S.T.A.L.K.E.R.: F.E.A.R. of approaching Nightcrawler 作:DAY
検問所を通過してから10分程歩いて軍曹はそれを意識した。
微かな耳鳴り。大気の流れ。何がどうというわけでもない。意識しなければ見逃してもおかしくない些細な異変にしかし軍曹の五感は反応した。
ポケットから紐の付いたボルトを取り出し目の前の道路の上に放り投げる。
ボルトがアスファルトの上に落ちると思われたその瞬間、空気が破裂するような音と共にボルトが弾け飛ぶ。同時に衝撃波が発生して軍曹を襲った。
予め踏ん張っていれば大したことのない衝撃だったが、もし衝撃波の発生源にいたら唯では済まなかっただろう。
―――これがアノーマリーか。
初めて見るその脅威に対して軍曹は観察を続ける。ボルトを回収して今度はアスファルトの欠片を複数回に渡って別々の角度から投げ込む。破片を放り込む度に衝撃が生まれ、やがてその全容が明らかになった。
アノーマリーの直径はおおよそ5メートル。中心部ほど衝撃波は強くなるようで外側に落ちた破片は弾き飛ばされる程度ですんだが、中心に投げ込んだ破片は粉々になってしまった。
改めてあるとわかった上で観察すれば、僅かな大気の揺らぎや耳鳴りで察知できるが、車か何かに乗って移動していれば察知することは不可能だろう。
通常の乗用車なら間違いなく横転、大破する。装甲車でも唯ではすむまい。
こんなものがゴロゴロしているのでは軍隊を突入させるのは確かに自殺行為だ。
しかもあの検問所の軍人曰く、このエリアのアノーマリーは大したことのないほうらしい。
ZONEの広さは発電所を中心に半径数十キロ。その程度の広さなら虱潰しに探索してナイトクローラーを追跡することもできるかもしれないと思っていたがどうやら甘かったようだ。
中心に行くに連れてこれらのアノーマリーの密度が狭まっていくことを考えるとZONEの中心部はアノーマリーに遮られた複雑な迷路のような有り様になっている可能性もある。
そうなると情報もなしに一人で突き進むのは、危険すぎる。
やはり腕の良いガイドが必要になるか。
そんなことを考えながら再び歩みを進めようとして、気がつく。
誰かに見られている。
直感的に視線を感じ取った軍曹は小銃を構えながら背後を振り返った。
誰もいない。いや、200メートルほど後方の茂みの近くに何かがいる。
―――あの犬どもか。
そこにいたのは検問所に入る前に追い散らしたあの盲目の野犬達だった。出会った場所から数キロは歩いたはずだが、あの時からずっと追跡してきたのだろうか。
だとすればこちらの想像以上に執念深いようだ。
そこまで考えて軍曹は眉をひそめた。野犬の数が合わない。4匹いる。
確か先ほど遭遇した時は3匹だけだったはずだ。
訝しげに野犬達をライフルのスコープで観察し―――彼は久しぶりに怖気が立つ感覚を味わった。
三匹目までは問題なかった。盲目の野犬が本当に問題ないかどうかは別として、先ほど見た通りの野犬だった。
だが最後の一匹は違った。その犬はほかの野犬と違い、正常な目があった。口も耳も鼻もあった。問題があるとすればその顔の造形だ。
その犬は人間そっくりな顔をしていたのだ。
そしてそいつはスコープ越しのこちらの視線に気が付くと、ニヤリと嗤ってみせた。
それに対する軍曹の行動は素早かった。即座にそいつの顔をスコープのクロスヘアに捉え、引き金を引く。躊躇はなかった。威嚇射撃でもない。完全に殺すつもりで発砲した。
だが信じがたいことにそいつは発砲する直前、仲間のメクラ犬と共に身を翻して近くの茂みに隠れてしまった。
まるでこちらが撃ってくるのを予期していたかのように。
舌打ちを堪えながら、更に二発目、三発目の銃弾を茂みに送り込む。当たるとは思っていない。ただあの犬達が恐怖に怯えて、茂みから逃げ出さないかという希望に基づいての射撃だった。
