「タイムアップー!!」
突如聞こえた声に飛び起きる。どうやら第3次試験が終了の声だったらしい。
「ふむ。少しは良くなったみたいだね。後でレオリオにお礼を言うのだよ」
兄は私の熱を測りながら言った。詳しく聞けば、途中で私の様子を見にきてくれたようだ。そしてついでとばかりに薬も置いていったらしい。後で元気になったと顔を見せに行こう。
「ディーノは?」
「あそこだよ」
兄の指を辿れば、見知らぬ受験者と一緒にいた。誰だろうかと首を傾げていると兄が説明してくれた。なんでも死にかけていたらしく、勝手にフミ子が助けに行ったらしい。私が主人ということにしているが、その私がぐーすかと眠っていたため、ディーノが向かったようだ。
「その人、起きるのか?」
「どうだろうね?」
死にかけていたほどの傷を治したのなら、睡魔は途轍もなかったはずだ。先程の声でも起きなければ、4次試験の説明までに起きるのは厳しい気がする。……まぁ命あるだけマシか。フミ子のことだから死体を私に見せたくなかっただけだろうし。
私がそんなことを考えていると、ディーノとフミ子はその人物を放置して戻ってきた。
「いいのか?」
「ああ。後はハンター協会の方に任せればいいだろ」
彼はそれしか言わなかったが、私が起きたこととタワーから出る扉が開いたことも関係していると思う。
「本当にいいのか?」
彼の性格なら肩で担いで外に出したり、交渉したりする気がする。
「……サクラの中でオレはどう思われてるんだ? あいつがツナ達なら骨を折るだろうが、そうじゃねぇんだ。そこまでする義理はねーよ」
「そうだとも。彼がなんでも抱え込む人物なら、トップに立つことは不可能だよ」
それもそうか。なんだが最近は私のために奮闘することが多いので勘違いしていたようだ。ディーノは甘いがマフィアのボスだった。
「それにディーノとあの受験生なら、サクラはどちらを優先するんだい?」
「……ん、私がバカだった」
自身のことと兄が優先順位を占めているが、たいして知らぬ受験生と比べるならディーノと即答できる。ディーノだって私を守ることを優先するだろう。
ふと未来で会った10年後のディーノのことを思い出した。すぐに入れ替わったためあまり話せなかったが、私とファミリーを天秤にかけて私を選んだのだ。部下の後押しもあったらしいが、10年後の彼はキャバッローネを壊滅させた。
……今の目の前に居るディーノはどちらなのだろうか。頼むからファミリーであってほしいと願った。
「お兄ちゃん、抱っこ」
私が甘えると普段なら大喜びするが、今回は仕方ないように息を吐いてから抱きあげた。ディーノの気持ちから逃げる口実だとバレているからだろう。それでも兄は私が必死にしがみついても何も言わず好きにさせてくれた。
試験官の説明を受け、順番にクジを引く。4次試験は狩る者と狩られる者だ。今から引く番号のナンバープレートを奪わなければならない。
3次試験のクリア順で引いていくので、私はクリア時に居た人数を思い出した。多分15番ぐらいだと思う。……もっと早く引きたかったな。
ヒソカが引きに行ってる間に兄とディーノの順位を聞く。2人は2番目と3番目だった。ヒソカより遅かったのはもう1人受験生が居たからだろう。それでも2人は私より早くゴールしておくべきと考えていたはずなので、その受験生は大変だっただろうな。
「お兄ちゃん、順位覚えといて」
兄が引きに行く順番になったので、おろしてもらう直前に声をかける。私が覚えるよりも正確なのだ。兄はこの後の流れを知っているので、ナンバープレートを全て記憶しているだろうし。
私の護衛という意味で2人が交代するため動かないため、クジを引くのに少し時間がかかった。まぁここに残っている受験生は私達の特殊な関係に察しているので特に問題なく進んで行く。
「407番」
「ん」
ゴンとキルアが呼ばれていたので、そろそろ私だろうと思っていたため驚くこともなく歩き出す。兄とディーノもギリギリまで側に居たが、大丈夫と声をかけてクジを引きにいく。
「……だよな」
いろいろ考えて取ったのに、引いた番号を見て思わず呟いてしまった。切り替えるために軽く頭を振った私は2人の元へ戻る。私の反応に気にはなっているようだが、他の受験生がいるところで話すことではないとわかっていたのだろう。兄達はそっと端へと誘導し、いつものように周りを警戒していた。
島へ移動するための船に乗り込み、私達は人が少ない甲板に移動する。耳が良い人は聞こえるだろうが、番号を確認し合うことは出来る。しかしその前に私はずっと気になっていたことがあるので疑問を口にする。
「ナンバープレートを取らないのか?」
つけているのは数人だけだ。そういう私もディーノが取らないのでバレるだろうと付けっ放しだが。
「今更っつうのもある」
「僕達は目立っていただろうしね」
確かにそうかもしれないと軽く頷く。
