ゴン達と会話していると出口が見えてきた。外に出るとサトツの足が止まったので私達も止まる。ヒソカに絡みまくっていた兄も私達と合流した。
「お兄ちゃん、ここからは危なさそうだからさ。覚悟が出来てなさそうな人は置いてきた方が良くない?」
「それもそうだねぇ」
周りの人は何言ってんだという視線を向けているが無視だ。
「覚悟がないものはトンネルの中に戻りたまえ!!」
兄が叫ぶと、50人ぐらいが戻っていった。相変わらず異様な光景だ。そう思ったのは私だけじゃなかったらしく、兄を警戒する人が続出した。
ヒソカが嬉しそうに兄を見て笑っているが、まぁ大丈夫だろう。
「サクラ、兄貴は何をしたんだ?」
こっそりレオリオが私に耳打ちしてきたので、隠すことなく普段の声量で答える。
「人を操ってるように見えるだろ? でも違うんだ。兄は異様に注目されやすい体質なだけ。兄が声をかけるだけで人が動くのは地元じゃよく見る光景だぞ」
「マジかよ……」
「オレ達の故郷だとそういう体質持ちは稀にいるんだ」
「ん。私も変わった体質持ちだし」
ギョッとしたようにレオリオが私を見るので、兄ほどではないと軽く答える。
「僕からすれば、サクラの方が凄いと思うよ!」
「……オレからすれば、体質持ちなだけでやべーからな」
ディーノの呟きに、思わずジト目になる。究極のボス体質持ちに言われたくない。それに念能力だってその延長上だろ。
私達が黙るまで待ったからなのか、観察し終わったからなのかはわからないが、サトツが説明し始めた。途中でニセ試験管が出たところで、パフォとフミ子が鳴いた。そこから記憶はない。
「ん……」
目を開けると建物が見え、状況を察した。フミ子に眠らされたらしい。相変わらず過保護である。
「お兄ちゃんが運んでくれたの?」
「そうだとも!」
「ああ、本当だ」
ディーノも同意したならウソではないようだ。兄のことだから、無茶したかもしれないと思っていたのでホッと息を吐く。
「覚悟がある者だけだったからね。僕もディーノも手出しはしないさ」
「そ、っか……」
私が助けてあげてと頼む可能性の方が高かったのかもしれないな……。そう考えるとフミ子の判断は正しい。私が一番『死』に慣れていないのだから、わかっていたのに混乱しただろうし。
お姫様抱っこ状態だったので、兄に頼んでおろしてもらいフミ子を探す。スクーデリアの後ろに隠れていた。
「フミ子、怒ってないぞ」
私の顔色を伺いながらも、フミ子は少しずつ寄ってくる。なので、手を広げてあげると勢いよく飛びついてきた。……ちょっと痛かった。
フミ子は勝手にブラさがるので放置し、スクーデリアを褒める予定だったので、鼻筋を撫でる。
私がスクーデリアをナデナデしていると、扉が開いた。二次試験が開始のようだ。豚の丸焼きが食べたい、か。
「……丸焼きって美味しいのか?」
「好きな人は好きだと思うよ」
好みの問題かと考えながら、行ってこいと兄達に指示を出す。私が心配かもしれないが、早い者勝ちなのでさっさと行った方がいい。スクーデリアに乗ってついて行ってもいいが、襲われている受験者を見てしまうだろう。エリザベスの形態変化をつけれればいいのだが、手袋を外せないからな。外せなくはないが、リスクから考えるとこのままの方がいい。
「じゃ、私は火の準備してるから」
私の分はフミ子が持ってきてくれるので、2人と1頭?を送り出す。フミ子に頼んだのは2人に任せて文句をつけられると困るから。護衛としてスクーデリアが残ってくれているので大丈夫だろう。嫌な予感はしない。問題のヒソカとイルミも取りに行ってるし。
心配そうにディーノが何度か振り向いたので、しっしっと手を振った。君のスクーデリアは私を咥えて逃げるぐらい出来るぞ。というか、心配するなら早く戻って来い。
