罪を犯したエルフをファミリアに誘うのは間違ってるだろうか(凍結)(メインタイトル関係なし)   作:伊つき

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第9話

ダンジョン9階層に辿り着いたリューとルシアは大量のゴブリンやコボルトに囲まれていた。

レベルの高いリューとルシアからすればこれしき一瞬で蹴散らせる。

だが、今回は数がいつもより多かった。

7階層までと違い、ルームが広く、天上の高さが3M~4Mから10Mにまで高くなった広間で『怪物の宴(モンスター・パーティ)』が()()に起こってしまった。

ゴブリンとコボルト、それぞれである。

対処しきれない訳ではない。寧ろ余っ程油断でもしない限りリュー達に敗北はない。

しかし、ご丁寧に一体一体斬っていては時間を喰ってしまう。

なのでルシアが提案した。

 

「リューさん。ここはレン様から貰った魔剣()()で一掃してはどうですか?」

「…そうですね。手早く済ませて中層へ到達しましょう」

 

ルシアの案を呑み込み、リューは二振りのナイフを懐から取り出す。

そして、刀身が紅く輝いているナイフをゴブリンの衆団に向けて振るった。

 

『ピギャ────ッ!?』

 

すると、刀身が砕けると共に真っ赤な灼熱の炎が出現し、火炎放射の要領でゴブリンを根絶やしにした。

大量に居たゴブリンが一瞬にして魔石に変化した所を見てリューは目を見開いて驚いた。

 

「これは…凄い、ですね。9階層のモンスターが相手とはいえ下手な魔剣の能力と同等なのではないでしょうか」

「ただし一回きりというのは本当だったようですね…とそんなことよりまだコボルトが残ってますよ」

「……ッ!申し訳ありません。すぐに片付ける!」

 

ルシアに指摘されて我に返ったリューは緑妖艶に輝くナイフを振るう。

 

『────ッ!?』

 

今度はリューの風魔法を思い出させる旋風を巻き起こし、コボルトを一掃した。

当然ナイフは砕け散る。

 

「擬きというのは簡単に火力不足ということでしょう。きっと」

「えぇ。これならば中層からは使えない。しかし、これは――」

「えぇ。普通に魔剣の分類でいいと思いますが。まぁそこは本人のプライド的問題かと。おそらく、これらを作ったのはレン様です」

「彼が…?」

 

ルシアの見解が驚くべきものでリューは目を見開く。

だが、レンの荷物に鍛冶師がよく使いそうな槌や道具があったのを思い出し、納得した。

 

「なるほど。有り得ますね。とにかく訳ありというわけですか」

「はい。まぁレン様のことはこれから分かるでしょう。実は私もレン様のことをよく知らないのです」

「千里眼を持つ貴女が?」

「彼は人から神に成り上がったと言いました。ですが、それだけかどうか。彼が人であった時どうだったのか。それらは分かりません」

「何故…ですか?」

「簡単ですよ。私が千里眼というスキルを手に入れた時、彼は既に神でした」

 

なるほど、と納得する反面。

リューはとんでもない事を聞き逃しそうになった。

 

「待ってください。千里眼はスキルだったのですか…!?」

「えぇ。あぁ、そういえば言ってませんでしたね。千里眼は私がLv.2にランクアップした時に発現したスキルです」

「それはいつ頃…?」

「丁度五年ほど前でしょうか。そこら辺はあまり記憶にありませんが…私は【バルドル・ファミリア】初期メンバーなのでそのくらいだったかと」

 

リューの知識によると【バルドル・ファミリア】が作られたのは七年前。

五年前だとすると…ルシアは二年でLv.2になった。

意外なことにそれなりに標準的な成長速度である。

 

「ルシアはてっきり【剣姫】…とまでは言いませんがそれなりに異常な成長速度を持っていそうなイメージでしたが、普通ですね」

「それは偏見です。千里眼を有し、魔法を多少得意としている身以外は至って普通の冒険者と何ら変わりませんから」

「ちなみにLv.3へのランクアップは…?」

「三年前、Lv.2からまた二年後です」

 

