高校生活2日目
外見が個性豊かな先生達による普通の授業が開始された。流石に高偏差値の雄英高校。そのOB、OGが教師なだけあり、丁寧で分かり易く、教師本人のインパクトで打ち消されるぐらいの普通の授業である。
そして、ヒーロー科のメイン科目。多くのヒーローを夢見る者の憧れ、ヒーロー基礎学の時間。
「わーたーしーがー!!」
響くのはトップヒーローの声。周りの生徒の期待が高まって行くのを感じる。
「普通にドアから来た!!!」
銀時代のコスチュームで現れた姿に俺も他の生徒と混じって、おぉ!と声を上げてしまった。このコスチュームはマントのデザインが好きだったので単純に嬉しい。
掴みは上々とばかり授業の話題に入るオールマイト。昨日の事もあってもしかしたら警戒されて授業が変わるかもしれないと思っていたが、杞憂だった様だ。それならあの視線は何だったのだろう?
内心首を傾げている間に話しが進み、戦闘服が壁内の収納から出てきていた。
さて、俺の希望はポケットが多く付いている事と手ぶらに見えるような、構えていない感じと言う物だったのだがどんな物になっただろうか?
封を開けて見れば、俺の戦闘服は黒のジャンプスーツを基本に、傷痕のようなデザインのジッパー式のポケットが全身に付いている。顔には色付きのゴーグルと言う全体的にパイロット系のオシャレな普段着で押し通そうとすれば何とか押し通せそうなデザインだった。
それに着替え、グラウンドβに向かうと、グラウンドβは市街地を模した演習場だった。
「始めようか、有精卵共!!戦闘訓練のお時間だ!!!」
オールマイトの宣言が響き、授業が開始される。
今回の授業は屋内での戦闘訓練で特に『原作』からの変更無しの様だが、問題はペア分けである。
「このマント、ヤバくない?」
オールマイトの説明の合間に挟まれる質問。その中で最も授業と関係無い言葉を耳が拾う。
見ると、マントの付いているデザインの戦闘服が目に入り、口元が緩む。
「ソレ格好良いね。やっぱり、マントはヒーローの象徴だよ」
正義の味方ならマントを靡かせていて欲しい。ヴィランとして、対峙するヒーローに求めたい条件の1つだ。
そんな無駄な思考をしている内に、クラスが21人で1人余る事を誰かが質問したようだ。
「確かにその通り。昨日も言われたかも知れないが、此処でも言わせて貰おう。君達にはヒーローとなるべく苦難を与えると」
ニヤリと微笑むオールマイト
「今まで君達は2人組が作れないときどうしていた?ソレと同じ事さ。そう余った少年少女は、」
「
初めての授業ではしゃぎ過ぎなんじゃないだろうか?この新任教師。
思わず内心で罵倒するが、周囲に与えた衝撃は俺の受けた比では無いようで、ざわつきが歓声となって響く。
そして、その歓声の中に混じる暗い歓喜。そちらを向けば憎悪と諦めが煮詰まったような気配と共にオールマイトを凝視して口元を歪ませる轟焦凍がいた。
左半身を覆う不気味なデザインの戦闘服の所為で下手なヴィランよりヴィラン面である。
「やっべ、オールマイトとペアだったら勝ち確じゃね?」
「勿論、そんな事は無い。この訓練で私は手加減をするのと、右腕しか使わない。また、作戦などには口を出さず、ペアとなった生徒に従う」
その他幾つかの制限を設ける事を説明するが破格の戦力である。かと言って、それに頼り過ぎれば授業としての評価が酷い事になるのだろう。
「コンビ及び対戦相手はくじだ!」
興奮冷めやらぬ生徒達にオールマイトが説明を続ける中、俺は口の中だけで部下を呼ぶ。
「あらお呼びですか?ボス?」
「ソコから介入出来る?」
「ええ、ボスを起点に全員範囲内ですわ」
耳に直接聞こえるような妖艶な声。
魔女の名を冠する部下への命令を周囲に聞こえ無いように気を配りながら自分にしか聞こえ無い声で囁く。