2人と別れた私は安全を優先し建物から離れない位置で落ち葉や枝をせっせと拾う。スクーデリアに持ってもらってる荷物の中からライターを出す。その時にレオリオの鞄がないことに気付いたが、兄かディーノが返したのだろうと気にするのをやめた。あの2人から盗むなんて自殺行為だし。
そこそこいい感じに火が大きくなったと思ったら、兄達とゴン達が見えた。兄とディーノが誘ったのだろう。向こうで火種を起こすより私の火を分けた方が楽だからな。
「パフォ!」
「流石フミ子。小さいのに相変わらず凄いな」
褒めて褒めてというようにフミ子が見てくるので、もふもふした。
「……普段もこれぐらい謙虚ならいいのにな」
「パフォ!?」
おっと、つい本音が出てしまったようだ。フミ子と私がふざけている間に兄とディーノがセットして私の分の豚も焼いていた。いい匂いでお腹が減ってきたな。……まぁ匂いのせいで物凄いお腹の音を鳴らしている人物が近くにいるので、食べる気はしないが。
焼きあがった豚は再びフミ子が運んでくれたので、私も合格した。ちなみに第一号である。他の受験者より効率よく準備していたし、ゴン達は私達より後にすると譲り、兄とディーノはレディファーストなので、当然の結果でもある。
「70人か」
豚の丸焼きの合格者人数が多いのか少ないか、詳しく覚えてない私にはわからない。そのため、兄に視線を向ける。
「まずまずの人数だね!」
多いとも少ないとも言わなかった。つまりマンガと同じ人数なのだろう。食べれる量は変わらないので、私達が居ても一緒になったのか。
私が1人納得しているとメンチから課題が発表された。当然メニューはスシだ。ヒントは建物の中にあるというので移動しようとすれば、メンチに407番と止められた。
「美食ハンターとして、衛生上の理由から動物を中に入れるのは禁止よ!」
「ああ。それもそうか、すまない」
スクーデリアから荷物を外すと、フミ子と同時に消えた。流石ディーノ、タイミングがばっちりである。ちなみに荷物はすぐに兄に渡した。だって重いし。
しかしまぁ観察されているな、念能力者に。オーラ量の変化を見ていたのだろう。しかし死ぬ気の炎の影響でオーラが変わるのは微々たる量しかない。流石に一度に使いすぎると変化はするが、そのラインは検証済みである。私達に抜かりはないのだ。
何事もなかったように私達は建物に入っていく。ディーノは道具を見て、自身が知っているスシと一緒だと察したようだ。
スタートの合図があったが、誰も動こうとしない。兄は包丁を見て、素晴らしいね!と喜んでいた。
「サクラ、お前は作れるのか?」
「ふっ、ナメてもらったら困る。私は食べる専門だ」
ディーノの発言で聞き耳を立てていた者達がずっこけた。ノリがいいな。そこにレオリオの「魚ァ!?」発言である。みんな一斉に外へ向かった。
「行かねーのか?」
「この試験が受かるのは兄ぐらいだろ。彼女を唸らせる程の腕は私達にはない」
「職人技だしなー。桂、サクラのことはオレに任せて行ってきていいぜ」
ディーノには二次試験は料理と教えたが、流れは教えてないからな。兄に声をかけるのは当然か。考えた末、私は沈黙を貫く。が、お腹は鳴った。
「任せたまえ! サクラのためにとびっきり美味しいスシを用意するよ!」
「メンチにも用意しろよ!?」
颯爽と駆け出した兄にディーノのツッコミが届いたのかは微妙なところだ。
ヤル気のない私は建物の端に座る。ディーノは警戒のためか立ったままだ。
「あんた達、失格にするわよ」
「……握り寿司はシャリの量や握り加減による空気の含み具合、後は握る回数か。それで味が変わる。魚も包丁の入れ方でも味が変わるって聞くぞ。素人の私達には難易度が高すぎる」
料理マンガとは別で寿司マンガがあるぐらいだぞ。その時点で奥が深い。包丁をまともに握ったことがない私が作れるわけがない。
