第三話 転成者視点
放課後になったので、灰原と一緒になのは達に合流した俺は、帰り道の雑談に平行しながら今後の事を考えていた。
今日の授業内容、確か原作でなのはが魔法に関わるイベントが起こる日の授業だったはず。
昨日はデバイスのプログラムを組み立ててたから念話に気が付けなかったんだよなぁ、学年が上がった時点で今日に備えるべきだったんだけど、本格的に介入しようと思ったら戦闘は避けれないし、そう思ったらデバイスの調整とメンテナンスは必須だ。
才能を貰ったとは言え、実はそれほど魔法を使えていない。
一応親父がミッド出身の元デバイスマイスターなんだけど、母さんはコッチの人で魔法は知ってるけど使えない、親父もリンカーコアが無い所為で実演して教える事が出来ないんだ。
インテリジェントデバイスを使えば共に成長できるとは思うけど、性格を持っている以上自分に合った人格のデバイスを合わせないとダメだし、探すのにも時間がかかる。
今使ってるデバイスは親父の昔の仕事道具とこの世界の機材を組み合わせて作ったストレージデバイス、出来立ての時なんか障壁はおろかバリアジャケットすら使えない側だけのデバイスだった。
その結果、魔導師用の参考資料を読みながらの独学しか魔法を習得する手段が無く、子供の吸収力に期待しても中身が成人してしっかりとした人間性が出来てしまってる所為で思った以上に習得に時間が掛かる。
そもそも術式の構築自体を自分で行わなくてはならない、記録するための道具でしかないストレージデバイスだとAI自体が組み立ててくれる事なんて無い。
いっそ自分でAIを作るか?とも考えたけど、今からじゃ親父に教わりながらの構築に加えて教育に時間がかかり過ぎるから却下、幸い前世はプログラミング関係の仕事をしていたから術式の構築作業自体は苦じゃない、過労死の思い出が蘇るから複雑だけど。
意気揚々とこの世界に転生しはしたけど、やる事が多過ぎて実際はそれほど気楽じゃない、今俺が使える魔法だって自分の持ってる風の変換資質を使った物だから疲れるし、才能って何だったんだよ……。
と、そんな事を思っていたら助けを求めるユーノの声が聞こえ、弾かれた様になのはが走り出した。
始まったなと思ったのも束の間、走り出したのはなのはだけでなくアリサとすずかの二人もだった。
しかもなのはを追ってじゃなくなのはと同じタイミングで走り出した、つまりこの二人にも魔法を使う才能があると言う事だ。
原作と違う、思わずそう考えた俺はつい足を止めてしまっていたが、灰原に肩を叩かれ『行かないのか?』と問われた事でハッとなり、後を追った。
幸いな事にその後は一応原作通り、倒れているユーノを動物病院に連れて行く流れになった。
ただ思いの他ユーノの怪我は酷く、念話で話しかけて見ても反応が無かった。
「これで取り敢えずひと段落よ、けど酷い事する人も居たものね……今日は二件目よ」
「二件目って言うと?」
容体が落ち着いたユーノを眺めるなのは達には聞こえなかったらしく、病院の先生が呟いた二件目と言う言葉につい反応してしまった。
先生が悲しげに指を差した方向には虐待を受けたような痛々しい姿の子猫がいた。
しかも明らかに人間の手による虐待、片目は潰れ肌は焼け爛れて尻尾も切れている、俺が言葉に詰まっているとなのは達もその子に気が付いたのか悲しそうな顔をしていた。
「朝病院の前の側溝に捨てられててね……、今は落ち着いてるけど何時容体が悪化するか分からないの」
「酷い、話ですね」
「どれだけ小さな生き物にも命はあるのに、こんな事をする人は少なく無いのよ」
––––貴方達はその優しさを忘れないでね?
帰り際、先生に言われたその言葉が妙に耳に残った。
▽
その夜、デバイスの最終調整を終わらせた俺は原作イベントが起きるまで部屋で待っていた。
昔灰原のおかげでプライドを折れたけど、奴は原作を知らないし、昼間のユーノの声にもノーリアクションだったから原作の事件に積極的に関わる事は無いだろう。
つまりまだ俺も自分が非凡な人間だと証明できるチャンスがある、なんの目的も無くただ生きる人生はもう沢山だ。
そんな事を考えていたら遂にユーノの念話が入る、かなり切羽詰まった声だったから現在進行形で襲われて居るんだろう、俺は勢い良く部屋を飛び出した。
––––この時、俺はこの世界を現実だと認識していたにも関わらずまだこんな甘い事を考えていた。
病院へと駆け付けると既に三人娘がユーノと合流していた、けどやっぱり灰原は来てなかった。
出遅れたか?と思った瞬間、病院の中から壁をぶち壊して中から巨大な思念体らしき物が飛び出して来た。
その瞬間俺は結界を貼り、周りへの被害が出ない様にしてから三人娘と合流する。
「おい三人共、無事か!?」
「門崎君!?」
「俺は一応魔道士だからな、ありゃ思念体か?」
なのはの驚く声に被せる様に自分の事を話し杖を展開する、本当はモード2の銃を使いたかったんだけどあり合わせで作ったデバイスだからかシステムの問題でイマイチ切り替え動作が安定しないから仕方ない。
