罪を犯したエルフをファミリアに誘うのは間違ってるだろうか(凍結)(メインタイトル関係なし) 作:伊つき
半蔵は音もなく伝える。
「オールベルク様。伝令でございます」
「……どうだ」
「陣様がオールベルク様の指示を無視して何者かと移動しました」
「あ?」
半蔵の言葉に眉を顰めるオールベルク。
半蔵は少し震えながらも伝令を続ける。
「追跡しようとしたところ……撒かれました」
「ちっ!『奴ら』か!」
オールベルクが悪態をつく。
半蔵の技量はオールベルクさえも認めている。
その上に忍者である彼を撒くなど『ブラッドスターク』の暗殺者以外に有り得ない。
反抗勢力の中で彼らだけが突出しているからだ。
使えない
「半蔵てめぇ…」
「も、申し訳ありません!!」
手で三角を作り、額を地に擦りつけて『土下座』の態勢を取る半蔵だが、オールベルクの機嫌はその程度では収まらない。
オールベルクは抜刀して半蔵の首を斬る。
「っ――」
「『奴ら』に対抗できねぇんじゃ意味ねぇんだよ。クソッタレ忍者が」
慈悲はなく、半蔵を簡単に殺してしまったオールベルクは唾を吐き捨てるだけで亡骸には目もくれない。
任務から離れ、陣の居場所を探った。
「何処だ…何処に逃げやがった…」
高い屋根の上に登り、辺りを見渡す。
オールベルクの身体に施された『人体改造』によって視力は化け物じみている。
陣を探すが、オールベルクが見つけたのは暗闇を駆ける眩しい『紅髪』だった。
「あいつは…」
この国で紅髪など一人しかいない。
オールベルクはニヤリと口を歪める。
「くくく…はははは!!思わぬ収穫だ!そうか!陣を誑かしに来たのはお前か…!」
『……っ!?』
狂ったように
振り返った時には狂気の表情が迫っていた。
「なっ…!?」
「ははははははははは!!待てよ!折角なんだからよぉ!俺と遊べよ【
「くっ…!あの屋敷からの距離を詰めるだと!?化け物め…!」
【
クレアの通り名または忌み名だ。
数百
もはや人間業ではないとクレアは冷や汗を流す。
「貴様!『人体改造』でどれほど狂った!?もはや人間ではないぞ!!」
「知ったことかぁ!俺は強えやつをぶっ殺せればそれでいい!」
「それの為に…。そんなことだけのために子供達を実験体として利用したのか!?」
「そんなことはどうでもいいって言ってんだろがっ!!」
「ぐあっ……!?」
腹部に強烈な蹴りを入れられるクレア。
一体何処からこれほどの
鉄球に殴られたが如く衝撃を受けたクレアは血反吐を吐きながら勢いに合わせて後退する。
腹を抑えながらも敵から目を逸らさぬよう顔を上げるクレアは蹴りに使ったオールベルクの足がねじ曲がっていたのを見た。
「まさか…肉体の無理を承知であの
「あぁん?ははっ!何勘違いしてやがる。無理なんてしてねぇよ」
「なっ…!?」
クレアは目の前の光景に目を見開いた。
オールベルクの捻じ曲がった足はみるみる元の形へと戻っていく。
あっという間に
「『人体改造』か…!」
「そのとおーり。よく出来ました」
「くっ…!」
驚異の自己治癒力。
国はどれ程の改造技術を隠しているのか、クレアは背に汗を流す。
他にも何を隠しているのか分からないオールベルクにクレアは撤退を考えた。
だが、オールベルクは歴戦の経験により得た直感で瞬時に察して距離を詰めてくる。
「おらぁ!!」
「ぐあっ…!」
風圧さえ起こす刀での回し薙ぎ。
クレアの抜刀した紅剣で防ぐものの威力に圧される。
またしても距離の空いた時をクレアは見逃さない。
抜刀した紅剣をオールベルクに向けて振り下ろした。
「あ?そんな間合いから振っても――ッ!これは…!」
「『
クレアが振るったのは魔剣。
魔剣、『紅蓮』。
迸る業火が砲撃となってオールベルクに向かう。
至近距離からの魔剣砲撃にオールベルクは防御態勢を取って後退。
クレアはその隙に逃げた。
「ぐぬうううううおおおおおおおおっ!!」
クレアが去ってからも収まらない火炎に圧されるオールベルク。
なんとか踏ん張り、両手を解放をして振り払った。
