罪を犯したエルフをファミリアに誘うのは間違ってるだろうか(凍結)(メインタイトル関係なし)   作:伊つき

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第39話

鼻を突く異臭を雨が溶かす。

人々の返り血も雨で流れてしまった。

家族を失い、兄の陣を亡くしてからどれほど経っただろうか。

練は成長した自身の肉体に視線を向け、虚ろな目で辺りの死体を見回す。

 

「……」

 

耳に入るのは豪雨が地面を叩く音。

激しい雨が練が殺した人々の死体を埋める。

次第に雷が鳴り響いた時、練は人の気配を感じた。

死体の間を歩く女性が一人。

小人族(パルゥム)だ。

 

「やあ。君がナガト・練か」

「……何の用だ」

 

小さい背丈だというのに大人びた雰囲気を出している。

中身のない笑みは冷えた空気の中で一層冷たさを表現していた。

自分よりはるかに歳上だと分かる小人族(パルゥム)の女性に、練は昔のような柔らかい口調ではなく陣のような語調の強い口調で返した。

 

「ふむ。その様子だと随分様変わりしたようだな」

「何者だ。返答によっては殺す」

「まあ落ち着きたまえ」

 

刀の刃先を女性に向けて脅迫するが、女性は慣れた感じで制止した。

そして、平然と近付いてくる。

 

「近寄るな」

「安心してくれ。わたしは君の敵じゃない」

「知るか」

「ふっ…分かったよ。ここで話をしよう」

 

小人族(パルゥム)の女性は微笑んで足を止める。

練との距離は3M(メドル)、練ならば彼女の首を一秒で斬り落とせる距離だ。

彼女が練の実力を凌駕する相手でなければ。

 

「君はここ何年間か人を殺しに回ってるらしいな」

「それがなんだ」

「いや、なに。君の殺す人物は決まって悪党ばかりでね。それも旅をしてれば見つけるような小さな村の権力者だ。これは偶然かな?」

「……黙れ」

 

練の表情が次第に険しくなる。

充分に練を刺激した小人族(パルゥム)の女性は意味を秘めた笑みを作って練に語りかけてきた。

口を開くと同時に笑みを消し、真剣な瞳で。

 

「突然だけどいいかな?」

「……」

「君の暗殺は無意味だ。そんな無意義な殺しをしていてもこの国は救われない」

「……っ!?」

 

練の表情に怒り以外の感情が初めて浮かぶ。

それは驚愕。

練の子供じみた手当り次第に悪を潰す考えを小人族(パルゥム)の女性は安直だと指摘した。

 

「小悪党が死んでも何も変わらない。その上に腐った奴らがいる限り、この国は腐敗し続ける。民は一生苦しみから解放されない」

「くっ…!ならどうすれば!」

 

まだ子供の感情を持った練が感情に任せて叫ぶ。

小人族(パルゥム)の女性は再び微笑んで口を開いた。

 

「有意義な暗殺をしよう。それこそ、この国を腐らせる原因である奴らを片っ端から殺すんだ」

「……でも俺には――」

「大丈夫だ。君は確かに弱い。けど強くなればいい。その為には『仲間』が必要だ」

「仲間…?」

 

練が反復すると小人族(パルゥム)の女性は頷く。

彼女は練に反逆者の旗を振る人を映したエンブレムを見せた。

練は見たことのあるエンブレムに目を見開く。

 

「それは…!」

「『ブラッドスターク』」

 

小人族(パルゥム)の女性が呟いた単語。

『ブラッドスターク』、極東の国の者なら誰もが知る狂気暗殺集団。

だが、その実態は民を解放しようとする革命軍の筆頭。

革命軍の最大戦力だ。

 

「わたしは『ブラッドスターク』の統率者、リア・ルティ。君の行動は我々の目的と合致する。是非加入して欲しい」

「俺を誘うのか…」

「そうだ。勘違いしてもらわないよう言っておくがこのままでは君は一部に目を付けられて潰されるだけだ。一応逃走者でもあるわけだしね。だから、これは『救い』だよ」

「『救い』…?」

「あぁ。本来君のような『雑魚』は必要ない」

「なっ…!?」

 

ハッキリと告げられた練は自覚していても悔しさを噛み締める。

リアは気にせず続けた。

 

「だが、我々は君を勧誘しよう。保護するといった方がいいかな」

「なんで俺なんかを…」

「我々の同志だから、というのもあるがそうだな。一番の理由は君が我々の欲していた陣・オディナの兄弟だからかな」

「……っ!」

 

言われなくても理解した。

練はもうこの世にはいない兄に助けられたのだと。

この手を取らないのは陣への冒涜になると。

練は陣の代わり――否、代わりにもなれずせめて陣の大切なものくらいは守ろうと『ブラッドスターク』に手を差し伸べられているのだ。

確かにこれは『救済』、力のない少年に与えられた大人の機会だ。

だが、練は断った。

 

