S.T.A.L.K.E.R.: F.E.A.R. of approaching Nightcrawler 作:DAY
ロッカールームの出口の側の壁に背を付けたフィアーは、まずハンドミラーで通路の様子を探った。
見える限りでは動く者はいない。しかし通路の大半は闇に覆われているため、隠形に徹した存在が身を潜めていたらフィアーと言えどその存在を見抜くのは難しい。
フラッシュライトで闇を切り裂いて、通路を照らしだしクリアリングを行う。
この通路は他の通路より崩落が酷く、壁に亀裂や穴が開いていた。穴の中は近づかなければ暗すぎて見えない。
更にはホールのものと同じ木箱が幾つか放置されている。
嫌な予感がする、と思いながらまだ探索していない通路の奥へと踏み込んでいくと、アノーマリー探知機が早速反応した。
前方の進路上にアノーマリーを示す複数の赤いマークが検出される。
嫌な予感はこれだったのだろうか、そう思いながら前進し、生臭い空気の流れを感じて振り返った。
視線の先には通路の壁に空いた穴がある。一抱えほどの大きさの穴が。
その奥の闇で何かが動いたような気がして、フィアーはフラッシュライトの光を穴に当てた。
瞬間、穴の中に潜むそれと目があった。
突如光を当てられたそいつは目を細めながらも、呻き声を上げて穴の中から歪んだ手を伸ばしてきた。それはフィアーがペネトレーターの引き金を引くよりも早く銃身を掴み、上へと跳ね上げる。
杭打ち機が暴発し、天井に向かって杭を撃ち込む。コンクリートが破砕されて小さな破片となって落下した。
そいつはそのまま穴の奥から飛び出して、一気にフィアーを押し倒さんとのしかかってくる。
だがこの程度でやられるほどフィアーの反応速度は甘くはない。フィアーは後ろに倒れ込みながらも、相手の勢いを利用して巴投げでそいつを後方へと投げ飛ばした。
それもただ投げ飛ばしただけではない。アノーマリーを示すマークがある場所へと放り投げたのだ。
そいつが地面に激突すると、コンクリートの床から唐突に天井まで届くほどの火柱が巻き起こり、薄暗い通路を炎で照らしだす。
炎のアノーマリー、Burnerだ。全身を炎に焼かれてようやくそいつの全身像がはっきり見えた。
後ろにいたマールが呻いた。
「フィアー!こいつは……!」
「スノークだ!背後の警戒を怠るな!」
その怪物の正体はAgropromの沼地でも交戦した人型ミュータント、スノークだった。
全身に火を纏いながらも、ボロボロのストーカースーツとガスマスクを付けた四足歩行の怪人が、怒りの声を上げてこちらに向かって前進してくる。
この怪物には痛覚というものがないのだろうか。
改めてペネトレーターを構え、引き金を引こうとした瞬間、今度は後方で何かの落下音とマールの悲鳴、そして軽機関銃の銃声が連続的に続いた。
「うぉっ!こいつ通風口から―――!」
どうやら背後からもスノークが奇襲してきたようだ。
一瞬だけフィアーが後方に意識を向けたのを好機と見たのか、火達磨になったスノークが雄叫びを上げると、天井付近まで跳躍して飛びかかってきた。
だが、遅い。
ペネトレーターの照準は飛び上がったスノークを追尾している。引き金を三度引く。
3連射されたフレシェット弾は、スノークの胸、喉、そして頭部を撃ち抜き、そのままスノークを天井に磔にする。
既にBurnerの火柱は鎮火していたが、火達磨になった上に天井に標本のように縫い止められたスノークが悪趣味な松明となって通路を照らした。
フィアーがマールの方を振り向くと彼は、スノークに蹴り倒されて顔面にその爪を突き立てられる寸前だった。
素早くスノークの頭部をポイントし、発砲。
放たれた高速の杭はスノークが爪を振り下ろすよりも早く、大気を貫き側面から顔面へと突き刺さる。
重量のある鉄杭の着弾の勢いでスノークは吹き飛ばされ、頭部を壁面に縫い付けられる。
そこに上半身を起こしたマールが止めとばかりに軽機関銃を連射して止めを刺した。
「……まだ来るぞ!」
フィアーは前方の通路の奥を見据えながら叫んだ。
どこに潜んでいたものか、更に6体のスノークが四つん這いになって、こちらに向かってきていた。
