罪を犯したエルフをファミリアに誘うのは間違ってるだろうか(凍結)(メインタイトル関係なし)   作:伊つき

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長いです。
厨二要素が少しあり、出すか悩んだのですが4話と9話の伏線回収のために出しました。
意味わかんねえ…ってなった方はとりあえずオールベルクやべぇと思っていただければ大丈夫です。


第38話

「嘘だ…」

 

現実を受け入れることができない。

当然だ、練を拾って育ててくれたのも、修達を孤児の身から救ってくれたのも全てオールベルクのおかげなのだ。

そのオールベルクが修達を殺すわけがない。

練は信じれず、首を振り続けた。

 

「そんなの…あるわけ…」

「現実を見ろ!練!」

「……っ」

 

陣に両肩を掴まれて切迫される。

彼の表情はとても酷い。

練は長年陣の弟をしたから、彼の苦しみを理解した。

涙が頬を伝う。

 

「陣…父さんは…なんで…」

「俺達を…。俺達を利用してたんだ。修達はただの『実験体』だったんだ!父さんが、オールベルクの『人体改造』を成功させるために修達は実験体にされたんだ…!」

「なっ…」

 

練にも思いあたる節があった。

練の身体にも『人体改造』が施されている。

だが、練に自身にもその詳細が伝えられていないほど大した成果は得られなかったらしい。

当時練はそれがオールベルクのためにならなかったと悔やんだが、今になってそのことに心の底から感謝した。

 

「かん、しゃ…?」

「練?」

 

練が自身の感情の変化に気付き始める。

そう、もしも練が修達のように洗脳されていたのなら『人体改造』が成功しない時点で自身を責め、今でさえ悔やんでいた筈。

でも感じる感情はただ良かった、成功しなくて助かった…そんなものだ。

練は知らぬ間に『人体改造』『人体実験』は悪だと認識していた。

 

「陣…」

 

正気になった練は陣と目を合わせる。

 

「そうだ…ずっと、ずっと前から何かがおかしかったんだ。俺達は異常だったんだ…。あれが日常だったから、俺達はいつの間にか誤魔化されていたんだ。陣、『人体改造』や『人体実験』なんて正気じゃない。オールベルクは…この国はイカレてる…!!」

「れ、練…お前…!」

 

練は陣が説得せずとも自身で気付いた。

彼だけは洗脳が薄いから。

オールベルクの悪業に、日常の異常に気付いた。

『普通』ではないと練だけが。

 

「陣。修達は……捨駒だったのか」

「……多分。俺達も」

「そうか…」

 

初めからオールベルクに愛情などない。

『実験体』ついでに駒として利用されていただけだった。

だから、こうも簡単に切り捨てられる。

陣と練は修と華、剛、劉、杏葉のグロテスクな亡骸を見て思う。

そして、次に湧き上がるのは憤り、怒り、憤怒。

兄としての弟と妹を殺された復讐心だ。

 

「練」

「あぁ」

「二人で殺ろう」

「うん。仇を取ろう」

 

兄弟は頷き合い、決意する。

互いの刀を装備し、練は義理の父親を、陣は実の父親を殺そうと立ち上がった。

もはや慈悲などない、愛などない。

オールベルクは親ではなく憎き敵。

復讐の対象。

短い人生で磨いた殺しの術の全てを、それを育てた強者の為に振るおうと二人は決めた。

修達を殺し、陣を見逃して去っていったオールベルク。

まずはその足取りを追わなければいけない。

 

「アテはあるの?」

「正直ない。だが――」

 

練の問いに陣は首を振るが、極東の地図を広げて口角を上げる。

 

「俺達にはオールベルク(あいつ)から教わった捜索術がある」

「……そうだね」

 

陣の言葉に頷く練。

彼らには一流の殺し屋としての実力がある。

故にオールベルクの足取りは暫くすると掴むことができた。

 

 

 

 

 

ある屋敷、おそらくオールベルクが『任務』をこなしただあろうそこにオールベルクはいた。

案の定任務を終えた彼は立ち去ろうとする。

 

「……誰だ」

 

だが、屋根裏に気配を感じてすぐに敵意を纏い直した。

刀は鞘に収めずに天井を睨む。

それと同時か、屋根が壊れ二つの影がオールベルクに斬り掛かる。

 

