念藤さんのヒーローアカデミア   作:芋一郎

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体育祭

 

いま、スタジアムには地鳴りのような歓声が響いていた。

 

雄英高校体育祭。

十数万人の観客が見上げる巨大スクリーンに映し出されているのは、雄英一年の騎馬戦の模様である。競技はまだ始まったばかり。それにも関わらず、観客は今日一番の盛り上がりを見せていた。

その原因は、開始早々に実に五組ものチームのハチマキが、一斉に奪われたことにあった。

 

『おーっと! 心操チーム! 1-A念藤ナオの念動力でスタート直後にハチマキを大量確保!! バリアも張れれば空も飛べる! ちょっと便利過ぎだろその個性!』

『緑谷チームに意識が集中していたところを上手く狙ったな。ハチマキを奪われた五組共、緑谷に向かって動き出していたチーム。それを背後から掠め取った形だ』

 

プレゼントマイク&相澤の解説と、ひとりでに宙へと浮かび上がった五本のハチマキの行く末を見て、ようやく何が起こったか理解する選手たち。

 

『心操チーム! 爆豪、拳藤、鱗、小大、角取の計1250pを獲得! 合計1720p! 3位の轟チームを大きく引き離して2位におどり出たァ!!』

 

巨大スクリーンが五分割され、ハチマキを奪われて呆然とする5チームがそれぞれアップで映し出される。

そしてその中には、歯噛みして悔しがる爆豪の姿もあった。

 

「あ、あの328女ァ…!」

「落ち着け爆豪! まだスタートからすぐだ! 挽回できるぜ!」

「ったりめーだ! まず328女のハチマキ全部掻っ攫う!」

「お、おい!」

 

こう着する場の中で、まず動いたのは爆豪だった。

瀬呂の呼びかけを無視して爆発ブースターで空へと飛び上がると、そのまま心操チームへと向かって爆進を始める。

 

「念藤! バリア!」

「……(洗脳中)」

 

虚ろな瞳の念藤が、心操の指示に従って騎馬全体を覆うようなバリアを展開する。

 

心操チームの騎馬は、まず中央にフィジカルの強い尾白(洗脳中)、左翼にB組の庄田(洗脳中)、右翼に念藤(洗脳中)、そして騎手に心操という布陣で構成されている。

これにはチームの核となる念藤を、正面から来る敵の反利き手側に隠すといった意図の下で為されているのだが、優れたバトルセンスを持つ爆豪には意味を成さなかった。

 

「し、ねぇぇぇぇえ!!」

 

右手だろうと左手だろうと関係なし。爆豪は心操チームの左側へと小刻みな爆発で器用に回り込むと、念藤へと向かって爆発する左拳を振り下ろした。

 

大爆音。そして爆煙。

攻撃を終えた爆豪は瀬呂のテープによって速やかに騎馬へと回収される。

 

「爆豪! 思いっきり念藤狙ってたろ! あんなん直撃したら死ぬぞ!」

「そうだよ! ハチマキ狙いなよ!」

「っるせぇっ! 黙れ!」

 

瀬呂と芦戸が抗議する中、爆豪と切島は爆煙へと目を凝らし続ける。その他にも、念藤によってハチマキを奪われたその他四チームが爆煙を遠巻きにしている。

爆豪と切島はある種の確信を抱いて。その他の選手や観客は爆発をモロに受けた念藤の安否を気にして。

 

「…………」

 

やがて煙が晴れる。

そこには周囲の心配を他所に…また爆豪と切島の予想通り、完全に無傷の心操チームの姿があった。

その足元には、ちょうど円形状に煤に汚れていない綺麗な地面が残っている。

 

『心操チーム健在! 爆豪の爆発を無効化したァ!』

 

「マジかよ…」

「う、うそ〜」

 

