試験当日、俺自身はごく普通に起きて日課をこなしたりと普段と特に変わらない朝を過ごしていた。
しかし、
「ボス、大丈夫。実力を出し切る事が出来れば合格間違いなしよ」
「ありがとうレディ。けど、俺が100%実力を出さなきゃいけない試験とか雄英は魔境なの?」
何故か全く平常運転の俺に大丈夫を連呼するジュエルレディ。
「なぁ、やっぱりさボスが行く必要は無いと思うんだ。助手子とかイブマリアとかさ、他に適任は居るだろう?」
「助手子は別の仕事が有るし、イブマリアは調整中だろ。それと今までの前提を変えて来るな。」
何故かヒーロー科の受験を阻止しようと引き留めてくるダブルフェイス。
この2人を始め、部下達がそわそわとしているのだ。
ウチの秘密基地は普通の一戸建てに偽装した建物の地下にあり、一戸建ての方では普段、俺が生活している。部下達は俺に遠慮してるのと、秘密基地が露見する事を防ぐ為に滅多に上に上がって来ない。
それなのに今日は家に上がって来てるし、朝食を食べている周りをウロウロと回っているのだ。
まるで自分の子供が受験するかのような行動は微笑ましく、どこかくすぐったいが、それを差し引いて余りある程に鬱陶しい。
コレは早めに出た方が良さそうだと思い、朝食を片付けさっさと準備を済ませる。と言っても着替えだけなのだが。
中学は通信制の所に籍だけ置いていただけなので制服とかは持っていなかったはずだが、部屋にはピカピカ学ランとブレザーが用意されていた。校章などのデザインは無く、つまり制服っぽい学ランとブレザーである。わざわざ作ったのだろうか?
少し迷って学ランに袖を通して、玄関に向かう。今リビングに寄ると絶対に面倒くさい事になると言う確信があった。
「ボス、もう行くの?予定ではもう少し後に・・・やっぱり緊張しているのね。」
「まさかの出待ちだと・・・!?」
玄関にはレディがスタンバイしていた。行動を読まれたようだが、こっちの心情も読んで欲しい。
「ハンカチは取りました?ティッシュは?」
「取ったよ。てか、母親か!?」
「新作のブレードは取りました?改良の終わったマシンガンは?」
「取ったよ!けど、あんな物騒なの使えないからね?」
ちょっと常識から外れた持ち物の確認をされる。
その間にリビングからダブルフェイスが顔を出した。
「ほい、忘れ物だ」
「ありがとう、って、何コレ?」
投げ渡されたのは見覚えの無いスイッチだった。
「ウチの兵器庫のスイッチ。押せばミサイルが雄英に発射される」
「戦争か!?てか、どのミサイルだ!?スローンズなら本当に戦争だぞ!?」
基本笑顔のダブルフェイスが珍しく真顔で言って来た言葉の過激さに思わずスイッチを投げ捨てる。
「何なのお前等!?雄英を何だと思ってんの?」
「「敵地」」
「確かにその通りだよ!」
その通り過ぎて何も言えないが、ウチの兵器庫から引っ張りだして来るのはあんまりである。
博士が「俺達
「兎も角、普通に受験して来るから、そんな物騒なモンは使いません!」
「えー、それでも
「煩いっての!あー、もう!行ってきます!」
言い募って来る2人が面倒になって強引に家を出る。
試験が始まっても居ないのにかなり疲れてしまった・・・
試験は実技までは特に変わった所も無かった。ただ、校門の所でボーイ・ミーツ・ガールしてる緑谷出久を見かけたぐらいである。
そして実技、普段のヴィラン用のコスチュームでは無く、普通の服にポケットを大量に付けただけの不恰好な戦闘服に着替えた。仮面が無く、顔に空気が当たるのが煩わしい。コスチュームを作る時は仮面かバイザーを付けて貰おう。
スタートと同時に動き出し、何故か他の受験生を全員置き去りにして来てしまった。うん、他の連中の基本スペックが低過ぎる。もうちょっと頑張って欲しい。
意図せず単騎突出になってしまった俺にロボ共が群がってくる。
あんまり目立ちたく無いのに大量得点だ。
「開け2番、ロムルスの武器庫」
必要も無いのだがお約束として個性発動のキーワードを唱える。それと同時にロボ共が攻撃を行ってくる。全く誤差の無い同時攻撃とかロボにしては何か連携良過ぎじゃないかな?