これは少し早いか。

だが、リューが予想していたような想定外の成長速度は次のランクアップだった。

 

「Lv.4には二年で到達しました」

「二年……早い」

「ふふっ。これは自信があります…。凄いでしょう?と言ってもリューさんの方が成長速度は早いと思いますが」

 

ドヤッとでも効果音が出そうな表情の後にちょっぴり苦笑いを見せるルシア。

【剣姫】や【猛者】などと比べると隠れてしまうが、ルシアもかなり神々を騒がしている。

主にランクアップの速度、それも幼い年齢だということ。

昔、【剣姫】と比べ物にされていたリューはルシアのことをあまり知らなかった。

 

「まさか貴女がそれほどの人とは…」

「注目はされましたが、あまり広まってはいませんでしたからね。…まぁ、それには許し難い理由があるのですが」

「……?」

 

ルシアの最後の呟きに首を傾げるリュー。

彼女もかなり訳ありらしいが、リューが知ってるのは二つ名くらいだ。

会ったばかり同然の彼女の事情に踏み込むのも失礼なのでとりあえずは関わらないでおく。

 

「さて、中層が見えてきましたよ。13階層です」

「えぇ。行きましょう」

 

遂に目に映った13階層への入口。

そこに堂々と野良ではなくギルドに認められた冒険者として久しく踏み込むリュー。

懐かしいあの頃を感触を噛み締めながら、中層へと向かった。

 

 

特に苦戦することもなく17階層へと到達したリューとルシア。

これから挑む『階層主』との戦いに身を奮い立たせ、気を引き締める。

 

「『迷宮の孤王(モンスターレックス)』ゴライアス…その姿を拝められますね」

「丁度生み出される頃のようだ。来る――!」

 

リューとルシアが見上げる障壁。

17階層の大広間にある最後の障壁『(なげ)きの体壁(たいへき)』にヒビが入り、そこから一体の巨体が生み出される。

総身7Mはある巨体はドシン!と盛大な音を立てて灰褐色の図体をリュー達へと見せつけた。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』

 

響き渡る咆哮。

発せられる轟音がダンジョンを震わせる。

そして、巨人ゴライアスの双眼はしっかりとリューとルシアを捉えた。

 

『オオオオオオオオオオオオ…!!』

 

「来ます…!」

「【龍の呪い、果実の呪い】」

「詠唱…?」

「【呪詛(カース)となりて顕現せよ――我が真名(まな)を解放せん】」

 

全速力で走り来る階層主(ゴライアス)

巨大な歩幅でリュー達との距離を一瞬で縮めてしまおうとする巨人にルシアは短文型詠唱を完成させ、標的をゴライアスの顔へと固定した。

詠唱中動かぬルシアをリューは守ろうと木刀を構える。

だが、それは無駄に終わる。

 

『オオオオオオ…!』

 

「【ヘル・バレット】」

 

『グガァッ!?オオオオオオオオオオオオオオオオオオーー!!』

 

顔面に火炎弾を喰らったゴライアスは顔を抑え、苦しむ。

リューはそんなゴライアスの様子を唖然と見ていたが、ハッと我を取り戻し跳ぶ。

 

「【龍の呪い、果実の呪い。呪詛(カース)となりて顕現せよ】」

 

再度詠唱を唱え始めるルシア。

だが、それは先程よりも――。

 

(速い!?)

 

さっきと同じ詠唱文が明らかに倍速で読まれている。

驚愕を隠せないリューだが、すぐに気を取り直してキッとゴライアスを睨む。

 

「はぁ!」

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!?』

 

「【記憶を焦がす龍の獄炎を。犯した罪の毒実を】」

(さっきより長い!それに、魔力の質も――!)

