念藤さんのヒーローアカデミア   作:芋一郎

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USJ、体育祭

USJ(断じてユニバではない)でのヴィラン連合との戦いも佳境に入っていた。

 

噴水広場でド派手に繰り広げられているのはオールマイトVS脳みそ剥き出しヴィランによる怪獣大戦争。

そしてその脇で、わたしたち雄英生徒チーム五人と我が愚かなる父親ことハゲが、十メートルほどの距離で睨み合っていた。

 

「……オラッ!」

 

そして戦いの火蓋は、父が広範囲の念動破を放ったことによって切って落とされた。

 

広場の床コンクリートを盛大に破壊しながら向かってくる念動破は、わたしのバリアと同じく空気を押し出すことで破壊エネルギーを得ている衝撃波だ。

これにより念動力の弱点である「遠距離ほどパワーが落ちる」をカバーしているのだが、しかしこの技にも真っ直ぐにしか飛ばないという弱点があった。

 

「みんな、わたしの後ろに!」

 

わたしの呼びかけに反応し、緑谷さん、切島くん、轟くんが即座に動く。

しかし爆豪くんだけは、自身の爆発をブースターとすることで空中に飛び上がり、念動破の攻撃範囲から抜け出していた。

 

「くっ、何て威力だ…!」

 

迫り来る念動破を見てそう呟いたのは緑谷さんだった。

いや、どう見ても貴方のパンチの方が強いんですが…

 

何てことを考えながら、三人のクラスメイトを背中に背負ったわたしはバリアを展開。

父の念動破を防ぎ切る。

 

「倒壊ゾーンでも見たけど、やっぱそのバリア便利だな…! 女に庇われるのは男らしくねーけどしょうがねぇ!」

「……そういやバスで言ってたな。バリア張れるって」

「うん。結構強度あるし、大抵の攻撃は防げると思う。危なくなったらわたしの後ろ来てね」

 

わたしがそう言うと、三人は次の攻撃を警戒しながら頷いた。

 

「……でも念藤さんがバリア張れるってことは、同じ個性のお父さんも使えるってことだよね?」

「そうなんですよねー」

 

緑谷さんが指摘した通りであった。

現に、一人空中から父に接近した爆豪くんの爆破攻撃が、ハゲ製のバリアによって防がれている。

 

「チィ! こんなモンぶっ壊す!」

 

バリアの真上に張り付き、手榴弾ガントレットを振りかぶる爆豪くん。

しかし父はそのガントレットが振り下ろされる直前にバリアを解除。その際に生じた風圧(圧縮されていた空気が解放される為)を利用して爆豪くんを押し退けた。

 

「ぐっ…!」

 

バリアという足場を失っていた為、踏ん張りが利かず、爆豪くんの態勢が大きく崩れる。

 

「死ね餓鬼が!」

 

そして父はこの隙を突いた。

念動力で爆豪くんを捕まえると、そのまま圧死させようと力を込めていく。

 

「ク、ソがッ…!」

 

爆豪くんが苦しげな呻き声をあげる。

宙へと持ち上げられ、その全身には強い圧力がかかっているようだった。

 

「させるかよっ!」

 

それを止めたのは轟くんだった。

地面沿いに氷結を伝せていき、父の眼前に五本からなる鋭い氷の槍を突きつける。

 

「こ、氷の個性か!」

 

父は若干ビビりながらも、広範囲の念動力によって氷槍を叩き折ってみせたーーが、一本だけは突破を許し、自身の頬に浅い傷を受ける。さらには自衛の為に多くのリソース割いたことから、爆豪くんへの拘束は解かれることとなった。

 

「ーーオラァ!」

 

つい先ほど殺されかけたというのに、一切の躊躇なく攻撃を再開させる爆豪くん。

父は再び念動力で爆豪くんを補足しようとする素振りを見せたが、その背後には体を硬化させた切島くんが迫っていた。

 

更にわたしも、念動力を行使して遠距離から拳大の瓦礫を放つ。

 

