念藤さんのヒーローアカデミア   作:芋一郎

2 / 4
USJ

それは週も半ばに差し掛かった、水曜日の早朝のことであった。

通学路を自転車でキコキコ走るわたしの耳に、建物を激しく損壊させたような破壊音が聞こえてきたのである。

 

「……うーん」

 

朝は余裕を持って出ていくタイプの為、始業のチャイムはまだ先である。この破壊音の正体を確かめる時間は十分にあった。

十中八九原因はヴィランだろうが、そうであればヒーローとして戦うオールマイトを生で見られるかもしれない。

 

わたしは浮き足立って、通学路から外れてペダルを漕ぎだした。

 

「ふんふーん」

 

音だけを頼りに見慣れない小道を通り抜けると、やがて拓けた大通りへとぶち当たった。

そして建物の間からひょいと顔を出してみると、期待通りと言うべきか、そこにいたのは大型のヴィランであったのだ。

 

「追ってきたらこの裕福な家族ブッ壊してやるからな! いいかぁ、俺を追うなよヒーロー共!」

 

身長は五メートルほどだろうか。

その太い腕にはひと組の家族をかき抱いている。

 

「連続強盗殺人犯『僧坊ヘッドギア』!」

「強い上に…姑息!」

 

相手をしている何とかカムイとマウントレディの両ヒーローも手こずっている様子。

しかしそれもそのはず。マウントレディは言うに及ばず、何とかカムイの個性にしても人質の救出に向いているとは言い難い。

 

「ヒーロー助けてぇえ! せめて娘だけでも!」

 

人質が叫ぶ。母親だろう。聞くものの胸を突く、悲痛な叫びであった。

 

「うーん」

 

これ、わたしの個性だったらどうにか出来るかもしれない。

 

わたしの「念動力」は力の作用する対象が離れるほどにパワーを落とすのだが、近くにあればコンクリート塊でさえ粉砕できるのだ。

 

そうであるから、例えばブレザーを脱いで雄英の生徒だと判別できなくした後「わーん、お母さーん」なんて人質の家族の一員を装いつつ接近して、高パワー念動力でヴィランの腕をひねり上げる、人質解放。なんてことが可能かもしれないのである。

わたしみたいな小娘なら、近寄って来ただけで人質を殺してしまうほどヴィランも気を立てないだろうし、なかなか良い手段なのではないだろうか。

 

「……うーん、でも」

 

成功する確証はないしな。

現場にはプロもいることだし……無断で個性使ったら怒られるし。そのうちオールマイトも来るだろうしなぁ。

 

やめとこ。

 

「もう大丈夫だファミリー!」

 

ほら来たオールマイト。

やっぱり余計なことしなくて正解だった。

 

「MISSOURIーーSMASH!!」

 

一陣の風となり、ヴィランを倒しがてら人質を助けるナンバーワンヒーロー。

 

カッコイイ!

 

「うん? これは念藤少女じゃないか。登校中の寄り道は関心しないが……念動力で人質を助けるつもりだったのかな?」

 

オールマイトの問いかけ。

学校外でもわたしに声をかけてくれた! やさしい!

 

「いえ! わたしの個性なら多分助け出せたでしょうが、出しゃばるべきではないと思ったのでやめときましたっ!」

「……出しゃばるべきではない、ね」

「はい! わたしはプロじゃないので、勝手なことはすべきではないと! ……だめでしたか?」

「……いや、正しい判断だよ念藤少女。蛮勇ってやつが一番危険なんだ。それにこの場には二人のプロがいた。当然、学生の君の出番はない。ないのだがーー」

 

「キャアア! ひき逃げー!」

 

どこからか聞こえて来る悲鳴。

 

「……全く、満足に生徒の指導もーー」

 

オールマイトが全身のバネを縮めるようにしゃがみ込みーー

 

「できやしないっ!」

 

そして大砲で放たれたかのような超ジャンプ。

 

「ありがとー! オールマイトー!」

 

助けた人質の感謝の言葉に見送られて、ナンバーワンヒーローの背中は青い空へと消えていった。

 

 

 

昼。

 

担任の相澤先生が教壇に立ち、午後の授業の始まりを告げる。

 