勿論、それほど容易い相手ではなかった。
結局5分ほど茂みと睨み合いをした後、その場から離れることにした。あれ以来あの人面犬が率いる野犬達は姿を見せていないが、気配は時折感じる。間違いなくこちらを追跡しているのだろう。
あれが検問所で聞いた少佐の言っていた、人間そっくりな顔の犬のことだろう。わざわざあんな挑発までしてくる辺り、頭の良さも人間並みというのは間違いない。
こちらから出向いて野犬を狩ってもいいのだが、あの人面犬は銃火器の性能を理解している節がある。
足には自信があるが流石にこんなアノーマリーがあるような土地でそんな犬と追いかけっこするのは気が進まなかったので、先に進むしかない。
慣れない土地でアノーマリーを気配やボルトを使って回避するのは予想以上に骨が折れた。
おまけにホットスポットもあるようで、ガイガーカウンターまで鳴り出す始末だ。
これらを迂回しつつ、更に後方の人面犬の追跡も意識するというのはなかなかストレスが貯まるものだった。
しかもどこからか、まるで環境音のように遠くから銃声が響いてくる。
頻度としては大したことはないし、発射地点から数キロは離れているのは間違いないが、銃声が定期的に響いてくるということは、誰かが先程の自分のようにミュータントと出くわして発砲しているということだ。その事実がこのZONEという地域の危険性を示していた。
だからこそ更に進み、小さな丘に登り、そこからストーカー達の溜まり場である廃村を見つけた時、軍曹は安堵のため息をついた。
背後に気を配りながら、双眼鏡を取り出して村を観察する。
村の家々は10軒ほどで、村の中心を走る大通り沿いにほぼ全ての家が建っていた。そしてその村全体を腐りかけた木造の塀が囲っている形だ。
放棄されて十数年が経っていそうな荒廃ぶりだったが、中心にある広場からは焚き火の煙が立っており、廃屋に出入りする人間が見える。
入り口には水平二連のショットガンで武装したストーカーが歩哨に立っていた。
ただ塀はそこかしこが破れており、どこからでも村に入れそうだったが、わざわざそんな真似をするより正面から入っていったほうが無駄に警戒されずにすむだろう。
あのルーキーキャンプに逃げ込めば、あの野犬たちも追撃を諦めるかもしれない。
そう思い、背後を振り返るがいつの間にか野犬の気配はなくなっていた。
「見ない顔だな」
ショットガンにフード付きのジャンバーを着たストーカーの歩哨はこちらを見てそう言った。
といってもさほど警戒しているようには見えない。むしろこちらに対する好奇心のほうが勝っているように見える。
「今日ZONEに入ってきたばかりの新入りだ。よろしく頼む」
「にしてはいい装備してるなあ。この辺じゃそんな装備の奴はめったに見ないぜ。ここじゃいいライフル、いいアーマーはアーティファクトより欲しがる奴がいる。身包み剥がされないように気をつけな」
わざわざ警告してくれる辺り、この歩哨は意外とお人好しのようだ。よく見るとかなり若い。十代ではないだろうか。
ついでだから尋ね人を聞いてみることにする。
「ここのトレーダーはどこにいる? シドロビッチという名前らしいが」
「あいつなら村の奥のほうの地下シェルターに篭ってるぜ。精々ぼったくられないようにな」
おおよその場所を聞き、礼を言って村の奥に進む。
中に入って分かったが予想以上に人が多い。軽く見た限りでも20人ほどはいるようで、屋根にや壁に穴の空いた廃屋の中や焚き火の周りでは、ストーカー達が屯していたり、思い思いに談笑していた。中にはウォッカの瓶を抱いて、いびきをかいている者もいる。
一見リラックスしているように見えるが、その視線は見慣れない余所者の自分に向けられているのがわかる。
