S.T.A.L.K.E.R.: F.E.A.R. of approaching Nightcrawler   作:DAY

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Interval 09 Garbage

 『ゴミ捨て場』に足を踏み入れた時は既に午後4時を回っていた。

 あの検問所で一夜過ごす事も考えたが、『ゴミ捨て場』と『非常線』を行き来するにはあそこを通らなければならない。

 つまり夜にもゴミ捨て場からの訪問者が訪れる可能性が高いということだ。そしてその場合それはバンディットである可能性が高い。

 そんな所で熟睡出来るはずもなく、適当な場所を見つけて野営したほうが遥かに安全だ。

 そう思ってここまで来たのだが、予想以上に『ゴミ捨て場』は過酷な所だった。

 

 文字通りそこら中に高さ数メートルはあろうかと言う様々な廃棄物の山が積み上げられ、その廃棄物の山の隙間を通るような形で道ができている。

 廃棄物の内容物は様々だ。コンクリート片のような瓦礫が大半を占めていたが、その他にもオーブントースター、ブラウン管、冷蔵庫、ドア、乗用車、といった馴染みのあるものから、鉄パイプ、エンジン、コンピューターの基板、更には朽ち果て元は工場の機械であったであろう鉄錆の塊。

 これら廃棄物の共通点はそれも古い形式の機械ばかりということ。

 西暦にして1980年代の骨董品が大半で、真新しい廃棄物は一つとしてない。

 工場の機材を丸ごと廃棄してもこれ程の量にはならない。

 廃棄物の古さから考えて、チェルノブイリ発電所で事故が起きた際に発生した汚染されたと思わしき付近の街や工場の機材を、全てここに纏めて投棄したのだろうか。

 まさしく都市の墓場というべき場所だった。

 

 問題はこれらのゴミの山は例外なく高濃度の放射能に汚染されているということだ。

 無論、放射能だけではない。

 廃棄物の山の裾野にはこれら各種廃棄物から滲み出したであろう異常な色の廃液が水溜りとなって広がっており、それらの毒性は放射線以上だろうと想像が付く。

 その過酷な環境に比例するかのようにアノーマリーの数も急増しており、アノーマリー探知機は鳴りっぱなしだ。

 放射線を除去するアーティファクトが無ければこのゴミ捨て場を通過するだけで致死量の放射線を浴びることになっていたかもしれない。

 

 一部では重力変動を起こすアノーマリーでゴミの山が崩れて、スクラップが巻き込まれていた所もあった。

 上空に打ち上げられたそのスクラップは、アノーマリーの効果範囲外に出ると今度は地球の重力に捕まり落下、そしてまたアノーマリーに引っかかって再度空中に打ち上げられるという無限ループに陥っていた。

 よく観察するとその無限の打ち上げ花火に引っかかっている物の中には、鉄くずだけではなく筋肉と血管がへばり付いた骨らしきものもある。

 あれが人骨なのかそれともミュータントの骨なのかわからないが、その骨は生物がこのアノーマリーに巻き込まれたらどうなるのかを雄弁に語っていた。

 

 その時、彼の持つアノーマリー探知機が一際大きく鳴り始める。

 移動性のアノーマリーでも接近してきたのかと警戒したが、様子が違う。

 通常のアノーマリーの警報とはまた違う探知音を鳴らしていた。

 フィアーは胸のポケットから探知機を外すと、探知機に装着されているLEDランプを観察する。

 探知機を全方位に向けてみると、特定の方向にLEDランプが強く点滅した。明らかに何かに反応している。

 

 ―――そういえばシドロビッチはこれはアーティファクト探知機でもあると言っていたな。

 

 フィアーはボルトを幾つか手の中に握りこむと、探知機が反応する方角へ目掛けて放りなげ、安全を確認しつつ進む。

 探知音とは別に、アノーマリー警報音も同時に鳴っているため、一歩足を踏み間違えれば、自分も強制的にあの死のフリーフォールに乗せられる事になりかねない。

 

 それだけではない。

 今自分は片手にボルト、もう片手にアノーマリー探知機を持っている。更に周りはアノーマリーに囲まれている。

 この状態で襲撃を受けたら為す術もないのだ。

 