しかし、無駄である。攻撃して来たロボ達は服のいたる所に付けられたポケットから飛び出した大剣によって串刺しになっていた。
俺の個性は『ポケット』分かりやすく言えばドラえもんの四次元ポケット、詳細に言えば倉庫となる亜空間を作製し、ポケットをゲートにして物を出し入れ出来る個性。
倉庫は複数作れて、一応入れる物毎に分類している。2番ポケットは剣や盾などの接近戦用の武器庫である。
剣を再びポケットに収納し、周囲を見渡す。流石に追いついて来た受験生達がロボと交戦を始めていた。
「チ、ニンゲンノ癖ニ中々ヤルジャネーカ」
「ん?」
合成の音声なのに、妙に人間臭い声がして見てみれば、試験の説明には無かった手の平サイズのアームの手足を持つ二足歩行のロボが存在していた。
「アン?ナァニコッチヲ見テヤガリマスカ、ニンゲン様フゼイガヨォ」
「ガラ悪っ!?」
特に表情の変化が無い機械のはずなのに、メンチを切られているのだと確信する程度にガラが悪かった。
そのままロボは跳躍し、アームで殴り付けてくる。腕で頭を隠し、ポケットから剣を出してカウンターって、ブーストで下に!
何処にそんな物を搭載していたのか、小型ロボは小さなフレアを噴射するブーストによって急降下を行い、腕を上げた事でがら空きになった腹部への突撃をして来やがった。腹部のポケットから盾を取り出し間一髪で防いだが、盾にも小さなアームの形に凹みが出来ていた。
「ヤーイ、ビビッテヤンノ。プークスクス」
慌ててガードした事を揶揄う様に言ってくるクソロボ。安い挑発である。資料に乗って無かったという事はコイツは0Pとかそれ以前の問題なのだ。
きっと無視が1番の正解。事件中の無責任な戯言をどれだけ流せるかの隠し試験とかなのだ。だから、此処は穏便に・・・
そんな此方の考えなんて知るかと言わんばかりに片手のアームを此方に向けるロボ、アームの先端はドリルに変わっており、激しく回転している。
「ロケット・・・」
まさか、ロケットパンチ!?その言葉にとっさに防御を固める為に盾を取り出すが、特に何の衝撃も来ない。
見るとドリルが回っているだけだった。
「飛ブ訳ナイダロ。バァァァカ」
「よし、殺す」
シンプルな罵声は時としてどんな言葉よりも怒りを煽る物である。
「開け3番、ハデスの城」
近代兵器、火器を入れている3番ポケットを開き、手榴弾の様な形の物を取り出し、足元に落とす。
それは小さな爆発音と共に極小の何かを辺り一帯に撒き散らした。
「アガガガッァ!愚ガガガッァ!」
「対電子装備用非殺傷爆弾。ロボには効くだろ?」
小さなロボは強烈な電撃を受けたかの様に細かく動き、訳の分からない音声を出し続けている。
先ほどの爆弾は爆発によって、空間中に飛んでいる電波を受けると特殊な電磁波を発生させる金属片を撒き散らす物だ。この電磁波は範囲内の電子機器に強い影響を与え、その機能を奪うという代物で科学的な装備で固めたヒーロー用の装備なのだが、思わず使ってしまった。
まぁ、言い訳は何とでもなるので、目的のロボを確保出来ればそれで良い。
しかし、あのロボはそう一筋縄ではいかなかった。
「ククッ、機械ニ栄光アレ!ロボコソ至高!メカコソ浪漫!!」
そんな台詞とポンっという軽い音を立てて自爆してくれたのだ。しかも、その最期の台詞には心当たりがあった為に怒るに怒れなくなってしまった。
仕方が無いので残り時間で、さっきの爆弾の範囲内にいて動きを止めているロボ達を八つ当たり気味に破壊して回ると言う締まらない結末になってしまった。
