艦これ 〜不沈の艦娘たち〜   作:ハツマゴ

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第三話

 第二次攻撃隊が空中集合を完了し、突撃を開始する。

 

 ル級の三隻はそれに気づき、対空砲火を浴びせようと艦載機群に照準を合わせ始める。

 しかし金剛と比叡は、その隙を逃すはずがなかった。

 

「私達を無視するなんて、甘いデース。比叡?」

 

「ええ。わかっていますとも、お姉様!」

 

 二人はル級への砲撃を開始。たちまちル級は爆煙に呑み込まれる。

 艦載機への砲撃もほとんど当たらず、投弾を許す。

 

 ル級は急降下爆撃、雷撃をもろに浴び、二隻が中破した。

 

「さすが、蒼龍たちデース」

 

 称賛しつつも、金剛と比叡は砲撃を浴びぬよう動き回る。

 

 中破した二隻はまだしも、無傷で残っているフラグシップの砲撃は苛烈だ。まともに食らえば大破しかねない。

 

 撃ち、避け、撃つ。

 金剛と比叡の連続した砲撃で一隻を大破。フラグシップも小破に近いダメージを負う。

 

「比叡、次で決めマスヨー!」

 

「はい、お姉様!」

 

 大破した一隻に狙いを絞り、主砲を向ける。

 

 その時だった。

 

「お姉様、上!」

 

「なっ……!」

 

 いつの間にか発艦されていた敵艦載機が、今にも投弾しようとしていたのだ。

 

 蒼龍たち空母組はまだ第二次攻撃隊の収容が終わったところ。援護は不可能だ。

 霧島は、金剛たちの援護に行った場合、丸腰の空母が狙われてしまうことを恐れ、動けずにいる。

 

 後方からの援護は期待できない。

 そう判断した金剛と比叡は、砲撃を諦めて避けることに専念する。

 

 急降下爆撃、雷撃、そしてル級の砲撃。

 同時に三つの攻撃に対応しなければならなくなった二人は、直撃こそないものの徐々に被弾が嵩んでいく。

 

「くっうぅぅぅ!」

 

「比叡!」

 

 避けきれなくなった比叡が遂に急降下爆撃をまともに食らってしまう。

 

 

「くっ、こうなったら……」

 

 金剛は覚悟を決め、ル級の注意を引くために全速力で近づいていく。

 敵艦載機の投弾がほとんど終わっていたこともあり、躱しながら近づくのは彼女にとって容易かった。

 

「比叡を傷つけたこと、後悔するがいいデース!」

 

 そのままの勢いでル級と砲撃戦にもつれ込む。

 

 深海棲艦も馬鹿ではない。正面から撃ち合うより包囲したほうが撃破し易いと考えたのだろう。金剛を囲むようにル級が動き、そして完全に包囲してしまう。

 

 しかし、金剛は不敵な笑みを浮かべる。

 

「私一人を狙うとは……。甘い、甘すぎマース」

 

 直後、中破したル級に砲撃、大破(・・)したル級が撃沈される。

 

 二隻のル級が驚愕、というような表情で轟沈していくル級に向き直る。

 

 その背後には、砲煙と黒煙を纏った比叡の姿があった。

 

 

 

 ル級一隻を撃破し、空が雲に覆われ始めた頃。

 

「第三次攻撃隊、発艦!」

 

 空母三隻から三回目の攻撃隊が発艦された。

 

 千歳・千代田の艦載機は金剛と比叡の援護、蒼龍の艦載機はヲ級へと向かっていく。

 

 しかし、ここで千歳が違和感を感じた。

 

「蒼龍さん。艦載機、少なすぎませんか?」

 

 発艦された艦載機が明らかに少ないのだ。

 第二次攻撃隊の収容時も、ほとんどの艦載機が戻ってきたと報告したはずだ。

 

「大丈夫。あれで丁度いいです」

 

「はあ……」

 

 納得はいかないが、蒼龍がいいと言うならいいのだろう。

 そう割り切って金剛たちの援護に戻る千歳。

 千歳と千代田の艦載機は、あと数秒で二人の上空に差し掛かる。

 雑念があれば、艦載機の動きに乱れが生じてしまう。それだけは避けなければならない。

 

「千代田、一気に決めるわよ」

 

「もちろんだよ、お姉」

 

 金剛がル級二隻を引きつけている。

 艦載機に注意は向けられていない。

 

 そう確信した千歳と千代田は、艦載機に投弾司令を出す。

 それを受け、艦載機が投弾を開始する。

 

「なっ!?」

 