だが、兵士としての質はあまりいいとは言えない。歩き方や振る舞いがまるで―――というよりはチンピラそのものな者もいるし、装備の質も悪い。まさしくルーキーキャンプである。
戦闘服ですらないただの厚手のジャケットとジーパンぐらいならまだましで、何を勘違いしているのか重そうな黒皮のコートを着込んでいる者すらいる。アノーマリーやホットスポットがそこら中にあるZONEで、あの動きにくそうな格好は遠回りな自殺なのではないかとすら思ってしまう。
武器のほうも酷いものだ。
古びた二連装の散弾銃や旧式の猟銃を小脇に抱えている者、ボロボロの自動拳銃やソードオフショットガンを唯一の武器として、腰に下げている者もいる。
極めつけには第二次世界大戦で使われていたような骨董品の銃を装備している者もおり(PPSh-41の実物を彼は初めて見た)、別の意味で軍曹は目を剥いた。
とはいえ全員が全員、素人に毛が生えた様なものではないようだ。何人かに一人はまともな装備と立ち振舞をした者がいて、彼らはほかのルーキー達から一目置かれているように見える。
彼らがこの村の顔役なのだろう。後で挨拶ぐらいはしておくべきだろうか。
そんなことを思いながら、歩いて行くと目的のシェルターは見つかった。
丘の下にぽっかりと開いた人が通れるほどの大穴。
穴の入り口には銀行の金庫並の厚みを持つ、鋼鉄製のドアが取り付けられている。
こんな辺鄙な村には不釣り合いなほどしっかりしたシェルターである。
中は土壁が剥き出しで、鉱山の坑道を思わせる造りだった。一応電気は通っているようで白熱電球が内部を照らしている。
入って直ぐに地下への階段になっており、更にその階段は数度にわたって曲がっている。
最深部の位置が丘の真下になるように掘られているようで、この深さなら核攻撃にも十分耐えれそうだ。
何十段目かの階段を降りたところでようやく最深部と思わしき小部屋に出た。その奥に入り口と同じかそれ以上の規模の耐爆扉。
そのドアの隣に古びたドアホンが付いている。
ドアホンに手を伸ばそうとすると、それより先にドアホンから声が発せられた。
『なにもんだ。見かけねえ顔だが』
咄嗟に室内を見渡すが、監視カメラの類は見当たらない。その道のプロなら見つかるような設置の仕方などしないから当然だが。
取り敢えず監視カメラを見つけるのは諦めて、素直に用件を伝えることにした。
「傭兵だ。この辺りのことについてはあんたが詳しいと聞いた。情報を買いたい」
『……まあ、いいだろ。だが念のためだ。持ってる武器をドアの隣にある鉄のスタッシュに入れてくれ。そうしたらドアを開けてやる』
「了解した」
この程度は当然の要求だろう。肩にかけた小銃と、ハンドガン、そしてナイフを手早く外し、鋼鉄製の箱に放り込む。
すると鋼鉄製のドアから鍵が解錠される機械音が響き、続いて圧縮空気の音がしてドアが自動的に開いていった。
ドアの奥はちょっとした店になっていた。
幅こそ3、4メートルほどだが奥行きは10メートル近くある部屋の真ん中を、防弾ガラスと組み合わせたカウンターで仕切っている。
アメリカの警戒心が強い個人商店等は強盗対策にこうした作りの店があるが、ここはそれ以上だ。
このZONEで商売をするということはそういうことなのだ。
そしてその防弾ガラスの向こうに中年――いや壮年の男が座っていた。白髪交じりの禿げ上がった頭に大きく突き出た腹、脂ぎって狡猾そうな顔は如何にも海千山千の商人か、或いはハイエナを連想させた。
その男はこちらを上から下まで値踏みするように見ると、鼻を鳴らした。
「随分大層な格好をしているが、このZONEに来たのは初めてのようだな。ルーキー」
「わかるのか?」
「こんな商売してるとな。ここで本当に必要なもんとそうでないもんがわかるもんさ。お前さんは大層な装備をつけているが、ZONE向きの装備じゃねえ。
