罪を犯したエルフをファミリアに誘うのは間違ってるだろうか(凍結)(メインタイトル関係なし)   作:伊つき

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注意 残酷


第44話

――合流地点へ行け。

メラの言葉に従い、冬香は水晶で通信を受けた際に全員が集まる予定だった場所へ向かう。

エリシアを発見した時一度集まり、全員でエリシアを討つ。

それがリアの作戦だった。

しかし、作戦は失敗。

メラと冬香がエリシアと遭遇してしまい、水晶は壊れた。

細心の注意を払って確認した筈だったが、二人は見落としていたのだ。

部隊の先行をし、偵察から戻ってきたエリシアの存在を。

彼らの誤算はただ一つ。

周囲を見てなかったこととエリシアが部隊と進行方向逆方面から来ないという確証もない自信だった。

油断はしていない、慢心さえも。

ただの見落とし。頭が回らなかっただけだ。

 

「はぁ…はぁ…!」

 

荒い呼吸と共に足を止めない冬香。

リアが待つ合流地点へと一刻でも早く辿り着くために走り続ける。

道中、冬香の近くで爆音が起こった。

 

「……っ!?」

 

突然の爆発に驚く冬香だが、近くで上がる煙を見て思い立つことがあった。

メラや冬香が遭遇したエリシアの部隊とは他に五手に分かれて敵は攻めてきている。

そして、それに対抗するように六手に分かれた『ブラッドスターク』。

必然的に六箇所で同時に戦闘が始まるのは当然のことだ。

冬香が見た煙、敵に魔道士でもいない限りあれ程の爆発は起きない。

つまり仲間の、クレアの魔剣である可能性が高いところまで冬香は考えついた。

 

「あそこに、行けば……っ!」

 

冬香の行動は早かった。

一秒でも無駄にしない思考の切り替え。

まだ戦場に慣れていない筈の冬香は成し遂げた。

草木を飛び越え、無駄のない跳躍と疾走を繰り返し、最短ルートを辿る。

冬香の道筋がいいのか、彼女の速度は微塵も落ちる様子はなかった。

やがて、焦げ臭い通路へ出る。

 

「練!」

「冬香?なんでここに…」

 

見つけたのはナガト・練。

砕けた魔剣を手に汗を拭っている。

どうやら戦闘が終了したと状況を見て判断した冬香は練にしがみついて必死に伝えたいことを口にした。

 

「練、助けて!メラが…メラがっ…!」

「メラがどうした?一体何が――」

 

戸惑う練だったが、言葉を途中で切る。

尋常ではない冬香の焦燥と切迫。

幼少期から異常環境で暗殺者(アサシン)として育った練は直感でメラの危機を悟った。

 

「わかった。すぐ向かおう」

「そっちじゃない!メラは――」

「いや、リアの所に行こう。エリシアがいるんだろ?俺とお前だけじゃ返り討ちに遭うだけだ。一旦戻って皆と合流する。リアの指示を聞いてエリシアを確実に仕留めるぞ」

「それじゃメラが…」

 

冬香がいまにも涙を流しそうになる。

練はそんな彼女の頭を撫でてやった。

 

「大丈夫だ。メラは強い。冬香が一番知ってるだろ?」

「……うん」

「今は一秒でも無駄にできない。メラを助けるためにも急ぐぞ」

「……っ。えぇ」

 

冬香は泣きながら頷く。

練より利口な冬香ならば練の的確な判断を練より理解できる。

冷静になって冬香は練と共に駆けた。

 

「メラ…無事でいて…」

 

ただそれだけを祈って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

流れる森林の景色。

先程まで踏んでいた地面が赤い光線(レーザー)によって抉られる。

猫人(キャット・ピープル)のメラは襲い来る遠隔誘導兵器、魔道具(マジック・アイテム)『ファング』を避けつつその表情を苦くする。

避けても叩き落としても標的を変えずに向かってくる『ファング』にメラも疲弊してきていた。

赤い光線(レーザー)を鎌を回転させ、弾く。

 

「はぁ…はぁ…くそっ…!」

「はははは!踊れ踊れ」

 

幾ら『ファング』や光線(レーザー)を防ごうが躱そうが休む暇がない。

だが、メラとてずっとジリ便をしていたわけではない。

追撃の光線(レーザー)を、鎌の逆先端で地を突き跳躍して躱す。

続いて着地時を狙ってきた光線(レーザー)がメラの狙いだった。

 

