罪を犯したエルフをファミリアに誘うのは間違ってるだろうか(凍結)(メインタイトル関係なし)   作:伊つき

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オリキャラ募集に参加してくださった読者様方、ありがとうございます。
合計3人のキャラを採用させて頂きました。


第41話

練とクレアの出会い、練が『ブラッドスターク』の一員になってから一ヶ月。

練はリアから指示を受け、『任務』をこなし続けた。

前よりも練は目的を持って未来のために悪党共を斬る。

その過程で練は急激な成長を遂げていた。

全ては真剣な取り組みと――大きな影響を与えたのはやはり『彼女(憧憬)』だろう。

 

「貴様ァァァァア!」

「ああああああああっ!!」

 

権力を悪用し、醜悪な権力者に従っていたアマゾネス戦士とぶつかり合う。

渾身の一撃。

互いに全てを出し合った最後の攻防(ラストアタック)は練が勝利した。

血塗れながらも何とか立つ練が刀を握る腕を掲げ、勝利を象徴すると同時にアマゾネスの戦士が生を捨て膝をつき倒れる。

戦闘を終えた練は荒い呼吸で空を見た。

 

「はぁ…はぁ…勝っ、た…」

「おっと」

「……!?」

 

倒れそうになった練を支える美しく白い腕。

それにさえ勝る紅髪が練の目に映った。

練を支えたのは別任務に就いていた筈のクレアだった。

 

「クレア…どうしてここに…?」

「予定より早く終わったのでな。練が心配で様子を見に来た」

 

練の問いにクレアは微笑む。

 

「はは…まだ俺は頼りない、か…」

「ふふっ。そうでもないぞ?今日の戦闘は良かった。私も手を出すのは失礼に値すると思ったな。強くなったな、練」

「まだまだだ…。今もこうしてクレアに助けられてる」

「そうだな。でももう少しだ」

「クレアが言うならそうだろう、信じるよ。俺もあと少しで皆の足元くらいには追いつける」

「……早まって死ぬなよ?」

「分かってるさ」

 

心配そうに覗き込むクレアに練は会釈で返す。

だが、クレアの表情は予想より真剣だ。

不意にクレアが目を合わせる。

 

「本当に…死なないでくれ…練」

「クレア…」

「お前が死んでしまったら私は悲しいぞ」

「……ありがとう。大丈夫、クレアが悲しむことは絶対にしないから」

「本当か?」

「本当だ」

 

練に肩を貸しながらクレアはしつこく聞いてくる。

練はそんなクレアの優しさにも惚れていた。

幾度もチラつく想い人の美貌に練が頬を紅潮させる。

そんな練の思いなど露知らずクレアは笑顔で小指を差し出してきた。

 

「これは…?」

「約束だ。私の故郷では小指を絡めて約束を交わすんだ。これをしたら絶対に破ってはいけない」

「そうなのか…。分かった、約束する」

「……うん」

 

クレアと指を絡める。

その行為さえ胸を鼓動させる練だが、彼女の強さとは裏腹に細く柔らかい小指との接触と肩を貸してるからか近付く彼女の顔に練は終始紅潮していた。

 

「そういえばクレアの故郷って確か…その…亡国の…」

「あぁ。私は…確かに亡国の王女だった。だが、実は叔父の出身は違ってな、さっきのはそちらの文化だ」

「そうか…。クレアは故郷が二つあるんだな」

「あぁ」

 

気を紛らわす為に話題を変えた練。

しかし、それで思わぬ成果、クレアについて新しく知ることができた。

『ブラッドスターク』の暗殺者(アサシン)はオールベルクの子達のように暗い過去や思い出したくない過去を持つものもいる。

互いの過去にあまり干渉しないのは暗黙のルールだが、想い人のクレアの過去はどうしても気になりこうして核心には触れぬよう気をつけて探り探り聞き出す時がある。

クレアも核心に触れられなければ気にしないのか気兼ねなく答えてくれた。

クレアと楽しい談笑で傷の痛みさえも忘れる瞬間。

それも本拠(ホーム)に帰るまでで、本拠(ホーム)に着くとクレアと共に帰還した。

 

