硝煙の軌跡   作:暁学園前

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第二章 第四部

 

 

 

 

 十月 二三日 深夜

 

 普段は悪いものでも良いものでも、全部引っくるめて言うような"自然"でいっぱいのノックスの樹海。そんな所の獣道の奥深く、そこに無機質な人工物がある。フラットな白で染めた縦に長い直方体、人が二人入れそうな大きさだ。

 まるでプレハブの横に建ってるトイレのようにも見えるが、それにしては管理が行き届いていない。ドアすら動かせまいと蔓が思い切り巻き付いており、実際に動かすのも難しいだろう。

 しかし、それの近くにある茂みに二人の武装している人間がいるのは見えている。

 彼らはライフルを持って、このシュールな建造物に人が入り込まないか見張っているのだ。

 そう、この建造物は氷山の一角に過ぎない。本命の施設はこれの下にあるのだ。

「バディ、ターゲットワンの側にいるか」

 無線に小声で話しかけると、アンブッシュしている男の二アージュ後ろに、手を挙げている少女が見えた。フランは位置についた様なので、俺はもう一人のターゲットの頭に照準を合わせる。

 

 スリーカウントでいくぞ。

 

 

 三・・・二・・・一・・・撃て。

 

 

 

 一二時間前────

 

「前の魔獣について分かったのか」

『ああ、どうやらかなりヤバい連中が関わってる。国際的に魔獣生産を手がけている連中だ。東は共和国、西は帝国。猟兵団にもビジネスをやってる』

 クラレンスからの報告に驚く。なんせ自分の予想がドンピシャだったからだ。《魔獣生産》という非現実的な単語で説明しながらも、その恐ろしさは伝わる。

『魔獣の生産は感情を持つ人造人間(ホムンクルス)より量産できる。それに前にお前が発見したような改造された魔獣なんてのもいる。下手したらそこらの猟兵団(イェーガー)よりずっと脅威になる』

「拠点はあるのか」と聞くと、クラレンスは悩んでから、

『あるっちゃあるが、クロスベルの大元、共和国に一つ、帝国に五つ、リベールに二つだ。組織の名前までは分からなかったが、こっちで人数とかはしらべられてな。一つの拠点に百人程度、大元で百五十くらいと思っていい。

 数が多いうえにかなり前から活動してて、一番でかい実験は五年前のノックスの樹海だな。大元の拠点がある場所でもある。今回はそこを潰そうって話をしたがるだろ』 

「よく分かったな。後で合流してくれ」と言って通信を切った。

 

 それらの情報を伝えた時、フランは情報源を察したようだ。彼女と仕事をして、数週間は経つし、これだけ物騒な出来事が起きていれば気付かない方が鈍感すぎるだろう。

 俺はフランに一つ忠告をする。

 今回は依頼じゃないし、報酬は遊撃士協会から直接出るが、公に出せない任務だからどれだけ苦労して犯罪組織のボスを取っ捕まえても、英雄となることもない。ましてや報酬も割に合わない十万ミラっていうはした金だ。作戦に参加することを強制しない。参加するもしないもお前の自由だ。

 すると、フランは少し迷った様子を見せたが、彼女らしい答えが聞けた。

「割に合わない報酬なんていつも多いですし、此処(第二支部)に所属した時点で英雄的な活躍は期待していません。

 それに、アレックスを一人で行かせたら無茶して怪我で済むか分かりませんし」

 俺が一人で行くことに不安を感じて、参加してくれるそうだ。まあ、死地へ赴くことになるかも知れないし不安も何も自分のことで精一杯なのは変わらないが

 フランに遊撃士協会から送られた『殉職保険書』にサインさせる。これは報酬も名声も得られない任務に行かせるので、せめてこれだけは与えてやる、と発行されたものだ。今回の作戦で死亡した場合、「殉職」ではなく、「事故死」の扱いになるからだ。殉職者の親族や親しい友人(これは書類に書けば、対象が一人であれば誰でも有効である)に一人十万ミラが支払われる。

「不思議な感覚ですね。自分が死ぬ前提の様な書類にサインするのは」

「鉄道憲兵隊なんかじゃ武装集団の掃討作戦前は全員書かされてた。慣れるもんさ」

 俺はここで自分の言ったことに重大なミスがあるのに気付き、昔の友人の話だ、と付け加える。フランは気づいていないのか、しれっとしている。思わず胸を撫で下ろしたくなった。

