お久しぶりです。
別作品を更新したので、こちらも更新しました。
思う存分、罵声を浴びせてください。
リアス・グレモリーは戸惑っていた。今自分の目の前で起きている現実に。
これは夢か、などとそんな馬鹿げたことは言わないし思わない。ただ、現実とわかっていながらも、それを信じきれずにいる自分がいた。
「ぁあああああ!」
「ぐぬぅう!」
雄叫びを上げ、駒王学園の校庭を疾走する黄色い閃光。姿すら捉えきれないそれはコカビエルを翻弄し、一方的にダメージを与えていく。
対するコカビエルはもはや防戦一方。先ほどまでの攻防戦などまるで嘘だったかのように、閃光がすれ違うと同時に深い切り傷を負わされる。
変化はたった一つ、今までバラバラだった色が統一されただけ。たったそれだけの違いなのに、その戦闘力は何倍にも膨れ上がっている。
あのコカビエルですら受けきるのが、いや辛うじて傷を軽減するだけで精一杯なのだ。もはや次元が違う、そう言っても過言ではない。
急激な力の上昇に驚くのと同時に、リアスの内に一つの疑問が浮上した。それはなぜ初めからこの力を使わなかったのか、だ。
考えうる答えとしては単純に、使うまでにある程度の時間がかかるか、それとも使うためのエネルギーが莫大か、の二つ。
前者は恐らくは違う。これまで何度も姿を変えれていたということは、使用に関する時間的制限はないのだろうと考えたからだ。
であるなら残すは後者、恐らくこれが最も可能性が高い。あれだけ強力な力だ、相応のエネルギーを消費するとみて間違いはない。
(あの力、いったいなんなのかしら……)
メダルを変えるごとに姿を変え、能力も変化する力。
まだ発見されていない類の神器かと疑うが、あれほどの力ならば知られていない方がおかしい。考えれば考えるほど疑問が浮かんでくる。
(謎のメダルに鎧……ダメね、謎は深まるばかりだわ)
これ以上深く考え込んでも無駄だと、そう言い聞かせ戦場へと意識を切り替える。それと同時にまた一つ、轟音とともに砂煙が爆ぜる。
その中心には満身創痍のコカビエルと、獣のごとく叫ぶ異形の姿があった。
**********
──体が熱い。胸の奥底から、際限なく湧いてくる。血管を駆け巡るように、身体中を壊すかのように、侵食するかのように。
「ガァアアアアアッ!」
そんな膨大な力を吐き出すために、また吠える。咆哮は空振を起こし、周囲の地面を削り取る。
「おぁああ!」
声とともに目の前から光の槍が迫る。それもたくさん。
「でも、遅い」
オーズはトラクローを展開。迫り来る槍を弾き、はじき、ハジク。黄色の鉤爪とぶつかり合いガラスのように、儚く、粉々に砕け散る光の槍。
そしてチーターレッグを解放。一秒にも満たない、刹那の時間。コカビエルとの距離を埋める。
「アァァアアアアアッ!」
体を駆け巡る力を体外へ。それは『熱』という形へと姿を変え、コカビエルへと襲い掛かる。
黒を塗りつぶす光。やがてその光はコカビエルを飲み込み
「うぉおおおッ⁉︎ あっちぃ!」
「これは⁉︎」
「熱の光……?」
ついでに一誠たちも巻き込み、全てを焼き犯していく。
そして光が収まる。世界が夜を取り戻したその中で、コカビエルは体から煙を上げ佇んでいた。もはや満身創痍。ボロボロになった体は立っているのがやっとなのか、小刻みに震えている。
ただそれでも、その顔には一切の翳りがなく、その口元は大きく弧を描いていた。
「は、ははは……っ! やはり、貴様は格別だ! 戦いとは、こうでなくてはな!」
傷つき、ボロボロになろうとも笑みは決して絶やさないコカビエル。なぜそこまで、戦うことに固執するのか。執着するのか。
そんなコカビエルのあり方に、一誠は背筋がゾッとする感覚に襲われる。他のものたちもまた、コカビエルの戦いへ対する執念に顔を青ざめさせる。
「生死の狭間での戦い、それこそ俺が求めていたもの! 血沸き肉踊る最高の舞台!」
今のコカビエルの頭からは、この街の破壊など疾うに消え去っていた。あるのはただ、目の前の異形との、命を賭した戦いのことだけ。
傷ついた隻腕を振り上げ、コカビエルは一振りの光の槍を形成する。それは体育館を破壊した時のものに比べれば段違いに小さいが、その分内包された光力はその比ではない。
「さぁ決着をつけるぞ。貴様も全力でかかってこい!」
これがコカビエルの最後の一撃。時間的にオーズも短期に決着をつけたい。首肯し、腰部のスキャナーへと手を伸ばす。
そしてゆっくりとベルトの上を滑らせるように、再度三枚のメダルを読み込む。
《スキャニングチャージ》
オーズの前に現れる三つの黄色のリング。トラクローを展開し構えを取ると、コカビエルと視線を合わせタイミングを窺う。
そしてちょうど三つ、呼吸を置き
「はぁあああああっ!」
「ガァアアアアアッ!」
ほぼ同時に両者は大地を駆ける。片方は空を飛ぶかの如く、もう片方は閃光を作るほどの速さで。
──ガキィイイイイン!
