 

「さて、そろそろ夕暮れ時だ。父さんも帰ってくる。リビングに戻るぞ」

「わかった…」

「なんだ?もしかしてしょげてるのか?」

「しょ、しょげてない!」

「まあ苦手なものは仕方ない。克服していけばいいさ」

「に、苦手じゃないし!」

「ははは。まあそういうことにしておくか!さ、ささっと行った行った。今日の飯当番は(はな)だから美味いぞ!」

「わっ!?押すなよ!」

 

まるで本当の兄弟のように笑い合い、じゃれ合う練と陣。

廊下を移動してリビングまで行くと血の繋がってない弟妹達がいた。

 

「あ、おかえり。陣お兄ちゃん、練お兄ちゃん。ご飯もう出来てるよ?」

「ありがとう華。父さんは?」

「お父さんはまだ帰ってきてないけど先に食べていいって伝令係の人がさっき」

「そっか。じゃあ皆で先に食べてようか」

「うん…!」

 

花のように可憐に微笑む華を陣が撫でてやる。

陣はこの義兄弟妹(ぎきょうだい)の中でも最年長で、『父さん』と唯一血が繋がっている実の息子だ。

練や華、他にも弟妹(きょうだい)がいて彼らは言わば孤児。

『父さん』が拾ってきた子供達。

練は赤ん坊の頃から捨てられていて、小さい頃から陣と共に過ごした唯一の義兄弟。

華は五歳の時に山奥で傷だらけになって捨てられていたところを拾われた。

そして、他にも兄弟はいる。

 

「ねぇ、まだ~?あたしお腹ぺこぺこ~!」

「ちょ、ちょっと待ってね、杏葉(あずは)!今並べるから!」

 

食卓で既に待機中の少女、杏葉。

天真爛漫な性格によく揺れるポニーテール。

とても元気溢れる女の子だ。

 

「こら杏葉。華を急かすんじゃない」

「ぶー。だってー…」

「華が頑張って作ってくれたんだぞ?文句を言うなら杏葉の飯は抜きだな」

「え!?それはダメ!ごめん陣兄ぃ!謝るからご飯抜きは勘弁…!」

「謝る相手が違うぞ、杏葉」

「うっ…ごめん。華」

「う、ううん!大丈夫、気にしてないよ?」

 

華に謝る杏葉と必死に気にしてないと手を振るう華。

反省した杏葉は華への謝罪の意味を込めて食卓に食事を運ぶのを手伝い始めた。

 

「無理して手伝わなくていいよ?杏葉」

「ううん。無理なんかしてない。さっきはごめんね?華」

「もう…気にしなくていいのに」

「あたしが気にするの。…ふふっ」

「あははっ」

 

仲直りして仲良く微笑み合い、一緒に準備をする華と杏葉。

陣は満足そうにその様子に頷いて彼女達を手伝った。

練は他の兄弟の元にいく。

ソファーで居眠りしていた男の子を起こした。

 

「おーい、(りゅう)。ご飯の時間だよ」

「んっ……もう、そんな、時間?」

「うん。だから起きて」

「……わかった」

 

揺らされて身を起こす劉。

眠たげに瞼を擦って鼻をひくひくと揺らした。

 

「あ…良い…匂い…」

「今日は肉じゃがだってさ」

「それ…最高…」

「だね」

 

相変わらずの劉に苦笑いする練。

劉は路地裏で死にそうなところを助けられた孤児だ。

口数はそう多くない方だが、素直ないい子。

劉を起こした練は次にリビングから繋がっている個室の扉をノックする。

中では荒い呼吸音が聞こえた。

どうやらトレーニングをしているようだ。

 

「まだやってるの?(ごう)

「あ、練兄貴。もしかして、ご飯の、時間?」

「うん。だからもうトレーニング止めようか。うるさい」

「わ、わかった…むぅ、足りない…」

 