 その直後、どうしても彼女に謝りたくなる気分になる。こんな相棒を騙していることに抵抗が無いのが不自然だ。だが、それを表に出せないし、正義感の強い彼女が犯罪スレスレの俺を赦すだろうか。

 俺は人を殺して、殺して、殺してきた。

 麻薬王だって、汚職政治家だって、警備隊の若い隊員だって。

 罪を背負い過ぎた俺を全て見せれば、彼女が赦してくれる訳ないだろう。今こそ暗殺や、戦力増強の依頼が来ていないが、彼女がその俺を見たらどう思うだろう。

 嘘で塗り固めた生活をしている。

 だって俺はフランから「アレックス」と呼ばれる度に緊張が走る。その感情は、いくら怒鳴っても出ていかない良心のように居座り続ける。いつまでも存在し続ける。

 俺は敵を殺した時の罪悪感が薄いし、どちらかと言えば、自分の生死の方が重要だ。だが、フランは俺より気楽ではないらしく、人を殺す可能性が大きい任務に就くのは初めてだし、硝煙匂う戦場に出るのも初めてだろう。

 

 俺からフランに帝国の導力拳銃を渡す。いくら剣の腕が良くても、相手は犯罪組織だ。銃を持っていてもおかしくないのに、剣一つで立ち向かうのは無謀すぎる。

 フランは扱いを自分で考えようとしているが、そこは教えてやった。

 

 すると、玄関にあるベルが鳴った。

 振り向くと、ギターケースの様なものを背負っているクラレンスが、よう、とこちらを呼んでいる。

 この支部に来るのは初めての筈だが、良く場所が分かったもんだ。と言うと、俺の職場の情報網を舐めるなよ、と返して来る。《結社》ということを明かさない様に言葉に気を遣ったのだろう。

「初めまして、私は第二支部所属のフランツィスカ・コーレンベルクです。今回は、お互いに短い命になるかも知れませんが宜しくお願いします」

 フランからの皮肉った挨拶に動揺しながらもクラレンスは返答した。

「こちらこそ。それにしても、キツイことを言うお嬢ちゃんだな。どんな教育をしたんだトカレフ」

 その"お嬢ちゃん"にフランは反応する。彼女は子供扱いされるのが嫌いというのが、今までで学んだことだ。

 クラレンスには「俺の支部で働いてるからな。素晴らしい成長だろう」と答える。

 フランも先ほどの挨拶は、冗談のつもりで言ったのだが、彼女の持つ真面目そうな顔が冗談に感じさせないのだろう。まあ、来たばかりの頃の緊張が解けたのは喜ばしいことだ。

 俺は自分の導力車を自慢するかの様に、これに乗ろうと提案する。クラレンスは歩きで来ていたしちょうど良い。

 

「こりゃ懐かしいデザインの車だな。これの先祖にあたる車は二十年前のストラナ・ヴォディーって国じゃ、機関銃付けたのが国中沢山走り回ってたぞ」

 クラレンスはそう言って後部座席から車内を見渡す。そのストラナ・ヴォディー俺の母国であるとクラレンスは言うが、それが真実かどうかは分からない。だが、クラレンスの情報は極めて正確なので信頼性は高いだろう。

 フランはその話に出て来るストラナ・ヴォディーが紛争地帯であることは理解出来たが、聞いたことない国名のため、多少混乱してしまう。それもそうだ。

 そこらの素朴な石に子供が名前を付け、全く知らない人間が、この石の名前は何でしょうと聞かれているようなものだ。それくらい見放された国だった。

 そんな国の話をしてもフランが退屈になるので、咳ばらいをして話題を変えた。

「今回の任務な、遊撃士協会から直接出されたものなんだが、この人数で行くつもりか。他にコンタクトをとれたやつはいなかったのか」

 俺のそう質問すると、クラレンスは「とりあえずは、このメンバーと、別行動にはなるが《北の猟兵》から借りてきたライフル兵が四人だな。いざとなれば"お友達"だって呼べるから安心しろ」