ぶつかり合う鉤爪と槍。瞬間、暗闇を照らすほどの光が炸裂し、あまりの
そして次に瞳を開ける時、その先に映っていたものは背中を向けあったオーズとコカビエルの姿。
「……そういえば、貴様の名を聞いていなかったな」
小さく、名を尋ねる。
「……華霖」
「……かりん、か……冥土の土産に持って行こう」
そう言葉を吐くコカビエルの口元からは、一筋の赤い線が伝う。見ればコカビエルの胸元には大きく『X』の傷跡が刻まれており、それはリアスはもちろん、ついこの間まで戦いとは無縁だった一誠やアーシアですら致命傷だとわかるほどに深刻なものだった。
「ごほっ……貴様らに、一つだけ真実を教えてやろう……」
血の塊を吐き出し、それでも変わらぬ口調で話を続けるコカビエル。
「先の大戦、死んだのは魔王だけではない──神もまた、死んだのだ」
彼の言い放った一言に、この場にいる者の時間が凍りつく。『神の死』という驚愕の事実が語られたのだ、それも仕方のないことだろう。
そんな彼らの中でも特に信仰心の強いアーシアとゼノヴィアにとって、神がこの世に存在しないという事実は驚愕という言葉では到底言い表せるものではない。
ゼノヴィアは力なくその場に膝をつき、アーシアは茫然自失といった風にその場に崩れ落ち、その瞳は受け入れ難い真実によって酷く揺れている。
「アーシア……しっかりしろ、アーシア!」
「──コカビエルッ!」
崩れ落ちるアーシアの姿を目にしたリアスが顔を怒りに染め、怒声とともにコカビエルを睨みつける。だがそんなリアスなど眼中にないかのように、コカビエルは視線をオーズへと向ける。
その先に映るオーズの姿は動揺も驚愕もなく、変わらずその場に佇んでいた。
「……神の不在、それでも貴様の心は揺れ動かぬか……」
心底残念そうに息を吐くコカビエル。彼がこの衝撃の事実を口にしたのは単にオーズの動揺する姿を見たいがため。それだけのために、天界が必死に隠してきた真実を口にしたのだ。
その事実を知り、心の均衡を保てなくなるものがいるとわかっていても……。
「最後に貴様に一泡吹かせたかったが……どうやら完膚なきまでに俺の負けのようだ」
だが、そう言葉を続け
「ああ……悪くない、さいご、だっ……た……──」
そう静かに語り終えると、膝をつき前のめりに倒れるコカビエル。
それはこの激闘の終焉を告げ、しかしながらあまりにも騒然とした終わりに一誠たちはしばらくの間 呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
「──ウゥッ!」
すると突如、苦しそうに胸を押さえるオーズ。直後、ベルトからひとりでにメダルが抜け出すとオーズの胸へと消えていく。
変身が解除され異形の姿から人の姿へと戻った華霖の顔は苦しげに歪み、その額からは汗が伝っている。
『3分……ギリギリだな。時間かけすぎだバカ』
「久しぶりだから、加減がわからなかった」
『まぁいい……用事も済んだしとっとと帰るぞ』
『うーん、もうちょっと暴れたかったなぁ……』
厳しい口調のアンクと物足りなさそうなカザリの声を聞きながら華霖はゆっくりと立ち上がる。そして振り返り、静かに倒れ伏すコカビエルの体を抱きかかえると、出口へと向かって歩き出した。
壮絶な戦いと驚愕の真実にリアスと眷属一同は口を開くこともできず、ただ去っていく背中を見つめることしかできずにいた。