「が、餓鬼どもが!」

 

父は止む無く全方向性のバリアを張り、わたしたちの攻撃を受け止めた。

 

「バリアが厄介過ぎる! どうする爆豪!」

「うるせぇ! 叩き割んだよォ!」

「!? お、おまえ…」

 

轟音が響く。

爆豪くんによる今日一番の大爆発である。

 

辺りに爆煙が立ち込め、わたしたちから視界を奪った。

 

「くそ、爆豪の奴…俺まで殺す気かよ…」

「クソ髪……チッ、硬ぇな」

「敵のバリアに対して言ってんだよなァ!?」

 

爆煙に乗じて爆豪くん、切島くんの両名がわたしたちの位置まで後退してくる。一度距離を取った方が良いと判断したらしい。

 

「…………」

 

しばらくして周囲を覆っていた爆煙が晴れると、バリアを張ったままの、無傷のハゲが姿を現した。状況は再び雄英チームとハゲ父が距離を開けて睨み合う図となる。

 

勝負は振り出しに戻った。

 

「……クソッ、クソッ! ナオ…! 頼むよ、コッチに着くか、大人しく死ぬかしてくれ! このままじゃ俺が死んじまうんだよ…!」

 

バリアを解いた父が何やら情けない顔で喚いている。

この後に及んで……とわたしがウンザリしていると、横に並んだ雄英チームの中で、一人ブツブツと呟き続ける緑谷さんと目が合った。

 

「……念藤さん、ちょっと聞きたいんだけどいいかな」

「? はい、もちろん」

「あのバリアは空気を固めたもので、バリアを張ってる間は他の念動力は使えない。合ってるかな」

「合ってますね」

「そして…これについては自信ないんだけどーーさっき轟くんが複数の氷の槍で攻撃したとき、念藤さんのお父さんは広範囲防御のバリアを使わずに、防御面積の小さい念動力でガードしてたよね。それまでは攻撃のチャンスを潰してまで徹底的に保身に走っていたのにも関わらず……その結果、軽傷とはいえダメージを受けてしまった。もしかして、空気バリアって一度解いたらしばらくインターバルが必要になるんじゃないかな?」

「そ、そですね」

 

洞察の鬼かな?

 

緑谷さんは「なるほど…」と一人納得したあと、またブツブツと呟き始めた。

 

因みに父はこの間もわたしの説得を試みていたのだが、彼は譲歩という言葉を知らないので「寝返るか死ぬかしろ」を別の言い方で何度も言っているだけだった。ホラーかよ。

 

「念藤さん」

 

緑谷さんが再びわたしに声をかけてくる。

しかし今度は、その瞳に強い知性の光が宿っていた。

 

「作戦があるんだ」

 

知将っぽい。

あれ? やっぱり緑谷さんが知将だったの?

 

 

 

しばらくの後、緑谷さんの作戦は雄英チーム全員の知るところとなった。

 

「調子乗ってんじゃねぇぞ…! デクの作戦になんざ誰が乗るか!」

「か、かっちゃん!」

「うるせぇ!」

 

爆豪くんは己に割り振られた役割を速攻で放棄すると、爆発ブースターでハゲの元へとすっ飛んでいった。

ほんとこの二人仲悪いよね。

 

「しょ、しょうがない。みんな、かっちゃんは抜きでやろう」

「しかし緑谷、爆豪の穴は誰が埋めるよ?」

「僕がやるよ、切島くん。たぶん大丈夫だと思うけど…念動さん、サポートよろしく」

「はい。元はといえばわたしがお願いしてる立場ですし」

「……何で緑谷にだけ敬語?」

 

この人の個性オールマイトレベルやん。お前らも敬えや。

 

「それじゃ…切島くん、轟くん、よろしく!」

 

緑谷さんの呼びかけに合わせて、二人が同時にハゲへと向かっていく。緑谷さんの作戦はこの二人が前衛、わたしと緑谷さんが後衛のポジションにて成される。

 

「うらぁ!」

「く、くそ。ボンボンと好き勝手に…!」

 