 彼にしては珍しく冷や汗を垂らしなら、牛歩の如くゆっくりと確実に、一歩又一歩と進んでいく。

 進む度に潜水艦のソナーの様に断続的に鳴る探知音の間隔が狭まっていき、遂にはほぼ連続した一つの音に聞こえるほど狭まった時だった。

 眼前の空間が揺らぎ、そこからこぼれ落ちるように奇妙な物体が現れたのだ。

 

 ……間違いない。アーティファクトだ。

 

 握り拳ほどのサイズのそれは、一言で言うならば生肉だった。

 手触り、形状は間違いなく、肉の塊なのに色は赤ではなく、色は黄金。

 ガイドブックには確かMeat Chunkという名前でこれと同じものの写真が載っていた。

 但し、アーティファクトは同じ外見、形状の物でも、効果が違うものがあるという話だ。

 確かMeat Chunkは持ち主の新陳代謝を活発化させる物と、化学物質の汚染を取り除くが、微量な放射線を帯びている二種類の物があった。

 

 確認の為ガイガーカウンターを近づけると、警告音が鳴り始めたことからこれは後者だろう。

 高濃度の有害化学物質に汚染されたこのゴミ捨て場ではありがたいアーティファクトだ。

 欠点の放射能も放射能除去効果のあるファイアーボ―ルを同時に付ければ、無効化できる。欠点は持久力が落ちることだが、その程度は許容範囲内だ。

 

 バックパックの中に、シドロビッチが気を利かせて入れてくれていた予備のアーティファクト容器があったので、それにMeat Chunkを入れると彼は容器をベルトに引っ掛けた。

 元々ウエストポーチやソードオフも腰に下げているため、これ以上はアーティファクトを装備するのは難しくなる。

 BARに行ったら装備のレイアウトを仕立て直す必要がありそうだ。

 それにしても、ストーカー達はいつもこの様な危険を犯して、アーティファクトを手に入れていたのか。

 今更ながらに彼らに対して畏敬の念すら湧いてくる。

 そう思った矢先、その畏敬の念を払った存在とは対局の輩が現れた。

 

 

 ◆   ◆ 

 

 

「よう兄ちゃん。アーティファクト採掘ご苦労さん! あんたの冒険は遠くから見物させてもらったぜ」

 

「いやーいいもん見せてもらったよ。そんな訳でここの通行税はさっきあんたが見つけた採れたてのアーティファクトで勘弁してやる。……嫌だとは言わねえよな?」

 

 そう言って、彼の前に現れたのは武装した5人組のバンディットだった。

 先の場所から200メートル程離れたゴミの山の麓の道である。

 その道沿いに投棄されていた2メートルほどの発電機の影から突然2人のバンディットが飛び出すと同時、更に3人のバンディットが30メートル後方のゴミの山の影から姿を現したのだ。

 正面の2人はただの脅し役だろうが、後方の3人はそれなりに考えているようで、スクラップの影に半身を隠しつつ、銃を構え半円状の包囲網を形成している。

 

 ……迂闊だったとしか言いようがない。アーティファクトの採掘で神経をすり減らし、彼らが隠れていることに気が付かなかったとは。

 しかも先ほどアノーマリーの中でアーティファクトを手に入れていた時も観察されていたのは致命的だ。

 もし彼らが高精度の狙撃銃でも持っていて、悪ふざけであの時の自分に撃ちこんできたら、どんな事になっていたか……。

 例え当たらなかったとしても碌な事にはなるまい。

 

 自分への怒りで口を閉じているフィアーを怯えていると判断したのか、バンディット達の態度と口調が尊大なものになっていく。

 それが自分の死を早めていることも知らず。

 

「おい、聞いてるのかお前?さっさと―――」

 

 正面に立っていたバンディットはその言葉を最後まで言い切ることはできなかった。

 抜き打ちで放たれた散弾が、語るべき言葉ごとその顔を砕いたからだ。

 彼らはその動きに反応することはできなかったが、それでも流石はZONEに生きる者というべきか。

 銃声に反応し、反射的に後方の3人が構えた銃の引き金を引く。

 