USJで念藤と共闘しなかった瀬呂・芦戸の驚愕の声。

それもそのはず。念力に飛行にバリア。その全てを高い水準で熟せる個性など、コミックどころか質の悪いファンノベルである。更に付け加えれば、彼女はそこに「修復」の個性さえ加わるのだ。

 

「こりゃ…無理だな…」

 

爆豪ほどの攻撃力を持ってしても破れなかったバリア。

それを目の当たりにした、拳藤、鱗、小大、角取の四チームが念藤攻略を諦めて別チームへと向かっていく。

 

『さぁ〜! スタートから二分! まさに混戦状態! 各所でハチマキの奪い合いが勃発するー!』

『……2位の心操チームだが…時間いっぱいバリアに閉じこもる気だな。爆豪以外の四チームは既にそれを察してバラけているが…』

 

「爆豪! ハチマキ、奪い返すのか!」

「ったりめぇだ!」

 

相澤の解説を他所に、切島の問いかけに対し大絶叫で答える爆豪。

 

「よっしゃ! それでこそ男だぜ!」

 

切島がニヤリと笑む。

 

「いや、でもよ切島。実際それが出来るのかって話だぜ」

「うーん、あのバリアって私の酸でも溶けるのかなー?」

 

瀬呂と芦戸が口々にそう言うと、切島は少し得意そうな顔で答えた。

 

「いや、あるんだよ弱点が。これはUSJで緑谷が見抜いたんだが…」

 

「ーー!! (デク…!)」

 

緑谷の名が出てきたその瞬間であった。

 

それまで念藤へと真っ直ぐ向けられていた爆豪の目が、何かを思い出したかのようにカッと見開かれた。

 

『あのバリアは空気を固めたもので、バリアを張ってる間は他の念動力は使えない。合ってるかな?』

『空気バリアって一度解いたらしばらくインターバルが必要になるんじゃないかな?』

『轟くん、あのバリアはきっと地中までは及んでない…! そこを狙って欲しいんだ…!』

 

爆豪の顔が俯きがちになり、その目元が陰ってくる。

 

そして、ポツリと呟いた。

 

「デクが見抜いた…弱点…」

 

さらにギリギリと歯ぎしりの音。

 

「あっ」

「あちゃー」

 

瀬呂と芦戸がやっちまったと頭を抱える。

騎馬役の二人からは上方にある爆豪の面持ちを伺う知ることは出来なかったが、それでも自分たちの騎手の表情がとんでもないことになっているであろうことは、容易に想像することができた。

 

しばらくして、爆豪が重々しく口を開いた。

 

「……他、当たるぞ」

 

それは騎馬戦における、念藤への実質上の敗北宣言であった。

 

念藤にかかされた恥<<<<<緑谷との確執

 

つまるところ、これが爆豪にとっての譲れない優先順位だったということである。

 

「爆豪! 確かに弱点突くのは男らしくねーが、これも戦略だぜ!」

「うるせぇ! デクの真似するくらいなら死んだ方がマシなんだよ! 行け!」

 

爆豪は切島の頭を馬車馬の尻の如く叩きながら指示を出すと、他チームへと向かわせた。

そして途中、振り返って心操チームをーーいや、念藤を一目する。

 

「……チッ」

 

爆豪が抱く念藤の印象とはこうだ。

一般入試で328pという歴代最高得点を取り、入学時個性テストでは総合成績一位を獲得し、さらには対人戦闘訓練では力さえ振るわずに爆豪を嘲笑った抹殺すべきクソ女。

 

そこに今回のーー騎馬戦での屈辱を付け加えると、爆豪のヘイト感情はもはや爆発寸前であった。

 

「(これで終わると思うなよクソ女ァ…!!)」

 

最後に鬼のような形相で念藤を睨み付けると、爆豪は目の前の敵チームにへと意識を切り替えていった。

 

 

 

わたしが自己を取り戻したとき、既に騎馬戦は終了していた。

結果はご覧の通りである。

 

