罪を犯したエルフをファミリアに誘うのは間違ってるだろうか(凍結)(メインタイトル関係なし)   作:伊つき

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第6話

木造建築の一軒家。

そう表現するのが正しいと言える本拠(ホーム)でレンは荷物を一式解いていく。

その大部分が本で、大きい荷物だと本棚。

レンの荷物は基本それだけ。

あとは何やら薬草のような植物や小刀などの武器類、鍛冶に使いそうな(つち)が広げられたがさほど量は多くない。

 

「ほんとに良いのですか?私が奥にある一室を使っても」

 

レンの背後から私物を運び、尋ねる女性。

その耳は尖っていてエルフだという事が窺える。

彼女はリュー・リオン、【レン・ファミリア】唯一の団員だ。

 

「おう。俺は大抵何処でも寝れるからな」

「そうではなく、神である貴方が無骨なソファーで寝て、私がベットで寝るという格差は普通逆だと思うのですが…。私は私室まで貰っていいものかと…」

 

神とは思えぬ程遠慮がちなレンに疑問を感じ、呟くリュー。

明らかに面倒くさそうなレンは適当に聞き流していたが、リューの申し訳なさそうな態度を見兼ねてレンも口を開いた。

 

「別にいいさ。厚意なんて貰えるもんは貰っとけ。大体神なんてそう敬われるもんじゃない。謎の信仰は排気所にでも捨てとけ」

「貴方はともかく、他の神に喧嘩を売るのは良くない」

「今はそっちの話じゃないんだが…とにかく俺は使わない。貰えるもんは貰っとけよ」

 

遂に使わないと言い切るレンにリューは諦めたように嘆息する。

本人が言うように厚意に甘えようと思った。

 

「…そうですね。貰える厚意は貰っておきます」

「分かればいい。お前は背負った罪からか、遠慮がちな所があるからな」

「それは貴方もでしょう。神レン」

「うっ…それは…」

 

思わぬブーメランにそっぽを向くレン。

そんな彼と彼の優しさにリューは内心感謝し、作業を続ける。

部屋の間取りはリビングとリューの私室で二部屋、あとは一般家庭であるであろう規模の風呂が一つあった。

それだけあれば2人が住むには充分だろう。

しかし、実はこの家をレン達は買った訳ではない、借りたのだ。

ルシアというハーフエルフ魔道士、【バルドル・ファミリア】所属で、一週間前レン達と【ルドラ・ファミリア】残党とのイザコザに現れ、一連の騒動を解決した張本人に。

そう、あれから一週間経った。

今ではレンが自らのファミリアを作り、リューはその団員となっているのだが、それまで色々とあった。

特にリューを勧誘するのにレンは凄まじい労力を払ったと言っていいだろう。

傍で作業するリューを見てレンはしみじみとそれを実感する。

 

「ここまで大変だったな…。リューが入ってくれてほんとに良かった」

「あそこまで勧誘されて断るほど薄情ではありません。あと素直に嬉しかったというのもあります」

 

ふふっと微笑むリュー。

彼女にとって冒険者に戻れるというのは最高の喜びと言えるだろう。

勿論、『豊饒の女主人』で店員(ウェイトレス)として働いていた時間も確かに素敵でリューにとって宝のような時間だった。

だが、幾度も厄介事に首を突っ込んでいたリューはリュー自身もやはり冒険者(こちら)の方が性に合っているのだと感じていたのは確かだ。

まだ癖や正義感が抜けないのは酒場の店員(ウェイトレス)としては悩みだったが、今となって戻ってきたのでなりふり構う必要はなくなった。

罪悪感や本当の罪が消えた訳じゃない。けれど、今傍にいるレンと背負って生きていこうとそう思えた。

 

「…そうか。それはなによりだ」

 

リューの言葉に素っ気なく答えたレン。

だが、作業をする彼の手が止まっていた。表情を見ると内心喜んでるのが分かり、それを隠せていなかった。

わかりやすい反応にリューはクスッと微笑み、この1週間で彼がどんな性格か大体分かってきた。

まず、嘘は付けない。

レンは嘘をつこうとしてもどもったり目が泳いだりしてしまうのだ。

あと感情も割と読みやすい方だ。口ではそっけなかったりしても行動に出る。行動に出なかったら口調などに出る。

要するに案外素直だった。

そんなレンをリューは可愛いな、と思ったりするのだが、ふと彼が自分の主神であることを考えた。

外見的にいえばリュー自身とさほど変わらない年齢に見えるレンだが、神なので参考にはならないだろう。

でも、やはり歳近く感じてしまう。

だからだろうか。未だにリューはレンの事を様付けで呼ぶことがない。

以前の主神・アストレアや他の神と対話する時には敬語は忘れず、最大限の敬意を払っていたのだが、何故かレンには「神レン」などと呼びなんとか誤魔化している。

自分でも何故レンに様付できないか、謎であるリューだが、不思議と違和感はない。寧ろ、敬語で話す時に違和感を拭えないくらいだった。

 