 だがそれよりも、スローモーを発動させたフィアーのほうが早い。

 ソードオフショットガンの残り一発の弾丸をもう一人のバンディットの顔面に同じように叩きつけると、弾切れになったそれを放り捨てながら、今しがた殺害した2人のバンディットが飛び出してきた大型発電機の影に飛び込んだ。

 凄まじい銃火が発電機を叩くが、彼らの獲物はポンプアクション式散弾銃と22口径のボルトアクションライフル、そして自分と同じ短機関銃。

 どれも鉄製の発電機を貫通するほどの威力はない。

 

 3人の位置は既に掴んでいる。発電機に当たる銃撃の激しさから考えると発砲後、位置を変えると言ったこともしていないはずだ。

 彼は手榴弾を一つ取り出すと、セイフティを解除して発電機越しに一番脅威度が高い短機関銃の射手の方角へ放り込む。

 投げ込んだ方角から悲鳴が聞こえ、一拍置いて爆発音が響く。投げ込む際に信管の起爆する時間を調節していたため、逃げようとする暇すら無かっただろう。

 その隙にスローモーを発動させて、目星をつけていた次のカバー先―――タイヤのない大型トラックだ―――に全力で飛び込む。

 銃撃はなかった。爆発に気を取られてこちらを視認できなかったのだろう。

 手持ちのハンドミラーを使い、物陰から22口径ライフルの持ち主がまだ先ほどの場所に居ることを確認すると、そのまま体勢を低くして後方へと回り込みMP5で射殺。

 

 最後の一人である散弾銃の持ち主は、勝ち目がないと見て逃走を始めたが、余程慌てていたのか小さな気流を発生させるアノーマリーへと自ら突っ込んでしまった。

 バンディットが踏み込んだ事で活性化したアノーマリーは大気の渦を発生させつつ、中心部に巻き込んだものを圧縮させ始める。

 

 その勢いは台風どころか竜巻と例えてもいい程で、バンディットは紙くずのように巻き込まれ、アノーマリーの中を円状に回転し、中心部へと向かっていく。その光景は不可視の洗濯機に放り込まれたかのようだ。

 辺り一面に暴風の音とバンディットの絶叫が響き渡る。

 そして数秒後に、その死のメリーゴーランドは唐突に終わりを告げた。

 巻き込まれたバンディットが中心部へと到達したその瞬間、なんの前触れもなく、バンディットが弾け飛んだ。

 

 正確に言うなら、渦の中心部に圧縮された空気が限界を超えて、炸裂したのだ。

 人体が破裂した風船のようにはじけ飛び、血が霧状になって四散する光景にフィアーは顔をしかめた。

 その非現実的なまでにグロテスクな光景が彼にオーバーンでの悪夢の一夜を思い起こさせたからだ。

 生贄を平らげた風のアノーマリーはその後すぐに不活性化し、微かな気流の流れを痕跡として残すのみとなった。

 

 四散したバンディットの姿はフィアーにとっても人事ではない。

 このZONEでは戦闘の興奮に流されて、後先考えずに動けば彼もあの哀れなバンディットの二の舞になることになる。その事を肝に命じなければならない。

 

 他にアノーマリーがないか調べた後、彼はバンディットの装備の回収を始めた。

 最初に殺害したバンディットの獲物の短機関銃は、彼と同じMP5だが状態は大差ない。これなら癖がわかっている分、現在使っている物のほうがマシだ。よって破棄する。

 次の22口径のライフルは少々食指を動かされたが、よく見るとブリキング用の玩具のような代物だ。スコープも無く、22口径という小口径故に射程も数十メートル、ミュータントにも効果は薄いだろう。よってこれも破棄。

 そして一番欲しかったポンプアクション式の散弾銃だが、これは持ち主と共にアノーマリーに引き裂かれて四散してしまった。

 例のアノーマリーから30メートル程先に持ち主の腕ごと落ちていたそれは、銃身が真っ二つに折れていて使えるような物ではなくなっていた。当然、破棄。

 結局使えるものは少々の弾薬のみで、これも先の戦闘の補充分程度しかない。

 フィアーはため息を付くと、最初に放り出したソードオフショットガンを回収してその場を後にした。

 

