罪を犯したエルフをファミリアに誘うのは間違ってるだろうか(凍結)(メインタイトル関係なし) 作:伊つき
「いや~、長旅の後のお風呂は最高だね!」
「そうだな」
沸き上がる湯気。
寒さで冷える身体に熱湯の温かみが染み渡る。
気持ちのいい湯にマイアが伸びをする男湯。
寒空の下で浸かる露天風呂は極東人にとって至福の時間だ。
「いよいよ、明日だな」
「だね~」
「ニャア…」
東北に辿り着いた練達は戦争の下準備を済ませた後、集会し、英気を養うために身を休めている。
回復に徹し、明日には
今のうちに休むのはリアの決定だ。
「ねえ。僕達ブリュンに勝てるかな…」
「勝てるか勝てないかじゃない、ニャ」
「あぁ。勝つしかない」
「そう…だね」
敗北は許されない。
エリシアを仕留める
尋ねたマイアも理解はしている。
「あーあ、自信ないなー…」
「不安になることばっか言うなよ」
「むー、だってぇー」
「……相手が相手だから気持ちは分からなくはないがな」
「メラ?」
言葉とは裏腹にメラからは闘気を感じる。
昔からメラを知っているマイアはメラの変化を勘づきつつあった。
実際、メラは復讐だけが戦う理由ではなくなっていた。
守るべきものができた彼はこの戦いに向ける思いは彼らの中でも人一倍大きい。
エリシアとの対決はメラにとって『ケジメ』でもあった。
メラの過去を察しつつも知らないマイアと練にメラは誤魔化す。
「本当だ、ニャ。オレも少し不安だ、ニャ」
「そうなの?あんまりそうは見えないけど…ま、いっか!悩んでてもしょうがないよね!」
「開き直りが早いのはお前の利点だな」
「まーたそんなこと言ってー。うりうり~、練ってば素直じゃないな~」
「つつくな吐息をかけるな密着するな!あと皮肉言ってんだよバカ!」
「あー、またバカって言ったー。練は他に言うことないのー?」
「うるせえ!」
「あははっ!」
切り替えていつものように陽気に振る舞うマイア。
練をからかい、この一時だけは任務を忘れて日常に戻る。
メラは気持ちのいい湯の温かみに目を細めながらそんな日常をぼんやりと眺めていた。
竹の壁を隔てた女の湯。
マイアや練の楽しげな声やら叫び声を耳に、リアは微笑みながら酒を呷り、ジルは
ジルの隣には冬香が相変わらず無表情で竹の壁を、男湯の方を眺めている。
一人だけ離れてエルが肩まで浸かった湯に身を清める中、普段はなびかせている紅髪を上に纏めているクレアが湯から出る。
「先に失礼する」
「もう上がるんですか?」
「あぁ。私はまだやることがあるからな」
「すまないクレア。クレアにだけ重労をさせてしまって」
「構わないさ。魔剣は私にしか作れない」
「感謝するよ」
問題ない、とリアの感謝を背にクレアは温泉を後にする。
残された面々は各々寛ぐ。
ジルは終始微動だにしない目線を男湯に送る冬香に微妙な顔をしていた。
「冬香さん。そんなに見つめても何も見えませんよ」
「大丈夫」
「……言っても無駄ですか」
淡々と返してきた冬香の視線は未だ固定されたまま。
ジルが諦めて溜息をつく。
リアすらも苦笑いしていた。
「ははは…冬香はそんなにメラが気になるかい?」
「え?なんでメラさん?練さんでは?」
「なんだ。気付いてないのか」
遠目で一連の流れを見ていたエルが充分に身を清めた状態で通りざまに言ってくれる。
エルも分かっていることを一人知らないジルは狼狽えた。
「えぇ!?なんで僕だけ知らないんですか!?」
「ははは、ジルは少し鈍感なところがあるようだね」
「鈍感じゃありませんよ!それより教えてください」
「ふむ。最近彼らは仲が良い。まるで兄妹のようだと私は見ている」
「兄妹…?」
ジルが首を傾げる。
確かに冬香とメラの間には恋愛感情はない。
冬香も練に抱く熱烈なものはメラに注いでいなかった。
彼らの関係を指すならば兄妹というのが正しいのかもしれない。
信頼し合い、互いの
