だいぶお久しぶりです。
とりあえず、1話更新します。
遅い更新で申し訳ありません。
「……断る」
唐突に来訪してきた、冥界を治める四大魔王のうち一人サーゼクス・ルシファー。彼の口にした『三すくみの会談』への誘いへの答えは、華霖の言葉により一蹴される。
なぜ天使でも堕天使でも、ましてや悪魔でもない自分が参加する必要があるのか。そう思えば、華霖がこの答えを下すのも当然と言えば当然だろう。
しかし隣に座るミッテルトからしてみれば、魔王の誘いを一蹴するなど気が気ではない。現にその顔は若干青ざめており、華霖を見る瞳はこれでもかと見開かれている。
しかしサーゼクスも断られることをわかっていたのか、特に落胆することなく、温和な雰囲気を崩さぬまま言葉を続ける。
「私が君を誘った理由は二つあってね。一つはコカビエルの計画を阻止した件。君の助力をなくしては、妹もこの街もただでは済まなかった。それに天使側も堕天使側も、それぞれが礼がしたいらしくてね。ぜひこの会談の場に参加して欲しいそうだ」
堕天使からしてみれば、身内が戦争の引き金になりうる事件を引き起こし。天使側は貴重な聖剣をいくつも奪われ、同胞にもそれなりの被害を受けた。
それらを未然に防ぎ、あるいは取り返すことができたのは、華霖の力があったのは言うまでもない。
故に謝辞を伝えたいので、会談に参加して欲しいというのは、確かに誘う理由としては十分なものがある。
三大勢力のトップから謝罪など、過去にも例を見ない大事件だ。いや、事件ではないが、それでも堕天使であるミッテルトからしてみれば、たとえどれだけ生まれ変わっても経験できないであろうほどの出来事だ。
そんな希少な場に誘われているというのに、華霖本人はというと
「別に、お前たちのためにやったんじゃない。ただ、コカビエルとは因縁があっただけ。それ以外は、全部ついで」
そう告げ、サーゼクスの誘いを再び断る。
「はははっ、そうかついでか。そう言われたら、これ以上は何も言えないな」
三大勢力へ大きな恩を作りながら、それをついでの一言ですます華霖に、サーゼクスはたまらず笑みをこぼす。
しかしすぐに真剣なものへと変えると
「それならもう一つの理由だが……」
そう言い、右手に小さな魔法陣を展開。そこから一つの小さなガラス状の筒を取り出し
「このメダルについて、君は何か知ってはいるかな?」
その筒の中に収められたものを見て、華霖の表情が初めて変化する。それもミッテルトも見たことのない、驚き、という表情へ。
華霖の反応に、サーゼクスは欲しい答えをもらった、そんな表情を浮かべ
「……どうやら、知っているようだね。このメダルについて」
サーゼクスが筒に入れているのは、一枚のメダル。それもただのメダルではなく『コアメダル』だ。
華霖はサーゼクスの手にしたメダルを見ながら、小さく口を開く。
「……知っている。けど、知らない」
矛盾をはらんだ答えを口にする華霖。
だが彼からしてみれば、サーゼクスの持つメダルはそんな矛盾を生むには十分な代物だった。
なぜなら、ガラスの壁の向こうに浮かぶメダルは、そのコアメダルは
「……そんな『黒いコアメダル』、僕は知らない」
まるで闇を取り込んだかのように、深い黒色に染まっていたのだから──
──このメダルについて、何か聞きたいことがあるのなら、参加をして欲しい。こちらとしても、色々と情報を共有したいからね。返事はまた、こちらから使いを送らせてもらうよ
そう言い残し、サーゼクスは従者とともに家を去った。
残された華霖とミッテルトは、言葉を交わすことなく、無言のままじっと座っていた。
普段なら、ミッテルトが何かしら話題を振るのだが、今の華霖は話すことすら躊躇うほどの雰囲気を纏っており、こうして黙っていることしかできないからだ。
(にしても、あの華霖があそこまで感情を出すなんて。一体何だったんすかね、あの黒いメダル……)
少し前にラザードが、華霖の中にはコアメダルが同化していると言っていた。彼の言葉が真実なら、あのメダルは華霖のものとは違う、新たな一枚ということになる。
しかし同化している当の本人の表情は険しく、あのメダルの存在は本来ならばあり得ないものだということが見て取れる。
(でももしかしたら、華霖の知らないメダルがあったって可能性も無きにしも非ずなわけで……)
だめだ。コアメダルについて無知な自分がいくら考えたところで、答えなど出るはずもない。
こうなれば華霖に聞くしかない。そう決め、ミッテルトは意を決し口を開く。
「華霖、あのメダルって本当にコアメダルだったんすか?」
「……たぶん、そう。弱々しいけど、感じた力はコアだった」
でも──
「あり得ない。みんな以外に、コアが存在するのは……」
やはり、華霖でもお手上げの事態らしい。
存在するはずのない新しいコアメダルに、華霖は険しい表情のまま思考を続ける。
(アンク……あのコアメダル、どう思う?)