 

リューによって足首を斬られ、ゴライアスが足の支えを失い、膝をついた。

その隙にさらに詠唱を紡いでいくルシア。

リューはここ来て初めて本領を発揮したルシアに驚愕が止まらなかった。

それでもルシアの詠唱が完成するまで動きを止めていけないとゴライアスの肉体に斬撃を増やしていく。

ルシアの奥から練られる濃質な魔力を感じながら。

 

「【最悪を重ね、吐き出せ。――浄土と化せ】」

「くっ…!この感覚、詠唱の完成。離れなれければ!」

 

自身の魔法を放つ時に熟知した感覚を敏感に感じ取り、リューはゴライアスから距離を置く。

リューが離れたのを知覚で察したルシアはリューの斬撃で怯んだゴライアスに標的を固定する。

そして、

 

「【ヘル・サラマンドレア・ブレス】」

 

轟炎。否、獄炎。

そう表現するのが最も近しい火炎放射。

まるで竜の咆哮(ブレス)のように一直線に標的の巨人を丸ごと獄炎で包む。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオ…オオ…オ…!』

 

灼熱に包まれていた間苦しみもがいていたゴライアスだが、一瞬にして雄叫び声を静まらせ、灰褐の体皮は塵へと変わった。

チリヂリと焦げ臭い匂いを漂わせたのち『迷宮の孤王(モンスターレックス)』は一人孤独に消滅した。

魔石を落として。

 

「……今のが貴女の魔法ですか」

「はい。少し火力が高過ぎるのでそう頻繁には使えませんが。ちなみにここまでに使っていた火の魔法は今の魔法の詠唱を短くし、無理矢理威力を調整したものです」

「無理矢理…。よく見れば、貴女は腕を火傷している」

「そういえばそうですね。短文詠唱だと火力調整が難しいのでよく火傷してしまいます。ですが、今更気にしませんよ」

「そうもいかない。ルシア、貴女が凄いのは認めるが油断は禁物だ。特にダンジョン内では。なので治療しましょう。幸い、次は18階層です」

「……そうですね。ありがとうございます。少し天狗になっていたかもしれません」

 

プスプスと火傷した腕をさらけ出すルシア。

普段、常時同様のことが起こっているルシアにとって火傷など後で直せばいいと思っていたが、リューが言うようにそれが命取りになることもある。

そういう危機感的面でリューは几帳面でダンジョン内で彼女がミスを犯すことはそうそうないだろうとルシアは感じた。

 

「【今は遠き森の歌。(なつ)かしき生命(いのち)の調べ。汝を求めし者に、どうか(いや)しの慈悲を】 」

「……」

 

目の前で詠唱を紡いでいくリュー。

何時頃からだろうか。ルシアが自らの魔法で軽く負傷したくらいで足を止めてくれる仲間は【ファミリア】から居なくなっていた。

後輩のアルサーや今、地上でリューを迎え撃とうとしたいる妖精騎士にはたまに心配されるが、確認程度のそれだけ。

だから、リューの言葉はルシアにとって素直に嬉しかった。

自然と口元が緩む程に。

 

「【ノア・ヒール】」

 

詠唱を完成させたリューが回復魔法でルシアの腕を治す。

火傷はあっという間に無くなり、腕が修復されていく。

完璧に動くようになった腕を見て、ルシアは改めて礼をした。

 

「ありがとうございます。助かりました」

「当然のことだ。一応忠告しておきましょう。軽い火傷でも放置は厳禁です」

「ふふっ」

「何を笑っているのですか…。今は真面目な話です」

「そうですね。すみません。でも…いえ、なんでもありません。18階層に向かいましょう。私のせいで時間を使ってしまいました」

「急ぐ必要も無い。それくらい構わないというのに」

 

私も回復魔法を取得しているのですが、とはルシアは言わなかった。

敢えてリューの気遣いを無駄にすることもない。

それより18階層へ向かい、モンスターの発生しない『安全階層(セーフティーポイント)』で行きしなの疲れを癒すべきだ。

Lv.4の彼女達が中層域で疲労するのかといえばしない訳ではない。

ここから下層に行くにしてもこれから戻るにしても休憩は必要だ。

だが、今回は違う。

 

(【妖精騎士(フェアリー・ナイト)】…マリウス君、ですか)

 

(地上)で待つ同僚のエルフ騎士。

リューには彼との決闘が待っているだろう。

千里眼を有するルシアだからわかること。

今は彼女を出来るだけ休ませてあげたい、と前衛を歩くリューの背を見て少女は切なく思った。

こんな()()()()自分を尊敬してくれるエルフに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンジョン出口付近にて。