受験結果?勿論合格だった。
雄英高校入学試験の教師控え室、そこには幾つかのモニターが並んでおり、それぞれの試験会場での様子が映し出されていた。
「ふむ、彼は良いね。小柄で成長しきっていないが、身体能力が頭一つ抜けている」
その
衣嚢蒐人、その名はヒーロー達に取って記憶を刺激する物だった。
ある痛ましい事件の被害者にして生存者、或いは恩人の忘形見。
見た限りでは健やかに成長している様で、幾人かのヒーローが安堵した様に語る。
蒐人は仮想ヴィランに囲まれるが顔色一つ変えない。
飛びかかってくるのに仮想ヴィラン対し、服の至る所に作られたスリットポケットから剣を飛び出させる事によって迎撃。1体も洩らす事なく撃破してみせる。
「『ポケット』面白い個性。あの黒ひげ危機一髪の樽みたいな服は個性を最大限生かすデザインな訳ね」
ミッドナイトが感心した様に呟くが、周囲の教師はその後に現れたロボにざわついた。
「オイ、また『ヤツ』が試験に潜り込んでいるぞ!」
「毎年恒例だ。諦めろ」
教師達がため息を吐いてモニターを見つめる。
新任教師としてモニターを見ていたオールマイトには理解出来ずら首を捻るしか無かったが、それを察したのか隣に座っていたイレイザーヘッドが説明を始める。
「かなり前の話ですがサポート科の生徒が退学になりまして、アレはその生徒が残していった物なんです」
「退学?」
「ええ、強くなりたいって言ったヒーロー科の生徒の全身を改造、機械化させまして」
絶句である。聞けば相澤達の同級生だったそうだ。
「やった事がやった事だったので逮捕となったのですが、捕まる前に行方を眩ましてそのままです。」
その生徒は
「何だ!?今の爆弾か?」
「えぇ、対電子装備用の非殺傷兵器のようです。サポート企業の新製品のモニターとして所持、使用が認められているようですね」
蒐人のプロフィールを調べていた教師が冷静に言う。プロフィールには確かに、幾つかの企業とモニターとして契約をしている事が書かれていた。
「でも、そう言うのって普通プロヒーローが対象でしょう?わざわざ特殊申請してまで普通の子にやらせてるの?」
「彼は『衣嚢蒐人』だ。彼を特別視する研究者は多いと言うことさ」
ミッドナイトの疑問に根津校長が答える。
個性と言う分野の研究において死後10年以上たった今でも褪せる事無き功績を打ち出した研究者の忘形見。
直接の援助は難しくても、モニター契約と言う事でバイト代よりも多めの間接的な資金援助を行おうとする衣嚢夫妻のファンや生徒が、現在の第一線の研究者に多数存在しているのだ。
その事を説明し終えた頃、映像が復旧するも、試験終了の時間となっていた
モニターには周囲の仮想ヴィランを破壊し尽くした蒐人の姿があり、モニターに映らない範囲で、特殊爆弾の効果範囲に入っていた所為で登場さえ出来なかった超大型0Pヴィランの姿もあった。
「映像が残ってないけど、得点は現場の試験官達がカウントしてくれている。
しかし、0Pヴィランを出てくる前に止めるとは初めてじゃないかな」
根津校長の驚きと呆れの混じった言葉に数人の教師が頷く。本人は止まっていた事さえ知らず、偶然ではあるが素晴らしい快挙である。
教師達は笑いながらも彼の合格を決めた。しかし、彼らは知らない。自分達がヒーローの卵だと思い受け入れた存在が、ヒーローとは正反対の位置の邪悪である事を・・・
主人公のポケットの名前は部下達に決めて貰っています