不満そうな表情ながらも渋々と身体に流れる汗を拭く剛。

剛は両親から虐待を受けていたところを孤児院に救われ、その孤児院から引き取られた。

何故か漢気があり、『父さん』の鍛え上げられた筋肉を見てから筋肉質な肉体に憧れてしまった男の子。

練は残念なものを見る目を残して隣の部屋もノックした。

 

(しゅう)。入るよ」

「んあ?練兄ちゃん?」

「修も寝てたの?」

「いや…えっと…トレーニングしてた」

「なんでそこで素直になれないの…。普通に寝てたって言えばいいじゃないか」

「なんか、条件反射で」

「はぁ…。まあいいや。とにかくご飯食べよ」

「りょーかい」

 

修。

練を除けば弟妹達の中で最年長になる男の子。

どうも素直になれず、好きなものは嫌いと嫌いなものは好きと言ってしまう。

修はここにいる孤児の中で一番悲惨な過去を持っている。

 

それは怪物(モンスター)。もう随分と昔に地上に開けられた大穴から出没した怪物。

今はその穴を白亜を衝く摩天楼を建築し、封鎖しているらしいが地上に放たれたモンスターは少なくなく、修はその被害者となった。

両親がモンスターに襲われ、修は間一髪のところで両親に逃がされたらしい。

そこから孤児となり、拾われて今は練達の元で兄弟として幸せに暮らしている。

 

「それじゃ」

『いただきます!』

 

陣を筆頭に幼い子供達が手を合わせて恒例の言葉を言う。

生き物の命を奪って頂く食材に感謝を込めていつも言うのだ。

極東ではあまり前の風習で、練達はいつもしている。

食事を進めていき、時折華を褒めては和気あいあいと卓上のものを全て平らげていく兄弟妹(きょうだい)達。

食べ終わった頃に屋敷にある人物が帰ってきた。

 

「よぉ、ガキ共。元気にしてるか」

『父さん!』

『お父さん!』

 

義理の父親、陣にとっては実の父親の帰宅。

伸びきった白髪にシワのある顔、強面なのに子供達に対して優しい表情をする彼こそが孤児達を拾った張本人だ。

名をオールベルク、彼は帝王が支配する『帝国』出身で今は極東の政府組織に仕えている。

 

「飯は食ったか?」

「あぁ、皆食べたよ。後は風呂に入って寝るだけだ」

「そうか。悪いが風呂は後だ」

『……っ!』

 

オールベルクの言葉に子供達全員が緊迫した空気になる。

彼等は知っている。この後何を言われるかを。

いつものこと。いつもの『伝令』がくる。

練達は大好きな父の次の言葉を待った。

 

「仕事だ」

 

その一言で確信に変わる。

陣も練も修、劉、剛、華、杏葉全員がさっきまでの日常の顔を捨てて真剣な表情になった。

それは()()さえも感じさせる。

 

「やることは分かってるな?俺はただお前らを食わせるためだけに、善意でお前達を拾ったわけではない。これについてはお前らも承諾した筈だ」

「あぁ。父さん、皆分かってる。覚悟もずっと前から出来ている。毎度同じことを尋ねなくたって俺達はやれるよ。この子達を見くびらないであげてくれ」

「そうか。すまない。陣がそう言うなら前置きはなしだ。お前達、今日の標的を発表する」

 

一同気を引き締めて待つ。

これが彼等の日常。

『標的』とは、文字通り殺しの対象だ。

オールベルクは孤児達を引き取る代わりに彼等を暗殺者へと育て上げた。

もちろん本人達の承諾は得た上のことだ。

オールベルクが孤児を拾う時、いつも呼び掛ける。

 

『衣食住なら腐るほど与えてやる。だが俺の元に来るならその分きっちり働いてもらう。それが条件だ。付いてきたいやつだけ付いてこい』

 