「ただいま」

「今帰った」

「あぁ、クレアと練か。よく帰った。丁度良かった、二人にも話したいことがある」

 

出迎えたリアにさっそく呼び出された二人は導かれるままリアに付いていく。

途中、練の治療は済ませていつも団員(メンバー)が集まる招集所に辿り着く。

そこには整った顔立ちの人間(ヒューマン)の少女が待っていた。

リアが彼女に声をかけて練達に紹介する。

 

「冬香・パーシヴァル。我々の新しい仲間だ」

「冬香?」

「パーシヴァル…か」

「……」

 

リアに紹介された人間(ヒューマン)の少女、冬香は訪れた二人の団員(メンバー)を見遣る。

誰もが目を奪われるクレアを一目で済ませ、冬香は隣の少年に視線を走らせる。

そして、その顔に目を見開いた。

 

「あな、たは…」

「ん?」

 

冬香の視線に気付いた練が目を合わせる。

直後、切迫した冬香に練は驚愕し警戒して退いた。

 

「な、なんだ!?」

「……やっと見つけた」

 

聞き取れるか否か程の呟き。

練とクレアが見ても虚ろで空っぽだった印象がガラリと変わった。

練を捉える冬香の瞳には確かな力強さと色彩がある。

 

「そうか。君が探していたのは練だったか」

「……はい」

「リア。これはどういうことだ?」

 

納得するように腕を組むリアにクレアが尋ねる。

練も状況が飲み込めず困惑していた。

二人の気持ちを察してリアが説明する。

分かりやすいように経緯を全てだ。

 

「少し前我々は将軍が謎の暗殺を受けたと伝令を受けた」

「あぁ、この間あの猫人(バカ)達が仕留め損ねた片割れか」

「将軍モルナ。私達が仕留めた将軍ゴルマクと並ぶ二大将軍だったな」

 

リアに言われて記憶を蘇らせる練とクレア。

練は団員(メンバー)猫人(キャット・ピープル)にさり気なく悪態をつき、クレアはそれに呆れながら片目を瞑る。

二人が思い出したのを確認するとリアは冬香に目をやり、将軍暗殺の真実を口にした。

 

「モルナ将軍を殺ったのは冬香・パーシヴァルだ」

「は?」

「ほう…」

「……」

 

一瞬何を言ってるのか理解出来なかった練は呆ける。

クレアの方は暗殺者(こちら側)の住人には見えない少女を訝しんだ。

各々の反応を見てリアはさらに血色に染まったナイフを取り出す。

ナイフの刃は血色の量に比べてガタが来ていない。

まるで定期的に研がれたかのように――クレアの目利きでは研がれたであろうと確信した。

 

「これが冬香のナイフだ」

「……リア、本当か?最強と謳われる冷血女(エリシア)に劣るとはいえども将軍だ。私も奴らの実力は侮ってはいない」

「あぁ。本当さ。つい最近殺しを始めた彼女が殺したんだ」

「つい最近って……はぁ!?」

 

練が思わず冬香を見る。

冬香も見返し、というよりずっと練を凝視していたので再度目が合う。

初心な練は冬香の熱い目線に少し顔を紅潮させて目を逸らした。

代わりに練も質問をリアに投げ掛ける。

 

「もしかして最近俺達がやったわけでもないのに敵の戦力が削がれてるのって…」

「冬香一人でやったことさ」

「……」

 

笑顔で答えるリアに練だけでなくクレアも冬香を捉える。

クレアは冬香の結果(実力)に警戒し、練もさっき間合いを詰められたことも含めて警戒心を露わにした。

と、練が警戒すると同時に冬香の眉が歪む。

今まで沈黙していた口をゆっくり開いた。

 

「何故、避けるの…?」

「えっ……俺?」

「えぇ」

 