「さて、今日のヒーロー基礎学だが……俺とオールマイト、そしてもう一人の三人体制で見ることになった」

「ハーイ! 何するんですか!?」

 

黒髪の男子生徒が挙手して質問をする。

彼の名は瀬呂範太。セロテープ付きの肘を持つセロテープ人間である。

 

「災害水難なんでもござれ。レスキュー訓練だ」

 

ということで、それぞれコスチュームに着替えた1-A一同は、校外演習場への移動のためバスに乗り込むこととなった。

その際、飯田くんがやたらと張り切っていたが、見事に空ぶっていた。

 

そして車内。1-Aの生徒たちの楽しげな話し声で満ちている。

 

「派手で強えぇっつったら、やっぱ轟と爆豪だな」

「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気でなさそ」

「んだコラ! 出すわ!」

「ホラ」

 

あはははははっ

 

「…………」

 

みんな楽しそうだ。

ちなみに私の席はバス後方最前列の爆豪くん・耳朗さんの後部席、轟くんの隣りである。

正直、この空間からは全く会話が生まれないので、わたしも向こうに参加したい。

 

「派手な個性か…」

 

そしていよいよ、わたしが沈黙に耐えきれなくなろうとしていたその時であった。隣に座る轟くんがポツリとそう呟いたのである。

 

我聞せずみたいな顔してちゃんと聞いとったんかい。

 

「念藤、この前のオールマイトの話を聞く限りじゃ、お前の個性も随分派手みてぇじゃねぇか」

「え? まぁ、飛べたりバリア張れたりで便利ではあるけど……派手ではないかな」

「へぇ。じゃあ入試実技328Pは個性抜きにしたお前の純粋な実力って訳だ」

 

轟くんが鋭い目つきでわたしを見る。

 

なんだコイツ。わたしにライバル意識燃やしてんのかよ。もっとフレンドリーな感じで来いよ。

 

「いやいや、試験内容がたまたまね。わたしの個性と相性良かったというか…」

 

ギリギリギリギリ。

ギリギリギリギリ。

 

……それにしても何だこの音。

さっきから凄い聞こえてくるんだけど。

具体的に言えば328という数字が話に出た瞬間から…

 

「ねぇ爆豪、さっきから歯ぎしりうっさいんだけど」

「だったらその長ぇ耳たぶで耳栓してろやァ…」

 

ひえぇ…ここの男連中こえぇ…

 

 

 

目的地に到着したらしい。長かったバスでの時間がようやく終わった。帰りは絶対に違う席に座ろう。

 

わたしは気を取り直す為、生徒たちの後ろからノロノロと着いていく相澤先生の横に並び、本日のあれこれを質問した。

 

「相澤先生」

「何だ念藤」

「あのでっかいドームでレスキュー訓練するんですか? ってかここどこですか?」

「USJ」

 

えっ、USJ? ユニバ?

ってことはココ大阪? ユニバで訓練すんの?

もしかして後で遊べたりできるの!? それって最高じゃん!

 

わたしが驚いて見返すと、相澤先生は珍しくニコリと優しい笑みを浮かべてくれた。

 

やったー! ユニバだー!

 

 

 

ところがどっこい。

ドームの中に広がっていたのは水難、土砂、火災などの災害再現フィールドであった。

 

「……ナニコレ」

「ウソの災害や事故ルーム(USJ)」

 

ぶっ殺すぞ相澤。

 

「スペースヒーロー13号だ!」

「わー私好きなの13号!」

 

わたしが一人で落ち込む中、1-Aの前に現れたのは宇宙服コスチュームに身を包んだスペースヒーロー13号であった。

彼はまずオールマイトの不在を告げた後、挨拶代わりに個性に関する自身の見識を述べ始めた。

 

「超人社会は個性の使用を資格制にし、厳しく規制することで、一見成り立っているようには見えます。しかし一歩間違えれば容易に人を殺せる「いきすぎた個性」を個々が持っていることを忘れないで下さい」

 

そうやって結びの挨拶まで終えたあと、13号は紳士的な一礼をしてそのジェントルマンっぷりを見せつけるのだった。相澤とは大違いである。

 