1位 轟チーム

2位 心操チーム

3位 爆豪チーム

4位 緑谷チーム

 

以上の4チームが騎馬戦を勝ち抜き、最終種目への出場権を獲得した。もちろん、わたしにその経緯についての記憶はない。

 

『一時間ほど昼休憩を挟んでから午後の部だぜ! じゃあな!』

 

プレゼントマイクのアナウンス。それと同時に、周囲の雰囲気が目に見えて弛緩したのが分かった。

そしてそれが結実となったのか、わたしの腹わたがふつふつと沸騰を始めた。煮えくり返る直前ということである。

 

「心操……ただじゃおかない…」

「誰がただじゃおかねぇだ?」

 

心操か!

タイミング的にそういう確信を持って振り返ると……そこにいたのは爆豪くんであった。

 

「え? どうしたの?」

 

よく見てみると、彼もわたしに負けず劣らず血走った眼をしている。いや、むしろ彼の方が数段怖い。

 

爆豪くんはそのまましばらくわたしを睨み見ていたが、やがてプツリと視線を切ると、踵を返して歩き始めた。

みんなが向かう食堂ではなく、人目に付かないような暗がりに向かって。

 

「面かせや…382女…」

 

えぇ…行きたくねぇ…

 

わたしの腹わたは、もはや冷や汗を浴びせられた様に静まっていた。

 

「…………」

 

爆豪くんに連れてこられた場所は、ドーム内の生徒控え室に繋がる昇降口であった。その通路の角を一つ曲がったところで、爆豪くんはギュルリとわたしへと振り向いて、思いっきりその凶相を近づけてきた。

 

「!」

 

驚いて後退すると、すぐにその分の距離を詰められる。

最終的に、わたしは通路の側壁に背中を預けた、追い詰められたような形で爆豪くんと相対することとなった。

 

「世話になったな…騎馬戦じゃあよォ…」

「……っ」

 

そして静かな怒りをぶつけられる。

しかし、どうやら暴力に走るつもりはないようだ。わたしはバリアの為に身構えていた四肢を楽にさせると、改めて彼と目を合わせた。

もちろん、ここで余計な嘘を吐いて爆豪くんの神経を逆撫でするのは賢くない。素直に答えるのがベストである。

 

「わたし、騎馬戦のこと覚えてないんだよね」

 

というのも、心操によって洗脳を受けてーー

 

そう続けようとして、ふと彼の顔を確認した瞬間だった。

 

ボガァン!

耳元で爆発音。

左耳がキーンとする。

 

「……覚えてねぇだと? クソが…俺は眼中にねぇってことか?」

 

わたしの顔の左側に、壁に突きつけられた爆豪くんの右腕がある。

壁ドンならぬ壁ボン状態。

問題は、全くときめかないどころか精神的に追い詰められることか。

 

とにかく彼の誤解を早急に解かねばならなかった。

 

「いや爆豪くん。そんなことーー」

「じゃあなんで今バリア張らなかった。危なくなったら取り敢えずバリア。それがお前なんだろ。俺じゃ危機にすらならねぇってか」

「えぇ…」

 

もはや言い掛かりの域である。爆豪くんの超スピード爆破パンチなんて、至近距離で反応出来るはずがない。コイツわたしのこと過剰評価しすぎである。

しかし怒りでドス黒く変色したその顔色から、彼がそれを本心で言っていることは伝わってきた。

 

しばしの間、一方的に爆豪くんに睨まれ続ける。

しかしその視線を切ったのもまた彼だった。

 

「最終種目……リレー、玉入れ、何になろうが関係ねぇ…てめぇは必ず俺がぶっ殺す…! 覚えとけクソが!」

 

爆豪くんはつり上がった目尻を更に急勾配にしてそう吐き捨てると、ポケットに両手を突っ込んでこの場を後にした。

 

「……ふぅ」

 

どうやら、ガッツリ誤解されてしまったようだった。

 

「…………」

 

爆豪くんの背中が、通路の角を曲がって消えていく。

 

「……?」

 

そしてすぐに戻ってきた。

 

何故かこちらに背中を向けたまま、角に身を隠して出入り口の方を伺っている。

 

何かあるのだろうか?

