それから2時間30分後。全生徒は漸く施設へと到着に至った。が、それでも先程落とされた場所から施設まで辿り着くのに道中が険しいことも相まって殆どが息切れを起こしていた。もう動けないと呟きつつ、その場で倒れる始末。
「…………ふぅ、まだ大丈夫ですね」
「「「お前人間かよぉ!?」」」
ツッコミとして上鳴、切島、瀬呂が明密に言い放った。それもその筈、明密は他全員が疲れて倒れているのに対し溜め息1つ吐いただけで後は体の調子を確かめる為にジャンプしたり後ろ回し蹴りをしていたからだ。以前の明密には無かった筋肉も、今では“個性”を使用せずとも細く引き締まった筋肉が付いている。所謂【細マッチョ】というやつだ。
少し肩ならしを行った後、集合している相澤たちの方を見る。その内の『ピクシーボブ』のみが明密を見て何処か畏縮している様に感じられたので、少し顔を傾けて疑問の表情を見せつつ向かう。
まぁその前に相澤が一通りの説明をし終えて荷物を部屋に運ぶこととなってしまった為、疑問解消とまでは行かなかった。急ぎ荷物を運びつつ食事の為に広場に集う生徒たち。明日からは普通に訓練をしていく。
荷物が運び終わり次第、着替えを予め用意して広場へと向かっていく。広場に到着すると、そこには料理が。他の生徒たちは腹ペコなのは間違い無いだろう。そして明日に訓練があるため、恐らくだがガッツリおかわりも含めて食すのであろう。
だが明密は何時ものペースで全てを完食し、そのまま着替えを取りに行く。洗い物は勿論、施設内に存在する台所で。そして1人暮らしの
用意したバスタオル、着替え入れをロッカーの中に入れ着替え入れには今自分か脱ごうとしている服を入れて用意していた長めのタオルを腰に取り付ける。シャワーで心身共に洗い流しつつ、ボディソープとシャンプーで洗う。
それらが終わり次第、タオルを取り外し露天風呂に入る。長い溜め息を吐いていると、そこにガヤガヤと他のA組男子が入ってくる。少し風呂の余韻に浸りながら騒がしい方を頭を後ろに倒して見た。
早く来ていたことには特に思ったことは無かったA組男子ではあったが、先程の明密と風呂に入った今の明密を比較して見ていたのか少し驚いていた。心外だと思いつつ風呂に入り浸りながら明日について考えてみる。
しかし考えている内に
ロッカーに戻ろうとした途端、後ろから音が聞こえたのでゆっくりと振り向いた。見てみれば恐らく上から落ちてきた少年を出久がキャッチしていた。何故か峰田も一緒に落ちていたが、気にしない方針でいくことにした。
出久は腰にタオルを付けたまま室内へと入っていく。その事に少し戸惑いつつ素早く自分は着替えを済まして出久が向かったであろう場所に行く。
「出久君」
「明密君」
出会って始めに挨拶は交わす2人。まぁ格好のことは置いておく事にするが、先程出久が運んできた少年の様子を観察してみた。出久は先にマンダレイたちが様子を見ていたので大丈夫だと伝えると少しばかりの溜め息を吐きながら立ち上がる。
「……所で出久君、着替えてきたらどうですか?」
「えっ?…………あっ、しまった……」
「まぁ……出久君らしいというか、何というか」
一言二言交わしつつ出久は脱衣所の方まで戻っていく。明密は共同スペースにあるソファまで歩きつつ、少しだけ気を張り巡らせながら辺りを探っていく。異常なまでに、底知れぬまでに。この様な静かで平穏と思える状況でも、何時もの様に。
そんな考えが頭に過っている途中、突如明密が持っているスマホが鳴る。見れば政府の役人からの連絡であった。電話に出て内容を聞くと何時もの様に
何時もの様にアーカードの転移で指定されたポイントに到着する。何かが居るのは自らの研ぎ澄まされた感覚を頼りに理解できたが、どんなタイプが居るのかは知りえなかった。なので小型暗視ゴーグルを使用して詳しく観察する。
分かったことは全身に濃い体毛が存在し、鼻が長く何を思案しているか理解できない様子が伺える。やはり……
明密は銃剣を装備し深く息を吐きつつ、ゆっくりと銃剣で十字架を作る。2度目は油断しないという念を込めた証を作り狂うほど冷静に、獰猛になる
目を見開いてからの明密は一気に豹変した。両方の銃剣を逆手で持ち両腕を交差させて構えると、脚の筋肉の密度を操作し縮地の技法で一気に近付く。その速度は殆ど
刹那、人狼の右横腹に1つの剣閃の痕が生まれた。技術と“個性”による速度とはいえ、これにはアーカードも「ほぉ……」と小さく驚いた。嘗ての宿敵は【
しかし今の明密は“人間”というより“化け物”に近い。否、“近付いてしまっている”という方が正しいだろう。日々自らの強さを追い求める辺りは人間らしいが、危害を加える相手を倒している辺りは化け物らしいのだ。
例として挙げるならばヒーロー殺しの件が該当するだろう。明密は前は人間との戦いは避けている様な感じでもあった。しかし誰かが危険な目に逢っている、または自分に殺意の感情を向ける者に対しては“倒す”ことを前提条件にしているが、容赦が無くなっている。“殺す”のではないが。
明密の攻撃・移動速度が異常であった為、人狼も思わず何が起きたか理解はできなかった。狼狽えていた。そして明密は右手の銃剣を持ち直し一気に、また“個性”使用の縮地を用いて近付いた。僅か1mという距離で明密は右手に持つ銃剣で人狼の体を縦に切り裂き、1回目の反動を利用して逆手で持っていた銃剣を心臓に的確に刺した。それにより怯んだ人狼の隙を狙い、銃剣を抜き捨て懐から【
