方向を決め移動し始めてすぐにディーノはフミ子をだした。まぁ妥当な判断である。フミ子は兄がディーノに譲ったパンダの匣兵器だ。いろいろあって今は匣ではなく、リングの形をしているが、そこはまぁいいだろう。大きさは私が抱き上げれるぐらい。
元々、フミ子は治療タイプの晴の匣兵器だった。それを10年後の兄が、ディーノが持つ大空属性の炎で注入しても、晴の性質である活性の力を持った状態で出てくるように改造した。フミ子の炎を浴びれば怪我は治るが、効果が高ければ高いほど眠くなるので、そこだけは注意していれば使い勝手のいい匣兵器だ。
余談だがフミ子の形態変化はぶっ飛んでいる。フミ子が形態変化すると2つのリングになり、はめた人物の命を支えることが出来るのだ。
簡単に説明すると、生命エネルギーが移動することが出来る。例えば片方が即死するような大怪我を負っても、もう片方の生命エネルギーが尽きる前に、命の危機を乗り越えれれば助かる。ただし、治療が間に合わなかったら2人とも死ぬ。そして厄介なのが、フミ子を通して生命エネルギーを移動しているのでフミ子の好感度が高くなければ、リングをはめても発動しない。今のところ発動するのは私とディーノと兄だけ。これは好感度順。
ちょっと考えるだけで形態変化は使いにくいとわかるので、ディーノも滅多に使用しない。私が死ぬと確信した時に使われた。つらい。……まぁ形態変化が出来るように改造したのは私だけどな。
死にかけた時のことを思い出して遠い目をしていたが、そろそろ文句を言うか。
「フミ子、あついし重い」
「パフォ!?」
相変わらずフミ子は私を好きすぎる。元々は兄の匣兵器なのでも仕方がないかもしれないが、今の主人であるディーノを放置するのはどうかと思う。……最初からか。私だと素直に出てくるのに、ディーノの呼びかけだと出てくるとは限らないし。
「フミ子、形態変化してくれねーか?」
「はぁ!? フミ子、ストップ! 抱きついていいぞ!」
「パフォ!!」
ふっ、勝った。ディーノが支えているから手を離しても大丈夫だし、ご褒美に撫でてあげよう。もふもふ。
「説明」
「エリザベスの形態変化がとけてるみてーだからな」
ディーノに言われて慌てて指を確認する。いつもある場所にリングがなかった。
「え? なんで?」
エリザベスはパンダで治療タイプの匣兵器だ。つまりフミ子とほとんど一緒。違うところはフミ子みたいにディーノが使えないことと、形態変化がさらにぶっ飛んでいるぐらいである。強いて言えば、あとはメスとオスぐらい。
エリザベスの形態変化もフミ子と一緒で、2つのリングになる。が、片方は兄と決まっている。生命エネルギーを移動させるだけならまだ可愛らしいもので、エリザベスは対になるリングをはめた人物の怪我や病気など、全て兄が肩代わりするからだ。兄の身体に晴の活性の炎が大量に流れているから出来る裏技みたいなもの。改造したのは10年後の兄。
よく私がつけていて、このおかげで助かったことがある。例をあげると、喉を潰されてもこのおかげですぐに治った。……血の味を思い出してしまった。うぇっ。
気を取り直して。
裏技みたいなものだが、やはり欠点はある。まずすぐ治るが怪我をした時に血は出るので、出血多量で死ぬ可能性があるのだ。まぁ喉を潰された時でも噴き出すほど出なかったからフミ子の上位互換なのは間違いない。
