硝煙の軌跡   作:暁学園前

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第三章 第二部

 

 

 

 

 

 

 他の依頼を終えた俺とフランが演習場に入ると、武装した人間による花道が出来上がっていいて、その奥にクラレンスが厳格に腕を組んで立っていた。

 俺たちは歓迎されている様子ではなく、真横から疑惑の視線や不信の目が向けられる。その中でも最も目を引いたのは、四肢が全て義手義足の男だった。あんなになってまで復讐しようとは思う程なのだろうか。

 そして、クラレンスの前に立つと、いつもと様子が違うことに気がつく。

「俺たちは《ヴェンジェンス・デーモンズ》という組織だ。そして、俺はその中でもここを仕切っている。今回はお前らに入隊試験を受けてもらう。俺の後ろにある張りぼての建物は屋内戦の訓練施設だ。そこを一定時間内に制圧してもらう。

 お前が友人であるかは今回関係ない。クリア出来なければ内戦下であろうと、ここを出ていってもらう。だが、成功すれば俺たちの仲間として受け入れる」

 クラレンスの提示した条件に対して、俺は反論する。

「俺はニコラスを殺したいだけだ。わざわざ鉄血宰相まで敵に回す必要はない」

「ニコラスは私設軍隊のようなものを抱えてる。それに噂の類いではあるが、あの"列車砲"にすら匹敵する兵器を持っているという情報もある。お前も心当たりはあるだろう。そんな勢力に対して二人で立ち向かうつもりか。フランもいるだろうに」

「しかし―――――」

 俺が言い切らない内に、

「"あいつ"は死んだ、だろう。俺にはそう思えない。奴は必ず生きている。それに決着をつける時はお前たちは巻き込まない」

 その条件なら、という事でフランに同意を求めると、彼女も頷いてくれた。ただ、彼女は飽くまで助けを求める人の為に戦いたい、という事を付け加える。俺としては利害が一致するので断る理由も無いし、ここはヴェンジェンス・デーモンズに協力することを決めた。

「それじゃ早速あっちにある梯子を登ってからロープで降りてくれ、飛行艇からの制圧を想定した訓練だ」

 首を縦に振り、梯子に手を掛けようとすると、クラレンスが俺の名前を呼んだので、そちらを見ると、サブマシンガンを二つ投げて来る。俺の方とフランの方へと。

 俺はそれをキャッチするが、フランは突然のことに焦ったのか、銃を落とす一歩手前だった。

 

 梯子を登り切り、俺がロープを掴んでフランが準備出来ているかを確認すると、クラレンスが怒りを孕んだ大声で、

「これからはモニターでお前たちの様子を見る。無線は繋がっているからどこからでもお前たちに怒鳴れるぞ」

 と叫んでくるので、接近戦闘じゃ俺が上だ、と怒鳴り返す。その時のクラレンスの顔は、総括者としての厳格な表情ではなく、俺の友人としての笑顔だった。

 金属光沢を放つ床を蹴り、ロープに身を委ねると、体は重力に従ってすぅっと落ちていく。

 まず俺が着地すると、建物にある窓から見える、こちらに銃を向けている男が描いてある木製の板を四枚撃ち抜く。この板は撃たれたことに反応し、下の隙間にすっと入っていくようだ。

 俺が建物のドアを蹴破ると、フランがすぐに入っていき、クリア、と言う。それに続いて部屋に入ると、二階へと続く階段の上へと矢印が指差しているので、階段を上り、廊下に出ると、次の矢印は奥にある部屋を指差している。

 そこへ向かおうと進むと、他の部屋から板が飛びだし、それを撃ち抜く。

 左右に同じような部屋が並んでいるので、俺とフランがそれぞれ別の部屋に突入し、横からの奇襲を排除していく。演習とはいえ、敵の配置はかなり本格的に組まれている。接近戦闘では基本的に気を抜けば、死あるのみだが、その緊張感を再現しかけていると言っても過言ではない。こんなのを他の新兵にもやっているなら、かなりの精鋭ばかりを集めているのだろう。