 バンディット達と戦った場所から歩いて二十分も経った頃だろうか。

 再び無線機が鳴り始めた。相手はシドロビッチだ。

 なんとも言えない嫌な予感を感じながら無線機をオンにする。

 

『ようフィアー。一日で結構な距離を稼いだみたいだな?実はその近くにある廃工場にバンディット共の拠点がある。そこをお前に掃除してもらいたいんだが』

 

「俺はそこまで暇ではない。……ここに来るまでに9人のバンディットを始末してきた。それだけ殺せば奴らも暫くは大人しくするだろうよ」

 

『てことは後一人殺せば一日で二桁の大台に乗るな。ここは一つ記録に挑戦してみないか?』

 

「俺の自己最高記録は一晩で100人以上だ。今更そんな記録には興味ない」

 

『こりゃいいや! お前もそんな冗談が言えるタマだったか!』

 

 無線機の向こうからシドロビッチの笑い声が響いた。

 100人以上というキルスコアはむしろかなり控えめな自己申告だったのだが、シドロビッチにしてみればとびっきりのジョークに聞こえたらしい。

 無言で通話を切ろうとするが、無線機越しにも関わらずトレーダーはこちらの不機嫌を察知して、慌てて声をかけてきた。

 

『まあ待て、これは正確には俺からの依頼じゃない。そこのゴミ捨て場に集まってるストーカー達の依頼と思ってくれ。

 その辺りのバンディット共はストーカーを襲って身包みを剥いだり、銃で脅してアーティファクトを採掘させたりとやりたい放題だ。それでとうとうストーカー達も切れた。

 本来大規模に徒党を組むような連中じゃないんだが、今回ばかりは数を集めてバンディット共の拠点に攻め込む話になってきてな。俺の方にも戦力になりそうな奴はいないかと聞いてきたもんでね。お前さんが良ければ奴らを助けてやってくれないか?』

 

「……見返りは?」

 

『俺からの感謝の気持ちだけじゃ不足か? ……不足だろうな。その辺はストーカーに直接交渉したほうが早い。奴らのリーダーはベテランでZONEの奥地にも詳しい。もしかしたらナイトクローラーの事を知ってるかもしれんぞ?』

 

「そしてお前は俺を派遣したことでストーカー達に貸しを作るというわけか」

 

『まあそうなるな。誰も損をしない実に理想的な取引だ』

 

 狸親父め。

 口に出さず胸の中でフィアーは毒づくと了解したとだけ答えた。

 それに対してシドロビッチは待ってましたとばかりに、PDAにストーカー達の拠点を送ってくる。

 まずは彼らと合流してそれから叩けということか。

 GPSは相変わらず不安定だが、凡その位置は推測できる。ここからさほど離れてはいない。

 完全に日が暮れる前には合流できそうだった。

 

 

 

 ◆   ◆   ◆

 

 

 

 ストーカー達の拠点は廃棄物の山の群れから少々離れた所にある、崩れかけた3階建てのビルだった。

 巨人が殴りつけたかのようにそのビルは正面と側面の一部の外壁が完全に崩落して、内部構造を外に晒している。

 よくぞまあ、この状態で崩れないものだといっそ感心すらする。

 

 こんな場所を拠点にしようとはまともな人間なら考えまい。バンディットの目を盗んで集結するには確かにいい拠点かも知れない。

 観察すると崩れたビルの瓦礫の影に複数の人影があった。見張りだろう。

 このまま近づくと問答無用で撃たれかれないので、フィアーは座標と一緒に送られてきた『依頼人』の無線機の周波数にチャンネルを合わせて呼びかける。

 

「聞こえるか? こちらはシドロビッチからの使いだ。ここに俺を必要とする連中がいると聞いてやってきた」

 

 暫しの沈黙の後、無線機から中年の男性の声が返ってくる。

 

『……随分と早い到着だな? 俺が奴に援軍の宛があるかと聞いてまだ半日も経っていないぞ?』

 

「偶然近くにいたから俺にお鉢が巡ったきただけだ。不要だとというならもう俺は行くぞ。そんなに暇な身分じゃないんでな」

 

『そんなに急ぐな。念の為に聞いておく。あんたの名前は?』

 

「フィアーだ」

 

