どんな人生でも好きなことして生きられれば最高さ 作:はないちもんめ
張り込みを初めて二週間目。
成果は、全くない。
ティアナは管理局に呼ばれたから、ここにいるのは俺とロイドのおっさんだけ。
帰ろうと思った。
大人の男が二人で覗きをしてるなど変態以外の何物でもない。しかも覗いているのは、汚いジジイの家なのだ。
こんなに気持ち悪いことがあるだろうか。
少し別の所を見れば、女の裸も覗けるかもしれないのに、敢えてジジイの家を覗くとは、きっとロイドのおっさんはホモで覗かれているジジイもホモなのだろう。
これは、きっとホモだけが分かるそういうプレイなのだ。
気のせいか空気がバラ色な気がする。俺のような好青年には、この空気は悪影響かもしれない。
このホモ空間にこれ以上いてはならない。
邪魔者がいない方が二人にとっても良いだろうし、ホモはホモ同士幸せな家庭を築いてくれるだろう。
しかし、此処で帰れば後でティアナに何をされるか分からない。あの悪魔は、この心優しい俺になら何をやっても許されると思っている本当に恐ろしい奴だ。
だが、自由とは近代になり、ようやく人間が手に入れた素晴らしいものだ。例え執務官とはいえ、それを奪うことは許されない。自由とは人間の基本的人権なのだ。
なので、俺が帰っても誰に責められる謂れはない。俺は自分の人権を行使したのだ。
しかし、今の俺は気分が良い。今なら見知らぬ誰かに喧嘩を売られても倍返しくらいで済ませてやれるかもしれない。
そんな心優しい俺としては先日ティアナと約束をした件を守っても良いかもしれないと考えている。
俺は何と優しい人間なのだろう。
そんな優しくなれる時間を伸ばすために、俺は携帯を見続ける。この時間が永遠なら良いのに。
「レイン君」
「何だおっさん。俺は今忙しいんだ。ホモの相談なら別の人にしてくれ」
「何の話だ!?私にはそんな趣味はない」
「あー、良いから、そういうの。大丈夫だよ最近ジェンダーレス男子とか流行ってるから。そこにおっさんとジジイが二人くらい混じってもバレないって」
「そういう問題ではない!というか、忙しいって君は何もしてないだろう」
「携帯見てるだろ」
喋りながらも画面から目は話さない。
何やら、真剣な顔をしているが、こちらとて真剣だ。
何があろうとこの機会を逃すわけにはいかない。これが最初で最後のことなのかもしれないのだ。
「そ、それは見れば分かる。私が言いたいのは携帯で何をしているのかということだ」
「え?何?俺が何してんのかも気になるの?やっぱりホモじゃん。悪いけど、俺にはそういう趣味ないから。俺にはさやかちゃんがいるから」
「だから私はホモではないと言っているだろ!普通に女が好きだ!そういう意味で聞いたのではない!」
「何だよ、バイか。まあ、良いんじゃねーの、そーいうのも。俺には全く理解できないけど」
「バイでもない!いい加減その手の話題から離れろ!」
あれだけ覗きをしていて今更何を言っているのだろう。
しかし心優しい俺としては、この辺で止めておこうと思う。
人が嫌がることはしないというのが俺の目標だから。
そう思い、俺は携帯に再び目を戻す。
きっとこんな優しい俺を誰かは見ていてくれるはずだ。
「君という男は…時々は真面目になれないのか?」
「なったじゃん、前話で。ティアナの回だったけどさ。やっぱりあいつ、基本的に真面目だからシリアスになりやすいんだよ。俺は負けないからね。あいつがどんだけシリアスやりたくても、最後までダルダル感満載でやるから。原作の雰囲気とか俺には関係ないから」
「メタ発言は止めろ」
バイが何やら怒っているが、ノーマルな俺にはどうしても理解できない。
きっとバイにしか分からない感覚なのだろう。
「とにかくだ!大事なことでないなら、携帯を置いて私の話を聞いてくれ!」
「おいおい、何言ってるんだよ。ハーメルンのランキングにこの小説が入ったんだよ?これ以上大切なことなんてあるわけないだろ?おっさんもスクショしとけ。これ記念だから。もう二度とこんなダルダル小説がランキングに載ることなんかないから」
俺の機嫌が良い全ての理由はこれだ。
俺の正しさがランキングという形で証明されたのだ。こんなに嬉しいことはない。
やはり俺は正しいのだ。ティアナとかは文句を言ってくるが、俺の生き方は間違ってなかったのだ。
しかし、おっさんは感激するでもなく唖然としている。好きなタイプの男性でも探しているのだろうか。
「な、何の話をしてるんだね?」
信じられないと思った。
やれやれと首を振る。これはいけない。登場人物としての自覚が無さすぎる。