地上へ出ようとするリューをルシアは制止する。

 

「待ってください。正規ルートは避けましょう」

「え?何故ですか…?」

「少し、事情がありまして…お願いできませんか?」

「え、えぇ…。構いませんが」

「ありがとうございます」

 

()()()()()()を考慮してダンジョンの裏口にリューは進行方向を変える。

ここまで手伝ってくれた彼女にせめてもの恩返しとして少しくらいの融通を聞くのは苦ではなかった。

まぁ実際はルシアがリューのために取った行動なのだが。

 

(バルドル様…相当お怒りの様子ですね。もはや遊遊戯(ゲーム)は避けられませんか…)

 

彼女の()に映る自らの主神。

『バベル』前に同僚の騎士を連れている。

どうやらレンは失敗したようだ。

さて、どうするか。

ルシアは少し考える。

相手がバルドルな以上ルシアがいる限り居場所はバレてしまう。

となるとやはり時間稼ぎをした上でリューを逃がすしかない。

そうと決まればルシアはすぐに行動した。

もうすぐ出口に差し掛かるリューに声を掛ける。

 

「リューさん。外に出たら急いでレン様の元へと向かってください」

「え?それはどういう…。彼の身が危険なのですか?」

「…えぇ。まぁそんなところです」

 

千里眼を持って世界の情勢を現在進行形で見れるルシアが言うからか、リューは簡単に信じて承諾する。

相手が勝手に勘違いしてくれたおかげで余計な嘘はつかずに頷くだけで済んだ。

ルシアは安心しながら次の行動への思考へ移る。

 

(ステータス更新は…私が促すまでもないでしょう。レン様が怠るとは思えませんし。後はやはり――)

「ルシア?どうかしたのですか」

 

リューに声を掛けられ、顔をあげる。

さっきまで無言だったのに急に話し掛け、レンが絡んでいる話までした。

リューがルシアを気に掛けない理由がない。

 

「いえ、何も」

 

だが、ルシアが焦る様子はない。

当然だ。

予め知っていたのだから。

 

「そう、ですか…。てっきり貴女が考え込んでしまう程に深刻な事がレン…様に起こってるのかと思いました」

「いえ、それは間違っていません。少し急いだ方がいいかもしれません」

「……分かりました」

 

ルシアの真剣な口調に事態の深刻さを理解したのか、リューの進む速度が速くなる。

だが、彼女はまだ状況が逆だということに気が付いている様子は…ない。

二人はダンジョンを出る。

すると、それと同時に行動した者がいた。

 

「……!リューさん!」

「は、はい。なんでしょう…」

 

いきなり叫んだ少女に驚きで目を見開くリュー。

先程から状況を把握しているのはルシアだけで急な指示を受け続けているリューは微妙な気持ちになる。

だが、今のルシアにそんな気持ちを汲み取ってやることもなりふり構っていられる余裕もない。

 

「急いでここを去ってください。…少し、身内で問題が起こりました」

「そ、そうですか。分かりました」

 

とにかくと言った感じで頷き、その場を去るリュー。

ルシアはそれを確認して瞬発的に警戒を強めた。

それと同時に高速で迫る影。

影は()()()()()()を手に今しがた別れたエルフ目掛けて駆けた。

だが、ルシアがそれを許さない。

 

「【龍の呪い、果実の呪い。呪詛(カース)となりて顕現せよ――我が真名(まな)を解放せん】。【ヘル・バレット】!」

「ちっ!」

 

ルシアが得意としている高速詠唱。

彼女の中で最も短文型な詠唱での攻撃魔法を放ち、火炎弾は真っ直ぐに影に命中する。

陰の正体である狼人(ウェアウルフ)の男は反射的に大剣を盾代わりに構えてそれを防いだ。

そして、着地した狼人(ウェアウルフ)はキッと魔道士の少女を睨む。

 

