「では、これにて失礼します。公演を見ることは出来ませんが、応援しています」
そう言って、アルカンシェルをあとにすると、外で別の仕事を終えたフランが不機嫌そうに腕を組んでいた。
「仕事中にリーシャ・マオと話せて、しかもアルカンシェルの舞台裏を見れるなんて良い仕事が出来ましたね。生憎、私はその間、ずっとビラ配りですけど」
「そう言うな。今のクロスベルは復興で呼ばれることの方が多いだろう。極端な力仕事よりもマシだ」
「そうですけど・・・私だってマオさんと話してみたいです」とそっぽを向いてしまったフランを置いてく様なノリで導力車に乗り込むと、慌てて追いかけてきた。
俺は次の依頼場所であるアルモリカ村へ車を走らせた。
アルモリカ古道を抜けると、幾つかの建物が見えてくる。
駐車場に車を停め、降車した直後、村長が出迎えてくれた。そして、今回の依頼に関しての詳細を教えてもらえた。
まともな遊撃士や、警察の特務支援課は出払っており、手が空いていそうな俺達に依頼した、という理由だった。
その依頼とは、魔獣の退治である。ただ、調査を兼ねてほしい、ということなので数が多いのだろうか、巣があるのか。どちらかになる。
俺は車のトランクからフランの剣と、自分のライフルを取り出す。相変わらず、自分は遊撃士らしくない武器だと思った。
村長から言われた森に入り、索敵を開始する。
姿勢を低くしたまま、フランとのツーマンセルで移動していると、村から五十アージュと離れていない場所にも拘わらず、魔獣の足跡を発見した。大きさから察するに、かなりの大型だろう。それもA級遊撃士でも少し手こずるレベルの。
フランも今ので警戒レベルを高める。俺と彼女が協力すれば何も問題はないのだが、数が揃えば危機的状況なのは間違いない。ライフルのセーフティーを先に外して、いつでも先制攻撃を加えられる準備をする。フランは既に鞘から剣を抜いていて、木々の間をくぐり抜けた日光で、刃が薄く輝いている。恐らく、光に鈍くなるように作られているのだろう。
しばらく歩いていると、段々と新しい痕跡が多くなってきている。糞や獲物が食い散らかされた死体があった。これらは今日のものだろう。
雄叫びらしきものが聞こえて来る。
すると、フランが驚き、戦闘態勢に入る。雄叫びが聞こえた三時の方向を見た状態で、叢にウッドランド迷彩を馴染ませる様にしゃがむ。フランには在庫は少ないが、マルチカムを着せてある。これで、近距離まで引き付けることが出来る。
銃の真下の地面にスペアマガジンを二つ置いて待ち伏せする。背の高い叢から、銃口と光学照準だけを出して、待機していると、低く響く足音が聞こえて来る。
フランが柄を握る手に力を込めていて、俺はサプレッサーの具合を確かめて照準の視界を意識する。
そして、巨大な猿の様な紫色の魔獣が木々を掻き分けて歩いて来る。
弾を全て撃ち込める距離にいると確信したら、引き金を絞り、三連射をする。サプレッサーによって静かにされた銃声が幾つか響き、それを連続で続かせる。魔獣が怯んでいる、その間にリロードをした。
殺意に満ちたライフルは再度、それを吐き出す。
一つ目のスペアマガジンが無くなって、二つ目のスペアマガジンをライフルに込めると、魔獣が軽い地響きを起こして倒れる。
フランが安堵し、叢から立ち上がると、先ほどの魔獣程ではないが、普通のものより大型な猿が彼女に飛び掛かってくる。彼女はそれを剣で落とすように斬り、落ちた猿に剣を突き立て、止めを刺す。
続々と出て来る様子ではないが、恐らくボスを中心とした群れのようなかたちかと思ったが、気配もない。
すると、先ほど死んだと思っていた猿が動き出した。
切り落とされた肩が、激しく痙攣したと思ったら、得体の知れない筋肉の塊の様なものが、腕に代わろうと生えてきたが、かつての腕の一回りも二回りも大きいもので、制御が出来ているとは思えない程不規則に動いている。
赤くてらてらと光っている触手のようなものにマガジン一個撃ち込むと、全て貫通せずに、受け止められてしまった。弱ってはいるが、決定打ではない。
