S.T.A.L.K.E.R.: F.E.A.R. of approaching Nightcrawler 作:DAY
フィアーが目を覚ましたのは定期的に鳴り響く重低音のせいだった。
ゆっくりと目を開けると酒瓶を抱えたシェパードが隣のベットから転げ落ちて、喧しいいびきを立てている。これが騒音の元凶だろう。
どいつもこいつもストーカーという奴は、でかいいびきを立てずにはいられないのだろうか。
腕時計を見やると朝の8時だ。
だが、隣のこの男はしばらく起きそうにない。
数秒ほど考えるとフィアーはベットから起き上がり、拳銃やナイフと言った必要最低限の装備を身に着ける。
そして試しに部屋に備え付けの洗面台の蛇口をひねると、驚くことにちゃんと清潔な水がでた。
顔を洗い、小型のポケットナイフで無精髭を剃り、伸びた前髪を適当に切る。
冷蔵庫の中にあったミネラルウォーターを開けると一気に飲み干して、一息つくとフィアーは朝の散歩に出かけることにした。
間抜けな相棒が目を覚ますまでの間、少しぐらい観光してもバチは当たるまい。
念の為、ショットガンだけスリングで腰にぶら下げると彼は部屋を出て、朝食を食べに行った。
◆ ◆ ◆
朝の酒場は予想以上に人が少なかった。正確にはいないわけでもないが、酔いつぶれてる奴ぐらいしかいない。
ストーカーというのは夜型が多いらしい。こんなところに居る連中に規則正しい生活など望むべくもないが。
だが、そんな中でもBarkeepは相変わらずだった。数少ないストーカー達に簡単な食事を振舞っている。
カウンターに近づくと、彼は手を上げておはようと言ってきた。
「よう、フィアー、シェパードはどうした?」
「酒瓶抱えて寝てる」
それを聞いたBarkeepは笑った。
「だと思ったぜ。そうなると昼すぎまでは起き出さない」
「俺としてはさっさと出発したいんだがな……昼から出てArmy warehousesのFreedom基地まで夜には着くか?」
「ああ、シェパードは腕利きのガイドでもある。夕方までには充分着くだろ。それより朝飯でもどうだ? 大したもんは出せんがおごってやるぞ」
「……頼む」
そしてカウンターに出てきたのは一杯の水と棍棒のように硬いパン、ローストしたダイエットソーセージと目玉焼き、そして豆のスープだった。
特にパンは食いちぎれないほどの硬さを誇り、水かスープに浸さなければ食えない代物だった。
その為フィアーはパンを二つにちぎり片方を水に、もう片方を豆のスープに突っ込み、柔らかくなるまで待つことにする。
その間の時間つぶしというわけではないが、フィアーは味のないダイエットソーセージを齧りながら、Barkeepに以前から気になることを聞いてみることにした。
「なあ、Barkeep。あんたC-Consciousnessって組織に聞き覚えはあるか?」
核心をついた言葉のつもりだったが、Barkeepはその言葉に特に反応せず、眉をひそめただけだった。
「いや、知らんな。ZONEに出入りしてる外国の組織かそりゃ?」
「……知らないならいいんだ。悪かったな」
Barkeepの反応から本当に知らないと見たフィアーは、柔らかくなってきたパンを片付け始める。はっきり言ってうまくもなんともない大雑把な味だが、スープに漬けたほうはなんとか食べれないこともない。
水につけた方のパンは目玉焼きと一緒に食べる。目玉焼きは焼きすぎていて黄身が完全に固まっていたが、このZONEで半熟の目玉焼きなんて洒落たものは期待するだけ無駄だろう。もとより無料なので質に文句を言うつもりはない。