そして件の相澤先生だが、何故だかつい先ほどから只事ではない剣幕をしている。

 

「ひとかたまりになって動くな!」

 

そして絶叫。いきなりテンション上がって怖い。

そんな相澤先生の視線を辿ると、入り口付近の噴水広場の辺りに謎の黒いモヤモヤを見つけることができた。そしてそこからゾロゾロと出てくる怪しげな集団。

 

「何だアリャ? また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」

 

硬化の個性を持つ切島くんの鋭い洞察眼。

なるほど、と納得したわたしは誰よりも先駆けて念動力を発動した。

 

「っ!!」

 

敵役の人たちの先頭に立つ、手のアクセサリーを至る所に付けたキモめの人を、念動力にて吹き飛ばす。

噴水広場までかなり距離があるので威力はお察しだが、奇襲に対しての迅速な行動として評価は高いのではないだろうか。

 

「やめろ念藤! あいつ等は本物のヴィランだ! 13号、生徒たちを守れ!」

 

えー! 本物ー!? ってか…

 

集団の中でも、ひときわ頭の禿げ上ったオッサンを見つける。

 

パパンがおるやんけ。

 

「おいネンドウ…このハゲ野郎……お前、娘にどういう教育してんだよ…」

「す、すいませんボス」

 

あのハゲいつの間に脱獄してたんだよ。

しかも手の人にめっちゃペコペコしてるし。

 

情けねー。

 

「念藤…? 娘…!?」

「確かにそう言ってたぞ!」

「う、うん…」

 

そして集まるクラスメイトの視線。

ホント、あの父親のDNAをこの体から抹消してやりたいわ。

また小・中学校の時みたいにヴィランである父親のこと説明しまくらなくちゃならないんだろうなぁ。

 

なんて考えていると…

 

「つまらねぇ詮索してんじゃねぇ」

 

わたしたちの間に流れた不穏な空気を察したのだろう。ゴーグルをかけて戦闘態勢となった相澤先生が、油断なく敵を見据えながらそう言った。

 

「念藤はあの男とは別の人間で、お前らはクラスメイトだろうが」

 

その言葉にハッとする1-Aの生徒たち。

 

「悪りぃ念藤、変なこと言った!」

「すまねぇ! クソッ、男らしくなかったぜ!」

「友達だよー!」

 

「……!」

 

えぇ…何これ。1-Aめっちゃええクラスやん。こんなもん泣いてまうわ。

 

そうやってわたしたちが青春する中、噴水広場の方ではわたしが吹き飛ばした手の人が起き上がり、首筋をポリポリと掻いていた。

 

「あー、くだらねー。安っぽい友情ゴッコに吐き気がするなぁ、ネンドウ」

「いやホントにっ。わが娘ながら典型的なバカ女に育っちまって……恥ずかしい限りでっ…」

「俺のこともぶっ飛ばしやがった。再教育が必要だ……お前、父親なんだから責任もって連れてこい」

「も、もちろん! 殴るなり犯すなり好きにして下さい…!」

 

うわぁ…相変わらずのゴミ人間…

 

「じ、自分の子供に対して何て言い草だっ…!」

「クラスメイトとしても、同じ女性としても許せませんわ…!」

 

飯田くんと八百万さんが我が事のように憤ってくれる。嬉しい。

 

「二人とも…! あの人一応、念藤さんのお父さんだからね…!」

「いや、大丈夫だよ麗日さん。ほんと、あのハゲに対しては一家の恥だとしか思ってないから…」

 

そんな風に麗日さんからの親切に心を温かくしていると、噴水広場では我らが相澤先生ことイレイザーヘッドがヴィラン集団相手に単騎で無双していた。

 

「肉弾戦も強く…その上ゴーグルで目線を隠されていては「誰を消しているのか」わからない」

「集団戦においてはそのせいで連携に遅れをとるな…なるほど」

「なるほどじゃねぇよ! どうすんだよっ!」

 

さすが相澤先生。ヴィランの人たちもビビり気味だ。

因みに最後のセリフはウチの父親である。

相変わらずの小物っぷりに逆に安心感を覚えるほどである。

 

