遅い更新で申し訳有りません。
今回は中盤から一誠視点でお送りします。
夜。皆が寝静まった街道を走るのは、黒いローブに身を包み闇と同化した華霖。街灯の無機質な明かりに照らされた道をひた走る彼が向かう場所はただ一つ。コカビエルの待つ決着の地、駒王学園。
『野郎、もう着いてやがるぜ』
「分かってる」
『声』を聞いたらしいアンクの言葉に一言、短く返答する。素っ気ない返事だがもはや慣れたやり取りなのか、アンクは特に気にした様子もなく語りかける。
『どうやらあのグレモリーって悪魔たちもいるみてぇだぜ』
「……あいつらじゃ、コカビエルの相手は無理」
『んなこと十二分に理解してるでしょうよ。それでも行くのはプライドか、はたまた別の何かか。いやぁ〜、若さってのはいいねぇ』
そんなジジ臭いことを言いながら会話に入ってくるのは、相変わらず飄々とした口ぶりのウヴァだ。
『アホか。そういうのを身の程知らずって言うんだよ』
『身の程ばかりを気にしてちゃあ世界は狭くなる一方ですぜ? 井の中の蛙はなんとやら、たまには冒険するのも必要ってことさね』
『その冒険をした結果 死んだんじゃ世話ねぇけどな』
『本当に、あんたは王サマ以外には辛辣なことで』
以上の頭の中で交わされる会話を半ば無理やり聞かされる華霖。とはいえすでに聞きなれた会話なので、特に気にした様子もなく無言で足を動かす。
そしていよいよ駒王学園が近づいてきたその時、不意に華霖は足を止める。
『気づいたか』
「……うん。力の流れが変わった」
感じ取ったのは力の奔流。突如として、なんの前触れもなく現れたそれは禍々しく、だが同時に清らかさを持った異質なもの。
しかし華霖は特に動じた様子もなく、その力の荒潮を感じる方向へと視線を向ける。
「……
『だろうな。コカビエルとの一戦で吹っ切れた奴がいたか』
『禁手』──
凄まじい力を内包する禁手は通常の神器をはるかに凌駕する。もはや別格と、そう捉えても過言ではないだろう。
だがそんな禁手の波動を感じながらも、華霖は変わらず一切の感情を消した顔で呟く。
「でも、まだ足りない」
何者が至ったのか分からないが、先も言った通り禁手は劇的に変化した姿だ。いくら内包した力が強力であれ、至ってすぐに使いこなせるような軽い力ではない。
振るえる力はよくて全力の6割そこら。そしてそんな状態で相手どれる程コカビエルは優しい相手ではない。
顔を正面へ向け直し、再び足を動かす。
刻一刻と、決戦へのカウントダウンが刻まれる。
──バギィィィン!
儚い音を響かせながら砕け散る剣──エクスカリバー。
伝説の聖剣と謳われるそれを打ち破ったのは、俺たちリアス部長の眷属悪魔である木場 祐斗。その手に携えたのは禍々しさと神々しさを併せ持った異質の剣。
ドライグが教えてくれた。あれは禁手だと。所有者の想いが、願いが神器に劇的な変化をもたらしたものであると。
ああ、なんとなくだけど、わかる気がするよ。今のあいつ、なんていうか……綺麗な顔してるからさ。
恨みだとか復讐だとか、そんな憑き物が取っ払われたみたいな、そんな顔してるんだ。
「──見ていてくれたかい? 僕らの力は、エクスカリバーを超えたよ」
半ば放心状態だった俺の耳に木場の声が届く。そこではっ、と我に返り、それとほぼ同時に感情が込み上げてくる。
凄ぇ、やっぱり凄ぇよ木場、お前って奴は……っ! 伝説の聖剣を砕き散るなんて、そんなのただの悪魔ができることじゃねぇ!
エクスカリバーを砕かれた担い手、フリード・セルゼンは木場の一撃を受けその身を地面に沈める。
これで残すはバルパーとコカビエルだけだ!
「バカな、ありえん……ありえん……」
と思ったらバルパーはなにやら一人でぶつぶつと呟いている。なにを言っているのかわからねーけど、たぶんあれはもう数に数えなくてもいいだろう。
となると残すはあと一人、コカビエルだけだ!
