念藤さんのヒーローアカデミア   作:芋一郎

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入試、テスト、訓練

わたしの父親はヴィランである。

「念動力」という使い勝手の良い個性を悪用し、ありとあらゆる悪事に手を染めてきた悪人である。

 

長い間、この父親は我が人生においての大いなる汚点であった。しかしそれは、わたしが小学校四年のときに払拭されることとなる。

 

「私が来た!」

 

折しもそれは、たまたま母親と出かけていたデパートにて、愚かなる父が強盗立て篭もり事件を起こしていた最中であった。

実の父親に人質に取られるという稀有な体験をする中、デパートの天窓を突き破り、吹き抜けを自然落下してきたその男は、アメリカンカラーのスーツに身を包んだ大男、ヒーローオールマイトであったのだ。

 

オールマイトといえば世間では平和の象徴と持て囃される名実の伴ったナンバーワンヒーローである。

その名声に背くことなく、その日オールマイトは我が父親を捕縛するに至った。

 

「少女よ、もう大丈夫だ。ヴィランは私が成敗した!」

「ありがとうオールマイト! お父さんをやっつけてくれて!」

「!! 父だと? 君は…」

 

私の人生で最も恥ずべき恥部。それを難なく片付けて、明日からへの毎日に光を差し込んでくれたそのヒーローは、いつの間にか私にとってアイドル的存在となっていた。

 

私もヒーローになりたい。

そうしたらオールマイトにサインを貰えるだろうから。

 

そんなミーハーな理由で、わたしは雄英を志望したのだった。

 

それから五年後。

中学三年となったわたしは、無事雄英の入学試験に参加していた。

 

「スタート!」

 

試験を監督するヒーロー(プレゼントマイクではない)の掛け声に合わせて受験生たちが一斉に走り出す。

やはり増強系の個性の持ち主たちが抜きん出て先を行き、残りがその後方で固まっている。

 

私の個性といえば父の「念動力」である。

この個性は空も飛べれはバリアも張れる、まさにチート級の利便性を持ち、また私は母の「修復」さえ複合的に持ち合わせていることから、「念動力」で壊して「修復」で直すという真似が出来る。

 

つまりロボットを破壊して直す、破壊して直すを繰り返すことによって、労なくポイントを稼ぎ出すことが出来るのだ。

 

「!」

 

ちょうど良く、先行した増強系の受験生が破壊したであろうロボットの残骸を見つけた。プレゼントマイクより事前になされた説明によると、これは2ポイントに当たるロボットだと目される。

 

当然、受験生たちはこの残骸を無視して我先へと進んでいく。

その中でわたしは一人立ち止まり、ロボットの残骸へと手を触れさせた。

 

すると、ロボットはたちまちの内に修復され、その独眼に光を灯して重い装甲を持ちあげ始めた。

 

修復にかかった時間はおよそ三十秒であった。

これは先行した増強系の受験生がこのロボットを破壊してから三十秒が経っていた、という意味でもある。

 

ーー破壊されてからの時間=修復にかかる時間

 

当然、修復に時間がかかればその分消耗する。消耗すると堪え難い頭痛に襲われる。最悪気絶する。しかし壊れたての物体を直す分には、ほぼ際限なく行える。

これがわたしの「修復」の特性であった。

 

現在、2ポイントのロボットは完全にその図体を起こして、わたしへと向かって機械の腕を振り上げている。

 

わたしはその腕の最も細く、脆いであろう箇所を「念動力」で捻り切り、キャタピラを外し、首を引き抜いた。

 

しかし、ロボットは尚も動いている。

試しに胸部分の装甲を念動力にて剥がしてみると、複雑な機器や配線の中で、分かりやすくオレンジ色に着色の為された機械部分があった。

「私こそが弱点だ!」と全力で主張しているその部位を引きちぎってみると、ロボットは予想通り動作を止め、その機能を停止させた。

 

「よしよし」

 

そして直ぐさま修復。

数秒と経たずに復活したロボットの装甲部分を外して弱点を破壊。

 