家畜が餌を喰らうように、短時間で朝食をかきこむと、フィアーはBarkeepからペットボトルのコーラを一本購入して、酒場の外へと出て行った。
◆ ◆ ◆
朝のBARは相変わらず煩かった。その原因は至る所に取り付けられたスピーカーからのDutyの勧誘放送だ。
せめて朝ぐらいは停止させてもいいだろうに。
そう思ったのはフィアーだけではなかったようで、徹夜明けと思わしきストーカーが恨めしげにスピーカーを睨みつけながら、道を歩いて行く。
やはりストーカーは朝に弱い者が多いようで、いつもより人通りが少ない。
たまにホームレスのように道で寝転んでいるものもいる。
その反面、軍隊上がりのDutyは朝にも強いようで、見回りのDuty隊員がBARの内部を巡回していた。
それ以外にも遠征に出るのか、武装したDutyの一分隊が検問所の方へと向かっていく。
フィアーはなんとなしにそれを遠目で見送ってから、適当な工場の影に入った。
懐から拾い物のタバコを取り出して火を付けて一服する。
そして声を上げた。
「もうこの辺でいいだろ。俺に何か用か?」
そのフィアーの言葉に微かに狼狽えるような気配がした。
が、その気配の持ち主はすぐに気をとり直したのか、路地裏から姿を表した。
黒いコートに黒いフードをかぶり、極めつけにバクラバ帽で顔を隠した、全身黒ずくめの怪しい男だった。
正直BARの外で出会ったのなら、出会い頭に射殺していた所だ。
というかBARの中でもそうしていてもよかったのだが、それをしなかったのはフィアーは彼に見覚えがあったからだ。
「さすがは噂のルーキーだな、こう見えても気配を隠したつもりだったんだが……」
「気配を隠す前に、まずその愉快な格好をやめにしたらどうだ?」
「へへっ、そうはいかねえ。これは俺のトレードマークみたいなもんでな。このBARじゃこの格好で顔を売ってるんだ」
「……それで俺に何の用だ。お前酒場のカウンターの隅にいた奴だろう? 俺のことをずっと見ていたな?」
フィアーはこの男に確かに見覚えがあった。最初に100Rads Barに入った時も、その次に入った時も、昨日帰ってきた時も、そしてさきほど酒場で朝食を食べた時も、この男は100Rads Barのカウンターの隅で酒を飲んでいた。
正確に言えば酒を飲みながら、周りの話に聞き耳を立てていた。
「気づいてたか、悪かったな。知らねえ奴が来ると思わず探りを入れるのが俺の癖なんだ。なにしろ俺はこのBAR一番の情報屋なんでな」
情報屋。それでわざわざこんな怪しげな格好をしているのか。もっともこんな格好をしている相手から買った情報をあまり信じる気にはならないような気がするが。
「俺に売りたい情報でもあるのか?」
「そういうことだ。今お前の相棒はどうしてる?」
「ベットで爆睡中だ。……あいつに聞かれると不味い話だというのか?」
「ま、そんなとこだな。どうする……この情報買うか?」
「中身も言わずに売りつけるのか?」
呆れてフィアーがそう言うと、情報屋は覆面越しにもわかる笑みを浮かべるとこちらに近づいて小声で呟いた。
「C-Consciousnessの話さ。朝、お前がBarkeepに尋ねているのを聞いた」
「……!?」
思いも寄らない単語を出されてフィアーは珍しく動揺した、このZONEの情報の大半を牛耳っているBarkeepすら知らない謎の組織を、こんな男が知っているというのか。それとも盗み聞きした話を元にハッタリをかけているのか。
フィアーは一瞬迷ったが、彼の話に乗ることにした。ハッタリだったらそれ相応の報いを受けさせてやればいいだけだ。
