罪を犯したエルフをファミリアに誘うのは間違ってるだろうか(凍結)(メインタイトル関係なし) 作:伊つき
一週間前。
今は無き壊滅した犯罪ファミリアである【ルドラ・ファミリア】の残党が仇討ちの為に元【アストレア・ファミリア】のリューを狙った事件解決後の事。
事件自体は突如現れた【バルドル・ファミリア】のルシア・マリーンによって終息し、幕を閉じた。
だが、その場に居合わせた神レンはあろう事か、
その事自体を知らないレンであれど彼女が罪を犯したことについては知っていた。なのに、彼はリュー・リオンを勧誘したのだ。
「申し訳ありません。お断りします」
当然、リューは断った。
それは自分に誘いに乗る権利がないという考えと立場、レンを思って応えた答えだった。
しかし、当の本人はそれでも止めない。
「どうしてもか?」
「どうしても、です」
「理由を聞いてもいいか」
「私は貴方の言った通り、私怨に呑まれて感情のままに復讐しました。その時、私は何も関係ない一般人まで巻き込み、殺してしまった。ギルドに
リューは重く、自身の罪を告白した。
自分は罪人でもう冒険者などできないのだと。
許されない、それは誰か以上にリュー自身が己の自由を。
リューの話を聞いてレンは一言、わかったと頷く。
リューはそれが理解されたのだと受け取って頭を下げる。
「ごめんなさい。ですが、もしファミリアを作るのでしたら他の冒険者に当たってみてください。きっと…貴方様の勧誘を待っている人がいると思います」
「そうか」
「私のような赤い、紅い血にに汚れたような罪人ではなく…輝かしい未来のある冒険者達の礎となれるでしょう」
「そうか」
レンの素っ気ない返答をリューは自分に興味を解釈して再度頭を下げてその場を去った。
翌日、一日『豊饒の女主人』で働いてミア母さんや同僚達、親友のシルなどに深く謝罪をして辞職しようと計画していたリュー。
だが、開店時間から現れ、昨晩と同じ勧誘をしてくる男神にリューは唖然とした。
「なぜ…?なぜ私なのですか?私などではなく、もっと相応しい方がいる筈だ」
自分でも何を焦っているのか、分からないがリューは妙に声を張って男神に言い放った。
しかし、彼は真顔で返す。
「何言ってんだお前。勝手に決めんな」
「なっ…!?」
「俺にはお前しかいない。だから、誘ってんだ」
リューは理解できない、とレンを見つめる。
この男神が何を考えてるのかリューにはまったく分からない。
そもそも昨日冒険者として自分が活動できない理由も話した筈なのだ。
「私は、もう冒険者には…」
「それならもう手を打った。お前に権利はある」
「……ッ!?」
バン!と紙を1枚目の前の机に叩きつけるレン。
リューはその用紙に見入った。
そこには確かに要約するとリューが冒険者に戻れる事が書いてあった。
リューは何度も紙の内容を読み返し、レンを見る。
「お前は冒険者になれる。だから、俺のファミリアに来い」
「……お断りします」
詰まりそうになるのを呑み込んでリューはそれだけを淡々と吐いた。
「そうか」
「はい。申し訳――」
「じゃあお前がその気になるまで俺はここを動かない」
「何故そこまでするのでするのです!?」
つい言葉を荒らげてしまった。
リューの大声は店内中に響き、レンにもハッキリ聞こえた。
それでもレンは表情を崩さずに言う。
「お前が欲しいからだ」
ただその一言だけ。
たったそれだけ、レンはリューと面向かって恥ずかしげもなく、伝えた。
リューはしばらく目をぱちくりさせたが、すぐに顔を紅潮させる。
「なっ…なっ…!?」
表情を崩し、言葉が上手く出ず詰まるリュー。
そこへ白鈍色の
「うちの店内で騒いでるのはあんたかい?悪いが口説くなら他所でやりな!」
「えっと…リュー大丈夫?」
「え、えぇ…。大丈夫です。少し、驚いただけです」
ドワーフの店主、ミアはリューを庇うように立ち、白髪の
レンはやっぱり来たかとミアを見て用意していた物を取り出した。
「騒ぐつもりはない。ただ、エルフの
「ふん。ここは笑って飯を喰う場所だ!うちの小娘を虐めるだけなら帰りな!」
「待った。当然、飯を食いに来たんだ。金ならここにある。居座ってるだけってことは絶対にない筈だ」