「はあっ!!」

「おっ」

 

光線(レーザー)を鎌で弾かせたメラはそれを的確に射撃してきた『ファング』に当て返す。

金属をも焼き穿つ光線(レーザー)に『ファング』が二機墜ちた。

メラが『ブラッドスターク』で磨いてきた対応力と潜在能力(ポテンシャル)の正確な狙い、器用な猫人(キャット・ピープル)の賜物だ。

メラの動きにエリシアの目の色が変わる。

 

「やはりそれなりにやる。『ファング』にやらせるのはあまりに勿体ないな」

「はああっ!!」

「次は三機か。面白い、私が相手をしてやる!」

「遂にくるか…!」

 

『ファング』を避け、降り立つエリシアに目を向けるメラ。

エリシアが地を踏むと同時に『ファング』が退散し、辺りを警戒しつつもメラはエリシアと対峙、鎌を構えた。

 

「行くぞ」

「……っっ!」

 

今までで一番の圧。

間違いなく人生最強の相手。

メラは全身の毛を逆立てて、意識の全てを目の前の敵に集約する。

鎌を手に駆けた。

 

「軍曹、エリシア…!!」

「そう何度も呼ぶな。ふっ、人気者は辛いな!」

 

『カオス』を出現させるエリシア。

異空間から鍵鎚(ハンマー)を取り出す。

鎌を振り下ろそうとするメラに鍵鎚(ハンマー)を振るう。

 

「ぐおっ…!?」

「避けたか」

 

巨大な得物(ハンマー)にメラが飛び退く。

瞬時な判断にエリシアは関心しながらも地を抉った鍵鎚(ハンマー)を再度持ち上げる。

間一髪躱したメラだが、鍵鎚(ハンマー)の打撃部を遥かに超える大きい粉砕跡(クレーター)を視界の端に捉えて首を傾げる。

違和感があるが今は気にしている暇はない。

カシュカシュと蒸気音が鍵鎚(ハンマー)から聞こえる中、メラは汗を拭った。

睨み合いの果てにメラから攻撃を仕掛ける。

 

「真正面からとは正直なやつだ!」

「そんなわけがあるか!」

「なに!?」

 

上から迫る鍵鎚(ハンマー)にメラは地を蹴り、地を滑る。

横からエリシアの背後に回ったメラは鎌で心臓を狙う。

 

「貰った…!」

「――甘いな」

「なっ!?」

 

エリシアが振り返る。

『カオス』を使って異空間を移動し、反転したのだ。

そして、メラに迫るのは鍵鎚(ハンマー)

メラは咄嗟に後退し、衝突範囲から抜けた。

しかし――。

 

「『ゼノン』!」

「まさかそれも魔道(マジック・ア)――っ!?」

 

メラの前に鍵鎚(ハンマー)型の魔道具(マジック・アイテム)『ゼノン』が振り落ちる。

躱した筈のメラは突如謎の衝撃に襲われて少し離れた大木に背中を打ち付けた。

 

「かはっ…!?」

 

押し潰されそうな圧迫感に襲われたメラ。

蹌踉めきながらも決して膝はつかず、エリシアを睨む。

 

「『ゼノン』。一定範囲に衝撃を与える魔道具(マジック・アイテム)。いや、魔武具(マジック・ウエポン)だ」

 

鍵鎚(ハンマー)の説明をするエリシア。

それだけの余裕があることにメラは憤りを感じる。

完全に舐められていると理解したメラは鎌を握る手を強めた。

一定範囲に衝撃を与える能力はつまり外したとしてもメラのように衝撃波で吹き飛ばされるというもの。

範囲設定はあれども通常の鍵鎚(ハンマー)による攻撃範囲から衝撃波の範囲を含めて考慮すると常人ではほぼ避けきれない広範囲の圧縮攻撃が可能になる。

メラも悟ったのか、表情を歪める。

魔武具(マジック・ウエポン)というだけあって戦場においてはとてつもない脅威だった。

 

「さぁどうする?仲間が来るまで待つか?そんな猶予は与えんがな」

「その必要はない、ニャ」

「ほう?」

 

鎌の切っ先をエリシアに向ける。

そこには一人の暗殺者(アサシン)猫人(キャット・ピープル)のメラゾフィスがいた。

 

