罪を犯したエルフをファミリアに誘うのは間違ってるだろうか(凍結)(メインタイトル関係なし)   作:伊つき

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第5話

「てめぇ…何者(なにもん)だ」

 

一歩下がって目の前の男に問うライオネル。

木刀一本でライオネルの大剣を受け止めたとなれば警戒しないわけが無い。

それもたかが下界の神が。

 

()()神としてここに居る。レン、それが俺の名だ」

「神…だと?馬鹿な。下界にいる神が今の動きを出来るわけがない。ハッタリかますな!」

 

信じれないライオネルは大剣の刃先をレンに向ける。

 

「……そう思うのも仕方ない。俺は元々神じゃなかった」

「なに…?どういうことだ!」

「……?」

 

ライオネルだけでなく後ろで蹌踉めくリューもレンを怪訝の目で見た。

レンの言ってることを理解するのは苦しい。

元々神ではなかった、という言葉から取れる意味は生物か何かから神に至ったというのが妥当な考えだ。

だが、そんな事が有り得るとはこの場の誰も思えなかった。

確かに神に『恩恵(ファルナ)』を貰い、高みに至って至高を超えれば可能性はあるかもしれない。

でもそれは希望的観測に過ぎない。

だというのに目の前に突然その存在が現れるなど誰も信じる訳がなかった。だから、馬鹿にされているのかという考えに至ったライオネルの気持ちは仕方ないものだ。

 

「元人族(ヒューマン)で神に至った。俺がお前の剣を止めたのは人族(ヒューマン)の時に磨いた『技』だ」

「ペラペラとデタラメを…!馬鹿にしやがって、殺す!」

「……ッ!?危ない!」

 

大剣を振るうライオネル。

ついさっきまで驚きで硬直していたリューだが、レンの言葉を信じてない彼女は非力な神を守ろうと動く。

しかし、その必要はなかった。

右から来る大剣にレンは左から木刀をライオネルの首に向けて振るい、真正面から突っ込む。

 

「馬鹿め、死ね!」

「ダメだ。それ以上はいけない!」

「……」

 

右から迫る巨大な刃と剣圧。

だが、レンは止まるどころか素早い動きでライオネルの首を狙う。勿論、冒険者のライオネルよりかは遅いが。

 

「……ッッ!?」

「馬鹿正直な奴だな」

「……!?」

 

次の瞬間、ライオネルの腹に激しい衝撃が走った。

大剣は空を斬り、木刀を飛ばした。

そう、ライオネルが斬ったのは木刀だけ。

レンはその木刀を囮にしてライオネルの懐に入ったのだ。

 

「ぐっ…!Lv.4の俺より速いだと!?」

「違う。明らかに俺の方が遅い。人の心理を利用した」

「あぁ?」

「お前は俺の捨て身に夢中で俺が避けるなんて思ってなかっただろ?要するに自分の死が怖くて俺より速く剣を振るうことしか考えられないようにした。死が身近になればなるほど人は判断力を落とす」

「……お前ほんとに何者だ」

「人族から成り上がった神だって言ってるだろ。後は単純だ。剣筋が分かれば避けれる。ギリギリまでお前を焦らせる為にわざと木刀は宙に残した」

 

淡々とレンは告げる。

人の真理を、本能を。

ライオネルは驚愕しながらも勝ち誇った笑みを取り戻した。

 

「ふんッ!種明かしご苦労だったな!要するに得物を無くしたってことだろ。終わりだ。俺に斬られ――ッ!?」

「ただ殴っただけじゃ意味無いだろ。大したダメージでもない」

 

大剣を持ち上げる力が抜ける。

視界が歪んだライオネルは膝を付きながらレンを睨んだ。

 

「俺に、何を…した」

「ヒュプノス専用睡眠薬入り注射。アイツは睡眠に対しての執着心が凄いからな。快眠用らしい、俺も以前貰った」

「それを…俺に、打ち込んだのか…。ふざけ、やがって…!……待てよ?ヒュプノスってまさかあの眠り神――――」

「ガキは寝る時間だ。ゆっくり休めよ、バルドルのとこのガキ」

 