昔はお前みたいな腕に自信のある兵隊崩れがよく来たもんさ。無駄に高価な装備を背負ってな」
「ならあんたはここに最適な装備を見繕う事が出来るってことか? ルーキーキャンプの連中の装備を見る限りとてもそうは思えないが」
このZONEではこの装備では足りないだろうというのは内心気づいていたのが、それでも正面から一張羅を馬鹿にされたこともあって挑発的に返す。
もっともそんな心理は向こうはお見通しだったようだ。肩をすくめて鼻で笑われた。
「あそこにいる連中はその装備を買うために小銭を稼いでる連中さ。もっともそんな奴らでもお前よりはこのZONEに詳しいだろうがな。
そして俺が最適な装備を見繕う事が出来るかってことに対しては―――舐めんじゃねえ。それが俺の仕事だ。金さえあれば最新鋭のアノーマリー探知機から強化外骨格だって用意してやるぜ」
そう言って彼はカウンターの後ろの空間を親指で指し示した。白熱球で照らされているその空間には旋盤やスチールの作業机が置いてあり、その上には東側の狙撃銃が置かれていた。無論それだけではない。壁にはガンショップの如く東側西側問わず様々な銃火器が並べられているし、極めつけにインテリアのように全身甲冑の如き威容を誇る東側の強化外骨格が安置されていた。
アーマカム製の強化外骨格に比べるといくらか型落ちだが、それでも歩兵戦闘においては歩く装甲車と呼ばれる代物だ。そうそう個人で手に入れられるものではない。
これだけの装備を軍に閉鎖された空間で用意できるという事自体が彼のトレーダーとしての腕を物語っている。
「確かに大した品揃えだな。だが俺が本当に欲しいのは情報のほうだ。俺はある傭兵部隊を追ってやってきた。そしてあんたがここに出入りしている勢力のことについて詳しいと聞いた」
「なんだ、そっちの客か。確かにこんな商売やってる以上、その手の連中にはそれなりに詳しいし、ツテもある。だが無料とはいかんぜ。」
「わかっているさ。いくらで売る?」
それを聞いてトレーダーは小さく笑った。
「ルーキー。このZONEで生きていくためにもっとも大事なものは金じゃない、信用だ。端金で知り合いの情報を売り飛ばしたとあっちゃ、俺はここで商売できなくなる。
お前がどうしてもその情報が欲しいっていうなら、お前もまず自分が信用できる奴だという証明をしなくちゃならん」
「…具体的に言え」
「おお怖い、怒るなよ。別に俺の靴にキスしろなんて言うつもりはないさ。取引をする前にお前さんがどういった人間で、どんなことが出来るのかが知りたいってだけの話だ。
もっと簡単に言うなら俺の依頼を幾つか引き受けてもらいたい。うまくその仕事を片付ける事ができたら報酬代わりに俺の知ってることは何でも教えてやる」
詰まるところ、あるかないかもわからない情報を出汁にしてこちらをタダ働きさせようという魂胆なのだ。あの検問所の軍人の評価はまさに的を得ていたわけだ。
こちらの無言を肯定と受け取ったのだろう。シドロビッチは依頼の内容を語り始めた。
そもそもこちらの依頼の詳細すら語ってないのに話を進めるとは、余程自分の情報網に自信があるのか神経が図太いのか。恐らく両方なのだろうが。
「そう難しい話じゃない。俺のお抱えのストーカーの一人を情報収集に出した所、トラブルに巻き込まれたようで連絡が途絶えてる。そいつをどうにかして助けてやってくれ。
最悪の場合そいつが持っているフラッシュメモリだけでも回収してくれればいい。位置のほうはGPSのお陰で大雑把だがわかってるんだ。どうだ? 簡単だろ?」
「…そのトラブルってのは具体的にはなんなんだ。アノーマリーか?それともミュータントか?」
「通信が途切れる際、罵声と銃声が聞こえた。大方ミュータントかバンディットだな」
「バンディット(野盗)?」