「断る」

「そうか。まあ君が選ぶなら――」

「違う」

「……?」

 

リアが首を傾げる。

練は悔しかったが、それ以上に陣を死なせてしまった責任が予想以上に大きく、甘い自分を恥じた。

陣は人々を救えた存在になったかもしれない。

しかし、生き残ったのは役立たずの自分だ。

 

「俺も戦わせてくれ」

「……正直に言うとあまり戦力にはならないな」

「分かってる。だからあんたがさっき言ったように強くなる。陣のように強く…あんた達が求める陣のようになる。だから俺も一緒に戦わせてくれ」

「……」

 

リアが目を細める。

ため息をついた。

 

「重ねて勘違いしているようだが、陣・オディナでも戦力になるかギリギリのラインだと我々は考えている」

「なっ…!?」

「それでも君は強くなるかい?我々が求めるのは陣・オディナでは足りない。もっと強い者だ」

「……」

 

黙った練にリアは諦めると思って背を向けた。

だが、背にかかってきた言葉は予想を裏切る。

 

「分かった。陣よりも…あんた達が求める強さを俺は手に入れる」

「……ほう」

「強くなる。ほかの奴らも抜かしてやる。俺が一番強くなってやる!」

「あの子達もなめられたものだな」

 

やれやれと嘆息するリア。

しかし、次の瞬間その目は鋭い眼光を放って練を捉えた。

 

「現実はそう甘くないぞ。ナガト・練」

「分かってる。それでもいい。やらせてくれ」

「……ふっ」

 

少年の熱意にリアは思わず頬を緩ませる。

口角を上げながら練に手を差し伸べた。

 

「いいだろう。ようこそ、『ブラッドスターク』へ」

「あぁ」

 

練がその手を取った時、彼の『崩壊』への物語は一つ前へ進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リアに連れられて『ブラッドスターク』の本拠(ホーム)に辿り着いた練だったが暗殺者達は誰もいなかった。

リア曰く、全員が『任務』についていて出払ってるらしい。

誰とも挨拶を交わせなかった練は特に気にする事はなかったがリアは少し残念そうにしていた。本当に少しだけ。

リアに付いていき、自室を割り振られた後、リアの元に伝令が訪れ耳打ちされていた。

 

「早速だが練。君の覚悟を問おう」

「いきなり何の話だ…?」

「『任務』だよ」

「……っ!」

 

まだ加入したばかりだというのに伝えられた『任務』。

練はリアから――否、『ブラッドスターク』から試されているのだと悟った。

間を開けた後、練は静かに頷く。

 

「あぁ。やってやる」

「いい返事だ」

 

リアは親のような笑みで満足そうにした。

数刻後、練は『ブラッドスターク』として初めての『任務』に挑む。

『標的』は練が狩ってきた小悪党より上の位、首都の警備隊隊長の剣士。

名をアレインという与えられた権力を振りかざし、民を苦しませるドワーフだ。

主な罪は人々から搾り取ったり、汚い金で豪遊し、好き邦題に無罪な人々を快楽のために殺してはその罪を上層部が揉み消しているという。

アレインの情報を聞き、アレインを狙うタイミングをリアと共に考察する。

 

「ふむ。アレインはどうやら警戒心が強いようだ。一人でいることは少なく隙がない」

「これじゃ殺れないんじゃないか?」

「まあそう焦るでない。隙はなくともおびきだす方法はある」

「おびきだす?」

「あぁ。アレインは比較的女好きだ。そこを利用する」

「聞けば聞くほど録なやつじゃないな」

「ふふっ、そうだな」

「で?利用するって言ったってどうするんだ」

「我々にだって人脈はあるさ」

 

そういうリアの上げた案は革命軍を通して雇った女性を使ってアレインに甘い言葉を囁き人気のない所に一人で隔離するというもの。

練は承諾し、路地裏に連れて来られたアレインを影から確認していた。

 

「ふふふっ。アレイン様ったら…」

「がはははっ!」

 

路地裏に響く愉快で汚い笑い声。

視界にそれを捉えた練はローブを深く被った。

 

「来たか…」

 

練の呟きと同時、アレインを連れてきた女が密かに練を確認してアレインに絡めていた腕を離す。

 

「すみません。アレイン様私はこれで…」

「んん?なんだ?どうした」

 

酒で酔い、いい気分になっていたアレインが離れていく女を目で追う。

伸ばす手も虚しく空を掴み、追いかけようとするもふらついた足で不可能だった。

そこへ、アレインの背後から気付かず路地裏に現れる影が一人。

練が静かに抜刀してアレインに近付く。

 

