偉い人達が私を対リンドウの暗殺者と勘違いしている 作:九九裡
〈side・アグネス〉
昨日は酷い目に遭った……。
いきなりサクヤさんに連れ出されてファッションショーですよ。なんか可愛いワンピースとか着せられましたよ。何故かフリフリの黒ゴスとか着せられましたよ。混ざった精神による若干の忌避感からジャージしか持っていなかったのに……でも着任祝いって買ってくれたサクヤさん優しい。というか、凄く優しくして貰った。ついつい泣いてしまったせいで保護欲とか沸き立てられてしまわれたのだろうか。
でも私の身長が低いせいか開発部の人に「妹さんですか?」なんて言われるし。いや、顔立ちも違うって分かるし、冗談だろうけどさ。まあ、ああいう服は、折角買って貰った訳だし非番の日にでも着るとします。
歳の割に成長遅いんだよねえ私。初期のアリサさんに年齢伝えたら「フッ」とか言われないか、心配だ。
「あ、アグネスさん。早速任務がアサインされてますよ」
おっと任務ですか。それにしても受注できますよ、ではなく、アサインされてますよとは。強制ミッションか。よかろう。その傲慢ごとへし折ってくれるッ!
「新人二人のサポートですね。鉄塔の森でのオウガテイルの討伐となります。できるだけ安全に、一対一で相手をさせてあげて下さい」
さらば私の活躍。
ターミナルを操作して神機の整備が終えられていることを確認し、リッカさんのところに行って受け取ってきた。
聞いて驚け。
私は新型神機使いである。
もう一度言うぞ。私は新型神機使いだ!
めっっっっちゃ痛かったぞ!
私がゴッドイーターデビューした時、適合試験が極東支部の腕輪ガチャンじゃなくて、本部ではフライア式のキュイイイイインギャリギャリギャリギャリだったんだよ!え?何!?分かんない!?
ドリルみたいなので手首に偏食因子ぶち込まれたんだよ!
適合率は高かったからまだ良いものを……いや待て。それでも確か80%だったな。つまり残りの確率で私はアラガミ化していたんだ。
フェンリルKOEEE!!ブラックにも程があるでしょうよ!
まあ私の所感はどうでもいい。
既に出撃ゲートの中だ。あとは新人二人ともう一人の引率を待つのみなんだが……。
そして。
「お、君が例の本部からの転属かい?」
その男は。
「噂は聞いているよ」
やってきた。
「僕はエリック。エリック・デア=フォーゲルヴァイデ。君もせいぜい僕を見習って、人類のため華麗に戦ってくれたまえよ」
……あっ、これきっとエリックさん死亡ミッションや。
妙に前面を開けた上着を着て惜しげもなくタトゥーの刻まれた体を晒し、グラサンを押し上げる赤髪のゴッドイーター。エリック・デア=フォーゲルヴァイデだった。
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〈side・コウタ〉
俺とユウが神機を持って出撃ゲートに入ると、既にそこには二人のゴッドイーターが待機していた。
一人はエリックさん。もう一人は……誰だろう。初めて見る顔だが……ユウと同じ新型神機使い?でも……
「中学生?」
俺がそう呟いた瞬間発砲音が鳴り響き頬を銃弾が掠めた。
ちょ、あの女の子拳銃向けてきたんですけど!隣のエリックさんも顔引きつってるんですけど!あれ絶対対アラガミ用じゃないよね!
