第十話 男友達
『んじゃ、その教科書は貸してやるから見つかるんじゃねぇぜ?』
門限が近くなり、私達は解散したのですがその時に門崎くんはマイスター用の教科書を私に譲ってくれました。
教科書と言っても初級編の様な基礎知識編なのですが、それでも彼の負担を減らす事が出来る様になりますし、やはり自分のデバイスの調整はある程度自分で出来る様になった方が良いと思います。
食事やお風呂を済ませ、授業の予習をした後に貰った教科書に目を通す。
付箋やサインペンによるマーカーが引かれていて、何度も読み返した後がある教科書を見ていると益々彼が学校で何故三枚目を演じているのか分からなくなります。
紹介された当初はコレでもかと言うくらい口説かれましたが、いざこうやって付き合いをしてみるとその様な言動は鳴りを潜め、むしろ私達を見守ってる様な大人びた雰囲気を感じる時があります。
大人びた、と言えばもう一人の男友達の灰原くんも周りの子とは雰囲気が全く違います。
なんといえば良いのか、彼からは人間らしさと言うものがごっそりと抜け落ちた様なそんな印象です。
……その点について私がどうこう言える物では無いのですが、少なくとも今の彼は昔よりマシとなのはちゃんや門崎くんが言っていた事を覚えています。
曰く『話しかけても反応が一切無い』『目と目を合わせて話しかけても自分が話しかけられてると認識出来ていない』『未だに両親に敬語を使う上に何処か他人行儀』『塩と砂糖を間違えて山盛りに塩を入れられたクッキーを表情一つ、ペース一つ変えずに無言で完食した』などなど、門崎くんにメンテナンスルームで聞いた彼の話は大概が苦労話でした。
『受け答えが出来るレベルまで回復させるのになのはとの二人掛かりで今の今まで掛かった、ぶっちゃけ良く今まで付き合い続けられたなって自分でも思うわ』と言っていたのが印象的でした。
異性の友人、と改めて考えて見てもこの二人は特殊過ぎて実は距離感が悩ましかったりする、何処まで踏み込んで良いのか、とか考える時がある。
「ねぇスノーホワイト、ちょっと良いかな?」
『どうされましたか? スズカ』
「あ、うん、灰原くんと門崎くんとの距離感に悩んでて……」
悩んだ私はついスノーホワイトに意見を求めてしまった、こんな時インテリジェントデバイスだと会話が出来るから便利だなぁ。
『……そうですね、ハイバラ様とは余り面識が無いので何も言えませんが、マイスターならば』
「マイスター……門崎くん?」
『はい、彼は率直に言って人付き合いに対して臆病なのだと思いますわ、ですから出来もしない三枚目を演じるのでは無いかと』
人付き合いが臆病、か……。
私もその臆病な部類の人間だ、彼に対する距離感の測り損ねは同類だからだろうか?
そんな考え事をしながら就寝した私でしたが、その深夜にジュエルシードの気配を察して飛び起きる事になりました。
▽
時刻は午前2時半、家の人は寝ていたのでコレ幸いにと反応があった場所へと駆け付けたのですが……。
到着した先は海鳴市の共同墓地、ジュエルシードが反応したにしては暴走体の反応も無いし、それが居る様な物音は聞こえない。
ううん、良く耳を澄ませると人の話し声が何気なく聞こえて来てる、それも大人数の声、私が此処に来るまでの移動時間も考えると既に3時前だ、なのにコレは一体?
困惑しながら耳を澄ませながら慎重に墓地へと侵入して行くと、色んな年齢の人の話し声が鮮明に聞こえて来た。
話の内容は生前の自分がどの様な人生を送ったのか、と言う内容で、墓石に座った死装束の人達が思い思いに近い場所に居る人へ自分の話を一方的に話すだけでした。
まるでC級ホラーを見てる気分になって来ました、しかも明らかに故人と目が合ったにも関わらず、彼等は話す以外に行動が出来ないらしく私に何もして来なかった。
時間が時間だし、私一人で解決するしか無いかと状況にブルーとなりましたが、肩を落とす私の耳に男性の断末魔が聞こえて来ました。
咄嗟に結界を張りましたが、それからも聞こえる断末魔の声と、漂う死臭混じりの血の匂い。
すぐさまバリアジャケットの設定にそれらの匂いを弾くように入力すると、恐る恐る声の方向へと向かいました。
其処には血の滴る日本刀を下げ、返り血で全身を汚した灰原くんが一人一人個人を殺害して行く姿がありました。
私が到着する前には既に来ていたのでしょう、思わずこちらが凍り付いてしまうほどの無表情で淡々と刀を振るう彼は、敵意を向けられているからか故人達が口にしはじめた泣き落としや命乞いなど微塵も聞かずに一人、また一人と斬り捨てて行く。
彼は老人を斬った、袈裟斬りにした傷口から胃・腸・肺とジュエルシードが有りそうな部分を切開して行きました。
彼は壮年の女性を斬った、正中線をなぞるように頭から一刀両断にした後、身体を開いて次を斬る。
彼は赤ちゃんを踏み潰した、無垢な目をした赤ん坊と目を合わせながら頭を踏み潰し、胴体を刻んで中身を調べている。
彼は私達と同じくらいの女の子に切っ先を向ける、『やめて!!』『お願い助けて!!』と言う声に耳を傾けるどころか、喉に刀を突き刺し、そのまま頭の上まで切り開く。
そこまで、するか?
思わず私は後ずさり、淡々と故人達を惨殺する彼の姿に恐怖する。
自分の一族の事で自分はバケモノだと普段から悩んでいた事が馬鹿らしくなるほどの虐殺、私がバケモノだと言うなら彼はなんだ? 血を啜る私よりも、同じ人間をあんな目をして殺して行く彼は本当に人間なのか?
そんな事を思ってると、彼が遂に当たりを引いたのか眼球を握り潰してその中に埋まっていたジュエルシードを取り出した。
「––––すずか、見てるんだろう?出来ればコレを封印して欲しいんだけど」
「えっ? き、気づいてたの?」
「気配で分かるよ」
そう言って彼は何時から気が付いていたのか、私に向かって回収したジュエルシードを投げると刀を血払いして近くの墓石に腰掛けた。
私は不謹慎だなと思いながらもジュエルシードを封印し、それを見届けた灰原くんは何事も無かった様に立ち上がった。
その動作だけで思わずビクついてしまったけど、そんな私に『何もしないさ』と言って私の内心を見透かしたように抑揚の無い声で語りました。
「俺には道徳心や感情と言った人間らしさが欠落してるらしくてね、だから平気で人も動物も関係無しに殺せるんだよ、愉快殺人鬼とか快楽殺人鬼とかでも無い、文字通り何も感じないのさ」
「…………」
「無論俺は君も殺せる、門崎も、なのはも、アリサも、両親だって必要ならあっさり殺すだろう」
––––人間としての必要な部分を全て欠落した、しなければならなかった俺はさしずめ火の無い灰といったところか。
彼はそんな風に自分の事を表現した後、血も拭わずに私の横を通り過ぎて行きました。
その際に彼の身体にこびり付いた血液が私の本能を揺さぶりましたが、そんな私の変調に気が付いた灰原くんの殺気に当てられてしまい腰が砕けてしまう。
後に残ったのは虐殺された死体が露と消えた共同墓地と、そこに佇む私だけ、思わず自分の胸に手を当てて生きている事を確認した私はその場にへたり込んでしまうのでした。
長らく放置して申し訳ありませんでした、不定期更新で再開したいと思います。