「……ったく。なんだって――ん?」

「――っ!」

 

気配を察知したのか振り返ったアレインに練は接近した。

蒼雲(そううん)でアレインの首を狙う。

 

「……ッ!なんだてめぇ!」

「くそっ…!」

 

練の斬撃は防がれた。

アレインの腕前か、瞬時に抜刀された剣によって。

一度距離を取った練をアレインは睨む。

 

「そうか…あの女。てめぇ、反逆した革命軍の奴か」

「答える義理はない」

「だろう、なっ!!」

「ぐっ!?」

 

練の予測を遥かに超えた敏捷。

一瞬にして詰められた間合いに練は驚愕する。

ドワーフ特有か、鍛錬の積まれた(パワー)に練は顔を歪ませた。

そこにアレインの怒号が重なる。

 

「どうやら俺様を罠に嵌めようとしたみたいだなクソが。だが、そうはいかねえ!貴様みてぇな泥くせぇゴミ共なんざ捻り潰してやる!!」

「うぐっ…うおおおおおおあああああっ!!」

「なに…!?」

 

力強い重圧と怒号に怯みそうになった練だが怒号を吠え返し、力を振り絞って叫びと共に限界を超える。

アレインの剣をある程度押し返した練は横に跳んで回避し、練を両断する筈だったアレインの剣はアレインの力持ち(ハイパワー)によって地面を砕いた。

そこから再び戦闘態勢に入るタイムロスを練は見逃さない。

相手に劣っている状況下での戦闘に自身を雑魚と認識している練は慣れていた。

一瞬の慢心もなく何をしてでも相手を殺す。

折角の隙を練は逃さず全力で駆けた。

 

「うおおおおおおおおおお!」

「このガキがっ!!」

 

狙うは必殺の首斬り。

練は後に振るわれるであろう右からの斬撃を避けるためにも左上に跳躍し、蒼雲でアレインの首を左から狙う。

練はここで勝利を確信したが、アレインが剣を拾うのをやめた瞬間目を見開いた。

 

「なんだと!?」

「舐めんじゃねえ!」

「なっ――」

 

蒼雲を片手で掴んだアレインに練は驚愕を隠せない。

獲物を掴まれ、振り切ろうとしたがアレインは刀身を離さない。

ビクリとも動かない蒼雲に焦りながらも練は次の選択を瞬時に済ませ、刀を引き抜き後退しようとしたがアレインの(パワー)はそれすら許さなかった。

さらに焦る練は蒼雲を捨てることにし、後退を試みるがここまでのタイムロスはでかい。

戦場において刹那の時間でも充分な余裕となったアレインは蒼雲を手放し後退する前の練の腹部に拳をめり込ませた。

 

「がはっ…!?」

「吹き飛べええええ!!」

 

強烈な拳撃に練の身体は砲弾の如く吹き飛ぶ。

壁にクレーターを作った練は瓦礫と共に地に倒れる。

掴んだ蒼雲を捨てて、劣勢になった練にアレインは口角を歪めた。

 

「がはははははははっ!!これで分かっただろう!?幾ら不意打ちしようがてめぇらみてえに泥くせぇ集団が俺様の首なんて取れるわけがねえんだよ!」

「ぐっ…!」

「この国は確かに腐っている!!だがてめぇらにそれを変えることは不可能だ!理想を抱いて死ね!」

「黙れぇぇぇえ!」

 

陣の決意さえも踏みにじったアレインに練は吠え、駆ける。

黒刀身千夜(ちよ)を抜刀し、練は再びアレインに挑むが10(メドル)離れた練にアレインは嗤った。

 

「冥土の土産だ。いいもの見せてやるよ」

「……?」

 

突如片手の平を練に向けたアレイン。

練は戸惑いつつもただ駆ける。

確かに剣を拾う隙を与えていない練だがその本人さえも予測ができない動きだ。

練が理解できない内にもアレインは()()

 

「【火よ。集え】」

「……っ!?」

 

練にも違和感を感じることができた。

アレインの周囲――否、アレインの掌に()()が集約していく。

練はなんとなく分かることはあってもそれが何なのか断定できない。

故に迷った。

 

――なんだ!?どうすればいい!?