わたしはこれを、試験終了時間まで一人黙々と続けた。

途中からは作業も効率化し、胸の装甲を外さなくても弱点を狙えるようになっていた。

 

結果、ロボットを破壊した回数が164回。

計328Pがわたしの得点となった。

 

「あー、ちょっと頭痛するわ」

 

そうやって、雄英の試験はつつがなく終了した。

 

 

 

一週間後。

 

「ナオー、雄英から試験結果届いたよー」

「うん、お母さん一緒に見よ」

 

『私が投影された!』

 

「あっ! オールマイト!」

「良かったわねぇ。あんた好きだもんね」

 

『筆記については少し不安が残るが……その圧倒的ヴィランポイントにてーー念藤ナオ! 合格! ようこそ雄英高校ヒーロー科へ!』

 

「わーい」

「良かったねぇ」

 

合格した。

 

そしてそれからというもの。

 

「えー、我が校から雄英高校ヒーロー科の生徒を輩出できたことは望外の喜びであります。皆さん、念藤さんへ惜しみない拍手を」

 

中学の全校集会で表彰を受けたり。

 

「念藤さん凄いねーwwヒーロー科ってww」

「パツパツのスーツ着たりすんでしょww」

「ええwwはっずww私は無理だわww」

 

やたら絡まれたり。

 

「念藤さんライン教えて!」

「あたしも!」

「俺も!」

 

他学年他クラスから人が押し寄せて来たり。

色々あったが、その他は特に何事もなく中学卒業の日を迎え、春休みには母と卒業旅行に行ったりして、わたしは順調に雄英高校入学の日を迎えるのであった。

 

朝。

自室にて姿見に写る自分を確認する。

 

髪はヘアアイロンで毛先を軽く巻いたライトブラウンのミディアムボブ。

母譲りの瞳の色はグレーがかったグリーン。

体格は少し小柄だが、姿勢は良い方だと自負している。

 

そして真新しい雄英の制服。

糸くず一つなく、ピシッと決まっている。

 

「よし!」

 

中学のときと比べて少し大人っぽくなった自分がそこにはいた。

 

「行って来まーす」

「いってらっしゃい、気をつけてね」

 

記念すべき日にも関わらずいつも通りの母の声に送り出されて、わたしは雄英への通学路を歩み出す。

 

幸い、自宅から雄英高校へは徒歩二十分という近距離。明日からは自転車で通うつもりだが、折角の入学初日。桜並木を眺めながらゆったり向かうのも、また風情があって良かった。

 

 

 

「個性把握テストォ!?」

 

わたしの所属することとなるクラスは1-Aであった。

驚くべきことに、担任の相澤消太はクラス全員に入学式をボイコットさせ、体操服に着替えさせてグラウンドに叩き出した。

何でも、これから個性把握テストなるものを行うらしい。雄英は自由な校風が売り文句であるから、教師もそれに準じて然るべきなのだとか。

入学早々、雄英らしい一幕を見た心地である。

 

とはいえ最下位は除籍処分と相成るらしい。

真剣に臨まねばならない。

 

因みに、テストの項目は以下の通りである。

 

ソフトボール投げ

立ち幅跳び

50m走

持久走

握力

反復横跳び

上体起こし

長座体前屈

 

サクサクいこう。

わたしの出した記録が以下の通りである。

 

ソフトボール投げ

770m(念動力にて)

 

立ち幅跳び

無限(飛べるため。実際は有限)

 

50m走

4.5秒(念動力にてアシスト。自身の体を念動力で急激に動かすのは危険なため)

 

持久走

三位(飛んだ)

 

握力

730キロ(念動力にて)

 

反復横跳び

67回(念動力にてアシスト)

 

上体起こし

36回(念動力にてアシスト)

 

長座体前屈

53センチ(平均よりやや上)

 

結果、特待生を抑えての総合一位獲得。

やっぱこの個性チートだわ。

 

「ちなみに除籍はウソな」

「「「はぁー!?」」」

「あんなのウソに決まってるじゃない。ちょっと考えればわかりますわ」

 

ウソなんかーい!