「へぇ。よく知っているから作らないのね。でも試す気もないのもどうかと思うわ、これはハンター試験よ!」
「……ヒントがあるし、観察力や注意力を見る試験でもあるんだろ? 作り方を初めから知ってる者が入れば、困るのは君だと思うが」
「メンチはオレと違ってあんまり食べれないからなー」
「う、うるさいわよ! ……まったく、口の減らないガキね!」
試験官と会話し終わると、受験生達がチラチラと帰ってきた。ディーノが彼らが持ってる魚の種類を見て、まじかよ……と引いていた。残念、まだ序の口だぞ。
ゴン達のあまりに酷い寿司を見たメンチは私とディーノに視線を送ってきた。普段なら無視するのだが、ちょっとだけ手助けする。
「お兄ちゃん、遅いな……」
無駄に耳がいい兄なら、これで戻ってくるだろう。
「すまない、サクラ。待たせたね!」
「ん」
兄に返事しながら、私は頭の近くにあるディーノの手に視線を送る。……君も引っかかるな。
「サクラ、出来たよ!」
「ん。相変わらず早いな」
兄の手にはこれが握り寿司だ!と断言できる物があった。生半可な者では作ってる過程は見えなかっただろうが、完成図はわかったので何とかなるだろう。
「いただきます」
パクッと一口で食べる。兄は私の口のサイズに合わせて調理するので食べやすいのだ。もちろん味は一級品。うまうま。
「致命的なミスを犯したな! お前以外にもスシを作れる奴はいるんだ!!」
……ハンゾー死んだかもな。兄の手捌きが見えたヒソカとイルミも作り上げて並んでいるぞ。まぁ私は口を動かすのに必死なので自力で頑張れ。
「サクラ、あまり詰め込みすぎて喉詰まらせるなよ?」
「んんーん」
「ったく」
「ディーノにも恵んであげよう。サクラ1人じゃ食べきれないだろうしね」
「おっ、サンキュー」
うまうまと食べているとメンチが「終わりよ!」と告げた。どうやらお腹がいっぱいになったらしい。
「45番、持ってきなさい。まだ一皿ぐらいなら食べれるわ」
「ふざけるな!」
「うるさいわね! 明らかに一級品と言われる物が目の前にあるのに、あなた達のもちゃんと食べて審査したのよ! 試験官としての責務を私は果たしたわ! 45番、持ってきなさい!」
「僕に言わないでくれたまえ。僕が自信を持って作った寿司は全てサクラにあげたからね」
「ん?」
夢中で寿司を食べていると、いつの間にか視線が集まっていた。
「サクラ。彼女も食べたいって言ってるのだけど、どうする? ここにあるものしかないのだよ」
「そっちにいっぱいあるだろ。これは私のだ」
あげないという風に寿司を身体で隠すと、周りがざわついた。なぜだ。
「あー、サクラ。一個だけだ、な?」
「……ひとつだけだぞ」
ディーノが渡した方がいいとアドバイスしたので、仕方なくメンチに持っていく。
「ん」
メンチが兄の寿司を食べると、幸せそうな息を吐いてからソファーに倒れこんだ。兄の料理は美味いだろうと偉そうに何度も頷いていると、ブハラも見ていたので、皿に残っていたのを全部あげた。
「ちょっと! 私には渋々で一つだったのに!」
そう言われても私にもよくわからない。彼の目を見てあげようと思ったのだ。
「サクラは小さな子どもに甘いからねぇ」
「ああ。ランボと似たような反応したブハラにはあげねー選択は出来なかったんだ」
言われてみると、確かに目がキラキラしてヨダレを垂らしていたからあげたかも。……みんな、元気にしているだろうか。
ほんの少しシンミリしていると、ゴホンとメンチが仕切り直すかのように咳をして注目を集めた。
「二次試験、後半の料理審査。合格者は……わかってるわよ。407番、一名よ!」
「は?」
なぜか兄ではなく私が合格していた。……よくわからないが、ラッキーである。