 

特攻するか、それとも警戒して距離を置くべきか。

練はただ困惑する。

最終的に特攻することを決断した練だがそのタイムロスがまた命取りとなる。

アレインの『詠唱』は既に完成していた。

 

「【ファイアショット】!」

「なっ!?」

 

どういう原理か分からない。

理解できないが突如出現さた火炎弾。

練は自身に迫るそれを回避しようとするが切迫したせいでアレインとの間合いが近過ぎた。

アレインから放たれた火炎弾に練は抵抗できず、直撃する。

 

「ぐああああああああああ!?」

 

再び衝撃。

練は吹き飛び、転がる。

次に身を焦がす炎。

練の戦闘服(バトルクロス)が炎を肥大化させ、練の身を燃やす。

張り裂ける苦痛の叫びをあげる練はのたうち回り、苦しみ続けた。

 

「ぐうっ!?あああっ…!熱っ、熱い…!うぐっ、ぐあああっ!」

「ははははは!燃えろ燃えろ!雑魚め!」

「うっ――ぐっ――あああっ!」

 

揺らめく炎にアレインの歪んだ嗤いが揺れる。

練は苦しみながらもそれに目をやりつつ火炎弾の正体にたどり着いていた。

それは『魔法』。

御伽の話の如く話を聞かされていた練は『魔法』の存在がこの世界にあると聞かされていたが、遭遇したこともなく知識も皆無だった。

だからこそ詠唱を紡ぐ間も容易に時間を与えてしまった。

その結果に練は燃える。

苦しみ、肌が焼けていくのを感じながら喉が張り裂けるほど叫び、死を感じた。

 

「うぐっ、あああっ!」

「しかしよく燃えるなぁ。ははははは!」

 

既に剣を拾ったアレインは抵抗もできずに焼けていく練を愉快そうに見つめる。

その表情は酷く歪み、人のものとは思えないほど悪徳。

練が死を確信した時、アレインはゆったりと寄ってきた。

 

「仕方ねえな。夜遅いってのにうるせえからよ。俺様が楽にしてやるよ」

「ぐあああっ!ぐっ、ああああああああっ!?」

「可哀想に。ははは!俺様は優しいからな!楽に殺してやる…!!」

「……っ!」

 

練の首目掛けて振り下ろされる剣。

練は思わず目を瞑るが、暫くして聞こえてきたのはアレインの苦痛の声だった。

 

「ごはっ…!?ぐふっ…貴様っ!」

「……?」

 

不思議に思った練だが意識を戻すと灼熱の熱さが蘇る。

 

「うぐあああああああっ!ああああ……ってあれ?」

「なっ!?馬鹿な…!」

 

炎に苦しめられていた練だが突如熱さが消える。

それどころか炎さえも忽然と消えてしまった。

残ったのは練の焦げた戦闘服(バトルクロス)と――美しい『紅』。

路地裏に吹く風で揺らめく紅髪が練の目を奪った。

 

「その紅髪…!貴様は…貴様は…!」

「標的確認。任務を遂行する」

「【戦姫(プリンセス)】!」

「プリン…セス…」

 

現れたのは煌めく紅髪を持つ絶世の美女、紅く輝く剣を手に戦闘服(バトルクロス)に身を包むまさしく戦姫(いくさひめ)

『ブラッドスターク』の一員、【戦姫(プリンセス)】の忌み名を付けられた魔剣使いの暗殺剣士(アサシンセイバー)

クレア・レル・バローナ。

 

「行くぞ」

「【戦姫(プリンセス)】!くくく…突然現れて驚いたが、これは機会(チャンス)!貴様を殺せば俺様は一生遊べる賞金を――」

「貴様では無理だ」

「ごはっ!?」

 

一閃。

たった一撃。

あまりの俊敏さにアレインも練も目で追うことすら許されなかった。

クレアが剣に付く血を振り払った時、アレインの首が落ちた。

 

「任務完了。帰還だ、ナガト・練」

「え?あっ…え?」

「聞こえなかったか?」

 

何が何だか把握できない練は死体となったアレインとクレアを交互に見る。

その様子を見て溜息をついたクレアは剣を鞘に収め、練を置いて歩き出してしまう。

すれ違いざまに告げられる。

 

「無知は死を招く。帰ったら学ぶべきことを学べ」

「あ、あんたは――」

「私はクレア。大口を叩くのならば魔法がどういうものかなのかぐらい把握しておけ」

「……っ!」

 

それだけ言うとクレアは先に行ってしまう。

練はただアレインの死体を見下ろして、俯いて赤面し、自身の無知を恥じた。

何故かクレアからの言葉は練の胸を抉る。

数年間、ただ中身のない殺しを続け、無感情だった練はこの時胸の鼓動がおかしな回数で跳ね上がっていた。

人はその感情を恋と呼ぶ。

練は家族愛やその温かみを知るものの恋は知らなかった。

だからか、クレアの背中を目で追う。

練の初恋は紅髪の剣士となり、同時に彼女は『憧憬』となった。

あの強さ、高貴さ、圧倒的なまでの存在感。

クレアの全てが練の心の全てを持ち去った。

恋する心と憧れ。

練はこれからの決意が本人も気付かずやっと決まった。

故にクレアの後を追う。

 

「クレア…」

 

彼女の名を呟いて。

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