「……いいだろう。話を聞こう」
「まずは前払いで一万ルーブルだ」
「つまらん話だったら、叩きのめして奪い返すぞ」
そう脅したが彼は笑いながら、フィアーの差し出した一万ルーブルを受け取った。
「そうはならねえよ。……ちょっと場所を変えよう。ここじゃ何処に耳があるかわからねえ」
そう言って情報屋は、表通りに向かっていった。
フィアーはどうにも騙されてるような気がしながらも、彼の後をついていった。
◆ ◆ ◆
情報屋に連れられていった先は、BARの中心部にある巨大な倉庫だった。
正確に言えば倉庫を改造した闘技場―――ARENAだった。
この倉庫の内部は二つに仕切られている。一つは元荷物置き場と思わしき、1階の闘技場と、その1階を上から見下ろす事のできる2階の客席だ。
1階の闘技場はテニスコートほどの広さがあるが、ところどころにコンテナや木箱が置かれて闘技者の視界を悪くしている。客席である2階からは、闘技場全てを見下ろすことができるようになっていた。
朝のBARは人が少ないと思っていたが、ここだけは別だった。ざっと見るだけでも20人近いストーカー達が2階の客席に集まって賭博場特有の熱気をまき散らしている。
フィアーと情報屋がいるのもこの2階の客席だった。ちなみに入場料はフィアーが情報屋の分まで払った。
「なんでこんな所で話すんだ?」
うんざりしたようにフィアーが情報屋に尋ねると、彼は1階を見下ろしたまま、こちらを振り向きもせずに答えた。
「ここなら賭けに夢中で誰も俺達の話なんて聞かないからな。後は、俺がこの勝負を見たかったってこともある」
「お前な……」
流石にフィアーが抗議しようとした所、情報屋はこちらの機先を制するように振り返ってニヤリと笑った。
「それにこの戦いにはあんたも興味が出るかと思ってな」
「賭け事に興味はない」
「今から戦う奴の1人があんたが捕まえてきた捕虜だとしてもか?」
「なに?」
反射的に声を上げて――フィアーは舌打ちした。目の前の情報屋はしてやったりと言わんばかりに、ニヤついた笑みをこちらに向けている。
「あんたにとっ捕まった傭兵の捕虜1人と、ここらで悪さをしてたバンディット2人の殺し合い。それが今日の注目のカードさ。ま、そんなわけでやつを捕まえたあんたにちょっと聞きたいんだが……あの傭兵の腕前はどんなもんだ? 手強かったか?」
「……一般的な水準はあるかもな。だが実際には知らん」
「おいおい、なんだそりゃ?」
「奴は仲間が皆殺しにされた後、投降した。戦ったわけではない」
「……ってことはチキン野郎か。オーケー、参考になった」
そう言って情報屋は席を立つと客席にいる賭けの胴元へと走って行く。
どちらに賭けるか決めたのだろう。
フィアーとしては賭け自体には興味はないが、どういった形式で戦うのかには興味があった。
情報屋が戻ってきて数分後、スピーカーで大げさな司会のアナウンスが倉庫の中に響き渡った。
『レディース・アンド・ジェントルメン! ……おっとここにはレディも紳士もいなかったな! なにはともあれ待たせたなケダモノ共! 今日のショーの始まりだ!』
その言葉と共に一斉に客席が沸く。
『今日のカードは、Wildterritoryで強盗をしてやがったクソ傭兵団の生き残りと、Garbageでストーカーを締めあげていたクソバンディットの生き残りだ! どっちがくたばっても世の中が綺麗になる素敵な対戦だ! さあ、みんなどっちに賭ける!?』
俺は傭兵だ! いやここはバンディットだ! 大穴狙いで双方相打ちだ!