ツインブレードの様な杖を握りながら初の実戦に興奮して居ると、ユーノがなのはの肩に乗って叫んだ。
「いえ、アレは思念体じゃありません!! 確かにそう見えますがアレはロストロギアを取り込んだ原生生物です」
「ハァ!?」
「ちょ、ちょっと!? さっきから私達にも分かる様に説明しなさいよ!? てかフェレットが喋った!?」
思わず驚いたけど単に原作との差異が現れただけかと思い直す、そしてアリサの言葉を聞き流しながらバインドを使おうとした時に街灯に晒された暴走体の顔に気が付いた。
確信は無い、けど顔の傷や肌の焼けた痕の残る暴走体はあの虐待された子猫と同じ場所に同じ傷を受けていた。
三人娘もその事に気がついたのだろう、変身していたなのはも思わず杖を下ろしてしまっている。
そんな隙を向こうが見落とす筈が無く、アスファルトを捲る様に此方に突進して来た。
慌てて障壁を貼ったが、貼り終わった瞬間に相手の目標がデバイスを持たないアリサ達だと気が付き、咄嗟にバリアジャケットに魔力を回しながら彼女達の間に身体を差し込み攻撃から庇う。
しかしその瞬間俺の意識が一瞬で吹き飛び、壁に叩きつけられた衝撃で再び意識を取り戻す。
揺れる視界で顔を上げると、恐怖に震えるアリサ達とそれを守る様に杖を構えるなのは達が目に映り、打算抜きで助けなくてはと思った俺はふらつく身体に鞭を打って杖を振って風の刃を放ち、暴走体を攻撃する。
けど俺の魔法は非殺傷設定が掛かっているからか暴走体の身体に傷を付ける事は無く、その神経を逆撫でするだけに終わる。
元々虐待された小動物が相手、しかも容体が安定しない状態だ、非殺傷設定でも十分に死ぬ可能性がある、そんな躊躇いの所為で攻撃が通じなかったんだろう。
しかも風の刃が斬撃を目的とした魔法だった為、それがあの暴走体のトラウマに火を付け俺に殺意をぶつけて来た。
それに体が竦んでしまった俺は反応が遅れ、次の瞬間には前足で横殴りにされて吹き飛ばされた。
バリアジャケットの強化や障壁、デバイスを差し込む事すら出来ずに直撃を貰った俺は地面をボールの様に跳ねながら電柱に額を打ち付ける。
頭痛と口の中に広がる鉄の味、思わず手を額に当てると手の平が真っ赤に染まる程の出血に死の恐怖が浮かぶ、全身の至る所が激痛に襲われている所為で負傷した部分が分からない。
ふと、影が差し、顔を上げると、暴走体が怒り狂った目で俺を見下して居た。
殺される、そう悟った俺は自分の死が恐ろしくなった。
痛い、熱い、血が足りなくて寒い、内臓がやられたのか吐き気もだ、けどそれ以上にゆっくりと大切な何かが流れていくような錯覚、それが気が狂いそうになるほど恐ろしい。
なのはに助けを求めようにも彼女の優しさが元々虐待されていた小動物に対して魔法を撃つ事を躊躇わせるのか、杖の先が揺れていた。
そんな気配を察したのか次のターゲットをなのはに向けた暴走体はそのまま大口を開けながら彼女へと飛び掛った。
絶望的な表情を見せたなのはだったが、その後ろから日本刀を持った灰原が現れ、一切の躊躇無く居合い抜きを放つ。
放たれた銀閃は恐ろしく疾く、刀身の煌めきしか目視する事が出来なかった。
野生動物的な直感でその抜刀に反応したのか、大きく後ろに暴走体が飛び退いた。
「門崎のご両親から連絡を受けて探しに来て見れば、間一髪と言ったところか」
「ゆー、くん?」
「みんな安心してくれ、俺が片付ける」
灰原がそう言ったかと思うと、刃物を持った人間に殺意を向けた暴走体が突撃する。
しかも直線的な動きじゃなくて、塀や電柱なんかを使いながらジグザグに回りながらの移動だった。
早過ぎて目で追えない、なのに灰原は視線だけでその動きを捉えて刀を振るう。
その瞬間、暴走体の足が一本刎ねられた。
「……はっ?」
思わず声が漏れる、残像が残るような速さの相手を正確に斬るなんて想像も付かなかった、俺よりは強いとは知っていたけど差が此れ程とは思わず、俺はただただ呆然とするだけだった。
足が斬れた事で着地と共に身体がよろめく暴走体、それを見逃さず灰原は身を低くしながら暴走体の下に滑り込み、スライディングしながら腹を大きく掻っ捌く。
大量の出血と零れ落ちる内臓、三人娘が短い悲鳴を上げると同時に灰原は後ろ足の間から抜け、そのまま背中へと飛び乗った。
これだけ傷付けられても暴走体は倒れない、それを見た灰原は何の感情も映さない目で見下していた。
「まだ動くのか、その執念は見事だけど––––首を落とされても動けるかな?」
その一言で灰原は刀を一閃して首を刎ね飛ばし暴走体は元の姿へと戻る。
そして後に残ったのは血塗れのジュエルシードと惨殺された子猫の死体、殺したソレに奴は一瞥もくれずにジュエルシードを刺激する事なく斬り捨てた。
「終わったぞ」
返り血に塗れ、平坦な声と平坦な表情を見せる灰原に、俺は恐怖を抱きながらも同時に強い憧れを抱く自分に気が付いた。
彼奴は、あの強さは英雄的な強さだ、この世界が現実だったとしても、彼奴は間違いなく武の英雄だ。
気が付けば恐怖は消えていた。