晴天で照り付ける太陽。グラウンドで訓練を行う生徒にとっても、教官にとっても十分過ぎる苦痛であり、授業を行うのすらも新手の嫌がらせかと思えてきた。
だが仕事をサボって金が貰える程世の中は甘くないため常に全力、というスタイルになってしまう。
「今日からは一時的に戦術指導を俺が行う。勝つ術より生きる術を教える」
訓練の内容は自由で構わないとサラから言われているが、実戦的な技術を教える、という点に変化は無い。
まずは格闘術から教えようと思ったが、この学院では使用する武器は個人の自由、ということがあるのでそれぞれの武器が気になった。
生徒に得物を見せてほしいと頼むと、了承したあと、各々が武器を取り出した。
彼らの持つ武器はかなり特殊なものが多いが、少数の魔獣、もしくは人と戦うことに関しては、かなり良い組み合わせになるだろう。
だがそれは所詮「敵が歩兵だったら」だったり「魔獣だったら」の話に限られてくる。こうした歩兵単位の訓練も大切だが、こればかりやっていても実際の戦場では役に立たない、と生徒に告げると皆深刻そうな顔をする。
「やはり、そうですよね。自分達もガレリア要塞で見てきました。『軍隊』というものの破壊力は一人や二人の人間じゃどうにもできません。ですが今回の訓練で教官殿がそれに太刀打ちする術を教えてくれるのでしょう」
青い髪の女子生徒、ラウラがそう言ってくる。昨日の夜に睡魔と戦いながら名簿で人の名前を覚えたので、全員の名前と顔が一致している。
そして各生徒の戦闘力と特徴を知るために、一回手合わせをしてから休憩を挟み、訓練へ移行する、そう伝えると生徒は驚いたり、楽しみにしたりする者がいた。クロウという銀髪の生徒に関しては「へぇー」と、興味を持つような感じである。
「それじゃあ、最初は・・・・・・シュバルツァー、ラインフォルト、アルゼイド、クラウゼル、前に出ろ」
俺は相性が良いコンビを二つ合わせたチームを作らせた。
四人対一人、本来なら分が悪い、と言いたいところだが俺の経験からはこの程度の人数と練度なら勝てるのは確実だった。
「レーグニッツ、合図をしてくれ」
マキアスが位置につく前に自分の武器を取り出す。ケースを開けると特注のライフルを取り出す。フルオートも三点バーストも単発もできる上に高威力(今回は模擬弾だから関係ないが)のライフルだ。
「両者、構え!」
合図でライフルの銃床を肩にあてる。
リィン達も同じように武器を構え、ARCUSを起動する。
足元に出現した光は、帝国で試験運用の段階にある最新の戦術リンクとやらだろう。それに反して、こちらのオーブメントは旧式といっちゃ何だが古臭くて使いづらいのが印象的だ。
まあ、どうせ一人での戦闘の方が多いしこれ位がちょうどいい。
両者は、これからお互いに暴力を振るう準備を心の面でしておく。が、それでも緊張というものは感じる訳で、今更武者震いをしてしまう。
「始めっ!」
備えていた合図に反応してまずはフィーに狙いを定める。猟兵団にいた経験や長い射程を持ちながらの近接攻撃は厄介だ。遠距離にいるアリサは立ち回りで無力になる程度だ。
フィーがこちらに刃を突き立て、こちらの首に当たりそうになるが、その前に剣をライフルの銃床で弾き、飛びのいてもう一度狙いを定め、模擬弾でダウン判定を与えようとすると、後ろから空気を切り裂く音が聞こえる。
左手のガントレットを横に構えて、がきん、と音がするとリィンの刀を防いでいたようで、太刀の特有の追撃を入れる為に必要な振を利用し、横にステップをして避けると着陸した直後に「せええええい!」と叫ぶ声とそれの持ち主が目の前から切り込んできた。
ラウラの振るう大剣を紙一重で避けると、今度は矢が横から飛んできたのをかわすと、発生源へと引き金を引くき、見事命中させた。
これにより相手の戦力を一つ削いだが、ラウラが剣を横に振ってくる。これは先程と比べると破壊力が段違いであり、ガントレットで防ぐことはできないが、その破壊力を無効にすることはできる。
ライフルを投げ捨てながら、大剣をこちらに当てる前のラウラに急接近し、足を絡めて転ばす。拳銃を取り出し、構え、引き金を絞りラウラもダウンさせる。
