罪を犯したエルフをファミリアに誘うのは間違ってるだろうか(凍結)(メインタイトル関係なし) 作:伊つき
「なるほど。女神アフロディーテ様…ですか。本当に手段を選ばなかったのですね」
「ん?お前あいつのことなんで知って――あぁ、千里眼か」
【レン・ファミリア】の仮設
木造建築の一軒家にてレンは納得した。
直接会わなくてもルシアなら対象を把握していてもおかしくはない。
ただ、それだけではなかった。
「まぁ…それもありますが、ここだけの話。アフロディーテ様はあまり評判がよろしくないので」
「……言いたいことは分かる。あいつは気に入ったやつを片っ端から喰うからな」
「えぇ。それに今回レン様が彼女に頼んだように裏工作が御手の物です」
アフロディーテの『魅了』効果は凄まじく、同じ美の神であるフレイヤやイシュタルとほぼ同格と言っていいほどである。
そんな彼女が日々性に飢えているということは被害を受ける数も必然的に多くなる。
それに、『魅了』…だけに留まらず彼女自身の能力として裏で手を引いたり、隠蔽したりは容易いこと。その行為に根も葉もない噂の尾ひれが付けば誰の間でも嫌な噂が広まるのはとはや至極当然のことだ。
仕方ないといえば仕方ないのだろう。
「まぁとりあえず今回はなんとかなった、とも言い切れないが。乗り切れば終わり。もう関わる気もない」
「賢明ですね。レン様の知神は他には?」
「いるには居る。だが、そんなに数は多くないな」
「……なるほど。アフロディーテ様の代わりになる御方は居ませんか」
察するように頷くルシア。
なんだか交友関係の狭さを痛感する羽目になったレンは気まづく頬を掻く。
もっと神友を増やすべきだろうか――と本気で考えて始めた。
「そういえば、リューさんが勤務していたという酒場の店主からよくリューさんを連れ出せましたね」
「あー…まぁそれはなんとか口説き落とした」
「言い草だけだと外道そのものですね」
「違う。そうじゃない」
言い方が悪かったのか、レンの言葉を誤解したルシアにレンは有らぬ罪を着せられそうになり否定する。
しかし、実際のところはそこまで認識を間違えていないのだが。
「『豊穣の女主人』…あの酒場は異質です。店内平均レベルはLv.2を超え、Lv.4がリューさんを除いて推定三人ほど。店主であるドワーフは元【フレイヤ・ファミリア】団長だとか」
「へー。俺はオラリオに来たばかりで知らんが随分化け物揃いみたいだな」
「えぇ。なんでも
「ま、そこら辺の事情に踏む込む気は元からない。俺はリューさえ手に入ったのならそれでいい」
「ふふっ、ベタ惚れですね」
「うーん…まぁ間違ってないんだろうけどなんだろう。なんか違う気がするなぁ…」
微笑ましく笑うルシア。微妙な表情をするレン。
二人は話を終え、ルシアが茶を啜る中用意を終えたリューが部屋から出てくる。
「お待たせしました。…何かありましたか?」
「いえ。特には」
「あぁ、そうだリュー。お前に渡したいものがある」
「?なんでしょう」
それは五振り程のナイフ。
だが、通常のそれとは違っていた。
レンはナイフをリューに授ける。
「これは魔剣
「魔剣、擬き…。ありがとうございます」
「魔剣ですか…。いいですね。上層突破が早まります。予定が変わりました。18階層まで行きませんか?」
「それだと日帰りは無理そうですね。構いませんでしょうか?」
「あぁ。勿論」
少し遠出になりそうな探索兼リューの肩慣らしをレンは受け入れる。
最低でも二日は掛かると事前に教えてもらい、リューとルシアは仮設
一人残ったレンも支度を始める。
一週間前の酒場での発言とはまったく違う結果になってしまったことを神友達に報告しておきたい。
ただ一人…あまり報告したくない神もいるが、いずれはバレること。
ならば早めに解決しておくに越したことは無い。
「仕方ない。会いに行くか、バルドルに」
覚悟を決めてレンも仮設
迷宮都市オラリオ、天を衝く白亜の摩天楼施設『バベル』を中心に西のメインストリート。
その中でも一際静かな区域にとある館が確かに存在していた。
それこそが【ヒュプノス・ファミリア】の
名称がまんまなのは主である神が早く睡眠を取りたいが為に適当に決めたからであるが、それを知るのは彼女の神友と眷属だけであるのはここだけの話。
ちなみにその立地は実はオラリオ内でダイダロス通りを除けば最も静寂な場所だという噂がある。
そんな『眠りの館』に訪れた神が二人。
紛れもなく主である女神の神友達である。
「申し訳ありません。もう暫しお待ち頂ければと…」
「あぁ、別に構わなくていい。こういうのは慣れっこだ」
「はい。何度ヒュプノスに待たされたか今更数え切れませんね。もう慣れました」
「そ、そうですか…」
自らの主神の尻拭いをする羽目になっている可哀想なアマゾネスの
彼女も尋ねてきた神の機嫌を損ねないようにと必死だったのだろう。
だが、彼女は何も悪くない。悪いのは全て駄女神もとい眠り姫なのだとレン達は理解している。
もう昔からの付き合いで慣れている二人は『眠りの館』の客人ルームで先に話を進めることにする。
ヒュプノスを起こしに行きたいが、仮にも他神のファミリアなので奥に入ることはできない。