周りに誰もいないことから練は自身を指差し、冬香は頷く。

そして、練の胸に柔らかい感触が飛び込んでくる。

冬香が抱きついてきたのだ。

 

「っ!?」

「避けないで…」

 

消え入りそうな声で胸の中で呟く女の子の冬香。

練は弾き飛ばすこともできず、はたまた抱き返すこともできない。

ただ戸惑う中、顔を上げた冬香とまた目が合った。

 

「貴方に…会いたかった」

「……っ」

 

冬香の流す弱々しい涙。

決して練を逃さない瞳。

この時練はまたしても詰められた間合いを、この一ヶ月でつけたはずの実力を、自身をたった一人の少女によって崩壊させられたことと単純な驚愕に頭が埋め尽くされていた。

練に抱きつく冬香を眺めるリア。

 

「冬香・パーシヴァル。君に覚悟を問おう」

「……っ」

「……?」

 

リアの質問。

『ブラッドスターク』に加入する際に必ず聞かれるものだ。

練は一ヶ月前の同じ出来事を思い出して気を張り締め、冬香は練のその様子を感じて首を傾げた。

リアは構わず続ける。

 

「冬香。君は人を殺す覚悟があるか。その胸に抱く信念はあるかな?」

「……わからない」

 

返ってきたのは曖昧な答え。

しかし、でも…と冬香は後付けする。

 

「恩返しをしたい」

「ほう」

 

冬香の目線は練。

大体の事情を把握したリアは頷く。

当の練は戸惑っているだけだ。

 

「練、冬香は君に恩があるらしい。どうして返したらいい?」

「はぁ?何の話だよ…」

「いいから」

「……よく分からんが将軍を殺したやつが奴らに消されないわけがない。うちにいた方が安全なんじゃないか?」

「わかった」

「おや」

 

冬香が無表情で首を縦に振る。

リア自身戦力として冬香を手に入れようとしたが、非情を練達の前でみせるわけにもいかない。

正当手段で勧誘しようとしたところ、なし崩し的に冬香が加入を認めてしまった。

どうやら練のいう事は何でも聞くらしい。

 

「ふむ。戦うか戦わないかは別として我々で保護するのは当然の流れだね。そこまではいい。その後はどうする?言い方は悪いが君は殺しの才能がある。事実、私は喉から手が出るほど欲しいんだが?」

「欲しいってお前…」

「わかった」

「は?」

 

またも首を縦に振る。

なんの感情もない決断が時間が進む事に肯定されてしまった。

練は冷や汗を流す。

 

「お、おい。お前さすがに――」

「いいじゃないか!ようこそ、『ブラッドスターク』へ」

「なっ…!?」

 

強引に手を差し伸べるリアにその手を掴む冬香。

練は絶句した。

リアの思惑に気付いているクレアも非難と軽蔑の目をリアに向ける。

リアはそんなものに目もくれず勝手に話を進めた。

 

「教育係は練。冬香、暫くこの男に付いていくといい」

「わかった」

「お、おい!」

 

勝手に進む話を練が止めようとするがリアは無視。

冬香を練に押し付けてきた。

 

「さあ行った行った!まずは本拠(ホーム)を見学するといい。どうせ住まうことになるんだからね」

「リアてめぇ――」

「もう他の団員(みんな)も帰ってきてる。是非挨拶にでも行ってくれたまえ」

「お、おい!?」

 

無理矢理招集室を追い出される練と冬香。

締め出され、練が扉を叩くもリアは返答しなかった。

――冬香が何故か真似していたのは無視して、練は諦めて冬香を連れて廊下を歩く。

 

「言いたいことは色々あるが…はぁ。クレアと話すまでお預けだ。案内する、行くぞ」

「わかった」

「……なぁ、その無表情で頷くのやめてくれないか?普通に話せないのか」

「わかったわ」

「はぁ。口調が崩れただけか…。まあいい」

 