 

 

 

「あっ、君は…! 一位の…!」

 

下校の時刻である。

下駄箱で靴を履き替え、校門を出たわたしは、同じクラスの男子生徒とバッタリと出くわした。

 

「念藤です。えっと、緑谷くん…だったっけ?」

 

癖っ毛にソバカスの浮いた頬。

個性把握テストで相澤先生に絡まれていた生徒であった。

 

「あ、ああ…うん、な、名前覚えて…」

「ほら、今日目立ってたから」

「お、お恥ずかしい…」

 

モニョモニョと呟いてから顔を伏せる緑谷くん。

女子校生と話した経験が少ないらしく、その頬はほんのりと色付いていた。

 

「えっと、指折れてたよね? 大丈夫だった?」

「う、うん。保健室で…リカバリーガールに…」

「そうなんだ」

 

「「…………」」

 

沈黙。

そもそも、わたしも積極的にコミュニケーションを取るタイプではない。

かといって「じゃあまた明日」も何だか素っ気ない気がするし。わたしも雄英で友達作りたい訳だし。

 

「緑谷くん、しりとりでもする?」

「えっ!? う、うん。いいけど…」

「いいのか…」

「嫌なの!? 自分から言っといて!?」

 

しまった。つい思いついたことを言ってしまった。気を悪くさせてしまったかもしれない。

 

「えーと…」

 

緑谷くんも混乱している様子である。

誰か、第三者の助けが必要であった。

 

「指は治ったかい?」

「わっ! 飯田くん…! うんリカバリーガールのおかげで…」

「そうか! しかし相澤先生にはやられたよ。俺は「これが最高峰!」とか思ってしまった! 教師がウソで鼓舞するとはーーはっ! 君は一位女子!」

「おーい! そこの三人! 駅まで? まってー!」

「君は無限女子!」

 

ぞくぞくと来たー!

 

しかしこの後、この三人とは仲良くなることが出来た。明日四人で食堂行こうって約束したし。ええやん。

 

まとめ。

雄英高校一日目は、何だか意外と順調に終わった。

 

 

 

翌日。

午前。

 

「んじゃ次の英文のうち間違っているのは? おらエヴィバディヘンズアップ! 盛り上がれー!」

 

うるせー

 

昼。

食堂。

 

「白米に落ち着くよね、最終的に!」

 

おいしー

 

午後。

ヒーロー基礎学。

 

ようやく待ちに待った時間である。

教室にいるクラスメイトたちも、どこが期待に満ちた落ち着きのない様子。

「なぁ、オールマイト本当に来んのかな」「生で見れるとか!」「楽しみだよー!」などと盛り上がっている。

 

そして予鈴が鳴って、しばらく経った時だった。

 

「わーたーしーがー! 」

 

この声は!

 

「普通にドアから来た! HAHAHAHA!」

 

オールマイトだ! 本物だ! かっこいい!

 

「うわー! 本物ー!」

「オールマイトだ! すげぇや! 本当に先生やってるんだな…!」

「シルバーエイジのコスチュームだ…!」

 

オールマイトだ! すごーい!

 

「早速だが今日はコレ! 戦闘訓練! コスチュームに着替えたら、順次グラウンドBに集まるんだ!」

 

わーい! サインほしーい!

 

 

 

グラウンドB(元入試会場)

 

突然だが、わたしのコスチュームはごくシンプルなもので、耐熱耐刃耐性の特殊生地で出来た短パンオーバーホール(サロペット)である。ぱっと見は普通の女子が着ているような私服と変わりないが、これは普段と変わらぬ精神状態で戦いに臨みたいが為の措置であり、決して旧同級生から言われた「パツパツスーツとか着ちゃうんでしょww」を気にしているからではないので悪しからず。

 

「わぁ、ナオちゃんのコスチューム可愛いね! なんかこう…! 私服みたいで!」

「というかそれ、ヒーロースーツなのかしら?」

 

それぞれ麗日さんと蛙吹さんの言葉である。

 

「うん、このスーツは平常心を保つ為のーー!!」

「「?」」

 

