第二話 平和
数年が経ち、学校に通う様になった。
向かいの門崎とは縁があるのかクラスが一緒だったが、なのはとは別のクラスとなった。
俺は気にしてないんだけど、門崎は『ふつー俺か灰原のどっちかが原作組と同じクラスになるんじゃねぇの?』と普段通りよく分からない事を呟いて頭を抱えていたが。
「あーあ、授業中にいっつも思うけどさ。中身が成人してるのに小学生の授業とかやってられ無いよな〜」
SHRが始まるまでの時間に隣の席に座った門崎がそんな事を言い出した。
「俺は教養が無いから別に苦に思わないんだけどな……」
「教養が無いっつーか、常識がないっつーか……お前の場合は、なぁ?」
「自覚はある、けどどうしようもない」
「前世の俺以上に悲惨だな……」
確か彼は以前の世界では社会人だったとか言ってたな、ただ本人の話を聞くとかなり問題のある会社だったらしく、ほぼ毎日16〜18時間労働だったとか、基本休日出勤が当たり前だったとか、貴重な休みはアニメ見ながら寝るくらいしかやる気が起きなかったとか色々とあったらしい。
そんな生活が祟って死因は過労死、死後に神を名乗る何かにこの世界に送られたと言っていた。
その後は才能を貰い、この世界の魔法を行使できる手段を手に入れて転生、本人曰く『創作物の中は非現実なんだから自由に生きられると思っていた』との事だ、ただそれは俺に喧嘩を売った時に此処も現実だと思い知った、と言っていた。
「そう言えば、なのは達のクラスへは行かなくて良いのか?」
初めて会った時になのはの事を俺の嫁、と言っていた様な気がするんだけど……。
「ん? いや、ほら、クラス違うし、そもそも男女の差があるからなぁ……話をするのは嫌いじゃ無いんだけど、ノリの違いとか話題の違いで共通の話が無いんだよ」
「そうか」
「つか、俺が咬ませ犬ポジションなんだからむしろ主人公ポジのお前が積極的に関わりに行けよ」
「時々君はよく分からない事を言うな……」
「過去の俺の言動を振り返ったらそんなもんなんだよ、俺がウザ絡みして嫌われてそれを出汁にうまーく女の子と仲良くなる的な?」
そんな話をしていたら門崎が座っていた席の生徒が登校して来たのと、SHRが始まる頃合いになったので彼は自分の席へと帰って行った。
平和な世界、常に帯剣して周囲の微かな物音にすら神経を集中させる必要が無い世界に転生した事は嬉しい。
ただ魔法と言う力が存在しそれが秘匿され、或いは一般的でない世界である点が気にかかる。
この世界とは違う世界、ミッドチルダ……と門崎は言ったか、其処では科学的な魔法が行使されている近未来的な世界だと言う。
そんな世界の力を持つ彼が魔法が普及していないこの世界にいる、と言う事はそれを使う機会が存在すると言う事になる。
いつかまた、俺は剣を握る事になるのだろうな。
半ば確信じみた思いを胸に、俺は始まったSHRに意識を傾けるのだった。
▽
四時間目の授業が終わり、昼食を食べる為に思い思いの場所に向かう同級生を横目で見ながら先ほどの授業について考えていた。
授業内容は将来の夢について、様々な人の成功談を聞きその過程を知る事で夢に向かって努力をする大切さを学ぶ内容だった。
宿題として出された作文、渡された原稿用紙数枚を眺めながら自分の将来と言う物を考えようとし、断念する。
全くその姿が浮かんで来ない、漠然としたイメージだけでなく一時間前の自分の事すら想像することが出来ない。
辛うじて浮かぶイメージが、誰かを斬り捨てた自分と無残に死骸を晒す自分の二つ、将来の夢は辻斬りですとしか書けそうに無い有様だった。
考え事に耽っていると俺の側に来る気配が一つ、顔を上げると門崎が弁当箱を持って立っていた。
「メシの時間だろ? 屋上で食おうぜ、屋上で」
「……分かった」
この男の能天気な部分が真面目に羨ましい、自分の中から欠落してしまった物を持ち合わせているのだから。
屋上へと移動するとレジャーシートを広げたなのはを見つけた、どうやら友人達と一緒に居るらしい。確かアリサにすずかと言う名前だったか、以前紹介された時に軽く話したきりだから自信がない。
此方に気が付いたなのはが手招きをしたのでその通りに彼女の元へ行くと、後ろの門崎が『犬かお前は』と呆れながら着いてきた。
「ゆーくん達も一緒に食べようよ!!」
「分かった」
「お前のその即決即断は考えてんのか反射的な物なのか割とマジで謎だな」
なのはの誘いに乗っただけなのにその言いようは無いだろうに……、そもそも謎だと言うなら昔なのはに紹介した時にいきなりナンパから入った彼の行動の方が謎だ。
アリサ、すずかに会った時にも口説いていたし、年齢問わず初対面の女性が居たら五割近い確率で口説きに行くから彼の場合そう言う生態なのだろうか?