練は諦めて冬香を連れる。

一方、クレアはリアを睨んでいた。

軽蔑の眼差しは未だに続いている。

それは彼女の『正義心』故だ。

 

「リア。どういうつもりだ」

「……すまない。正当法でいこうとしたんだがね。焦ってしまった」

「お前の事情はどうでもいい。結果起こったことの悪意の話を聞いてるんだ」

「ふむ。現に我々は劣勢にある。これまで仲間達は沢山死んだ。だというのに未だにエリシアなどは殺せていない」

「確かに奴らがいる限り戦力の大元は覆らない。だからといって自己意識もハッキリしてないものを合法で戦力として扱うのは間違っている。お前のやってることは悪だ」

「悪でいいさ」

 

リアは一本の煙草を取り出し、吸い始める。

その表情には隠しきれない影があった。

彼女は願いを紡ぐ。

 

「この国の未来のため、民のため、小人族(パルゥム)のため。私はどれほどでも手を汚そう。我が悲願のために」

「貴様…」

「クレア、私を憎んでくれても構わない。だが私にも譲れないものはあるのだよ」

「もういい。そもそも心情を抱いているものに何を言っても無駄だ」

「イラついているな」

「誰のせいだと思って――!」

「不完全燃焼か?安心しろ、明日からクレアにも暗殺(活動)を再開してもらう。存分に戦うといい」

「ふざけるな!!」

 

クレアが抜剣する。

紅が揺らめく刀身、魔剣『紅蓮』の切っ先がリアを捉えていていた。

だが、リアは感情の揺れの一切を見せずクレアを真摯に見つめる。

 

「先に言っておこう。私は一人の少女の犠牲など惜しまない」

「……もういい。お前とはこの戦いが終わった後に決着をつける」

「御手柔らかに頼むよ」

 

クレアが怒りを露わにしながら退室する。

リアは確認すると椅子を回転させ、笑みを作る。

 

「決着を…か。全く。武闘派ではないんだがね」

 

そもそも勝利した時、リアの立場も成り上がるというのに。

クレアの引導にリアは苦笑いした。

 

 

 

 

 

冬香を案内しつつ本拠(ホーム)を練り歩く練。

廊下を冬香を連れて歩いていると、一人の猫人(キャット・ピープル)と鉢合わせした。

 

「「あっ」」

 

互いに目を合わせたが数秒。

先に先制してきたのは猫人(キャット・ピープル)だった。

間一髪避けた練の頬を鎌が掠める。

 

「あっっぶねえ!!何すんだ猫!?」

「おっとすまねえ、ニャ。手が滑った、ニャ」

「うるせえクソ猫!」

「んなっ!?」

 

練が抜刀して振るう。

猫人(キャット・ピープル)は躱し、鎌で牽制した。

冬香はその一部始終を無表情で見届ける。

 

「大体本拠(ホーム)内で武器を持ち歩いてる時点で確信犯だろうが!毎度毎度俺を狙ってきやがって!?」

「なっ!?なぜバレた――じゃなくてたまたまだ!ニャ」

「うるせえ、言い逃れできねえよ!?」

 

ギャーギャーと言い合う、一方は鳴く二人。

暫く抗争を繰り広げた男達はやがてゼェゼェと荒い呼吸で座り込んだ。

 

「冬香…こいつ…ことある事に俺を狙ってくるクソ猫…覚えなくていい奴な…はぁ…はぁ…」

「丁度切り落としたい首が…ある…だけ、だ…ニャ…。自分の首を恨め…クソ人間(ヒューマン)…はぁ…はぁ、ニャァァ…。はぁ…――――――ん?」

 

やがて、猫人(キャット・ピープル)が冬香の存在にやっと気付く。

目をぱちくりさせた後、「うにゃう!?」と退いた。

 

「だだだ誰だ、ニャ!?こいつ!ニャ」

「……名前?冬香・パーシヴァル…」

「いやいやいやそうじゃなくて、ニャ!?おい!説明しろクソ人間(ヒューマン)

