ゲーマドライバーにガシャットを挿し、自身の周囲を回るパネルの一つに触れると共に山風の全身を光が包み、それが止んだ時に一人の戦士の姿を映し出した。
「あれが……山風のノイズをぶっ潰す力?」
奏が何処か呆けた声を出したのは、先程までの山風の姿からは遠くかけ離れた姿からか。山風の姿は全く見えず何処かデフォルメしたと思わせるような二頭身の戦士。山風の全身をすっぽりと覆う堅牢な白い装甲に、頭から出ている頭髪のような桃色のパーツが特徴的なその装束。それが山風の戦う姿、仮面ライダーだ。
「――――行くぜッ!」
ベルトから発せられた音声と共に山風の掌に小型の槌が現れる。構えると同時に山風は叫び、周囲にいたノイズに狙いを定めて一足の元にその距離を5から0 に縮め、横殴りに槌を叩きつけた。殴られた場所から破裂するようにノイズは四散していくが、崩壊していくその様を気にも留めず、殴りぬけるままに山風はステップを踏むように次のノイズへと殴り掛かり、斜め四十五度から一気に地面へと打ち付け、その反動を利用して宙に跳躍し、更に近くにいるノイズへと打撃を叩きこむ。
「はは、なんだよ。やるじゃねえか……し、アタシもまだやってやろうじゃねえかッ!」
負けていられるか、と奏は自分も戦おうと槍を構え、そこで違和感を覚え、周囲のノイズを見渡した。
「なんだ、こいつら。動きが急に鈍く……?」
極彩色の化物であるノイズはその精彩を欠いていた。それは動きだけではなく、色合いという意味でもだった。シンフォギアによって調律され効果を失った位相差障壁がある時の様に、とまではいかないが色を失っており、動きも、反応も、鈍くなっている。だが、事由等どうでもいい、気にする前に殺ると奏は槍をノイズに突きたてる。了子はノイズが精彩を欠いた事由を理解して、感嘆に息を吐いた。
「『ネガノイズエリア』。ノイズの動きを、機能を、その全てを低下させる領域を展開するシステム。……確かにこれが量産出来ていたら従来の対ノイズ戦略が一変するわね」
ノイズは本来触れられる相手ではない。それは物質透過能力とも次元の位階差ともいえる位相差障壁と炭素転換能力の二つがあるからだ。それに対してシンフォギアは位相差障壁を音の波で調律しこの世界に無理やり本体を出して、炭素転換能力を音の壁で無力化した上で叩くのに対し、仮面ライダーはその機能を機能不全に陥らせるエリアを展開し、炭素転換能力を無効化した上で叩く力。
その力に差異があるとすれば、シンフォギアは位相差障壁を全面的に無効に出来るが炭素転換能力は自身に掛かるものしか無効化出来ない。仮面ライダーは炭素転換能力を完全に無効化できるが、位相差障壁を機能停止に追い込むことで逆に本来の世界に追い込み、強固にしてしまう。
「―――で、あれば。この二つの力が両方機能した時どうなるのかしらね?」
何処か面白そうに了子は笑いながら戦う二人の姿を見続ける。
「シンフォギアと仮面ライダー。二つの力が合わさる時、位相差障壁も炭素転換能力も無効にした
果たしてそうなれるかしらねえ……。呟きながら戦闘を追う先には山風の、エグゼイドの姿があった。
「オゥラァァァァアアアアア!」
叫びながらエグゼイドは縦横無尽に戦場を駆け巡る。地上だけでなく、跳躍からの一撃や、ノイズを踏み台にして更に別のノイズに一撃を加えていくというその姿に似合わない一撃離脱の高速移動の連続技であり、その一撃一撃で確実にノイズを一体ずつだが減らしていく。数分と経たないうちにノイズは当初の数の半数を減らしており、疎らになった隙間を縫う様にエグゼイドは奏の後ろにいたノイズを殴り飛ばしながら着地した。