照れ隠しなのだろうが、あれだけあからさまにゲイアピールをしている男にしては情けない。
「あのよぉ、おっさん。嬉しい時は嬉しいって言うもんなんだよ。そりゃあ、おっさんみたくクールな感じを出した方がカッコイイと思われてる時代もあったよ?でもなあ、もう古いんだよ。そんな考えはもう化石になってんだよ」
「おい、止めないか」
「そりゃ、俺と違って出番が少ないおっさんが素直になるのは難しいかもしんないけどさぁ、しょうがないじゃん俺は主人公なんだからさ。そこは目を瞑って自分らしいアイデンティティーを構築していこうぜ?」
「だから、止めろ」
「んなこと言ったって嬉しいのは分かってるんだよ、おっさん。ティアナとは違って俺たちオリキャラは、この小説にしか存在できないんだからさ。ここは俺らのホームなんだよ。ティアナはヤバければ、リリカルな○はの世界に帰れば良いかもしんないけど、俺らに帰る場所はないから。ここは俺らのホームであり、墓標だから」
「だから、止めろと言っているだろうが!!君が言っていることは私にはサッパリ分からないが、何となくこれ以上君を喋らせちゃいけないことだけは分かるぞ!」
顔を真っ赤にして怒っているおっさん。全く年を取ると頭が固くなっていけない。
とりあえず、一言言っておこう。
読者の皆様ありがとうございます。
「それで、レイン君。君に頼みたいことがあるのだが」
「え?無視するの?今までの流れを無視して始めんの?」
「二週間張り込みをやって全く成果がない。だから、方法を変えて、もう一度ハウザーさんに会って揺さぶりをかけようと思っていたんだが、ガードが固くて中々会うチャンスが掴めなかった」
「いやいや、今更シリアス感出しても無理だから。もうこのダルダルな空気は変えられないから」
「しかし、今日何とかハウザーさんと会うチャンスを見つけたんだよ。ティアナ執務官は他の用事があり、此処にはいないが君だけでも一緒に行ってくれないかと思ってな」
「もうこうなったら、無理だよ。この世界線は変えられないよ。変えたいなら電子〇ンジ(仮)でも持ってきて最初からやり直さないといけないよ。タイムマシンが必要だよ」
「どうだろうか、レイン君?頼まれて貰えないか?」
「まあ、過去を変えたいと思うときはあるよ?だけどさ、知ってるじゃん。あのアニメ見てるなら知ってるじゃん。過去を変えて、岡○さんメチャクチャ苦労してたじゃん。だからこそ、辛いことがあったとしてもそれを乗り越えていくことが人間には大切なわけで」
「私の話を聞け!!!質問に答えろ!!いい加減真面目になれ!!本当にお願い、千円あげるから!」
「英世一枚で俺が動くかよ。俺を動かしたいなら諭吉を束にして連れてきな」
「き、君という奴は…」
「それに移動する必要もないだろ?」
「何?」
「俺を殺すなら、何処でも一緒だからさ。最初からそのつもりだったんだろ?」
疑問があるような顔をしている。流石は執務官様。見事な演技である。
ただまあ、おっさんが幾ら上手い演技をしようとも、周りのザコ共の不細工な殺気は隠しようがない。
せっかく執務官様が頑張って演技してるのに、どうしようもないエキストラ達だ。
「まあ、正確に言えば違うか。正確に言えば、ティアナと一緒にいる俺を見た時に俺を殺そうと思いついたんだろ?最初はティアナを殺そうと思ってたんだろ?」
淡々と喋る俺を見てもおっさんは何の動揺も見せない。
代わりに周囲の殺気は膨れ上がっていく。
心地良い空間だ。さっきのバラ空間よりずっと良い。
「ただまあ、ティアナを殺すのはリスクも高い。そんなことをすれば今度はフェイト達が飛んでくる。そうなったら、お前らとしては相当不味い。だから、殺しても問題ない俺を選んだんだろ?犯罪者の俺をよ。俺が犯罪者だってことくらい、あんたなら直ぐに調べられるだろうし」
「待ちたまえ。前提がおかしい。何故、私が君かティアナ執務官を殺さないといけないんだ?」
「そりゃ、決まってるだろ?あんたが賄賂を受け取ってた犯人の一人だからだよ、ロイド執務官」
流石におっさんの顔にも動揺が見え始めた。
この上から目線で論破していく快感はたまらない。コ○ン君が毎週のように事件に会いながら探偵を辞めない理由が分かる気がする。
「一体、何の」
「証拠があんのかって言うんだろ?確かに証拠なんてねーよ。あんたが手を回して部下に賄賂を受け取りに行くのを止めさせたからな」
「なら、ただの言いがかりではないか」