ドサッとミアの前に置かれる金袋。
見るからに伝わってくるその重み、金袋にしては大き過ぎる袋にミアは一瞬目を見開き、中身を確認した。
「……なるほど。飯を食いに来たついでに口説きに来たと?」
「まぁ大方合ってる。ダメか?」
「ふん。ここは飯を食う場だ。笑って美味いと叫んで食ってくれりゃ何の問題もないよ」
「ミアお母さん!?」
ミアのレンに対するまさなの対応にリューだけでなくシルも思わず驚いた。
これはレンの狙い通り。
飯がメインな限り、余っ程の事がないとミアはレンを追い出さない。
心配だったのが、リューが本気で嫌がった場合身内の
だが、幸いなことにリューは満更でもないように今は見える。
ここは正直運だったが、なんとか首の皮一枚繋がった。
「じゃあ注文受け付けるよ」
「あぁ」
何品か注文するレン。
リューは仕事を理由にレンから離れようとするが、ミアに制止されてしまった。
開店時間でまだ客の入りが少ないからサービスくらいしろとあのミアに言い付けられればリューは動けない。ここではミアの命令は絶対だからだ。
「ミアお母さん!私もリューと一緒に――」
「ダメだ!あんたはその子の分まで働きな!」
「そんなぁ!?」
シルの助け舟も虚しく失敗。
いよいよリューに逃げ場がなくなった。
「…手が込んでいますね。そこまでして私が欲しいのですか」
「あぁ。さっきも言っただろ」
「理解できません。私のためになぜここまで…」
「勘違いするな。俺の為だ。俺がお前を欲しいから、ただこうしている」
淡々とハッキリ答えるレン。
リューは話題を変えて相手の腹の中を探る。
「まず、ギルドとどうやって掛け合ったのですか?」
「秘密だ」
「ではなぜ私に拘るのですか」
「お前が欲しいと思ったからだ。お前を冒険者にしてやりたい、そう思った」
「私を冒険者に?」
「そうだ」
「…なぜ?」
再度問い質すリュー。
自分でもしつこ過ぎたかもしれないと感じたがこの問にレンは一度目を逸らしてから答えた。
「お前を救いたい、なんてことは言わん。ここに居るリオンは間違いなく幸せだろうからな」
「確かに。私はここで働く事に不満はありません。冒険者復帰への願望…無いとは言いませんが私にそれは許されない。ここに居るのだって今は許されない。だから、今日限りでここも辞めようと思っていました」
「え?」
他の客の相手をしながらレン達の会話に耳を傾けていたシルが素っ頓狂なトーンで思わずリューを見る。
客の相手など一瞬忘れていた彼女だが、ミアもこの時は彼女に何の体裁は与えなかった。
リューもそれを視界の端で確認して続ける。
「私の犯した罪は大きい。冒険者の権利を剥奪されても仕方ないのです。そして、この店で働くことはもうないでしょう。ギルドに名乗り出て、今回の件や昔の件の公的な罰を受けてきます」
「何言ってんだお前」
思いもしない返答にリューは一瞬、は?と顔を上げた。
目の前の男神と目を合わせると本気で何言ってんだという目でリューを捉えていた。
リューが何かを言う前に彼は言葉を紡いでしまう。
「馬鹿か。要するにやり過ぎて背負い切れない罪を背負ったから他人に裁いて貰おうって言ってんだろ?いや、ほんとに馬鹿か?」
「なっ…!?なら他にどうすればいいのです!?」
ドン!と机を叩いて立ち上がるリュー。
2度も間違いを犯した彼女は心の支えなく、背負い切れなくなって潰れた。
もう他人から公的に裁いて貰う以外の罪滅ぼしは彼女には考えつかない。
これも彼女が悩みに悩んで出した結論だった。
だが、レンはそれを鼻で笑う。
「あのな。本人に背負い切れない罪は他人には裁ききれないんだよ!楽しようとしてんじゃねえ!」
「……ッ!だ、だが他にどうすれば…」
「生きろ」
レンの瞳が真っ直ぐリューを捉える。
リューはそこから目を逸らすことが出来ない。いや、逸らしてはいけない、そう思った。
「生きて、罪に苦しめ。幸せになろうとして苦しめ。残りの人生出来るだけ苦しめ。冒険者になっていつかのように正義を振い、矛盾して苦しめ」
何とも酷な、確かにリューには考えつかなかった罰。
実際リューの表情も歪んできていた。
もうやめろ。でも聞かなきゃ。ダメだ、逃げれない。逃げる権利がない。