レンが言い終わると同時、ライオネルは力を無くしたようにガクリと項垂れる。

眠りに入ったライオネルを見てガイが初めて表情を崩した。

 

「ライオネル!……貴様!!」

「盾役に何ができる。知ってるぞ。お前の話はバルドルから聞いた。完全な盾役、魔法も防御と回復と支援しか使えないってな」

「黙れぇぇえ!!」

「生憎だが、お前の相手は俺じゃない」

 

迫り来るガイを無視してレンは上空にいる一人の神を睨む。

自分を認識すらしてないレンにガイはブチ切れて剣を振るう。が、それがいけなかった。

 

「ゴハッ…!?」

「横がガラ空きだ。【守護者(ガーディアン)】」

 

意識をレンに持って行き過ぎて防御を捨てたガイ。

魔法も発動していなかったガイはレン以外から見える大きな隙をリューに突かれた。

リューの一撃でガイは怯み、そこをすかさずレンが睡眠薬入り注射を刺した。

 

「そんな…。悪い、ライオ、ネル――――」

 

バタリと地に伏せるガイ。

 

「貴方は…一体…」

「何度も言わせるな。人族から成り上がった神だ。少なくとも今はそのつもり……と上の奴らは逃げたか」

「なんですって?」

 

リューが見上げると確かに【ルドラ・ファミリア】の残党達は既に居なかった。

頼みの綱だったライオネルとガイがやられて尻尾を巻いて逃げたのだ。

 

「く…ッ!なんと卑怯な。結局他人任せですか」

「追うのか?」

「……当然です。先程は助けて頂き感謝しています。ですが、私は奴らを逃がす訳にはいきません」

「そうか。なら俺も行く」

「え?」

 

思わずリューは振り返った。

何度もリューを止めようとしたレンがまさか乗ってくるとは思わなかったからだ。今回も邪魔をしてくるのだと予想していたが、覆された。

 

「何故止めないのです?」

「俺の本能だ。今はそれだけ言っておく」

「は、はぁ…」

 

イマイチ理解できないことを言うレンにリューは顔を顰めるが、すぐに切り替える。

今は何よりも優先すべき事がある。目の前の神の言葉の意味を理解できなくても邪魔をしないなら今はそれでいい。

木刀を強く握り、リューは【ルドラ・ファミリア】の残党を追った。

その後ろをレンも付いて行く。

 

「貴方が特殊な神であることは分かりました。ですが、私の速度について来れない。それでも問題なく置いていきますが、よろしいですか?」

「お構いなく。俺も俺の用があるから行くだけだ。あんたのことも気になるけどな」

 

それ以降は互いに話さず、あっという間に残党達に追いついた。

 

「やはりそう遠くは行ってませんでしたか」

「ひ、ひぃ!?」

 

十五人程残党を連れたルドラがリュー達に怯えた声を出す。

先程の戦闘を見て追い込まれていることを自覚しているのだとリューは心の中で勝手に結論づけた。

 

「神ルドラ。そして、【ルドラ・ファミリア】の残党達よ。私は元【アストレア・ファミリア】のリュー・リオン。貴方達にファミリアを壊滅させられた恨み、忘れはしない。ここで貴方達を――」

「為りません。元冒険者であり【疾風】の異名を持っていたリュー・リオンさん。剣を納めなさい」

「……ッ!?」

 

突如響いた幼さのある声。

何かに怯えるルドラ以外の全員が彼女を見た。

 

「私はルシア・マリーン。ハーフエルフで、【バルドル・ファミリア】の者です。元【ルドラ・ファミリア】の皆さん。貴方達を五年前【アストレア・ファミリア】を壊滅させた容疑でギルドに連行します。大人しく従ってください」

 

【ルドラ・ファミリア】の残党達をリュー達と挟む形で忠告するルシアという少女。見た感じだと金髪のエルフだ。

杖を持つことから魔道士だと伺える彼女は目を閉じ、声質と同じく幼さがある容姿で悪党共に告げた。

従わなければ容赦はしない、と。

忠告を聞いた【ルドラ・ファミリア】の残党達は脱力していった。

この少女が誰か、ルシアを知っているからだ。

彼女の恐ろしさとその隣にいる爽やかな青年が残党達の戦意を消滅させた。

 

