堕天使少女と欲望の王   作:ジャンボどら焼き

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第10話です!

サブタイの方はあまり気にしないでください。
思いつかなかったので適当につけたやつですので。




「そ、そうだよな。男の娘だよな」

 時刻は夕方。黒いローブを身にまとった華霖は一人、人気のない路地裏を駆ける。

 彼がそんな行動を取る理由は一つ、コカビエルを見つけるためだ。

 

 先ほどの二人との話でコカビエルがこの町にいることが確定した。ならばこの町で争いごとが起きるのは確実だ。いや、もしかしたらすでにその戦いは起きているのかもしれない。

 ひたすらに路地裏をかける華霖。その距離に比例して日も沈み始め、気づけば茜色の空が徐々に黒ずんできている。後一時間もすれば完全に日は沈むだろう。

 

 

「……コカビエル、どこに隠れてる」

 

 また走り続けること20分弱。未だ何も手がかりが掴めずにいた華霖は足を止めしばしの休息を入れる。

 

「……アンク、まだ聞こえない?」

 

『ちらほらとは聞こえちゃいるが……ダメだ。どれも小さすぎてよくわからねぇ」

 

「そう……」

 

 アンクは他者の『欲望の声』を聞くことができる。

『欲望』とは、それ即ちその人物が心の奥底で願うもの。求め続ける、満たしたいと思う気持ち。あるいは『渇き』。

 大小様々ではあれど、それは誰しもの中に存在する。

 

 アンクにこの町に木霊する欲望の声を聞かせ、戦闘欲や殺戮欲といったものがあるのかを探していた。しかし結果は見ての通り。アンクの耳に届くのはごくごく小さすぎる欲望の声だけだ。

 アンクの返答に華霖はわずかに肩を落とす。こうもうまく隠れられるとなると、見つけ出すのにいったいどれほどの時間がかかるのか。

 

 早めに休息を切り上げ、アンクに引き続き声を聞くことを頼むと、華霖は再び捜索のため足を動かす。

 

『──待て!』

 

 その直前、アンクの怒声にも似た叫びによって急停止。何事かと尋ねると、アンクはボリュームを下げないまま荒げた声で言う。

 

『デケェ欲望だ! しかも殺戮が望みのいけすかねぇ欲だぜ』

 

「……たぶん、そこにコカビエルもいる。アンク、案内よろしく」

 

 アンクのナビゲートを受けながら、華霖はその欲望の声を発する存在の元へと向かって走りだす。

 

 

 

 

 

 ********

 

 

 

 

 

 キィン! ガキィン!

 

 人気のない路地裏に響き渡る鉄と鉄がぶつかり合う音。いや、その鋭さと甲高さは鉄と鉄というよりはむしろ『剣戟(けんげき)』と言ったほうがいいか。

 

「くそっ、相変わらずしぶとい奴め」

 

 その剣戟に鼓膜を揺らしつつ、苦々しい表情でそう漏らすのは駒王学園の制服に身を包んだ茶髪の少年。彼の名は兵藤(ひょうどう) 一誠(いっせい)。リアス・グレモリー眷属唯一の『兵士(ポーン)』にして、『赤龍帝』と呼ばれる伝説のドラゴンの力をその身に宿した転生悪魔だ。

 

 現在、一誠は仲間たちとともにコカビエルの居場所を捜索中、遭遇したはぐれ祓魔師(エクソシスト)フリード・セルゼンと交戦。今彼と刃を交えているのは同じくリアスの眷属で『騎士(ナイト)』の木場 祐斗だ。

 眼前で繰り広げられる高速の剣戟戦。一誠の目にはフリードへ襲いかかる木場の姿は映らず、何かを剣で弾きかえすフリードの姿のみしか見えていない。

 

「ケヒヒヒヒッ! オラオラどうしたよ、全然攻め切れちゃいませんぜぇ?」

 

 木場の猛攻を物ともせず、むしろ楽しそうに笑い声をあげながら剣を振るう。そんなフリードが持つ剣とは、今回の事件が起きるきっかけとなったエクスカリバー。奪われた三本のうちの一つ『天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)』だ。

 使用者のスピードを底上げするその能力を使い、木場の攻撃を難なく受け流すフリード。対する木場は決定打と呼べる一撃を決めきれず、徐々に攻撃が単調にかつ、大振りになっていく。

 

「そんな攻撃じゃぁ、俺っちのハートは仕留められませんぜ!」

 

「ぐっ……!」

 