司会の言葉に釣られて、ストーカー達が次々と声を張り上げる。そこには今から殺し合いをさせられる哀れな選手達への慈悲はない。
まあ当然だ。ここにいるのはストーカー達が殆どであり、彼らは自分達を食い物にする連中を親の仇よりも憎んでいる。
この賭け事は、処刑としての見世物も兼ねているのだろう。
『公平な戦いになるように、お互いの武器はソードオフショットガンと拳銃のみ! 技量差も考慮して、バンディットは2人に対して傭兵は1人だけだ! 俺としてはやはりチンピラのようなバンディットよりも、兵士としての技量を持つ傭兵のほうが有利だと予想する! さあ張った張った! あと開始まで1分! 賭け券はそれまでに買っておけよ!』
その司会の言葉に釣られたのか、更に数人の客席のストーカーが席を立ち、胴元の方へと向かっていく。フィアーの隣に座る情報屋は気にした様子もなく、腕を組んでいた。
なんとなしにフィアーは情報屋に聞いてみた。
「あんたはどっちに賭けた?」
「それは勝負が終わってからのお楽しみだな」
そんなやり取りをしている間にとうとう時間が来た。
闘技場の北と南の出入口が開き、北からは汚い身なりをしたバンディットが2人、そして南からは傭兵の捕虜が現れる。どちらも公平な条件にするためか、防弾衣の類は身につけていない。バンディットは片方がマカロフ拳銃。もう片方はソードオフショットガンを持っており、傭兵は二対一ということもあってか、マカロフ拳銃とソードオフショットガンの二つをそれぞれ片手に構えている。
確かにあの傭兵はフィアーがWildterritoryで捕虜として捕まえた相手だ。
あの時と同じく、顔は真っ青。銃を握る手が震えているのがフィアーからも確認できた。
対してバンディットの方は人数が2人居るということもあるせいか、さほど怯えは見えない。むしろ士気が高いようにもみえる。まあそれも虚勢なのだろうが。
闘技場の中に入っても、中央には遮蔽物として大型のコンテナが無数に放置されており、すぐにお互いの位置は確認出来ないようになっている。
その為闘技者は、コンテナの影から影へ移動し、自分の存在を相手に気取られないように、クリアリングをしながら先に進まないといけないのだ。
だが、それが有効なのはまともな戦闘である時だけだ。
この2階の客席からは彼らをが丸見えなのだ。
そして彼らに金を賭けたストーカー達が大人しく、彼らの戦いを見守っているわけがない。
なにやってんだ回り込め! バンディットの1人は右のコンテナの影に隠れてるぞ! おい傭兵野郎、お前に大金を払ったんだ! 負けやがったらもう一度殺してやるからな! 後ろのほうにいるぞ馬鹿! 嘘いってるんじゃねー! 騙されるな傭兵! 左だ、お前の左のコンテナに隠れてるぞ!
野次だか、罵声だか、或いは競技者に対する欺瞞情報だかが、無責任にアリーナに響き渡る。
傭兵を応援する声が多いことを考えると、傭兵のほうに賭けている者が多いようだ。
だが。
――これは傭兵の負けだな。
Barkeepの所で買ったペットボトルのコーラを飲みながら、フィアーは冷静に判断した。
あの傭兵は完全に腰が引けている。
どうもここのストーカー達は高級な装備と高い技量を持つ傭兵部隊に、一種の恐れに近い感情を抱いているようだ。だからこそ傭兵人気なのだろう。
だが当然だが傭兵にもピンからキリまである。あそこにいたのがナイトクローラーの兵士だったら、フィアーは迷わず全財産を賭けていただろうが、あの傭兵の捕虜は食い詰めてストーカーを襲っていた装備のいいだけのバンディットのような輩である。
おまけに彼個人の資質も臆病で戦いにあまり向いていないようだった。すぐに投降してきたのがその証だ。
一方バンディットはもはや開き直っているのか、殺る気満々だ。数的優位もそれに関係しているのだろう。
彼らは闘技場の右と左に別れてそれぞれ南下していく。最終的に挟み撃ちにするつもりだろう。
それに対して傭兵は最初、近くのコンテナの影に隠れてひたすら籠城の構えを取ったが、その消極的な戦い方が、ストーカー達の気に触ったようで、ブーイングとバンディットに対する情報提供を引き起こす羽目になり、今は中央のコンテナの影に移動している。