『……本物のようだな。俺はウルフと名乗っている。見張りには引かせるからビルの中に来てくれないか?』

 

 瓦礫に潜んでいた見張りが姿を消すのを確認すると、フィアーも身を隠していた小さなポンプ小屋からビルに向かった。

 

 ビルの中は外見以上に酷いものだった。

 そこら中に瓦礫が散乱し、まさに足の踏み場もないとはこのことだ。本来の広さの半分もないビルのフロアは瓦礫によって更に狭くなっている。

 しかしこの瓦礫の山のお陰で、吹きさらしのビルにも関わらず内部の様子を確認させにくくもしている。

 もっとも自分がこのビルを攻めるなら、内部に侵入することなくビルの後ろに爆薬でも仕掛けてやるが。この崩落ぶりなら少量の爆薬でもさぞかし派手に倒壊するだろう。

 

 そしてこのビルの住民達も、ビルに負けず劣らずの酷い装備だった。

 ここにいるのは十数人程のストーカー達だったが、誰も彼もバンディットと大差ない劣悪な装備と貧相な銃で武装している。

 まともな装備をしているのは彼らを率いているウルフという中年のストーカーと、その仲間と思われる2人の連れだけだ。

 

 彼らはモズグリーンのストーカースーツ―――ケプラー繊維とゴムで作られ、要所要所を防弾プレートで補強されたそのスーツは、悪環境下でも行動できるように小型のボンベとガスマスクを備えた閉鎖型循環呼吸装置まで装備している―――を装備し、消音機を装備したAK74のカービンライフルを装備しており、立ち振舞も隙がなく、歳相応の貫禄を持っていた。

 このZONEで出会った初めての歴戦の戦士と言える。 

 彼は両手を上げてこちらを歓迎した。

 

「よく来てくれたなフィアー。俺がウルフだ。我々はご覧の通り戦力が余りにも不足している。お前の様な援軍はありがたい。聞いた話じゃブラッドサッカーを始末したこともあるんだってな?当てにしてるぞ」

 

「礼なら言葉ではなく情報で返してもらいたい。俺はナイトクローラーという傭兵部隊を追っている。こいつらの名前に聞き覚えがないか?」

 

「名前だけなら知ってるさ。ここ最近のZONEの人気者だからな。そして確かにもう少し詳しい話も知っている。あんたが助けてくれるならこの仕事が終わった後、喜んで喋ってやるよ」

 

「依頼料は後払いか? バンディットの戦いであんたが死んだら骨折り損になるわけだが」

 

 その言葉には流石にウルフも苦笑したが、後ろの仲間と思わしき2人に親指を向けた。

 

「悪いがここで話して、バンディットのドンパチの最中に逃げられても困る。俺がくたばっても俺の連れの2人も同じ情報を知ってるから聞くといい。3人纏めて死ぬ確率は……ないとは言えんが、もしそうなったら俺達はコテンパンにやられてるって事になるから、あんたも情報を気にしてる場合じゃなくなるだろうよ」

 

 つまり、バンディット達を皆殺しにするだけでなく、彼らへの被害を最小限に抑えなければならないという事か。

 フィアーは溜息をついてそれを了承した。

 

「分かった。しかし裏の取れてる情報なんだろうな? もしつまらんネタやガセネタだったら……」

 

「誓うとも。少なくとも俺の情報がお前の満足するものじゃなければ、BARの情報屋にお前を紹介する。あそこにはZONEの概ね全てが集まるからな。人も物資も情報も」

 

 その言葉に嘘はないように思えたのでフィアーはそれを信じることにした。

 少なくともボロボロのストーカー達を束ねてバンディットに立ち向かおうとする男だ。つまらない嘘はつかないだろう。

 

「わかった。あんたを信じるよ。……それで? いつ決行する?」

 

「明朝だ。明日の明け方に奴らがアジトにしてる車両基地に仕掛ける」

 

 その言葉にフィアーはマスクの下で眉を顰めた。

 

「随分と急だな?」

 

「そうでもない。前々から計画してた事だし、悪い事に奴らのアノーマリー採掘の為の人間狩りに仲間が何人か捕まってしまった。近いうちにこの計画はバレるだろう。それにあんたがここに来るまでに随分と数を減らしてくれたみたいだから、奴らは今浮き足立っている。今がチャンスなんだ」