「お前は憎き相手。復讐のため仲間など不要、ニャ。貴様はオレの手で殺す。殺してやるニャ!」

「やってみろ、薄汚い暗殺者(アサシン)め。最も不可能だがな!」

「そんなことはない、ニャ!」

 

接敵するメラ。

エリシアの『ゼノン』を躱し、またも背後に回るが『カオス』で反転したエリシアと対峙することになる。

先程と同じ、にはならない。

繰り返すほどメラは馬鹿ではない。

エリシアが『ゼノン』を振り下ろす前にメラが鎌を投げる。

至近距離で放たれた鎌にエリシアは舌打ちして空間を移動、後退した。

その隙を利用しない手はない。

メラはナイフを取り出しさらに投擲する。

 

「『ファング』!」

「狙い通り…!」

 

ナイフを落とすために『ファング』を動かしたエリシア。

メラはエリシアの意識を少しでも割くことができた間に鎌を拾って接近する。

茂みから飛んでくる『ファング』に全て投げナイフをぶつけ、顔を苦くするエリシアの手を――『ゼノン』の柄を鎌の逆先端で突く。

寒気で痛みが増す生肌に打撃を受けたエリシアは『ゼノン』から手を離し、得物を無くした。

 

「ほう…やるな!」

「死ね!」

「『レラーゾ』」

 

エリシアの空いた手に現れる空間の穴(ゲート)

『カオス』から取り出したのは新たな魔道具(マジック・アイテム)

鎌型の魔武具(マジック・ウエポン)『レラーゾ』。

メラの鎌とエリシアの鎌。

両者がぶつかり合った時、メラの鎌が忽然と消えた。

 

「なにっ!?」

「ふははっ、これが『レラーゾ』の能力!」

「ぐっ…!」

 

咄嗟に懐から取り出した短剣二対で左右から攻めてきた()()の刃を受け止める。

エリシアの得物にメラの鎌が増えていた。

 

「オレの鎌を…!?」

「『レラーゾ』は敵の武器を奪うことができる。『鎌』限定だがな!」

「ふざけんニャ!!」

 

相性が最悪、鎌使いのメラにはうってつけの魔道具(マジック・アイテム)

一度後退したメラは短剣を捨て、ボウガンからワイヤーを放つ。

狙いはメラの鎌――と見せかける。

 

「武器を拾うつもりか。させん――なに!?」

「貰うのはお前の鎌だニャ!」

 

隙をついて『レラーゾ』を奪ったメラ。

特に利点はない、『レラーゾ』だがメラのもち武器である鎌を奪われないという点でまた振り出しに戻すことができた。

(レラーゾ)を武器にメラはエリシアと交戦を繰り広げる。

エリシアは新たな魔武具(マジック・ウエポン)『アモン』という剣を武器として攻防を繰り返している。

 

「『レラーゾ』を奪ったことは褒めてやろう!私が鎌を使わなければ意味は為さないがな!」

「これでもう武器は奪われないニャ!それで充分…!」

「果たしてそれはどうかな…!」

 

会話を交えながら火花を散らす鎌と剣の刃。

メラはある程度攻に乗ってきたタイミングで、ずっと切り出そうとしていたことをエリシアに尋ねる。

 

「軍曹エリシア!リュート村という村に聞き覚えはないか、ニャ」

「リュート?知らんな!」

「いや、知ってる筈ニャ!五年前を思い出せ、ニャ!」

「五年前?」

 

戦闘の間柄、エリシアが記憶を探る。

思考する間でさえメラは攻めきれない。

明らかな『差』があると理解しつつメラはエリシアを殺す気で挑んでいた。

そこには深い復讐がある。

 

「リュート村の村長はお前が処刑した!処刑人エリシア!」

「私が処刑担当だった頃か。……あぁ、思い出したぞ。確かに私が殺した」

「やっと思い出したかニャ!」

「あぁ。私が潰した村のことだろう?忘れていたがな」

「なっ…。潰した!?」

 

驚愕するメラ。

村長を処刑したのがエリシアだということは知っていたが、村の崩壊までもがエリシアのせいだと初めて知った。

――そうか。あの村の惨状、あの業火は。

メラの脳裏に過去の記憶が蘇る。

助けを乞う村人。

小さな村故に顔を知る人物が次々と死んでいく。

誰も、守れなかった。

その元凶が今目の前にいる。

真実を知ったメラの攻撃に勢いが増す。

そこからは数年間溜めてきた怒りが、憤怒が、復讐が込み上げ怒号の如く吠えた。

 