だがその進路には炎のアノーマリー、Burnerがある。怪物達は知ってか知らずかアノーマリーを避ける動きもせずに、まっすぐこちらに突っ込んできて―――そして当然のように発動したBurnerに火達磨にされながら、それでも速度を落とすことなくこちらに向かって来た。
如何にミュータント化して知能が低下していると言えど、己の生存すら度外視して獲物に襲いかかるその狂気。
それに微かに気圧されながらもフィアーは正確にフレシェット弾をスノーク達に撃ちこみ、床面へと縫いつけていく。
そこにマールの軽機関銃の支援射撃も加わり、スノークの全滅は時間の問題になるかと思われた。
だがこの地下の悪意はこんなものではなかったらしい。軽機関銃の流れ弾が通路に放置されていた木箱に当たった瞬間、更に事態は悪化した。
再び甲高い鳴き声と共に、破砕した木箱の中から20体ほどの鼠が飛び出してきたのだ。
しかも今度の鼠はただの鼠ではなかった。その鼠には全身を覆う毛皮はなく、歪に発達した筋肉に覆われ、顎は巨大化し、閉じきれない口の間からは禍々しい牙が並んでいる。
Cordonの廃農場でストーカーを食い殺したあの奇形鼠だ。
木箱は火柱を上げるアノーマリーのすぐ近くにあったので、奇形鼠の大半は木箱から飛び出すと同時にスノークと同じく火達磨と化す。
しかし火達磨になりながらも彼らはスノークと同じく、自己保存を一切考えずにこちらに向かって来るのだ。
この場合ミュータント達がアノーマリーに引っかかったのは果たしてこちらにとって幸運だったのか。少なくとも生ける小型の松明となった奇形鼠達に襲われるぐらいなら、まだ普通に襲われたほうがマシだろう。
マールは燃え上がりながらもこちらに向かってくる鼠にパニックを起こしたのか、軽機関銃を乱射している。だがこの調子ではすぐに弾切れになるだろう。
フィアーが軽機関銃を持っていればスローモーによる高速精密射撃によってこの鼠達を全滅させることもできたが、後の祭りだ。
かといって手にしたペネトレーターの残弾数では鼠を皆殺しにするには少々弾数が足りない。
フィアーは一旦ペネトレーターを背中に回すと、ショットガンを引き抜き、火鼠達の先頭をできうる限り引きつけた後、スラムファイアにて散弾を斉射、火鼠の半数を挽き肉に変えた。
「あっあれ?クソっ、弾切れ……」
そして隣で弾切れを起こしたM249軽機関銃のリロードをしようとしているマールの襟を引っ掴むと、叫んだ。
「ロッカールームまで一旦戻るぞ!」
そのままマールを引きずりながら来た道を駆け戻る。そしてロッカールームに飛び込む前に破片手榴弾を火鼠の群れの中へに放り込むのも忘れない。
数秒後、爆音が地下を揺らし、振動で天井から埃と塵が落ちてきた。
フィアーはロッカールームの中で、弾切れになったショットガンを捨て、代わりに腰からM10イングラム短機関銃を引き抜いてロッカールームの出入口に銃口を向けた。
隣ではマールが軽機関銃のリロードを諦めて、背中に背負っていたAKを構えて同じように出入口に銃口を向けている。
10秒ほどの痛いほどの沈黙の後、やがて火傷と手榴弾の破片で死にかけた奇形鼠が一匹だけロッカールームの出入口によろよろと姿を現した。
即座にフィアーは短機関銃でそいつを射殺する。ボロボロになった鼠は哀れな悲鳴を上げて息絶えた。
更に20秒程待機して、もうおかわりはこなさそうだと判断したフィアーはショットガンを拾い上げて散弾を装填し、マールに軽機関銃のリロードを済ませておくように言って通路に出た。
先程まで鎮まりかえり、闇の回廊のような通路は先ほどとは一変していた。あちらこちらに未だ松明となって燃え続けているスノークの磔死体や奇形鼠の死体が散らばって、通路と死体を照らしだしており、悪趣味な前衛芸術が如き有り様と化している。
「大したキャンドルパーティだな……」
全身を炎に焼かれても尚、敵を殺すことを止めない地下のミュータント達。彼らのような存在がよくこんなアノーマリーだらけの地下に長期間生存し続けられたものだ。平時は冬眠でもしているのだろうか?