「……」

「色々と見当たらないものもあるな…」

 

チラリと主神レンを見る。

探し物をする様もまだ若さが残るような面持ちに感じた。

さながら若神とでも表現するのが正しいだろう。

ジッと見つめてると自然とリューとレンの目が合う。

リューは目を逸らそうとするが遅かった。

 

「どうした?俺になにか用か」

「いえ…」

「遠慮しなくてもいいぞ」

「本当に何もありません。少し、ボーッとしていたのは確かです」

「そうか。まぁなんだ。話があるならいつでも声掛けてくれ。基本暇にしておくからな」

「了解しました。ありがとうございます」

 

短い会話。

その中でもやはりレンからは年齢的な親近感を感じるリュー。

しかし、これから彼を主神として慕っていかなければならない【眷属】の立場としてそんなことは気にしていられない。

 

「それにしても良い本拠(ホーム)を貰ったな。出だしにしては文句無しだろ」

「そうですね。マリーンさんには感謝しなければ。今度改めて礼を言いに行きましょう」

「そうだな…。でもLv.4のリューがいるなら本拠(ホーム)を新築する金銭はすぐ溜まりそうだから、やっぱり仮設本拠(ホーム)止まりだな」

「マリーンさんもそのつもりで貸したと言っていました。素早く稼いで恩返ししたいですね」

「無茶はするなよ」

「分かっていますよ」

 

釘を刺すレンにリューは冒険者として当然だ、と答える。

何年も冒険者を続けてきたリューからしたら無茶が命取りだということを何よりも知っている。

迷宮(ダンジョン)の恐ろしさを知っているからこその常識、いくら強くなっても気を引き締めないつもりは少なくともリューにはない。

それを悟ったのか、レンは何も心配する必要が無い顔で作業に戻った。

 

「そうか。ならいいさ」

 

レンがある程度本棚を整理し終えたと同時、玄関口の木製扉をノックした音が聞こえた。

突如来た来訪客に丁度手の空いたレンが扉を開ける。

 

「バルドルかヒュプノスか?」

「どうも。ご無沙汰してます」

「おぉ、ルシアか」

 

家の前にちょこんと立つ金髪のハーフエルフの少女。

何度もレンとリューの会話に出てくるルシア・マリーンだ。

彼女はレンに招き入れられるとキョロキョロと【レン・ファミリア】の仮設本拠(ホーム)を視線で物色する。

しかし、その瞼はやはり閉じられていて見えないのではないか、とリューは首を傾げていた。

 

「マリーンさん。目を閉じていては見えないのでは?」

「あぁ、それは…」

「千里眼だろ」

「おや。よく分かりましたね。はい、そうですよ。私は世界で唯一の千里眼持ちです」

 

意外にも答えたレンにリューは驚いたが、それが的確だったことにさらに驚く。

ルシアも当てられるとは思ってなかったのか、姿勢は自然とレンに向いていた。

 

「やっぱりか…まぁ半信半疑だったんだけどな」

「千里眼…?」

 

頭の上のハテナマークを浮かべるリュー。

リビングルーム中央に設置されている長机に付属している木製の椅子に腰掛けたルシアはリューを見兼ねて説明する。

 

「千里眼とは、世界を見通す目のことです。行動しなくても世界の動き、情勢、流れの全てを把握できます」

「つ、つまり…どういうことですか?」

「今現在進行形で世界内で起こってる出来事全てをルシアは見えているんだ」

「なっ…!?」

 

イマイチピンと来ないリューにレンが代わって教えてあげた。

説明を受け、千里眼の規格外の能力にリューは目を見開く。

 

「そ、そんな凄いものを貴女は有しているというのですか…」

「はい。だから、普段から目を閉じているのです。開けなくても私には全てが手に取るように分かりますから」

「す、凄い…」

 

千里眼の凄まじい能力を聞いてリューは思わず唖然とした。

千里眼は所持しているだけでこの世を把握できる万能の目。

驚くのも無理はない、というより驚かない者など居ないだろう。

 

「そうか、だからあの時。【ルドラ・ファミリア】拘束の時に私の行い全てを知っていたのですね」

「その通りです。私に把握出来ていないことなどほぼ皆無なので」

 

ふふんっとルシアが威張る。

ルシアはそのままレンへと向き直った。

 