このZONEにはどこか場違いな単語に彼は眉を潜めた。こんな環境で強盗稼業等、割にあわない気がしたのだ。だがシドロビッチはそれを笑う気はなかったらしい。
「食い詰めたストーカー共の成れの果てよ。悪さをしてストーカーのコミュニティから追い出された奴や、犯罪を犯して外からここに逃げこんできた奴。そういった連中がつるんで犯罪組織を造りあげちまったのさ。
で、ついた名前がそのまんまバンディットってわけだ。このZONEで一番の嫌われ者だ。
少し先のゴミ捨て場に拠点作って、ストーカー共から金を巻き上げてるんだが、時々この辺にも出稼ぎに来る。」
「ストーカー達はそいつらを始末しようとはしないのか?」
尋ねるとシドロビッチは皮肉げに笑ってみせた。
「始末ならしてるさ。何度でもな。今まで何度か複数のストーカーや組織が共同で奴らの拠点を潰してるんだが…、まあ悪党ってのはゴキブリみたいなもんでな。
この手の屑は外から幾らでも入ってくるせいで、潰しても潰しても暫く時間が経つといつの間にかまたそこそこの規模になってる。
ま、ZONEも小さいとは言え一つの社会だ。人間が糞を出すように社会からこの手の連中を廃絶することはできないって訳だ」
「それでバンディットが相手だった時は、そいつが生きてる可能性は?」
「ミュータント相手よりは高い。金になるような情報を持ってるかもしれないからってことで、運がよけりゃ生け捕りになるかもしれん。そいつもその辺の立ち回りも出来る男だしな。
だが殺されてた場合はバンディットを絞め上げて、フラッシュメモリを取り戻して欲しい。ミュータント相手だった場合は死体の懐を漁ればいい。
メモリごと食われて糞になってない限りはなんとかなるだろ。本当に糞になってたらその時は頑張ってくれ」
「……そういえばこの辺のミュータントやアノーマリーはどんなものがあるんだ?ここに来る途中に人面犬が率いる野犬に追い回されたが」
軍曹はシドロビッチが人面犬という単語に微かに反応したのを見逃さなかった。
「そりゃ珍しいな。その人面犬―――Pseudodog(スードドッグ)はZONEの奥でしか確認されてないミュータントだ。知能が高い上にいろんな亜種がいるみたいでな。ほかのメクラ犬を引き連れたり、中には幻覚を操って攻撃してくる奴もいるって話だ。
まあそいつ以外のミュータントはそう大した奴はいない。奇形化した豚や変異して大型化した猪ぐらいなもんだ。あとはアノーマリーについては…これだ」
そういってシドロビッチはどこからか取り出した小さな冊子をカウンターに置くと、得意気に笑ってみせた。
「昔政府の科学者をZONEに入れて研究させようって話があってな。その時、現地のトレーダーが下準備を任された。…まあ俺のことなんだが。で、そんときにZONEについて資料を纏めとけって言われて作ったのがこれよ。
結構古いもんだがアノーマリーやミュータントについて当時わかってたことが書いてある。
その科学者達は結局ZONEから逃げ出しちまったが、ZONEの資料としてはなかなか好評でな。お前みたいなルーキー用に増刷しておいたって訳よ。」
「ZONEのガイドブックというわけか」
そう言ってその冊子に手を伸ばそうとするも、それより先に冊子が引っ込められる。
その行為に眉をしかめると、それを見たシドロビッチは人を食ったような笑みを浮かべた。
「一冊5000ルーブルでどうだ?」
「…3000ルーブルにしろ」
「4000だ。これ以上はまからんぞ?」
「わかった。それでいい」
「OKだ、毎度あり」
ドルにすれば高々数十ドルを惜しんで、この未知の環境の情報源を取り逃すのもバカバカしい。
そう思って金を払ったものの、冊子を受け取った時、その冊子の予想以上の薄っぺらさに不安を感じなかったといえば嘘になる。