見ると、爆豪くんの連続爆撃を念動力場で防ぐ父の姿がある。

念動力場は一方向にのみ展開される指向性の念力で、正面からの攻撃に対して反発する作用を持つ。

父はこれを半分の力で展開し、もう一方で爆豪くんを捉えようと念動力を働かせていた。

 

しかし爆豪くんは爆発ブースターで縦横無尽に動き回ることにより、捕捉されることを回避し続ける。

 

「ハッ! その捕まえる方の念力は素早く動く相手には難しいみてぇだな! そんでぇーー」

 

一際大きい爆発。

再び爆炎が舞い、父の視界が暗黒に覆われる。

 

「……!」

 

父が咄嗟に全方向性バリアを張る。

 

次の瞬間、背後から爆豪くんが黒煙を突き破って現れ……奇襲を失敗させた。

 

「あ、危ねぇ!」

「チッ…!」

 

わたしたち念動力の個性を持つ者にとって、あのバリアは危機に対する条件反射のようなものなのである。

爆豪くんは虚を突いたつもりだったのだろうが、虚を虚として思わせた時点で奇襲は意味を成さなくなるのだ。

 

「クソッ…!」

 

爆豪くんはブースターでバリアから離れ、父から7〜6メートルほどの位置に着地した。

そう、あの距離なら父の念動力に捕捉されても、爆豪くんの個性ならば振り払えるだろう。

 

「おっさん、俺たちも忘れてもらっちゃ困るぜ!」

「……!」

 

そこに、爆煙をさらに突っ切って現れたのは切島くんと轟くんだった。

切島くんが硬化パンチを放ち、轟くんが氷槍を作り出す。

 

「うっとおしい!」

 

父はそれを再びバリアで防いだ。

 

「……やっぱりな」

 

轟くんが口を開く。

 

「あんたは敵が二人以上近くにいるとき、防御を最優先させて必ずバリアを張る……その空気バリアを」

「だから何だ…!」

「あんたのバリアは地中にまで及んでねぇ……地面に空気はねぇからな」

 

轟くんがそう断言した瞬間、父の足元……バリアの内側から、地中を掘り進んできた氷槍が出現する。

 

「……!」

 

恐れていたバリア内からの攻撃。

父はバリアを解いて氷槍を迎撃する必要があった。しかしそうすると未だ背後にいる切島くんからの攻撃を許してしまう。

 

だが、解かなければ目の前の氷槍に貫かれることは自明の理。

 

「くそっ」

 

当然の帰結として、父はバリアを解除した。

そして半分の力の念動力場で氷槍を防ぎーー

 

「おらぁ!」

 

殴りかかってきた切島くんを念動力にて吹き飛ばした。

 

「くっ…!」

 

そしてその瞬間、よろめきながら切島くんが叫ぶ。

 

「今だ! 緑谷、念藤!!」

「「……!」」

 

合図であった。

 

「いくよ…! 念藤さん!」

 

緑谷さんがクラウチングスタートの態勢をとり、わたしがその背中に両手をかざす。

 

緑谷さんの両脚が、超パワーを充填するが如く光を帯びる。

 

「くらえ必殺! 人間大砲!」

 

わたしの発声と共に人間弾頭こと緑谷さんが射出され、目にも止まらぬ速さで父の元へと飛翔した。

超スピードの正体は「緑谷さんの超脚力」+「わたしの念動力」

この二つの推進力を得て、緑谷さんは後方という父の意識外から、一気にその眼前へと身を迫らせたのである。

 

虚を突くのが駄目なら、超スピードで殴ればいいじゃない。これが緑谷さんの作戦であった。

一件脳筋に見えるが、あらかじめバリアを解かせ、そのインターバルをピンポイントに狙った用意周到な奇襲である。

 

「SMASH!」

 

緑谷さんが叫ぶ。

バリアを封じられた上での超高速不意打ち攻撃。

 

父に緑谷さんの拳を避ける術はーー

勿論あるはずがなかった。

 

「ぐぁあ!!」

 

父がぶっ飛び、地面を何度もバウンドしてからようやく壁に叩きつけられて止まる。

 

死んだか? と思いながら近づいてみると、白目を剥いて完全にグロッキー状態であった。やったね。

 

さよならパパン! もう脱獄すんなよな!

