堕天使少女と欲望の王   作:ジャンボどら焼き

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第2話です!



名前と友達

 場所は駒王町にある驚愕の私立高校『駒王学園』から始まる。

 真新しい新設の校舎から離れた林の中、そこには木製の古びた建物──俗に言う『旧校舎』が鎮座していた。

 その旧校舎の中のある一室。壁やら床やらに見たことのない文字が書き込まれた、普通とは随分とかけ離れた内装をしている。その部屋──『オカルト研究部の部室』には現在、椅子に腰をかける紅髮の少女と、机を挟んで正面に立つ黒髪ポニテの少女が話をしていた。

 

「部長、話とはいったい?」

 

 黒髪ポニテの少女──姫島(ひめじま)朱乃(あけの)は対面の女性──リアス・グレモリーへ問いかける。彼女の問いかけに、リアスは組んだ足の上に手を置き答える。

 

「先の堕天使の一件で逃した『はぐれ祓魔師(エクソシスト)』フリード・セルゼン、そして堕天使ミッテルト。この両名の足取りは未だ掴めないまま。

 フリードはともかく、堕天使ミッテルトはそこそこの負傷をしていたはずよ。けれど、ここ数日捜索を強化しても行方を掴めないまま」

 

「冥界へ逃げ帰ったか、それともどこかで力尽きたのでは?」

 

 朱乃の言葉にリアスは「それはないわ」と、首を左右に振って否定の意を示す。

 

「あれが堕天使レイナーレの独断行動であった以上、それに従った彼女に帰る場所はないわ。仮にも悪魔の領地で問題を起こしたのだから、『神の子を見張るもの(グリゴリ)』が黙っているはずないもの」

 

 そして、と付け加え

 

「後者も、力尽きて倒れているのなら見つけること自体が容易なはず。だというのに、未だ姿すら見つけられていないということは」

 

「誰かが彼女を保護したと、そういうわけですね?」

 

「ええ、その可能性は十分にありえるわ。だから彼女の足取りが掴めるまで、悪いけど朱乃、貴女にはもう少し捜索を続けてもらうわ」

 

「うふふ、悪いだなんてのは言いっこなしですわ。私は貴女の王女(クイーン)、王の命令とあらば喜んで受けるものです」

 

 そう言い、朱乃は一礼するとオカルト研究部の部室を後にする。一人部室に残されたリアスは、小さく溜息を吐き

 

「……報復の可能性が残っている以上、まだまだ安心はできないわ。折角アーシアが幸せを手にしたんだもの、王である私がそれを守らなくちゃ」

 

 まだ見ぬ堕天使の協力者に警戒を抱きつつ、朱乃が用意した紅茶に口をつける。

 

 

 

 

 

 ********

 

 

 

 

 

 一方その頃、話題に上がっていたミッテルトとその協力者?はというと

 

 

 

 

 

 

 

「だーかーらー! ゴミはゴミ箱に入れろって、なんべん言ったらわかるんすか!? そんなんだからゴミ屋敷になるんすよ!」

 

「……むぅ。ミッテルト、うるさい」

 

 駒王町にある、見た目はごく平凡な民家に落雷が落ちた。まぁただ単にミッテルトの怒声な訳だが。

 

「うるさいってなんすか!? うちが折角綺麗にしてあげたっていうのに、その言い草はないでしょ!」

 

「別に頼んでない。ミッテルトが勝手にしただけ」

 

「キィーッ、このクソガキ!」

 

 室内に響き渡る喧騒……とはいうが、実際はミッテルトが一方的に叫んでいるだけである。対して少年はそんなミッテルトの大声に耳を塞ぎつつ、半眼で彼女をじっと見つめる。

 まぁことの原因は先のミッテルトのセリフから察しがつく通り、少年がミッテルトの綺麗に片付けた部屋を再びゴミ屋敷にしようとしたことから始まった。たかがゴミ箱に入れなかっただけ、そう思うかもしれないが、実はミッテルトはかなり几帳面な性格をしている。普段の軽い口調からそうは思われてこなかったが、レイナーレの元にいた時も廃協会の片付けなどは彼女が担当していた。出したものは元ある場所に、ゴミの分別はしっかりとなど、本当に堕天使かと疑うほどだ。

 

 叫び続きで疲れたミッテルト。ぜぇぜぇと肩で息をする彼女をよそに、少年はテーブルに並べられた料理に手をつける。

 

「でもミッテルトのご飯、美味しい」

 

「な、なんすか急に。そんなこと言って話を変えようとしても無駄っすよ」

 

「そういう訳じゃない。本当に美味しいからそう言っただけ」

 

