VividStrikeScarlet! ~コラボ集~ 作:tubaki7
渇いた音が複数響く室内。飛び散る汗と熱い息遣いが木霊する中で一際目を引く大きなリングの上で交わる金と赤。少女はグローブに包まれた拳を自分よりも大きな少年に向けて繰り出す。その速さはすさまじく、いま繰り広げられている光景が遊びでは断じてないことを示す。
「おっと」
グワッと迫った拳を躱す。隙あらば落としに来いとは言ったが、やはりこの子の”瞳”は尋常ではない。普段は明るく友人達とはしゃぐ年相応の女の子だが、一度リングに上がれば一人の格闘家としての顔を見せる。そんな彼女がとても魅力的に映るのは、それだけこの子が出逢ったころから大人びてきたということだろう。しかしこちらも防戦一方というだけでは練習にはならないので頃合いを見て反撃していくことにする。
「うあっ」
急に抗戦してきた為に、そんな声が出てしまう。それもそうだ、先ほどまで追い詰めていたのはこちらだったというのに口元に笑みを浮かべた途端急に動きが変わったのだから。未だもって、こういう唐突なアドリブには若干の隙を見せてしまうのはまだまだ課題となりそうだと並列分散思考能力マルチタスクで考えながら、母譲りの負けん気と不屈の闘志で攻勢にでる。防いでは撃ち返し、躱しては反撃しを幾度となく繰り返す二人。
ああ、楽しい。やっぱりこの人との撃ち合いは心が踊る。
『マスター』
しかし、そんな楽しいひと時も少年の相棒の一声によって終わりを告げてしまう。此方の繰り出した拳をキッチリと受け止めることでそれまでの撃ち合いに終止符を打った。
「ごめんヴィヴィちゃん。緊急コールみたい」
「あ、はい。ありがとうございました、アスカ先輩!」
そう言って頭を下げる後輩の、これも母親譲りな綺麗な金髪をそっと撫でる。そうすると、花が咲いたような笑顔で送り出してくれるからこの子は本当にいい子だなとアスカは思う。
「お疲れ。嘱託も大変だな」
「会長ほどじゃ、ないけどね」
リングを降りてすれ違いになったノーヴェに一声かけてから更衣室へのドアへと向かう。
「それじゃ、俺はこれで今日はあがるからお先にね」
「はい、お疲れさまです」
「せんぱーい、明日の約束覚えてますよね!」
「わかってるよリオちゃん。駅前10時だよね。可愛い後輩達との約束を忘れるもんですか。フーカ、戸締りしっかりな」
「お兄ぃに言われんでもちゃーんとしとるわ。それより、そっちこそ気を付けて」
不器用ながらも笑みで送り出してくれるフーカ、笑顔で手を振るリオ、コロナ、ミウラ。に手を振り返して更衣室へと戻る。
「で、内容なんだけど――――」
と、手にした愛機に報せの内容を聞こうとした瞬間。アスカは手に持っていたタオルを無造作に落としてしまう。口はだらしなく開き、目は瞳孔をこれでもかというほどに見開き一点を見つめている。
「あ・・・え、あ、あの・・・・っ」
その先には、今まさに着替えの真っ最中だったアインハルトの姿があった。幸いなことに入ってきたアスカにいち早く気づいた為なんとか前を隠すことはできているものの、それでも裸を見られてしまったという事実に変わりはない。故に。
「oh、マイッチング」
直後に断空拳を有難く頂戴したのは、言うまでもなかった。
◇
《なるほどね。それでそんなに顔面が張れてるわけ》
ホロウィンドウの向こう側であきれ果てて溜息をつくアスカの上司にあたるギンガ・ナカジマ。
「正直、拳もご褒美でしかなかったので今興奮が収まりません」
《貴方を変質者として逮捕する日が来ない事を切に祈るわ・・・・そんなことより、今回のことだけどね》
「はい。確か不審な魔力反応が検知されたんでしたね」