「っ! ……サンキュー、山風」
「気にすんな、こっちにとってもノイズは敵、それだけのことだからな」
軽口に返された軽口、しかしその荒々しい言葉遣いに奏は驚きに目を見開く。少なくとも奏が覚えている範囲での山風はそういう口調ではなかったはずだ、と。そう、少なくない違和感を覚えるも、直後にいや、と首を振った。
「翼も戦う時は
叫びながら奏は槍を手に腰を低く、腕を引いて突撃の構えを見せる。
「わかってるッ! ―――俺も一気に決めるさッ!」
言葉を返すエグゼイドの、山風の視界には周囲一帯の人間と、残存ノイズの量が映っている。ゲーマドライバーによってリアルタイムで映るその情報には、近場に残っているのは自身と、奏と、了子とノイズだけ。故にさっさと敵を倒すため、エグゼイドは手に持った槌を放り投げ、両手を左右に伸ばした後胸の前で交差させ、掛け声とともにベルトのレバーを引いた。
「大ッ! 変身ッ!」
音声が鳴り響くと共に宙へとジャンプしたエグゼイドの装甲が弾け飛ぶように消え、中からスマートな蛍光色の桃色のスーツと翠色のラインで彩られた特徴的な装束を身に纏った山風が現れ、着地する。
「姿が変わった!? それが本気ってわけか!」
「レベル2――レベル1とは一味違うぜッ!」
エグゼイドレベル2。レベル1とは違い軽装甲だが、それはつまり先程までの鈍重そうなレベル1も高速戦闘が可能だったという事考えると、更に早く戦えると考えてもおかしくはない。負けてらんねえと、奏は高ぶり、構えの姿勢から一気に踏み込み、襲い掛かるノイズへと槍を向けた。
「ぶっ飛びやがれぇ!」
持ち手より先が高速で回転し竜巻のような渦を発生させそれを目の前に放出する。
渾身の力を振り絞ったそれは反動がきつく、奏の口内に鈍い鉄の味が広まるも威力は絶大。奏の目の前にいたノイズを抵抗すら許さず一撃のもとに大半を削り飛ばした。
「こっちも一気にッ!」
エグゼイドは先程放り投げた槌を再び精製、同時に側面に着いたボタンを押すと、土の先から刃先が伸び剣となった。その剣の鍔ともいえる槌の部分のボタンが着いていた側面とはまた別の側面にあるスロットにベルトに刺したガシャットを抜き取ると、差し込む。
音声と共に剣先に可視化するほどの膨大なエネルギーが溜まり、エグゼイドの視界内にいつでも必殺技が撃てると浮かび上がる。それを見てエグゼイドは腰を低く屈めながら突進するように駆け出し、刹那の内に10間は離れた一にいる一体目から数えて20を超える敵を切り刻みながら進み、振り返りながら跳躍するとエネルギーを解放した。
「オゥリャァァァアアアアアアアアアッ!!!」
叫び声と共に地面に向けて放たれた一撃はその場にいたノイズを全て消し去り、炭素へと還す。その後に残ったのは、エグゼイドと奏の二人だけ。何十、何百といたノイズは全て消失していた。
「……はは、ははは。やったぜ。ザマーミロ、ノイズども」
笑おうとしても熱が冷めてしまったかのように頬は吊り上がらず、奏の胸の奥には重たいしこりが残ったままだった。理由は、わかっていた。
―――また、目の前で人が死んじまった。
「……クソ、畜生がっ!」
ノイズに向けて/自分に向けて、そう言葉を吐きだした。口内に残っていた血が零れ、地面を少量なれど赤く染めるが、そんなことが気にならないくらい奏の中は暗雲としていた。ノイズに対する怒りよりも、自分の無力さに怒りが抑えきれなかった。
「……」
エグゼイドは無言でドライバーのレバーを戻し、ガシャットを引き抜いた。解除音が鳴り響き、装束は霞に溶ける様に光となって消え、後に残るのはドライバーを腰に着けたまま、言葉もなく佇む山風の姿だった。