「どうせヒュプノスは来ないでしょう。後から伝えるとして…。とりあえずこの場を借りましょう」
「そうだな」
「それで、【ファミリア】を作ったというのは本当ですか?」
「あぁ」
バルドルの問いにレンは頷く。
ヒュプノスの方はまだだが、バルドルには事前に伝えてあった。
「そうですか。一週間前はめんどくさがっていたというのに……心変わりが早いですね。レン」
「はは…、耳が痛いな。まぁそれも慣れっこだろ?」
「えぇ。そうですよ。本当に…」
お互いの性格を熟知している仲だからこそ理解し合える性格。
どうしても変わらない一面に二人は苦笑いして濃度の薄い果実酒を交わす。
「それでレンが眷属にした子は誰なのですか?」
「あ、あぁ。それは…」
遂に来たか、とレンは内心呟いた。
秩序を愛する光の神・バルドルに対して
最もリューはアフロディーテの協力の上、
(さて、どう誤魔化すか…)
今は
数時間後。
光の神は激怒し、珍しく荒々しい様子で自らの【ファミリア】の
「アルサー!アルサーは居ますか!?」
「は、はい!ここに…!」
主神の激しい様子に身を震わせながら姿を現す
バルドルは彼を見るとキッと目付きを強くして迫り、その肩を強く掴む。
「話してもらいますよ…!レンの眷属となった【疾風のリオン】と出会った夜のことを!」
「ひいいいい!?バレたぁ!じゃ、じゃなくて…!」
もう逃げ場のないアルサーはただ狼狽えるだけ。
その様子に苛立ちを増していくバルドル。
暫く問い詰めた後、大体の状況を把握したバルドルは自身の【ファミリア】にいる妖精の騎士を一人連れて外出してしまった。
短編③
title︰計画通り
オラリオ北区域のほぼ街外れに位置する館、『饗宴の壊』。
その玉座に堂々と座る一人の女神アフロディーテは眷属の報告を聞く。
「――ありゃダメだな」
パッとしない顔付き。
決して整ってはいない容姿に服装、髪型。
冴えない
「そこで諦めるのかい?」
「諦めるもなにも才能ってやつでさ。あんたには分からないだろうけど俺は
「ふぅん。美しくないね」
「そりゃ悪うございました」
性とは別に美の側面も持つアフロディーテ。
彼女に美しさを見いだせないと言われた
だというのに彼は
「それで…君はこれからどうするのかな」
「決まってるさ。ここまでくれば分かりきったことだってのにまだ挑戦する気はある。きっと…作ってみせる」
「僕は楽しみにしてるよ。君の作る
「……期待されるってのは怖いねぇ」
主神の笑みに青年は引き攣る。
期待したところで彼に
もはや恐ろしいとさえ感じる青年は身を震わせた。
思わず漏れる苦笑いと共に主神の間を去ろうとした青年だが、ふと思い出したことをアフロディーテに伝える。
「そういえばあんたの評判、また下がってたぜ」
「へぇ。そうなんだ」
「……やっぱ興味ないか」
一応報告、と思って言ったがアフロディーテのどうでも良さそうな返しに青年も嘆息する。
実の所アフロディーテは自身の評判など微塵も気にしてはいない。
裏工作が得意な眷属達や自身の頭脳を用いてこれまでの彼女の評判はオラリオ内で決していいものとは言えなかった。
だが、寧ろそれが
それでも下がり過ぎというのは良くない、あくまで青年の考えだ。
「あんまり評判悪いとちょっかい出されるぜ?まぁジャック達が睨みを効かせてるからそんじょそこらの奴らなら対処できると思うが、危険だ。いつかデカイ派閥になら寝首を掻かれる」
「その時はその時さ。僕にも色々と考えはあるよ」
「はぁ…。そうかい、なら信じるしかないな」
ここまで話してこなくても主神が聞く耳を持ってないことくらいは気付いている。
もはや溜息しか出ない。
最後に、扉に手を掛けながら一度惚れた身として青年は忠告を口にする。
「一応気をつけておいてくれよ。あんたは俺の主神だ」
「ふふっ…優しいんだね、ロビン」
「へいへい…ったく…」
久々に自身に向けられたうっとりとした
青年――ロビンは頬を紅潮させながら主神の間を後にした。
残されたアフロディーテは去った青年の背を思い浮かべ、微笑む。
「ふっ。相変わらず可愛い子だね、ロビンは。まあレンには遠く及ばないけど……僕の魅力に最も早く気付いた運のいい子なんだから少しは優遇してあげたいね」
独り、また笑みを漏らす。
アフロディーテの求める者はただ一人。
その為ならば恨みを買ってでも自身に寄ってくるものを減らさなくてはならない。
愛想を振りまく
全ては計画通り。
寝首を掻きたいなら好きにするといい。彼をこの手に掴むまでこの首を差し出すつもりなど元よりない。
例えオラリオを敵に回したとしても。誰も寄り付かなくなったとしても。
彼だけが欲しい。
最後には
それに気付いてるのは今のところロビンだけ。
折角集めた眷属達に敵意を向けられることになればいくらアフロディーテでも胸を締め付けられそうな気持ちになる。
今想像してみてちょっぴり泣きそうになった。
「あぁ、それでも――」
胸を抑えて天を仰ぐ。
その瞳の内にあるのは人によっては狂気として映るだろう。
しかし、アフロディーテは正気の中でその言葉を紡いだ。
「それでもレンが欲しいんだ…!」
ただそれだけの願いを。高らかに。