「《No.Ⅰ》を呼ぶのだけは止してくれよ。あいつと会うと執拗に戦いたがってくるからな」

「銃しか持ってないお前には興味が無いだろう。あいつ風に言えば『混じった』のが出てるお前の方は魅力あるんだろ」

 思わず溜息をついてしまう。"彼"の本気は人外と呼ぶべきものである。俺も同じような"混じっている"体質ではあるが、マクバーンの様に、焔を出現させたり、訳の分からない威力の剣を異空間から取り出したりは出来ない。

 

「見えてきましたよ」とフランが会話を断ち切る。フランが指差した先には、崖があり、二十アージュはありそうな高さでノックス樹林へと続いている。

 すると、クラレンスがロープを取り出し、地面に杭を打って、それにロープを巻付ける。軍の特殊部隊でも猟兵でも習う技術である、簡易ザイルの完成だ。

 それにフックを掛けると、クラレンス、フラン、そして俺の順番で樹林へと降りていく。

 この光景は随分懐かしいものだ。鉄道憲兵隊でも、建物への侵入にこれを応用したものを使ってた。建物の屋上からワイヤーで下がり、窓から侵入する方法だ。クレアはこれが苦手で、当時は上官だった俺に個人的な教練を頼んできたくらいだった。

 

 俺が着地すると、フラン達は武器を取り出して行軍の準備を完了していた。

 フランはクラレンスの使っている銃に興味があるようで質問をした。

「その銃・・・・・・、見たことは無いですが、火薬式のものですし、木製のストック。導力銃は使わないんですか」

 クラレンスがいつもされる質問にいつもの答えで答えた。

「この銃か。骨董品みたいなデザインだが、並の導力狙撃銃よりずっと威力もあるし、精度もかなりのもんだ。何より俺の趣味の一部でもあるかな」

 そう言ってクリップごと弾を込める。かなり古いリロードなので、フランも一瞬何が起こったのか分かっていない。彼女にとって、弾倉はパンマガジンかドラムマガジン、もしくはボックスマガジンだろう。

「時代を感じるなぁ。なぁ、アレックス」

「導力革命前の物ばっか使うやつの言うことだから気にするな」

「導力車を使ってるからそんな言い方は無いんじゃないか」

「お喋りしてる余裕も無いと思いますよ」

 先ほどから会話を断ち切り続けるフランにぶつぶつと文句を言いながらクラレンスが取り出したのは小型の無線機で、三つあるのを渡して来る。尚、猟兵とはクラレンス経由で連絡をとることになっている。

 

 周辺には魔獣が多くいるとの情報がある。例の会社が放っているのだろう。既に五十体以上の魔獣を倒した。フランと俺は息が切れてる程ではないが疲労しているが、クラレンスはへらへら笑う程の余裕がある。

 樹林に入って行軍が三時間、その間に戦闘を何度も挟み疲れが見える筈なのだが、彼は誰よりも荷物を持っていながら余裕だ。本気をだせば《鋼の聖女》にも敵うと本人は言っている。化け物と言わざるを得ない。

 すると、人工的な物質が木葉の間に見えてくる。

 フラットな白と、プレハブの簡易トイレのような見た目で人工という雰囲気を醸し出しているところに、蔓が巻き付いてドアも開かなそうだ。

 そこで、クラレンスが無線を通して声を掛けてくる。

〈十二時の方向に敵一人、二時の方向に二人、伏せているぞ。フランは左のやつを後ろから剣で。ダレ・・・だっけ、そうだトカレフだ、トカレフは二時の方向にいる狙撃手のスポッターを撃ってくれ。俺は本体を狙う。フラン、行けるか〉

〈大丈夫です。あと二分で到着します〉

 ここから双眼鏡を覗くと、十時の方向にフランの迷彩が動いているのが見えた。注意深くしていないと、見えないだろう。ドアに近付く相手を排除する前提で警備している人間には見破れない。

 

 フランが敵の背後に立つと、手を小さく振って合図する。俺はスリーカウントで撃つぞ、と言って、カウントダウンを始める。

(トゥリー)・・・(ドゥヴァー)・・・(アヂーン)・・・撃て(アゴーニ)

 

 三人の男が一瞬にして脱力したように倒れ、後頭部が地面に当たる。フランの方は首を斬られた方向である横に倒れた。

 辺りの安全を確認すると、慎重にドアの付近で合流する。フランは直接首を斬ってきた割りには安定しているように見える。

 明らかに開かなさそうなドアのボタンを押すと、巻き付いている物など関係なく、スムーズな駆動をした。この巻き付いている植物は立体的な映像であり、遠くから見ればそれこそ偽装は完璧だが、近くで見たときの違和感は否めない。それでも、効果はあるだろう。