「そんな!?」

 

 しかしその瞬間、二人の艦載機が舞う上空は爆炎と黒煙に包まれ始める。

 

 よく見ると、フラグシップ側が対空砲火、そしてヲ級の艦載機が横槍を入れるようにして航空戦にもつれ込んだのだ。

 

 不意打ちを受けた艦娘側の艦載機は対応し切れず、次々に撃破されていく。

 

 そして、敵艦載機は金剛への投弾の準備に入っていた。

 

 この時。蒼龍が不敵な笑みを浮かべていたことに気がついたのは、この場には誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 その頃。提督室。

 

「今の千歳と千代田の艦載機、ピンチだな」

 

「そうですね」

 

 冷静に状況を判断する提督と榛名の姿があった。

 

「お前たちならこんなミスはしないだろう。何がいけなかった?」

 

 提督は榛名に質問する。

 そして榛名は一瞬だけ思考し、答えを出す。

 

「まず、ル級の注意が完全に逸れていると思い込んでしまったのが一番のミスかと。深海棲艦も知性があります。二度も同じ手に掛かることはまずないでしょうし。

 それと、ヲ級の行動にも気を配る必要がありましたね。本当に艦載機を出していないかどうか、など」

 

「なるほどな」

 

 提督はそれだけ言うと、現状を映し出しているモニターに視線を戻す。

 そんな提督の様子は気にせずに、榛名は続ける。

 

「今のオリョール海上空は、だんだん雲に覆われてきています。あのヲ級の場合、フラグシップということもあり、注意が逸れた瞬間に艦載機を発艦する実力は持っていると考えるべきです」

 

 モニターに視線を向けながらも、提督は榛名の答えを聞き続ける。

 

 状況はあれからまた動いていた。

 

 千歳と千代田の艦載機の大半が撃墜され、金剛も中破に近いのダメージを受けてしまっている。

 比叡は後退し、代わりに霧島が前進してル級の注意を金剛から引き剥がそうと動いている。

 蒼龍の数少ない艦載機とヲ級の直衛隊と交戦。しかし、物量の差で押されている状況だった。

 

 ――だが。

 

「ほう、おもしろいな」

 

「さすが蒼龍ですね。そういうことですか」

 

 蒼龍の意図に気がついた榛名は微笑を、提督は不敵な笑みを思わずこぼした。

 

 

 

 

 

 

 オリョール海。戦闘海域。

 

 千歳と千代田は攻撃手段の大半を失い、金剛と比叡は敵艦載機に呑まれつつある。霧島がル級の注意を引こうと前進していく、この今の状況。

 

 悪化しているとしか言えないだろう。

 

 しかし、今視界に映っている光景を見て、不敵な笑みを浮かべずにはいられなかった。

 

 戦いは先に笑ったほうが負けだ。

 

 慎重に、慎重にその時を伺う。

 これが成功すれば、金剛たちへの投弾に乱れが生じるだろう。

 そうなれば、こちらとしても金剛たちにしても動きやすくなる。

 

 ヲ級の直衛隊が蒼龍の艦載機を着実に潰していく。

 

 ヲ級のその瞳の奥は、笑っていた。

 まるで、勝利を確信したかのように。

 

 それを見た蒼龍は、挙げていた右腕を振り下ろす。

 

 ――直後。

 

 ヲ級の上空――雲海から機銃が斉射され、直衛隊が次々に撃墜される。

 

 ヲ級の上空から、蒼龍の紫電改二、彗星が次々に急降下。

 奇襲に成功した彗星が投弾を開始する。彗星六機のうち、二機の爆撃がヲ級に直撃。

 

 ヲ級は大破した。

 

 

 

 

「……!?」

 

 ル級の動きが一瞬止まる。上空の艦載機の動きも乱れが生じている。

 

 ル級の相手をしていた霧島は、好機と判断。全力の砲撃を叩き込む。

 しかし、ル級は強引に砲撃の中を突っ切り、中破しながらもヲ級を庇おうと全速力で移動する。

 

「くっ……、あともう少し…」

 

 もう一度霧島が砲撃しようとしたとき、背後から砲声が轟く。

 

「くっ、危ない……」

 

 大破したル級の砲撃。

 電探を完全に破壊されているためか、霧島への直撃弾は無い。

 しかし、ここは頭数を減らすことを優先。再度、全力砲撃を行い、ル級を撃沈させる。

 

 霧島がル級フラグシップに向き直ると、そこには撤退を始めるヲ級の姿が。

 

「……でも、その前にル級を仕留めないと」

 