「すごい…! 多対一こそ先生の得意分野だったんだ!」

「分析してる場合じゃない! 早く避難を!」

 

二人の戦いを観察する緑谷さんと、それを咎める飯田くん。そして13号を先頭に1-A全員が避難を開始した…その時だった。

 

「させませんよ」

 

謎の黒いモヤが、わたしたちの行く手を阻む。

 

「はじめまして、我々はヴィラン連合。僭越ながら…この度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのはーー平和の象徴オールマイトに生き絶えて頂きたいと思ってのことでして」

 

黒いモヤが言い終わったのと同時であった。

固まる生徒たちの中から爆豪くんと切島くんが飛び出し、それぞれの個性で攻撃を仕掛けたのである。

 

「ダメだ! どきなさい二人とも!」

 

しかしその行動は13号の個性、ブラックホールの射線を防ぐのみに終わった。

 

「危ない危ない…」

 

無傷で二人の攻撃を凌いだ黒いモヤは、その体を大きく広げることで、13号を含めた1-A全員を己の中に包み込んだ。なんか汚そうなので、わたしは息を止めた。

 

「みんnーー」

 

緑谷さんの声が尻切れになって聞こえてきた。「みんな」と言いたかったのだろうが、途中で周囲の音が一変してしまったのだ。それまでは断続的に聞こえていた相澤先生の戦闘音もピタリとしなくなった。

まるで別の空間にテレポートでもしたかのように。

 

しばらくして、わたしは反射的に閉じていた目を開けた。

すると、目の前には固く握られた拳が迫っていたのである。

 

「うわっ!」

 

咄嗟に念動力のバリアを張る。

わたしを囲むようにして球体に展開されたそれは、念動力で空気を超圧縮して作り出した特製の空気板である。

・複数方向からの攻撃を受けるとき

・状況がわからず混乱しているとき

・念動力で敵を補足できないとき

などが使いどきで、とりあえず張っとけばアンパイの便利技である。

因みに空気の圧縮には高パワーの念動力が必要な為、近距離でしか必要な硬度を出せないという弱点を持つ。あとバリア張りながら攻撃出来ないです!

 

「チッ! ガード系の個性か!」

 

そういう彼は異形系だった。

頭からは鬼のような二本角が生え、体は縦にも横にも大きい。

 

「ぶっ壊してやる! もう一発〜!」

 

今度は全力でパンチを放つつもりなのだろう。鬼っぽい彼が右手を大きく振りかぶったーーと同時に、わたしはバリアを解除した。

 

圧縮されていた空気が解放され、周囲に風圧が生じる。

 

「!」

 

風のおかげで、わたしがガードを下げたことを鬼の彼も何となく悟ったのだろう。急いで振りかぶった右拳を放ってくるが……遅い。

 

今度はちゃんと彼の体に狙いを付け、念動力でその巨躯を持ち上げる。

 

「……! このっ…!」

 

そして手近なコンクリートの建物に何度も叩きつける。

 

一度止めてみるとまだ意識があったので、再び叩きつける作業に戻る。

 

しばらくすると、彼は全身から血を流しながらウンともスンとも言わなくなった。

 

「ふぅ…怖かった…」

「いや、お前の方が怖ぇよ」

「あっ、切島くん! 良かった、一人じゃなかったんだ…」

「血まみれのヴィランをバックにそう言われてもな…」

 

……確かに。

わたしは鬼の人を宙から降ろすと、切島くんの元へと歩み寄った。

 

「どうやら、俺たちは倒壊ゾーンに飛ばされちまったみたいだな」

「そうみたいだね」

 

周囲を見渡してみると、この辺り一帯が崩れかけのビル群で構成されているのが分かる。やはりあの黒いモヤはテレポート系の個性を持っていたようだった。

みんなも同じように、別々の場所に飛ばされたのだろうか。

 

「おっ、爆豪だ! こっちだこっち!」

 

続けざまに、わたしたちと一緒に飛ばされたであろう爆豪くんとも合流を果たすことができた。

不幸中の幸いと言うべきか。二人とも戦闘特化系で戦力が潤沢だ。

 

「ッチ、てめぇも居やがんのかよ」

「え? わたし?」

「寄るなクソ女!」

 