 

わたしは不審な動きを見せる爆豪くんに近づき、声をかけた。

 

「ばく…」

「黙ってろ」

 

わたしの顔へと手を伸ばしてくる爆豪くん。口を押さえようというのだろう。

 

しかし今度こそ、わたしはその手を念動力でガードした。

 

「てめぇっ…!」

 

さらにそのまま爆豪くんの全身を拘束しながら、彼に習って出入り口の方を隠れ見る。

 

「……ん?」

 

そこにいたのは緑谷さんと轟くんであった。

 

「あの…話って…何? 早くしないと食堂、すごい混みそうだし…」

「……気圧された。自分の誓約を破っちまう程にーー」

 

……何だか面白そうな話をしている。

 

「てめっーー」

「はいはい静かにしてねー」

 

爆豪くんに騒がれては覗きがバレてしまう。

わたしは念動力で彼のお口のチャックを閉めた。

 

「むぐっ!」

「……これで鼻つまんだら面白いことになるな」

 

念藤式窒息術とでも名付けようか。

思わぬ必殺技の誕生の瞬間であった。

 

それはさておき、その後、轟くんはわたしたちに聞き耳を立てられていることを知らないまま、己の過去を語り始めた。

 

 

 

USJの後、わたしも大まかにではあるが轟くんの過去については聞いていた。しかし、まさかあの火傷の原因が母親にあっただなんて思いもしなかった。

自身の生まれ、母のこと、父のこと。

最後まで話し終え、立ち去った轟くんの背中は、まるで緑谷さんに勝負に対する覚悟の有無を問うているかのようだった。

 

そして緑谷さんもそれに応えた。

 

「僕も君に勝つ!」

 

二人は互いに己の勝利を誓い合って別れたのであった。

 

「むぐーむぐぐっ!」

「いやー、爆豪くん。良い話だったねー」

「むぐー!」

「ああ、ごめん。口のチャックは外すね」

 

仮想のチャックを摘むようにして、彼の口の前で指を横に振る。

 

「ーーぶはっ! 全身の拘束も解けやコラァ!!」

「そしたら怒るじゃん」

「ったりめぇだ! 次の競技の前にボコボコにしてやらァ!」

「ほらね。だから解かないんだよ」

「△@◽︎&×◯¥◇!!」

 

ひえぇ…怒り狂ってる…

 

ビビったわたしは、爆豪くんを宙に浮かしたままの状態で通路を歩き始めた。

 

「降ろせやァ!」

「もうちょっと待ってね」

 

そうやって二人でスタジアムから出る。

そしてそのまま十分ほど、スタジアムの外周に沿って歩き続けると……そこに広がっていたのは、競技場の景観の為に植えられたであろう、人口の森林だった。

 

「爆豪くんって50m走、4秒ちょっとだったよね。まぁ500mはいくとして…木が障害物になるから3、4分ってとこかな?」

「うるせぇ! いい加減降ろせクソ女!」

 

なおも元気な爆豪くん。

そんな彼を、わたしを中心にして円を描くように、念動力でぐるぐると回し始める。

 

「な、に、し、や、が、る」

 

途切れ途切れに聞こえる爆豪くんの声。

 

「いや、このまま放しても殴られそうだし」

「あ、た、り、ま、え、だ」

「だったら時間稼いで逃げようと思って」

 

爆豪くんを回すスピードを早める。

これにより勢いをつけ、発射時に彼にかかることとなるGを緩和させるのだ。

 

「急発進させたら危ないからね」

「!!」

 

タイミングを見計らってーー念動力で爆豪くんを思いっきりぶん投げる!