「死ねっ!」

「覚悟…!」

「やっと来たか」

 

叢雲(そううん)』を手に振り下ろす陣、陣の作品()『朝嵐』を振るう練。

共にオールベルクに襲い掛かったがオールベルクは難なく防いでみせる。

予測済みだった二人は刀を捨てて懐に着地し、新たな刀を抜刀した。

 

「せりゃっ!!」

「ちと重い…『狐ヶ崎』か!」

 

陣の斬撃を防ぎ、持ちこたえるオールベルクは確かな重みに少し苛つく。

オールベルクも知っている陣が鍛冶した刀、『狐ヶ崎』。

刀身78.5で、少し重いが耐久性に関しては陣の作品の中でずば抜けている太刀だ。

故に一撃に力と重みが乗り、一撃はかなりの必殺になる。

しかし、オールベルクに対して武器の性能を上げようと陣の技量が相まってない。

少々重圧をかけたもののオールベルクは難なく受け止めてしまった。

だが、()()()()()

陣がオールベルクを繋ぎ止めている刹那の間、練はオールベルクに肉迫した。

 

「あああぁぁああっ!!」

「ぐおっ…!?」

 

オールベルクの腹部を斬り裂く練。

そのまま後方へ回り、背後から刀を振るう。

だが、オールベルクも見えきったそれを受けるほど甘くはない。

陣との形勢を逆転し、片手で掴む太刀で押さえつけて、もう片方の手で抜刀した太刀で練の斬撃を防ぐ。

練との技量の差は歴然で片手だけで一瞬にして練が耐える側になってしまった。

 

「おらおらぁ!どうした…!その程度か!?あぁん!?」

「うっ…ぐっ…!」

「なんて…馬鹿げた技…と力だ…!」

 

練と陣はあっという間にただ堪えるだけの立場となった。

力を抜けば身を両断されてしまう二本の太刀をそれぞれ刀で防ぎ、耐える。

どうにかして形勢を逆転したいが、圧倒的な技量の差がそれを許さない。

ギチギチと迫られる中、練と陣はしきりに力を込めた。

 

「ぐあっ…!あああぁぁああっ!!」

「ああぁ…!うああああああっ!!」

「諦めろ!てめぇら如きじゃここで潰されるのが関の山だ!」

 

オールベルクの言葉に練と陣が顔を顰める。

彼らとて力量差は理解している。

それでも譲れない思いが二人を奮え立たせた。

 

「うぐっ…!あぁ…!」

「練…!」

 

陣より練の方が圧されている。

このままでは練が死んでしまう。

練の持つ刀は『千夜(ちよ)』――黒い刀身でこれも陣の刀だ。

だが、耐久性も軽さも特に特別な面を持たない刀といえる。

そんな平凡な得物と陣に劣る練のポテンシャルではオールベルクに力負けするのも頷けた。

自分が、自分がここで練を解放しなければ――陣は自らを追い込んで雄叫びを上げる。

 

「おおおおおおぉぉぉぉぉぉおおお……!!」

「ちっ…!めんどくせぇ!」

 

陣がオールベルクを気合で押しのけて練の元に回る。

オールベルクの太刀を斬りあげて、練と共に距離を取った。

 

「大丈夫か!練」

「腕が痺れる……けど、大丈夫」

「そうか…」

「使えねえガキのくせに手間取らせやがって…」

 

舌打ちするオールベルクの様子は余裕そのもの。

奇襲は失敗、陣が恐れていた真っ向勝負の形が出来上がった。

対峙する恐怖がありながらも練の兄として自らに気合を入れる陣。

 

「……行くぞ。練」

「うん」

 

頷き合うと二人は吠えた。

 

「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーー!!」」

「うるせぇ小虫共が。蹂躙してやる」

 

狐ヶ崎と朝嵐を手にオールベルクに斬り掛かる練と陣。

二人は自身の持つ剣術の全てを操りぶつけたがオールベルクには掠りもしない。

全て防がれ、ところどころ反撃や打撃を受けた。

 

「ぐうっ!」

「あぐっ…まだだ!」

「しつけぇ」

「がっっ!?」

「陣…!」

 