 振りかぶった隙をつき、フリードは高速の一振りをお見舞いする。すんでのところで防ぐことは出来たものの、体勢を大きく崩してしまう木場。

 それをフリードが見逃すはずもなく、第二刃を未だ体勢を崩した木場へと振り下ろす。

 

「させっかよぉ!」

 

「あぎゃぁ!?」

 

 木場へ迫るフリードの動きを崩したのは、同じく駒王学園の制服に身を包んだ少年。名を(さじ) 元士郎(げんしろう)。一誠とは主が違うが、彼も転生悪魔だ。

 彼の右腕にはデフォルメ化された黒いトカゲが乗っており、トカゲから伸びた舌はフリードの右足へ巻きついている。匙は右腕を思いっきり引っ張りフリードの攻撃を阻止。バランスを崩したフリードはその場に尻餅をつく。

 

「くっそが! メンドくさい神器(セイクリッド・ギア)ですなぁ!」

 

 苛つき悪態を吐くフリード。余裕が生まれたことで体勢を元に戻した木場は、その手に一振りの魔剣を創り構えを取る。

 

「キミは危険な男だ。今ここで始末させてもらうよ」

 

「始末? この俺ちゃんを? キャハハハッ無理無理! まったくも〜、木場キュンったら冗談がすぎますぜぇ?」

 

「……冗談かどうか、その身に分からせてあげるよ」

 

 下卑た笑みと言葉で木場を挑発するフリード。聖剣に、祓魔師に憎悪を抱く彼にとって、フリードのそれは効果覿面(てきめん)だった。

 剣を握る手には力がこもり、眉間にも皺がよる。そんな今にも切りかかりそうな木場を止めたのは一誠だった。

 

「落ち着け木場! そんな挑発になんか乗るな!」

 

「チッ、邪魔しないでくれよイッセーくぅん! 今は俺っちと木場キュンのあついあつーい真剣勝負中だぜ?」

 

「うるせぇ! 今ここでお前を倒せるなら、多対一だろうが関係ねぇ!」

 

 形振りは構っていられない。フリードは今この場で仕留める。彼らの意志にフリードは小さく舌打ち、忌々しい顔で木場を睨みつける。

 

「いいのかよぉ木場きゅぅん? エクスカリバーが憎いんだろ? 他人の手なんか借りちゃっていいのかなぁ〜?」

 

「あのやろっ……木場、耳を貸すな!」

 

 数の不利を理解してか、フリードは木場への挑発を再開。彼の復讐心を煽りに煽って強制的に一対一へと持ち込もうという作戦だ。

 一誠は必死に木場へ声をかけ続け、この場にいるもう一人の仲間である塔城 小猫の元へと走り寄る。

 

「小猫ちゃん、俺たちも加勢に行こう!」

 

「……わかりました」

 

 一誠の頼みに一つ返事で応じ、小猫は制服の胸元とベルトへ手を伸ばす。

 

「──まったく、何を手こずっている。フリード」

 

 その時、この場に新たな声が響く。

 一同の視線がその声の元へと集中。そして彼らの視線の先には、神父の格好をした初老の男性が立っていた。

 

 男を視界に収めた直後、木場の瞳が憎悪に揺れる。射殺すかのような視線で男を睨みつける木場は、怒りで震える口を動かし憎々しげな声で叫ぶ。

 

「バルパー・ガリレイッ!」

 

 初老の神父──バルパー・ガリレイは憎悪のこもった木場の言葉に関心を持たず、フリードに巻き付いた黒い舌へと視線を落とす。

 そして、はぁ、と一つ溜息を吐き一言。

 

「その程度の拘束など、聖剣の因子を使えば容易かろうに。まだ使い慣れていないというわけか……。ほれ、刀身へと聖なる因子を込めてみろ」

 

「アドバイスどぉも!」

 

 バルパーのアドバイスを受け、エクスカリバーの刀身へと聖なる力を込めるフリード。すると青白く輝き出したそれを振るい、巻きつく舌を斬り離す。

 自由の身となったフリードは聖剣を肩に担ぐように構え、木場、延いては一誠含めたこの場の悪魔全員へと告げる。

 

「ちょいと分が悪くなってきたでございますので、俺っちたちはここでバイちゃさせてもらうぜ!」

 

「っ! 待て!」

 

 捨て台詞を残し踵を返すフリード。去り際に牽制で木場へ何かを投げつける。迫るそれを木場は難なく剣で斬り裂くが、二つに割れた瞬間、それらは中で爆発。小規模の煙幕を張り木場の視界を覆い尽くす。

 突然の罠に木場が身構えた隙をつき、フリードとバルパーはこの場を後にしようと踵を返し──しかし立ち止まることとなる。

 