 

「テメェぜってぇぶっーー」

 

言葉尻と共に小さくなっていく爆豪くん。

先ほど言った通り500mはぶっ飛んだだろう。

彼はやがて空中で失速すると、爆発ブースターで落下速度を緩めながら、生い茂る緑の中へと姿を消していった。

 

「……よし!」

 

これでとりあえずの身の安全は確保できた。

 

後が怖いけど…まっ、大丈夫でしょ。

 

わたしは昼食のため、学食ーーは爆豪くんが来る可能性が高いので、近場のコンビニへと向けて飛び立つのであった。

 

 

 

午後の部。

最終種目はトーナメント制のガチバトルとのことだった。仮にも体育祭でガチバトルってどうなの?

 

途中、わたしたちA組女子がチアになったり、尾白くんが辞退表明したりと様々あったが、進行自体はスムーズになされた。

そして今、二種目目の騎馬戦を突破した四チーム総勢16名からなるトーナメント表が、巨大スクリーンに張り出されていたのであった。

 

わたしは心操と当たりたかった。

公共の電波の元で奴を全裸に剥いて念動力でダンスさせ、乙女心を弄んだ報いとして大恥をかかせてやりたかったのだ。

 

しかしその願いは叶わなかった。

 

第1戦目 緑谷VS心操

第2戦目 轟VS瀬呂

第3戦目 塩崎VS上鳴

第4戦目 飯田VS発目

第5戦目 八百万VS念藤

第6戦目 常闇VS芦戸

第7戦目 鉄哲VS切島

第8戦目 麗日VS爆豪

 

トーナメント表によると、わたしは4回戦で特待生の八百万さんとバトルすることになるらしい。

 

周囲の選手の中から八百万さんを見つけると、向こうも丁度わたしに視線を向けたところだった。

 

「…………」

「…………」

 

わたしたちの間で火花が散る。

 

八百万さんには父の件で随分と良くしてもらった。しっかりと断ったが、母子家庭で経済的に困っているようなら援助しても良いとまで言ってくれた。本当に良い人である。

それからはすっかり仲良しになった。お互い特訓で忙しかったこともあり、USJが終わってから体育祭までの二週間は時間が合わなかったが、そのうちご飯でも一緒に食べにいきたいね、などと話をするようにもなった。

 

そんな八百万さんの後ろに。

悪魔のような形相でこちらを睨む爆豪くんの姿がある。

 

「……コロスコロスコロスコロスコロスコロス」

 

ひえぇ…今にも呪殺されそう…

 

今の今まで気が付かなかったが、この様子では午後の部が始まってからずっとわたしに怨念を送っていたのだろう。

 

これではわたしも、より一層八百万さんから目を放せないというものである。

爆豪くんを視界の外へ出すのは怖い。さりとて彼を直接見るのもまた怖い……という複雑な心理的メカニズムが働いているのだ。

 

故にわたしは八百万さんと視線を合わせ続ける。彼女を緩衝材とすることで、爆豪くんの凶眼による被害を最小限に抑えようと試みる。

彼がこちらに対して僅かでもアクションを起こそうものなら、直ぐにバリアを張って身を守る心積もりである。

 

「…………」

「…………」

 

八百万さんがちょっと気まずくなってきても見続ける。

そろそろいいでしょ、みたいな素振りをしても見続ける。

 

「…………」

「……(疲れた…)」

 

結局レクリエーションが始まるまで、わたしたちはずっと視線を合わせ続けていた。

 

なんだかんだで最後まで付き合ってくれた八百万さんほんと優しい。

 

 

 

大玉ころがし、借り物競走、応援合戦。

 

全クラス参加のレクリエーションはつつがなく終了した。最終種目への進出者は自由参加だったが、わたしはその全てに参加した。

 

大玉ころがしでは念動力で浮かした大玉の上に乗って移動し、借り物競走では牛乳瓶という有りそうでない運営側のチョイスに翻弄され、応援合戦では1-A女子全員で適当にボンボンを振った。

 

そこそこ楽しかったです!