リューは心の中の問答を繰り返し、苦しみながらもレンの言葉を聞き逃すまいと耳を傾ける。
しかし、次の言葉はリューの予想していたものと大きく違っていた。
「苦しめ。でも、一人で背負い込むな。そんな重いもん、一人じゃ無理だ。だから、一緒に共有できるやつを探せよ。巻き込める奴は巻き込めよ。…もう自分だけで苦しむなよ。お前には親友がいるんだろ?」
「それは…!」
ハッと接客しながらも自分に気を向け過ぎている友を見るリュー。
昨日、【ルドラ・ファミリア】の一件から帰ってきたリューの様子をなんとなく察して気遣ってくれた優しいシル。
今、彼女もリューの背負うものを理解してあげられなくて嘆き、苦しんでいた。
「俺も、お前と同じだ」
レンの呟き。
リューは決して聞き逃さなかった。
「俺も背負い切れない罪を…一人で抱え切れなくて崩壊した。でも、一緒に背負ってくれる、
今は亡き
「巻き込んでくれていい、と言ってくれた。そいつを巻き込んで俺はさらに苦しんだ。でも、あいつはそれが罰だと言ったんだ。だから、受け入れて生きろと…」
レンとリューで視線が交差する。
その時、リューは直感した。
本当に自分とこの
「貴方は…」
「生きろ、リオン。親友を巻き込め。俺のファミリアで…冒険者になれ」
「…はい」
重く、それは恵まれるのではなく罰。
リューは深く受け入れて頷いた。
この時彼女はこれは自分に与えれられた最後の機会なのだと静かに確信した。
そして、バベルから放射状に八方位に分かれている大通りの中の北方面に位置するメインストリート。
その先をずっと行ったほぼ街外れの所にとある【ファミリア】の
『
今はその視線の先に1人の男神が存在する。
「…そろそろいいかな?返事が欲しいのだけれど」
「却下に決まってんだろ、全身性感帯女神」
愛と美と性を司る女神、アフロディーテを前にレンは息を吐くように罵詈雑言を口にする。
先程からこれの繰り返し。
何度アフロディーテの
それでもレンの首が飛んでいないのはアフロディーテが断固としてレンに危害を加えないよう眷族達に命じるからだ。
それこそ息を吐くように失礼を働く目の前の男神を
「そう…。だが君に拒否権はないよ」
「ぐっ…」
痛い所を突かれ、苦い顔で目線を逸らすレン。
実はオラリオに来た時から恐れていた事態がレンに起こっていた。
レンを気に入り、えらく執着しているアフロディーテに関わってしまうことと貸しを作ってしまうこと。
今回は後者。
最悪なことにレンはアフロディーテに借りを作った。
かつて『【疾風】のリオン』の名で悪名を馳せたリューをギルド公認の
リューを
だが、裏の手回しが得意なアフロディーテに頼めば難なく解決できる。
出来るのだがやはり
そして、アフロディーテがレンに出した条件は『レンを喰べる』事。
それを完全否定した結果が今である。
「レン…僕との約束、きちんと守ってくれないと…ねぇ?」
「……ッ!」
カツカツと遂に台座から階段を降り、レンの隣まで来て耳元でふぅと息を吹きかけて悪趣味な笑みを浮かべるアフロディーテ。
レンは一瞬揺さぶられそうになりながらもなんとか堪え、アフロディーテを一睨みする。
「ふふっ。そんな怖い顔しないでくれよ。嗚呼っ!でも唆る!レン!唆る!君のそんな表情も!」
「……」
眷族の前だからと威厳を張って毅然としていた姿はどこへやら。
本性を剥き出しにしたアフロディーテはレンの前で頬を紅く染め、自らの身体を両腕で包んでうねらせる。
対するレンは無表情で内心諦めながら話を進めようとする。
「とにかく、今はお前に貪られるつもりはない。喰われてダメになる訳にはいかない」
「……へぇ。それはリュー・リオンって子の為かな?君は眷族のためにそこまでするんだね」
ビクッとこの場に居合わせたアフロディーテの眷族達の背が震える。
アフロディーテが普段見せないほどにドスの効いた声で怒気を感じさせたからだ。
怒りの対象は言うまでもなし、まるで玩具を取られた子供のようにアフロディーテは面白くなさそうな顔をしている。
それでもレンは動じず、慣れた感じで対応する。
「リオンに危害を加えるつもりなら容赦はしない…。覚えておけよ?」