今の彼女たちには、その小さな背中を引き止めるほどの余裕がなかったから。
**********
場所は駒王学園の近くの電柱。その一番上には、魔導師のような黒いローブをまとった一人の男の姿が。男は手に持った杖、そこにはめられた透明な水晶玉へ視線を向けていた。
その水晶玉に映るのは息絶えたコカビエルを抱え、駒王学園を去る華霖の姿が映しだされていた。
「ふむ、コカビエル相手にならここまで戦えるか。なかなか、いい具合に仕上がってきたな」
笑みを浮かべ、水晶に映るオーズへと視線を向ける男。
「だが全力を出すには遠いか。やはりたかだかメダルに意思を持たせたのが間違いだったな」
打って変わり表情が何も感じさせない無へと変化する。口にする言葉も淡々としたもので、そこからは一切の感情が読みることができない。
「まぁいい、どのみち計画へ支障はない。それに、そろそろ第二段階へと移る頃合いだ」
そう言い懐から取り出したのは一枚の黒いメダル。華霖の持つオーメダルと酷使したそれは、しかし対照的に禍々しい、漆黒のオーラを漂わせている。
男はそんなメダルを楽しげな、愛おしそうな瞳で見つめただただ嗤う。
「そのまま踊り続けるといい。自身が何なのかも知らずに、嘘にまみれたこの世界で」
「なぁ……可愛い可愛い、私の
その瞳に、暗い狂気を孕ませて……。
*********
駒王町の外れ。闇夜に包まれ前も後ろも把握できないほどの闇が支配し、人はおろか獣の鳴き声すら聞こえない森の中。迷うことなく足を進める小さな子供の姿があった。
ある程度進んだところで子供が足を止めると、彼の前に一つの魔法陣が浮かび上がる。
「……悪かったな、面倒ごと押し付けちまってよ」
魔法陣から現れた堕天使の男は申し訳なさそうな声音で子供へ謝辞を述べると、彼が抱えていたものを受け取る。
ズシリと、腕にのしかかる重み。しかし男は一切ぶれることなくそれを抱えその視線を落とす。
「それじゃ、僕は帰る」
「ああ……ありがとよ、こいつがバカする前に止めてくれて」
「別に、僕にも火の粉が飛ぶから止めただけ」
「ははっ、そうかよ」
子供はこの場を去り、一人残された男は再び視線を下へと向け
「ったく、色々やらかしたっていうのに……なに満足そうな顔して逝ってんだよ」
笑みを浮かべたまま眠るかつての仲間の顔を見つめながら。
呟くように吐き出された、面倒臭そうなその言葉は、吹き抜けた風に運ばれ闇の中へと消えていった。
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ガチャリ──玄関の扉を開き、静かに中へ入る。
暗く、静寂のみが支配した屋内には、ギシギシと軋む床の音だけが木霊する。
次にリビングへ続く扉を開け、月明かりだけが頼りの室内へ入ると。
「…………すぅすぅ」
帰りをずっと待っていたのであろう、ソファに横になり、小さな寝息を立てる少女が。
近くに置いてあるタオルケットを手にし、その小さく華奢な体を優しく包み込む。
「か、りん……」
すると少女が小さく、名前を呼ぶ。
そんな少女に、僅かだが口元を綻ばせ
「ただいま、ミッテルト」
金色が映える綺麗な髪を撫で、少年もまた小さく、その少女の名前を呼んだ。
──激動で激闘の1日は、そうして終わりを告げたのだった。
バルパー「あれ、生きてる」
ヴァーリ「あれ、出番は……?」