そしてこれだけの死体の山を築いて、まだ何の手がかりも入手できてないというのがまた腹ただしい。
ミュータントの生き残りがいないことを確認するとフィアーは一旦ロッカールームへと引き返した。
「軽機関銃の残弾は後いくら残ってる?」
「あと大型弾倉が1つ。小銃用のマガジン3つだ」
「大事に使えよ。ここで弾が尽きた時が俺達の命が尽きる時だ。軽機だからって軽々しく乱射するんじゃない。お前は自分の身を守ることを優先しろ。俺が取りこぼしたヤツを仕留めるんだ」
「すまない……。なんだか足を引っ張ってばかりだな俺は……」
落ち込んだマールの肩をフィアーは軽く叩いた。
「気にするな。こんな所で生きているだけで大したものさ」
心からの言葉だった。
その後、態勢を立て直してフィアー達は再びロッカールームを後にした。
次の目的地はスノーク達がやってきた通路の奥だ。
勿論さらなる怪物達がいる可能性もあるが、あれだけのミュータントが出てきたからにはあの通路の奥には何かがあるかもしれない。
ミュータント達と同じ轍を踏まぬようにアノーマリー探知機を使い、burnerを丁寧に避けて行く。
後ろのマールもフィアーが歩いた後を通ってアノーマリーを回避しながらついてくる。
そしてたどり着いた通路の突き当りは更なるburnerの巣となっていた。
元は大人数用のシャワールームだったそこはシャワーの蒸気ではなく、非活性状態にあって尚、猛烈な熱と光を放つ強力なburnerアノーマリーで空気が揺らいで見えていた。この部屋のburnerアノーマリーに比べれば、通路のburnerアノーマリーなど子供騙しに過ぎない。
HMDに投影されたミニマップはアノーマリーを示す赤いマークで真っ赤に染まっている。ついでに微弱ながらガイガーカウンターすら反応していた。
もはやこれではシャワールームではなくサウナルームだ。
この危険地帯では活動時間も限られる。フィアーはマールを一旦通路に戻して見張りを命じると、ボルトを手にシャワールーム内部の探索を始めた。
もはやHMDのミニマップはアノーマリーマークでぎっしり埋め尽くされている為、マップすら当てにはならない。
床の破片やボルトを放り投げて意図的に火柱のアノーマリーを活性化させ、その隙間を掻い潜るようにして奥に進む。
火柱と熱波の照り返しで、もはやフィアーは汗まみれだ。エコロジスト達の施設にあったシャワールームが猛烈に恋しくなってきた。ここも一応シャワールームではあるのだが。
壁で仕切られた個室を一つ一つ覗いていくが、特に目立ったものは見当たらない。干からびたスノークの死体があっただけだ。
ここも外れだろうか。そんなネガティブな考えと共に最後の個室を覗き、フィアーはマスクの下で目を見開いた。
その個室の中には見たことのある格好をした死体があった。
全身を覆うオレンジ色のビニールスーツ、胸にはボタンの付いたパネルが取り付けられており、顔は卵型のスモークグラスのヘルメットで隠されている。
エコロジストのスーツだった。
死体の回りには空になったペットボトルや缶詰の缶が転がっている。よく見るとスーツもボロボロだった。
ここに閉じ込められて餓死したのか。或いは高熱による脱水症で死亡したのか。
どちらにしても羨ましいと思える最後ではない。
だがこのオレンジスーツが他の死体とは毛色の違う死体なのは確かだ。