 

 

 

その後、飯田くんが援軍のプロヒーローたちを連れて来てくれた為、事態は意外とあっけなく終息した。

 

脳みそ剥き出しヴィランはオールマイトによって大気圏へぶっ飛ばされ、ヴィラン連合は主犯格を除いてほぼ捉えられた。その中にはあの父も含まれている。

意識のない父の全身に拘束具が付けられ、そして連行されるとき。わたしは特に何も考えずにボーッとそれを見ていたのだが、1-Aのクラスメイトたちは気の毒そうな顔で揃って同情してくれた。

 

麗日さんは力強く両手を握ってくれて、ピンク肌の芦戸さんはおどける様に振舞って気持ちを和ませてくれる。

その中でも葉隠さんは特に親身になってくれて、何も言わずにそっと抱き締めてくれた。

もちろん、その時の彼女はヴィラン連合の恐るべき魔の手を掻い潜った直後であり、その個性を十全に生かす為に必要なスタイルをしていた。

率直に言えば全裸であった。

全身が透明であるとはいえ、その生々しい肉体の感触や漂ってくる汗っぽい匂いを直に感じることは、彼女が衆人環視のもと一糸纏わぬ姿でいるという事実を強調させるようで、正直同性といえども興奮するものがあった。

その日わたしは、18禁ヒーローミッドナイトに比肩し得る才能を発見したのだった。

 

さて、今回の事件で重傷者が三人出てしまった。

一人は緑谷さん。これはリカバリーガールの治癒で問題なく回復が成された。

もう一人は13号。これも命に別状はないらしい。

 

問題は相澤先生であった。

両腕粉砕骨折に顔面骨折という重体。目に何かしらの障害が残る可能性すらあるという。

我々1-Aクラス一同としては、一日でも早く先生が復職してくれるのを願うばかりであった。

 

そして臨時休講が明けた翌日。

 

1-Aの教壇には、雄英体育祭の開催を報せる相澤先生の姿があった。

 

流石にもうちょっと入院してろや。

 

「クソ学校っぽいの来たぁぁ!!」

「待って待って! ヴィランに侵入されたばっかなのに大丈夫なんですか!?」

 

体育祭の敢行を疑問とする意見があがる。

 

「逆に開催することで雄英の危機管理体制が盤石だと示す…って考えらしい。警備は例年の5倍に強化するそうだーー何よりウチの体育祭は最大のチャンス。ヴィランごときで中止していい催しじゃねぇ」

 

相澤先生が熱弁を振るう。

重傷負っても休まないし、この人ホントに雄英大好きだよね。

 

しかしかく言うわたしも、体育祭は雄英に入学するに当たって楽しみにしていたイベント事の一つであった。何しろ、ここで活躍すると一気に有名人の仲間入りを果たせるのだ。

そしたらニュースやバラエティ番組に出ちゃったりして、一気に知名度を得て、ヒーロー事務所の資金は今風にクラウドファインディングなんかで募っちゃったりして、大した苦労もなくプロとして独立して、老後は現役時代の貯金と自叙伝の印税で悠々自適の隠居生活を送るとーー理想の未来やん。

 

よっしゃ頑張るぞ! せいぜい獄中で見てろやハゲ!

 

 

 

昼休み。

わたしは何故か轟くんに呼び出されていた。

 

場所は屋上。春風そよぐ青空の下という絶好のロケーション。

もしかして告白かな? とニヤニヤしていると、そんな甘酸っぱい学園青春物語など知らんとばかりに、轟くんはシリアスな感じで切り出した。

 

「USJでのお前の親父の件なんだが…」

「あ、迷惑かけてごめんね」

「ああ。それはいいんだが……念藤は、俺がエンデヴァーの息子だって知ってたか?」

「え! あのナンバーツーヒーローの!?」

 

ホンマもんのサラブレッドやんけ! わたしのクソハゲ親父引き合いに出しやがって自慢かよ!