頭にはてなマークを浮かべる麗日さんと蛙吹さん。

両名とも、ちゃんとパツパツスーツであった。

 

「なんかゴメン…」

「え!? ナオちゃんどうしたの?」

「わたしだけ逃げたみたいで…」

「んん???」

「念藤ちゃんは変な子ね」

 

何だこいつカエルのくせに。

 

「先生! ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか!?」

 

最後に来た緑谷くんを含めた全員がコスチューム姿で並ぶ中、飯田くんが挙手してハキハキと質問をする。

 

「いいや! もう一歩先に踏み込む! 屋内での対人戦闘訓練さ! 君らにはこれから、ヴィラン組とヒーロー組に別れて、2対2の屋内戦を行ってもらう!」

 

オールマイトはそう宣言すると、取り出したカンペを見ながら状況説明を始めた。

普通カンペとは隠れてコソコソと見るものだが、ナンバーワンヒーローともなればその姿すら堂々としており、わたしは感動した。

 

今戦での状況設定は以下の通りである。

 

・ヴィランがアジトに核兵器を隠している。

・ヒーローはそれを処理する必要がある。

・ヒーローの勝利条件は制限時間内のヴィラン捕縛か核兵器の回収、ヴィラン側はその逆。

 

説明を終えると、オールマイトは続けてわたしたちにクジを引かせた。

これで組み分けと対戦相手を決定するのだ。

 

「クジ! 適当なのですか!?」

「プロは他事務所のヒーローと急増チームアップすることが多いし、そういうことじゃないかな…」

「そうか…! 先を見据えた計らい…失礼致しました!」

 

その際に交わされた飯田くんと緑谷くんの会話である。

なるほど、緑谷くんはあまり強そうに見えなかったけど、知将的な感じなんだな。

頭を使う場面では頼りにしよう。

 

ということで、コンビ分けと対戦相手決めは滞りなく成された。

 

くじの結果、わたしはBチーム。

このチームだけ人数の関係で三人で、さらにチームメイトは特待生の轟くんに接近戦の得意っぽい異形系の障子くんであった。

 

「えぇー! 相手は特待生の轟くんに個性テスト一位の念藤さんに見た目明らかに強そうな障子くん!? わーん! 不公平だー!」

 

服が宙に浮いて話している。

彼女は確か葉隠さんと言ったか。

姿が見えない故に存在感のある、何とも矛盾したクラスメイトであった。

 

「よーし! 尾白くん、私こうなったら本気でやるわ! 服も今のうちに脱いどくわ!」

「いや服はまだ着てなよ」

 

彼女にやれやれ系空手男子の尾白くんを加えたIチームが、わたしたちの対戦相手であった。

 

「あっ! 始まった!」

 

クラスメイトの一人の声にモニターへと目を向ける。

そこでは緑谷&麗日のA チームと、爆豪&飯田のDチームの戦闘訓練が今まさに始まっていた。

わたしたちが今いる場所は彼らが戦うこととなるビルの地下の一室である。その場所にてビル内部に複数設置された固定カメラを頼りに戦闘を観戦するのだ。

因みにマイクは付いてないので音声はナシ。

 

『そういうとこがムカツクなぁ!!』

『個性使って来いや! 俺の方が上だからよぉ!』

『当たんなきゃ死なねぇよ!』

ドカァァァァン!

『ああ〜! じゃあもう、殴り合いだ!』

『ホラ行くぞ! てめェの大好きな右の大振り!』

ドゴォン!

『てめェは俺より下だ!』

 

『君が凄い人だから勝ちたいんじゃないか! 勝って! 超えたいんじゃないかバカヤロー!!』

『その面やめろやクソナード!!』

 

ドゴォォォォォン!!

 

二人とも熱過ぎだろ。

オールマイトの付けている小型無線から漏れ聞こえてくる音声だけでも、この二人の間には浅からぬ因縁があるのだと推測できた。

 

というか緑谷くんの個性強過ぎない?