「貴様が村を…!何故あんなことを!!」

「降り掛かる火の粉を払っただけだ。それに王宮にまで侵入してくる不届き者を処分するのは当たり前だろう」

 

メラの問いにエリシアが淡々と返す。

まるで罪など感じていない。

当然のことをしたとでもいうようなエリシアの態度にメラは怒りは収まるどころか増していく。

 

「関係ない人達まで巻き込んでおいて…!」

「それは貴様も同じだ。革命を掲げる暗殺集団共」

「贖罪は受けるさ…。てめぇを殺した後でなぁ!!」

 

メラも立派な人殺し、それは本人が一番理解している。

例えどんな理由があれども命を奪ったことに変わりはない。

だが、それでも譲れない順序(もの)がある。

村長の。家族の。皆の。村の仇。

復讐を済まさなければメラはまだ死ねない。

 

「てめぇらのせいで冬香も一人になった…!」

「知るか。戦いに集中しろ。もっと私を楽しませろ…!」

「楽しむ余裕なんざ与えるか!貴様だけは(むご)たらしく生まれたことを後悔するまで切り刻んでやる!」

「やってみろ…!」

「冬香の悲しみ、皆の仇…その執念をその身で知れ!」

 

メラの怒涛の猛攻は続く。

エリシアの『アモン』による斬撃さえ凌駕せんと鎌を縦横無尽に振り回される。

『アモン』を弾き、『レラーゾ』でエリシアの胸を狙う。

 

「この腐った国の権力者(クズ)共にオレの名を刻んでや――」

「くどい」

 

メラの言葉を遮るようにエリシアから殺気が放たれる。

その瞳には失望が含まれていた。

『アモン』から蒸気音が鳴る。

メラも肌で感じる熱気が『アモン』から漏れていた。

 

「なんニャ!?」

「【戦姫(プリンセス)】の魔剣より威力は劣るが壊されない限り壊れない。『アモン』の()をその身で味わうがいい!」

「その剣はまさか――」

「『アモン』!!」

 

『アモン』から放たれる炎の砲撃。

クレアの魔剣に勝るとも劣らない火炎が一直線に森を朱色(あかいろ)へと染めていく。

たっぷり数秒間、森の生命という生命を焼ききった『アモン』はようやく止まる。

『アモン』を持つエリシアの前にはもはや森林などなく、地を抉られた荒野が広がっていた。

荒野の道(クレーター)の隣に膝をつく影が一人。

小さな耳と細い尻尾は猫人(キャット・ピープル)であることを象徴している。

だが、メラの左肩から先――左腕は消えていた。

彼の残った右手で抑えるのは消えた左腕と自身を繋ぐ今となっては血塗れた断面だ。

 

「ごふっ…!」

 

致命的な負傷をしたメラが吐血する。

そんなメラをエリシアは目を三日月にして表情を歪めていた。

 

「悪いが仕事なのでな。いつまでもは遊んではいられない……が中々楽しかったぞ猫人(キャット・ピープル)

「ぐうっ…!きさ、ま…!」

 

左腕を失っても尚メラは残った利き手で鎌を持つ。

戦意を失っていないメラだが、もはや勝負は見えていた。

 

「もう少し遊びたかったが仕方ない。終わりだ猫人(キャット・ピープル)

「まだ、だ…!」

 

疾走するメラ。

片手一本になったとしてもその動きには多少の衰えしかない。

しかし、相手が悪かった。

 

「『ファング』」

「ぐあっ!?」

 

三機の『ファング』が茂みから飛び出しメラの身体に刺さる。

痛みに顔を歪めながらもメラはその足を踏み込んだ。

目の前にずっと殺したかった復讐相手がいる。

それだけでない。

メラには生きて帰らなければいけない理由がある。

そんなメラの執念が彼の歩みを止めさせない。

なんとかメラが鎌を振り上げる。

重症を負っても尚動くメラにエリシアも少し驚いたが、彼女の口端が吊り上がり歪んだ笑みを見せる。

残酷な現実はメラの執念さえも踏みにじった。

 

「終わりだ。死ね」

「ぐああああああああああああああああああっ!!」

 