なんて荒んだことを考えていると、轟くんが更に沈痛な面持ちを浮かべて続ける。

 

「……USJで父親からあれだけ口汚く罵られ、命まで狙われたお前からしてみれば、俺が父に抱く感情なんて反抗期くらいにしか映らないかもしれねぇが…」

 

反抗期? 何言ってんだコイツ?

わたしが混乱する中、彼はつらつらと語り出した。

 

個性婚により生まれた轟焦凍という存在。

歪んだ父の教育。母の苦しみ。自身の火傷の理由。

そしてそれらが「父の個性を使わずにオールマイトを超えることで父を否定する」という今の彼の目標に繋がっていること。

 

「なるほど。だからUSJでも氷しか使わなかったんだ」

「ああ…」

 

轟くんがすまなそうに頷く。

 

普段は他人の家庭事情にクソほどの興味も抱かないわたしだが、今回ばかりはさすがに彼に同情の念を覚えた。

 

「でも、それをわたしに話して轟くんはどうしたいの?」

「聞きたいことがある」

 

轟くんが俯きながら口を開く。

 

「……これは別にお前を責めている訳じゃねぇんだが……念藤は、父親の個性を使うことに抵抗は感じないのか?」

「あ〜、なるほど。そういうことね」

 

つまり彼は、自身とわたしの境遇を重ねているのだろう。

憎むべき父親の個性。それを好き勝手に使っているクラスメイトがいる。対して己は使わないことを決めた。果たして正しいのはどちらか……こういうことだ。

 

「だって念動力はわたしの個性だし」

 

シンプルに答えた。

 

「父親の個性であることもまた事実だろ」

 

納得出来ないと轟くん。

 

「うーん、轟くんはさ、個性使うたびに「炎はセーブしよう」って常に心掛けてるんでしょ? その度にお父さんのこと思い出してさ。それって逆に縛られてるよね」

「わたしは違うよ。この前オールマイトに言われて、変わった。父はわたしの人生を左右するような存在じゃなかった。今じゃわたしは念動力を使ってる間、父の事なんてこれっぽっちも考えてない」

「轟くんもそうすりゃいいじゃん!」

 

お前の事情なんて知らねぇ! とばかりにまくし立てるわたしに対し、轟くんがどこか呆気に取られたような、毒気を抜かれたような表情を浮かべる。

 

「お前…もっと影のあるキャラかと思ってたが…」

「うん」

「結構、バカっぽいんだな」

 

イラっとした。

 

「轟くんは根暗っぽいよねww彼女とかいたことあんのwwないかwwまず友達がいなさそうだもんww」

「…………」

 

轟くんは無言で去って行った。

そんな怒ることかよ。

 

 

 

その日の放課後。

 

ザワザワと騒がしい喧騒が、1-Aの教室前廊下から聞こえてくる。

 

「ん?」

 

見ると、そこには押し合いへし合いをして集まった他クラスの雄英一年生たちが、大挙として押し寄せてきていた。

 

「なにあれ…」

「念藤ちゃん、今更気が付いたのかしら?」

「うわ、蛙吹さん! びっくりした…」

 

気がつくと、わたしの目の前には胃袋洗える系女子の蛙吹さんが立っていた。

 

「梅雨ちゃんと呼んで」

「わかったよ梅雨ちゃん。それで、どうしたのあれ? 今から1-Aの教室使って学年集会でもするのかな?」

「それはないと思うわ。普通に講堂を利用すればいいだけだし」

「そりゃそうだよね」

 

「敵情視察だろザコ」

 

わたしたちの疑問に対する回答のように聞こえてきたのは爆豪くんの声だった。

教卓側の扉を見ると、他クラスの生徒たちと何やら揉めている彼の後ろ姿が見て取れる。

 