酷い言われようである。

そういえば、対人戦闘訓練のときの誤解をまだ解いていなかった。通りで彼が険悪な態度を取るはずである。

 

「いや爆豪くん。訓練の時のアレ、誤解なんだって。わたしは元気付けようと…」

「うるせぇ! 今更んなことはどうだっていいんだよッ! 384点…! テメェが入試で取ったこのポイントが、既に俺に喧嘩売ってんだよォ!!」

 

何だコイツ…

 

「落ち着け爆豪…! 囲まれてるぜ!」

 

切島くんの注意に耳を貸してみると、ビルの陰からゾロゾロと出てくるヴィラン連合の皆さん。どうやら待ち伏せしていたらしいが……見えているだけでも十人以上はいる。

 

えぇ…こんなの絶対死ぬやつやん…

 

「チッ、全員ぶっ殺してやるッ!」

「早く倒して他助けにいくぜ!」

「バリア張って大人しくしとこ…」

 

わたしたち三人の戦いが、今始まる…!

 

 

 

「勝ったわ」

 

余裕だった。

初めて戦闘ってものを経験したけど、ヴィランとか大したことないやん。

 

「これで全部か。弱ぇな」

 

ほら、爆豪くんもこう言ってる。

 

初めこそ多勢に無勢で後手に回っていたが、一度屋内に入ってしまえばヴィラン側の数の利はほぼ失われたも同然だった。

あとは三人で死角を補い合いながら、目に入った奴からサーチアンドデストロイ。特に連携らしい連携を取ることもなかったが、わたしたちは多数を相手に完封勝利を得ることが出来た。

 

スコア的は爆豪くんが八人、切島くんが三人、わたしが四人を仕留める結果となった。

ヴィランが全員こんな感じなら、ヒーローって案外チョロいかもしれない。

 

「っし! 早くみんなを助けに行こうぜ! 攻撃手段少ねぇ奴らが心配だ!」

 

そして切島くんがめっちゃ良い人。戦闘中もなにかと庇おうとしてくれたし。バリアあるから意味なかったけど。

 

「俺らが先走った所為で13号先生が後手に回った。先生があのモヤ吸っちまえばこんなことになっていなかったんだ。男として責任とらなきゃ…」

 

どうやら責任を感じているらしい。

 

「行きてぇなら一人で行け。俺はあのワープゲートぶっ殺す!」

 

ワープゲート。

あの黒いモヤのことだろう。

それにしても爆豪くんのこの気性の激しさよ。

 

「はぁ!? この期に及んでそんなガキみてぇな…それにアイツに攻撃は…」

 

切島くんの言う通りだ。

あの黒いモヤに攻撃が効かないことは爆豪くんも身をもって確認済みのはず。おそらく物理攻撃の一切が通用しないのだろう。

 

「うっせ! 敵の出入り口だぞ。いざって時逃げ出せねぇよう元を締めとくんだよ! モヤの対策もねぇわけじゃねぇ…! つーかーー」

 

ドカァン、と爆発音。

発生源は言うまでもなく爆豪くん。

いつの間に起き上がっていたのだろうか。倒したと思っていたヴィランが爆豪くんに襲いかかって、そして瞬殺されていた。

 

「生徒に充てられたのがこんな三下なら、大概大丈夫だろ」

 

人間辞めてるレベルの反応速度である。

もしわたしが爆豪くんと戦ったら、戦闘中バリアが解かれることはないだろう。

 

「ダチを信じる…! 男らしいぜ爆豪! ノったよおめェに!」

 

切島くんも急に漢気スイッチが入ったようで、やる気になった。

 

ということで、わたしたちは黒モヤことワープゲートを倒す旅に出ることになったんだけどーーあのモヤ物理攻撃無効でしょ?

爆豪くんの爆発は効かないと思うんだけどなぁ…

 

 

 

と思ってたら、そんなことないんだね。

 

「このウッカリヤローめ! 思った通りだ! モヤ状のワープゲートになれる箇所は限られてる! そのモヤゲートで実体部分を覆ってたんだろ!? そうだろ!? 全身モヤの物理攻撃無効人生なら「危ない」っつー発想は出ねぇもんな!」

 

ははぁ、なるほど。

いま、ワープゲートをとっ捕まえた爆豪くんが一から十まで説明してくれたお陰で、ようやくわたしにも理解出来た。

 

緑谷さんでなく、爆豪くんこそが知将だったんだ!