「神レンさんもおそらくあの騒動の時に私の千里眼を見破ったのですね」

「まぁ明らかに状況を知り過ぎていたからな。ただ見破っちゃいない。まさかな、くらいには思ってたけどな」

「それでもお見事です。あっぱれ。私の千里眼を見破ったのは貴方で二人目です」

「二人目?」

 

まさか千里眼の存在に気付くような輩が他にいると思っていなかったレン、これに少々驚いてルシアに見入った。

レンの言葉にルシアは頷いて()()()の話をする。

 

「リョーカ・アーサ。【バルドル・ファミリア】団長、【騎士王】の二つ名を持つエルフ最強剣士です」

「聞いたことがあります。なんでも強さに貧欲でよく他の冒険者との決闘も耐えないだとかの噂は聞きます」

 

酒場で聴いた噂話からリョーカの事を思い出したリュー。

ルシアはそれに対して何度か頷く。

 

「物騒な奴だな」

「はい。概ね間違っておりません。彼女はただひたすら強さを求める以外望みませんから」

 

ルシアによると、リョーカというエルフ剣士は何かと噂のたった冒険者を重点的に決闘を申し込み戦っているらしい。

世界最速でLv.2への【ランクアップ】を更新した【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインやオラリオ唯一のLv.7冒険者である【猛者(おうじゃ)】オッタルにもいきなり押し掛けて勝負を持ち込むという。

さらに一匹狼で、迷宮(ダンジョン)攻略を基本一人で行い、なんとたった一人で三十階層までは余裕で到達する。だが、そのこともあってか、連携は苦手で【バルドル・ファミリア】の遠征では一人先走ってしまい、常に足を引っ張り本人はイラついてしまう。

聞くからに碌でもないエルフ剣士のリョーカにレンもリューも眉を顰めた。

 

「出来れば関わりたくないな」

「同意見です。噂以上に危ない人物だ」

「その認識で正しいかと。くれぐれも彼女に目を付けられないようにしてください」

「気を付けろよ、リュー。もしかしたらお前の元に来る可能性は充分にある」

 

厳重にリューに注意掛けするレン。

リューはレンの忠告に真剣な表情でコクリと頷いた。

しかし、一連にルシアから口を挟まれる。

レンに対しての注意掛けとして。

 

「気を付けて下さい。レン様も」

「俺も?」

「はい。彼女は神でも構いなく剣を取るでしょう。自分と渡り合える相手と戦うのを好むので」

「いやいや、子が神に喧嘩を売るだと?そんな馬鹿な」

「有り得ます。彼女なら」

 

その一言にレンは押し黙り、一度深く考える。

ルシアが冗談抜きで言うのだからきっと嘘はついていない。

ならば用心しなければいけないのは確か、レンはそういう意味で頷いた。

 

「分かった。警戒はしておこう」

「神に対して剣を取るのですか…。常識が成っていないですね。流石に強さに貧欲過ぎる」

「それがリョーカ・アーサなのです。彼女と遭遇した時はお気を付けて。目線は合わせない方がいいかもしれませんね」

「目を合わせないか出来るだけ遭遇を避けるかが妥当ってところか」

「懸命ですね。()()()()に彼女が興味を持たないとは思えません。元人族の神であるならば特に」

 

当然のようにレンが元人族であることを言い当てるルシアだが、会話に混ぜていることからレンもリューも驚きはしない。

千里眼持ちが全てを見通しているのは把握済みだからだ。

確かに、元人族というだけで特殊な神であるレンに誰もが興味を引かれる。その上にリョーカ・アーサにとってレンが戦えるというレッテルが重なることはもはや絶好の獲物と成りうるだろう。

レンはそれがすこぶる嫌だった。

 

「さすがオラリオ、と言うべきか。色んなやつがいるんだな…」

 

しみじみととんでもない所に来てしまったかもしれないとレンは思うがもう遅い。

諦めに近い嘆息をし、レンはあらかた自分の荷物が片付いていたことに気付いた。

リューの方を見ると彼女もとっくに終わっている。

そして、ルシアを見ると何故かレンが所持していた高級な茶葉で沸かしたお茶を啜っていた。

 

「ルシア…お前なんで茶葉の在り処知ってるんだよ…」

「失礼。千里眼でここに来る前から把握していました。丁度先程出来上がったようなので頂きました」

「人の家の飲み物勝手に飲むなよ!」

「家自体の所有権は私なのでギリギリセーフでは?」

「セーフじゃない。絶対に違う。まぁいいや。元々リオンが俺の【ファミリア】に入ってくれた祝い物として用意したんだが…」

 