後は兄のおかげで何でも治るので、抵抗力がさがっていく。リングをはめた生活に慣れてしまうと外した時が危険なのだ。私につける想定で改造したものじゃないので、この欠点は仕方がない。
だから外していた日もあったが、あの時はつけていたはずだ。
「多分、あの空間で解除されたんだ。あの中じゃスクーデリアが出せなかったからな」
「……ああ。それもあって二択を聞いたのか」
あの空間では無理でも、今から行く世界では使える可能性があったし、使えないとわかっていたなら、違う対策をすぐに立て始めれるからな。よくよく考えると死ぬ気の炎が使えれば、植物使いでもある兄があの空間で何もしないわけがなかった。
「無いなら無いでいい」
それより問題はあの空間でエリザベスの形態変化が解除されてしまったなら、兄は私達がこの世界に来ていることもわかってないかもしれない。魂が繋がっていると言っても、場所がわかるとかじゃないし、まいったな。
「フミ子、形態変化だ」
抱いていた感触が消えた。すぐに怒鳴りたかったが、私は至って普通の身体能力の持ち主で、急に腕の中にいたパンダが消えればバランスを崩すのは当然のことで……。
「わっ!?」
「……す、すまん」
ディーノがすぐに支えたので事なきを得たが、思いっきり睨んでしまったのは仕方がないと思う。今空中に居るんだぞ。落ちたらどうするんだ。
「はぁ。ディーノのおかげで無事だったし、それはいい。でもフミ子の形態変化については反対」
「だが、これがねーとお前は……」
「兄が大丈夫と判断した時は外していた。そこまで抵抗力は落ちてない。ディーノよりは低いだろうが、それは元々だ。それと……フミ子の治療能力が使えくなれば厳しくなるのは君の方がわかっているだろ」
フミ子はエリザベスと違って生命エネルギーを移動するだけで治療しているわけじゃない。それに私がもつ生命エネルギーの量だと、ディーノの生命維持を出来るとは思えない。共倒れするだけだ。本当にフミ子の形態変化は使い勝手が悪いのだ。
「……そうだな、フミ子」
「パフォ」
流石、フミ子だ。私の残念さを知っているので、形態変化をといてすぐに乗りかかってくることはなかった。まぁすぐに寄ってくるけどな。もふもふ。
「スクーデリア、重いけど頑張ってくれ」
任せろというように、こっちに視線を向けてから頷いた。スクーデリアにも好かれてるし、意外と私はハンターに向いてるのかもしれない。
そんな冗談を頭の中で考えていると、メスだからなのか、フミ子はショックを受けていた。……フミ子より、私の方が重いから。
ちょっとほのぼの出来たので、理解しているのに未だ葛藤してそうなディーノに声をかける。
「いったい、何が引っかかってるんだ。君らしくもない」
本当にディーノらしくない。この特殊な状況でも彼は安心させるように動くはずだ。実際、さっきまではそうだった。
「オレらしく、か……。サクラ」
「ん。なに?」
「好きだ」
フミ子を撫でる手が止まる。しかしそれは数秒のことで、私はゆっくりとディーノに視線を向けてから口を開いた。
「断る。だから諦めろ」
これ以上、彼の顔を見れなかったのでフミ子へと視線を戻し、再び撫で始める。
「……そういうことかよ」
ディーノの顔を見れないと思っていたのに、聞こえてきた言葉の意味が気になり顔を上げる。
「サクラの気持ちはわかった」
「それは良かった」
わかってくれたならいいと視線を再びフミ子に戻すと、いつものように頭を撫でられた。……今、フったばかりだよな?