 俺が左の部屋を全て制圧したと共に、フランも右の部屋を制圧し、奥の部屋へと突入する。

 流石に爆薬で突入するわけにはいかないので、ドアを蹴破って入る。

 板が左右に四つ並んでいて、中には華美な軍服を着た男を描いているものもあり、恐らく、これで重要人物の殺害は完了したのだろう。

 フランが最後の板を撃ち抜くと、周囲の敵は全滅したようで、窓から飛び降りて脱出する。

 すると、板が飛び出す音が聞こえて、振り向くと、さっきの飛び降りた窓からこちらを追撃する動作の絵が見えたが、すぐに銃弾によって倒れてしまった。

 今度こそは終了の合図であろう、ブザーの音が聞こえると、先程まで歓迎する雰囲気ではなかったメンバーが感嘆の声を漏らす。

 そこでクラレンスが拍手をしながらこちらに歩み寄って来て、

「よくぞクリアした。これでお前たちは俺たちの仲間だ。今度は歓迎する」

 クラレンスがそう言うと、どっと歓声が湧く。新兵は皆これをやるとの話を聞いていたのに、こんなに歓迎されるものなのだろうか。

「実はな、これは最高難易度に設定してあるんだ。だから皆お前たちが成功するとは思っていなかった」

 正直、呆れた。クリア出来たから良いが、そんなものを、新兵は皆やる、と言ってさせるのは理解出来ない。そもそもあんなのを新兵にやらせると言っていた時点で怪しむべきだった。

 すると、筋肉量が凄まじい男が俺の肩を叩いてきて、

「やるじゃねえか。あの難易度は俺でも難しいぞ」

 こいつの実力がよく分からないのに、俺でも、と言うのは止してほしい。基準が分からなくなる。だが、顔には傷が幾つか見れることから叩き上げであることは、ほぼ確定であろう。

 俺はフランの方を見やる。すると、茶髪を一つに纏めている女が一方的に肩を組んでいて、それを筆頭とした女子たちが、ここにいる全員―――と言っても、十人程だが全員集まっている。まだ十六の少女があれだけの実力を見せて、入隊するとなれば喜ばれるのだろうか。

 そんなことを考えていると、先程の男が「さて」と言い、周囲の男たちが同調するように腕を伸ばしたり、肩を回したり、明らかな暴力の準備を開始する。

「男がここに入隊する時は俺たち相手に何人抜き出来るか調べさせてもらうんだ。もちろん拳でな」

 そう言って、屈強そうな筋肉ダルマを一人、前に出す。一人ずつ、ということだろうか。それならまだ良心的だな。

 俺は久しぶりにする、楽しむだけの殴り合いへと期待を寄せて男たちと同じような暴力の準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぼくは無神論者だ。十五の時から堂々と貫いてきた。

 ぼくの住んでいた国では、時間、大地、空、海、この四つはそれぞれの神が司っているという宗教が流行っていた。ぼくも小さい頃はそれなりに信仰していたが、十二の時、その国が内戦に陥った。

 国が民兵を組織しやすいように徹底した銃社会であったこともあり、各地の戦闘は激化していった。次第に政府も暴徒鎮圧と称して戦車を投入し、虐殺を繰り広げたこともあったが、それ以降は市街地でゲリラ戦を展開し、政府軍の被害は鑢で削った程度には減らせている。

 だが、政府軍はそれに対抗するため、対ゲリラ戦の部隊を多く結成し、膠着した前線を押し上げた。

 前線が本拠地に迫った反政府勢力は、自分たちの持っているもので最高のものを与え、最も実力を持つ人員だけを集めた部隊、要は特殊部隊の真似事をし、大統領を確保することに成功した。それによって停戦協定の様なものが結ばれ、束の間の平和が訪れた。

 それが今のストラナ・ヴォディーの現状だ。

 防壁が国内を二分するように生えてきて、それは国境のような役割を担っている。反政府勢力は自身でメディアを形成し、国内外にプロパガンダを行って、戦力の増強に努めているが、テロリスト紛いの勢力に協力する人間などいなく、それを見込んだ政府もろくでもない人間ばかり。

 各国の議題:ストラナ・ヴォディーが内戦から抜けるためにどう干渉するか。

 結論:武器だけ貰って見捨てる。

 これによってストラナは世界の地図から消えた。

 今や誰も所持していない土地となって存在し、たまに物好きが土地を購入したりもしている。ぼくもその一人だが、ぼくが買ったのは非戦闘区域だ。いきなり機銃を載せたトラックだとか、シュールな銃を持った人間に制圧されることはない。安全な隠れ家なのだ。

 隠れ家、というのも、ぼくは『魔獣工場』を営んでいて、たまに暗殺部隊だとかが送られてくる事がある。私設軍隊で防ぐのも限界があるので、基本的に隠れ家から指令を出すようにした。

 だが、この前、少し査察に行ったら襲撃部隊が来てぼくを飛行艇で引きずり出した。ぼくは口内に仕掛けた通信機で地上部隊と連絡をとり、飛行艇を撃ち落として貰った。そして、脱出した。