「こいつはメラ。真名(まな)はメラゾなんたら。見ての通り猫人(キャット・ピープル)だ。まあ存在だけ認知しておいてやれ」

「わかった」

「話が勝手に進んでる、ニャ!?」

 

話についていけないメラが右往左往する。

動揺の激しい猫人(キャット・ピープル)を紹介し終えた練は冬香を連れて次に行こうとする。

しかし、その前をメラが立ち塞がった。

 

「え、なに?邪魔なんだが」

「一から説明しろよ、ニャ!」

「……何故語尾ににゃを付けるの?」

「あーえっと、これは猫人(キャット・ピープル)の習性みたいなもんで――」

「よし、行くぞ」

「わかった」

「待てやごらぁ!ニャ」

 

冬香の質問で誤魔化して進もうとする練にまたも立ち塞がる猫人(キャット・ピープル)のメラ。

練は溜息をついた。

 

「なんだよ」

「だから説明しろっての!ニャ!」

「はぁ。仕方ない。耳の穴かっぽじって聞けよ?」

 

練が冬香のことを話す。

新人であることからリアが無理矢理勧誘したことまで。

リアが目をつける理由――才能の話もした。

バカと罵ってはいるが、練はメラの知能を侮れないと練は分析している。

下手に隠しても追及されてしまうだろう。

さすがは『ブラッドスターク』の暗殺者(アサシン)というわけだ。

 

「……ほう」

「……」

 

話を聞き終えて冬香を見遣るメラ。

薄汚れた美貌に顔を顰めた。

 

(オレ)は汚いものが嫌いだ。次会う時までには綺麗にしとけよ、ニャ」

「……」

「おい、聞いてないのか。ニャ」

「冬香。俺も同意だ、少し汚い」

「わかった」

「なんでこいつの言うことは聞くんだよ!ニャ!」

 

また騒ぎ出したメラに練は猫が好みそうな玩具(おもちゃ)を投げる。

不機嫌だったメラは意識とは別に本能で飛んでいく玩具(おもちゃ)に釘付け、目で追っていた。

 

「ニャーウ♪」

「あいつがめんどくさかったらこれで解決する。次行くぞ」

「わかった」

 

メラが本能に従ってる間、練の言葉に従って冬香は去る。

メラが玩具(おもちゃ)でひたすら遊んだ後意識を取り戻した時には二人の姿はなかった。

 

「覚えてろよクソ人間(ヒューマン)ーーーーーン!!」

 

そんなメラの叫びだけが静かに響いた。

メラが叫んだ時には既に練達は鍛錬所まで辿り着いていた。

クレアと毎日鍛錬をする練には馴染みのあるその場所に狼人(ウェアウルフ)とエルフが互いに武器を振り、ぶつかり合っていた。

勝負は引き分けに終わる。

頃合を見て練が冬香を連れて近付くと、二人はこちらに気付いた。

 

「冬香。あの狼みたいなのがなんちゃって無愛想、耳の尖ってる方が武闘派無愛想だ。よし、行くぞ」

「わかった」

「待て待て待て!練、お前その女子(おなご)に何を教えた!?」

「なんちゃって無愛想ってなんですか!?」

 

不快な表情で心外だとでも言うようなエルフの剣士、断固違うと反論するかのように叫ぶ狼人(ウェアウルフ)暗殺者(同業者)

二人は立ち去ろうとした練達を無理矢理押し止めた。

 

「なんだよ、俺は忙しいんだよ」

「とにかくどういう状況か説明してくれ」

「こいつが新人の冬香。以上」

「よろしく」

「だから待ってください!?もっと詳しく…!」

「理解力がないな」

「「誰のせいだと思ってるんだ!」」

 

口を揃えて怒る狼人(ウェアウルフ)とエルフ。

言葉が被ると互いにむっと目を合わせ、また逸らす。

練はここでも仕方なく事情を全て話した。

状況を把握したエルフの騎士が我先にと前に出て冬香に声を掛ける。

 