「はあっ!はぁ…はぁ…なんつー威力の魔剣だ…」
国の五代戦力に数えられるオールベルクですら防ぐのでやっと。
『人体改造』で身体をいじっていなければ今頃燃えカスになっていただろう。
それに魔剣の威力も本来ならあの程度では済まないことを察した。
あれよりもさらに上の魔剣がある、あくまでオールベルクの推測だが有り得る。
「まさかあの魔剣…」
息を荒らしながらオールベルクは魔剣にまつわるある話を思い出す。
極東――否、極東に限らず世界で最も有名な魔剣。
その名も――。
「『クロッゾの魔剣』だと…?」
この時オールベルクは【
だが、それより今優先すべきは『裏切り者』の抹殺。
「半蔵も言ってたが…これは『黒』だな」
最後に仕事をした半蔵に殺すのは早かったかと思ったが、どの道クレアに対抗できないのなら要らないという結論にたどり着く。
国が扱える忍びの中で至高のものを頂戴したつもりだが期待外れもいいところだ。
溜息と共にオールベルクは帰還する。
オールベルクより早く
まだ悩んでいるが、せめて疑いが晴れるまでは皆とオールベルクを隔離していたい。
もしオールベルクが『白』ならば全力で謝ろうと陣はこれからを考える。
自分の尊厳など落ちる所まで落として自分の独断だといえばもし『白』だった場合も処罰は陣だけで済むかもしれない。
オールベルクは怖いが、愛情もあると陣は思う――否、願っていた。
そして、いつもの屋敷に辿り着いた陣。
いつものように裏道を通って付けられないようにした後、門を潜った。
「ただいまー!」
オールベルクが先について何かされてないかを警戒するために敢えて声を張ってみる。
しかし、返答はなし。
屋敷内は異様な空気に包まれている。
「……なんだ」
警戒を強めて我が家に踏み込む陣。
我が家とは思えぬほど張り詰めていた。
そして、リビングに入ったところで――いた。
「父さん…」
「よぉ。陣、遅かったな」
オールベルクが先に着いていた。
最短ルートを選んだ筈なのに、オールベルクはそれより早い道を知っていた。
端から信用などなかったのだと陣はこの時知った。
少し裏切られた気分でオールベルクを睨む。
「おいおい、そんな怖い目で見るなよ。なぁ?お前俺の息子だろ?」
「あぁ…。なら父さん、なんでそんなに俺を警戒してるんだ。ただいまの挨拶くらい返してくれてもいいだろう?」
「はっ。抜かせ」
「――ッ!?」
刹那の切迫。
目の前に来るまで目視さえできなかった刀に陣も抜刀して防ぐ。
ギチギチと力負けを表す音を立てて競り合う刃に陣は顔を顰めた。
「なんで…」
「あ?」
「なんで…!」
力を込める。
それでもオールベルクには足りない。
負けている。
それでも陣は信念をぶつけた。
「なんで俺達を利用してたんだ!なんで酷いことするんだ!」
「あぁ?そりゃお前、『ウィンウィン』ってやつだろ」
「は?」
オールベルクが本気で何を言ってるのか分からない。
陣は首を傾げるが、オールベルクは口を歪めた。
「衣食住と満足のいく生活与えてやってんだ!多少の対価は払わねえとだろぉ!?ははは!『身体』でな!」
「お前ぇぇぇぇえ!!」
激情する陣は屈むことで斬撃を回避し、オールベルクの背後に回る。
オールベルク直々に叩き込まれた『技と駆け引き』がある陣はオールベルクに簡単に倒せる程ヤワではない。
オールベルクが先に回り込んでいたこと、言動から『黒』だと察した陣はオールベルクを敵と認識した。
しかし、オールベルクに向けて振るった刀は見覚えのあるナイフで止められる。
「なっ…!?」
後退する陣は共に目を見開く。
オールベルクを守るように修、剛、華、劉、杏葉が立ち塞がる。
明らかに陣への敵意を抱きながら修達は武器を構えていた。
「皆どうして!?」
「うるせえ!この裏切り者!父さんに対する恩を忘れたのか!」
「さいってい!いくら陣兄ぃでも許さない…!」
「父さん…俺達を救ってくれた…なのに…どうして…」
「寄せよ劉。陣兄貴は本当の子供だから俺達の気持ちなんて分からないんだ!」