特攻覚悟で突撃した陣だが、自身の傷を省みないどころかオールベルクに捕まってそれすらできなくなる。

首をとてつもない(パワー)で締め付けられ、足が床から離れるのを感じる。

陣は苦痛で顔を歪めながら抵抗するが全く意味を為さなかった。

 

「陣!くそおおおおおおお!!」

「よ…せ…れ、練…」

「はっ」

 

狐ヶ崎を落としてしまう陣。

苦しむ陣を解放しようと駆ける練だがオールベルクは口角を上げる。

 

「はあっ!」

「効かんな」

「なっ――」

 

練の斬撃をオールベルクは片手に持った太刀で防ぎ、器用に操り練の腕から朝嵐を叩き落とす。

陣は捻り潰されそうな首を掴まれたまま何とか抜け出そうとするがオールベルクに振り回されるだけ。

隙の空いた練の顎部分をオールベルクは『人体改造』で手に入れた異常な力(ハイパワー)で膝蹴りをぶち込んだ。

 

「あがっ!?ぐがああああっ!!」

「おらぁ!!」

「――っ」

 

練が顎が外れてよろめいている間に陣は叩きつけられる。

そして、太刀で床ごと貫かれた。

 

「ごふっ……!?」

「荒れろ」

 

そのまま抉る。

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっ!?!?」

「はは、汚ぇ声で鳴くじゃねえか」

「てめぇ…!陣にな…何するんだ!!」

「うるせえよ」

「ごはっ!?」

 

上手く話せないながらも陣を助けようと斬り掛かる練だがオールベルクに蹴り飛ばされる。

蹴りは簡単に懐に入って圧倒的な(パワー)に練は壁に滅り込む。

それを見た陣は叫んだ。

 

「れ、練…!ぐっ!ぐおおおおおおおあああああっ!!」

「あぁ!?」

 

練を助けるために陣は自身を省みず貫かれた身体を無理矢理動かす。

血飛沫(ちしぶき)が舞い、肉が抉られるが陣は痛みを堪えてオールベルクを殴り飛ばした。

 

「喰らえ!」

「ぐっ…!」

 

捨て身の攻撃に反応が遅れたのと一瞬呆気に取られたせいでオールベルクは防御態勢を取る。

陣の渾身の拳を受け、後退した隙に陣は自身を貫く太刀を抜き捨て練の元に蹌踉めき寄った。

 

「練、大丈夫か…!」

「陣…。俺より陣が…!」

「俺はいい。練、これより次はない。俺達がここで父さんを…奴を殺さなければ俺達が死ぬ!逃げることなんてできない!」

「……っ」

 

オールベルクの強さに少なからず恐怖を抱いていた練は陣の言葉によって現実に戻される。

二人の技量ではオールベルクから逃げることは不可能だ。手負いならば尚更。

だからこそ、ここでオールベルクを殺さなければならない。

それ以外に生き残る道も復讐を果たすこともない。

改めて鮮血を拭いながら決意を固めた練は強く頷いた。

 

「あぁ。殺ろう、陣」

「その意気だ」

「ははは。仲が良いな。やる気があるのはいいがせめて俺に傷を負わせてからにしろよ」

「くっ…」

 

オールベルクは未だに無傷。

練と陣は既に重症だ。

特に陣は傷が酷い。

腹から内蔵が見え隠れする程に抉られてしまい、出血量も多い。

立ってるのがやっとだ。

 

「『出来損ない』でも流石の治癒力だな。顎は回復したか、練」

「……確かに」

 

練が自身の顎に触れる。

練は適性がないと切り捨てられてしまったが、それでも『人体改造』が施されている。

その一つはオールベルクも持つ自然治癒力。

しかし、それも外れた顎を治すので精一杯だ。

対してオールベルクのは練達『実験体』を経て改善した『人体改造』を施している。

陣によって折られた腕の骨は完治していた。

 

「練…」

 

オールベルク達大人の勝手で人を離れてしまった練を目の当たりにした陣は傷を抑えながら歯がゆく思う。

自身の無力さを後悔しながら血が滲む程に唇を噛む。

練の肉体を変えてしまったオールベルクを睨んだ。

 