『どうっつっても、俺にもさっぱりだ。けど確かなのは、この世に存在するのは俺たちのコアだけ。あんな黒いのがあるなんて、聞いたこともないぜ』
アンクに聞いてみるが、彼女もやはり華霖と同じく、黒のコアについては何も知らないようだ。
『私たちが生まれた時になかったのなら、その後にできたものじゃないかしら?』
するとここで、柔和な女性の声が割って入る。
『んだよメズール。まさかあれが新しくつくられたコアメダルって、そう言いてぇのか?』
『まさかも何も、残された可能性はそれしかないじゃない? まぁ、私たちに隠れて作られたものっていう線もあるけれど……それはほとんどないわね』
柔和な声の女性──メズール。
彼女の言う通り、自分たちが知らないということは、後に作られたものだと考えるのが妥当だろう。
しかしそこで待ったをかけたのは、カザリだった。
『けど作るって言ったって、僕たちを作った人間みーんな寿命で死んじゃったんだよ? 新しく作るのってほとんど不可能だと思うけどなー』
コアメダルを作ったのは、はるか昔の錬金術師と呼ばれた人間たちだ。彼らは人を超越した力と知識を用い、コアメダルをこの世に生み出した。
だが錬金術師である彼らも人である以上、必ず寿命が訪れる。たとえどれだけの力を有していようと、死なないわけではない。命の終わりは等しくやってくる。
『僕たちが目覚めるまでざっと800年。それで目覚めてから200年くらい? これだけの時間、たぶんあの人間たちでも生きるのは無理だと思うけど』
『そうねぇ、あの錬金術師たちでも不老不死に届くとは思えないし。けれど彼ら以外に、一からメダルを作る知識を持っている人間がいないのも、また確かなのよねぇ……』
振り出しに戻り、ため息を吐くメズール。
考えれば考えるほど、謎が深まる黒いコアメダル。
『あーめんどくせぇ! なんだってこんな考えなきゃならねぇんだよ!』
『アンクうるさーい。けど、情報があのメダル一枚じゃ、推測もできないよねー』
『あの魔王にはしてやられたわね。情報を得るには、その会談とやらに行くしかないものねぇ』
メズールの言う通り、これ以上の情報を望むのなら、三すくみの会談に参加する必要がある。
サーゼクスがこれを狙っていたのだとしたら、なかなかに強かな悪魔だと認めざるを得ない。
(けど、いい機会。アンクたちを、僕を作った人の情報を手にいれる)
どうやら、華霖は会談に参加をすることに決めたらしい。
『えらくやる気じゃねぇか。どうしたんだ?』
(……その人と、会って話したい。僕を作った理由を、なんで僕が『オーズ』なのかを)
華霖が生まれた時には、周りにはアンクたちしかいなかった。故に華霖は自身がなぜ生み出されたのか、その理由も知らずに今まで生きてきた。
もしかしたらこの会談で生みの親の情報を得られるかもしれない。そうすれば、生みの親に会える可能性がわずかにだがでてくる。
別に会えなくて寂しいとか、そんな感情からでは断じてない。だが、華霖は知りたいのだ。
どうして自分が『オーズ』として、アンクたちの王として、この世界に生み出されたのかを。
「……ミッテルト」
「ん? なんすか?」
「……決めた。会談、行く」
********
同時刻。この世界ではないどこか。
「ぅ、ぁ……せい、けん……エクス、かり、バー……」
ふらふらと、まるで幽鬼のように覚束ない足取りで歩き、蚊の鳴くような声でボソボソと呟く一人の男の姿が。
男は何かを求めるように両手を前に伸ばし、空を掻きながらふらつく足で進む。
「……ふむ、一応だが意識はあるか。試作品にしては落第点もいいところだが、まぁいいだろう」
死人のような男を見つめ、つまらなそうに呟くのは、コカビエルとオーズの戦いを覗いていた黒いローブの男だった。
彼の目的とする水準に達していない、目の前の実験体を冷ややかな目で眺めていると、隣に魔法陣が展開され中から一人の女性が姿を表す。
「相変わらず、趣味の悪いことをやっていますね。あれが今回の犠牲ですか?」
「犠牲とは聞こえが悪いな。奴の欲望を開放してやるんだ──救い、そういってほしいな」
「人間として終わったあれを見て、よく救いと言えるものですね。私よりもずっと悪魔らしいですよ、あなたは」
とはいえ、人間が一人どうなったところで、彼女からしてみれば道端の石ころが砕けたようなもの。
何の感情も抱かないし、あるとすればせいぜい一瞥するくらいだ。
「まぁあれがどうなったところで、私たちの計画に支障はありません。好きにしてください」
「ああ、好きにするとも。ふふっ、数日後が楽しみだ」
転移し姿を消す女性。
男は彼女に一度も視線を向けることはなく、未だこの場を徘徊する生きた亡者へと注がれていた。
「失敗作には贅沢な舞台を用意してやる。せいぜい溜め込んだその欲望、負の感情を開放するといい」
悪魔、天使、堕天使、赤龍帝、聖剣……そして『オーズ』。
この失敗作にとって、これ以上ないほどの舞台が出来上がった。あとはその胸に溜め込んだものを、余すことなく開放するだけ。
たったそれだけを、男はそれに望んでいる。
──あぁ、本当に楽しみだ
これから起こる混沌を想像し、男は口元に狂気の笑みを浮かべ、声を漏らし笑うのだった。
先に進めようとした結果です。
グリードからはメズールが初登場。
次回は会談から戦闘まで持っていけたらいいなと思っています。
次の更新も気長にお待ちください。