 

『ヘイガイズ! アーユーレディ!? 色々やってきましたが! 結局これだぜガチンコ勝負!』

 

そして、いよいよ本番である。

 

「あ、始まるみたいだよ」

 

わたしの左隣の席に座る麗日さんがそう言った。

この生徒用観客席ではクラス単位で固まってトーナメントを観戦することになる。

故に1-Aの生徒は全員がここにいるのだが……意外と爆豪くんが突っかかってこない。

相変わらず殺気立った視線は送ってくるのだが、やはり彼も人の子というわけか。衆目の前ではその凶暴性も半減なのだろう。カメラもあるしね。

何だか嫌な予感はするけど、とりあえずは一安心である。

 

そうやってわたしが心の余裕を取り戻す中、最終種目であるトーナメントは始まった。

 

一回戦は緑谷さんVS心操。

 

「緑谷さーん! やれー! 心操のクズを泣かせー!」

「な、何てことを言うんだ念藤くん! メディアも来ているんだ! 雄英の生徒として節度ある応援をしないか!」

 

右隣の席に座る飯田くんから身振り手振りで咎められる。

しかしこの件については、わたしにも大義があるのだ。

 

「緑谷さーん! ボコボコ! ボコボコにして!」

「あ、あははは……念藤さん、騎馬戦のとき心操くんに洗脳されてたもんね」

「え! そうだったのか!?」

 

麗日さんがわたしの気持ちを汲んでフォローしてくれる。

 

「それだけじゃない。心操のやつ、少し前から散々わたしに好き好きアピールしてた癖に、それ全部今日の為の策略だったんだよ!」

「ええ!? ひどい!」

「た、確かにそれは酷いな…」

「でしょ!? 飯田くんもそう思うでしょ!」

「あっ! 私わかった…! 好きって言われてる内に念藤さんの方も心操くんに惹かれちゃって……それでそんなに怒ってるんだね!?」

「それはないわ」

「即答…!? しかしだからといって仮にもヒーロー志望の我々雄英生がクズだの泣かせだのとーー」

 

そうやって三人でわいわい話しながら観戦している内に、一回戦は緑谷さんの勝利であっさりと終わった。

 

ざまぁ見ろ心操。

 

「…………」

 

ラインで煽っとこ。

スマホをポチポチと。

 

《見てたよwwちょっと弱すぎないww》

 

送信と。

あ、速攻で返ってきた。

 

《しね》

 

うへへwwめっちゃ効いてるww

楽ちいwwww

 

あれ、また来てる。

 

《悪かったな》

 

「…………」

 

謝んなや。

なんか申し訳ない気分になってくるやん。

 

 

 

二回戦は轟くんVS瀬呂くんであった。

開始早々に奇襲を成功させた瀬呂くんだったが、轟くんの広範囲氷結攻撃によって奮戦虚しく沈む。

 

勝者、轟くん。

 

次の三回戦は塩崎さんVS上鳴くん。

今度は広範囲電撃攻撃をした方が負ける。

上鳴くんがウェーイってやってるの好き。

 

勝者、塩崎さん。

 

四回戦は飯田くんVS発目さん。

飯田くんは終始良いようにあしらわれていたが、最終的に彼の勝利となった。

発目さんの個性って結局なんだったんだろう。

 

勝者、飯田くん。

 

そして五回戦。

ついにわたしの番が回ってきた。

 

『万物を創造する才女! 八百万百!! バーサスッ! 変幻自在のエスパー! 念藤ナオ!!』

 

歓声が沸き上がる中、スタジアム中央のバトルステージで向かい合うわたしと八百万さん。

 

『便利な万能個性同士の一戦! 第五回戦! スタート!!』

 

プレゼントマイクの合図と共に、わたしたちは同時に動き出すのだった。

 

 


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