 ヲ級を仕留めようにもル級が立ちはだかり、簡単に通してくれそうにない。

 ル級の撃破に切り替えた、その時。

 

「霧島、あとは大丈夫です」

 

 蒼龍からの通信が入る。

 それと同時にル級が突如爆発。爆炎に包まれながら海中へと消えていく。

 

「総員、帰投します。副縦陣を再構築してください」

 

「なっ!?」

 

 蒼龍から撤退の指示。

 このまま押し切ればヲ級も撃破出来ると考えていた霧島は面食らう。

 

「……仕方ありません。この先の天候は悪化しており、艦載機の離着陸はほぼ不可能です。それに、深追いして敵の罠に掛かってしまえば、最悪の事態を招きかねません」

 

「……了解」

 

 蒼龍の言葉を受け、霧島は渋々了承。

 

 蒼龍たちは複縦陣を再構築。鎮守府への帰途に着いた。

 

 

 

 

 

 

 

『第2主力、旗艦・蒼龍。今から鎮守府に帰投します』

 

「わかった」

 

 戦闘を終えた蒼龍からの通信。

 

 第2主力艦隊の被害は、金剛中破・比叡大破であった。

 

「予想していたより被害は軽かったか……」

 

「提督の心への被害は甚大、のように見えますが……」

 

「………誰も上手いことを言え、とは言っていないぞ……?」

 

 今では落ち着きを取り戻している。しかし、金剛と比叡が被弾したときは顔色を悪くし、額に油汗を浮かべていた。

 轟沈しないか、非常に不安だっただろう。

 

「大丈夫です、提督。彼女たちは、そう簡単に沈みはしません」

 

 榛名は提督の手を両手で包みながら、優しく言う。

 すると、提督の体から少しだけ力が抜けた。

 

「榛名が言うなら、そうなんだろう。……さて、榛名。あとは頼んでいいか?」

 

「はい」

 

 後処理を榛名に任せると、提督は提督室をあとにする。

 

 

 

 作戦終了直後。待合室。

 

 そこには叢雲、昨日来た男、そしてその艦娘20名程度がいた。

 

「まぁ〜だ終わんないのかしら」

 

 叢雲が待ちくたびれたように言う。

 

 作戦開始前、提督から彼らを待合室に案内してくれ、と頼まれていた。

 しかし、それが終われば特にすることもなく、作戦終了まで暇を持て余していた。

 

 これだけ時間があるなら射撃訓練でもすればよかった、とも思ってしまう。

 

「そう言ってやるな。前線の辛さは、君もわかっているだろう?」

 

「……否定しないわ」

 

 男から窘められる。

 叢雲とて第1主力艦隊の一員であり、榛名がある程度の練度に達するまで旗艦を務めていた。故に、その辛さは身にしみてわかっている。

 

「……ああ、そういえば名前を聞いていなかったわね。あなた、しばらくここに居るんでしょ?流石に提督、だと紛らわしいから」

 

 それとなくいい話題を見つけ、口に出す。

 男は叢雲の話題に応じてくれる。

 

「それもそうだな。俺は清水(しみず) 讐繥(しゅうき)と言う。今更だが、よろしく頼む」

 

「こちらこそ」

 

 なんとなく、彼の提督時代が気になり聞こうとしたところで扉が三回ノックされ、聞き慣れた声が響く。

 

「私だ」

 

「入って」

 

 叢雲は短く返す。

 扉が開かれ、提督が入ってくる。

 

「かなり待たせたようだ。すまない」

 

 開口一番に謝罪。

 

「いや、気にするな」

 

 清水は軽く流す。元同業者あって苦労がわかるからだろう。

 

「もう少しで夕食の時間だ。とりあえずは夕食のとき、皆に適当なあいさつするくらいでいいと思うが」

 

「もちろん、そのつもりだ。長々した話など聞きたくないだろうしな」

 

 清水は提督の案を受け入れる。

 

 第2主力艦隊が帰投するのは夜中だろうが、その艦娘たちには後日改めて紹介すればいいだろう。

 

「そういえば、艦娘用の寮へはまだ案内していないよな?叢雲」

 

「ああ、忘れていたわ」

 

「じゃあ、ちょうどいい時間潰しになりそうだ。寮に案内するから、ついてきてくれ」

 

 提督は待合室を出、艦娘用の寮へ歩き始める。その後ろを叢雲、清水、清水の艦娘たち、の順で続く。

 