「先程は仲間のせいで無礼して申し訳ない。私はエル・シッド。真名(まな)ではないが…すまない、そう呼んで欲しい。よろしく頼む」

「わかったわ。よろしく」

「僕の紹介いいですか?」

 

エルフのエルが挨拶を済ませると前に出てきたのは先ほどの狼人(ウェアウルフ)

灰色に近い銀髪のショートヘアを揺らし、左目の眼帯が目立つ彼女は一人称で勘違いされがちだが女性だ。

傷はあれども美貌が揃う『ブラッドスターク』内でも引けを取っていない。

 

「僕はジル・アリアドス。ジルと呼んでください。よろしくお願いします」

「えぇ。よろしく」

 

握手を交わすジルと冬香。

会釈を向けるジルだが、冬香は相変わらずの無表情でジルは困惑する。

 

「あ、あの…」

「事情があるんだろう。今はそっとしておいてやろう」

「そう…ですね」

 

エルの耳打ちにジルは頷く。

経験がものをいうのだろう、冬香の底知れぬ闇を二人は悟った。

これは一度絶望したものが得る無感情(もの)だ。

こればかりは時間が解決するしかない。

練は頃合を見て口を挟む。

 

「もういいか?」

「あぁ。そろそろ鍛錬にも戻りたいのでな」

「え!?まだやるんですか?」

「何を弱音を。我々は一刻でも強くならねばならん」

「わ、分かりましたよ…そう睨まないでください」

「鍛錬…」

 

武器を手に鍛錬に戻ろうとするエルとジルを見て冬香が呟く。

呟きを拾った練が一応問うてみた。

 

「参加してみるか?」

「うん」

 

まさか頷くとは思ってなかった練は少し驚くが、木刀を手渡し顎をしゃくる。

 

「ほら、行ってこい。待ってるから」

「わかった」

 

木刀を手にエルとジルに共に鍛錬をと申し込む冬香。

二人は困惑したが、練に目を向けたエルが頷く彼を見て応じた。

 

「いいだろう。私でよければ相手になろう」

「大丈夫。よろしく」

 

怪我をせぬよう武器を木刀に変えるエルが冬香と対峙する。

ジルの合図で畳を蹴り、駆ける双方。

ぶつかり合う木刀。

数秒で決すると思われた戦いは一分二分と続き、エルも呼吸を荒らす。

眺めていたジルと練は驚愕し、戦いから目が離せなくなった。

やがて、決着は付かず。

練は努力を踏みにじる才能を前に唇を噛み締めた。

鍛錬を終え、もうすっかり日も暮れる頃。

冬香を連れた練は最後に食堂を訪れる。

鍛錬で疲労したのか冬香は腹を鳴らしていた。

表情に変化はない様子が練を少しイラつかせる。

 

「ここが食堂。確か今日の料理当番は――」

「ようこそ!『ブラッドスターク』へ!歓迎するよ~」

「うげっ。なんだこれ」

 

食堂が見たこともない程華やかになっていて、練は表情を曇らせる。

微妙な顔をする練の横で冬香は食堂を見渡し、興味が無いのか練に視線を集約させた。

この日一日相変わらず練を見ていた。

 

「あちゃー。三度の飯より練派?僕頑張ったのに辛いなぁ」

「どうでもいいけどなんだよこれ」

「え?なにって歓迎会だけど?」

「……なんでお前が冬香が来たこと知ってるんだ?」

 

リアは練とクレア以外に伝えてはいないと言っていた。

それを目の前の小人族(パルゥム)は平然と把握している。

よくよく見るとフレンチメイドを纏っている。

後に神々によって『メイド服』と名付けられる貴族直属の仕様人などが着用するものだ。

どこでそれを手に入れたのか問い詰めたいが、生憎面倒臭いことになりそうだと判断した練は無視した。

 

「あ、この服はねー」

「説明しなくていい!」

 