その言葉に付いてきた者達が修達だ。

修はすぐに彼の手を取り、剛は孤児院の子供達を掻き分けてその手を掴んだ。

そういう経緯を経て修達はオールベルクの暗殺者として活動している。

『標的』は国に仕えるオールベルクの敵、すなわち反逆者達。

国に対してクーデターやテロなどを起こす過激な反逆者達を制圧する手伝いが陣達の仕事だ。

闇に混じりて反逆者を殺す。

暗殺者のオールベルクに教えこまれた技術を駆使して暗殺者として活動するのだ。

そんな彼らの『標的』をオールベルクが発表する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう夜も更ける頃、闇夜に混じって影が蠢く。

今の極東の大政に反旗を翻すものたちの集まりが一本道を進んでいく。

全員で四人、一般人を装って酒を飲み合いながら歩いていた。

陣を筆頭に練達は屋根上を音もなく『標的』の跡をつける。

 

「護衛が三人いる。隠れているが見つけた。俺の指示に従って『標的』を確実に仕留める。いいな?」

「……了解」

 

陣の言葉に練達が息を潜めて頷く。

陣の指示を受け、練達は散開した。

練と修、剛と杏葉、劉と華で分かれて動く。

陣は一人身を潜めて待機した。

練達が護衛を仕留め、相手の気を引き、陣が背後から襲撃する戦法だ。

 

「よし、行け」

 

指示通りに練と修は屋根上を伝い、練が静かに護衛の男の背後に降り立つが気付かれる。

 

「貴様何奴――んんっ――!?」

「今だ!練兄ちゃん」

「あぁ」

 

練に気を取られて背後に時間差で降りた修に気付かず声を出さないように布を噛まさせられる。

修に固定され抵抗できない男は抜刀した練に貫かれた。

 

「ごめんなさい」

「こど…も…?うっ!」

 

驚愕を残してこの世を去った男の亡骸(なきがら)を練と修は陣の指示通り静かに動かす。

他二名の護衛も同じように暗殺された。

男は剛の襲撃を避けたところに華に刺され、女は杏葉の双撃を躱して劉の矢で射抜かれた。

護衛の始末を成功した練達は作戦通りに護衛だったものを『標的』の前に投げ捨てる。

 

「なっ…!?」

「襲撃!?いつのまに…!」

「子供…?」

「ひいっ!」

 

塀の屋根上に姿を現した練達に襲撃を察した『標的』の男達だが、気付くには少し遅かった。

既に練達に視線を釘付けされている彼らの背後から陣が迫っている。

突然の襲撃に陣形も形もない隙だらけの『標的』達を陣は容赦なく抜刀する。

 

「悪いな」

「あ…えっ――?」

 

一人背後から刀を振るう。

突如絶命した仲間を目にし、さすがの『標的』達も陣に気付いた。

 

「う、後ろだ!」

「もう遅い」

 

陣に驚いて態勢を崩した男を斬る。

自衛用の刀を抜いてきた他二人だが、剣術も型もなにもない斬撃を陣は余裕を持って避け、また一人命を絶った。

最後の一人も『技』のない剣に陣は焦ることもなくトドメを刺した。

『標的』は全滅。

仕留めきった陣は叢雲についた血を振り払い、納刀する。

 

「陣、やったね!」

「あぁ」

 

手を挙げて笑顔で近付いてきた練にハイタッチを返す陣。

だがその表情は達成感というより曇っていた。

 

「?どうしたの陣。標的を全部倒したのに嬉しくなさそう」

「練。勘違いするな。殺したことを喜ぶのは異常だ。俺は一度もお前らの前で喜んで人を殺したことはない」

「そ、そっか…ごめん」

「いや、いいさ。一ついいことを学んだな」

「うん!……それでどうかしたの?」

「いや…」

 

次男だからと滅多に撫でられない頭を撫でられはにかむ練がすぐに心配そうに陣の顔を覗く。

陣は苦笑いしながら首を振った。

 