だが、ジルは知らない。
ここまでの旅の道中でも然り、だ。
几帳面な性格が裏目に出てしまい、冬香とメラの関係を目にすることは少なかったといえるだろう。
「えっと…ほんとなんですか?誰を連想してました?」
「…メラ」
「ほんとだ…」
それとなく尋ねると冬香からも同じ答えが返ってくる。
ジルはもう少し皆と接しようと涙ながらに決意した。
すると、冬香が湯から上がる。
「…あと練」
「え?」
それだけを言い残して冬香は去ってしまう。
最後の呟きにジルは困惑しながらエルの方を見る。
エルは微妙な表情をジルが向くと同時に引っ込めた。
「どうやら冬香に気を使わせてしまったみたいだな」
「やっぱりそうですかね…。なんだか情けなく思えてきましたよ」
エルやジルより若く、歳の離れている少女に気を使わせてしまったことを少し申し訳なく思う。
そんな彼女達の勘違いをリアが正した。
「いや?あれは本音だと思うよ」
「「え?」」
エルフと
一瞬だが、冬香が去る際にリアは見ていた。
彼女の耳が先まで真っ赤に染まっていたことに。
顔には出さない初心な少女にリアはこっそり微笑んだ。
こうして
革命軍が位置する沿岸部は対称的に深い森林に囲まれている。
海と森に挟まれる形で存在する革命軍の砦を前に森林が燃えていた。
森林を進軍する影が六つ。
その中の一つに【
森林から六つの煙が上がる中、革命軍は六手に分かれた進撃を受けていた。
敵の陣形を見てリアが控えさせていた
「あちらが少数で攻めて来た意味がやっと分かった。人員削減、被害を極力まで抑えることと確実に我々の
「どういうこと?」
リアの説明にいまいちピンとこないのかマイアが尋ねる。
他の面々も半分が首を傾げる中、リアは補足してくれた。
「敵は六手に分かれている。魔剣があるとはいえ数が少なくなってきたここを狙ってきた。魔剣を補充する前に潰す目的だと思う」
「大剣型の魔剣は二本しかない。あの部隊を一つ潰すだけでも大剣型を一本は使う」
「一部隊につき六百程度だろ?そんなに使うか?」
「練。魔剣の耐久性は通常武器より低い。これまで酷使してきた魔剣が最後までもつと思うか?」
「……そういうことか」
革命軍が所持する魔剣の親であるクレアの説明に練は顔を渋らせる。
できれば知りたくなかった事実だ。
「革命軍が相手にできるのは二部隊…いや、他の魔剣と彼らの戦力を合わせて四部隊は相手にできるが…」
「半分ぐらい足りないね」
「そうですね…。二部隊に攻め込まれてどちらかにエリシアがいたらたまったもんありません」
「それが狙い、ニャ。仮に大剣型がエリシアと当たってもエリシアに返り討ちに合う可能性が高い、ニャ」
「つまりなににせよエリシアが攻め込んでくる。勝率は絶望的…」
各々の言葉が重なる事に覆せない戦況に空気が重くなる。
即ちエリシアがいる限り革命軍に勝利はない。
これ以上にない完璧な作戦だった。
「なにを落ち込む?君達、ここに来た理由を忘れたわけじゃないだろうね」
「……っ。そうか!」
練が顔を上げたと同時、全員が同じ思考に辿り着く。
ここまで考えてきたのは東北に位置する革命軍
仮に練達が来なかった場合壊滅していたという今となっては
だが、『ブラッドスターク』は戦場にいる。
これは敵にとっても大きな誤算の筈だ。
エリシアなら考慮しているかもしれないが、さすがに全メンバーが揃っているなど考えもしないだろう。
それ程に
そもそもエリシアは『ブラッドスターク』の戦力を完全把握はできていない。
それはエリシア一概には言えない、国家政府組織全てに関して言えることだ。
「練、冬香、マイア、メラは顔割れしていない。あちらは我々の戦力の半分程しか把握していない筈だ」
「私達が来たことで魔剣も補充できる。持ってきた魔剣は革命軍が持つものを遥かに凌駕するし、数は比較にもならない」