パンチ一発でビル全階吹き抜け状態とか。オールマイト級の増強系じゃん。誰だよ知将とか言ってたやつ。

 

『これしか…思いつかなかった…』

 

ひえぇ…左腕犠牲にして攻撃したのか。

右腕も強力な個性の反動でバキバキ。

そしてこれを躊躇わずにやるとか……クレイジー。このクラスで緑谷さんに勝てる人いんのかよ。

 

……緑谷さんだけは怒らせないようにしよう。

 

「ヒーローチーム…WIーーーN!!」

 

結果、Aチーム対Dチームの戦闘訓練は緑谷&麗日のAチームに軍配が上がった。

緑谷さんは保健室へ緊急搬送され、しばらくするとA・Bチームを迎えに行ったオールマイトと、飯田くん・麗日さんの両名、そして呆然自失とした爆豪くんが地下のモニタールームへと帰って来た。

 

それにしても爆豪くんはただ事ではない様子だ。

おそらく緑谷さんに目の前でビルをブチ抜かれたから怯えているのだろう。可哀想に。

 

「さぁ講評の時間だ! では…念藤少女! 今戦のベストは誰だったかな?」

「はい、緑谷さんです」

「ノゥ!!!」

 

オールマイトからジェスチャー付きの全力不正解を食らった。嬉しい。

 

「念藤ちゃん、なぜ喜んでいるのかしら?」

「えへへ…」

「ケロケロ。何だか私も嬉しいわ」

 

なんや梅雨ちゃんええ奴やん。

 

その後なされた特待生の八百万さんの解説によると、緑谷さんと爆豪くんは屋内戦での大規模破壊というタブーを犯した為、そして麗日さんは緊張感の欠如と攻め方が雑だった為にマイナス点が多いのだとか。その点、飯田くんは状況設定に順応出来ていたとか。

 

確かに、言われてみるとなるほどと思う。

露出狂の変態みたいな格好をしてるけど、やっぱり特待生は凄かった。

 

「二戦目! B・Iの両チーム5名は配置についてくれ!」

 

しかし今回はその特待生の一人である轟くんがわたしの味方なのだ。とても心強い。

 

『スタート!!』

 

第二戦は演習場となるビルを隣の棟に移し、速やかに行われた。

 

「まず、俺が耳を複製してIチームの探知をする」

「頼んだ」

「えーと、よろしく」

 

自ら情報収集役を買って出た障子くんが、その体から左右に三本づつ生えた複製腕に耳を作り出し、建物の中の音を余すことなく聞き取っている。

ただのパワー系かと思ったらこんなことも出来るなんて、やはり雄英の生徒って凄い。見た目グロいけど。

 

「四階北側の広間に一人。もう一人は同階のどこか…素足だな…透明のやつが伏兵として捉える係か」

「よし」

 

わたしも何かしたいが、とりあえずは頭の良さそうな轟くんの指示を待つつもりだ。

 

「外出てろ、危ねぇから」

 

えっ。

 

轟くんに言われるまま、わたしは障子くんと揃ってビルの外へと出た。そして次の瞬間だった。なんとビル全体が凍りついたのである。

轟焦凍。彼もまた、なかなかのチート個性の持ち主であった。

 

こうして、我々Bチームはあっさりと勝利を手にした。

 

「うーん、楽だったけど…これで良かったのかなぁ」

「プロは状況に合わせて、その都度己が行動起こすべきか否かを問う! その点、轟少年という、今戦の状況にピッタリとハマった個がチームにあった君は、何もしなくて正解だよ! 念藤少女!」

「オールマイトっ…!」

 

クラスメイトの待つモニタールームに帰って来たわたしの肩に、大きな手の平がポンと置かれる。

 

「しかし今回は何と言っても戦闘訓練! もう少し積極性を見せてみても良かったかもしれないな! 何にせよ、五人ともお疲れ!」

 

オールマイトに触られてるー! うれしー!