「絶対に許さない」

「てめぇの許しなんざいるかクソ息子」

 

陣の殺意もオールベルクは唾に含めて吐き捨てる。

再び対峙する中で陣は焦っていた。

オールベルクを倒す手立てがない上に予想を超えた強さ。

それに陣としてもこうも一方的に深傷を負わされるとは思わなかったのだ。

 

「……」

「どうした?もう来ないのか?」

 

――さて、どうするか。

陣は考える。

余裕綽々としたオールベルクを相手に思考を巡らせた。

しかし、何も思いつかない。

 

「あぁ、くそ…」

「陣?」

 

致死量の出血が、即死級の痛みが陣の意識を朦朧とさせる。

痛みで何も考えられない。

心配して覗く練の顔を見ることでもできずただ首を振って集中力を戻す。

だが、そんな刹那の隙を見逃すほどオールベルクは甘くない。

目を開けた時、既にオールベルクは迫っていた。

 

「よそ見とは余裕じゃねえか。あぁん?」

「ぐあっ…!」

「うぐっ…!」

 

首を掴み上げられる陣と練。

宙に浮く二人は力の差で抵抗ができないことに焦る。

このままでは殺られる、そう悟った陣の行動は早かった。

切り札として隠していた短剣型の魔剣を陣は取り出し、構わず振るう。

 

「ぬおっ!?魔剣か!」

「……決定打にならないのか」

 

雷の魔剣による雷撃でもオールベルクはある程度防ぎ、後退するだけだった。

それでも解放された練と陣は首を抑えながら荒い息を吐く。

 

「はぁ…はぁ…陣、いつの間に魔剣を…?」

「別に俺が打ったわけじゃない。譲ってもらっただけさ」

「あぁ…なるほど…」

 

陣に魔剣を打つ才能まであるのかと驚いた練だが納得したように苦笑を浮かべる。

実際は現実逃避に近い笑い、陣が魔剣を打てたらどれほど良かっただろうかと考えるが状況が状況だけに夢を見ている暇はない。

すぐに現実に戻って戦意を取り戻す。

 

「……ったく。雑魚のくせに足掻いてんじゃねえよ」

 

魔剣を防いで見せたオールベルクは面倒臭いとばかりに溜息をつく。

全身全霊で戦っている練達からすればその余裕の態度だけで戦意をごっそり削られる。

本当に勝てるのか?そんな疑問さえ浮かんでしまうほどに。

 

「俺も暇じゃない。小細工はもうさせねえ。ここまで堪えた褒美だ、少しだけ本気を出してやる」

「……っ!」

 

オールベルクからこれまで以上の殺気を感じる。

陣は警戒するが、傷が深く朦朧(もうろう)とする。

それでも陣は弱い練の為に駆ける。

練達弟妹(きょうだい)は知らないオールベルクの本気。

陣も全貌は知らないが一端は知っている。

 

「まずはお前か。いいぜ、潰す」

「やってみろよクソ親父」

 

オールベルクと陣、切迫する二人の得物がぶつかり合う。

だが、陣は突如軽い感触に()()()()

オールベルクがぶつけた太刀を一つ手放したのだ。

 

「ぐっ…!」

「はは、対応できるか!?」

 

先の一撃が本命でないと察した陣は下段に潜り込み太刀を横薙ぎに振るうオールベルクに苦渋する。

これが陣の警戒していた『フェイント』。

咄嗟に小刀を取り出して下段薙ぎを防ぎ、強烈な衝撃に耐えるが。

次の瞬間陣は目を見開いた。

 

「まさかこれすらも――!?」

「はははは!掛かったな!」

 

連続の『フェイント』。

太刀を手放し全ての得物を捨てたオールベルクは態勢の固まった陣に右から回し蹴りを打ち込む。

陣は態勢を崩すことが出来ずそれをまともに喰らった。

 

「あがっ――!?」

「吹き飛べ雑魚がっ!!」

「陣!」

 

文字通り陣は吹き飛ぶ。

何度も跳ね、それでも勢いが止まずに壁を抉った。

先の傷からさらに出血を重ねる陣は再び血反吐を吐く。

 

「うっ――がはっ……!」

「おらぁおらぁ!まだ休むんじゃねえぞ」

「……っ!」

 