「……話は聞いた。お前達がフリードにバルパー。ようやく見つけた」

 

 駆け出そうとした彼らの前には、立ちふさがるように黒いローブに身を包んだ少年が佇んでいた。

 

「あん? あんた誰よ? もしかして俺の追っかけ?」

 

 軽い口ぶりとは裏腹に、フリードの表情は険しい。逃亡の邪魔をされたのだから当然の反応だろう。

 

「なんだあいつ? 子供……?」

 

「……っ! あれは」

 

 突如現れた黒ローブの少年に一誠は首を傾げながら呟く。だがその隣に立つ小猫はその黒いローブ姿に見覚えがあった。

 それは一ヶ月と少し前、公園で交戦したあのローブの少年。自分達グレモリー眷属を相手に難なく立ち回ったあの少年だ。一誠はあの時場にいなかったのでわからなくてもしょうがないが、彼を知っている小猫は『なぜここに』と疑問を浮かべる。

 

 ようやく見つけた、とあの少年は言った。つまり彼はバルパーとフリードを探していたということだ。しかしそれはなぜか。

 様々な考えを巡らせる小猫だが、次の少年の一言でそれらの疑問が解決することとなる。

 

「コカビエルの居場所、吐いてもらう」

 

「あぁ? 旦那の居場所だと?」

 

 どうやら彼もコカビエルを探しているらしい。ならばフリードとバルパーを探していたのにも納得がいく。

 

「祓魔師でもない子供が……いったいどこで我々のことを聞いた」

 

「お前達に言う義理、ない」

 

 バルパーの問いかけにそう返し、ローブの内側から大剣を取り出す。

 そのメカニカルな剣を見て小猫は確信した。やはりあの時のローブの少年なのだと。

 

「知られたからにはしょうがねぇ! ガキは黙って永遠にオネンエしてなぁ!」

 

 エクスカリバーの能力を使いスピードを底上げしたフリード。その速さを持って少年との距離を詰めると、高速の一振りを首へとお見舞いする。

 

「っ! 危ない!」

 

 斬りかかる瞬間が見えた一誠は思わず叫ぶもすでに手遅れ。その刀身は少年の首元へ吸い込まれるように振るわれ

 

「はいおしm──ゲボァ!?」

 

「「…………は?」」

 

 突如、フリードの体が宙を舞う。そのまま何度かバウンドしバルパーの足元へ。

 いったい何が起きたのか。全く理解できていない一誠と匙は呆気にとられた表情をし、ほぼ同時に間抜けな声を出す。

 

「ゲホッ、ガホッ……クソガキが、何しやがった!」

 

「別に、ただ蹴った。それだけ」

 

「あ゛あ゛!? ただ蹴っただけだぁ! 冗談にしても笑えませんぜぇ!?」

 

 そう言い、もう一度斬りかかるフリードだったが結果は同じ。蹴り飛ばされ元の位置まで戻される。

 地面を転がるフリードを見て、バルパーは信じられないような表情で言葉を漏らす。

 

「ありえん! たかだか人間、しかも子供ごときがエクスカリバーを上回るなど!」

 

「使い手が三流。伝説の剣の無駄遣い」

 

 確かにフリードは聖剣の因子を埋め込んで日が短い。だがそれでもかつて教会で天才謳われたほどの実力者だ。それをエクスカリバーの力で底上げしたというのに、目の前の少年はまるで歯牙にもかけていない。

 

 ──この少年は危険だ。

 想定外の強敵の登場にバルパーは、ギリリ、と歯軋りをする。このままでは確実に捕まってしまう、それだけは何としても避けなければならない。

 

「フリード、撤退だ! この状況はかなりまずい!」

 

「ちっくしょうがァ! クソガキ、次会った時はぶち殺してやんよ!」

 

 忌々しそうに吐き捨て、フリードは懐から取り出した何かを下へ投げる。直後、目も開けられないほどの光が弾け、一誠たちの視界を奪う。

 光が収まり視力が戻った頃にはフリード達の姿はなく、少年──華霖は足元に剣を突き立てる。

 

「……逃げられた」

 

『だがあいつの「声」は覚えた。追うか?』

 

「うん、行く」

 

 再びアンクのナビを頼りにフリード達の後を追おうと剣を抜く。撤退したということはコカビエルの元へ逃げ帰ったということ。これはまたとないチャンスだ。

 

「ちょっと待ってくれないかい?」

 

 フリードを追おうと動き出す華霖を止めたのは木場だった。その視線はフリード達に向けられたものほどではないが鋭いもので。

 気づけば木場の後ろには一誠に小猫、匙が立っており、仕方なく華霖はもう一度地面に剣を刺す。

 すると5人の元に新たな人影が近づいてきた。

 