心臓に大穴が空いた人狼は床に倒れ込み活動を停止させた。異常なまでの洗練された動きは見る者を圧倒させる程であった。明密は待機していたアーカードに近付き肩に手を置く。それを合図としてアーカードと明密は施設まで帰る。帰ってきた際、相澤とバッタリ会ったが御互い理解しているのか一言二言だけ伝えると明密は部屋に戻っていった。
翌日、現在の時間およそ6時頃に外に集められた全生徒たちは眠気がある中外に立っている。補修の5名は特に眠気があったが、明密は一応依頼を受けて深夜に行動をしているので補修生よりも遅くまで起きていたことになる。だが時間を潰した原因は主に気を張り巡らせていた時だが。
そして集う【
先ずはラグドールによる【サーチ】を用いて生徒全員の弱点を知り、ピクシーボブによる【土流】で各々に見合った場所を製作。マンダレイの【テレパス】で一気にアドバイスし虎の
が、今回明密には特別に来ている者が居た。見慣れた渦巻くゲートが展開されると、そこから見慣れた人物がやって来た。
「バルバロッサさん!?」
「お久しぶりで御座います、アケミツ様」
バルバロッサ・
そして一通りの話が終わると敷地の一部が変貌する。様々な地形がある中で、1箇所だけドームの様な場所が存在していた。バルバロッサと明密は共にドームの中へと入っていく。アーカードは今回は見張りの役割をしてもらっている。
定位置に着いたバルバロッサと明密は正面を向き合う様な感じで25mほど離れていた。そしてバルバロッサが口を開く。
「ではアケミツ様。今回の訓練の内容を説明する前に、試しに一歩だけ踏み出してくれませんか?」
「……それは僕の“個性”に関係しますか?」
「いえ、“貴方自身”の弱点です」
明密自身の弱点。どういうことか理解できないので再度質問したがバルバロッサは一歩踏み出すように促す。それに従う様に一歩だけ踏み出すと……カチッと地面から音がした。直ぐに違和感を感じた瞬間、爆風が巻き起こった。一瞬、密度操作が遅れた明密は多少上に飛ばされながらも元居た地点に着地する。
明密は何となく気付いていたが、確証はしていなかった。バルバロッサは明密の弱点“だけ”を述べていく。
「アケミツ様、貴方様はその身に培った感覚“だけ”で今を生きています。しかしながら貴方様の“それ”は生物だけに反応する【本能の一部】と呼んでも良い代物で御座います。しかし逆を申しますと“無生物であり殺気が存在しない”代物では全く役に立ちません」
「だからこその……地雷」
「その通りで御座います。そしてアケミツ様の課題はもう1つ、“個性”使用のレパートリーを増やすことです。しかし私の口からは易々と教える気は毛頭ありませんが」
バルバロッサの言うことは、つまる所“ヒントを授ける代わりに自分で解決方法を見つけろ”というものだ。この盲点を考えてなかった明密は思考を加速させる。
1つ考えたのは密度操作による身体の一部変化を利用し空中歩行で進むこと。それを実践してみるが……
「ッ!くそッ!」
やはり真正面からでも、ましてや迂回ルートをとってもバルバロッサが創造したゴム弾ガトリングは明密の行動を阻害させる。しかもゴム弾でも威力は高いので侮れないのが悩みであった。明密はさらに思考を加速させる。
と、ここで明密は正に新技と呼べるべき方法を思い付く。だがそれは人間の定義から外れ、大幅に体力を消耗することになるのは予想されるが覚悟の上で実践してみる。
明密は両腕を前に出し、全身の皮膚の強度を使用し腰を少し落として自身の腕の“間接”の密度を操作する。さらに筋肉にも密度操作を用いて準備はできた。あとは両腕を“回し始めた”。腕が回り、手が回る。人間が稼働できる範囲を越え、何十……何百と回転速度を維持しつつ回す。
そして終えると両腕を後ろに伸ばす。明密の次の行動は……両腕を思いっきり前に突きだした。
刹那、腕は元の状態に戻ろうと逆回転し始め明密の腕の周囲に風が巻き込まれる。そして回転速度をそのままとした状態を放置すると、今度は風の威力が上昇し遂には暴風並みの風が2つ出来上がった。
「!」
これにはバルバロッサも風の当たらない範囲まで空中移動で避ける。そしてバルバロッサが見た光景は……風だけで地雷を爆発させていたのだ。しかも爆風は風に乗って奥まで。
風が止むと同時に明密は密度操作を解除し上昇している心拍数を抑える為に呼吸を何度も続ける。
「(恐らく……真空波でしょうか)」
バルバロッサの推察はこうだ。両腕で巻き起こした2つの風は大規模の台風並みの回転率で回り風を引き起こした。注目すべきは2つの風という所である。
その2つの風には重なりあう部分があった。恐らくだが巻き起こされた2つの風が重なりあう部分では“回転の違う”風同士が重なり、空気が消失している箇所がある。高威力で回転の違う風が連続で起こったことによる真空波の威力が地雷を爆破させるまでの威力であったということ。
「これは……楽しみですなぁ」
バルバロッサは口角を挙げた。笑みは笑みでも【狂気的な笑み】の方を浮かべていたバルバロッサは訓練を続けることにした。
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