「ルシア…マリーン、【天使(エンジェル)】または【悪魔(デビル)】ですか…。余計な真似を…」

「リュー・リオンさん。私は二つ名で呼ばれることが大嫌い(だいきらい)です。それと、貴方は一度反省した身の筈。いくら因縁の相手が生きていたからといってそれらを無駄にしないのように。また罪を重ねますよ」

「それでも私は…!」

「貴方は後悔していたと私は認識していましたが、間違いでしたか?血に塗れた罪深き手をもう見たくないでしょう。私達が間に合ったのは貴方に取って幸運です。間違いなく。今はその剣を納めてください。さもないとアルサーくんの武力行使でいきます」

「えぇ!?お、俺ですか…?まぁ確かにそんな話だったけど俺ひとりで【疾風】さんに勝てるかなぁ」

「アルサーくん。黙ってください。レベル諸バレです」

 

アルサーと呼ばれた爽やかな青年は明らかに焦りながら残党達を拘束していく。

その中で、リューはルシアと睨み合っていた。といってもルシアは何故か目を閉じているが。

 

「納める気はないのですか?」

「……私は。いえ、諦めましょう。既に何人かを殺してしまって今更遅いですが…冷静になりました」

「懸命な判断です。それと、貴女の罪は不問にしましょう」

「……ッ、何故!?」

「理由は三つ」

 

三本の指を立てるルシア。

そのまま淡々と告げる。

 

「一つ目は最初の戦闘ですがあれは正当防衛とします。二つ目は彼等のアジトの見張りをしていた方々の殺害ですが、幸いにも彼等は全員賞金首で要危険人物として出会った場合の殺害を許可されてました。三つ目はただの同情です。リュー・リオンさん。貴女の復讐はここで終わってください。見ていて悲しいです」

「マリーンさん……」

 

言葉途中で気になることが何個かあったリューだが、最後の言葉に全て崩れ、泣きそうになった。

だが、罪深き自分が涙を流してはいけないとリューは我慢し、ルシアを見た。

 

「貴女は、優しい人だ。貴女の慈悲に感謝します…」

「結構ですよ。私は私の感情で動いてしまった部分もあるので、後でどんな罰を下されるかはアルサーくんの口軽さ次第です」

「へ、変なところで俺の名前出さないでくださいよ…。それとそれ軽く脅しですよ…」

 

苦笑いするアルサー。

残党は既に片付いていた。

リューは木刀を納め、脱力した。

頭に血が昇りきっていたリューだが、ルシアの介入によって徐々に冷えていく。

ルシアの慈悲が無ければ彼女のこれからの生活はなかっただろう。と、リューが黙って交代するかのように一連を見て黙っていたレンが口を開ける。

 

「バルドルのとこのガキ。悪いがルドラだけ俺にくれないか?」

「貴方は…レン、神を名乗る者ですね。残念ですが、それは無理です。神ルドラも連行します」

「それは…どうしてもか?」

「どうしても、です」

 

問答と共に見つめ合うレンとルシア。

リューは何故レンが神ルドラを求めるのか、分からなかったが二人の様子を見守った。

 

「分かった。諦めよう」

「ありがとうございます。あと、私は確かにガキですがルシアという名があります。そのような呼び方で呼ばれるのは不愉快です」

「そうか、悪かったなルシア」

 

レンの謝罪に満足したのか、ルシアはそれっきり何も言わずに【ルドラ・ファミリア】の残党とその主神をアルサーと共に連行した。

レンはただただそれを見送ることしかできず、諦めに近い嘆息をしてリューに向き直る。

 

「で?リオンはどうする。これで復讐終了だろ」

「……はい。マリーンさんの情けで私は助かりました。ですが、私自身今回の私の行いは許せません。だから、ミア母さん達に一言言って私も自首しようと思います」

「やはりか」

 

リューの返答を何となく察していたレン。

納得するように頷くが、その目はそれを認めないものだった。

 