呆れるようにルシアをジト目で見るレン。

ルシアに反省する様子は見えないので諦めて新たに出したコップにレンは茶を注いでいく。

そのうちの一つをリューに渡し、一言お疲れさまと引越し作業での苦労を労った。

 

「…これは?」

 

注がれるお茶に不思議そうな表情をするリュー。

リューが知るお茶とは色合いも匂いも味も違っていたからだ。

ルシアはその反応を見てエルフだけでなくこのオラリオに茶の文明があまり発達してないことに気付いた。

 

「これは煎茶といって緑茶の一種ですよ。あっさりしていて美味しいので是非口にしてみてください」

「煎茶、ですか。では…」

 

ゴクゴクと喉を鳴らして煎茶を飲むリュー。

瞬間、目を見開いた。

 

「…美味しい」

「だろ?まぁルシアのせいで多少薄くなってるかもしれないがかなりいい茶葉の筈だ。やっぱり美味いな」

「私は反省しませんよ。美味しいです」

 

三人同時に一気に飲み干す。

リューは味わっていたが、お茶のあっさりとした風味漂う味に魅了され、一瞬で飲み干してしまった。

それを満足そうに見るレン。

リューは寂しそうに空のコップを眺めていた。

 

「リュー。そう肩を落とすな。茶葉ならまだある」

「本当ですか!?」

 

まだ見ぬ茶葉の存在にリューは目を輝かせ、乗り出した。

それほどまでに気になったのか、とレンは内心苦笑いするが()()の飲み物を気に入ってもらえてホッとした。

ルシアの飲んだ後も回収してレンはこの後の予定をリューに告げる。

 

「俺はバルドルのとこに行ってくるつもりなんだがリューはどうする?」

「そうですね…さっそく肩慣らしに迷宮(ダンジョン)に潜ろうと思います。夜には帰ります」

「了解。バルドルの所に行くんだがルシアは俺に着いてくるか?」

「いえ。私はリューさんに着いていこうかと」

「私に?」

 

ルシアの意外な発言に首を傾げるリュー。

ルシアはコクリと頷く。

 

「リューさんが良ければ私も同行したいのですが…ダメですか?」

「いえ、寧ろ有難いです。宜しくお願いします。マリーンさん」

「ルシアでいいですよ」

「ではルシア、と」

「えぇ」

 

微笑み合う二人。

ルシアは杖を手に立ち上がり、リューの手を取る。

 

「貴女には辛いこともまだあるでしょう。ですが、どうかレン様と共に歩んでください」

「ルシア…。ありがとうございます。貴女は尊敬に値する」

 

 

冒険者の立場に戻って不安だらけだったリューにルシアの言葉は素直に嬉しかった。

そんなルシアとこれから迷宮(ダンジョン)に潜ると考えれば自然と高揚していく。

リューは私室へと用意を済ませに行こうとそそくさと立ち上がった。

 

「準備を済ませてきます。待っていてください」

「はい。幾らでも待ちますよ。ごゆっくり」

 

幼い顔を緩ませるルシア。

リューはそんな友を待たせまいと私室へ駆け込んだ。

 

「…リューさんが居なくなったので聞きます」

「ちっ。やっぱりか」

 

リューが去って二人、リビングルームに残された瞬間からレンにルシアは問掛けを投げようとした。

それはずっと聞きたかったこと。レンが自然と隠していることだ。

 

「リューさんはブラックリストに載り、冒険者の権利を剥奪された身だった筈。だというのに冒険者に復帰できたのはどういう手段を使ったのですか?」

「さぁな。秘密だ」

「バラしますよ?バルドル様に」

「……ッ」

 

ルシアの一言にレンは一気に苦虫を噛んだような表情になる。

ルシアは既に知っていたのだ。

レンが何故ルシアには話さないのか、話したがらないのか。

答えはバルドル、自身の主神だった。

【バルドル・ファミリア】のモットーは『救いを求める者に光あれ』であり、憲兵的な活動をしている。

きっとレンがリューを問題なく冒険者の立場に戻せたのは決して正しいと言えるやり方ではないだろうと推測できる。

否、推測ではない。千里眼を持っているルシアからすれば確信。実は全てを知っている。

それでも敢えてこうしてレンに尋ねていたのだ。

 

「お前…ほんとは全部知ってるんだろ?」

「はい。勿論。でもレン様の口から聞いておこうと思いまして。それで、教えては頂けないのですね」

「いや、教える。でもリオンには黙っていろよ」

「彼女も薄々気付いていると思いますが…いいでしょう」

 

ルシアの承諾を聞いてレンは話し出した。

包み隠ず、リューを自らのファミリアに入れた経緯を全て。

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