「なにしやがんだ!ドチビ!」

「相変わらず口が悪いですね、ライオネル君」

「うるせえよ!相変わらず詠唱速過ぎんだよ!」

「ありがとうございます」

「褒めてねぇよ!」

 

狼人(ウェアウルフ)――ライオネル・モルド・レッド。

懲りずにリューを狙う彼にルシアは嘆息を漏らす。

 

「まだリューさんを狙っているのですか?」

「当たり前だ。あいつを恨んでる奴は巨万と居る!」

「賞金首、ですか…。ですが語弊がありますね。彼女が生きている事を知るものはそう多くありません。嘘をつくのはやめてください」

「は?嘘なんて――」

「正直に言ってください。貴方の後ろにいるのは誰ですか?」

 

薄目を開けてライオネルを見る。

ルシアによる直の視線に少し驚いたのか、ライオネルの目が少し泳いだ。

ビンゴ、っと彼女の呟き。

ルシアは知っている。

まだリューが『豊穣の女主人』に拾われる前、路地裏で追っ手から何とか逃げたが負傷して泥へと倒れ伏せてしまったその時から。

ある鈍色髪の少女に介抱され、酒場で働くことになり、その日々の中でとある賞金稼ぎの少女達と相見えた時まで。

あの時点でリューを賞金首として考える最大勢力は消えている。それも()()()()()

だから、このオラリオで【疾風のリオン】が生きている情報自体がそこまで出回っていない筈なのだ。

そうなると、自然とライオネルの背後にいる闇の正体も限られてくる。

後はライオネルが口を割ってくれてくればいいのだが…。

そう簡単にはいかないようだ。

 

「クソ…!いちいち何でも見透かしたように言いやがって…!癇に障るんだよ、お前!!」

 

遂にライオネルの堪忍袋の緒が切れた。

否、最初から既に頭に血が昇っていた。

ルシアは狼人(ウェアウルフ)の低い沸点に触れてしまい、ライオネルは包丁型の大剣【黒漆(くろうるし)】をルシア目掛けて振るう。

完全魔道士型冒険者のルシアには反応しきれない豪速で【黒漆(くろうるし)】の刃は彼女に迫った。

だが、それが届くことは虚しいがなかった。

 

「……ありがとうございます。マリウス君」

「いえ。当然のことをしたまでですよ。それよりレディ・マリーン、お怪我はありませんか?」

「はい。御蔭様で」

「……ッ!お前は…!」

 

黒漆(くろうるし)】を真っ直ぐに受け止めたこの世で一番清潔な刃。

小細工なしの真っ向からの受け止め、弱気者を守る優しき強者の風格。

凛とした態度にその目に宿るのは清潔清楚を貫き通した一点の曇もない純粋な正義。

それでいて存在感をしっかりと他者に認識させる、ルシアの前に庇うように立つ彼は尖った耳からエルフと伺える。

ライオネルの激昂で集まっていた輩は誰もが同じ感想を胸に抱いた。

そう、それはまさしく【妖精騎士】という名がピッタリな立ち姿。

マリウス・ガウェン、【バルドル・ファミリア】幹部構成員の一人である。

 

「レディへの乱暴はあまり感心しませんね。ミスター・ライオネル」

「マリウス・ガウェン…。なんでお前がここに」

「ここに居合わせたのは偶然ですよ」

 

刃をギチギチと競り合わせる中、マリウスが温和な態度を見せる。

 

「ところでミスター・ライオネル。そろそろ剣を収めませんか?」

「あぁ?」

「それとも…ここで一戦交えても私は構いませんよ?」

「……!」

 

身体の奥底から冷える感覚。

目の前に居た親しげな男が静かに殺気を匂わせた威圧的なエルフ剣士に変わった。

彼の実力と性質を知るライオネルはそれを感じ始めた所でチッ!と舌打ちし、【黒漆】を背に収める。

 

「賢明な判断です、ライオネル。貴方の慈悲に感謝を。それで、何があったか話してもらえますか?」

「ちっ!いちいち偉そうなのは変わらねぇな。俺は悪くない。そこのチビが俺の邪魔をしてきたんだ!」

「ライオネル君が他派閥の冒険者を背後から狙うような真似をしたので止めただけですよ」

「おや、それは…」

「ち、違っ――」

 

