艦これ 〜不沈の艦娘たち〜   作:ハツマゴ

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第一話

 

「……もしかして、提督に何か御用ですか?」

 

 灰色がかった長い黒髪に橙色の瞳、巫女装束のような服に身を包んだ女性―榛名は、鎮守府前にいる男に問いかけた。

 

 今日は来客の用事は無かったはずだが……。

 

 そう思っていると、男が口を開いた。

 

「ああ。俺は……」

 

 

 

 

 男から事情を聞いた榛名は、男と連れの6人の女性―艦娘を提督室に案内する。

 

「それでは、少々お待ちください。……提督、お客様がお見えになっています」

 

 三回のノックのあと榛名はそう言い、返事を待つ。

 

「ああ、わかった。通してくれ。……と、その前に」

 

 その前に、と聞いて少し呆れた表情をしてしまう榛名。

 そんな榛名を見て、男と艦娘たちは首を傾げてしまう。

 

「え〜と……榛名を含めて、そこには8人いるね。それと、7人は艦娘だろうか。あ、もういいよ」

 

 8人いると言われ驚き、7人は艦娘、のあたりで唖然とする男と艦娘たち。

 それを見て榛名は苦笑しながら、提督室の扉を開く。

 

「提督、失礼します」

 

 榛名が提督室に入ったところで男と艦娘たちは我に返り、慌てて続く。

 すると、

 

「はあ、あんた、本当にソレ好きよねぇ」

 

「これは感覚を養うためにしてるんだ。叢雲も始めたらどうだ?被弾率が下がるかもしれないぞ?」

 

「……ま、アリかもしれないわね」

 

 長い銀髪に赤みがかったオレンジの瞳、ワンピース風のセーラー服を着た少女―この日の秘書艦である叢雲と、この鎮守府の提督が話しているところだった。

 

 榛名たちが入ってきたところで会話を切り、男へ向き直る。

 

「いきなりお邪魔する形になって申し訳ない」

 

「いえ。それよりも、他の鎮守府の提督が何の用で?問題となることはしていないはずですが……」

 

 男の言葉通り、いきなりの来客に困惑しながら応じる提督。

 そんな提督に対し、男は本題を口にする。

 

「いや、もう俺は提督ではない。ただ、君に頼み事があってきた。……時間は大丈夫か?」

 

 そう聞き、提督は時間を確認する。

 時間は夕方の五時。あと一時間もすれば、この鎮守府では夕食の時間だ。

 

「大丈夫ですね。……叢雲、お前はこの部屋の外で待機していてくれ。榛名は戻っていいぞ」

 

「はい、了解しました」

 

「はいはい、わかったわよ」

 

 提督の指示に従い、提督室をあとにする叢雲と榛名。

 

 提督室には男とその艦娘、そして提督が残された。

 

「あ、どうぞ座って。それで、用件は?」

 

 男がソファに座ったのを確認して用件を聞く。

 

「ああ。だがその前に、経緯は伝えておかねばな」

 

 そして男は話を始めた。

 

 

 

 

「そんなことが……あったんですか」

 

「ああ」

 

 話を聞く限り、深海棲艦の奇襲攻撃によって彼の鎮守府は陥落したらしい。そして同時に、出撃中や遠征、演習に出ていた艦娘以外、全滅した。

 彼自身も傷を負い、先週まで入院していたらしい。

 

「俺が提督ではない以上、艦娘を連れているのはおかしい話だ。そこでだ。お前に、彼女たちを預けたい」

 

「………」

 

 男の言葉を聞き、熟考する提督。

 

 おそらく彼女たちは、この鎮守府の艦娘より練度が高い。

 即戦力になるだろうが……。

 

「しかし、なぜ私なんです?」

 

 思わずそう聞いてしまう。

 なにせ、まだ提督になって一年と数ヶ月しかたっていない新米なのだ。

 自分以外、しいてはベテランの提督のほうがいいのではないか、という疑問が湧いてくる。

 

「いや、お前だからこそ頼みたい。

 俺のような無能とは違い、轟沈させることなどないだろうからな」

 