そんな中、他クラスの生徒たちからなる人垣を掻き分けて、一人の紫髪の生徒が歩み出て来た。何処かで見た顔である。

 

「敵情視察? 少なくとも俺は、調子乗ってっと足元ゴッソリ掬っちゃうぞっつー宣戦布告しに来たつもり」

 

彼に続き、今度は人垣の後ろから怒鳴り声が聞こえてくる。

 

「隣のB組のモンだけどよぅ!! ヴィランと戦ったっつうから話聞こうと思ってたんだがよぅ! エラく調子づいちゃってんなオイ! 本番で恥ずかしい事んなっぞ!!」

 

そんなアンチA組の雰囲気が漂う中、その軋轢を生み出した元凶ともいえる爆豪くんは、我聞せずといった様子で一人教室から出ていった。

 

後に残ったのは、1-A対その他とでも言うべき対立的な空気のみであった。

 

「爆豪ちゃん、散々煽った挙句にあっさり帰っちゃったわね」

「そだね」

「念藤ちゃん、放課後暇なら何か甘いものを食べて帰らない?」

「いきましょう」

 

梅雨ちゃんとクレープを食べた。

わたしはノータイムでブルーベリークリームチーズをオーダーしたが、梅雨ちゃんは黒蜜きな粉あずきであった。渋いねと言ったら一口勧められた。

 

和もイケるやん!

 

 

 

それから体育祭までの二週間は瞬く間に過ぎ去った。

わたしはその期間、部屋の掃除をしたり、中学の友人と遊んだり、母の誕生日にサプライズパーティーをしたりと大忙しであった。

 

「ナオさぁ…」

 

カラオケで熱唱し終えたわたしに向かって、中学の友達が言う。

 

「もうすぐ雄英体育祭でしょ…遊んでていいの? 全国中継だよ?」

「いーのいーの。わたしの便利個性ならどーせ良いとこまでいくんだからさ」

「昔から天才肌だもんねーあんた」

 

女三人でたっぷり三時間歌ってからカラオケを出る。

今日は学校終わりに急遽集まろうという話しになったので、時刻は既に午後8時近く。外はもう暗かった。

 

「念藤…か?」

 

店の前で少し話して、さて解散しようかとしたところ。わたしに掛かる声があった。

 

「……久しぶりだな」

 

雄英の男子生徒である。

紫の髪、目の下の隈。先日、A組の教室に来て宣戦布告をしていった普通科の生徒だった。

 

「ナオ…ほら、心操くんじゃん。ナオと一緒にヒーロー科受けた…」

「ああ!」

 

思い出した。

クラスこそ違ったが、彼は同じ各部中の同級生で、確か洗脳の個性の持ち主だった。

その個性ゆえ実技試験での成績は芳しくなかったと噂で聞いたのを覚えている。普通科に入学していたのか。

 

「また今度、連絡してもいいか?」

「えっ、うん。まぁ」

 

心操くんはわたしにそう言い残して去って行った。

 

「連絡していいか、だって!」

「心操くん、ナオを追って雄英受けた説あるからね」

「えっ! そうなの!?」

 

わたしが驚いて友人たちの顔を見ると、二人はニヤニヤと楽しげな笑みを浮かべている。

 

「間違いないって!」

「モテるねーナオ!」

 

「いやぁ〜、参ったな〜」

 

心操くんに対して別に特別な感情はないが、好意を抱かれるのは相手が誰であろうと嬉しいことである。

 

「もしかして心操くん、体育祭でナオに告るつもりなんじゃ…!」

「あるよ! 全国中継で愛の告白あるよ!」

 

「二人ともやめてよ〜」

 

告られちゃうかー、そっかー。

客観的に見て可愛いからね、わたし。

まぁ、体育祭で告白されたら、その勇気に免じて一考くらいはしてあげるか!