 "彼"がぼくを見つけたということだ。

 彼に発見されたからには、ぼくの命もそう長くないだろう。ぼくは彼の大切な人を殺したらしい。悪いとは思うが、ぼくとて祖国の為だ。彼女たちの屍とぼくの人生を差し出して、あの国が再び存在を認められるのなら喜んで差し出そう。

 

 

 ぼくが小休止でペンを置くと同時に、背後のドアを三回叩く音が聞こえた。

「どうぞ」

 ぼくがそう言うと、機械的だが麗しい声が「失礼します」と言い、ドアノブがゆっくりと回って茶色の長髪を額で二等分している女性が部屋に入ってきた。服装はメイドのようなもので、凛々しくそれを着こなしているが、機械的な表情がまだまだ未完成と言ったところだろうか。不気味の谷を越えるには至っていない。

 ぼくが彼女に用を聞くと、またもや機械的「この時間ですから夜食を持ってきました」と言う。

 ぼくは礼を言って受けとるが、彼女の無表情は常に私の顔を追いつづける。せめて、何かリアクションをする機能を付けようかとも思ったが、人とこいつらの区別も必要だと思い、思考を遮った。

 ぼくが彼女の顔を眺めていると、彼女をここに留めていることに気がつき、今日はもう休んでくれと、伝え作業に戻る。

 ぼくはそちらを見ていないのを気に留めず、深く一礼をしているのが分かる。

 ドアの閉まる音が聞こえた。

 

 やがて、計画の見直しが終わると、瞼を力いっぱい閉じ、腕と背を伸ばす。

 今日やりたかったことは終わったし、今日はもう寝よう。

 ぼくは服を脱ぐのも、面倒でそのままベッドに沈んでいった。

 

 

 

 目を覚ますと、フラットな空間にいた。草原が地平線まで真っ直ぐに伸びていて、それ以外は何もない。

「おはよう。こんにちわかな。もしかしたらこんばんはかも」

 声が聞こえた方に体を回すと、"ぼく"がいた。不思議だとは思うが、それはどうしようもなく"ぼく"だった。

「日がまだ上にあるからこんにちわで良いんじゃないかな」

 ぼくがそう答えると、それを無視して話を続けている。

「後ろを見て」

 言われた通りに体を反転させると、そこに、両腕と、頭のてっぺんあたりが吹き飛んでいる死者が立っていた。死者は立てないと、ぼくは言うが死者はただ微笑んでいた。

「ここは地獄だからね。死者ですら立ち上がるよ。それに、死者みたいなものを扱うのは君の仕事じゃないか。ここは君の心を表した地獄だ」

「ぼくは無神論者だ。地獄は無い」

「神を信じていなくとも地獄はあるよ。現に君の心が地獄を映し出しているじゃないか」

「そう言われれば。ここにはぼくの望む物は何一つ存在しない。何も無い。こんな孤独な空間は地獄と言わざるを得ない」

「だろう。夢というのは人の心を表す。君がいくら無神論者だと名乗っても地獄があることに変わりない。君はどうしようもなくそう作られている人間であるからね。どうしようもなく肉の塊であって、どうしようもなく物である。君の扱うペンと君は同じだ」

「そうかな。この脚や腕ををペンとして扱うのは難しそうだ」

「そうだね。だけど、君は無神論者を名乗るならそれくらいは受け入れないといけない。あの偉大な女神様を信じていないんだからね」

 "ぼく"は、最後の部分を皮肉たっぷりの笑顔で言う。

「ぼくが捨てたのは女神だけじゃない。あの四神も捨てた。神ほど胸糞悪い存在は無い。人の争いすらも神の遺物だとするなら、最低だ」

 ぼくが神を罵ると、"ぼく"は朗らかに笑う。とことん気が合う人だ。まあ、同一人物なのだから当然なのだろう。

 すると、"ぼく"は笑いすぎたのか、目に浮かぶ涙を人差し指で拭いているのが分かった。

「君は本当に面白い。だけど無神論者とは少し違うような気がする。どちらかと言えば神を嫌っているんじゃないかな」

「そうかもしれない。だけど神の存在は認めていない。無神論者であることは変わらない」

 すると、"ぼく"は、へぇ、と言って腰から拳銃を抜き、ぼくの頭に突きつけ、

「さて、今日の夢はこれでおしまいだ。君を夢から現実へ引き戻そう。これで君の頭を撃ち抜けば君は目を覚ます」

 そう言ってスライドを引いて、引き金に指を掛ける。

「楽しかったよ。また、明日だ」

「ああ、また明日」

 

 

 

 

 

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