フィアーは身を屈めて彼の懐を探った。
出てきたのは弾切れの拳銃とPDA。PDAは特別仕様なのかこの悪環境下においても目立った破損は見られなかった。
早速バッテリーを繋ぎ、起動を試みる。幸いなことに起動にパスワードの認証は不要だった。
随分と無警戒だが楽に越したことはない。セキュリティ管理の甘いオレンジスーツの中身に感謝しながらPDAを起動させた。
履歴を調べると、最後に使われていたアプリはメモ帳だった。早速中を覗き見る。
『親愛なる同僚へ。明日から始まる事について知らせたいのだが君たちには中央研究室のコンテナに気を配ってもらいたい。必ず2時間おきにコンテナを検査してくれ。連絡は全て直接、私にするように。中央研究室のコードは、9524だ。 X-18 研究所 責任者 Piotr Llyitch Kalugin』
当たりだ。フィアーはマスクの下で笑みを浮かべた。この死体はこの施設の研究員だったらしい。
これであの扉へのアクセスコードが手に入った。
フィアーはPDAのデータを自分のPDAに移して遺体にPDAを返すと、逸る気持ちを抑え慎重にシャワールームの出口へと向かっていった。
「パスコードを手に入れた。ホールまで……いや、ロッカールームまで一旦戻るぞ」
そうマールに告げるとフィアーは、再びアノーマリーだけの通路を通り抜けて、ロッカールームまで引き返し、一息付くことにした。
そして出入口にワイヤートラップを張ると、小休憩をするとマールに伝えた。
ロッカールームにあったベンチに二人は腰を下ろした。勿論銃はすぐ側に立て掛ける。
フィアーは早速フェイスガードを外すと、パックパックの中にあったミネラルウォーターの封をきって一気に飲み干した。
更にもう一本ミネラルウォーターの封を切ると、半分ほど飲み、ヘルメットも脱いで汗まみれになった自分の頭にミネラルウォーターの残りを振りかけて、熱を冷ます。そこでフィアーはようやく人心地がついた。
フル装備でサウナのような場所にいたせいか、頭部に血と熱が溜まっていた。もう少しあそこに留まっていたら、熱中症になっていたかもしれない。
マールも似たようなもので同じようにミネラルウォーターを一気飲みして、汗まみれになった顔をタオルで拭っている。
その後は2人してカロリー補給の為に持参した栄養補助食品であるブロック状のビスケットバーを数本貪るようにして食べた。ついでに水分が足りなかったのでロッカーにあったコーラなども頂いた。
水分を補給し、カロリーを補給し、コーラによるカフェインもあってか、体の調子が戻ってきたフィアーはマールに出発すると伝えた。
コンバットハイの反動が今ごろになって襲ってきたのだろうか。マールは少々気怠げだったが、それを押し殺して立ち上がると軽機関銃を手に取り、フィアーの後をついてきた。
そして特に障害もなく2人はホールへと戻ってきた。
未だにホールには死体と、死体を齧る鼠の咀嚼音に溢れていた。ロッカールームで小休憩して正解だったとフィアーは思った。
こんなところで休憩などできるわけもないからだ。
ホールの遮蔽扉のパネルを調べる。電源は生きているようなので、システムを起動すればパスコードを受け付けるようになるだろう。パネルをいじるフィアーに、マールが声をかけてきた。
「なあ、フィアー……。俺の相棒やシェパードがまだ生きていると思うか?」