「つまり対抗策は俺達。勝機も俺達だったってことか!」
「あぁ。だが、油断は禁物だ。ここまで来るまでに話し合った通りエリシアと対決することが一番の脅威。我々が来たからといって完全勝利はない」
「理解している。我が剣に誓って愚かな真似はしない。あのエルフの面汚しは…」
「皆で倒す、でしょ?」
「あぁ」
マイアの言葉にエルが頷く。
エルはエルフ種族、種族に対する冒涜とも取れるエリシアの行動に怒りを感じる者だがエル自身既に自らの手を血で汚しているためエルフ種族ということに胸を張るつもりはない。
それでも汚れた
しかし、それも昔の話。
今は一致団結してエリシアの必殺に全員が賛同した。
一人メラを除いて。
「トドメを俺にやらせてくれ、ニャ」
「メラ…」
「私も我慢するんだ。お前も少しは自重しろ」
「わかってる、ニャ。だがそれでも…!」
「メラ」
私情を露わにするメラにリアが名を呼ぶ。
感情的になっていたメラだが、彼女の瞳を見ると渋々身を引いた。
「……悪かった。自重する」
「失敗は許されない。メラの同意に感謝するよ」
「これで満場一致だな」
練の締めくくりに頷く『ブラッドスターク』の
確認したリアは作戦を伝え、彼らに告げた。
「任務開始…!総員、エリシアを討て!」
『了解!』
班分けは練、クレア、エル、ジル、マイアの五手と、メラと冬香の二人組。
木々を分けて森林を進んでいくメラは不満を感じた。
リアの指示で冬香と組んだことになったメラだが、要するに冬香をメラの
頭の切れるメラはすぐさま理解したが、押し黙ったのには理由がある。
恐らくリアの思惑通りだろう。
しかし、冬香が傍にいる。
冬香を身近で守れる安心感は否定できない。
考えられた編成だが、メラも意見できなくなった。
メラの私情には冬香を守りたいという強い想いがある。
利用されたことは癪でも人を殺す『覚悟』がない冬香は危なっかしい。
そんな冬香はメラの後を付いてくる。
メラは背後の冬香に目を向けた。
「もうすぐ敵が見える、ニャ。心の準備は?」
「大丈夫…」
「了解。何かあったらオレが守ってやる、ニャ」
冬香を連れて自然の通路を視界に捉える。
気付かれないよう木に登って上空から敵部隊を観察する。
冬香もメラの元に来て、クレアの魔剣を取り出した。
「……エリシアはいない。魔剣をくれ、ニャ」
「わかった」
冬香から魔剣を受け取る。
二対の魔剣を手にメラは敵前に降下した。
冬香は待機、メラは着地と共に魔剣を振るう。
「なっ!?何者――」
「消し飛べ!!」
振り下ろした魔剣から火炎が出現する。
メラの目の前で竜の
『うわああああああああああああああああ!?』
一瞬にして焼き焦げる草木。
塵となって舞う中、六百もの敵兵のうち五十もの命が燃え尽きた。
魔剣二本の威力に内心クレアを畏怖するメラは再度振り上げる。
だが、そこに
赤い
「なっ…!?」
手に握っていた魔剣が粉々になるのを目にメラは驚愕する。
そして、砕けた魔剣の断片から反射してとある影を発見する。
雪のような純白の髪、透き通る程の白い肌、尖った耳と戦場だというのに返り血一つ付いていない雪白色の
メラはその顔を覚えている。
憎き相手――浮遊する
「軍曹、エリシア…!」
「その魔剣…『クロッゾ』か。ということは【
「くっ…!」
正体を一瞬で看破されたメラは顰める。
仕方なく武器の鎌を取り出し、臨戦態勢を取った。
「冬香!皆に伝達を…!」
「わ、わかっ――」
「――させん」
またしても赤い一閃。
冬香が取り出した水晶が砕かれる。
以前、革命軍がエリシアから奪うことに成功した
冬香が持つ水晶を含めそれが六つ。
離れていても水晶を通して通信ができるという
リアはこれを使い、六手に分かれた
見受けられなければクレアの魔剣を使って敵部隊を殲滅するという作戦を立てていた。
だが、連絡手段の水晶は粉々になって冬香の手から散る。
唯一の連絡手段を失ったメラは吠えた。