「それにあのルールだと隠すのが正解だとは限らないんだ」
「ん?」
「僕達が狩る者の数字じゃないとわかれば、僕達以外に目を向けるだろ?」
「3人狩るより、ターゲット1人を狩る方が楽と考えるだろうからな」
感心したように息を吐く。狩る者には確実に狙われることになるが、関係ない者達からは狙われにくくなるのか。
「聞いた私が言うのもなんだが、それを言ってもいいのか?」
「聞かれても問題ないよ。僕達を相手取ろうと考える受験生は少数だから成立するのさ」
その少数に入るヒソカはどうする気なのかを聞いてみた。
「島の広さから考えると滞在期間は長そうだかんなー。逃げ回るよりも倒しちまった方が楽そうだ」
「そうだねぇ。ただ彼の望む展開かはわからないよ。僕達は雲雀君みたいに拘りがあるわけじゃないからね」
「一緒に戦うってことか?」
「そうなるだろうね」
「サクラには負担をかけちまうけどな」
この会話をヒソカに聞かれる可能性も考えて話している気がする。現に私の確認した意味も理解し、彼らは言葉をうまく隠して肯定した。
「それより狩る者の確認しよーぜ」
これ以上はここで話すべきじゃないので、ディーノが話を変えた。私も兄もそう思うのでカードを取り出す。
「せーの」
ディーノの掛け声と共に見せ合う。引いた番号が番号なので私のカードに注目を集める。
「ああ。それで僕に声をかけたんだね」
「ん? なんかあったのか?」
「クジを引いた順番を覚えてほしいと頼まれていたのだよ」
「……なるほど。そういうことか」
回避出来るのが一番だったが、出来なければ出来ないでヒントを得れるのだ。
「でもやっぱりごめん」
「こればっかりは仕方ねーだろ」
ディーノはそう言って笑いながら私の頭を撫でた。それでも私が引いた408と書かれた番号をみて溜息が出る。
「良いように考えようぜ。サクラのおかげで守りやすくなったんだ」
「そうだとも。それに奪われない限り、1人は最終試験に残れるのが確定したのだよ?」
「ああ。なんなら、今渡してもいいぜ」
「いらない。もらっても取られる。それに私が残るのは微妙だろ」
ディーノを狩る者がいないとわかったのは確かに大きし、兄の言い分もわかる。だが、それは私じゃない方が良かった。キルアが人を殺すところを見るとかトラウマでしかないし、私のことを抜きにしても兄は防ぎたいと考えているはずだ。
「心配しなくても僕らは狩るさ」
「だな。サクラは体調を崩さねーことだけ考えてろ」
「……ん」
返事をしたが、まだ私がしょんぼりしていることに気付いた兄とディーノは私の頭を撫でまくった。もちろん髪がぐしゃぐしゃにされた私は切れた。
2時間たっても未だに機嫌が直らなかった私は、ゼビル島に上陸する兄達を適当に見送った。私は14番目だったので兄達から約20分ぐらい差がある。エリザベスとフミ子とスクーデリアが居るので大丈夫だと思うが、一応言い付け通りレオリオの元へ行く。
「レオリオ」
「ん? ……なんだ?」
いつもと違って少し警戒しているのは試験内容からして仕方がないことだろう。
「その、ちゃんと礼を言ってなかったから」
「気にすんな。当然のことをしたまでだ」
「んーん。3次試験中ならまだしも、これからも試験が続くのがわかってるのに、気遣えるのはなかなか出来ないことだ。ありがとう」
「そうか……」
ちょっとテレたらしくレオリオはこめかみをかいた。そんな彼に面倒を押し付ける。
「兄達もそう感じたのか、この待機中は君の側から離れるなと言われている」
「は? まぁ別にいいけどよ……」
ツナもだが、人が良すぎるのは大変だな。
「ん。ちなみに私のターゲット」
ポイっと札を投げれば、レオリオが番号に驚いたのか思いっきり叫んだ。試験のことはあるが、レオリオの声にゴンとクラピカが寄ってくる。キルアは気にしてそうにこっちを見ているが、私と目が合うと露骨に視線を逸らした。私が思うのもアレだが、素直じゃない。
「……見せていいのか?」
「いいぞ」
私のターゲットを知って「これはまた……」とクラピカが呟いた。
「サクラは……どうするの?」
「特に。ディーノは笑っていたし」
「見せたのか!?」
当然のように頷けば、クラピカとレオリオは言葉を失ったようだ。ゴンは苦笑いしていた。
「まさか、彼は譲る気なのか?」
「私よりディーノが残った方がいいから、今のところなしってことになった」
「……状況によっては手を組むことも視野に入れていたが、手を組むのが当たり前だとは考えていなかったな……」
クラピカは切り替えるように頭を振った。マネ出来ることではないと思ったのだろう。私もオススメはしない。
「とりあえず私を連れてきてくれた君達を積極的に狩る気はないらしいから、見かけたら声をかけてきてもいいぞ。食事と情報提供ぐらいはする、兄が」
「……そうか」
レオリオがぐったりしているのは気のせいだろうか。まだ始まっていないが大丈夫なのか?