 艦娘寮は、提督室のある執務棟から歩いていくには少し時間がかかる。故に外を歩いたほうが時間を短縮できる。

 ちなみに食堂は艦娘寮、執務棟の中央にある。

 

 艦娘寮に着くと、手短に艦娘たちの部屋割と部屋の場所を教えていく。

 まだ小さい鎮守府なので、そこまでの時間はかからなかった。

 

「お、ちょうどいい時間だ。案内ついでに、ここから食堂へ行こう」

 

 寮から直接行けるように、再び案内を始める。

 ただ、そこまで入り組んでいるわけでもないので、念のためといったところだ。

 

 食堂に着いたとき、まだほとんどの艦娘は着いていなかった。

 

「じゃあ、適当に座ってくれ。まだ飯は出なさそうだからな」

 

 艦娘がある程度揃うまで食事は出ない。とりあえず、席に座って適当に待つことにした。

 

「そういえば、あんたの鎮守府が壊滅したのは聞いたが、何にやられたんだ?」

 

 提督が清水に問いかける。

 

 清水は北方海域の開放を担当している鎮守府群に属していた。

 北方海域の開放はあと少しであり、敵戦力も減少していると聞いていた。

 ならば、奇襲をかけられるだけの戦力は無いはずだ。

 

「北鎮守府群は北方海域の主力部隊を、確実に潰したはずだった。そして、俺の所から残存戦力を殲滅するための部隊を向かわせた」

 

 報告では、一度目は未知の深海棲艦――しかも陸上型の――と遭遇し撤退を余儀なくされたらしい。それから数度に渡って艦隊を送り込み、やっとのことで撃破したと聞く。

 

「だが、そいつはまだ殺られちゃあいなかった。まるで、こちらが主戦力を出撃させるのを待っていたかのように……いや、待っていたんだろう。出撃から一時間後、そいつらは鎮守府近海に出現した」

 

 提督も叢雲も驚きで目を見開く。

 

 彼が嘘をついていなければ、『撃破した』という報告は誤りであり、今なおもその主力は北方海域にいるということだ。

 

「確か、『北方棲姫』と言ったか。奴は随伴艦に命令して、無数の砲撃を鎮守府に浴びせた。そして、その後」

 

 一旦鬼怒間は言葉を切り、そして続ける。

 

「奴の足元にあった地面……というのか?それが広がり、港にまで及び、……そして上陸した」

 

 驚愕の事実に言葉が出ない。いや、出せない。

 

 撃破したのに生きている。つまりは再生能力を持っているということ。ましてや、陸に上がることができる深海棲艦など、聞いたことがない。

 

「もちろん、俺は残存戦力を緊急出撃させ、迎え撃った。だが、それらは随伴艦や護衛艦によって阻まれた。

そうしているうちに奴は鎮守府に侵入、中に残っていた艦娘を殲滅したあと、俺の所へ来た」

 

 ただの人間である彼に、抵抗する手段は一切無い。

 ならば、その結末は決まっているはずだった。

 

「奴はまるで、人や艦娘が死ぬことに愉悦を覚えるかのように、俺をいたぶった。この右目は、その時に潰された」

 

 提督はその様子を想像し、後悔する。顔面蒼白になり、一瞬吐き気が襲った。

 

「俺は死ぬ覚悟をした。だが、どうにか助かった。変わりに犠牲になった艦娘によって……な」

 

「どうやって……」

 

「俺のもとに来る際、北方棲姫にやられた日向が生き残っていた。だが、右舷の砲塔は完全にやられていた。それが、結果的に助かる要因になったがな。

 彼女が提督室に入ったとき、彼女から見て右側に俺が、左側に北方棲姫がいた。俺を助けるために、最期の一撃を放った。結果、左舷の砲撃が北方棲姫に命中、右舷は……暴発して、辺りを吹き飛ばした。俺はその爆風に吹き飛ばされ、北方棲姫は命中弾で吹き飛ばされた。日向は……そのまま爆死した」

 

 彼の身と鎮守府に起こった壮絶な出来事に、一切言葉を発することができなかった。

 清水の艦娘たちも、沈痛な面持ちでいるだけだ。

 

 無言でいること数分。いつの間にか艦娘たちは集まっており、各自で料理を盛り付けていた。

 その様子でようやく我に返った提督が、なんとか言葉を発する。

 

「辛いこと話してくれてありがとう。何と言えばいいかはわからないが……ここで傷を癒やしてくれ」

 

「ああ、そうしよう」

 

 そこでようやく自己紹介のことを思い出し、食事を始めようとする艦娘たちに、慌てて待ったをかける提督だった。

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