骨がいくつか砕けた陣には自己治癒力などあるはずがなく顔を苦痛に染める。

それでも狐ヶ崎を手にオールベルクの追撃を防ぐ。

 

「ほう。やるじゃねえか、武器の耐久性に救われたな」

「うぐっ…!」

「だがその傷じゃジリ便だぜぇ!?」

「ごはっ!?」

 

怪力(ハイパワー)で腹に膝蹴りを喰らう陣。

既に抉られた傷を追撃を与えられ死にそうな程激痛が走った。

 

「あがあああああああああああああっ!?」

「はははは!いいぞ、もっと鳴け!!」

「やめろおおおおお!」

 

一方的にやられる陣を助けるべくオールベルクに斬り掛かる練。

オールベルクは余裕の笑みを崩さず片手で止めた。

 

「なっ!?」

「はっ、陣で相手にならねえってのにてめぇ程度で釣り合う筈がねえだろうが!!」

「おふっ――」

 

腹に拳撃。

怪力(ハイパワー)で練が血を吹きながら吹き飛ぶ。

転がる練に陣はこれでもかというほど激昂した。

 

「やめろおおおおおおおお!!」

「まさか俺を本気で仕留められると思って来たのか?はは!滑稽だな。てめぇらじゃ一生掛かっても無理だ。雑魚め」

 

陣を投げる。

練の元に陣も転がり、仰向けに倒れた。

練に手を伸ばそうとするが陣はもう動けない。

 

「うっ……ぐっ……!」

「陣……かはっ」

 

復讐を誓った二人の兄弟は一方的に蹂躙された。

仕掛けてきた側にも関わらず傷一つ負わせられない雑魚をオールベルクは(わら)う。

 

「ははは!ひゃははは!どうした!?もっと抵抗してみせろよ!もっとてめぇらの歪む顔を俺にみせろ!!」

 

陣の魔剣による被害が今になってでて、オールベルクの背後に炎が上がる。

その炎はさながら獄炎、それを背後に歪む笑みを浮かばるオールベルクは地獄に見えた。

練が息を呑み、絶望する。

 

「もう…駄目だ…」

「練…、諦め、るな…ぐっ…!」

「陣…」

 

陣が励まそうとするが動けないほどボロボロでは説得力がない。

陣の励ましを聞きつつも練は内心完全に諦めていた。

 

「はは、中々いい顔になってきたじゃねえか。練。まずはてめぇから殺してやる」

「なっ!?」

「やめ――っ!」

 

オールベルクが笑いながら抜刀し、練に近付く。

陣はさせまいと力を振り絞るが身体が言うことを聞かなかった。

当の練は恐怖に支配されて動けない。

 

「練逃げろ…!」

「逃げれねえよ」

 

追い打ちをかける現実。

ただでさえ実力で劣っている練と陣が損傷した上でオールベルクから逃げられるはずが無かった。

絶望的な状況の中で追い込まれた陣は視線を泳がせてあるものを見つける。

 

「……!」

 

――あれは。

 

陣が見つけたのは回復薬(ポーション)

今の時代高価であまり手に入らない回復薬(ポーション)が陣の近くに転がっていた。

今にして考えてみれば高価なのは国時代が腐っているせいなのだろう。

金持ちの貴族や権力者が権力を独占しているからだ。

だが、今はそんなことどうでもいい。

陣は回復薬(ポーション)に手を伸ばした。

 

「くっ…あと、ちょっと…!」

 

届きそうで届かない。

刻々と練の死が迫るのを横目に焦る陣はなんとか回復薬(ポーション)を掴んだ。

 

「よし…!」

 

力を振り絞って自身にかける。

自然治癒力のある練と違って陣はこうでもしないと傷が塞がらない。

案の定陣の傷は深すぎて完治はしなかったが、止血は成功し、残りを飲むことで折れた骨が回復した。

 

「ああ?」

 

こそこそと動く陣に気付いたオールベルクが目線を向けるがもう遅い。

察される前に陣は思考を全力で巡らせた。

 

――どうする!?どうすればいい!?回復したけどオールベルクとの差は埋まらない。例え完治しても元々実力で勝てる要素はないんだ!