メラに刺さっていた『ファング』から光線(レーザー)が放たれる。

零距離からの光線(レーザー)にメラは激痛の叫びを上げ、赤い閃光がメラの身体を貫いた。

大量の鮮血が舞う中、『ファング』に解放されたメラがエリシアの前に倒れ――なかった。

なんとか踏ん張り、誰が見ても瀕死である状態でメラは鎌を手にエリシアと対峙する。

 

「はぁ…はぁ…うっ、ぐっ…!」

「ほう。まだ立つか。しぶとい奴め」

 

諦めの悪いメラにエリシアが苛つく。

エリシアは戦いを好むが、殺し自体に興味はない。

抵抗もないため軍人職として人を殺す。

だからこそエリシアはメラとの激闘は楽しめたがどうせ死ぬというのに踏ん張られるのは面白くなかった。

楽しい戦いは終えた。

勝負はつき、メラの負け。

それで終わらぬメラが腹立たしい。

――トドメ(後始末)などめんどうだ。

早く終わらせて次の戦いへと行きたい。

それだけが戦場においてのエリシアの望み。

余計な時間を取って他の暗殺者(アサシン)を逃したらと考えるとメラに対して怒りが込み上げてきた。

 

「はは…いい表情になってきた、ニャ」

「黙れ」

 

『ファング』から光線(レーザー)を放つ。

心臓を穿つつもりが、メラが回避行動を取ったため狙いがずれて足を貫く。

膝をつくメラだがまだ死んでいない。

トドメ(後始末)を長引かせるメラについにエリシアの堪忍袋の緒が切れた。

 

「お前の…苛つく顔が見たかった…ニャ」

「いい加減にしろ!死ね、死に損ないの猫人(キャット・ピープル)風情が!」

「うぐっ…!」

 

またも避けようとするメラだが、傷が痛んで動けない。

複数の『ファング』がメラの心臓と脳を標的として光線(レーザー)を放った。

今度こそ死ぬ――そう悟ったメラは目を閉じる。

 

「ん?おっと」

「なに!?」

 

だが、またしてもエリシアは妨害された。

樹木の茂みから現れた男によって。

降り立った男に当たりそうになった光線(レーザー)は全て刀で斬り伏せられる。

行き場を無くした光線(レーザー)は地面を抉った。

 

「なんだ。ドンパチやってると思ったらもう終わってたのか」

「むっ。貴様は…」

「あぁん?あぁ、お前は確か…」

 

男と目が合うエリシア。

互いにその顔を見た覚えがあった。

腰まである長い白髪にシワのある顔肌、威圧さえ放つ強面。

エリシアはなんどか王宮でこの男と会ったことがあった。

錬金術に手を出して身体を弄っている異民族戦士の異端。

名前は――。

 

「オールベルク、だったか。貴様なぜここにいる?何の用だ」

「ははは。つれねぇこと言うなよ【殺戮の天使(ブリュンヒルデ)】さんよぉ。たまたま通り掛かったら戦争の匂いがしたんでつい、な」

「そうか」

「オール…ベルク…?」

 

今にも意識が飛びそうになりながらメラがオールベルクを見つめる。

何処かで聞いたことのある名前に首を傾げていると、オールベルクが振り返った。

 

「お、なんだ?熱烈な目線を送ってきて。おい、【殺戮の天使(ブリュンヒルデ)】この猫人(キャット・ピープル)は?」

「……『ブラッドスターク』の暗殺者(アサシン)だ」

「ぶらっどすたーくぅ?あぁ、革命軍の暗殺集団か」

 

以前【戦姫(プリンセス)】と戦った時のことを思い出してオールベルクが納得する。

対するエリシアはオールベルクの登場でさらに時間が潰れていくことに怒りを蓄積させていた。

戦場においてエリシアの時間を奪うことは怒りを買い、死に値するがオールベルクの実力を知ってエリシアも手は出さない。

早急に話をつけようとした。

 

「もういいだろう。どけ、トドメを刺す」

「なんだもう殺るのか?だったら譲れよ【殺戮の天使(ブリュンヒルデ)】」

「なに?」

 

オールベルクの要求にエリシアが止まる。

既に不機嫌だったエリシアに対してオールベルクはこれでもかと楽しそうに笑みを浮かべていた。

 

「丁度誰か殺りたかったんだよ。だから譲れよ。いいもん見せてやるからよ」

「要らん。欲しいのならばくれてやる。元々死に損ないに興味はない」

「はっ、なんだいつれねえな」

「言っていろ。ここは任せるぞ。ただし必ず殺せ、いいな?」

「はいよ。あたりめぇじゃねえか。ああちょっと待て」

「……なんだ」

 