その声は不安と恐怖に満ちていた。無理もない。X-18がこれほどの魔境とはフィアーも想像していなかった。
その問に対してフィアーはパネルをいじりながら振り返らずに答えた。
「正直怪しいな。だが似たような状況下で俺も2人の仲間とはぐれたことがあるが、その時はなんとか合流できた。仲間の死体を見つけるまでは諦めるべきじゃない」
「……そうか。そうだな」
そのフィアーの答えに安心したのか、マールの声には力が戻ってきていた。
もっともその2人の仲間の内1人は目の前で死んでしまったのだが、流石にそれを言う気にはならなかった。
そうしている間にパネルが起動した。手早くパネルに手に入れたコードを入力しようして―――
鉄の塊がぶつかり合うような凄まじい轟音が、目の前の遮蔽扉から響き渡った。
同時に2メートルを越える高さの巨大な遮蔽扉が、反対側から巨大な何かを叩きつけられたかのように軋み、揺れる。余りの衝撃に扉ではなく扉が埋め込まれた壁が悲鳴を上げ、小さな亀裂ができた。
フィアーは反射的に扉の前から飛び退き、ペネトレーターを構えた。マールの方に視線を向けると、彼は余りの出来事に腰を抜かしてひっくり返っている。
素早く彼の襟首を掴んで引きずって、遮蔽扉の前からどかせる。
異変はそれっきりだった。
襟首を掴まれたまま、唖然とした表情のマールがぽつりと呻く。
「……なあフィアー。音の出処は目の前みたいだが、問題あるか?」
「おおありだな。だが開けないわけにもいくまい」
問題はこの扉に激突した物がなんなのかということだ。
この規模の遮蔽扉の重量は恐らく最低でも5t、下手すれば10tにもなる。
例え自動車が突っ込んできても揺らぐことはない。
つまりこの向こうには自動車にも匹敵する何かがいるということになる。
マールを一旦ホールの出口まで退避させ、自身はメインアームをType-7へと持ち替える。
Type-7は強力な粒子砲だが、どちらかと言えば対人用の兵器だ。
人体なら一瞬で蒸発させる熱量も、装甲に覆われた大型兵器相手では真価を発揮できない場合も多い。だがそれでもパワードスーツ程度の兵器なら有効なのは、レプリカ兵が操るパワードスーツ相手に実証済みだ。
弾数が1発限りというのが心許ないが。
ついでに最後に残った対物地雷も遮蔽扉の前に仕掛けておき、手榴弾の準備もする。
扉の向こうにいるであろう何者かへの迎撃の手はずを終えたフィアーは、遮蔽扉を開ける為、パネルに取り付いた。
これから開けるとことをマールに手で合図すると、慎重にパネルにアクセスコードを入力していく。
9、5、2、4。 数字を全て入力していき、最後にエンターキーを押すと圧縮空気の漏れる音と、金属が擦れる音が響いてゆっくりと遮蔽扉が開いていく。
フィアーは扉の死角に待機しているため、扉の中を伺うことはできない。
完全に扉が開ききった後も何も起こることもなく、時間だけが刺すような沈黙と共に過ぎていった。
5秒、10秒、20秒、と経ってフィアーは気配を殺しながら解放された遮蔽扉に近づき、ハンドミラーを使って中の様子を覗き見た。そして呻く。
「クソっ……!」
扉の中は地下へと続く階段だった。その規模は地下1階から地下2階への階段と同じサイズで人一人か二人が通れるかと言ったものだ。とてもではないが、あの遮蔽扉を揺るがすような代物が通れるような広さではない。
あの轟音と振動は単なるフェイクだったのだろうか?