 

復讐を決めた時は少しは張り合えると思っていた。

しかし、オールベルクは想像の何倍も強かった。

だからこそ陣は数秒を無限のように考える。

オールベルクはまだ全力ではない。

手を打つなら今、といっても全力でなくとも技量の差は絶望的なのだが。

陣は自分の知るオールベルクの手の内を脳内に並べる。

まず『人体改造』。

分かっているだけでも自然治癒、金属を操る磁力系、腕の伸縮などの肉体系柔軟系、極端に優れた視力、魔力付与(エンチャント)、毒無効がある。

自然治癒力以外は修達で見た能力だ。

オールベルクとの対決の前に練から聞いた話では『錬金術』が関係しているとか、陣も実際に見たことのある怪物(モンスター)達の能力を起用しているとかいうとのが『人体改造』だった。

そして、次に陣に使ってきた『フェイント』技。

これは単純な『技と駆け引き』。

オールベルクが開発したオールベルクだけの『技』だ。

練と陣も伝授されているが三割も習得出来ていない程に習得が難しい。

人の心理を利用し、視線誘導をしながら意識を二つに裂き敵を誘導した上でフェイントを仕掛けらければならない。

例えば陣に使ってきたものは初撃も次もオールベルクは力を込めて放ってきた、故にそれが『フェイント』かどうかを見分けることができない。

全力で放たれた一撃でも『フェイント』で、不意をつく。

陣はこれを『殺刃流』と呼んでいる。

刃を()てる、または刃で殺すが由来だ。

攻略するには見破る以外手はない。

だが、不可能といっていいだろう。

なぜなら『究極の二択』を迫られるからだ。

一撃に全力でぶつかれば『フェイント』がくる。

『フェイント』を警戒すればそのまま押し通して殺せる。

先には死が待つ二択。

それを決断する決意を瞬時に持てないものが今まで葬られてきた。

脳を極限まで絞ってオールベルクの手の内を並べた陣はそこから()()の選択を考える。

『人体改造』によるアドバンテージと『殺刃流』、この二つを同時に封じればあるいは――。

 

「おい、なんで傷が回復してやがる」

「え?」

「――っ!」

 

時間が足りなかった。

回復薬(ポーション)で回復したことがバレた陣は急激に焦る。

オールベルクも空の試験管が転がってるのを見て察してしまった。

 

「てめぇ、まさか――」

「くそがあああああああああああああっ!!」

「なに!?」

 

ヤケクソになった陣は二本の刀を抜刀して駆ける。

瞬時に思いつく策は――もはや一つしかない。

 

「クソ親父!てめぇはここで終わりだ…!」

「――っ!?こいつ自分ごと…!」

 

陣の製作した刀、『白百合』と『一文字』で陣はオールベルクの腕と足を地まで貫いて固定する。

自身を含めて。

 

「これで動けないな!クソみてぇな能力(ギミック)も『殺刃流』も使えない!」

「てめぇ!何しやがる!何する気だ!これじゃてめぇも動けねだろバカ野郎!」

「それは――」

 

常に刺し続ける限り、自然治癒力は意味を為さない。

全身全霊でオールベルクを押さえつける陣に余力はない。

陣は切羽詰まった状況で――練を見た。

 

「練、やれ…!!」

「なっ…」

 

絶句する練。

言わなくても真意は読み取れる。

つまり自分ごとオールベルクを殺せ。

陣はそう言った。

練は首を横に振る。

 

「む、無理だよ…!」

「いいから殺れ!お前がやるんだ!他に誰がいる!?」

「でも…でも!陣を殺せない!」

「……っ!」

 

陣が言葉を詰まらせる。

陣自身弟妹(きょうだい)に愛情がある故に練の気持ちは痛いほど分かる。

だが、それでも陣は叫んだ。

 

「お前がやらなきゃどうせ俺は死ぬ!それだけじゃない!お前も死ぬんだ!」

「……っ!?」

 

今度は練が息を詰まらせる。

 

「いいか練!こいつを、オールベルクを生かしたままじゃだめだ!お前は知らないかもしれないが革命軍はある殺し屋集団を従えている。彼らならば悪いヤツを全員殺してこの国を変えられるかもしれないんだ!」