「リュー・リオン」

「はい。なんでしょうか」

「お前、俺の【眷属】になれ」




短編①
title︰とある狼人(ウェアウルフ)の闘志

迷宮都市オラリオ北西のメインストリートに聳え立つ城のような建造物。
【バルドル・ファミリア】の本拠(ホーム)にて、団員に割り振られた個室でガイは親友のライオネルを隣にボヤいた。

「なんだったんだ…。あの神は」

先日、人間から成り上がった神を自称するレンと対峙した彼らは神でありながらも自身らを翻弄した戦闘技量に唖然としていた。
少なくともガイは限界に降りた神は神の力(アルカナム)の使用を禁止され、ほぼ無力である筈にも関わらず冒険者――それも第二級を二人も相手取ったレンに異常を感じた。

「なぁ、ライオネル」
「……」

先程から無言を貫いていたライオネルに同意を求めるガイ。
実は先日の闇派閥(イヴィリス)の残党と関わっていた所を同僚のルシア・マリーンに見つかり、二人は本拠(ホーム)での謹慎をファミリア内で言い付けられていた。
それからというものライオネルはガイの部屋や自室で仏頂面で横たわっている。
狼人(ウェアウルフ)である彼の尻尾はシーツに張り付くほど元気がない。

「ライオネル?」
「今話し掛けんな」

親友が心配で声を掛けてくれたにも関わらず、冷たくあしらうライオネル。
らしくなくしょげてる彼にガイがさらに心配そうに眉を曲げるとライオネルはそれをチラリと確認し、舌打ちして半身を起こす。

「別に気を落としてるわけじゃねえよ。ここに篭ってんのが反吐が出そうなだけだ」
「ならこっそり抜け出すか?」
「ばっか。そんな罰当たりなことできるかよ」
「お、おう」

妙な所で真面目なライオネルにガイは表面上で苦笑いしか作れない。
昔から態度は悪いくせに根は真面目なのだ。この狼人(ウェアウルフ)は。
卑怯な手や不意打ちしようとしてもいつも上手くいかないのは彼の性格にあるのかもしれない、と大柄な人族(ヒューマン)のガイは親友にバレぬよう密かに微笑した。
そして、ふとある事を疑問に思う。

「あれ?そういえば、ライオネルはなんで闇派閥(イヴィリス)となんか関係を持ってたんだ?」

ライオネルの性格からそういうことには手を染めないと思っていたガイ。
以前、彼がその仕事を持ってきた時は正気を伺った程だ。

「あぁん?」

機嫌が悪そうにライオネルはまたもベッドに倒れ込む。
――それ、俺のベッドなんだけどなぁ。
ガイが内心困るが、本人は全く気にしちゃいない。

「……最初はあいつらが闇派閥(イヴィリス)の残党なんて気付かなかったんだよ」

やがて、悔やむように呟くライオネル。
その表情は腕で隠されていて分からない。

「ちょっと出来事心で依頼内容を聞いてただけだった」
「受ける気はなかった?」
「……あぁ」

それは、やらかしてしまった子供のようだった。
ライオネルは心の内に秘める真面目さで苦しみながら語る。

「だけどよ」

しかし、力強い逆説の言葉。

「俺は()()()を見せられちまった」

まるで夢を思い出し、語るかのようなライオネルにガイも目を見開く。
彼の口が――確かに笑っていたのだ。

「【疾風】のリュー・リオン…あいつだけは俺が倒す」
「……」

腕をどけて、また身を起こしてライオネルは標的を口にする。
彼が今抱えてるのは反省でも得体の知れない神に対する疑念でもない。
ただ倒したい、戦いたいと。
熱く燃え滾る闘志だった。

「俺はまたあいつと戦う。付いてくるか?ガイ」

ライオネルが尋ねる。
どんな時でも傍にいてくれた親友に、あの【疾風】に挑む自分を見届ける勇気はあるかと。
久しく見たような彼の闘志宿る瞳にガイは一瞬気圧され、頷いた。

「勿論だ」

もう何年も前に決まっている。
自分はこの男に付いていくのだ、と。
そして、一週間を経て謹慎を解除された彼等は。
疾風の如くある場所へと向かったという。
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