 ドアが開くと、中には、人が五人乗れそう広さのエレベーターがある。それに全員乗り込むと、クラレンスが降下のボタンを押す。エレベーターが下がっていく。内蔵が持ち上げられているような感覚に陥る。B1からB5まである内のB1に着くと、エレベーターは停止し、びーという音と共にエレベーターが開く。それと同時に、銃でドアの向こうを警戒する。

 すると、背中を見せている白衣の男が一人立っている。こちらには気付いていない様子だ。

 クラレンスと左右のクリアリングをすると、フランが自前の剣で男の心臓を突き刺し、引き抜くと、首を切り落とす。その剣は鮮血によって紅く染まっている。しかし、錆の防止もあるのだろうか、すぐに血が刀身から滑り落ちていった。

 エレベーターの正面に続く長い廊下をゆっくり進んでいく。俺がポイントマンを担当し、フランが俺の後ろから拳銃を構えていて、最後尾にショットガンのクラレンスだ。

 足音を立てないブーツを使っているから幽霊のような気分になれる。フランにも予備の物を与えているから全員が幽霊だ。恐らく、中を見られないようにしているために部屋には廊下に接する窓は一切無い。それが仇になり、順調に進行することが出来ている。

「休憩室」

「原材料貯蔵室」

「加工室」

「会議室」

 魔獣の生産という、悍ましいこととは似合わない単語がずらりと並んでいることの驚く。まるで、人の皮を被った怪物のようだ、と感想を抱いた。

 すると、めぼしい部屋も無いまま、階段を降りる。ここまで警備員はかなり少なく、規模の割に守りは薄い。このまま進めば良いのだが、そうもいかないのが潜入だ。奥まで潜り込んでから、はらわたを掻き回すことが出来れば成功なのだが、そこに到達するまでの肋骨を越えねばならない。それが一番困難である。

 B2に着くと、ドアを開けた直後に警備員一人と鉢合わせ、これは好機だと捉えた俺は、まだ動揺している警備員を取り押さえ、首にナイフを突きつける。

「此処の最高責任者は誰だ」

「何故ここに来れた」

 警備員が質問に答えなかったので、ナイフを持つ手に更に力を込める。

「質問に答えれば命は助かるぞ。変な気は起こさない方が良い。

 分かりやすく訊くぞ、此処のボスは誰だ、そいつは何処にいる」

「B4の工場長室にいる。名前は自分たちも知らない」

 俺は首に突きつけたナイフを一気に突き刺す。

 皮膚を突破して静脈を切断する感触が刃から柄へと、生々しいほどに伝わってくる。この感触は映像を見ても感じられない。

 さっきは殺さない、と言ったがこの際に選択肢をより選んでいては屍となるだけだ。第一にこいつを離しても黙っている確信は無い。

 屍体を下ろすと、B4へと向かう。

 そして、その非常階段から廊下へと移ろうとしたとき、建物に警報が鳴り響く。そうなっても、目標(ターゲット)の殺害という目的に変わりはない。

 一行は後方にも警戒して廊下を進む。

 すると、部屋から銃で武装した人間が続々と出てくる。それを連射で穴だらけにすると、くるくると回りながら倒れる。これが何体も積み重なり、足を止めているようだ。

 上からも戦闘音が聞こえるから恐らく《北の猟兵》も戦闘を開始したのだろう。あいつらは犠牲を出さないことを礎に戦うからこの程度の相手なら心配はいらない。

 突き当たりの丁字路をクリアし、右に曲がると工場長室という札が目に入る。フランに部屋の外を警戒してもらい、クラレンスと一気に突入する。侵入していることは気付かれているから、爆薬を使って突入する。

 ドアに爆薬を設置すると、四秒後の爆発にセットする。ドア両側に俺とクラレンスがいて、俺の右側で、フランも爆発に巻き込まれないように壁と背中を付けている。

 