「別に危害を加えるつもりはないよ。ただ、ちょっと、出しゃばり過ぎっ、じゃないかっ、と思った…だけ」
言葉に悪態を付け、静かな怒りを滲ませるアフロディーテ。この感情は嫉妬。妬いていた。
だが、アフロディーテの感情にもう何度も振り回されてきたレンは経験則からそんなアフロディーテを無視する。
「まぁなんだ。俺に権利なんてないのは分かってる」
「じゃあ――」
「でも今はダメだ、ダメなんだ…頼む!この通り!」
額を床に引っつけて全力の謝罪をするレン。
レンの故郷では『土下座』と呼ばれる最高級の謝罪法、それを見せられたアフロディーテはなんだから困った表情になって最後には呆れたように溜息をついた。
「もう…レンにそこまでされたら断れないよ。今回は特別に許してあげよう」
「悪い、ほんとに感謝するぞアフロディ――」
「ただし、もうこれ以上はレンは拒否しないこと。僕の言う事には絶対に従ってもらうよ」
「わ、分かった…」
もう逃げ場はない。
ただでさえ図々しい事をしでかしたのを理解しているレンはここから先反抗する事など許されない。
それは約束を破ることになるから。
「…そうだ。じゃあ、こうしよう!そのリュー・リオン?とかいう子を連れて僕とデートしてくれないかな?レン」
「…は?なんでリオンまで?」
「ふふふ、知りたいかい?」
コクリと頷くレン。
覚悟して身構えていたというのに思いの外お願い事が軽かったのも度肝を抜かれたが、リューが一緒だというのがどうしても理解できない。
まぁなににせよ、アフロディーテとのデートだ。
普通だとは限らないのだが。
「ダメ。残念だけど教えられないよ」
「お、おう…」
何か企んでることは間違いなし、なのだがレンに分かる筈もない。
リューの目の前で自らの主神を墜そうとするのか。
約束を破ってレンの身体を犯し、貪る所を見せるのか。
子であるリューさえも喰べるつもりなのか。
考えども結論は出ない。
とにかく警戒だけは怠らないでおこうと用心するしかなかった。
「実行日は2週間後の週末、アモールの広場で集合。丁度僕がそこしか空いてないんだ。勿論、付き合ってくれないと許さないからよろしく頼むよ」
「…はぁ。分かった。空けとく」
「リオンって子もね。約束破ったら…君の眷属は僕達が殺す」
「……ッ!い、言っておく…」
アフロディーテが告げた瞬間、彼女の眷族達から殺気が放たれのをレンは感じた。
だからこそ何も言わずに承諾するしかない。
ただただ頷いてレンは出口へと向かっていく。
「ふふふ…」
「……」
自身の背を舌でなぞるようなおぞましい視線を感じながら、それを顔には出さないよう精一杯のポーカーフェイスを保ち、レンは『饗宴の壊』をあとにした。
短編②
title︰半分は嘘
「【アフロディーテ・ファミリア】ですと北区域にあります」
「悪い。助かった」
ギルドの
最も会いたくない相手であるアフロディーテだが、借りを作ってしまったからには会って直接礼を伝えに行かなくてはならなかった。
それが礼儀というものである。
「ま、どうせまたなんか要求されるんだろうがな…」
もう既に疲れた様な表情をするレン。
本当に会いたくない、その気持ちでいっぱいになる。
それでも着実に北区域へと向かっていく。
道中、目的地を目指すだけのレンは以前リューの勧誘に成功した時のことを思い出した。
一人ボヤく。
「【疾風】、か」
それはリューの忌み名。神々によって付けられた二つ名だ。
【疾風のリオン】。四年前忽然とその名を消したあの【剣姫】と肩を並べるほどの実力者。
レンは彼女を
「オーズの真似事も、嘘だけは真似できねえな」
天を仰ぐレンは今は亡き旧友の名を呟く。
嘘をつくのが下手な神友。
いつも真っ直ぐで、眩しくて、どれだけ真似してもやはり真似が得策でない時もある。
「オーズ。俺はきっとお前の――」
「おい、邪魔だ!」
そこまで言い掛けていつの間にか足を止めていたことに気付く。
怒鳴ってきたのは
どうやら通行人の邪魔になっていたらしい。
レンは素直に退いて、改めて目的地を目指して歩き出す。
「リオンには悪いが利用させてもらうか」
最後にそんな呟きを残し、それからは憂鬱になりながらも『饗宴の壊』へと足を向けた。
その背はリューについた
ただ神意を内に秘め、