 

「っと動くな! 「怪しい動きをした」と俺が判断したらすぐ爆破する!」

「ヒーローらしからぬ言動…」

 

ワープゲートを張り倒して脅しかける爆豪くんと、それに的確なツッコミを入れる切島くん。

現在、わたしたち倒壊ゾーンチーム三人は入り口前の噴水広場にいた。

そこには特待生の轟くんに、クレイジーパンチャーの緑谷さん、さらには一人いるだけで地球の安心感マックスのオールマイトまで揃い踏み。相澤先生は既にリタイアしたらしいが、最後まで生徒を守る為に戦ったのだという。かっこいい。

 

対してヴィラン連合側はというと、まずリーダーの手の人は健在。ワープゲートは爆豪くんに取り押さえられ、脳みそ剥き出しヴィランに至っては体の半分が氷漬けにされている。

 

そして、何故かこのメンツの中に平然といる我が父親。正直、場違い感がハンパなかった。

 

「ナオっ…!」

「話しかけてくんなハゲ」

「てめぇ親に向かって…! ……っち、まぁ良い。オイ、お前俺たちの味方しろ! ほら、二人でワープゲートさん押さえてるガキをやるぞ!」

 

このハゲ、本当に昔から何一つとして変わってないよなぁ…

 

「やるぞって言ってんだよ! オイ! やれやぁッ! ぶっ殺すぞテメェ! 俺があのバカ女とヤって出来たのがテメェだろうがァ! すましてんなよ餓鬼が! テメーにも俺と同じ悪党の血が流れてんだよ! ……オーイッ! 雄英のみなさーん! ここにいる念藤ナオは犯罪者の娘でーす! ほっといていいんですかー!」

 

「ひ、酷い…」

「クソ、聞いてらんねぇぜ!」

「幼稚だな…気にする必要ねぇぞ、念藤」

 

その場にいる緑谷さん、切島くん、轟くんが気遣って声をかけてきてくれる。嬉しい。

爆豪くんもこいつら見習えや。

 

「使えねぇなネンドウ。雄英で娘がスパイしてるって言うから幹部にしてやったのに……騙しやがって。後でぶっ殺す。脳無、爆発小僧をやっつけろ。出入り口の奪還だ」

「そんなぁ……ボスぅ…」

 

パパンに死刑宣告をした手の人が、続けて脳みそ剥き出しヴィランにそう命じる。

 

でも彼、轟くんに氷漬けにされて動けませんやん…と思っていると、剥き出しヴィランは主人の命令を忠実に守り、氷結状態のまま、体を崩壊させつつ無理やり立ち上がったのであった。

 

「体が割れてるのに…動いてる…!?」

「みんな下がれ! なんだ!? ショック吸収の個性じゃないのか!?」

 

緑谷さんとオールマイトが驚愕に眼を見張る前で、剥き出しヴィランの欠損部分の肉がボコボコと盛り上がり、腕や脚といった本来そこにあったパーツを形成していった。

 

「ショック吸収だけとは言ってないだろう。これは超再生だな……脳無はおまえの100%にも耐えられるよう改造された高性能サンドバッグ人間さ」

 

手の人がそう言い終わるのと同時に、全身の再生を完了させた剥き出しヴィランが爆発的なスピードで飛び出してくる。

 

狙いは命令通り爆豪くん。

 

「させるか!」

 

しかし爆豪ミンチが出来るのを黙って見ているほど、わたしも薄情な人間ではなかった。

 

「!! ナイスだ、念藤少女!」

 

爆豪くんを念動力で捕まえて思いっきり引っ張る。結果、剥き出しヴィランの拳は宙を切ることとなった。

 

「てめぇ328女ァ! 俺を助けてんじゃねぇよ!」

 

328女って…

 

助けてやったのにすごい顔で睨みつけてくる恩知らずをすぐ側に着地させると、彼はヴィラン連合側に向かってすぐさま戦闘態勢をとった。

 