「確かに、轟沈者を出さないことを第一にしていますが……」

 

 だったらなおさら、ベテランの提督に配属させるべきではないか、そう思ってしまう。

 だが、男は違った。

 

「いや、ベテランともなれば、1人2人くらい轟沈させているものだ。少なくとも、俺の知り合いだとな。しかし、お前はまだだ。この意味がわかるか?」

 

 なんとなく、本当になんとなくならわかる。

 

 すでに失うことに慣れ始めてしまった者と、そうでない者。

 

 そういうことならば。

 

「わかりました。ですが、その前に確認を。何人が入るのです?」

 

「………そうだな、20人くらいか」

 

「そうですか……。叢雲、今は何人くらいいるんだっけ?」

 

 男の答えを聞き、叢雲に確認を取る。

 すると扉か開かれ、呆れた表情の叢雲が入ってきた。

 

「あんた、提督なんだからそのくらい把握してなさいよ……。60人ジャストよ」

 

「はは、すまないな」

 

 小言を言いながらも質問に答えてくれる叢雲に、やっぱり優しいやつだな、と思ってしまう。

 

「それで?どうするのよ?」

 

 おそらく、もう待っているのが疲れてきたのだろう。叢雲が提督に答えを促す。

 叢雲の問いに提督は一瞬だけ考え、答えを出す。

 

「…受け入れましょう」

 

「そうか、良かった」

 

 提督の答えを聞き、安心したように言う男。

 

「それでは、今日のところは失礼する。明日、艦娘たちを連れてくる」

 

「わかりました。お待ちしていますよ」

 

 男は提督の言葉に小さく頷き、艦娘たちと共に帰っていった。

 

 そして提督室には、提督と叢雲が残されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 午後六時。

 この鎮守府の艦娘たちは食堂に集まっていた。

 しかし、いつものような賑わいはなく、若干の緊張感と静寂が場を覆っている。

 

 理由は、提督から話がある、と言われたからである。

 

 そして、提督は口を開く。

 

 

「話があるといったが、別に出撃等の話ではないので安心してほしい。

 話とは、明日から急遽、20人程の艦娘がこの鎮守府に加わることになった、ということだ」

 

 食堂がざわざわし始める。

 当然の反応だろう。

 

「テートク、その理由は話してくれるんデスカー?」

 

 一番先に疑問をぶつけたのは、榛名と同じような服に、アホ毛と両サイドのお団子が特徴的な長い茶髪に紫がかったグレーの瞳の女性―金剛であった。

 

「ああ、そうだな。

 一ヶ月くらい前に陥落した鎮守府があっただろ?そこの提督に頼まれてな」

 

 艦娘たちのざわめきが大きくなる。

 だが、そのざわつきはその内消え、提督の次の言葉を待っていた。

 

「あ、理由と私からの話はそのくらいだよ。あと言うことといえば、仲良くしてください、くらいかな」

 

 その言葉を聞き、だんだんと空気が緩み始め、いつもの賑わいが食堂に戻る。

 

「ん〜、あんまり今喋ることでもなかったかな〜?」

 

 提督は少しだけ反省を口にする。しかし、

 

「今さら考えることでもないでしょう?それに、遠征に行ってる娘たちを除けば、今しか話すタイミングは無かったんだし」

 

 叢雲のもっともなことを聞き、そうだな、と頷く。

 

「んじゃ、飯食うか」

 

 そう言って、夕食を楽しむことにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 午後八時半。提督室。

 提督は叢雲と二人がかりで、丁度執務作業を終えたところだった。

 作業が終わったことで、思わず伸びをしてしまう。

 

 と、そんなときだった。

 

 扉がコンコンコン、と三回ノックされる。

 

「はい、どうぞ」

 

 提督が入室の許可を出すと、ガチャリと扉が開かれ、6人の艦娘が入ってきた。

 

「明日の出撃について、最終確認を」

 

 緑色の着物と暗緑色のミニスカート型の袴に身を包む、青みがかった瞳と頭髪の女性―蒼龍が口を開いた。

 