「なんでもないよ」

「もしかして陣兄ちゃん…任務嫌なのか?ごめん…ほんとは陣兄ちゃんまでやらなくていいのに…俺達の為に…」

「そうだね…陣兄ぃは私達だけじゃ辛いだろうからって任務を手伝ってくれてたんだったね…。ごめん陣兄ぃ私達のせいで」

「こらこら勝手に決めるな。別にお前らのせいじゃないし、父さんの息子である俺ならどうせこの道を辿ってたさ。だから気にするな。な?」

「そっか…そっか!そうだな!」

「陣兄ぃ好き!」

「おっと。ほら、まだ任務は終わってないぞ。片付けをしないとな。このまま放置は不味い」

『はーい』

 

陣の言葉に笑顔で応じる子供達。

陣はこの光景を異常だと思った。

自分たちで殺した相手の死体を慣れた手つきで運んでいく。

こんなにも幼い子供達が、だ。

今更何をと言われるかもしれないが陣はここ最近現状に不安を抱えていた。

本当にこれでいいのかを。

陣は一人考え込み、立ち止まっていた。

 

「あ、陣兄ぃサボってるー!」

『ホントだ。ずるーい!』

「あぁ…すまんすまん。今やるよ」

 

いつの間にか思考に浸かりすぎていた陣は我に返って弟妹達の元へ向かおうとする。

だが、視界の端に路地裏への暗い道で燃え盛るような紅い髪が入ってきた。

あまりに目を奪われるその美しさと炎に陣は振り返った。

 

「……」

「……っ!誰だ…!」

 

一瞬気を奪われた。

あまりの美しさに突如現れた紅髪の女性を警戒するのが遅れてしまった。

今のが殺し合いならば陣は間違いなく初手に負け、死んでいただろう。

だが、陣が構えるまで紅髪の女性はなにもしてこなかった。

――敵じゃない…?

女性から感じる覇気は強者であることを表している。

おそらく陣よりも強い。

だというのに女性は動かなかった。

陣は不思議に思い、敵ではないのかと警戒は解かずに問うてみる。

 

「君は何者だ」

「……」

 

答えない。

陣さえも驚く程の美形は眉すらもピクリとも動かない。

しかし、彼女に手にぶら下がる紅い剣先から一滴の血が垂れると陣は敵と判断した。

オールベルクから政府側の味方の顔は殆ど見せられているが彼女程美しい女性は見たことないからだ。

 

「敵か」

「今はな」

 

燃える炎のような紅髪に負けない赤色の唇が僅かに動く。

やっと喋った。

たった一言。それだけでも魅了されてしまいそうな程凛々しく美しい声音だ。

 

「今は……ってどういうことだ」

「お前には迷いがある」

「なに?」

「本当にこのままでいいのかと。あの子供達の未来を心配している」

「……っ!何故それを…!」

「いつか真実に気付く」

「なっ…待て!」

 

背を向けてしまう紅髪の女性を陣は呼び止める。

女性は足を止め、紅髪をなびかせて振り返った。

 

「また会える」

「なに…?」

「もう一度この国に目を配らせろ。お前はこちら側の人間だ」

 

それだけ言い残すと紅髪の女性はまた背を向けて歩み始める。

 

「ま、待て…!どういうことだ!おい!」

 

陣は必死に制止したが、女性は暗闇の中へと消えてしまった。

追いかけても見失う。斬り掛かっても負ける。

それを理解している陣はただ彼女の言葉を頭の中で繰り返し、困惑する。

 

「なんなんだ…一体…」

 

謎は解けぬまま弟妹達に呼ばれた陣は彼らの元に向かうが、どうもあの女性がずっと引っかかり続けた。

練が何があったのか尋ねてくる。

 

「さっきから様子がおかしいけどどうかした?」

「い、いや…大丈夫だ」

「そう。無理しないでね、陣」

「あぁ…」

 

心配してくれた練に対して誤魔化してしまった陣は罪悪感を感じながらみんなの元に戻っていく練の背中を見つめる。

この時陣は何故か練が何処か遠くへ行ってしまう気がした。





ぶっちゃけまんま某漫画のパクリ設定です。
さらにぶっちゃけるとこの過去編はあまり重要じゃなく、二回目の過去編が最重要です。
あと二節くらいあとかな。
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