いや、フェイクだろうと10t近くある遮蔽扉を揺るがす何かが居るのは間違いない。警戒を緩めるべきではない。
フィアーは設置した地雷を回収し、Type-7にセーフティをかけるとメインアームを再びペネトレーターに持ち替えて、待機させていたマールを呼び寄せた。
「フィアー、結局あれは何だったんだ?」
「どうもこの地下には人前に出るのが苦手な奴が居るようだ。奴はなんとかして俺達を追い出したいらしい。……お前はもう無理についてくる必要はないぞ。ここは予想以上にやばい」
「いや、大丈夫だ。いくらあんたが強いと言っても後ろに目はないだろ?見張りぐらいの役には立つさ」
「……そうか。なら頼む」
結局フィアーは彼の意思を尊重することにした。
確かに彼は戦闘面では頼りにならないかもしれないが、完全に1人でこの地下を探索するとなると流石のフィアーも精神的にきついものがある。
例えフィアー程の戦士でも、背後に誰かが居るというのは意外と安心できるものなのだ。
マールの意思を確認したフィアーは、先ほどと同じく彼とツーマンセルを組んで扉の中へと入っていく。
フィアーに続いて、後衛のマールが扉をくぐったその瞬間。
まるで蹴り飛ばされたかのような勢いで遮蔽扉が閉じた。
金属音が狭い階段に響き渡り、続いて扉のロックのかかった証の電子音が階段側にあった操作パネルから響いた。
「オイ、マジかよ!」
流石にパニックになったのか、慌ててマールが遮蔽扉にしがみつくが当然びくともしない。
フィアーは階段側の操作パネルを起動させてアクセスコードを入力するも、予想通り受付はしなかった。
「どうやらこの地下に居る恥ずかしがり屋を始末しないと出れない仕組みになっているようだな。恐らくシェパードやお前の相棒もこんな風に閉じ込められたんだろう」
「……先に進むしかないってことか」
「そういうことだ。行くぞ。ここからは密に警戒しろ。奇妙な物音や妙なものを見たらすぐに俺に知らせろ」
そう告げるとフィアーはペネトレーターを構えて、階段を降りていく。マールはその姿を暫し呆然と見ていたが、慌てて後を追った。
この階段は地下1階から地下2階の階段よりも更に長かった。最初の階段と違い、照明が生きていたのが救いだったが。
体感的には10m近く降りた所でようやく、扉を見つけた。ここが地下3階になる。
だが地下への階段はまだまだ続いている。
地下3階を探索するか、それとも階段を更に降りるか、判断に迷いフィアーは地下3階へと続く扉に耳を当てて、内部の様子を探った。
内部からは何かがコンクリートにぶつかる音、ガラスが割れる音、そして巨大な重量のある物がズシンズシンと歩きまわる音が聞こえてきた。どれも人の気配とは程遠いものばかりだ。
特に気になったのは重量物が歩きまわる音。フィアーの聞いた音の中で一番これに近い音は、先日ATC本社に査察に乗り込んだ際、壁をぶちぬいて現れた大型パワードアーマーの足音だった。
結局そのパワードアーマーには手持ちの火器が一切通用せず、ATC本社内部で命がけの追いかけっこした結果、最終的にはATC社の武器開発室で手に入れた試作型のロケットランチャーと対物地雷を山ほど叩き込んでようやく撃破に成功したのだ。
この足音の持ち主があのパワードアーマーに準する相手だとしたら、手持ちの火器だけで殺しきることは難しい。また都合よくロケットランチャーが転がっているとは限らないのだ。
暫く考えた後、フィアーは結論を出した。
「この階は後回しだ。下に降りるぞ」
マールはフィアーの判断を信用しているようで、何も言わずに頷いた。
―――地下4階
2人はあれから更に階段を降りていった。より下へ降りる度に生きていた照明も段々と消えるか弱々しくなり、まるで冥府の奥へと進んでいるかのような錯覚に陥る。
正体不明の騒音で騒がしかった地下3階とは違い、地下4階へと降りるにつれて一切に雑音がなくなり、痛いほどの静寂が辺りを包む。自分の足音、後ろのいるマールの足音に集中することが正気を保つ唯一の術だった。
階段の段数を数えているため、実際には十数メートルほどしか降っていないはずだが、その数字すら本当に正しいのか自信が持てない。
そして20メートルほど降りた所でようやく底に到着した。
階段の底には扉が1つ。フィアーは先ほどと同じように扉に耳を当てて気配を探る。
