第二章 プロローグ
男が遠くで虐殺をしている。
真っさらな地平線の彼方で、夕日を背に逃げる人々とそれを守ろうとする人間を射殺している。
ぱぱぱぱぱぱっ、と遠くから聞こえる発砲音に耳を傾けていると、俺もいつかあれと同じ様に銃で殺されるかな。そう考えてしまう。
なあに、今までしてきたことを返されるだけさ。
そんな声が聞こえる様に思えた。実際そんなことを言っている人間は此処にはいない。だって、この声が響いているのは、俺の頭の中だ。
自分がしたことを全部覚えてるのだって自分だけだから、そんなことを言えるのは自分しかいなかった。
俺は歩み出す。
この地平線で、自分を赦してくれる人間を探そうと歩み出す。
すると、あることに気付く。
夕日に染まって赤くなった何かが地平線に、ぼとぼとと落ちて来る。よく見ると、それは俺自身だった。
きっと、あれは運が無かったらどうなってたかを表わしてるんだろうな。
相変わらず、乾いた破裂音が鳴り響く地平線を歩く。
相変わらず、頭の声は消えない。
お前が殺した。
お前が幸せを奪った。
どこまで歩いても、頭の声は消えない。逃げられない。
俺は耳を塞ぐ。そうすると、声から逃れられる気がした。
そこに一際大きい声で、無駄だよ。と声が響く。
俺は思った。
本当の自分からは逃げられない。だって、自分は常に自分の中にあり、それを分離することは出来ない。歩兵同士の戦闘で多発するPTSDが良い例だろう。
本当は人殺しなんてしたくない。敵にも家族がいるだろう。
そんな良心が必ず存在する。良心と、生存本能が同居している。
お前は何人もの頭に咲く赤い花を見た。皮膚が花弁となった赤い花。
俺達はそれのどちらも追い出すことが出来ない。一度、染み付いた良心は、どれだけ怒鳴っても出ていくことはないのだ。
罪悪感に苛まれる。人を殺した罪悪感に。
俺はお前で、お前は俺だ。
俺は生憎、そういうのが薄いようで、虐殺とも見て取れる行為をした後も、目覚めが悪い程度で済んでしまう。それも俺が『嘘で塗り固めた生活』をしているからだろう。
何をしても実感が湧かない。少なくとも、『アレクサンダー・トカレフ』で生活していると、そうなってくる。これが異常なのかは、自分じゃ判断のしようがない。
何故、罪を償おうとしない。
地平線の彼方で虐殺を繰り返す男が、後ろから拳銃で頭を撃ち抜かれる。すると、不気味なもので、殺されそうだった奴らが、最初こそ喜んでいたが、すぐにばたばたと倒れていく。
奇妙だと思って見ているが、深くは関わらない。
すると、俺の手には、さっき男を殺したものと思われる導力拳銃が握られていた。
本当に異常な現象だが、共和国軍の拳銃か、と冷静な分析をしてしまう。
俺はここで何をしたら良いか、すぐに分かった。
骸をいくつ積み上げた。
返り血でぬるぬる滑るグリップを握って、銃口を右のこめかみに当てる。
お前が今まで奪った幸せは幾つだろうな。
頭の中に響く声を早く消したい一心で、トリガーを引いた。