会話をしつつ、魔力で身体強化した脚力で建物の屋上を走りながら渡って行く。通常市街地での魔法使用は特定地帯や魔法戦技以外は管理局法により固く禁じられているが公務の場合、申請をして受理されれば局員資格を持っている者であれば使用が可能となる。アスカは時空管理局地上本部陸士108隊預りの嘱託魔導師である為、このような事が可能となっているのだ。
《そう。ナカジマジムから近かったから貴方が適任と判断されてのことよ。それから、ちょっと面倒・・・というか、困ったこともあって》
なにやら言いにくそうに言葉を濁すギンガ。割と言いたいことはきっぱりと言う性格を知っているだけあってそれがどれほどの事かを理解する。
「ってことは、それ含めて俺に指名が入ったってことですね」
《流石、話が早くて助かるわ。悪いんだけどお願いね。現地協力者・・・・・の子ももう近くに待機してるから》
マップを見れば合流地点に赤く点滅する光がある。距離はもうすぐ近く、このビルを超えれば足元だ。力強く跳躍し、飛び越えた先には銀色の髪をした自分のよく知る少女が制服姿で立っているのが見えた。
「リンネ!」
名前を呼べば嬉々とした表情で振り返るリンネ。
「まったくダメじゃないかこんなことしちゃ」
「ごめんなさい兄さん。でも、どうしてもあの時のお礼がしたくて・・・・私が拉致された時、兄さんに助けてもらったでしょ?もし、私と同じように酷いことをされているかもしれい人がいるなら・・・私も助けたいの」
真剣に訴えてくるリンネ。断る、というのが普通だがこれで断れないのがアスカという少年の弱いところであり、また彼らしさというものだろう。渋々了承の意を伝えると笑顔で返すリンネ。いつになっても、この子のこういうお願いには弱いのは少しは治さないとなと思う。
「ただし、俺の指示には絶対に従ってもらうからな」
「はいっ、アスカ捜査官!」
「俺はただの嘱託だよ・・・っと、この辺りか」
反応が検知されたポイントへとやってくると、何やら話し声が聞こえてきた。場所はビルとビルの間、所謂路地裏である。人気のないまだ昼間だと言うのに薄暗い場所で起きたこととなると言葉だけでもきな臭い話ではある。アスカはリンネもいるということもあり、警戒心をとがらせる。慎重に角を曲がれば、そこには。
「いててて・・・あの人のくだらないガラクタのせいで酷い目にあった」
「シュウさん、私も!私も足が痛いです!これは骨が折れてるかもしれませんね、仕方ないのでシュウさん抱っこしてください。贅沢は言いません、お姫様抱っこで我慢しましょう」
「ほう、いい度胸ですねヴィヴィオさん?ところでシュウさん私も足が痛いです」
「ここはどこだ・・・見たところ雰囲気はミッドみたいだけど・・・」
「あ、あのー・・・」
何やら騒いでいる二人を放置し、リンネは比較的常識がありそうだと判断した少年に問いかける。
「ん?・・・なんだ、リンネじゃないか。というか、背縮んだ?いや、それよりも・・・」
「え、なんで私の名前を・・・って、ええ!?」
リンネが驚愕の表情を浮かべる。それもそうだ。なんせ目の前には――――
「ヴィヴィオさんに、アインハルトさん!?」
今ジムにいるはずの二人が、文字通り大きくなった姿で目の前の少年に抱き着いていたのだから。そうとなれば当然。
「わ、兄さん!?ちょ、兄さん!?」
突如吐血してバタンとぶっ倒れる兄貴分の少年。そしてヴィヴィオとアインハルトとおぼしき少女にこれでもかと抱き着かれる少年。なんともカオスな空間がそこにはあった。
「あー・・・うん、あれだ。これメンドクサイ奴だ」
溜息をついて、少年は空を仰ぎ見た。