「冬香、合流地点へ行け!」
「で、でも…」
「いいから行け!お前の口で皆に伝えるんだ、ニャ!」
「わかった…!」
メラに従い、冬香が森林の奥へと戻る。
エリシアは逃がさまいと地を蹴るが、メラが鎌で牽制。
「お前の相手はオレだ、ニャ」
「ははっ、相手になると思っているのか?お前を殺してあの女も殺してやろう」
「舐めるな!!」
鎌を構えてメラが駆ける。
エリシアの首を目掛けて鎌を振りかざすが、赤い
「さっきからなんだニャ!?」
「ほう…今のを避けるか。さっきといい少し遊んでやるのはいいかもしれん」
突如彼女の周りの空間に
「『ファング』」
異空間への接続を可能にする
出現した遠隔誘導兵器にメラは目を見開く。
飛び回る小型の金属塊は主な武器が剣や弓矢であることが常識な者達には衝撃的なものだ。
それが
常識の範疇を超えた
『ファング』に狙われるメラだが、飛んでくるそれを器用に避ける。
数は六。
最初こそ驚いたものの話には聞いていたメラは無理矢理対応して躱し続ける。
「飛び道具か?何度も向かってきて鬱陶しいニャ…!」
「ほう、六では足りんか」
メラの動きに関心するエリシアはさらに
そこからさらに六つの『ファング』が飛び出た。
飛来してくる十二の『ファング』にメラも焦る。
「避けきれない!ならば、捌くニャ…!!」
避けても避けても着弾することなく向かってくる『ファング』をメラは鎌で叩き落とす。
しかし、それでも『ファング』はまた浮上し、メラに向かってきた。
「はははは!『ファング』は破壊しない限り一生貴様にまとわりつくぞ?」
「ふざけろ…!」
渋い戦況にメラは表情を歪ませて森林の奥へと入る。
『ファング』から逃げるようにメラは猫の如く駆けた。
森林へ逃げたメラにエリシアは部隊に指示を出す。
「お前達は先に進め。砦は頼む。私はあの猫ともう少し遊――ではなく、『ブラッドスターク』を仕留める」
「了解しました!進軍!」
隊長格が部隊に命令し、動きを再開する。
エリシアは『ファング』を相手に逃げ惑う猫を楽しそうに追いかけ始めた。
やがて、森林を駆けていると視界に『ファング』を避け、苦戦する
「少し様子を見るか。もし『ファング』を退けるならば……くははっ!久々に楽しめそうだ…!」
「くそ…!キリがない、ニャ!」
エリシアに見られていると察しながらもメラは『ファング』の対応に追われる。
森林を駆けながら冬香とは別方向へ離れていくメラ。
エリシアは頭の隅でどこまで行くのかと疑問を感じなからも久々の難敵に遭遇した楽しさで思考を破棄する。
――そんなことはどうでもいい、と。
メラは逃げても逃げても追ってくる『ファング』に焦燥を隠せない。
「追尾してくるのかニャ!厄介な…!」
「永遠に付き纏うと言っただろう!『ファング』の恐ろしさはまだまだこんなものではないぞ!」
「……っ」
エリシアの叫びと共に『ファング』の一部が隊列を組む。
メラ目掛けて飛行する『ファング』の先から水晶を破壊した赤い
メラはそれを間一髪で避けた。
「なんだ!?魔法…なわけがない、光弾か!?」
彷彿させるのは魔法。
しかし、
言葉が思い当たらず光弾と呼称するメラだが、光弾というよりは
矢よりも魔法よりも速く正確な
避けるのが精一杯になり、もう『ファング』を叩き落とす余裕はない。
「避けるか。中々やる」
奮闘するメラにエリシアはさらに笑みを浮かべる。
知らぬ間にメラともっと戦いたいと願っていた。
「はあああああああああっ!!」
メラの怒号が響く。
避けていたところで状況は解決しない。
エリシアの心情など読めるはずもないメラはエリシアの追撃を恐れて賭けに出た。
仲間を待つ時間はない。
待っていたら自身が死ぬ。
死ぬわけにはいない、冬香の為にも。
メラは生きるため、守るため、復讐のために地を踏む。
『ファング』を相手にメラは鎌を振るった。