「そこは距離を置くところじゃ?」
「今まで通りの方がいいだろ?」
そりゃまぁ、運命共同体というような状況だからな。ギクシャクしている間にあっけなく死ぬかもしれないし。
「でも今君は傷心中だろ?」
「ん? お前の気持ちはわかったとは言ったが、諦めるなんてオレは一言も言ってないぜ?」
「……はぁ!?」
やっぱわかってなかったかと呟かれたが、そこは諦めるところだと私は思うぞ。
「気になるか?」
「当然」
意識するなという方が無理だ。ディーノの性格上、無理矢理襲ったりしないのはわかっているため、その点は安心している。だが、諦めてほしいと思っているのに、頼らなければならない状況なのだ。やりにくすぎる。
「なら、オレの気持ちを利用する気でいればいい。ずっと前から好きだったんだ。サクラがオレに靡かなければ、今までとそう変わらない」
「……君がつらい思いする未来しか想像出来ないんだが」
「大丈夫だ。ハナから長期戦だったしな」
それならなぜこの状況で告白したんだ。思わずツッコミたくなったが、嫌な予感しかしなかったので言葉をかえる。
「これが所謂世間でいう、ストーカー予備軍か」
「せめて諦めの悪い男と言ってくれ……」
ガクッと項垂れショックを受けたようたが、私の頭を撫でる手を止めないのだからアウトだと思うぞ。
ひと段落?したので移動しながらディーノにマンガの内容を教えた。拙い説明だったが、なんとか伝わったようだ。
「つまり桂はあの島について、カードで飛ばされたのか」
「そう。確認するのもアリだったけど、バラバラに飛ばされるから怖くて出来なかった」
「まっ正解だぜ。オレ達もバラバラになったら、それこそ終わりだった」
主に私が。
「サクラのいう通り念っていうのを覚えるしかねーな。向こうの世界と比べて身体能力の差がありすぎる。鍛えるつもりだが、鍛え上げたとしても念を使えなきゃ負けちまう」
「ん。多分兄もそうしていると思う」
「無理矢理起こすのが手っ取り早いがそうは行かねーし、まずは安全な場所の確保しねーとな」
しっかりと頷く。安全な場所を探さないと私が死ぬ。
「で、どうやって稼ぐんだ?」
「天空闘技場」
「主人公が鍛えて、念を覚えた場所だったか? オレも出て稼げばいいんだな、任せろっ」
「君はバカか」
つい本気で言ってしまった。
「200階以上に行けば全員念能力者で、念の闘いになるとは確かに言った。言ったが、それ以下の階層で念能力者と出会わないとは言ってないぞ」
「わーってる。でもフミ子がいるから何とかなるだろ?」
「即死の傷だったらどうするつもりなんだ。ディーノが居なければ、人さらいに合うか、死ぬ未来しか見えない。まぁ兄と会うまでは粘るつもりだから、その時は身体を売るしかないぞ……」
威張っていうが、私はディーノが居なければすぐに死んでしまう自信がある。それに身体を売ると言ったが、そういう方法があると知っているだけで具体的な内容を私は全く知らない。兄がまだ知らなくていいと言って教えてくれなかったから。
「ダメだ! 絶対にダメだからな!!」
「……私も嫌だから安全策を提案している」
「…………すまん」
やれやれと息を吐き、再び口を開く。
「闘技場という言葉で、思いつくのがあるだろ」
「賭け、か?」
「大正解。最初は拾った小銭から始まるだろうが、すぐに何とかなりそうな気がするだろ?」
「稼ぎ過ぎねーように気をつけねぇとな」
この世界のことがわからないだけで、やはりディーノは頭がいいな。稼ぎ過ぎないのは私も同意見だ。戸籍がないから預けることも出来ないし、荒稼ぎして目をつけられる確率は下げたい。バレてしまえば、誘拐フラグがたつ。それぐらい私の能力はヤバイとわかっている。だからもしディーノが居なければ、身体を売るしかないのだ。兄が私を救出しやすい方が、身体を売る方という理由もあるが。……どっちにしろ、血の雨が降りそうだな。
「ディーノが念を覚えれたら、ハンター試験を受ける流れ。時期によっては天空闘技場で稼ぐかもしれないけど。どう?」
「ああ。桂も受ける可能性は高いし、戸籍はほしいぜ。会えなくても資格があれば、ハンターサイトで調べることが出来るからな。それに天空闘技場で有名になれば桂が見つけやすくなる」
「じゃ決まりだな」
方針が決まったので、それに向けて私たちは動き出したのだった。