「えっと、灰原君……だよね?」
「ああ、灰原でも悠希でも好きに呼んでくれ」
「んで俺が皆んなの門崎さん、気軽に紳助君って呼んでね?」
「うんありがとう門崎くん、それはまた今度ね?」
「地味に傷付くパターンだこれ」
茶々を入れる様にすずかの確認に割り込む門崎、悪い奴では無いと理解してるらしく笑顔で彼女はそれを受け流した。
そして強気なもう一人の少女、アリサ。
彼女は初対面時、俺の顔を見るなり『サイボーグみたいね、アンタ』と割とキツイ事を言ったから印象に残っている、別に気にしてはいないのだけど、向こうは失言だと感じているのか少しばつが悪そうだ。
「どうした?」
「……別に、なんでも無いわよ」
「と言いつつ内心では自分の過去の発言に負い目を感じ、謝れない自分に嫌悪感を抱くも素直になれないので『ゴメンね』の一言が言えないアリサちゃんでした!! 頑張れアリサちゃん!! 負けるなアリサちゃん!! ツンデレクィーンの栄光を掴むその日まで!!」
……門崎は茶々を入れなければ死ぬ病気にでも掛かっているのだろうか? 途中からアリサが俯きながらぷるぷると震えている事に気がついているのか?
彼が最後の一言を言った瞬間、アリサの握っていた箸が折れると同時に握り拳のままアッパーカットが放たれ門崎の顎を的確に打ち抜いた。
「いってぇ!! この野郎殴りやがったな!?」
「ハン!! 避けれないアンタが悪いんでしょ!! 男の癖にすっとろいわねぇ〜」
「おやぁ? ちょっとからかっただけで初手暴力の不良娘が何言ってんですかねぇ? こっちは非暴力不服従のガンジーリスペクトだぞコラ? 殴られる事見越して敢えて食らってやったんだよ? なに? そんな程度の事も分からない知能なんですか? 確か成績は上から指折りで数えた方が早かったですよねぇ? それにしては貴女の知能指数低過ぎませんかね? 人類の長所である会話を使わずに初手アッパーを選択した脳味噌チンパン娘の癖にいっちょまえに人煽ってんじゃねぇよブン殴るぞコラ」
「醜いガンジーも居たものだな……」
暴力を振るわない代わりに言葉の暴力を使う非暴力主義者か、全く言葉が響かない事この上ないしそもそも結局暴力に訴えようとしているのだから非暴力もクソも……。
結局この喧嘩の仲裁はなのはとすずかが行い、この場は収まった。
頭が冷えたのと口喧嘩をひとしきりして気分がある程度晴れたのか、アリサからはちゃんと謝罪は貰った。
コレを彼が狙ってやったのかは分からないが、まぁ関係が良好になっただけマシ思おう。
気が付けば俺は教室での悩みなど忘れてこの休み時間を満喫していたのだった。