 一、敵が階段のあった方から走って来る音が聞こえ、クラレンスがグレネードのピンを抜く。

 二、敵が顔を出す前にクラレンスがグレネードを投げ込んで、足を止めた。

 三、猟兵たちが階段から来たようで、警備員はグレネードと銃撃に挟まれて全滅を余儀なくされている。

 四、グレネードの炸裂と共にドアに仕掛けた爆薬が爆発して爆音に包まれるが、耳栓をしている俺たちは突入に専念出来た。

 部屋に入ると、待伏せていた警備員数名を射殺して武装していない人物を確保する。どこの武装組織かも知れないようなところが、強力な爆薬を使用した突入をできるとは思っていなかったのだろう。薄い木製テーブルを二つ並べたところに一人と二人、『重要人物』を隠れさせ、そこに警備員が二人ずつ待伏せていたが、爆薬によって半数が片付いたようだ。

 クラレンスがショットガンを拘束した人物の頭に突きつけて、何やら外国語で軍服のようなものを着用している男に話しかけている。聞いたことない言葉だが、雰囲気からゼムリア大陸の東部、その辺りの言葉であるとは確信が持てた。

 すると、クラレンスが皮肉めいた笑いを浮かべながら何かを話すと、男は怒って大声を上げる。俺はそれを見ると、ある男に近付く。

 茶色の外套に身を包み、それより薄い茶色だが茶髪の髪は、これといったものに整える訳でもなく、目にかからない程度の長さで放置されている。

 地下室ということもあり、照明がかなり多く設置してある。その光が彼の顔をはっきりと浮かび上がらせ、落ち着ききっている彼を一際目立たせている。

「久しぶりだね。君の噂は全然入ってこないからね。今はどうしているのかが全く分からなかったよ」

「黙れ。お前は遊撃士協会から拘束命令が出ている。ムショにぶち込まれたくなかったら大人しくしてろ」

 彼は落ち着いた表情のまま肩を竦める。

 すると、クラレンスが北の猟兵たちを連れて、「脱出するぞ」と呼んでいるのに気付いた。男を連れて、部屋を出ていく。

 

 

 迎えの飛行艇が来るとすぐに乗り込み、拘束した連中もすぐに乗せる。

 猟兵は飛行艇を制御し、俺たち三人は外を警戒したり工場長たちを監視しなければならない。

 俺はクラレンスと外に出ているとき、聞いてみた。

「よくこんな飛行艇を用意出来たな。《身喰らう蛇》でも飛行艇を用意するのはきついんじゃないか」

 クラレンスは「まあ、金は腐るほど持ってるからな。一部の軍隊が横流しのものを闇市で売ってるんだよ」と返して、親指で後ろを指す。俺は人脈の広さに呆れながら貨物室に向かった。

 

 貨物室の自動ドアが横にスライドすると、部屋に入る。

 すると、フランが居眠りしてしまっているのが見えた。運よく、重要人物たちから見えない位置だったが、このままじゃ危険だろう。フランを揺らすと、すぐに起きた。浅い眠りだったようだ。

 彼女が起きると、厳重注意をしておく。そして、慌てて走っていった。

 彼女が出ていくと、"彼"に話しかける。彼は窓際に座っていることもあり、ずっと空を見ている。まるで、求めるものがそこにあるかのように。他の重要人物からは離れているから、一層、感情が読み取れそうになる。しかし、こちらに気付き、腕が拘束されながらも、こちらに体を向ける。

「やあ、僕になにか用があるのかい」

「ずいぶん余裕じゃないか、これから自白剤を打たれるかも知れないぞ」

 すると、分かりきっているように、

「あんな娘がいる部隊が自白剤なんてもの持ってるとは思えんな。さっきまで寝てたじゃないか」

「いい察しだが、これから質問には答えてもらおう」

 すると、「何でもどうぞ」と言ってくるので、まず、

「お前が魔獣の生産とやらに関わっているのは何が目的だ。そして、それで何をしようとしているんだ」

「それはもちろん戦争ビジネスで稼ぐために、この会社をまとめているんだ。下の働きを見て回るのは当たり前だろう。そして、それの目的は・・・・・・、強いて言うなら祖国のためかな」