 明日の出撃とは、東部オリョール海への進出を再び始めた深海棲艦に壊滅的打撃、あるいは撃滅することである。

 

「ああ。旗艦は蒼龍、随伴艦は今の五名で変わりなし。

 基本的に、敵艦隊に合わせて陣形変更。夜戦に関してはこちらが指示する」

 

 提督はすでに説明したことを口にする。

 

「それと、前回出撃した鎮守府からの報告によると、ヲ級及びル級のフラグシップが確認されたらしい。自分たちの損傷具合で、帰投するかどうかを迅速に決定すること」

 

 加えて、新しい情報を伝えるのも忘れない。

 

 フラグシップと聞き、艦娘たちの緊張感が高まる。それは無理もない。

 

 フラグシップとは、深海棲艦の中で赤いオーラを纏った強力な個体―エリートを超える個体で、高い耐久・火力を持つ。また、金色のオーラを纏っているのが特徴だ。

 

 以前、沖ノ島海域の制海権を取り戻す際に発見され、その時接敵した艦娘たちに甚大な被害をもたらしたと言われる。

 

「テートク、だったら私たち二軍より、榛名たち一軍のほうがイイと思うのデスガ……」

 

 金剛が当然の疑問を放ってきた。

 提督は疑問に答える。

 

「確かに、彼女たちに任せるべきだろうな。……沖ノ島海域の事が無ければ、たが」

 

 提督の言葉を聞き、反論に詰まる金剛たち。

 

 今現在、再び進出してきた深海棲艦によって、沖ノ島海域の制海権を喪失してしまった状況にある。

 そのため、南西諸島海域を担当している鎮守府が合同で対処している。

 しかし、敵艦隊の主力になかなか辿り着けず、厳しい戦いを強いられている。

 

 以上の理由で、今回二軍を出撃させるという結論に至ったのだ。

 

「沖ノ島海域のこと、私はかなりきな臭いと思う。

 君たちにとってかなり負担だろうが、オリョール海のことを任せたい」

 

 提督は真剣そのもので艦娘たち言う。

 そして、蒼龍が口を開く。

 

「わかりました。私たちにお任せください、提督」

 

 その言葉を聞き、提督はいつの間にか入っていた力をゆっくりと抜いた。

 

「それでは、失礼します」

 

 蒼龍がそう言って、艦娘たちは退室する。

 

 退室するのを見届けた後、叢雲は提督に疑問を呈した。

 

「あんた、今回のことどう思う?」

 

「沖ノ島海域のことか?」

 

「そう。というよりも、南西諸島海域のことよ」

 

 南西諸島海域には多くの資源がある。

 深海棲艦が再進出してきたのも、この資源を重要視したのではないだろうか。

 

 しかも、前回よりも強い個体を多数送り込んてきている。となると、

 

「深海棲艦側は、全力で南西諸島海域の制海権を奪いに来ているだろう。……かなり厳しい戦いになるだろうな」

 

 下手をすれば、轟沈する艦娘も少なからず出るかもしれないだろう。

 

「そう、よね」

 

 予想していた通りの答えが返ってきて、弱々しく返す叢雲。

 しかし、そんな叢雲を見た提督は驚いたような顔をする。

 

「ど、どうしたのよ……?」

 

「いや……お前でも弱気になるんだな〜、と」

 

「なっ!?」

 

 提督から思いもしなかった言葉が発せられ、狼狽する叢雲。

 

「な、何よ!私が弱気だからおかしいってわけ!?」

 

「いやそうじゃなくて……弱気な叢雲も可愛いな〜と……はっ」

 

 一体何を口走っているのか。

 

 叢雲は興奮と羞恥で顔を真っ赤にする。

 

「なに、何なの!?そんなに酸素魚雷打ち込まれたいの!?」

 

「ち、違う違う!落ち着け叢雲!!おい待て、艤装を展開するな!!」

 

 

 

 

 提督室はそれからしばらく、にぎやかだったそうな。

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