 その品々は全てミッテルトが作ったものだ。掃除に洗濯に炊事と、ここ数日でこの家の家事担当が板についてしまった。もはや堕天使から家政婦へとジョブチェンジをしたほうが良いのではと、彼女を知るものがこの光景を見たらそう思うだろう。

 その味も上々らしく、わずかにだが少年は頬を緩ませる。そんな少年の反応に、ミッテルトは悪態を吐きながらそっぽを向く。だが言葉とは裏腹に、彼女の表情はどこか嬉しそうだった。

 

(……そういえば、こうやって手料理を褒められるのはいつぶりっすかねぇ)

 

 レイナーレの元でも料理を作ることはあったが、こんな風に感想を貰うことなどなかった。故にこうして他者から感想、しかもそれが褒め言葉ともなれば嬉しくない訳がないだろう。

 

「そういえば、あんたの名前を聞いてなかったっすね」

 

 嬉しくて気が緩んだのか、柄にもなくそんな質問をするミッテルト。傷が完治するまでの短い期間だが、まぁ助けてくれた人間だし名前くらいは聞いておこうと、ミッテルト少年の返答を待つが

 

「……みんなはゼロって、そう呼ぶ」

 

「そう呼ぶって、もしかして名前ないんすか?」

 

「一応0III(ゼロ・サード)って名前、ある」

 

「……たぶんそれ、名前じゃないっすよ」

 

 改めて、ミッテルトは目の前の少年の異様さについて考える。両親はおらず名前もない、しかし一人で住むには十分すぎる家を持ち、また生活できるだけの財も持っている。しかしぱっと見十代前半の少年がどうやってそんなお金を稼いでいるのか、謎は解明するどころかますます深まっていくばかりである。

 

「それにしてもゼロっすかー。ちょっと見た目とマッチしてないっすよねぇ」

 

 短い黒髪に黒い瞳。日本人の容姿をしている少年に『ゼロ』という名前は確かにマッチはしない。だが当の本人はミッテルトが何を言っているのか理解しておらず、こてん、と首を傾げる。

 ミッテルトはちらりと、少年の後ろに積まれたあの山のようなカロリーフレンドに目を向ける。そして顎に手を当てしばしの間考え事に更けこみ

 

「んー、『かりん』ってのはどうっすか?」

 

 そう言いながら近くにあった紙に『華霖』と、漢字で文字を書く。

 

「……かりん?」

 

「そっす。まぁ漢字は適当にあてただけなんで、別に好きなように変えてもいいっすよ。それに名前だって、いらないならいらないでいいっすし」

 

 こうして名前を考えたのだってただの気まぐれだ。今まで名前がなくともやってこれたのだから、別に今更名前を与えたところで変わるものなどありはしないだろう。

 ミッテルトは軽い気持ちで言うが、対照的に少年は手渡された紙をじっと眺める。それこそ穴が空くのではないかというほどに。

 

 1分ほどだろうか、ようやく紙から目を離した少年はミッテルトへと視線を移し

 

「これがいい」

 

 そう返答する少年に、ミッテルトは少しばかり意外そうな顔をする。目の前の少年は短すぎる付き合いだが、何事にも無関心・無頓着な人間だと思っていた。名前など、どうせ『いらない』と突き返されるとばかりかと思っていたので、この反応には少々驚かされた。

 

「自分から言っといてなんですけど、本当にいいんすか? もっとかっこいい名前なんていくらでも」

 

「これがいい。ミッテルトがくれた名前がいい」

 

 まさかまさかの高評価。そこまで嬉しそうにされたら無性に恥ずかしくなる。背中に少しばかりむず痒さを感じるミッテルト。そんな彼女に少年──華霖は

 

「名前、ありがとう。これから僕、大切にする」

 

「──っ!?」

 

 微笑んだ。満面の、とは言い難い笑顔だったが、それでも今まで見たどの表情よりも彼は笑顔だった。無表情がデフォルトだったからか、いきなりそんな笑顔を見せられたミッテルトはおもわず息を飲んでしまう。

 顔が赤い。耳まで赤い。これがギャップ萌えというやつか。

 

「ま、まぁ!? あんたがいいなら決定っすね! このミッテルト様が直々に付けてやったんすから、ありがたく思うんすよ!」

 

「うん。お礼にこれ、あげる」

 

「ん? お礼って何をって……なんすかこのメダル?」

 

 ミッテルトが手渡されたのは、銀色の小さなメダル。何やら鷹か何かの絵柄が掘ってあるそれを不思議そうに眺めるが、別段そこらにあるメダルと大した違いはない。

 

「それ、友達の印。大事にしてくれると嬉しい」

 

「んー、なんかよくわからないっすけど……まぁせっかく貰ったもんですし、大切にしてやるっす」

 

「大切にしてね。そうすれば、あの子も喜ぶから」

 