幸いにも周囲はオールマイトとペアを組める、もしくは戦えるかも知れないと言う興奮に満ちていて、少し口を動かすぐらいは誰にも気付かれない。
「では、ペア分けを出席番号順に青山少年から!」
「フッ」
「青山少年はEだな!」
オールマイトが、
名前を呼ばれた青山優雅が無駄にキザな動作で髪をかき上げるが、その動作に呼ばれたアルファベットと実際のボールに書かれたアルファベットの相違を気にしている様子は無い。
そのまま引かれるくじと食い違って呼ばれるアルファベット、ギリギリ思い出せた分の『原作通り』にペアが作られて行く。と言っても、思い出せたのは緑谷出久と麗日お茶子がAと言う事、爆豪勝己と飯田天哉がDでそのペアが争う事だけ、なぜか青山優雅がEな事は覚えていたのだけど、後は割と適当だ。確実に違うのは俺が轟焦凍とペアな事と切島鋭児郎が余っている事だ。
続いて対戦する組み分けが始まる。
「最初の対戦相手はこいつらだ!!」
引かれたくじはヒーローがAでヴィランがD、AとDが対戦するようにと言っていたが視界を弄る必要も無く、オールマイトは実際にそのペアを引いていた。
この感動を分かち合えるだろう人間がこの場に居ないのが悔やまれる。
しかし、コレは運命と言うよりは因縁と言うべき天命なのだろう、宿命のライバルと言う奴が居ると言うのも主人公の特権である。まぁ、今の緑谷出久にしてみれば呪いのように感じるかも知れないが・・・
初の戦闘訓練に対しての期待と不安を胸に準備に入る麗日お茶子と飯田天哉、震えながら何かブツブツと言って居る緑谷出久。脳内で何回か相手を虐殺してると察せるほどの凶悪な顔をして嗤っている爆豪勝己。
主に約1名の所為で事故が多いに起こりそうな戦闘訓練が始まった。
ビルに仕掛けられた定点カメラからの映像で訓練を見学する。ヒーロー側がビルの窓から侵入するが、読まれている。
奇襲を受けた後に散開、1対1の戦いに持ち込むようだ。
緑谷出久は爆豪勝己の攻撃パターンを読んでからのカウンターを行い、それが決まる。実に素晴らしい観察眼と行動力だと褒めたいが、個性訓練はあれど、戦闘訓練など無いはずの中学までの期間で攻撃パターンの解析が出来るって爆豪勝己は一体何と戦っていたのだろう?名前の通りに自分と?
格下と思っていた存在に先制されて激昂する爆豪勝己、激昂していても妙な所で冷静に対応している辺りは天性の素質を感じる。いわゆる、ハートは熱く頭はクールに、と言う奴だが、ちょっとハートが熱過ぎてクールになり切れて居ないのが今後の課題だろうか?
隣で八百万百がため息を付いてる、個人的な因縁で授業を疎かにする2人に呆れて居るのかも知れない。
「どうしたの?」
「いえ、爆豪さんがもっと連携を取って居たらもう少し違う展開になったのではと思いまして」
確かに連携を取れていればヒーロー達を挟み打ちとか色々な戦術が取れるだろが、連携を取ると言うのは思いの外難しいものであり、ましてや
いや、緑谷出久が相手じゃなければもっと冷静になる事が出来て、最低限の連携が取れたかも知れないが・・・
緑谷出久に負けない事を優先とした爆豪勝己と、訓練として勝利を優先した緑谷出久。最終的に勝敗はそこで別れた。
どちらも因縁の相手に勝つ事を目的にして訓練をその手段にしてる所は流石幼馴染と言うべき思考のシンクロだ。
八百万百の講評(オールマイトに非ず)が行われたが、聞く余裕が有るのが問題が少なめだった2人だけなのが残念である。
その後も訓練は行われ(この組み合わせには手を加えた)、最終的に残ったのは俺達と切島、オールマイトペアだけだ。
「さぁ、ラストの対戦相手は!」
箱から引かれたくじ、そんな物はもう関係無く、配役も既に決まっている。
「ヒーローがK!切島少年と私のペア、ヴィランがB!轟少年と衣嚢少年のペアだ!!」
さて、楽しい訓練のお時間だ。