拳銃を構えたまま俺とユウを睨み付け、呆気に取られた俺たちに彼女は言った。
「今回あなたたちの引率をする、アグネス・ガードナー。以後よろしく」
「は、はい……藤木コウタです……あの、アグネス、さん?引率はソーマとエリックさんって聞いてたんですが……」
「知らない。私に聞くな、あと私あなたより年上だから」
「「「えっ嘘」」」
三発の銃弾が放たれた。
危うく任務開始前に死んじゃうところだったよ。
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〈side・アグネス〉
やはりコウタもユウも初期装備か。なんなの?私が「エリック、上だ!」をやらなきゃいけないの?でも自己紹介終わったしエリックが油断する機会も無いし……大丈夫だよね?大丈夫かなあ……大丈夫だといいなあ。
いや別にエリックが死のうが生きようがどーでも良いけどさ。エリナちゃん可哀想じゃない。お洋服なんて要らないからエリック、帰ってきてよう……とか泣かれたら罪悪感で死ねる。
そして、バカラリー。誰が中学生だ殺すぞ。
現地……鉄塔の森は旧小田原市。そこまで送迎用のトラックで送られた。なんか池とか森とか建物とか、狭っ苦しいエリアだなー。
「ううっ……なんか異様に静かだな」
「ああ……」
気味悪そうに顔を顰めるコウタとユウだが、任務がもう始まっている以上周りに注意して欲しい。あと立ち位置とか気を付けて。じゃないと。
「いいかい君たち。しっかりと僕の動きを見て、任務の参考にするように。決して足手まといにならないようーー」
「エリックさん、上だ!」
壁の上からオウガテイルがエリック目掛けて飛びかかった。ユウが呼び掛けるのと全く同時、私はエリックに足払いをかけて転ばせ、オウガテイルの大口にブラスト形態に展開した神機をねじ込む。間近で口内でロケット弾をぶっ放して破裂させれば、その頭はいとも簡単に吹き飛んだ。……私が血みどろになるという弊害は有ったが。
私は呆然としているエリックを蹴り飛ばし、固まっている新人二人を
「決してこいつのような足手まといにならないで」
「うぐっ」
「「は、はい!」」
『すみません皆さん、私がもっと注意を払っていれば……』
ヒバリさんが申し訳無さそうにしているが、今回は庇えない。危うく人死にが出るところだ。私が予め警戒していたからエリックは助かったが、原作を知っていたから注意できたのであって知らなければ間違いなくシナリオどおり死んでいた。……ココにコウタがいる時点でシナリオから外れてはいるが。
私はミーハーであるが、流石に生と死の境界線はゴッドイーター最初の任務で弁えた。人間は容易く死ぬのだと、ここは決してゲームではないのだと理解した。
「今はいい。他に反応は?」
『いえ、有りません』
「ならいい。……おい、気を抜くなと言った。いつでも周囲警戒。コウタはアサルト使いだったね」
「うす!」
「後衛にて前方注意。エリックはブラストだから同じく後方でバックアップ」
「……分かった」
「クヨクヨしてるヒマがあるなら動け。ユウは私と同じ新型で……ロングブレードにアサルトね。ロングで私と前衛を張って。タワーシールドなら壁となることを意識」
「はい!」
「よろしい。丁度お出ましみたいだし……行くよ」
そして私達は、やって来たオウガテイルと一戦交え、その日の任務を無事に終えた。コンゴウが二匹、何故か出て来たのでエリックに二人を守らせて私が殺したが。いや、だってさ。本部でも組んでくれる人いなかったし、ソロ狩りの方が得意なんだよね私。久々のやり甲斐のある狩りでテンション上がって、メテオブッ放す時に妙なこと口走った気がするけど気のせいだろう。気のせいだ!
……うむ。
コウタは警戒が続かないのが悪い点。ただ全体を見る目自体は悪くない。
ユウは全体的に筋がいい。まだ萎縮して動きが固いが、きっと数年後には一人でマガツキュウビとか狩れるようになるんだろうな。
……いや、一月だからね?アーク計画が収束するまで僅か一月。その間に「ノヴァ」倒せるようになるってどんなバケモンよ。極東怖い。
エリック?