 

「いいだろう。まずは現場の地形が知りたい」

 

 その言葉を聞いてウルフは瓦礫をテーブル代わりにして、紙の地図を広げた。

 そこには廃工場の詳細な地図が描かれており、廃工場の間取りや、内部の機材の位置まで描かれていた。

 それを見るにどうやら目標の廃工場は元は貨物列車の整備工場だったようだ。

 列車が通れるように東西に工場の広い出入口が作ってあり、内部に列車が放置されている。

 そしてそれらの列車も一つ一つがシェルターとしての役割を持っているらしい。

 工場の周りは背の高い塀で覆われているが、逆にそれが死角になっている。

 

「随分と詳しく書き込んであるな」

 

「元々あそこはストーカー達の拠点だったんだ。それを奴らが奪い取った。だから内部の構造は理解している。地形も把握してるからある程度は気付かれずに近づけるだろう。」

 

 地図の描き込みを見ながらフィアーは次に聞くべきことを尋ねた。

 

「奴らの装備と数は?」

 

「概ね30人近く。装備はこちらよりは少しはマシだ。AK持ちが最低でも6人。旧式だがボルトアクションライフルを持ってる奴が3人は居る。ライフル持ちは大抵工場の二階の窓で見張りについてる。後はMP5やイングラム、レミントンやソードオフのショットガンといった所か」

 

 ボルトアクション式ライフルはともかく、AKやショットガン、短機関銃は工場内部で戦うならかなりの脅威になる。

 それに対してこちらの人員の武装は大半が拳銃、水平二連、よくて短機関銃と言った所だ。

 これで倍の人数に挑もうというのはかなりの博打だ。

 それをウルフもわかっているのだろう。ニヤリと笑うと後ろにある木箱を指で指し示した。

 木箱の中身に視線をやると、フィアーは小さく息を飲んだ。

 

「これが俺たちの切り札さ。シドロビッチに頼み込んで取り寄せた。持ち込むのに結構な苦労をしたよ」

 

 ウルフが指し示した木箱の中には数十個程の旧式の手榴弾が詰まっていた。

 

 

 

 ◆   ◆   ◆

 

 

 

 そして深夜、軽い食事をして仮眠し休息を取るとフィアーは彼らと共に夜中に廃ビルを出た。

 奇襲するため、警報を鳴らすアノーマリー探知機の電源を切り、ストーカー達の誘導を信じて闇夜の廃棄物の山とアノーマリーの隙間を縫うように歩き、車両基地へとたどり着いた。

 

 既に空が白みはじめている。

 見張りが最も気を緩める時間帯―――奇襲には絶好の時間帯だ。

 ストーカー達は二つの出入口に同時に攻撃を仕掛けるためにグループを二つに分けた。

 彼は東側からウルフが率いる部隊とともに突入する手筈だ。

 ウルフの二人の仲間は西から突入する部隊を率いている。

 

 工場の二階を見ると割れた窓の後ろにライフルを持った黒コートを着た見張りが立っていた。

 眠たそうに欠伸を噛み殺す姿からは、さほど緊張感は感じ取れなかった。

 これから死ぬというのに呑気なものだとフィアーは思った。

 もっとも覚悟していても結末は変わりはしないだろう。彼は消音機を取り付けたハンドガンを構えると、遮蔽物代わりにしている壁の影から半身を出した。見張りはフィアーの事に気づく様子もない。

 

 目測でここから30メートルほどか。この距離でも静止目標ならハンドガンでも狙い撃てる。

 スローモーを瞬間的に使いながら連続して二回、発砲。消音器付きの銃独特の低音ともに弾丸が放たれた。

 自らの撃った拳銃弾の軌道を強化された動体視力で確認することで、次弾の狙いを修正する。

 初撃は胴体に突き刺さり、その弾道を元に修正されて放たれた次の弾丸は頭部へと直撃した。

 