エリシアを呼び止めるオールベルク。

やっとのことで次の戦場へと行けそうだったエリシアは不快そうに顔を向ける。

そんなエリシアにオールベルクは頼み事をした。

 

「なぁ。さっきの魔道具(おもちゃ)貸せよ。中々楽しそうだったからよ、ちと試したいことがあるんだ」

「……勝手にしろ」

 

エリシアが素っ気なく返すと、辺りを飛び回っていた『ファング』がオールベルクの周辺を彷徨う。

エリシアは命令塔がつける指輪を投げ渡し、受け取ったオールベルクは試しに脳内で指示を出してみる。

すると、『ファング』はオールベルクの思い通りに動いた。

それを確認したオールベルクは口端を上げる。

 

「いいじゃねえか、これ。くれよ」

「やらん。貸すだけだ」

「へいへい。気前が悪いこった。んじゃ借りるぜ」

「第二拠点で合流だ。そこで返せ」

「わかったわかった」

「ここは任せる」

 

それだけを言い残してエリシアは去る。

戦い自体を楽しむエリシアと殺しだけを楽しむオールベルクでは利害が一致しない。

早急に去ってしまったエリシア。

メラの前にはオールベルクだけが残った。

 

「何者…だ…」

「誰でもいいだろ。どうせてめぇはこれから死ぬんだからなぁ」

「舐め、るな…!」

 

もう立つのがやっとであるにも関わらずメラは鎌を構える。

臨戦態勢のメラにオールベルクは(わら)った。

 

「ははは!いいねぇ!そうこなくっちゃな、生きることへの執着が残ってる方が潰しがいがあるってもんよ!!」

「貴様を殺す…!」

「無理だ雑魚が」

 

メラが一歩踏み出す前にオールベルクの膝がメラの顎にめり込む。

強い蹴撃を受けたメラは吹き飛び、転がった。

 

「うぐっ…!がはっ…!?」

「はははぁ!まだくたばんなよ『ファング』ゥ!」

「……っ!」

 

オールベルクの指示に『ファング』が従う。

『ファング』は死にかけのメラを刺し、そのままメラを浮かした。

地面から足が離れたメラは驚愕する。

 

「ぐっ…なにを、するつもり、だ…ニャ…!」

「まあまあ落ち着けよ。まだ準備がある」

「……っ?」

 

痛みに顔を顰めながらもメラは『ファング』の行先と共に移動する。

身体の自由を『ファング』に支配されているメラは『ファング』が右に曲がればメラ自身も右に曲がり、左に曲がれば左に曲がった。

やがて、森林から出たところでメラが落ちる。

鎌も手から離れてしまった。

 

「うぐっ…!?ここ、は…っ?」

「よーし。とうちゃーく」

 

楽しそうに木をつたって来たオールベルクも降り立つ。

森林から出てきたが革命軍の砦は少し遠い。

革命軍とも政府軍とも離れた森林を横に抜けた場所にメラは連れてこられた。

訳もわからず辺りを見渡すと丁度眼下には村が広がっていた。

作戦前にメラが見つけた村だ。

 

「なにをする…つもりだ、ニャ…」

「ははーん、いい眺めじゃねえか。人が沢山いる」

 

村を見下ろしてオールベルクが上機嫌になっていく。

口にせずとも表現するかのように『ファング』が飛び回っていた。

 

「俺はよ。人を殺すことに生き甲斐を感じてんだよ」

「クズ、が…っ!」

「まあ聞けよ。人を殺すってもよ、ただ殺してるだけじゃつまらねえ」

理解できないしたくもないことを口にしながらオールベルクはニヤリと笑い、楽しそうに趣味を語るように話す。

 

「そいつの希望という希望を潰し、絶望に明け暮れる顔。何もかもを奪って最高に歪んだ顔を見ながら殺す!命乞いをすりゃ尚いい!死にたくないこんな終わり方は嫌だそう思ってから死んでくれると爽快でたまらねえ!生きてる快感っていうかさ、そんな時に至福を感じるんだよ俺は…!!」

「クソ野、郎…!貴様…!」

「ははは。活きが良くていいじゃねえか、えぇ?こりゃ潰しがいがある」

「てめぇなんざに、屈し…ないっ!」

「どうだかな」

 