奴はアナグラに戻るなり問答無用で引っぱたきました。調子に乗ってお説教とかしちゃったよ。でも次はもう助けない。
ヒバリさんには謝られたけど、謝る順番が違うことと、あと警戒を怠った奴らにも責任があると言っておいた。
それにしても極東のオウガテイルもそこまで強化された印象はなかったなー。「ノヴァ」の影響が出てるはずなのに……ぬるま湯本部の雑魚ゴッドイーターである私でも倒せたんだし。きっとあのオウガテイル達は栄養失調だったんだよ。新人二人に当たったのがあれで良かった。
あと、隊長にゴハン奢ってもらえた。うれしい。
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〈side・コウタ〉
数時間前に俺が中学生なんて言ってしまった人。
本部からの転属である、アグネス・ガードナーさん。
彼女の強さは凄まじかった。
エリックさんが突然飛び出して来たオウガテイルにやられそうになった時も、アグネスさんはそちらを見もせずにオウガテイルの口に銃口を突っ込んで破裂させたんだ。
あの時アグネスさんがああしなかったきっとエリックさんは死んでた。
「決してこいつのような足手まといにならないで」
そういうアグネスさんの言葉は素っ気なかったけれど、とても怒っているのが伝わった。
その後はフォーメーションを組んでオウガテイル4体と交戦。俺がアサルトの通常弾で牽制しつつ、ユウとアグネスさんがオウガテイルを斬る。ちなみにアグネスさんの神機はヴァリアントサイズとブラスト、バックラーだった。
エリックさんも真面目にやってれば強いんだな。
俺とユウは初陣だったから凄く肝を冷やす戦闘だったけど。
で、問題はその後だ。
コンゴウが出たんだよ!二匹も!あのゴリラみたいな中型アラガミ!いやぁ、正直俺もうダメだと思ったね!オウガテイルに苦戦してるのにコンゴウなんて。
そしたらアグネスさんが言ったんだよーー
「下がって。ユウは盾展開。手は出さなくていい」
「で、でも!」
「聞こえなかった?下がれ」
そこからはもう快刀乱麻。
コンゴウの攻撃をアグネスさんは、回避するかジャストガードで完全に封殺していた。そこからのカウンターで叩き込まれる大鎌がコンゴウの体をドンドン切り裂いていった。後ろから殴られそうになっても、ジャンプしてその拳を足場にして幹竹割とか超カッコよかった!時々グレネードを使って目くらましして、リザーブしてオラクルを溜めてたよ。ひたすら二匹を切り刻んで、そして二匹ともに結合崩壊してダウン。動けなくなっていたコンゴウ達に向けて、アグネスさんはブラストを構えてーー
「
そう叫んだ途端、オラクルの弾丸が上空に飛んで行く。アグネスさんはトドメを刺すことなく神機をヴァリアントサイズに戻し、コンゴウに背を向けてゆっくりとこちらに歩いて来ようとしたがーー後ろでコンゴウ達が立ち上がって拳を振りかぶった!
「危ない!」
俺もユウもアサルトをコンゴウに向けて撃とうとしたけれどーーその瞬間、上空から大質量のオラクルの塊が降って来て大爆発を引き起こし、コンゴウ二匹を纏めて消し飛ばした!
「す、すげえ……!」
爆風に耐える俺とユウとエリックさんだったが、アグネスさんは爆発を背景に自分の揺れる髪を撫でていた……。
超カッコいいいいいい!
中学生とか言って本当にすいませんでした!
「これが……本部ゴッドイーターの実力……!」
エリックさんは恐ろしそうにそう呟いたけれど、アグネスさんは支部に戻った時にこう言っていた。
ーーあなた達新人二人にもあのぐらいは出来るようになる。
そう、言っていたんだ。
成れるだろうか。あんな強力なゴッドイーターに……いや、きっとなってみせるぞ。母さんとノゾミに楽させてやるんだ!
……いや、はしゃぎすぎちゃダメだ。無理は禁物だもんな。
エリックさんにビンタした時には驚いた。する前に「届かないからしゃがめ」と言っていた時にも驚いたけども。エリックさんが二メートル吹っ飛ぶくらい思い切り引っ叩いてアグネスさんは言った。
「あなたは家族を泣かせたくてゴッドイーターになったわけ?」
それだけ言うとアグネスさんは行ってしまったけれど、その言葉は俺の胸にも深く刺さった。リンドウさんも言っていた。「死ぬな、生き残れ」と。いくら俺が無理して母さんとノゾミに良い生活を送らせてやれても、死んじゃったらお金も入って来やしないんだ。
アグネスさんはきっと、本部でも凄腕のゴッドイーターだったんだろう。でも、だからこそ。
なんであの人は極東に転属して来たんだろう……?
次の日、休憩スペースでエリックさんとアグネスさんを見つけた。エリックさんがメチャクチャ真面目な顔して「昨日のス◯ラというバレットエディットを教えてくれ!」と言っていたけれど、アグネスさんは顔を膝に埋めて足をバタバタさせていた。なんか耳が赤かったけど、どこか恥ずかしいことでもあったのかな?