「違う!そんなことはな――」
剛の誤解を解こうと否定する言葉を伝えようとした陣だが、華が泣いていることに気付く。
悲しげに武器を構えながら涙をいっぱい流していた。
「ね、ねえ…陣お兄ちゃん…どうして?どうして裏切ったの…父さんがとてもいい人なのは陣お兄ちゃんが一番知ってる筈なのに…」
「華…。違うんだ、話を聞いてくれ」
「陣お兄ちゃんは『わるいひと』に操られたの?だから、恩を仇で返すの?私達を見捨てるの?」
「なっ!?そんなわけ――」
「そうか!そうだよ華!陣兄ちゃんはきっと『わるいやつ』に操られたんだ!もう俺達の陣兄ちゃんは返ってこない…。俺達が殺さなきゃ!」
「そうだな。陣兄貴は俺達の手で解放する!」
「陣兄ぃのためにも…!」
「ま、待て!何故そうなる!?」
陣は混乱する。
同時に理解した。これが『洗脳』だ。
孤児達はオールベルクに既に侵されている。
これまでの環境という毒に侵食されてしまったのだ。
彼らの脳はもはやどう転んでもオールベルクや国の思惑通りにしか働かない。
そういう風に仕組まれてしまった。
陣は絶望し、激しい憤りを感じた。
オールベルクを怒気を込めて睨む。
「オールベルクゥゥゥゥウーーー!!」
「……」
殺意を再び纏い、戦闘態勢に入る。
修達も武器を構えるが陣の頭の中では戦闘不能にしてオールベルクとの戦いに専念し、意地でも勝って皆を連れて逃げる。
その後は洗脳が解けるまで必死に説得し続けようと――例えそれが何十年必要だったとしても――そこまでシナリオを考えて必ずそれを辿ろうと決意した。
練がいない事が気掛かりだが今気にしてもどうしようもない。
それに、オールベルクを相手に考え事をしている余裕はない。
技量の絶対的な差は理解している。だからこそ、陣は死ぬ気で吠えた。
「あああああああああああああああああああああああああああ……!!!」
この時オールベルクはただ呆然と茶番を見届けた後、抜刀した。
任務から帰った練は我が家の異様な空気に気付く。
陣同様兄弟として鍛えた警戒心を抱きながら門を潜った。
「ただいまー…」
呼び掛けるが誰からの返答もなし。
気色の悪い静けさだけが充満していた。
「誰か…いないの?」
刀の鞘に触れながら一歩一歩慎重に進んでいく練。
リビングに辿り着いたところで目を見開いた。
「これは…!!」
目の前に広がる光景は血と肉のバイオレンス。
昨日まで幸せの象徴だったリビングは愛する弟と妹の生首とバラバラにされた身体、そこから吹き出たあるいは溢れ出たであろう血液によって汚れていた。
目に映る光景全てが『赤』。
既に絶命した者達の中で陣だけが一人、真っ赤に染まって座っていた。
しかし、様子は変でまるで魂が抜けたかのように黒くてよく見えない目元は天井をただ眺めている。
「あぁ…あぁ…ああああああ!?!?」
言葉にならない絶望に脳内が追いつけず、絶叫する練。
暫く呼吸を荒くした後、とにかく感情を目先の陣にぶつける。
今は血液の海となった愛する
練も血でぐっしょりと濡れながら陣に掴みかかった。
「これは一体……これは一体どういうことだ……!陣!」
「……練」
怒号と共に呼び掛けると陣は虚ろな目で練を見る。
練が責め立ててきていると察した陣は意識を覚醒させて逆に掴み寄ってきた。
「違う…違うんだ…!」
「!?」
およそ正気ではない切迫した表情に練は驚愕し、息を呑む。
愛する兄弟として練は最後の優しさで話を聞いてやることにした。
自分を落ち着かせながらもゆっくりといつものように優しく問いかける。
「陣…なにがあったの?」
「……さんが」
「え?」
よく聞こえない、と練が顔を顰める。
陣は震える身体を押さえつけて声を張り上げた。
「父さんが修達を殺したんだ!!」
「……は?」
練は自分の耳を疑う。
だが、目の前で、最も信頼していた陣の表情から嘘はついてないことくらい暗殺者の経験上からも、兄弟として育んだ絆からも理解できる。
故に練は頭の中が真っ白になった。
同時にこれはナガト・練という