「今の所ならな。だが、これからも見張りが続くとしたらどうだ?ずっと関係を断ち切ったままでいるのか?それに、上手いとこ他の証拠は消したかもしれないが、本当に全部消せたのか?そういうのは時間が経てば経つほど見えてくんだよ。小じわみたいにくっきりとな。そうなる前に犯人役が欲しいよなぁ。信用がないほどありがたいから犯罪者とか理想だよなぁ」
「今日ティアナ執務官がいなくなったのは偶然だ。私にティアナ執務官を呼び出させることなどできない」
「遅いか早いかの違いだろ?別にあんたにとってはティアナがいなければ何時でも良かった。ただ、二週間も俺の側をあいつが離れないのは予想外だっただろうがな。おかげで、俺にあんたが犯人だと予測させる猶予を与えちまったからなあ」
最早周囲の殺気は隠す気がないのではないかと思うほど強くなっている。
本当に我慢がきかない豚共だ。動物と大差ない。
本能が赴くままだ。
「付き合う友達は選んだ方が良いぜ?あんたがどれだけ上手く演技しようが無駄なんだよ。あんたの友達の豚共は演技するほどの知能がないからな。辺りからブヒブヒと殺気が漂ってきてるんだよ。おいおい、何とかしてくれないか?服に家畜の匂いが染みついたらどうすんだよ」
俺の言葉で更に豚共の鼻息が荒くなっている。
もう抑えが利かなくなっているのだろう。
最も家畜に抑え何て最初から無かったのかもしれないが。
「結局は同じだ。君が言っていることは全て「もういい、ロイド」!?」
おっさんが喋っている間に下品な声が混ざってきた。
汚い声だった。耳を塞ぎたくなった。
「最初から言ってんだろ?こんな回りくどいやり方をしないで殺しちまった方が早いってよお」
「誰が誰を殺すだと?寝言は寝て言え、ジジイ。豚共を引き連れてるくらいで調子に乗るんじゃねえよ。ゴミはゴミらしくバレないように大人しく小さい犯罪でもしてるんだな」
俺のその声にジジイ(恐らくこいつがハウザーだろう)とその後ろにいる豚共が鳴き声をあげる。しかし、随分と連れてきたもんだ。100匹くらいか?何時から此処は動物園になったんだろう。
「ハウザーさん出てくるのが早過ぎます」
「早かねえよ、遅すぎるくらいだ。この世間知らずの猿の声を俺に聞き続けろってのか?そりゃあ、無理な話だ。この猿にはきっちり身分の違いを教えてやらねえとな」
「身分の違いってどこの?ゴミの身分?悪いけど、ゴミの中の順位何て興味ないんだよ。ゴミは何処までいってもゴミなんだよ」
「どうやら、よっぽど早く死にたいらしいな・・・」
俺の言葉に青筋を浮かべるジジイ。このまま血管破裂しないかな。手間が省ける。
「おっさん、あんたこんな奴らと組んで何がしたかった訳?組む価値ないだろ?こんなゴミに」
隠すことは諦めたのか、おっさんはゆっくりと喋り出す。
「・・・君のように自由にやっている人には分からないだろう。だがな、組織で出世していくためには、汚いことをすることも必要なんだよ」
「まあ、確かに俺には分からんな。ただよ、分かるかもしれない奴が知り合いにいるから呼んでも良いか?」
俺はニヤリと笑いアイテムを取り出す。そのアイテムは俺が触ると光を放ち始める。
「な、何だこれは!?」
「おい、貴様!一体何をした!?」
「目を開けてられねえ!?」
外野がブヒブヒと騒ぎ出す。
うるさい家畜共だ。黙って見てることもできねえのか。
「お前らの時間は終わったんだよ。主役の登場だ。逃げたい奴は早く逃げるんだな」
「主役?・・・まさか!?」
おっさんだけは何が起こってるのか想像がついたらしい。
まあ、遅すぎたけど。
このアイテムの効能は対となるアイテムを持ってる相手の位置とこのアイテムの位置を変えること。欠点は、長時間会っていない対象には使えないこととお互いが同程度の魔力量を持っていなければ使えないこと。だから、基本ソロで仕事する俺には使い道がなかったんだが、まさかこれほど役に立つ日が来るとは。
「前も言ったろ、おっさん。甘いんだよ。おっさんが怪しいと思ってた俺が何の仕掛けもしないと思ってたのか?こんなタイミングでティアナが管理局に呼ばれるなんて都合が良すぎると思わなかったのか?そんな都合が良い展開何て疑似恋愛にしか存在しないんだよ」
光が収まってくると同時にその光が人間の姿へと変わっていく。
「話は全て聞かせてもらいました」
さて、もう一人の主人公のご登場だ。
「あなたたちを逮捕します。ロイドさん。ハウザーさん」
暴れろ、ティアナ・ランスター。
改めて、この小説を読んで下さってる皆さまありがとうございます。
もうこの話も終盤に至り、シリアスになってる影響で更新速度が今までよりも落ちると思いますが、宜しくお願いします。