「ほぅ禁手か。なるほど、これはなかなか、前戯にはもってこいの力だな」
当のコカビエルはというと、楽しそうに笑みを浮かべながら地面に降り立つ。エクスカリバーを失ったというのに余裕を失わないその在り方は、まさに歴戦の猛者というだけのことはある。
それに禁手に至った木場を見ても『前戯』程度にしか思われていないって、堕天使の幹部クラスはめちゃくちゃだな。
「ほら、早くかかってこい。今の俺は機嫌が良くてな、特別に怪我程度で済ませてやるぞ?」
「──舐めないで!」
挑発とも取れるコカビエルの物言いに部長が激昂する。そしてその勢いのまま両手からどす黒い滅びの魔力を放ちコカビエルを狙い撃つ。
だがそれも隻腕で彼方へと弾き飛ばされ、傷一つ付けることなく無力化される。
だが今の部長の一撃を合図に、他の眷属たちも行動を開始していた。
「雷よ!」
まずは朱乃さん。目の前に魔法陣を展開し、得意の雷を持ってコカビエルへ一撃を放つ。
その規模は今までで見た中でも特に凄まじいもので、コカビエルの視界を塗りつぶさんばかりの勢いで進んでいく。
「行きます」
「リアス・グレモリーの騎士、あわせろ!」
「ああ!」
その間に小猫ちゃん、ゼノヴィア、木場の三人が背後、そして左右と逃げ場を塞ぐように襲いかかる。
全方位からの四点同時攻撃! これならいくらコカビエルでも防ぎきれないはず!
「なるほど、いい考えだ……だが!」
十ある黒翼を広げたコカビエルは、それらを大地へ向けて振り下ろす。瞬間、凄まじい突風が生み出され、グラウンドの砂が巻き上げられる。さながら砂嵐のように。
吹き荒れる砂の暴風はコカビエルを中心に広がり、木場、小猫ちゃん、ゼノヴィアをも包み込んだ。そして砂が皆の姿を覆った直後、朱乃さんの放った雷が砂嵐と激突する。
雷はわずかな拮抗すら許さず砂嵐を吹き飛ばし、中にいるコカビエルを飲み込む……そう思った矢先。
「やはり圧倒的に足りぬのは『力』と『経験』か」
砂煙の中から姿を現したコカビエルは、右手に極太の光の槍を出現させ雷を消し去る。涼しい顔一つで攻撃を無力化された朱乃さんは、苦虫を噛み潰したように表情を歪める。
悠然と、余裕の笑みを浮かべ佇むコカビエル。その真下には、地面へ倒れ伏す三人の姿が。
「木場、小猫ちゃん、ゼノヴィア!」
時間にして数秒、朱乃さんの放った雷が届くまでのごくわずかな時間。たったそれだけの時間で三人を行動不能にしたってのか⁉︎
「イ、イッセーさん……」
震える声で俺の名前を呼ぶのは、俺と同じ新人悪魔のアーシア。碧眼に涙を溜め制服の裾を握りしめるその体は、声と同様小さく震えている。
現状、この場にコカビエルを相手に立ち回れる者はいない。部長も朱乃さんも疲弊しきっているし、今までのように超火力は出せないはず。
(こうなったら、俺が体と引き換えにするしか……)
部長を救うために使った『体を対価にした一時的な禁手』。今俺がコカビエルと戦うためにはそれしか方法がない。そのためにどれほど体を持っていかれるかわからねぇ……。もしかしたらほとんど全部を対価にしないとけないかもしれない。
冷や汗が頬を伝う。心臓の音が今までにないほど聞こえてくる。
そっと、震えるアーシアの手を握り返す。顔だけ振り返せば、今にも泣きそうな彼女の顔が視界に映る。そんなアーシアに励ますように笑いかけると、彼女はキョトンとした表情を浮かべ
「イッセーさん……?」
「アーシア、俺、行ってくる」
そんな彼女の手を優しく解き、俺はコカビエルへと対峙する。
「ほぅ、次は貴様が相手か赤龍帝」
「イッセー⁉︎ 何してるの、さがりなさい!」
すいません部長。でもバルパーの仕掛けた術式、この街を崩壊させるそれを解除するにはコカビエルを倒すしかないんです。
そして今、それができる可能性があるのは俺だけ。だから、ここは引けません!