 

「ふむ。そうだな、今回日の目を見なかった念藤少女の為に、私から彼女の個性をみんなに解説させて貰おうか!」

「オールマイト、俺たち個性把握テストで見てたから念藤の個性は知ってるぜ。念動力だろ?」

 

確か鳴上といったか。金髪にイナズマ模様の黒メッシュを入れた少年が、ポケットに手を突っ込んだまま発言をする。

 

「その通りだ鳴上少年! しかし念動力は彼女の力のほんの半分でしかないのさ」

「ってことは…」

「轟と同じで…」

 

その場にいるクラスメイトがゴクリと息を飲み込む。

 

「そう、彼女もまた二つの個性を持っている! 念動力とは別に「修復」という個性をね! 轟少年風に言うなら「半念半繕」ってとこか……念藤少女はこの二つの個性を用い、入試実技で328Pを獲得した猛者だよ!」

 

「「「328!?」」」

 

えっ、何これ。

オールマイトがめっちゃわたしに詳しいんだけど。ほんと雄英入って良かった。

 

「……328…?」

 

わたしが束の間の感動を享受していると、後ろの壁際から小さく、掠れた声が聞こえて来た。

 

爆豪くんだ。

目を見開いてジッとわたしを見ている。

緑谷さんから受けたトラウマパンチをまだ引きずっているのだろうが、何処か虚ろなその眼差しは正直不気味であった。

しかし気味が悪いからといって、落ち込んでいるクラスメイトを無視するのも気がひける。

 

わたしは爆豪くんに向かって、元気付けるつもりで、グッと拳を握って笑いかけた。

 

 

 

その後、戦闘訓練は順調に消化されていった。

 

「お疲れさん! 緑谷少年以外は大きな怪我もなし! しかし真摯に取り組んだ! 初めての訓練にしちゃみんな上出来だったぜ! それじゃあ私は緑谷少年に講評を聞かせねば! 着替えて教室にお戻り!」

 

オールマイトはそう言い終わるやいなや、土煙を上げながら演習場を後にした。

やはりナンバーワンヒーロー。日常の一秒たりとも無駄にしたくないのだろう。立派だ。

 

私はその大きな背中を惜しみながら見送ると、他のクラスメイトと同様に校舎へと向かって歩き出すのだった。

 

 

 

着替えとホームルームを済ませ、わたしは帰宅の途にあった。

今日は母と一緒に入学祝いの寿司を食べに行く予定なのである。それも回ってない寿司だ。だからわたしは個性について質問してくる皆のことを振り切って、一人下校しているのだった。

 

「ふんふーん」

 

自然と鼻歌が出て来る。わくわくと胸が踊る。

何せ回ってない寿司は初めてなのである。今日は十分に堪能しなければならない。

 

そんな時だった。

まだ学校の敷地内の、生徒玄関を出てからすぐの所。オレンジ色の夕焼けの中、何やら大声で叫んでいる爆豪くんと、彼と向かい合う緑谷さんの後ろ姿があった。

あの人たち、ホントどこでも青春してるよね。

 

「氷の奴見てっ! 敵わねぇんじゃって思っちまった…! クソ! ポニーテールの奴の言うことに納得しちまった…クソが!」

 

爆豪くんは、轟くんと八百万さんの特待生組のことを話しているらしい。なるほど、彼らに鼻っ柱を折られたということか。

 

「それと328点の女ァ…! 俺を見て勝ち誇りやがったッ! くそがっ! ぶっ殺してやるあのクソ女!!」

 

!!?

 

誤解してるよ爆豪くん。

わたしそんなことしてないよ。元気付けようとしただけなのに。

 

「こっからだ! 俺は…! こっから…! いいか!?」

 

しかし時が悪い。

回らない寿司が待つ今のわたしに、この場で時間を浪費する余裕はないのだ。

 

「俺はここで、一番になってやる!!」

 

わたしは念動力で空に浮かび上がり、爆豪くんの視界に入らないようにして帰宅するのだった。

 

「ただいまー!」

「おかえり」

「お母さん、お寿司行こう!」

「はいはい」

 

回らないお寿司に行った。

 

サーモンが美味しかったです!(貧乏舌)

 

 

 

入学式前。

雄英入試実技試験後。

 

雄英高校のとある一室で、昨日行われた実技試験の総評が行われていた。

 