なんとかその不安を飲み込み、ついでにここで取り扱っている品物を聞く。食料やバッテリーについてもそうだが、弾薬の規格も懸念材料の一つだった。5.56mmNATO弾がなければ、折角持ち込んだ最新型のアサルトライフルも棍棒にしかならない。
シドロビッチの話によればこの辺りでは西側のアサルトライフルを使用する者の数は少なく、在庫はあるものの数はさほどでもないとの事だった。
もっとも注文すれば取り寄せるし、ZONEの奥地では5.56mmNATO弾の需要は多いため大抵のトレーダーは扱ってるということだ。
「バッテリーや食料、飲料水についてはどこのトレーダーも取り扱ってるからそう気にすることはないぜ。
念のため言っておくが、水だけはちゃんとしたペットボトルの水を飲めよ。ZONEの水は大概が放射能か化学物質に汚染されてる。浴びるだけでも死にかねねえぞ」
そう言いながらシドロビッチはカウンターの下から手の平サイズの小さな機械を取り出した。
ガイガーカウンターのようだが形状が違う。
「こいつは簡易アノーマリー探知機だ。ガイガーカウンターみたいにアノーマリーを音で知らせてくれる上に、アーティファクトも探知できる。ZONEを歩くなら必須の道具さ。……安くしとくぜ?」
「……いくらだ?」
「5000に負けといてやるよ」
「……お前の店で俺の全財産がなくなりそうだな」
「まあお前はいろいろ金を落としていってくれてるからな。バッテリーとアーティファクト用の容器をおまけで付けてといてやるよ。
金を稼ぎたいならアーティファクトを見つけたら俺のところに持ってこい。高く買い取ってやるよ」
受け取ったアノーマリー探知機を胸のポケットに装備し、アーティファクト用の容器を確認する。予想より少々重い。
握りこぶし大の箱だが、どうも素材の内部に薄手の鉛を仕込んであるようだ。アーティファクトは放射能を出すものもあると聞くからその対策だろうか。取り敢えず後ろのウエストポーチに引っ掛けておくことにする。
それにしても予想以上に金を使ってしまった。この調子だとあっという間に無一文になりそうだ。
「取り敢えず、そのストーカーとやらを探してくる。場所を教えてくれ。」
「おう。PDAを出しな。データを送る。…よしこれでいい。まだメモリのGPSが生きてる内に早いとこ回収してきてくれ」
「…この場所には何があるんだ?」
シドロビッチから渡されたマップデータによるとGPSが示す場所はルーキーキャンプから北に数キロ進んだ所にある小高い丘だった。付近に建造物もないようでバンディットの拠点には見えない。
「この辺には小さいコンテナが放置されてストーカー共の野営用の場所として使われているんだ。追われているにしても、捕まっているにしても、いるとしたらそこだろう」
「了解した。」
概ねここで聞くべきことは聞いた。後は行動あるのみだ。
「Good Hunting Stalker!」
出口に向かった軍曹の背中にシドロビッチの声が投げかけられた。
それはこのZONEに入る時聞いたあの運転手の言葉と同じものだった。
ZONEに入ったルーキーがシドロビッチから仕事を貰うのはもはや様式美。
ZONE観光案内
ルーキーキャンプとシドロビッチの店。
一作目で主人公の初めての拠点になる村。皆装備が貧弱でたまに敵が来たらいつも全滅の危機に晒される。
因みにガイドブックとかアーティファクト容器なんて便利な物はMOD入れないと存在すらしません。
シドロビッチはZONEでも珍しいシェルターみたいな店を持ち、ZONE随一のトレーダーらしいが、品揃えがくっそ貧弱。やる気あるのかおめえ。
ただしアーティファクトはトレーダーの中でもかなり高額で買い取ってくれる。
多分アーティファクトを外に高く売りつけたり、ルーキーストーカーをこき使うことでボロ儲けしてる。なんたる邪悪暗黒商人か!