 

そんな感じで雄英体育祭当日を迎える。

 

わたしたちは朝のうちに体育祭の会場となるスタジアムへ直接集合し、メディアを避ける為に早々に控え室へと入っていた。

 

何処か落ち着きのない雰囲気の中、そうやって全員で待機していると、飯田くんが入場の時刻を報せに来る。

 

こうして、わたしたちの体育祭が始まったのである。

 

第一種目は障害物競争であった。

 

ヒーロー科2クラスを含めた計11クラスで行われるこのレースは、スタジアムの外周4キロをコースとして行われる。

 

当然わたしは念動力でひとっ飛び…と行きたかったが、飛行中は他の念動力が使えないため、速攻で撃墜されることとなった。

出る杭は打たれるというやつだろう。飛行中の選手は目立つため、集団の中においては集中攻撃を受けやすいのだ。

幸いにも、わたしは咄嗟に飛行をバリアに切り替えることで事なきを得たが、他の飛行可能な個性を持つ選手たちは早々に脱落となっていった。

 

その後わたしは基本走り、しかし要所要所では飛行を使って、常に上位グループの一員としてゴールを目指した。

 

第一関門のロボ地獄では壊されたロボを「修復」して後続を妨害……なんてこともした。

しかしその後の第二、第三関門は綱渡りに地雷原と、飛行能力を持つ者にとっては無いも同然の障害で、更にどちらも選手の注目が自身の足元に向かうことから、飛行中の妨害も気にする必要がなかった。そのため、ゴールまでは比較的楽にたどり着くことが出来た。

 

最終的に、わたしの順位は7位。

 

そうだね、調子に乗ってロボット直しまくってたからね。あそこで時間かけなきゃ多分1位だったのにね。

とはいえ、まぁ順当である。

 

そして第二種目。騎馬戦。

 

一般的には4人で騎馬を作り、その内の騎手がするハチマキを奪い合う、というルールが良く知られているが、ここ雄英体育祭ではそこに特殊ルールが加わる。

 

まず騎馬のメンバー編成が交渉制。

選手には15分のチーム決めタイムが設けられ、そこで2〜4人からなる騎馬のメンバーを作る。

 

次にハチマキのポイント制。

選手にはそれぞれ、前競技である障害物競争の順位に則したポイントが割り振られており、騎馬の総合計が騎手ハチマキのポイントとなる。

チームは奪ったハチマキの本数ではなく、その合計ポイントにて優劣を付けられるーーという訳だ。

 

そして今はチーム決めタイム。

一位には1000万Pという基地外じみた配点がなされている為、緑谷さんと組む可能性は真っ先に消えたが……さて誰にしようか…

 

そう考えていた時だった。

 

「念藤」

 

聞き覚えのある声がかかった。

声のした方へと目をやると、そこには紫髪の心操くんが立っていた。例のわたしのことが大好きな彼である。

 

カラオケの前で心操くんに会った日から、彼は毎日欠かさずわたしにラインをしてきていた。

主に体育祭の話題が多かったが、ときには明らかな好意を匂わせてきたりして、既に彼の気持ちは明らかだった。

 

「念藤…どうだ? チームは決まったか?」

 

そう言って近づいてくる心操くん。

大好きなわたしと組みたいのだろうが、今は真剣勝負の真っ最中。彼の洗脳のような、戦闘向きじゃない個性の選手と組むつもりはさらさらない。

 

わたしはそのことをオブラートに包んで伝えようとしてーー

 

「心操くん、わたしは…」

 

ーースイッチが切り替わったかのように、頭にモヤがかかった。

 

「……!」

 

洗脳だ。

わたしは咄嗟に理解した。

 

あれ? ということは、今までの彼の好意ってわたしに警戒心を無くさせる為のーー体育祭で洗脳にかけやすくする為のフェイクだったってこと?

 

意識が急速に遠退いていく。

そしてその中で、心操くんの「してやったり」というニヤついた笑顔が見えた。

 

こ、こいつ雑魚の分際でわたしをコケにしやがった…!

 

そしてそれからの記憶は無い。

ただ一つ言えることがあるとするなら……このクソ野郎はあとで絶対にぶっ殺すッ! それだけだった!!

 

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