 頭部にも撃ち込んだのは胴体に例のプライパンの様な防弾装備があることを警戒してである。

 どの道、拳銃弾では胴体に撃ちこんでも即死しない場合が多い。概ね死ぬが、数秒後に死ぬか、数分後に死ぬかでは随分と変わってくるのだ。

 瀕死の状態でも、最後の力で引き金を引き金を引く程度はできる。そうなれば折角の消音器での攻撃も無駄になる。

 

 だがその心配も杞憂に終わった。

 見張りはライフルの引き金を引く間もなく即死し、一階へ落下はせずそのままその場で倒れてくれた。

 これで異常がバンディット全体に伝わるまで、最低でも数分から数十秒の猶予は稼げた。

 

 それで十分だ。

 

 フィアーは工場に向かって走りながら、腰にぶら下げた6つの手榴弾の内2つを手に取ると、見張りが先ほどまで立っていた窓の内部に向かって放り込んだ。

 二つの手榴弾が窓の中に消えると当時に、開けっ放しになっている巨大な列車用の扉の外側に張り付いて、突入のタイミングを伺う。

 爆発音が二回、鳴り響く。

 

 内部で悲鳴と怒号の声が上がり、彼らが混乱していることを確認するとフィアーは更に手榴弾を手に取り、風のように工場内部へと突入する。背後の事は気にしない。ウルフ達がカバーしてくれるだろう。

 巨大な車両基地としての機能をも併せ持つその工場は端に小部屋が配置され、中央に整備途中で放棄された列車が鎮座していた。一見簡単そうな作りだが、身を隠す所は意外と多い。

 もっとも間取り自体は出発前に読んだ地図で頭に叩きこんであったので問題ない。

 休憩室や仮眠室として使えそうな部屋がどこにあるかも、昔にここを根城としていたストーカー達に直接聞いている。

 

 薄暗い工場内部は未だに混乱状態にあるバンディット達が走り回っていたが、フィアーは一先ずそれを無視して、人が利用しやすい場所にある部屋に手榴弾を片っ端から放り込んでいく。

 爆音が次々と響き、更に怒号の声が大きくなる。

 最初の攻撃から更に三つ程の手榴弾を放り込んだ所で、ようやくこちらの存在に気がついた者が出てきた。

 

 そういった者は消音器付きの自動拳銃で即座に撃ち殺すが、混乱しているとはいえ、3人も殺せばこちらの存在にも気づかれる。

 広大と言っても所詮は密閉された空間だ。消音器の効果などたかが知れてる。

 彼らは声を張り上げ、こちらの位置を大声で叫んで仲間に知らせながら次々と手持ちの銃で発砲してきた。

 

 貧相なマカロフ拳銃から短機関銃、散弾銃、果てはAK自動小銃。

 様々な雑多な銃火器が碌に狙いも定めず撃ちまくられ、逆にそれが強力な面制圧効果を発揮することになった。

 流石のフィアーもその弾幕に身動きが取れず、工場中央の列車の影に逃げる羽目になった。

 二階にいたボルトアクションライフルを持ったバンディットが、こちらを狙い撃とうと不用意に姿を晒した為にハンドガンで撃ち殺す。しかし焼け石に水だ。

 このままではここに釘付けにされて、蜂の巣だろう。

 このままではの話だが。

 

 勢いを取り戻したバンディット達が更に威勢よくこちらに向かって距離を詰めようとした時、それは起こった。

 フィアーから見てバンディット達の更に後方。フィアーが突入した東側の扉の反対の西側の扉から次々と手榴弾が放り込まれたのだ。

 その数は控えめに数えても10は下るまい。その衝撃で工場が揺るぎ、屋根の一部が崩れてくる。

 

 フィアーに対する包囲陣形を取っていたバンディット達は、フィアーが居る方向からの攻撃を警戒して遮蔽物に隠れていたが、自分達の背後から攻撃する存在に対しては埒外だったらしい。

 四散する破片と衝撃波に叩きのめされ、運良くそれを凌げた者も混乱の極みに叩きこまれた。

 勿論この攻撃はもう一つのストーカーチームによる攻撃である。

 

 こちらの攻撃で予想以上にバンディット達が浮足立ったので、ここが勝負所と踏んで手榴弾の大判振る舞いをしたのだろう。戦術としては単純な挟撃だが単純なものほど成功しやすい。