特に物音は聞こえない……いや、微かな笑い声が聞こえたような気がする。
だが笑い声程度ならどうということはない。
扉に手をかけて鍵がかかってないことを確認すると、マールにハンドサインで合図をして突入すると伝える。彼は無言で頷いた。
フィアーはゆっくりと金属製の扉を開けた。長い間油を差してなかったその扉は予想以上に大きな軋み、音を響かせながら開いていった。
「……ここは随分と様子が違うな」
「ああ、上と違って随分と綺麗に見えるぜ。それに明るいのも助かる」
扉を開いた先は上と同じちょっとしたホールになっていた。
このホールの間取りは中心部にエレベーターがないのと、天井が少々高い以外は上のそれと大差ないが、地下1階や地下2階は作られてから何十年と経過したコンクリートの地下シェルターの様な雰囲気だったのに対して、この地下4階は壁は少々薄汚れているが真っ白な壁材を使用しており、床材も自然石調のタイルと随分と現代的だ。
照明も白熱球や非常灯ではなく、蛍光灯やLEDを使用しており、薄暗かった上の階と違って全ての照明が生きている。その為白い清潔な光が煌々とホールを照らしており、上の階のような重苦しい空気はない。
そして明かりに照らされるホールの中で目を引いたのは、ホールの天井にある白い菱形を3つ、三角形に配置したマーク。
それと同じものがフィアーが手にするペネトレーターの銃身にも刻まれている。
ATC社のマークだ。
「ここはアーマカム社の施設なのか…」
思いも寄らず、ATC社の痕跡に出くわしたことでフィアーは呆然と呟く。
確かにこのホールの構造は、フィアーが何度か探索したATC社の施設と通じるものがある。
しかしこんなZONEの奥底で、ATC社がこのような施設を作っているとは思いもよらなかった。
ATC社が関わっているのなら尚更この階は徹底的に探索しなければならない。
上の死体の山にナイトクローラーの死体が混じっていたのもこの施設が原因だろう。
この階はホールの奥に扉があり、その左右の突き当りには廊下が伸びている。
そしてそのホールの奥の扉は地下2階のそれと同じく大型の遮蔽扉だ。
とりあえずそこから調べてみるべきだろう。
だがその前に隣のマールに警告をしておくことは忘れない。彼は探索の場が陰鬱な古い地下施設から、突如清潔な研究所になったことに対して安心し、緊張感が削がれてるようにみえる。
「マール、随分と雰囲気が変わったがここはアーマカム社の施設だ。今までとは別のベクトルで気をつけろ」
「別のベクトルってどういう意味だ?」
「そうだな。天井に不自然な出っ張りがあったら、警戒しろ。無人機銃が出てきて蜂の巣にされる。後は昆虫の羽音みたいな音が聞こえたら戦闘態勢を取れ。それはレーザー機銃を装備した対人UAVのエンジン音だ」
それを聞いてマールは頭を抱えた。
「さっきまではわけのわからん幽霊や怪物に悩まされてたのに、今度はSFみたいな兵器に悩まされることになるのか……」
「そう言うな。無人兵器は確かに手強いが、亡霊を相手にするよりは精神的には随分楽だぞ。奴らは合理的に動いてくれるし、心理的なプレッシャーもかけてこない」
そう言いながら2人がホールの中心まで歩いた時だった。
ブレーカーが落ちるような音と共にホールの照明がダウンした。
ZONE観光案内
X-18地下2階
そこら中に炎のアノーマリーがあったり、へんな火の玉が飛んでいたりとかなりのホラーアトラクションちっくな場所。
ミュータントも多数存在して気が休まらない場所です。
MODによって敵の種類がいろいろ違うため行くたびに新しい恐怖を味わえます。
そして地下三階はまさかのスルー。
このSSのZONEの時系列はS.T.A.L.K.E.R.: Clear SkyとS.T.A.L.K.E.R. SHADOW OF CHERNOBYLの間なので、SHADOW OF CHERNOBYLでマー君が探索する地下三階をフィアーが先に荒らすわけにはいかなかったからです。
代わりにオリジナルの地下4階をぶち込みました。こっからはFEARパート。
因みに原作だとX-18は地下三階までです。が、地下三階へ続く階段に更に続きがあったようにも見えたのですが、崩落していたので実はまだこの下に何かあったんじゃないのかと思い、オリジナルの地下4階を作ろうという発想になった次第。