最終試験のトーナメントが発表され、どういうことだとネテロ会長を睨みつける。
「じいさん、サクラが抜けてるぜ?」
ディーノの言う通り、トーナメント表の中に私が居ないのだ。
「サクラくんはワシの一存でハンター試験合格じゃ」
私の呆れた「は?」という声はレオリオ達の声でかき消された。
「サクラの素晴らしさを理解してもらえたのは喜ばしいよ。でもサクラの立場を考えてほしいものだね」
「ん。余計な恨みは買いたくない」
私も不本意だと示す。スクーデリア達のおかげで楽して合格し、恨みを買うのは当然だと納得している。しかしこのパターンでは割り切れない。
「おぬしらの言い分もわかっておる。しかしじゃ、ワシが無理を通しても合格にしたい理由も、おぬしらが一番わかっておるじゃろ。なんなら、ここでワシが説明しようか?」
気付いた時には私を守るように兄とディーノが立っていた。
「人が悪いぜ、じいさん」
「ふぉっふぉ」
具体的な内容は掴まれていないだろうが、これからのことを考えると私達はこの提案を飲むしかない。が、ムカつくことには変わりない。
「合格してもらったんだ、私からは文句はない。観音様に感謝こめて祈りたいぐらいだ」
ヒクッと引きつらせた顔を見て、少し満足した私は後処理を兄達に丸投げする。ちなみに兄は流石僕の妹だと偉そうにし、ディーノはまた余計なことを言ったとわかったのか溜息を吐いていた。
私達のやりとりで、何度か一緒に行動したゴン達も心当たりあったのか文句は言わなくなった。念をつかえるイルミとヒソカは言わずもがな。
「ちょっと待て!? いいのかよ!?」
その結果、接点がなかったハンゾーだけが納得いかないらしく叫んでいた。
「いいよ。だってサクラが合格したからってオレ達が不合格になる訳じゃないんでしょ?」
「ふむ、その通りじゃ」
子どものゴンが言ったからなのか、ネテロ会長が断言したからなのか、ハンゾーはうがー!と叫んだ後、文句は言わなくなった。大人である。私ならずっと文句を言い続けるだろうな。
流れが変わったのみて、ネテロ会長が最終試験の説明をし始める。ここは原作通りだったので、不合格者は1人だけと聞いて尚更文句を言えない空気になる。……性格が悪い。
私にはもう関係はないが、トーナメント表をじっくり見る。……これは酷いな。キルアがゴンより劣ってることを気にしているが、そんなことは些細なことだ。
ネテロ会長め、念能力者同士をわざと当てたな。兄はヒソカと、ディーノはイルミと対戦するじゃないか。いやまぁ、念を覚えてないものにチャンスを与えたくなる気持ちもわからなくないが。
ボードには『発』は禁止とデカデカと念で書いているが、どうなることやら。
第1試合であるハンゾー対ゴンが始まったが、時間がかかるのでこの後の展開を予想する。
この試合はハンゾーが負けを認めるだろう。ハンゾーが次に進むとクラピカと戦う。これに負けた方は兄かヒソカと戦う羽目になる。どっちも必死になると思うから正直勝敗は読めない。いやまぁ私の勘はハンゾーの勝利だけど。
隣のブロックの初戦はキルア対レオリオ。実力から見るとキルアが勝つが、レオリオに譲るかもしれないな。ただ負けた方はディーノとギタラクルのどちらかと戦うことになるのだから、調子に乗るかはわからない。一応、ギタラクルはヤバイと助言したし大丈夫と思っておこう。……おい、勘ではレオリオの勝ちと出たぞ!?
仕方なく、試合の順番を予測する。もしキルアが暴走するとしたら順番から考えて、クラピカとハンゾーの対決の敗者と、兄とヒソカとの対決の敗者との戦いの時だろう。だから兄は恐らくヒソカとの戦いを棄権する。
しかし一番良いのはキルアが暴走しないことだ。つまりディーノに負けてもらい、ギタラクルをトーナメントに進めなければいいのだ。その後は上手く調整し、兄とディーノならキルアを落とすことだって可能だろう。最悪、兄が落ちればいい。
「ディーノ」
「別室に行くか?」
ディーノはゴンとハンゾーの試合を難しい顔で見ていたが、私が声をかければいつもの雰囲気に戻った。
「なんで?」
「……まっそうだよな」
ハンゾーは一切ルールを破っていないし。死なせないルールでの試合なのだから、ビビる内容じゃない。ディーノも同意見なのか、難しい顔をしても止める気配はなかった。
「お前らゴンが心配じゃねーのか!?」
「どっちかというとハンゾーの方が心配」
私の言葉にレオリオとクラピカが驚き、ハンゾーもこっちを向いた。
「悪い、余計なことを言った」
勝負の邪魔をする気はなかったと頭をさげる。が、説明しろという視線が刺さり続ける。仕方なく、ネテロ会長に視線を向ければ頷いたので口を開く。
「ディーノ、ゴンって雲雀恭弥ぐらい頑固だよな?」
「そうだなー。ぜってぇ負けを認めねぇところなんかはそっくりだぜ。それがどうかしたのか?」
「例えば君がどうしても雲雀恭弥に負けを認めさせなければならない時はどうする?」
私の問いにディーノは悩んでそうだ。
「あいつは死んでもオレにまいったなんて言わねーぜ? 口に出すぐらいなら死ぬ方を選ぶだろ。どうしてもなのか?」
「どうしても」