「りょーかいっす」

 

 華霖の言葉を聞き流しながら、ミッテルトは銀のメダルを服のポケットの中に仕舞う。それとほぼ同時に、食事を平らげた華霖は食器を洗い場まで持っていくと、壁にかけてある黒のローブへと手をかける。

 

「ん? こんな時間にどっか行くんすか?」

 

「ちょっと用事。ミッテルトは好きにしてて」

 

 その言葉を最後に華霖は部屋を出て行く。

 いったいどこへ向かったのかは気になるが、そこまで深く知る必要もないだろうと、ミッテルトはまだ残っている食事へと箸を伸ばす。

 

「しっかし、うちもらしくないことしたもんっすねぇ」

 

 人間よりも上位種族である堕天使の自分が、まさかのそ人間相手に名前を送るなど思いもしなかった。しかも友達という、同等のレベルで見られたのだ。もしもこれがレイナーレや他の堕天使達だったらどうだろうか。たぶん、いや絶対に激昂しているはずだ。

 

「友達、かぁ……」

 

 なぜ、という疑問が浮かび上がる。なぜ自分は、下等種族の人間に友達と言われて怒りを覚えなかったのか。いやそれ以前に、なぜ自分はこんなにも、この『友達』というたった二文字の言葉に──

 

「あーあ、どうしちまったんすかねー。うちってこんなキャラじゃなかったはずなんすけどー」

 

 たった一人の少年に、ほんのわずかな時間で変えられてしまった。堕天使とか人間とか、そんな種族の壁など関係なしに接しられているうちに、どうやら自分もそちらへと引っ張られたみたいだ。

 傷が完治するまでの関係だ。あと少しだけの関係だ。時が過ぎていくように、別れもまた近づいてくる。

 

 ──もし、自分がこのままここに残ったら。なんてことをついついと考えてしまう。

 

 だがそれは決して実現しない。ここがグレモリー家の領域である以上、長居するのは自分の命に関わる。傷が治り次第、すぐに出て行くのが最善の策だ。

 

 不意に、ミッテルトはポケットへと手を伸ばす。そして取り出したのは、先ほど華霖から貰った銀色のメダル。

 

『それ、友達の印。大事にしてくれると嬉しい』

 

 本当にそれが最善なのか、今となってはわからなくなってしまった。それに、出て行くにしてもなんといって出ていけばよいのか。自分が出て行ったあと、あの少年はまた栄養食生活に戻るのか。

 様々な思考が頭の中を駆け巡る。きっとどの選択をしても後悔は残るのだろう。

 

 だったら──

 

「あーあ、死にたくないっすねぇ」

 

 

 

 

 

 ********

 

 

 

 

 

 冥界。薄暗い森の中、黒いローブをまとった人間──華霖が大地を駆ける。そして空高く飛び上がり手に構えた剣、その刀身に何か機械のようなものを滑らせる。

 

 《トリプル・スキャニングチャージ》

 

 機械から発せられる音。するとその刀身が徐々に光を帯び始め、華霖は無言で剣を振り下ろす。

 

「お、ぁああ……この俺が、こんなガキに……」

 

 その一閃は目の前のはぐれ悪魔を空間ごと真っ二つにする。そしてはぐれ悪魔は弱々しく漏らすと、物言わぬ死体となり地面に倒れこむ。

 息の根が止まったことを確認すると、華霖は懐から何時ぞやの機械を取り出し連絡を取る。

 

『おう俺だ』

 

「依頼、終わった。報酬よろしく」

 

『了解した。にしても……お前なんかいいことあったか?』

 

 通話越しの男の声に、若干疑問の色が含まれる。

 

「あった。でも、どうしてわかった?」

 

『いやな、お前の声がいつもより若干生き生きしてるからよ』

 

 華霖の淡々とした声音の変化を見抜く男。いったいどれほど人を観察する目が養われているのだろうか。

 

『ま、いいことがあるってのは喜ばしいことだ! じゃあな、またなんかあったらよろしく頼むぜ、ゼロ』

 

 そう言うと男は通話を切る。

 静かになった森の中、華霖は相手のいない機械に耳を当て小さくつぶやく。

 

「僕、ゼロじゃない。僕の名前、華霖」

 

 誰にも届かぬその声は、いつもより少しばかり誇らしげだった。

 

 

 

 

 




はい、というわけです。
締めくくりが苦手なので、終わり方が雑なのは見逃してもらえるとありがたいです。

今回、ようやく主人公の名前が発覚、というかつけられました。
カロリーフレンド→『カ』ロ『リ』ーフレ『ン』ド→カリン
こんな単純な思いつきです。いい名前が思いつきませんでした申し訳ない。

では次回も気長に待っていただければ嬉しいです!

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