言い始める前に遮られた小人族(パルゥム)はケチーっと口を尖らせる。

フリルをなびかせる小人族(パルゥム)は冬香の前に行くとスカートの端を摘んでお辞儀した。

 

「初めまして。僕はマイア・クワイア。気軽にマイアって呼んでね!」

「わかった」

 

頷く冬香。

片目を意図的に閉じる仕草を見せ、マイアは冬香の背を押す。

 

「ささっ、美味しいデザートを作ったんだ~。良かったら食べて?歓迎の意味を込めてね!」

「えぇ」

 

差し出される果物たっぷりのパフェを前に冬香はそれを見つめる。

食べ方がわからないと言うとマイアが教え、一口口に入れた。

 

「美味しい…」

 

初めて冬香の頬がほんの少しだけ緩む。

マイアは何度も頷く。

 

「うんうん。やっぱり甘くて美味しいもの食べると幸せになるよね~」

「さも自分が女みたいな言動そろそろやめろ。虫唾が走る」

「やーん。練は男性的(ボーイッシュ)な方が好み?」

「そうじゃねえよ!いい加減にしろ色ボケ野郎!」

「……野郎?」

 

冬香が口元にクリームを付けながら首を傾げる。

マイアはそれを指ですくって舐め、悪戯な笑みを浮かべた。

 

「そ。僕実は男の子なんだ~。ビックリした?」

「女性だと思っていたわ…」

「うーん、あんまり表情差分(インパクト)はないね。残念!」

「冬香で遊ぶなバカ」

「バカバカ言うなー!バカっていう方がバカなんだ、ぞっ!」

「はいはい」

 

鼻をつんつんとつついてくるマイアを鬱陶しく思いながら練も座る。

冬香はマイアを眺めていた。

 

「ん?どうしたのー?」

「いえ…別に…」

 

表情には表れていないが、冬香は充分驚いていた。

普段荒事をしているとは思えない綺麗で白い肌に、可愛らしい服装(メイド服)も似合う愛らしさ。

エルはエルフ特有の美しさと黒髪赤眼(こくはつせきがん)という特徴的で綺麗な瞳、頬に一つの傷があるのが玉に瑕と言える美貌があるがマイアは別系統の美貌だった。

表現するならばエルが美しい、マイアが可愛いとなるだろう。

そんなマイアに練はどんな反応を示すかと冬香は見遣るが、彼はマイアに目もくれてない。

だが、丁度扉を開け放った誰かが食堂に入ってきた時練の目線が動いた。

紅髪に全てを虜にする絶対的な高貴な美貌。

例えようのない美しさがそこにあった。

練の視線と心の全てを奪うそれを冬香は目に焼き付ける。

 

「ここに居たのか、練」

「クレア。どうしたんだ?」

「うむ。小腹が空いたからな。少し満たしに…っとマイアもいたのか」

「どもー。相変わらず綺麗だね~」

「ふっ。世辞はいいさ。ありがとう」

「……世辞じゃないんだけどね」

 

マイアが苦笑いを浮かべつつボヤくのも理解できる。

否、理解させられる。

クレアという絶世の美女に冬香は人知れず絶望した。

これが恋敵なのか、と。

これが練の憧憬なのか、と。

この時冬香の中の感情(何か)が解放された。

クレアが向かいの席につこうとするところで冬香は突如立ち上がる。

 

「……?どうした」

「クレア…と言ったわね」

「あ、あぁ」

 

一度紹介を済ませてあるクレアだが、最初に会った時と雰囲気の違い冬香に戸惑う。

練に視線を向けるが、彼も首を横に振る。

練自身も困惑していた。

マイアも呆けるのも無視し、冬香はフォークの刃先をクレアに向ける。

 

「貴女を、超える」

 




マイア・クワイアを提案してくださった如月遙様。
エル・シッドを提案してくださった駄ピン・レクイエム様。
ジル・アリアドスを提案してくださった兎詐偽様。
改めて募集に参加して頂きありがとうございました。
これからもよろしくお願いします。
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