愉快とでもいうように笑うオールベルク。

メラが意気込み睨むのも流し、『ファング』と共に村の方へと行く。

 

「……っ。な、なにを…」

「あぁん?決まってんだろ?」

容易く想像がつく悪夢にメラは瀕死であることも忘れ、顔を青ざめる。

そんなメラにオールベルクは歪んだ笑みを見せた。

 

「お前らが革命を起こす理由ってのはあそこにいるちっぽけな雑魚共のためだろ?なら手始めにあの村の連中を皆殺しにしてやるよ。それからじっくりとお前の絶望を探してやる…!」

「やめ、ろ…!」

 

瀕死ながらもメラが力を振り絞ってオールベルクを止めようとする。

だが、傷が深すぎて思うようには動けない。

その間にもオールベルクは眼下に広がる村の方へと足を進めていく。

メラは焦燥の中、なんとか止めようと尽力した。

 

「さーて、これでいい顔を見せてくれるかな?」

「よせ…やめろ…やめろ!!」

「はははは!やめねぇよ。なぁ!『ファング』ゥ!!」

「やめろぉぉぉぉぉおおおーーー!!」

 

『ファング』が全機降下していく。

何も知らない村人達は飛んでくる『ファング』に首を傾げる。

 

『なんだ?』

 

村人の一人はその言葉を最後に赤い光線(レーザー)に貫かれ絶命した。

そこから地獄。

人という人の蹂躙が始まる。

 

『な、なんだ!?』

『うわっ!?』

『ひぃ!?やめてくれ!やめてくれえええ!!』

『きゃああああああああ!!』

『せ、せめて命だげふっ――』

『うわああああああああああああああああああ!』

『いやああああああああああああああああああ!』

 

矢ではない、魔法ではない。

未知の光線(レーザー)が村を襲う。

初めて目にする魔道具(マジック・アイテム)に村の者が武器を持つも剣や槍では一方的な虐殺に終わった。

人々が死に、子供の泣き叫ぶ声が響き、吹き舞う鮮血が村を真っ赤に染め上げる。

彼らの住処だったものが光線(レーザー)によって塵と瓦礫となっていく。

命乞いも無機物には届かない。

蹂躙される村の様子にメラは叫ぶ。

 

「やめろ!やめてくれ!やめてくれ…!頼む!オレはどうなってもいいから…やめてくれ!」

「あひゃははは!うひゃはははは!いい表情になったじゃねえか!もっと絶望しろ!歪め歪め!!」

「頼む…やめてくれ…もう、もう充分だろ…」

「まだだ。赤ん坊もガキも一人残らず殺す。もっとやれ!『ファング』ゥ!」

 

『うわあああああああああああああああ!?』

『嫌だ…!死にたくない!助けてくれぇぇえ!!』

 

村の人々の助けを乞う声がメラの耳に入る。

助けたい。

助けなければ。

そのために、そのために――暗殺者(アサシン)になったんだろうが!

 

「動け…動け!動けぇぇえ!!」

 

出血が酷くなるのもお構い無しにメラは身を引きずってオールベルクの隣にまで来る。

涙が頬を伝う。

無力で口を噛み締め、流れる血が落ちる。

なんとか顔を上げた時、そこにはオールベルクがいた。

 

「見ろ」

「……っ」

 

オールベルクの言葉に従い、眼下を見下ろす。

そこには廃村と化した村があった。

メラの守りたかったもの、今度こそ救いたかったもの。

目の前でそれは簡単に壊れた。

 

「残念だったな」

 

たった一匹の猫の儚い願いでさえ散っていく。

 

「お前じゃ誰も守れない」

「そん、な……。あぁっ…ちがっ、オレは…まも、守りたかっ……」

「無力な自分を恨んで死ね。お前は結局ただの偽善者なんだよ」

「あぁっ…ああああああああああああ!?!?」

 

涙に血が加わる。

猫人(キャット・ピープル)の手は伸ばされるも何も掴めなかった。

 

「あばよ」

 

刀が振り下ろされる。

後悔と無力感、絶望に染まりながらメラの命は絶たれた。

こんな終わり方は嫌だと猫人(キャット・ピープル)は儚く散った。




ほんとはもっと酷い目に合う予定だったんですが、メラに恨みはないし絶望させたいのはメラではないので没にしました。
没案は活動報告に上げる…かも?
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