「…………」
戦いの最中に言葉を荒げていたのが嘘の様に静かになった山風は何も言わなかった。ただぼんやりと立ち尽くした状態から、やがて糸が解けたかのように急に姿勢を崩し、倒れこんだ。
「―――山風? おい、山風! 大丈夫か、しっかりしろ! おい、おい、山風ッ!」
異変に気付いた奏が叫ぶも、反応は返って来なかった。
―――……
「山風ちゃんが倒れた原因は恐らく過労ね。心的、肉体的どちらをとっても今回の事件は影響が大きすぎたんでしょう。また、暫く安静にしてもらうのが一番の療養よ」
山風が倒れた後、すぐさま二課本部内に搬送し、倒れた理由を検査した後、了子は奏にそう伝えた。良かったと小さく笑みを零す奏だが、その姿はベッドの上で横になっている状態であり、今行った事は奏にも言えることであった。了子は溜息混じりに怒りの口調を強めて奏へとにっこりと笑顔を向けた。
「それで? どうしてリンカーを打たないままあんな無茶をしたのかしら?」
「悪いとは思ってるさ。……でも、ああしないとあの場ではノイズを潰せなかったからな」
怒りが目に見えそうなほどの了子に対し、気圧されつつも奏はそう答えた。その答えを予想していた了子は、呆れ混じりの溜息を吐き、いい? と言葉を前置く。
「もし仮に貴女があそこで戦ってくれなかったら多くの人が死んでいたかもしれないわ。それこそアタシも山風ちゃんもね。……けど、時限式とはいえ適合者の貴女が無茶して寿命を削ったらそれこそ救える命も救えなくなるわよ?」
「……それでも、目の前で誰かが襲われそうなら、アタシは戦うよ」
真っすぐとした視線でそういう姿に、全く言う事を聞く気がないんだからと了子は溜息を吐いて、暫くは絶対に安静よと言い残してから病室を去った。
「ほんとに、誰も言う事を聞いてくれないんだからねん……」
困っちゃうわと言いながら了子は自室へと足を進める。その途中で思い返すのは、やはり病院でのことだった。
―――想定外に次ぐ想定外。しかし、利もまたあったか。
内心でそう悪態を吐きながら了子はしかし、と今回の襲撃は悪いものではなかったと考える。ノイズが現れたのは完璧に想定外であり、色々な危険があったが、ゲーマドライバーの性能を実際に確認できたのはかなりの収穫だった。ネガノイズ理論についてはデータが少なかった以上、少しでも確認できるのは喜ばしい事であったいう事もあるが。
「―――何よりも、今回の収穫で一番だったと言えるとすれば」
言葉を小さく漏らしながら了子は自室の扉を開け、ロックが掛かったことを確認してから眼鏡を外し、視線を険しくしつつ脳内を整理するかのように言葉を吐きだす。
「ゲーマドライバーが机上の空論ではなかった以上、やはり
ゲーマドライバーを解析するにあたって発見した了子からしてもある種未知の理論。しかしベースとなった技術は既知の物であり、故に理解できたその理論からは、一つの組織が関与していると見て間違いがないということを了子に理解させた。
「―――パヴァリア光明結社か。それから派生した何かか。いずれにせよ400年前に潰したはずと捨て置いたが、気付かぬ間に
しかし、現状自身のやる事には変わらないと了子は判断する。だが、侮っていいレベルでもないと、いざという時の布石を打っておくこともまた重要だともまた判断した。
「取っておきたくない取っておきだが、止むを得んな」
来るべき日に備えて、了子は準備を進めるべきだと動き始めた。
シンフォギアAXZ二話を見た結果、突っ込まなければいけなくなった台詞が増えるスタイル。
なお、四期までは行く予定はありません。あったとしても三期です。