雄英にて教鞭を取るプロヒーローたちが長机にズラリと並ぶ中、教壇に文字通り立っているのは身長30センチほどのネズミであった。

 

何を隠そう、このネズミこそが雄英高校の最高責任者たる校長なのである。

 

「続いてーー今度は女の子だね」

 

校長が手元のタブレットを操作しながらそう切り出す。

 

「念藤ナオ、各部中学校出身。個性は映像で見る通り「念動力」と「修復」だ。ヴィランポイントは歴代最高の328P。レスキューポイントは0P。さぁ、みんなの意見を聞こうか」

 

正面のモニターには、念藤ナオが2ポイントのロボットを五〜十秒に一度のペースで破壊している映像が流れている。

アップで映されたまだあどけなさが残る横顔には何の感情も見て取れず、まるでベルトコンベアの前で己の仕事に没頭する作業員のようですらあった。

 

「…………」

 

やがて校長の言葉を受け、一人のヒーローが挙手をした。

ブラドキング。今期、1-Bの担任を受け持つこととなった巨漢のヒーローだった。

 

「念藤ナオが今回の試験で328ポイントという高得点を叩き出せたのは、ひとえに入試のルールに綻びがあったからに他ならん。無論、結果だけ見れば彼女の行動は全受験生の中で最も効率的だったと言える……しかし、プロヒーローを目指す為の雄英ヒーロー科入試試験で、このような粗探しのような真似をするのは……残念ながら、ヒーローとしての資質に著しく欠けていると言わざるを得ん」

「うん、一理あるね」

 

筋道の通ったブラドキングの意見に、校長が小さな頭を縦に振って肯定の意を表す。

 

「オールマイト、君はどう思う?」

 

続けて校長が水を向けたのは、今季から雄英に新任教師として電撃着任予定のナンバーワンヒーロー、オールマイトであった。

 

「……この少女は…まさか…」

 

そして件のオールマイトは、モニターの映像に釘付けになったかのように身動きをとらないでいる。

 

「オールマイト?」

「あ、ああ。校長、これは失礼」

 

ようやく我を取り戻したのか、オールマイトは仕切り直すように咳払いを一つする。

 

「なるほど、確かに映像で見る限り、念藤少女は少々情熱が欠けているように見える。雄英には珍しいタイプの「今時の子」だね!」

「今時の子か…」

 

他のプロヒーローたちが納得したように頷く中、校長が口を開く。

 

「ウチに来る子はみんな自分のやりたい事をハッキリさせているからね。そんな中で、事前に回収したアンケートによると、彼女の志望動機は「ヒーローになってオールマイトと会うため」だそうなんだ」

「……何だそれは。ではオールマイトは今期から雄英の教師となるのだから、入学と同時に念藤のヒーローになる動機は失われるわけか」

 

呆れ顔でため息を吐くブラドキングを、校長が諌める。

 

「まぁまぁ。雄英にはオールマイトに憧れて入学してくる子なんて、それこそ山のようにいるんだからさ。彼女はそれを、ちょっと素直に出し過ぎてしまっただけだよ」

「……校長は念藤の合格に賛成なのですか」

 

ブラドキングが憮然とした面持ちで尋ねる。

 

「賛成も何も、彼女はルールを守った上で合格点を出した。そのルールに穴があったというなら、それは我々の落ち度であって彼女の責任ではない。当然、念藤ナオの本校への入学を心から歓迎するよ」

 

校長はそう結論付けると、評価の対象を次の受験生へと移すのだった。

 

 

 

一通り入学前評価も付け終わり、他のヒーローたちが部屋から退室したあと。そこには校長とオールマイトのみが残っていた。

 

「緑谷出久に念藤ナオ。全く、君も気が多いことだね」

「校長! 気付かれていましたか…」

「彼女と何があったのかは知らないけど、贔屓はほどほどにね。子供はそういうところに敏感なんだ」

「……心します」

 

ネズミサイズの小さな手が、励ますようにその広い肩を叩く。

かつての恩師の激励を前に、現ナンバーワンヒーローはただただ恐縮するだけであった。

 

 




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