「……なら、制限時間でもつけてオレを倒せなかったら恭弥の負けってルールを納得させて新たに作るしかない。まっあいつはゴンと違って、そのルールを聞かなかったことにするかもしれねーが……」
「それは君にだけだと思うけど。彼は納得したルールは守る男だから」
ディーノに教えれば、遠い目をしていた。ドンマイ。
「君の敗因はゴンが頑固と気付いていながら、先に2人でルール決めしなかったこと。後は……人質でも作ってゴンを脅せないほど人が良いことだ」
ハンゾーがなぜかポカーンとしているので首をかしげる。
「サクラ! お前、変わってるが、悪い奴じゃねーと思ってたのに、人質だと!? 考えが極悪人だぜ!?」
「……人質とかふつーだよな?」
「サクラは脅されることが多いからねぇ……。すまない、僕の力が足りないばかりに!」
「いや、オレのせいだ。オレがもっと強けりゃ……!」
同意を求めれば、不思議なことに兄とディーノが大ダメージをうけていた。
「その、元気出せ。私が捕まったせいで2人とも身動き出来なくなったこともあるだろ? お互い様だ」
なぜか2人が再びダメージを受けたらしく、兄は目頭を押さえるし、ディーノに力強く抱きしめらる。見兼ねたフミ子とエリザベスがそれぞれの主を殴るまで2人は正気に戻らなかった。
すまん。シリアスはどこか消えてしまった。
「……ゴン、ルール決めしねーか?」
「いやだ」
べーと舌を出したゴンを見て、ハンゾーは頭を抱えることに。流石のゴンも私の話を聞いた後に、そんな提案に乗ることはなかったようだ。
完全に立場が逆転したと気付いたハンゾーはゴンを殴って気絶させた後に「まいった」と言ったのだった。……ハンゾー、大人気ないぞ。
第2試合は兄とヒソカの勝負である。私の予想を外し、兄はすぐに降参しなかった。
「少し付き合うよ」
「少し? つれないこと言うね♣︎」
どうやらヒソカのために戦うことにしたらしい。よくよく考えれば、すぐに降参すれば私に恨みが向かう可能性があるからか。
「お兄ちゃん、頑張れー」
「もちろんだとも!」
兄が返事し終わったのが合図になったのか、ヒソカが動いた。しかし残念。凡人の私の動体視力ではよく見えない。真実の目という素晴らしい目を持っているはずなのに、残念すぎる。
「桂の奴、遊んでるな……」
「そうなのか?」
「ああ。アレの修行のつもりなんだろ」
アレというのは念のことだろう。その割にはヒソカは楽しそうに笑っているけど。ちなみにかなり怪しい笑い声なのでドン引きするものが多数である。私はキャラの濃い暗殺集団を知っているからか何とも思わなかったが。
しばらく手合わせしていたようだが、どうやらヒソカは物足りなくなったらしい。まぁ発も殺しも禁止だからな。
「とても楽しい時間だったけど、キミとは違った形で戦いたいな♦︎」
「お断りさせてもらうよ」
「残念♠︎」
「まいったよ、僕の負けさ」
ヒソカは文句を言うこともなく、兄の降参を受け入れた。兄が負けるつもりなのを察していたからだろう。兄のことだから攻撃は仕掛けなかったと思うし。
急なことでちょっと変な空気になったが、ブロックがうつり第3試合のキルア対レオリオが始まる。が、早々にキルアが「まいった」と言った。……機会があれば、殴ろう。今決めた。
仕方ないので私はディーノに負けるように頼まないと。ちょっと忘れかけていたけど、セーフだろう。ちょいちょいと手で耳を貸せと指示を出す。良くあることなので察したディーノは屈んだ。
「降参してほしい」
真意を掴むためにディーノは私の顔をジッと見つめた。しばらくすると任せろというようにディーノは私の頭を撫でた。これで安心だと息を吐いた時、カタコトの「まいった」という声が聞こえてきた。
「ちょっと待て!? まだ始まってないだろ!?」
慌てて私がストップをかける。何言ってんだ?という視線は無視だ。私はキルアとイルミを戦わせたくないのだ。
「しかしのぉ、本人による申告じゃからのぉ」
思わずネテロ会長向かって舌打ちする。ディーノが受かったのに全く喜べない。
「じいさん、オレも『まいった』と言えば、どうなるんだ?」
「早い者勝ちじゃ。おぬしはもう合格済みで取り消すことはできん」
本当に失敗した。試合前に申告する可能性を考えてなかった。……最終試験に参加出来ていれば、ルール説明後すぐに私が落ちれば良かったのに。
私達の中で残るは兄だけだ。兄に視線を投げかけると、僅かに首を横に振った。十中八九、私の安全を優先させたからだろう。この場合だと、兄は頑固だ。
ハンゾーじゃないが、叫びたくて仕方がない。ディーノがすまなさそうに私を見ているが、彼は一切悪くない。私がさっさと伝えていれば、ディーノは先に手を打っていたはずだ。私の考えが甘かったのだ。
私が反省している間にハンゾー対クラピカが始まった。ハンゾーがルール決めを提案していたので、完全にルールに振り回されているようだ。クラピカも人が良いのか、ハンゾーを嫌いになれなかったのか、ちょっと笑ってからその提案にのんでいた。
……この後の展開を考えると、なんて心温まる試合なんだろうと私は思わず目頭を押さえた。
サクラはやりすぎた。
ハンゾーは口車にのせられやすいタイプ。