そしていよいよ双方の距離が縮まり、接敵の時間がやってきた。
最初に発砲したのはソードオフショットガンを持ったバンディットだった。
しかし彼の行動は悪手だった。
なにを勘違いしたのか、彼は雄叫びを上げながらコンテナの影からとびだしたのだ。
当然気を張っていた傭兵は即座にそれに気が付き―――反射的に声がするほうに手にした連装式のソードオフショットガンの引き金を立て続けに引く。
それと同時にバンディットもソードオフショットガンの引き金を引いたが、傭兵の方が一足早く発砲したため、彼は散弾を肩に喰らい仰け反って、銃口の向きが上空へズレた状態で発砲した。
その結果、散弾が客席に飛び込み、最前列で窓ガラス代わりの金網に張り付いて罵声を飛ばしていたストーカーに直撃した。
そのストーカーは悲鳴を上げて倒れこむも、周りの客は助けようともせずゲラゲラと笑うばかりだ。
代わりに動いたのは客席にいた賭けの胴元―――の護衛と思わしきDuty隊員だ。
彼は1階を見下ろす窓に近寄ると、眼下の闘技場に手にしたAK自動小銃を向けた。
その狙いは当然―――客席に散弾を撃ち込んだバンディットだ。
自分のやってしまったことに気がついたそのバンディットは慌てて、
「違う! 俺のせいじゃない! これは事故だ!」
と弁明を始めたが、当然Duty隊員がその命乞いを聞くわけがなかった。
反射的に彼は仲間に助けを求めるべく周りを見渡すも、仲間もそして敵である傭兵も、とばっちりを食らわないようにコンテナの影に身を潜めてしまっていた。
もはや助けがないとわかったバンディットは、ソードオフショットガンを捨て、自分が来た出入口に向かって走ろうとするが、それより先にDutyのAKが火を吹いた。
ワンマガジンをフルオートで叩きこまれたそのバンディットは、無数の銃弾を浴びて奇妙な踊りを踊ってそのまま倒れこむ。
その見世物に、観客のストーカー達が歓声を上げた。
『おおーっと、予想外のトラブルで、バンディットが1人脱落! これは傭兵有利になったか!?』
どうやら戦いはまだ続くらしい。1人倒したことで気が大きくなったのか、傭兵の動きがよくなる。
彼は走るように残ったバンディットが潜むコンテナに近づいていった。
だが彼からは死角になって見えないのだろうが、残る1人のバンディットも行動を開始していた。彼の目的は先ほどDutyに撃ち殺されたバンディットが放り捨てたソードオフショットガンのようだ。
彼は隠密など考えずに、走って闘技場の真ん中を突切り、死んだ相棒の死体を飛び越え、彼が落としたソードオフショットガンを拾い上げた。
当然そんな派手な動きをすれば、傭兵のほうも気がつく。彼は慌ててコンテナの影から飛び出すと、バンディットにソードオフショットガンを向け引き金を引いた。
だが、その銃口から飛び出したのは、散弾ではなく、カチカチという撃鉄が落ちる音のみ。
少し考えればわかることなのだが、傭兵は先ほどバンディットを攻撃する時、左右の銃身に装弾されていた散弾2発全てを撃ってしまったのだ。
一流の傭兵ならまずすることのないミスだが、彼は傭兵ではあるが一流ではなかったということだろう。
慌ててマカロフ拳銃の方を向けるが、もう遅い。
それよりも先に今度はバンディットがソードオフショットガンに残った最後の1発を、傭兵に叩き込んだ。
無数の散弾を喰らって悲鳴を上げて倒れこむ傭兵。
バンディットは今度こそ弾切れになったソードオフショットガンを捨て、マカロフ拳銃を構えるとゆっくりと近づき、倒れこんだ傭兵に向かって全弾を叩き込んだ。
そこで終了を知らせるブザーが鳴り響き、例の司会の声がスピーカーから放たれる。
『死合終了! ちょっとしたハプニングもあったが、今回はバンディットチームの勝利だ! いやはや傭兵と言ってもたいしたことなかったね!』
その言葉に納得できないのは死んだ傭兵に賭けていた客席のストーカー達だ。
流石に胴元に食って掛かるような者はいないが、死んで屍となった傭兵の捕虜に容赦のない罵声を浴びせる。
「この腰抜けが! 弱いもの虐めも出来ねえのかてめえは!」