ルシアのせいにしようと真っ先に口を開いたのはいいが、連続で放たれた彼女の真実の言葉に焦るライオネル。

――こいつ、言い方をマリウスに合わせてやがる。

内心そう毒づいてルシアの恐ろしさが魔法だけではないことに思わず苦い顔をする。

頭の切れるルシアの物言いにマリウスの視線がそれは貴方が悪いのでは?とライオネルに移動する。

 

「ま、待て!そいつが嘘を付いている可能性も――!」

追い込まれたライオネルは反射的に嘘の可能性を問うてしまった。

そう、やってしまった。

マリウスの目線が針金のように鋭くなる。

 

「彼女は嘘など付いてませんよ。私には分かります」

「なっ…!?そ、そんなわけ――」

「他人の嘘くらいは私は見分けられますよ?ライオネル。目の動き、発汗作用、心拍音、皮膚の震え。手段ならいくらでも」

「……ッ」

 

ライオネルの息が一瞬詰まる。

マリウスの言葉に嘘はない。

それくらいはライオネルにも理解出来た。

だからこそ恐ろしいのだ。

この(エルフ)の潜在能力が。

やがて、ライオネルは自白した。

 

「クソ…。仕方ねぇ、白状してやるよ!」

「ふっ。認めましたね。今回は警告だけに留めてあげようと私は考えますが、貴女はどうですか?レディ」

「はい。構いませんよ」

 

いつもなら身内の処罰は【ファミリア】幹部総勢で決断するのだが、今回は特例としてその場での決断。

その場にいたルシア(幹部)にも意見を求め、ライオネルの処罰は決した。

 

「ミスター・ライオネル。他派閥の冒険者への攻撃は規則違反です。以後、気を付けるようにここに警告します」

「へいへい。ご慈悲に感謝しますってな」

 

吐き捨てるように言い残して去るライオネル。

彼も相変わらずだな、とマリウスが呆れる隣でルシアは別件の話に話題を移す。

 

「時にマリウス君。ライオネル君が狙っていたのはあの【疾風のリオン】です」

「それは……むっ」

 

思わず振り向いたマリウスにルシアの口元が緩む。

嵌められた。マリウスは目の前の同胞には敵わないことを再確認されて苦笑いが浮かぶ。

 

「やはり、マリウス君の標的も彼女なのですね」

「標的という程でもないですよ…。何も彼女の首を狙っている訳ではありません」

「ところでバルドル様は?」

 

主神である光の神がマリウスと共に居たのは千里眼で確認済み。

今は見当たらないその姿をルシアは尋ねた。

それに対し、マリウスは一瞬目を見開いた後微笑む。

 

「まさかそんなことを言うとは思いませんでしたよ、レディ・マリーン。全て貴女が仕組んだことでしょう」

「やはり気付かれてましたか。元より騙せるとは思っていませんでしたけど」

「フッ。本当に抜け目がない人のようだ。貴女という人は」

「ふふふっ…さて、なんのことでしょう?」

 

マリウスの太陽のような朗らかな微笑みとは対照的にルシアはしてやったとばかりの悪どい微笑み。

そんな静かな争いにライオネルとの騒動で集まっていたギャラリーも冷や汗を垂らしながら去っていく。

そんな修羅場にひとりの神が近付いていくのをルシアとマリウスは視界の端に捉える。

と、同時に珍しくルシアは心中で少し焦り始め、困った。

近付いてくる主神が少々、いや、かなり不機嫌だったから。

 

「ルシア!遂に見つけましたよ」

「バルドル様…」

「はぁ。どうせ状況は把握しているのでしょう。何故こうなったのかわかっていますね?」

「はい…」

「貴女の処罰は後ほど考えます。とにかく手伝いなさい」

「分かりました。我が主神に望むままに」

 

バルドルの指示に頷き、頭を垂れるルシア。

地に片膝を付く彼女は心に抱くものがある。

 

(また私の……)

 

だが、途中でそれを噛み殺した。

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