「な、何の話を…」

「いいから聞け!オールベルクは国の戦力の中でも強い!今ここでこいつを殺れたらそれは革命軍にとっても大きな前進になる!狭い世界で生きてきたお前には分からないかもしれない!けど、こいつを殺せばみんなの幸せが近づくんだ!」

 

押さえつけられるオールベルクは陣の考えが読めた。

練に『正義』を植え込もうとしてるのだ。

 

「お前にわかりやすい話にしてやる!革命軍が勝てば俺達や修達みたいな悲劇を迎える子供が減る!」

「……っ!」

「孤児も減る!もう衣食住を利用されてこんなクソ野郎に捕まることもないんだ!――だからっ!」

 

最後の力を振り絞る陣。

余力を全て使って叫んだ。

 

「だから練!やれぇぇぇえーーーー!!」

 

渾身の叫び。

陣の願いに練は戸惑う。

しかし、陣ではいつまでも押さえきれないオールベルクが解放されようとしたのを見て、焦り、吠えた。

 

「うわああああああああああああああああ!!」

「なっ――」

「ごふっ――」

 

練が陣ごとオールベルクの心臓を貫く。

さすがのオールベルクも目を見開き、吐血した。

 

「がはっ……くそ、がっ……!」

「練。まだだ。こいつを…殺せ!」

「あああああああああああああああああああ!!!」

「やめろおおおおお!」

 

力尽きてオールベルクから離れる陣。

解放されたオールベルクはダメージを負ったものの恐ろしいことに心臓を貫かれても回復しようとしている。

まだ生きている。

このままでは死なない。

これでは陣が無駄な犠牲になる、だが練がそれを許さない。

理性を捨ててがむしゃらに練はオールベルクの背後に回ると同時に首を斬り落とした。

 

「――――――――――っ」

 

オールベルクの首が落ちる。

確実に息絶えたオールベルクに練は精神力(マインド)を全て使い切り、ふらついた。

だが、倒れはしない。

陣に駆け寄った後に彼の横に寝た。

 

「陣……無事?」

「……」

 

陣は答えない。

腹部と心臓部からの出血が酷かった。

彼はこの世界に残してしまう弟の頭を優しく撫でる。

 

「よく、頑張った…」

「うん」

「俺のことは置いてけ」

「……!?」

 

練が首をぶんぶんと横に振る。

しかし、陣は許さず余力を振り絞って掴み寄せる。

 

「どの道俺は長くない。練、お前だけでも生きるんだ」

「嫌だ!陣も一緒に生きるんだ!修達を助けられなかった分俺と陣で生きるんだ!」

「……そうだな。きっとこれは修達を救えなかった罰だ」

「違う!陣、諦めちゃダメだ」

 

練が陣を担ごうとするが少しでも動かすと陣は吐血した。

「俺はもう…無理だ」

「そんな…」

「練。ここもすぐに崩落する。このままじゃ練も危険だ。最後ぐらい俺の言うことを聞くんだ」

「……っ!俺はそんな聞き分けのないやつじゃなかったじゃないか!」

「そう…だな」

 

陣は微笑み、練を突き飛ばす。

 

「……!?」

「行け。お前には生きてて欲しいんだ。俺の大好きな弟だから」

「陣…!」

 

陣に駆け寄ろうとして崩落した柱が邪魔をする。

練は泣き叫んだ。

 

「陣ーーーーん!!」

 

練が見えなくなって陣は虚空を見つめた。

 

「ほんとはもっと前からやり直せたはずなのに…」

 

悔やみを口にする。

 

「俺のせいで――」

 

葉を食いしばり、涙を流す。

そんな時瓦礫の崩れた。

 

「く~っ、中々効いたぜ」

「――!?」

 

出てきたのはオールベルク。

斬り落とした筈の首は――繋がっていた。

 

「やればできるじゃねえか。ま、もう捨てる予定だった()()にしてはな」

 

オールベルクが口角をニヤリと歪める。

目の前に存在する悪夢に陣は絶叫した。

 

「あぁ…うあああああああああああああ!!」

 

この時陣はオールベルクが死なないのではという恐怖に染められた。




オールベルクは『階層主』並になって帰ってきます。
やったね。
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