 そしてその混乱を黙って見ているほど、フィアーはお人好しではない。

 獲物をハンドガンからMP5に持ち替えると列車の影から飛び出し、別の車両の影を目指して走りつつ、混乱の余りに障害物から身を出しているバンディット達にフルオートで銃弾を叩きつけていく。

 一人、二人、三人撃ち倒した所で次のカバー先へ飛び込んだ。

 だがそのカバー先にはバンディットの先客がいた。

 

 余りの至近距離での突然の遭遇に、お互い一瞬無言になるが即座に互いに銃を構える。

 無論フィアーの方が一手早かった。しかしMP5から放たれたのは銃弾ではなく、ガチンという異音だった。

 銃を見ると、変形した薬莢が薬莢の排出口に噛んで張り付いている。

 

 ―――ジャムった。

 

 勝利を確信したバンディットが笑みと共にAKをこちらに向け―――そして驚愕に目を見開いた。

 フィアーの姿が眼前から掻き消えたからだ。

 正確には消えたのではなく、バンディットの視野から消えるほどの超低空スライディングを叩き込んだのだが。

 

 特製のスパイクを仕込んだブーツと、人間離れした脚力によるスライディングに足首を粉砕されて、バンディットは悲鳴を上げて倒れこむ。

 その彼の喉笛に即座に体を起こしたフィアーが踵を叩き込んだことによって、彼は悲鳴を上げる事もできなくなった。

 ついでにジャムって役に立たなくなったMP5を放り捨て、彼が撃とうとしていたAK74自動小銃を貰い受ける。

 

 マガジンまで漁ってる暇はなかったが装填されているマガジン内の銃弾だけで十分だろう。

 何しろ大混乱に陥ったバンディットは怒り狂ったストーカー達に、一方的に叩きのめされるだけになっている。

 そして今、ウルフ達のチームがフィアーの開拓したルートを辿って突入し、別働隊からの攻撃を受けて混乱しているバンディット達に襲いかからんとしていた。

 二段どころか三段構えとなったこの波状攻撃に対して、バンディット達は為す術を持たなかった。

 

 ―――もはやこの戦いの結末は決まったのだ。

 

 

 




 Cordonはほんと気楽なマップだったのに対してGarbageはいきなり難易度高くなりすぎ問題。
 あとSTALKER二作目の強制イベントでこちらの物資と金全部奪うバンディットは憎き敵。
 バンディット殺すべし慈悲はない。

 ZONE観光案内。
 Garbage(ゴミ捨て場)。瓦礫と荒野の殺伐としたマップ。
 楽ちんなCordonから一転、これがZONEだと言わんばかりに理不尽なアノーマリーと放射能汚染地帯の嵐がプレイヤーを襲う。
 近道しようと道を外れるともれなく放射能汚染受けるか、アノーマリーに襲われて死ぬ。
 このマップはバンディットが無限湧きするので、どこかにバンディット畑でもあるのかも。

 作中でバンディットが巻き込まれたのはWhirligigと言われるアノーマリーで、プレイヤーの事故死の原因のトップに入る危険なアノーマリー。
 透明でわからずらいので走ってる時、うっかりこいつに引っかかるとフリーザに爆破されたクリリンみたいになります。

 ウルフ達が拠点にしていた半壊したビルはS.T.A.L.K.E.R.Clear Skyでストーカーが蚤の市に使っていた場所。
 あんな所でブロウアウトをよく凌げるな……。
 そして襲撃した車両基地は同じくS.T.A.L.K.E.R.Clear Skyでバンディットの固定拠点となっていた所。
 Clear Skyは好きな派閥に加入することが出来、バンディットに加入して下っ端達に話聞くと、なぜ彼らがバンディットに落ちぶれたのかという話が聞けたりして意外と面白い。

 ついでに今回手に入れたアーティファクト紹介。
 Meat chunk。動物の肉がアーティファクトになったもの。
 一作目仕様では再生力を高める代わりに出血しやすくなったりと怪我に弱くなる。普段は外してて怪我した時だけつけるような運用をする。
 二作目仕様では化学物質による汚染を防ぐが微妙に放射線を出す。毒の沼に踏み込んでいく時に有用。
 今回手に入れたものは後者のほうです。
 
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