「4対6だ」

 

轟くんが冷気を立ちのぼらせながら言う。

 

「モヤの弱点はかっちゃんが暴いた…!」

 

緑谷さんが拳を握る。

 

「俺らでオールマイトのサポートすりゃ…撃退できる!」

 

切島くんが腕を硬化させる。

 

そうやって戦意を高める生徒組だったが、オールマイトはそれに待ったをかけた。

 

「ダメだ! 逃げなさいーーと、教師なら言うべきなんだろうが……念藤少女!」

「オールマイト…?」

 

剥き出しヴィランを鋭く見据えたまま、オールマイトがわたしの名を呼ぶ。

 

「ヒーローには、因縁の相手っていうのが常に付き物さ。でも君のお父さんは、君の人生にとっての因縁に値しない」

「……!」

「頼りになるクラスメイトの助けを借りて、ここで決着をつけてみるのも…いいんじゃないか?」

 

そう言うと、オールマイトはわたしの肩をポンと叩いてから、剥き出しヴィランに突進していった。

そして次の瞬間、拳が出す音とは思えない連続した轟音が、広場に響き渡り始める。

 

「……因縁」

 

オールマイトに言われた言葉を、わたしはポツリと呟いた。

 

眼を向けると、そこには父がいる。

この十五年間の人生において、ありとあらゆる困難をわたしにもたらしてくれた存在だ。

 

この男のせいで友人を失ったことがある。

見ず知らずの他人に頭を下げたことも、殴られたこともある。

こんなクズでも父親だから……その一心で「仕方ない」と考えて我慢してきた。それもわたしの人生の内なのだからと。

 

しかし、オールマイトはそれは違うのだと言う。この男に、わたしの人生を縛る価値は無いのだと。因縁足り得ないのだと。

 

「…………」

 

ではこのハゲは何だろうと自問してみると、答えは驚くほどアッサリと出た。

 

「乗り越えていく存在」

 

わたしにとって父とは、仕方ないと諦めるのではなく、自らの手で引導を渡すべき悪だったのだ。

 

あースッキリした。

 

わたしは何だか清々しい気持ちで、父に対して念動破を放った。

 

「うお、てめぇナオ! 父親に何しやがる!」

 

突然の攻撃を念動力場で防いだ父は、慌てふためいてこちらを見やり……硬直した。

自身の娘の隣に、緑谷、爆豪、切島、轟の雄英ヒーローズがズラリと並んで、ファイティングポーズをとっていたからである。

 

「オールマイトは念藤さんを助けろって言ったんだ…!」

「328女は関係ねェ! オールマイトがあの脳みそと戦ってる内に敵の戦力を削ぐッ!」

「1対5は男らしくねぇが、俺らじゃあの戦いに割って入れそうにねぇしな!」

「気にいらねぇ父親をぶっ飛ばす…力貸してやるよ、念藤…!」

 

うわぁ…これはオーバーキルですわ…

 

さよなら…パパン…

 

「ボ、ボス!」

「黙ってろネンドウ。こっちは脳無とオールマイトの戦い見るのに忙しいんだよ」

「そ、そんな…これじゃあ俺、また務所に逆戻りですよ…!」

「だったらその餓鬼どもを殺せよ。そしたらお前の処遇も考えてやる」

「……! くそっ、くそっ! 殺してやる! ナオも、餓鬼どもも…!」

 

ようやく腹を決めたらしい父が、私たちへと向き直る。

つーか娘を殺す判断が早すぎませんかねぇ…

 

「みんな、ウチのハゲは確かに小物だけど、実力……というより個性の力は確かだよ。怪我するかもしれないけど…」

 

この問いかけを、四人は無言の内に返す。

わたしは彼らに小さく礼を言うと、同じように戦闘態勢をとるのだったーー

 

とまぁこんな感じで、なんと入学から数日目にして、わたしの因縁に決着をつける父との戦いが始まるのであった。

 

最後に余談ではあるが、わたしの長年の悩みを便秘に例えると、さしずめ雄英は即効性の便秘薬といえる。

ってことはハゲはウンコってことだね。

下ネタでごめんね!





念藤リキ(40)


【挿絵表示】
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。