「情報提供?」
「兄はハイスペックだからな。記憶力も凄いんだ。全員の顔と番号が一致している」
「なにぃ!?」
「兄に狙われた人は御愁傷様としか言えない」
ヒソカ並みの強さだと薄々感じている彼らは私の言葉を否定しなかった。……マジで御愁傷様。
結局、そのまま私達は出発前まで話していた。他の受験生の視線は感じていたが無視だ、無視。ゴンとキルアが出たので、私の番になったので声をかける。
「世話になった」
「いいってことよ。リラックス出来た」
「レオリオの言う通りだ。始まる前から警戒し過ぎるのは体力が持たなかかったかもしれない」
「そうか。……クラピカは大丈夫そうだが、レオリオは気をつけろよ」
ムッとしたような反応を返したので、私は軽く違うと手を振る。
「騙し合いに向いていないから、この試験に不利だと思っただけ。君は親切すぎる」
「……気をつける」
「ん。最終試験に私が居なくても兄達は居ると思うから、その時はよろしく」
そう言って島へ足を踏み入れた途端、ディーノが私の横に立った。船の方でざわざわしているが予定通りである。
「サクラ、悪い。横向きに乗ってくれ」
ディーノの言葉に眉間に皺が寄った。彼は私の態度に気にした風もなくスクーデリアに跨り、私の腰を抱き寄せて乗せた。
「はぁ」
態とらしく大きな溜息を吐いてからディーノに抱きつき、背中に手をまわす。フミ子は私を支えるように腰を掴んでいた。
「しっかり掴まってろよ」
よっ!という掛け声と共にスクーデリアが駆け出す。木が生い茂ってるにも関わらず、猛スピードで景色が流れていった。
私の限界がきたと察したのか、ディーノは徐々にスピードを緩めて止まった。
「まいったな……」
ディーノの呟きが気になったが、私の足腰はそれどころじゃなかったのでスルーする。これ以上、スクーデリアに乗るのも厳しいとわかったのか、ディーノは降りて私を抱き上げた。
「すまん、無理させた」
意味もなく実行しないとわかっているので、なんとか大丈夫と口にする。ただ理由は気になるので視線で催促する。
「ハンター試験側が用意した試験官の中に1人飛び抜けた奴が居たんだ。……サクラについてるみてーだ」
「スクーデリアでも撒けなかったのか」
「ああ」
二人乗りしているのもあるだろうが、大空の推進力より上なのか。本当に厄介な世界である。
「でもこれ発信器ついてなかったか?」
「それはそうだけどよ。サクラだって水浴びしたいだろ?」
「よし、ディーノ。やれ」
私が許可する!
「……対策は取るつもりだから落ち着けって。まずは桂との合流地点に向かうぜ」
それならば許してあげよう。とりあえず私の足腰は小鹿状態なので、目立つスクーデリアは戻ってもらい、抱っこのまま移動したのだった。
ちなみにスクーデリアより、ディーノさんがオーラを駆使して走った方が速いです。ただ移動にオーラを消費するので、後々のことを考えるとスクーデリアで移動した方がいいです。
後、島の中でというルールがスクーデリアに不利過ぎでした。