『覚悟はできたか、相棒』
語りかけてくるのは、左腕の籠手、その中に封印された伝説の龍ドライグ。俺の頼れる相棒だ。
『言っておくが、対価を払ったからといって倒せるとは限らん。それでもやるのか?』
最後の忠告をするドライグ。
確かに一か八かの賭けになる、けど……皆んなを守るためだったら、体の一つや二つ大したことねぇ!
『本当に、お前は歴代稀に見る後先を考えない馬鹿だ』
確かに俺は馬鹿な男だ。でもな、悪魔としても赤龍帝としても最弱。そんな俺がまともにやって勝てるはずもねぇだろ。
『ああ、確かにお前は歴代でも最弱の赤龍帝だ。だが、諦めず最後まで足掻く……そういう男は嫌いじゃない』
ははっ、そう言われるとなんだか照れるな。
『行くぞ、相棒。相対するは堕天使コカビエル、相手にとって不足はない』
「ああ! 全力全開、文字通りこの身全てを賭けるぜ!」
見てろ堕天使コカビエル! 下級悪魔の底力、その身にたっぷりと味あわせてやる!
左腕の籠手が徐々に赤い光を放ち始める。そしてそれは左腕から体全体へと移り変わり。
「──っ! イッセー、あなたもしかして!」
どうやら、部長は俺が何をしようとしているのか気付いたようだ。必死に止めるように叫び続けている。
……ごめんなさい、部長。そして、見ていてください。俺が、あなたの
「いくぞドライグ!
覚悟とともに宣言する。そして赤い光が俺の体を完全に包みこむ──その直前。
──パキィィィイイン!
突如、学園を包み込んでいた結界の一部が破れ、黒い影が俺とコカビエルの間に着地する。
「な、なんだ……?」
突然のことに禁手化を中断、割り込んできたその影に目を向けると。
「はははははっ! ようやく来たか!」
嬉々とした笑みを浮かべるコカビエル。その視線の先、黒いローブを靡かせ佇む一人の乱入者は、徐に顔を包んだフードを取り払う。
「コカビエル。決着、付けに来た」
抑揚のない平坦な声。少女にも少年にも見える中性的な幼い顔立ち。それは紛れもなく、フリードとの一戦時に現れた少年と同一人物だった。
そんな少年の言葉に、コカビエルはより一層笑みを深める。まるでこの時を待ち侘びていたかのように。
「ああ、ああ……始めよう。百年越しの決戦を、俺とお前、二人だけの戦争を!」
「アンク、カザリ、ウヴァ。いくよ」
少年は何かを取り出し腹部へと当てる。そして掌に現れた赤、黄、緑のメダルを掴み順に腹部のそれへと装填する。
そして円状の機械を手に取り右から左へ動かすと、キィン、という甲高い音が三度、鼓膜を震わせる。
「……変身」
《タカ! トラ! バッタ!》
鷹、虎、飛蝗。三種の動物、昆虫の名前が機械音で響き渡る。直後、無数のメダルのような何かが少年の周りを取り囲み、黄金の光を放つ。
そして光が収まり現れたのは、先ほど少年ではなく未知の異形。
「なんだ、あれ……」
突然の出来事の連続に理解が追いつかず、口からは無意識に言葉が漏れ出る。
黒を基準に、頭部が赤、腕が黄色、足が緑と信号機のような配色が施された異形。成人男性ほどにまで伸びた様は、まさに変貌を遂げたという言葉を体現するに相応しい。
部長や朱乃さんに目を向ければ、二人とも視線を鋭くさせやや警戒心をあらわにしている。どうやら二人も目の前の存在がなんであるのかは知らないようだ。
「ドライグ、お前は何か知ってるか?」
『……いや、あれについては俺も初めて見る』
ドライグも知らないか。ってことは、新種の神器かなんかか?
『それは違う。あれは聖書の神が創った神器とは全く別の存在』
神器じゃない? じゃあ一体なんだって言うんだ?
『さてな……ただ、一つだけ言えるのは』
淡々と告げるドライグ。その声は今まで聞いたことのないほど低く
『人が扱うには過ぎた代物だってことだけだ』
底冷えするほどに冷めたものだった。
次回はコカビエルとの決着の予定です。
早めの投稿を心がけますので、気長にお待ちください。