「生き返りやがれクソ野郎! もう一度ぶっ殺してやる!」
そんな罵詈雑言を飛び交う客席でフィアーは、隣の情報屋に尋ねてみた。
「……勝ったか?」
彼は覆面越しにも分かる満面の笑みで答えた。
「ああ、大勝されてもらったぜ。お前さんの情報のお陰だ」
「だったらいい加減お前の情報を教えてもらいたいな」
そこで情報屋は周りを見渡した。少なくともここの客席の人間は賭けの結末に熱が入っていて、客席の隅に座っているフィアー達のことには一切注意を向けていない。
「そうだな……C-Consciousnessって組織に関してだが、俺も正確には分からん。……だが奴らの手先になって動くエージェントの話を聞いたことがある」
「エージェント?」
その言葉にフィアーの脳裏に真っ先に浮かんだのが酒瓶を抱えて眠りこけていたシェパードの顔だ。
「ああ、奴らはZONE深くに到達したストーカーを洗脳して、自分のエージェントに仕立て上げるって噂がある。Monolith兵を作ってるのも奴らなんじゃないかと俺は思ってる。
前に一度発電所に入っていった腕利きの奴が帰ってきた時、別人みたいになってたって話もあるんだ。その後、そいつは全く関わりあいのないベテランストーカーを射殺して自殺したよ。そういう話がここじゃたまに起こる」
「シェパードもそうだと言いたいのか?」
「さあな、あいつは確かに一度ZONEの奥で死にかけてるが、別段言動は変わっちゃいねえ。たまにZONEの祝福を受けたとか寝言抜かすことはあるがそれだけだ。俺個人としては可能性が低いと思うね」
「だったら何故言う」
「知らないよりは知ってたほうがいいだろう? 何しろお前はこれからZONEの奥に行くらしいじゃないか。もしかしたらこの先そういう奴と出会う可能性もあるわけだ。ちなみに――奴らのエージェントの見分け方も一応ある。聞きたいか?お前には賭けで儲けさせてもらったから、特別に一万ルーブルでいいぞ」
そういうと情報屋は手のひらをこちらに向けた。
フィアーは無言で1万ルーブル紙幣をその手に置いた。
「毎度あり。なに、見分け方は簡単さ。洗脳されて殺人をした後に自殺したその件のストーカーの腕には、『STALKER』って刺青が掘られてあった。これから先もしその刺青を付けた奴がいたら気を付けな」
そこまで聞けば充分だった。フィアーは無言で席を立つと未だに賭けの熱狂に溢れるARENAの客席から降りて外へ出た。
◆ ◆ ◆
ARENAを出た時には既に日は中天に差し掛かっていた。
フィアーは真っ先に酒場に戻ると、Barkeep達への挨拶もそこそこに、客室へ向かった。
予想通り未だにシェパードは酒瓶を抱えて眠りこけている。
フィアーは無言で寝ているシェパードの右袖をまくった。……『STALKER』という刺青はない。続いて左袖。やはりない。
だが、念の為ということもある。面倒なので全身を脱がすことにした。
幸いにもボディアーマーのような厄介なものは寝るに当たって外されており、シャツしか身につけていないので寝てることを幸いに問答無用でシャツをまくり上げる。……前も後ろも特に何もなし。
ズボンも脱がす。しかし確認できたのは脛毛だけだった。
あとは股間ぐらいしかないが、そんなところにそんな刺青を仕込む馬鹿がいたら、逆に尊敬してやってもいいぐらいだ。
とにかく少々怪しい所もあったが、どうやらこのシェパードという男はシロのようだ。
ホッとしたのもつかの間、半裸にされても尚、酒瓶を手放さなかったシェパードがようやく起きた。
「……あれ? 俺なんで服脱いでるんだ?」
自分の格好に呆然として、呻くシェパード。
それに対してフィアーはこう答えてやった。
「お前寝てる時に酒瓶相手に発情してたぞ」
今回はほのぼの日常回
ZONE観光案内
アリーナ
犯罪者や腕自慢を戦わせる賭博場
ゲームだと賭ける方ではなく出場者として戦うことになる。
相手は様々で捕まえたバンディットもいれば、小金稼ぎの傭兵の場合もあるし
軍隊の精鋭部隊(軍の将校が遊びに来てる)場合もある
アリーナで客席に銃弾やら手榴弾を投げ込んだのは作者だけではないはず