それを見たフランが触手を切り落とし、猿の首を飛ばした。時には剣の方が役立つとでも言うようだった。
今度こそ死体になった猿は腕から赤い血液ではなく、銀色の液体を流していた。こう言っていいならフランの髪と同じ銀色だった。
俺はそれにデジャヴを覚えつつもフランを見やると、この数週間で戦闘に慣れたのか、前のように血を見て具合を悪くする様子はない。
とりあえず、調査については、この死体を報告しても不安を煽るだけなので、「巨大な猿型魔獣の群れがあって、それを潰してきた」と報告することにした。これにはフランも同意らしい。
『銀色の血・・・か、俺にもよく分からないな。《黒の工房》も《結社》の元を去ったからあいつらが作ったかどうかははっきりしないし』
「そうか・・・」
『ただ、《黒の工房》以外にも
「それは魔獣工場ってことか」
『お前の情報と合わせれば、もっと悍ましいものかも知れん』
「分かった。こっちでも調査する。そっちで何か分かったら連絡してくれ」
そう言って通信を切ると、報告を終えたフランが導力車に戻ってきた。報酬を受けとったのを確認したら、出発した。
最後の依頼であるボート小屋に向かう途中、一人の青年が道端に立っているのが見えた。どうやら迷ってしまった様子だ。
その青年のいる所に導力車を停めると、窓を開けて事情を聞いてみた。
「すみません、貴方はトカレフさんですか」
唐突に質問してきた青年に動揺してしまう。
すると、青年が突然、拳銃を取りだし、こちらに向けてきた。
そうか、見覚えがあるぞ。お前。あの猟兵崩れの若輩野郎だろ。トリスタで俺を追尾してた。
そう言って俺は導力車を降りた。
青年はただ静かに拳銃のセーフティーを外して、殺意を漲らせている。
刹那、銃声が響いて周辺に緊張が走る。
目を錘ってしまったが、自分の体には穴が空いてる様子はない。だが、フランの方を見ると、彼女が持っている拳銃から硝煙が立ち上っている。
青年が手に持っていた拳銃は彼の手を離れている。
フランは「さっさと去りなさい。じゃなきゃ、次は頭を狙う」と冷酷に言い放つ。それに続いて、俺も彼の落とした拳銃を拾う。さっきの銃撃でマガジンの下部が損傷し、銃弾がぼろぼろと落ちてしまったが、薬室に一発入っているのを確認したら、撃鉄を屠る。
そして、青年の頭に向けると、彼は復讐の目をこちらに向けたまま、殴りかかってきた。最後まで抵抗するつもりなのだろう。
彼の腕を抑えながら、フランに手を出さない様に合図を送る。
右から一発殴って、左でアッパーを加える。青年は怯まず、ハイキックをしてきたが、しゃがんで回避して隙が出来た所に顔面を殴る。顔中が腫れるようなことになっている。それでも彼は立ち上がり、向かってきた。
だが、そのタイミングで青年の背中から文字通りに電撃が走る。痙攣してから気絶する。死なない程度に加減した。
「殴り合いの途中にスタンマインを地面に置くとは・・・流石ですね」
フランはそう言った後に、「そのままウルスラの病院に連れていくのは得策とは思えませんがね」と付け加えた。
仕方ない。俺とて、最後まで戦う覚悟のある若者を殺すのは惜しい。別の場所でカタギとして活躍してほしいものだ。
緊急の患者として病院に置いてくるとすぐにボート小屋へ向かう。あれで最後の依頼だがあと一時間程で期限が迫る。高速で街道を駆け抜けていく。
「ここをこうすれば・・・、ほら、動いたでしょう」
「本当だ、ありがとうございます。これがお礼です」
七百ミラを受け取って、すいません、と返事をすると、導力車に乗り込む。ボートの修理くらい自分でやってほしい。報酬だって俺の持ってる拳銃の弾二発分くらいの金額だ。
すると、フランが運転中の俺に話しかけて来る。
「今日の依頼はもう終わりですね。と言ってもまだ午後三時なので、意外と早く終わりましたね」
「そうだが、今日は色々とありすぎて濃厚な一日だったからなぁ。長く感じたがな」
「あの魔獣の件もありますからね。本格的な調査が必要そうです」
これからくる遊撃士協会からの調査派遣を考えると、自然に溜息をついてしまった。