 祖国のため、そんな単語がこの男から出てくるとは思わなかったから、一瞬戸惑ってしまったが、すぐに次の質問をする。

「お前らのその会社と呼ぶ組織の名前は」

「《ピュートル》だ。それにしても、仕事に関してしか質問がないな。君が来たからてっきり"五年前"について聞かれるかと思ったよ」

 俺は彼のシルヴィに対する態度に腹を立てて、銃を持っている腕に力が篭ってしまう。

「まあ、もうすぐ迎えが来るよ。

 ほら、窓をみてごらん」

 俺は大慌てで窓に駆け寄るが、角度が悪く見えない。

 すると、フランが息を切らして貨物室に駆け込み、恐れていたことを口から大声で放った。

「敵襲です。黒い飛行艇が接近しています」

 悪魔的な笑顔を浮かべている彼を一旦放っておき、外部へ出ると、フランが言っていたとおりの黒い飛行艇が数アージュ上で張り付いていた。このままじゃ歩兵が下りて来る。

 俺は他の人員に対空兵器が無いか訊くが、どうにも襲撃を予想しておらず、小銃しかないらしい。思わず舌打ちをしてしまうが、何もしない訳にはいかない。

 俺は一番強力なLMGを借りて、飛行艇に撃ちまくる。だが、かなり強力な装甲なのか、全て弾き、これといった傷を付けられてない。

 銃を投げ捨てると、自分のライフルを取りだし、風上に移動してから歩兵に備える。

 刹那、爆発音がして、機体が大きく傾き高度が下がっていく。落ちていく最中見たのは、俺たちの機体より更に下の位置にて、大口径の砲から煙りを吹かしている対空砲だった。恐らくあの飛行艇すら陽動だったのだろう。

 そして、地面と飛行艇が接触したところで、俺の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 耳鳴りがしている。

 どうやら、墜ちた飛行艇は爆発しなかったものの、飛行することも出来ず、帝国とクロスベルの境に佇んでいるようだ。

 遠くからくぐもった銃声が聞こえる。まるで、夢の中の光景のようにはっきりしない視界と感じると、ここまで不思議に感じるものなのか。

 しかし、それが遠くからではないことは分かっている。今、此処で黒い飛行艇に乗ってた連中が続々とヘリボーンをして、制圧しようと攻め込んできた。

 俺は重い体を起こし、飛行艇の残骸を遮蔽物として覗き込む。

 そこには、黒い服の戦闘員が"彼"を含めた重要人物を回収している。俺もそれを阻止しようと、銃弾を撃ち込む。出来れば手榴弾が使いたいが、こちらも回収すべき人物が戦闘領域にいるため、爆発物は迂闊に使えない。

 飛行艇から銃座を使っている戦闘員を壁を使った依託射撃で狙いをつけ、一発で頭を撃ち抜く。すると、機銃を撃ちながら倒れたの曳光弾が日が射す空への橋渡しをしている。

 クラレンスたちが前方甲板だったものを盾にしているので、俺もそちらに合流しに向かう。

 敵より手前にグレネードを投げて、爆発と共に、遮蔽物に滑り込む。

「状況はどうだ」

「俺も猟兵も無事だが、フランが腕と足を折ってる。後方で一人護衛をつけて待機させてる」

 その報告が心に一番響いたが、飽くまで平常心を保ったままクラレンスの指差した場所へ向かう。

 すると、そこにはぐったりとしているフランが壁に背中を預けて座り込んでいた。綺麗な銀髪はポニーテイルが焼け落ちてしまっていて、折れている右腕と左脚からは出血もしている。

「フラン、どうだ。見た限りは重傷だが、着弾したときはどこにいた」

 フランは、掠れた声で小さく、「こうぶかんぱん」と呟くように言う。後部にはエンジンが積まれていたから砲撃がかなり近くに着弾したのだろう。治療はされているが、ちゃんとした病院に行かなければ危ないだろう。

 そして、クラレンスが部屋に入ってくると「奴ら撤退していったぞ」と大声で叫ぶ。

 

 

 

「フランは導力車に乗せたか」

 俺がクラレンスに訊くとただ頷いた。

「一体、あいつらは何なんだ。ただの武装組織にしては持ってる武器兵器が強力過ぎる。横流し品ってレベルじゃないぞ。そもそも、あんな奴らにあれほどの戦力を注ぐ価値があるとは思えない」

 ニコラス・エゴルチェフ。あいつはあらゆる国を戦火に包むのが得意だ。

 俺はそう返した。

 

 

 

  第二章  完

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