そして予想通りフィーが登場して、後ろから双銃剣を構えて押し当て、引き金を引く音がするが、何も起きない。その刹那、俺は後ろにあるフィーの腕を掴んで前方に投げると衝撃で「うっ」という声を出してからダウンにさせられた。これはナイフによるものだ。
しかし、好調な戦闘もそこまで、と言うようにリィンが《八葉一刀流》の技、『疾風』の構えから実行へと移る瞬間が目に映った。
リィンの姿が一瞬消えると、風のような物凄いスピードで接近して来る。これは避けることも防ぐことも不可能だろう。
ならば真っ向から潰すまでだ。
俺はまず拳銃を盾として一撃目を防ぐとリィンはこれが本命だ!、と叫んで刀を振り上げる。
龍のような炎を纏った刀は俺を目掛けて振り下ろされる。これは俺の本気を出せたようで、この中で一番の実力と言っていい。しかし、その実力も所詮は俺には届かないものだ。
振り下ろされた刀は片手で押さえられ、もう片方の手で殴られて飛んでいくと、ダウン判定を当てられる。俺はやり過ぎたか、と思ったが、これも訓練の一環だと思い直ぐに立ち上がらせた。
「まさか・・・疾風と龍炎撃を合わせた技を破られるなんて・・・」
「さすが遊撃士・・・だね」
「これが実力の差だ。だがお前達に教えるのはそんな相手に勝つための戦法だ。今回の授業では先程の手合わせを見ていたら分かるだろうが、力を受け止めるだけで無く、大きな力は受け流すことを教える。まずは格闘術からだ、得物がなくても戦えるようにしろ」
うだるような熱気の中ひたすら格闘術の訓練をした生徒達は汗だくになって教室に戻る。
訓練は昼頃に終わり、後は大人しくしとけば安全で楽な仕事かと思ったが、担任もやっているから書類のことも任されているのだ。高額報酬の理由はこれだったのだろう。
紛争地域で未熟な兵士を鍛えるよりもちょっと大変な仕事なのにそれの平均の五倍以上のミラは得られない。
サラも今頃何処かで様子を見ているか、それとも休日同然のこの四日間を満喫しているか、の二択に絞られてくる。彼女が担当する書類は全てこちらに回って来たからだ。
それにしても彼女が俺に関しての要らない配慮だろう。利益がこちらに圧倒的に多い仕事を受ける、という不安を消すためだろう。
公的な場所での活動が一番落ち着いていられる、と言いたいが俺は命を狙われている身でもある。《赤い星座》との関係は良好だが、《西風の旅団》とは最悪と言っていいだろう。何せ一騎打ちの戦いをした日に俺は《赤い星座》側についていたからだ。
あの戦いは今でも忘れられないものとなっている。少し顔を出せば銃撃に晒されるような緊迫した戦場、平和になってから報酬の少ない民間からの依頼をこなしていると恋しくもなってくる。
銃声と砲撃音、兵士達の断末魔と雄叫び、敵を撃った時の引き金の感触、敵を銃剣で突き刺した時の手応え、それらが終わった時の硝煙の匂い、当時は不快にしか思えなかったものが恋しくなってくる、これは贅沢な感情だが事実だ。
俺は戦場を恋しがってる。先程の手合わせとは違い、返り血を浴びるあの戦場を、俺は恋しがってる。
狂戦士と呼ばれても仕方ないだろう。
それにしてもこんな人間が学生と接していて良いのだろうか、まだ戦場の本質を知らない子供達に厳しい訓練と想像を絶する程の生々しい戦い方を教えて良いのだろうか。
するといつの間にか作業が止まっていることに気づいた。長々と続けるのも喜ばしいことではないため、作業を再開することにした。
「作業は捗ってるかしら」
女性が座っている状態の俺に話しかけてくる。
「おかげでな。定時に帰れるか分からん」
「で、手合わせでは『本気』を出してないのよね」
「勿論だ。あれは俺にも負担がかかるし、やる必要は無いからな」
するとサラは溜息をついて、目を細めた状態で話を続ける。
「グラウンドの様子は見ていたわ」
「一瞬だ。それにリィンなら大丈夫だろう」
「全く・・・・・・、昔にあんなこともしちゃったんだから、まあ、貴方が防御用じゃなくて攻撃用のガントレットを使ってれば本気を出さなくても一瞬で片が付いたでしょうね」
「《赤い星座》の連中を鍛えた時以来使ってないがな」
あれは骨が折れた、と付け加え、仕事を手伝えないか聞くと、既に彼女の姿は消えていた。