「どうやら出遅れてしまったようだ」

 

「ヤッホー、イッセー君!」

 

 その人影はつい先ほど話しをしていたゼノヴィアとイリナの二人。彼女達は一誠達の元へ近づき、そこで華霖の存在に気づく。

 現在華霖はフードを深く被っており、ゼノヴィア達から顔が見えていない。なのでイリナは目の前の少年があの時の子供だとは気づかず、とりあえず一誠に聞いてみることに。

 

「あれイッセー君、この子誰?」

 

「いや、俺に聞かれても。俺もこの子が誰だかさっぱりなんだ」

 

「へぇー。ねぇ君、名前なんていうのかな?」

 

 視線を合わせるように腰を下げ、優しい声で名前を尋ねるイリナ。このまま無視しても良いが、そうしたら面倒臭いことになると予想し、仕方なくイリナの問いに答える。

 

「名前、華霖」

 

「カリンっていうの、いい名前ね。……ん? カリンって、確かどこかで……」

 

 その名前にどこか引っかかるものがあるらしく、イリナは首を捻って考え込む。そんなイリナに助け船を出したのはゼノヴィアだ。

 

「その声。もしかすると先ほどの少年か?」

 

「え、本当!? ちょちょ、キミ、ちょっと顔見せて!」

 

 イリナに捲し立てられるようにフードを取り払う華霖。彼の晒した素顔にあるものは驚き目を丸くし、あるものは、やっぱり、と納得の表情を浮かべる。

 特に顕著に反応したのは一誠だ。

 

「えええ!? お、女の子!?」

 

「いやいや、声からして男だろ。確かに中性的だけど間違えんなよ」

 

「そ、そうだよな。男の娘だよな」

 

 何かが違う気がするが、一誠も華霖が男だと理解することができた。

 

「今は時間ない。早くあいつら、追う」

 

 こうしている間にもフリード達はどんどんと遠くへ行っている。別に居場所は分かってはいるが、それでも色々と迎撃の準備をされたら面倒だ。

 華霖の言葉にイリナとゼノヴィアは顔を見合わせ頷きあう。

 

「奴らの居場所は?」

 

「ここをずっと先に行った所。たぶん廃墟」

 

「感謝する。行くぞ、イリナ!」

 

「あ、待ってよ! じゃあまたね、イッセー君!」

 

 華霖の言った場所を目指し走り出すイリナとゼノヴィア。彼女達の後に続き、木場もまた一人仲間達から分かれて走り出す。

 

「おいっ、木場!……ったく、あいつ一人で」

 

 一誠が制止の声を掛けるも遅く、木場の姿は先にこの場を離れた二人同様見えなくなる。

 この場にいる必要性もなくなり、華霖もまた、三人の目指す場所へ向かおうと踵を返す。そして走り出そうとしたその時、何者かにローブを引っ張られる。

 振り返ると、そこには自分よりも十数㎝低い白髪の少女が。

 

「……なに」

 

「あ、いえ……なんでもありません」

 

 華霖が問いかけるが、結局小猫はなにも言わずにローブから手を離す。俯きながらも華霖を見るその瞳は何か言いたげで。

 はぁ、と小さく息を吐く華霖。フードを被りなおした彼は振り返ることなく

 

「……気が向いたら、助ける」

 

 一言、小さな声でそう言い残しこの場を後にする。

 

 

 

 

 

 

『ずいぶん優しいじゃねぇか。どういう風の吹き回しだ?』

 

「……あれはアンクのせい」

 

『別に俺はあの白髪の声を聞いただけだぜ? 最終的に決めたのはお前だ、俺のせいにすんな』

 

 走りながらアンクと言い合いをする華霖。

 

『にしても久しぶりに聞いたぜ。あんなに純粋に他人を思う声なんてよ。それにあの茶髪もな。お、ぉっぱぃとか、そんな煩悩も多かったけどよ』

 

「アンク、初心(うぶ)

 

『う、うるせぇ! んなこと言ってる暇があったらキリキリ走れ!』

 

 そんな二人の会話は、今から死地に赴くというにはあまりにも和やかな、日常的な会話だった。

 

 

 

 

 

 




はい、というわけでフリードとの戦闘(笑)でした。
コカビエルとの前哨戦なのでサクッと終わらせたかったのですが、一話まるまるかかるという。

さて、次回こそコカビエルとの戦闘!……に入れたらいいな。

それでは、次話も気長にお待ちください!

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